ギルドスレッド
造花の館
（腑に落ちない事は幾らでもあった。
ここはヴィーザルである。鉄帝貴族もロクに手を出さないような不毛の地に隠居とはいえ貴族がくるだろうか。しかも、ろくに供回りも用意せずにだ。
自身の感じた事を信じるのであれば、貴族とは苛烈か腑抜けかのどちらかだ。しかし、そのどちらも蛇のように老獪である。その感覚を信じれば信じるほどにここにきて大人しく事務仕事を手伝っている意味が分からない。
だが、自分はあの美少年の過去をほとんど知らない）
（目指す小屋はいつも人気のない所だった。
「荒れ果てた」という言葉は不釣り合いでも、どこか埃っぽいイメージのある建物でなんとなく物置代わりに残しているのかと、そう思っていた場所だ。）
………。
（歩きやすいように最近下草が刈られた様子の小道を通って静かにドアの前に立ち……ドアベルはなさそうだったので、ゆっくりとしたリズムで扉をノックした）
ここはヴィーザルである。鉄帝貴族もロクに手を出さないような不毛の地に隠居とはいえ貴族がくるだろうか。しかも、ろくに供回りも用意せずにだ。
自身の感じた事を信じるのであれば、貴族とは苛烈か腑抜けかのどちらかだ。しかし、そのどちらも蛇のように老獪である。その感覚を信じれば信じるほどにここにきて大人しく事務仕事を手伝っている意味が分からない。
だが、自分はあの美少年の過去をほとんど知らない）
（目指す小屋はいつも人気のない所だった。
「荒れ果てた」という言葉は不釣り合いでも、どこか埃っぽいイメージのある建物でなんとなく物置代わりに残しているのかと、そう思っていた場所だ。）
………。
（歩きやすいように最近下草が刈られた様子の小道を通って静かにドアの前に立ち……ドアベルはなさそうだったので、ゆっくりとしたリズムで扉をノックした）
ぁぃ、ぁぃ、いまぁむかぃますよぉ。
（扉越しに聞こえるくぐもった声は、年老いたもの特有の濁声を帯びていた。
引きずるような歩みと、それを先導する杖つく音がごつ、ごつ、と近づいてくる。）
………。
（わずかに開いた扉の隙間、薄暗い部屋の闇から覗いたのは、傴僂のように腰の曲がった一人の老人。深くかぶったローブの奥からそちらを見上げている。
細く節くれた枯れ枝のような腕と指先は不健康な肌色に荒れ、太く青い血管の蔓草が絡みつき、酷く不器用な動きでノブを握っていた。）
……どぉちらさまぁ、ですかなぁ。
（扉越しに聞こえるくぐもった声は、年老いたもの特有の濁声を帯びていた。
引きずるような歩みと、それを先導する杖つく音がごつ、ごつ、と近づいてくる。）
………。
（わずかに開いた扉の隙間、薄暗い部屋の闇から覗いたのは、傴僂のように腰の曲がった一人の老人。深くかぶったローブの奥からそちらを見上げている。
細く節くれた枯れ枝のような腕と指先は不健康な肌色に荒れ、太く青い血管の蔓草が絡みつき、酷く不器用な動きでノブを握っていた。）
……どぉちらさまぁ、ですかなぁ。
（出てきた老人をじっと見ていた。
暗いローブの下、ほつれた糸のような痛んだ前髪の向こうに金色の瞳の輝き。
年老いた者独特の命の枯れた匂いと、あとこれは）
（既視感）
咲花百合子である。
セレマと同じローレットに所属する冒険者だ。
（親戚であるからだろうか？しかし、あの若作りと比べて似ているとも思えない）
……貴殿は、セレマの要請を受けてこちらに参った親戚の方であろうか。
暗いローブの下、ほつれた糸のような痛んだ前髪の向こうに金色の瞳の輝き。
年老いた者独特の命の枯れた匂いと、あとこれは）
（既視感）
咲花百合子である。
セレマと同じローレットに所属する冒険者だ。
（親戚であるからだろうか？しかし、あの若作りと比べて似ているとも思えない）
……貴殿は、セレマの要請を受けてこちらに参った親戚の方であろうか。
ぇん、ぇん……
（痰が絡むのか、咳ばらいを数度。
懐に手を伸ばしかけて……それを止める。）
すみませんねぇ、年を取るとぉノドがほそくなってぇねぇ……
ぁあ、ぁい、ローレットのぉ冒険者様でぇ。
ぇぇ、ぁぃぁぃ、そぉですよぉ、ぁたしがぁセレマの代理でぇここにきましてぇ…
ヨォガといぃますぅ…どうもぉ…。
（お辞儀をするように、小さく）
（痰が絡むのか、咳ばらいを数度。
懐に手を伸ばしかけて……それを止める。）
すみませんねぇ、年を取るとぉノドがほそくなってぇねぇ……
ぁあ、ぁい、ローレットのぉ冒険者様でぇ。
ぇぇ、ぁぃぁぃ、そぉですよぉ、ぁたしがぁセレマの代理でぇここにきましてぇ…
ヨォガといぃますぅ…どうもぉ…。
（お辞儀をするように、小さく）
ヨォガ殿。
吾はセレマの行方を捜している。
何か知っている事があれば教えて頂きたい。
（様付け。貴族がこんなに腰が低いなんてあるのか。
或いは嫌味で言っているのだろうか。何の嫌味なのかは分からないが……。
服装だって如何にもボロだ。
破れた服を繕って作業着にする者は領地でも見るが、あまりにも物持ちがいいというか）
吾はセレマの行方を捜している。
何か知っている事があれば教えて頂きたい。
（様付け。貴族がこんなに腰が低いなんてあるのか。
或いは嫌味で言っているのだろうか。何の嫌味なのかは分からないが……。
服装だって如何にもボロだ。
破れた服を繕って作業着にする者は領地でも見るが、あまりにも物持ちがいいというか）
（息をのむ、思考が霧散する。
私はこれを見たことがあった。練達で、夜にこれと同じものを「着た」）
………。
（整理しきらない感情が睨むようにして表情に出ている。
分からない。可能性は無数にあるが、いや、それは……）
私はこれを見たことがあった。練達で、夜にこれと同じものを「着た」）
………。
（整理しきらない感情が睨むようにして表情に出ている。
分からない。可能性は無数にあるが、いや、それは……）
ぇん、ぇんっ……
セレマぁがぁ、ですかぁ。
ぇえ、ぇえ、とつぜんたずねてきてねぇ……ぁぁ～～…なんでしたかのぉ……兄弟の家を訪ねるとぉ言ぅておりましたかのぉ…資産がどぅとかぁ……ぁれの専門の分野はぁ、ぁたしにはよぉわかりませんでなぁ……。
そぃでぇ時間がかかるのでぇ、その間の代理を務めてほしぃとぉ言われましてなぁ。
セレマぁがぁ、ですかぁ。
ぇえ、ぇえ、とつぜんたずねてきてねぇ……ぁぁ～～…なんでしたかのぉ……兄弟の家を訪ねるとぉ言ぅておりましたかのぉ…資産がどぅとかぁ……ぁれの専門の分野はぁ、ぁたしにはよぉわかりませんでなぁ……。
そぃでぇ時間がかかるのでぇ、その間の代理を務めてほしぃとぉ言われましてなぁ。
……
これぇ、ぁあ、これですかぁ。
鉄帝はぁこの時分でも思ぃのほかぁ寒くてぇですなぁ…そこにぁったものを借りたんですよぉ。おじょぉさんほど若かったぁ頃はねぇ、ぁたしもこれくらぃなんともなかった気がぁするんですけんどもぉ……年は取りたくなぃですなぁ…。
これぇ、ぁあ、これですかぁ。
鉄帝はぁこの時分でも思ぃのほかぁ寒くてぇですなぁ…そこにぁったものを借りたんですよぉ。おじょぉさんほど若かったぁ頃はねぇ、ぁたしもこれくらぃなんともなかった気がぁするんですけんどもぉ……年は取りたくなぃですなぁ…。
天義から鉄帝のヴィーザルまで二日三日でこれるものか。
ローレットのワープポータルはイレギュラーズしか使えないのだぞ。
ローレットのワープポータルはイレギュラーズしか使えないのだぞ。
（言い募りたい事は他にもあった。
どうして持ち主が奥にしまい込んでるに決まっているローブを「そこにあったから」なんて理由で引っ張り出せるのか。
そもそも領主なんてやってるなんてここ数年の話で、それ以前は山師か詐欺師だったようなやつに頼られて応じるような貴族がいるのかだとか）
…………セレマ。
（だがそれを止めて。名前を呼んだ。怯えが含んだような声だった）
どうして持ち主が奥にしまい込んでるに決まっているローブを「そこにあったから」なんて理由で引っ張り出せるのか。
そもそも領主なんてやってるなんてここ数年の話で、それ以前は山師か詐欺師だったようなやつに頼られて応じるような貴族がいるのかだとか）
…………セレマ。
（だがそれを止めて。名前を呼んだ。怯えが含んだような声だった）
（瞬間、褪せた月のような、それでいて異様なぎらつきを孕んだ瞳が、皺だらけの瞼に伏せられて細く伸びた。同時に部屋の奥から伸びる闇は玉虫色に淀み、粘つく油の雪崩れる速度であなためがけて殺到をする。）
（己の不の感情を引き出す玉虫色の闇も意に介さずに一歩前へと踏み込んだ。
経験的に一発では死なないのは分かっている。それならばそんなものは無いのと同じだ）
セレマ！
（確信をもって名前を呼ぶ。
ずぶずぶと淀んだ闇に浸されながら、腕は貴方をだた掻き抱くために伸ばされる）
経験的に一発では死なないのは分かっている。それならばそんなものは無いのと同じだ）
セレマ！
（確信をもって名前を呼ぶ。
ずぶずぶと淀んだ闇に浸されながら、腕は貴方をだた掻き抱くために伸ばされる）
チャンスは与えた。
………放っておけばよかったものを。
……詮索しなければよかったものを。
…気が付かなければよかったものを。
お前は全て無碍にした。逃した。
（腐敗臭と共に虚空より出ずる白鉄の腕が、その手を叩き落とす。）
ここから先はなぁ、もうどこにもねぇんだよ。
どこにも、どこにも、どこにもだ！
わかるかぁ！？わかってんのかよぉおい怪物がよぉ！！！！
もうテメェがおっ死ぬしかねえよなぁ！！！！！！！！！！！！
………放っておけばよかったものを。
……詮索しなければよかったものを。
…気が付かなければよかったものを。
お前は全て無碍にした。逃した。
（腐敗臭と共に虚空より出ずる白鉄の腕が、その手を叩き落とす。）
ここから先はなぁ、もうどこにもねぇんだよ。
どこにも、どこにも、どこにもだ！
わかるかぁ！？わかってんのかよぉおい怪物がよぉ！！！！
もうテメェがおっ死ぬしかねえよなぁ！！！！！！！！！！！！
……生きてた。よかった。まだ生きてた。
（したたかに打ち付けられて鈍く痛む腕。
だが、それよりも、熱に浮かされたように繰り返し紡ぐ事実が重要だった。
生きていた。終わってなかった。何通りも思い描いていた「最悪」が消えて胸に安堵が満ちる）
（だが）
（だがしかしだ）
突然何も言わずに消えたら、放っておかないし、詮索するし、あんな滅茶苦茶な嘘気づくに決まってるだろうがッ！！！！
馬鹿かお前！！！吾の執着心舐めただろう！！！というよりも吾の事を忘れていただろう！！！！
余裕がないからってやる事が雑だからこう言うことになるんだぞ！！！
（したたかに打ち付けられて鈍く痛む腕。
だが、それよりも、熱に浮かされたように繰り返し紡ぐ事実が重要だった。
生きていた。終わってなかった。何通りも思い描いていた「最悪」が消えて胸に安堵が満ちる）
（だが）
（だがしかしだ）
突然何も言わずに消えたら、放っておかないし、詮索するし、あんな滅茶苦茶な嘘気づくに決まってるだろうがッ！！！！
馬鹿かお前！！！吾の執着心舐めただろう！！！というよりも吾の事を忘れていただろう！！！！
余裕がないからってやる事が雑だからこう言うことになるんだぞ！！！
そうかもなぁ？そうかもしれねえよなぁ？
だがたとえお前の言う通り、浅慮計算不足の結果としてこうなったとしてもだ……ここで片ぁつけちまえば結果は同じだよなぁ？あん？
別に構やしねえよなぁテメェがほじくりり返した穴だもんなぁ！！！テメェがそこに埋まってもよぉ！！！
（腕を振り上げると、ずるりと口蓋を備えた巨大な掌が這出で、握りしめた拳が振り下ろされる。）
だがたとえお前の言う通り、浅慮計算不足の結果としてこうなったとしてもだ……ここで片ぁつけちまえば結果は同じだよなぁ？あん？
別に構やしねえよなぁテメェがほじくりり返した穴だもんなぁ！！！テメェがそこに埋まってもよぉ！！！
（腕を振り上げると、ずるりと口蓋を備えた巨大な掌が這出で、握りしめた拳が振り下ろされる。）
（ガードの上から巨大な拳に押しつぶされるが、美少女の腕というものはこれしきの事で砕けるものではない。
ただ何度もは受け止めきれないだろう。事実としてそれを知っている）
はー……。
この下手くそッ！！！！
（同時に３発、否６発、人体の急所にしなやかな打撃が見舞われる、刹那に遅れて抉り込む様な一撃はその身に宿す防御を穿ち、最後に……）
（握っていた最大威力の攻撃は放ち切れず、ただ玉虫色の闇から逃れるように距離を取った）
ただ何度もは受け止めきれないだろう。事実としてそれを知っている）
はー……。
この下手くそッ！！！！
（同時に３発、否６発、人体の急所にしなやかな打撃が見舞われる、刹那に遅れて抉り込む様な一撃はその身に宿す防御を穿ち、最後に……）
（握っていた最大威力の攻撃は放ち切れず、ただ玉虫色の闇から逃れるように距離を取った）
あ”っがっ……！
（打ち込まれた打撃は、今までがそうであったように常人の数倍の脆弱性でそれを受け止め。
今までがそうであったように肉の手ごたえと、肉とはは思えぬ軽さ薄さで折れていく。
そして今までがそうであったように、瞬きの後にその身が
戻らない。）
い”て”ぇ……い”て”ぇぇぇぇ””””っっっ！！！！！！
お”…ぇっ……ぁ、ぅ”……く”そっ、な”んで、なん”でだぁ！！！！
（皮膚が引き裂かれた。肉と神経の爆ぜた痕が露となった。
骨が折れた。前に曲がりきっていた体は、増えた間接と内から飛び出した骨折によって、前衛的オブジェのような様相を呈した。
血が流れた。手元から滑り落ちたリソースは魔性の元へと帰り、瘴気となって消えていく。
痛みと損壊によって立つことすらままならない、生きていることすら不思議な状況で、見た目で、目前のそれは死ねないまま痛みに吠えた。まるで意思を持った肉製のぼろ雑巾がくずおれた身のまま、機能を失った四肢を五体を総動員して立ち上がろうとしている。
生きている分、出来の悪いゾンビよりも質の悪い、悪辣な冗談のような光景。）
な”んで…な”ん、でボクか”血なん”て流””さなきゃなん”ねえんだぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ！！！！！！！！！なん”で倒””れな”きゃ”なん”ねえんだよ”ぉ”ぉ”ぉ”ぉ”ぉ”ぉ”ぉ”！！！！！！！！！！！！！そう”し”ゃね”えだろぉ”がぁ”ぁ”ぁ”ぁ”！！！！！！！！！！！ボクは…ボクはそう”て”あっ”ちゃいけねえた”ろうか”よぉクソがよぉ！！！！！！！！！
ぅ”……ぉ”ぇ”……えぉｒ”ｒ…ｒｒｒ”ｒ……ぅぁ、あぁっっっ！！！！
クソ”が！！ク”ソ”が”！！！間違”ってやがる”！！！！どいつ”もこいつ”も”、ボク以”外”の奴”ら全員””！！！！どうし”て思”い通”りにならねぇ！！！！
治”れぇ！！治れよ”ぉ！！！この使”え”ねえ脚”がっ！腕”がっ！！この役”立”たずがぁぁっ！！！！
（打ち込まれた打撃は、今までがそうであったように常人の数倍の脆弱性でそれを受け止め。
今までがそうであったように肉の手ごたえと、肉とはは思えぬ軽さ薄さで折れていく。
そして今までがそうであったように、瞬きの後にその身が
戻らない。）
い”て”ぇ……い”て”ぇぇぇぇ””””っっっ！！！！！！
お”…ぇっ……ぁ、ぅ”……く”そっ、な”んで、なん”でだぁ！！！！
（皮膚が引き裂かれた。肉と神経の爆ぜた痕が露となった。
骨が折れた。前に曲がりきっていた体は、増えた間接と内から飛び出した骨折によって、前衛的オブジェのような様相を呈した。
血が流れた。手元から滑り落ちたリソースは魔性の元へと帰り、瘴気となって消えていく。
痛みと損壊によって立つことすらままならない、生きていることすら不思議な状況で、見た目で、目前のそれは死ねないまま痛みに吠えた。まるで意思を持った肉製のぼろ雑巾がくずおれた身のまま、機能を失った四肢を五体を総動員して立ち上がろうとしている。
生きている分、出来の悪いゾンビよりも質の悪い、悪辣な冗談のような光景。）
な”んで…な”ん、でボクか”血なん”て流””さなきゃなん”ねえんだぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ！！！！！！！！！なん”で倒””れな”きゃ”なん”ねえんだよ”ぉ”ぉ”ぉ”ぉ”ぉ”ぉ”ぉ”！！！！！！！！！！！！！そう”し”ゃね”えだろぉ”がぁ”ぁ”ぁ”ぁ”！！！！！！！！！！！ボクは…ボクはそう”て”あっ”ちゃいけねえた”ろうか”よぉクソがよぉ！！！！！！！！！
ぅ”……ぉ”ぇ”……えぉｒ”ｒ…ｒｒｒ”ｒ……ぅぁ、あぁっっっ！！！！
クソ”が！！ク”ソ”が”！！！間違”ってやがる”！！！！どいつ”もこいつ”も”、ボク以”外”の奴”ら全員””！！！！どうし”て思”い通”りにならねぇ！！！！
治”れぇ！！治れよ”ぉ！！！この使”え”ねえ脚”がっ！腕”がっ！！この役”立”たずがぁぁっ！！！！
キャラクターを選択してください。
つまり、セレマ オード クロウリーが突然に姿を消してから数日のことだ。
「うわほんとにきたぁ～」
あなたの来訪に対し、執政官は開口一番にそう言い放った。
相変わらず気安く軽そうで、領主と仲の良い（と思われる）客人に対する敬意もない様子だ。アポイントを取っていたわけではないから当然なのかもしれない。だが執政官はあなたを邪険にすることなく、仕事の手を一旦止めた。
「私達の方には『しばらく帰ってこない』という旨を記した手紙が届いたんですよね。
理由は色々濁してましたけど、しばらく帰省するとかなんとか？
帰る場所なんてあったんですねあの人。」
自分の領主に対しても何の敬意もなく『あの人』呼ばわりするのは、この者のいつもの調子だ。休憩用にと用意した色気ないマグカップの紅茶に、角砂糖やら牛乳やら柑橘汁やらをこれでもかと放り込みながら、自分の知る限りの情報を提示する。
「御丁寧に送り先まで消してあります。
余程知られたくないことでもあるんですかね。」
なにか知られたくないことで思い当たることは？
「まさかぁ。でも隠し事なんて数えきれないくらいしてるでしょあの人。
なんでしたら何を隠しているか、ご家族に聞いてみたらいかがです？」
もはや元の銘柄の面影を残さなくなった極甘ミルクレモンティーを傾ける。
美味しそうに飲んでいる。領主が見たら嫌な顔をするだろう。
「いまね、ご滞在中なんですよ。アレのイトコだとかハトコだとかいう方が。
件のお手紙もその方が直接届けてくださってですね。」
あれに家族が？
「地方出身の元貴族で、今は隠居の身の上なんですって。
だから算盤とか内政とかにもちょっと詳しくて、おかげであの人不在でもお仕事困ってないんですよ。助かっちゃいますね。」
「会うのでしたら、離れの小屋を尋ねてください。しばらくはそちらに滞在するとのことですので、行けばほぼ間違いなく会えると思います。
そうだなぁ……人の秘密を探りに行くわけですし、ほんの少しだけ用心とか覚悟とかした方がいいかもですね。」
「どういたしまして。
それじゃ私は仕事に戻りますね～。」
あなたの目の前にあるのは敷地内のちょっとした小屋だ。
ごく最近掃除された跡が見える。恐らくは普段は使われていないのだろう。
領主がこの場所に泊めるよう言いつけたなら客人への距離が窺い知れ、客人が望んでここに泊っているのなら人嫌いの気でもあるのかと疑ってしまう。そんな奇妙な距離があった。