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造花の館
(腑に落ちない事は幾らでもあった。
ここはヴィーザルである。鉄帝貴族もロクに手を出さないような不毛の地に隠居とはいえ貴族がくるだろうか。しかも、ろくに供回りも用意せずにだ。
自身の感じた事を信じるのであれば、貴族とは苛烈か腑抜けかのどちらかだ。しかし、そのどちらも蛇のように老獪である。その感覚を信じれば信じるほどにここにきて大人しく事務仕事を手伝っている意味が分からない。
だが、自分はあの美少年の過去をほとんど知らない)
(目指す小屋はいつも人気のない所だった。
「荒れ果てた」という言葉は不釣り合いでも、どこか埃っぽいイメージのある建物でなんとなく物置代わりに残しているのかと、そう思っていた場所だ。)
………。
(歩きやすいように最近下草が刈られた様子の小道を通って静かにドアの前に立ち……ドアベルはなさそうだったので、ゆっくりとしたリズムで扉をノックした)
ここはヴィーザルである。鉄帝貴族もロクに手を出さないような不毛の地に隠居とはいえ貴族がくるだろうか。しかも、ろくに供回りも用意せずにだ。
自身の感じた事を信じるのであれば、貴族とは苛烈か腑抜けかのどちらかだ。しかし、そのどちらも蛇のように老獪である。その感覚を信じれば信じるほどにここにきて大人しく事務仕事を手伝っている意味が分からない。
だが、自分はあの美少年の過去をほとんど知らない)
(目指す小屋はいつも人気のない所だった。
「荒れ果てた」という言葉は不釣り合いでも、どこか埃っぽいイメージのある建物でなんとなく物置代わりに残しているのかと、そう思っていた場所だ。)
………。
(歩きやすいように最近下草が刈られた様子の小道を通って静かにドアの前に立ち……ドアベルはなさそうだったので、ゆっくりとしたリズムで扉をノックした)
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つまり、セレマ オード クロウリーが突然に姿を消してから数日のことだ。
「うわほんとにきたぁ~」
あなたの来訪に対し、執政官は開口一番にそう言い放った。
相変わらず気安く軽そうで、領主と仲の良い(と思われる)客人に対する敬意もない様子だ。アポイントを取っていたわけではないから当然なのかもしれない。だが執政官はあなたを邪険にすることなく、仕事の手を一旦止めた。
「私達の方には『しばらく帰ってこない』という旨を記した手紙が届いたんですよね。
理由は色々濁してましたけど、しばらく帰省するとかなんとか?
帰る場所なんてあったんですねあの人。」
自分の領主に対しても何の敬意もなく『あの人』呼ばわりするのは、この者のいつもの調子だ。休憩用にと用意した色気ないマグカップの紅茶に、角砂糖やら牛乳やら柑橘汁やらをこれでもかと放り込みながら、自分の知る限りの情報を提示する。
「御丁寧に送り先まで消してあります。
余程知られたくないことでもあるんですかね。」
なにか知られたくないことで思い当たることは?
「まさかぁ。でも隠し事なんて数えきれないくらいしてるでしょあの人。
なんでしたら何を隠しているか、ご家族に聞いてみたらいかがです?」
もはや元の銘柄の面影を残さなくなった極甘ミルクレモンティーを傾ける。
美味しそうに飲んでいる。領主が見たら嫌な顔をするだろう。
「いまね、ご滞在中なんですよ。アレのイトコだとかハトコだとかいう方が。
件のお手紙もその方が直接届けてくださってですね。」
あれに家族が?
「地方出身の元貴族で、今は隠居の身の上なんですって。
だから算盤とか内政とかにもちょっと詳しくて、おかげであの人不在でもお仕事困ってないんですよ。助かっちゃいますね。」
「会うのでしたら、離れの小屋を尋ねてください。しばらくはそちらに滞在するとのことですので、行けばほぼ間違いなく会えると思います。
そうだなぁ……人の秘密を探りに行くわけですし、ほんの少しだけ用心とか覚悟とかした方がいいかもですね。」
「どういたしまして。
それじゃ私は仕事に戻りますね~。」
あなたの目の前にあるのは敷地内のちょっとした小屋だ。
ごく最近掃除された跡が見える。恐らくは普段は使われていないのだろう。
領主がこの場所に泊めるよう言いつけたなら客人への距離が窺い知れ、客人が望んでここに泊っているのなら人嫌いの気でもあるのかと疑ってしまう。そんな奇妙な距離があった。