ツバメは漸く最後の黄金を宝石を届け終えました。
貧しさに喘ぐ人々は黄金を売って冬を超えることができます。
ツバメは彼らの笑顔を見ていると、雪の注ぐ冬の中であるにもかかわらず、胸が温かいもので満ちてゆく心地よい気持ちになりました。
町はずれの聖女様も、きっと笑ってくださるはずです。

そう、これが最後です。
北方の冬は、もはやツバメでは耐え切れないほどの寒さでした。
これ以上この街にいることはできません。
けれども、最後にあともうひとつだけ。
あの幸せな聖女像に笑ってもらうために。
最後のお別れを言うために。
ツバメは力を振り絞り、いまはもう見すぼらしくなってしまった、幸せな聖女像のところへと飛んでいきます。

……そこにはもう、幸せな聖女の像はありませんでした。
みすぼらしく、美しくもなく、価値もない、まるで乞食と変わらない聖女像は。
街の人々によって取り壊され、溶鉱炉で溶かされていました。
ツバメは自分が何を見ているかわかりませんでした。
心の底から愛していた聖女の姿がないことが信じられませんでした。
まるで最初から聖女がいなかったように振る舞う、街の人々の姿が信じられませんでした。

「ツバメさん…ツバメさん…そこにいるの…？」
どこからか響くか細い聖女の声がします。
それは炉端に転がる聖女様の鉛の心臓から響いていました。
溶鉱炉の熱を受けて赤色を帯びた鉛が、脈打つように響いています。
「ああ、ツバメさん…。そこにいたのね…よかった……。
　わたしね…ようやく自分の役目を終えたの……。」
一体どういうことなのか。ツバメが問いかけるよりも先に、聖女は続けます。
「この街の人たちは、もう十分幸福になれたのよ。
　わたしという『幸せの像』なんて、必要ではなくなってしまうくらいに。
　もう、誰も涙を流さなくていい…誰も悲しまなくていいのよ……
　……それって…それってなんて素敵なことでしょう…わたしはきっと、そのためにうまれたのね。」
ツバメは何も言いませんでした。
ただ、脈打つ鉛の心臓をじっと見ていました。
「ねえ、ツバメさん…本当に、本当に最後のお願いしていいかしら。」


「わたしの心臓はね…直に寒さに耐えきれず、割れてしまうわ……。
　だからその前にね…ちゃんと、溶鉱炉に入れてほしいの………。
　最期に、わたしの全部を…みんなの役に立つようにしてほしいの……。」


その言葉を受けた瞬間、ツバメはいままで抱いたことのない思いが駆け巡りました。
この世のどんな炎よりも痛ましく、どんな冬よりも暗く、どんな涙よりも深い……ツバメだけの感情でした。
「――ふざけるな！」
そう叫んだツバメは、煮えたぎる心臓を掴むと、空へと羽ばたきました。
心臓の火がツバメの指を焼き焦がす度に、聖女がそれを制止します。
「――ふざけるな！」
美しい歌を奏でる喉笛が枯れはてるほどに叫びます。叫び続けます。
最早誰の声も聞こえていません。
施しによって救われた人々の笑顔も、聖女の声も届きません。
「――ふざけるな！」
打ち付ける吹雪に身を引き裂かれても叫び続けました。
シャイネンナハトの祝福の中にあってもツバメは叫び続けました。
祈るでもなく、願うでもなく、ただ叫び、一羽ばたきでも遠くへと飛び続けました。
誰にも届かなくとも叫び続けました。
ボロボロになった脚で「それでも」と掴み続けた心臓が熱を喪い、冷たい錘でしかなくなっても。

…やがてツバメの体は冬の寒さに耐えきれず、事切れてしまいました。
「ああ…ツバメさん…どうして…どうしてこんなことに…」
聖女は戸惑い、ツバメを心配しますが、返事は帰ってきません。
ツバメは羽ばたきません。軽口も言いません。
口づけのようにその身を啄む愛らしい嘴は、ひび割れたまま動きません。
彼女の知っているツバメは、もうどこにもいないのです。

それから長い沈黙の後、鉛の心臓は音を立ててひび割れてしまいました。

それっきり…ツバメと聖女の心臓は、深い雪の中に埋もれてしまったのです。
最早何者にも顧みられることもなく。



ウェイリー一座より、『幸せの聖女像』　…原題『幸福の王子』
脚本：ダブ・ウェイリー

同時公演
『下水の底のオンディーヌ』
『かわいそうなふたご』

冒険者の依頼のほうだな。絵が欲しいって言われたから描いた。
結構評判よかったみたいだぞ。なんかヴァニタス画？みたいって言われた。よく知らんが。

ヴァニタス……なんだそりゃ。
髑髏の杯か野晒しにされて風化した屍でも描いたのか。

九相図は描いたことないな。白百合の花を描いた。
ただ描くのも面白くないので、花弁を彩色せず経年劣化で色褪せるようにしたのだ。
修復しない事を条件に引き渡したので、そういう捉え方をされたのかもわからん。
元々は現実の花と同じように枯れたら面白いくらいの考えであったのだが。

別に無残絵の話はしちゃないが。
…えーと、ちょっと待てよ…その分野はイマイチ明るくない。
経年劣化しないってのはワニスを塗らないことだろうってのはわかるが。
彩色しないってなんだ。カンバスが露出でもしてんのか。

お前の言うのは油彩画だな。吾は毛筆画とか大和絵とか言われるやつをやる。
うん、カンバスというのは木枠に布を張り付けたようなやつだろう？
ああいうのを使わずに、ちょっと丈夫な紙に直接描くのだ。
必ずしも全面を彩色するという事もない。
だから色を乗せていない部分は段々と酸化して劣化していくのだ。
油彩と違ってワニス等で保護する事もないしな。脆い作品だよ。

なおのこと知らない手法だな。
外洋（豊穣）じゃそっちが主流とは聞いたことあるんだがな。
………いや、そもそも絵画というか、ほとんどの芸術分野が見る専門だしなぁ。
絵に関しても精々モデルをやったことがある程度だし。

ふうん？美少年って芸術百般かと思ってた。
まぁ、吾もこうやって絵画について語ったところで、混沌特有のアトリビュートはさっぱりなので鑑賞しても誰が描かれたものなのか全く分からなかったりするが。

……吾はなんというか、芸事は箔付けの為に始めたようなものであるのだが。
だがまぁ、趣味でやる分にはおもしろいぞ。
お前も自分で自分の脚本書いて演じた時面白かっただろ？

幾らボクが才色兼備の秀外恵中で才貌両全つっても限度があるんだよ。
精々が多少の審美眼と多少の見識くらいもんだ。

………ああ、CDだっけな。
読んでるうちは気持ちよかったし、作品としては及第点の出来だとは思う…んだが、…………あれはなんというか……書くのも楽しいといえば嘘ではなかったが、楽しみすぎると不味い理由があるというか。私的かつ専門的理由で楽しい程まずいことになるというか。そもそもがズルというか、そういう後ろめたい意識をもって接しないと身を亡ぼすというか、なんというかな。

そういう形に残すタイプの表現力に関して言えばたぶんお前の方が上だろ。
悔しい話だが。

そういえば、裏技使ったんだったか。
……いや、大丈夫なのかお前。映画の製作所を作る用地作ってなかったか？
お前ちょっと気分良くなったり油断したりして脚本書いたりしないよな？あの裏技絶対に健康に悪いというか、差し出したもの以上のものを取られててもおかしくないからな？

そう言われると面映いが、吾はあまり志が高い方ではなくてな。
多分芸術家というよりも職人の類なんだ。自分の思考を残して伝えるのは苦手だ。

執務と冒険者とその他諸々に加えて、映画監督兼脚本家兼主演俳優兼批評家やれってか？
やんねーよ。こちとら本業は『魔術師』だ。
そういう運営は上手くやれる奴に任せればいいんだよ。
いちいち構ってちゃボクのリソースがもたねえっての。
それにあんな役立たずのクソ妖精の為に、貴重なリソースをいちいち消費して溜まるかっての。
趣味で使う意外に費用対効果がほぼ０なんだよ……他人に紹介する分にはその限りでもないが…。

（腹立たし気に魚のフライを噛み締める）

まぁーーーーうん。だろうな。
なんとなくそうだろうなとは思ってた。

そこに主演俳優をさりげなくブチ込むあたりが最高に美少年よな。
やらんならよい。趣味で使う限りでも最悪の部類だと思うが。
文字で記録を残したところで、体験は戻ってこんからな。少量ずつでも価値観を奪われているに等しいぞ。当然お前も対策はしているのだろうが……。

見たまま以上を描くのができんのだよな。歌を詠んでも風景描写一辺倒であるし。
美少年は自分自身の妄想だけで話を作り出せるよな。吾はああいうのこそ出来ん。
（空になったジョッキを給仕に示してお代わりを持ってこさせつつ）

そりゃな。日記は大事だぞ。
特に忘れると不味いことは書いておくに限る。

妄想。
………いや、妄想だな。事実だな。うん。
妄想かどうかはどうあれだよ。お前だって願望のひとつやふたつくらいあるだろう。
現実に対して「こうであれば嬉しいのに」とか、未来に対して「こうだったら嬉しいな」とか。
上手い下手はどうあれ、事実に反した仮想のひとつでも言葉や絵に起こすくらいできるだろう。

んーーー。
（難しい、とばかりに眉を寄せて唸り声をあげる。
願望、妄想、仮定、仮想。一体どのように答えたら「正しい」のか思案して）

分かった。多分な。
吾はな。自分の願望を尋ねられてな、「どう答えるのか正しいか」考えてしまうのがよくない。
多分、お前の言う通り願望くらいはあるのだろうが、どうしてもそっちを考えてしまう。

うっわ。めんどくさ。

…………ん？

……ちょっと待てよ。
お前さ、今回の感想戦どこがいいよってボクが訊いたとき、酒がどうとか言ってたじゃん。

鉄帝の公演見に行った時に、お前が喫茶店で一生懸命酒を探してたから……。

もう病気じゃねーかそれぇ？

病気（まがお）

む、む、む。まぁお前の言わんとする事は分かる。
自己欲求の所在分からねば生命として不全であるものな。多分そんな感じ？

『病気なのか？』みてーな顔してんじゃねーよ。マジかよテメー。

（勢いをつけるように一気にエールを干すと）

いいか美少女。
ボクは「お前どこがいいよ」って聞いたわけじゃん。
この時、普通はどこに行きたいか自分で考えてから、自分が今置かれている状況も加味したうえで、自分にとっていい結果を選び取れるように、「自分はどこに行きたい」という考えを言うんだよ。
お前の世界じゃそれが普通じゃないってんならこの話はここで終わりだけど、少なくとも混沌人並びに旅人はだいたいこんな感じの考えなんだよ。

で、だよ？
特に行きたいところ思いつかねー奴は「わからん任せる」とか「好きなとこでいいよ」とか言うし、少なくとも苦手な場所があるやつは「こういうところ以外ならいいよ」って言うんだよ。
そこからちょーーっと発展して、相手を喜ばせたいがために相手が好きな場所を選ぶパターンもあるよ？ そういう奴は、それを踏まえたうえで「お酒飲めるところがいいな」って言うんだよ。

つまりだ。ここまで提示したパターンはなぁ、形はどうあれ主体が『自分』なんだよ。
自分が気分良くなったり、自分と相手でストレスない時間を過ごすための手段なんだよ。
これはもう生命としての話じゃなくて、コミュニケーションの話なんだよ。

で？それで？お前の場合は？
「どこに行きたい」と聞かれたときに、主体を『自分』じゃなくて『相手』にして考えを進めたうえで、自分を一切挟まずにそのままお口から出ましたって？

（ここまで一気に喋りぬいてから、また盃を傾けて……怪訝な顔をしてから自分もおかわりを頼んだ）

それはもう強迫性障害じゃねーか。
特に対人関係においてはとびきり重症の。

いや、ちゃんと「どこでもいい」と自分の中で結論を出してから、お前の行きたそうな場所を言ったとも。
先に相手が選びそうな選択肢を出しておいた方が話が早く進むだろ。
お前相手なら別に間違ってても実害ないし。
……それに、要求の主体が「自分」ではないことはそこまで悪い事か？

（新しく注がれたエールを一口飲んでから）

ああいや、ここは相互コミュニケーションの事を言っているから違うのか……。

だからそーゆー場合は「どこでもいいよ」とか「好きなとこでいいよ」とか言うんだっての。
お前の場合は……なんだっけな、「酒が飲めたらいいよね」だっけ？
よほど特殊な場面でもねーかぎり、他者の好みに寄せるほうが正しいみたいな配慮をさぞ自分の欲求や意思表示みたいにいわねっての。

悪いことがあるか、つったら状況によっては悪いとは言わねえよ？
だがお前、それを日常会話の中にまで滑り込ませてくると、それはもう対話じゃねえだろ。
だってお前の意思がこれっぽーーーーーーっちも見えてこねえじゃん。
状況に応じた正しい会話が返ってくるだけで、相手の人格像が見えてこないやり取りなんてものは、相手にとっちゃ都合のいい返事をする使い魔と会話してるのと変わんねえよ。
コミュニケーションというものが自分自身と所属する社会をより良い物へと向上させる道具であるなら、お前の手法じゃあなんにも改善できねえし、そもそも交流によって研磨される自己も出てこねえよ。
これを『対人関係において重症の病』と言わずなんて言うんだ。

それともなんだ。
お前の見識によればそういう改善も向上もない対話も『正しい答え』か？

分かった。
……分かった。吾が間違ってた。

（顔を覆うように額に手を当てた。
都合のいい返事をする使い魔と言われても返す言葉もないと苦い口元を晒すしかない。
そうするのが自分の立場としては正しかった、と言うのもやめた。
その立場で話すのをやめると既に宣言しているので）

今度からはちゃんと自分の事を話す。
暫くは上手くできないかもしれないが、努力する。
悪かったな。逆に気を使わせたみたいになって。

（口をへの字に結んでいる。目が座っている。元から不機嫌さを前に出す人柄ではあるが、酒気も相まってか大人気のない様相として顔に出ている。
　むすっと黙ってあなたの訴えをねめつけている。）

（……一方で、自分は先程の言及があまりに冷静さを欠いていることも自覚していた。
　酒のせいもあるが、こいつに対する理解の全てが、自分に対して都合のいい正しい演技だったとしたら…そう考えると無性に腹が立つのである。
　いまのこいつの態度だって、自分の機嫌を直すためのその場しのぎの正しい振る舞いではないという保証は何もないのだ。今の今まで巧妙に隠し通してきたのだから、自分ではその腹の内を知りようもないし証明しようもないのだ。なおのこと腹立たしい。）

（下手糞め、下手糞め、と内心で毒づく。
　許すことは楽であるが損だ。罰することは悦ではあるが損だ。
　凌辱という手段を介さずに、損失なく心理的平穏と関係性を維持する為に必要なものは？）


………………本当に、努力するんだな？
嘘じゃあないな？

（欠けた月の色をした瞳から、意図的にトーンの低い声をひねり出す。）

努力する。

（居心地悪そうに身じろぎした。耳が頭に生えていれば情けないくらいにへたっているに違いない。
自己を他人にとって都合のいい生き物として変容させる事は、長年使ってきた人と交わる手段である。
それがようやくここに来て対等なコミュニケーションではないと悟ったのだ）

嘘じゃない。……でも。

（胸に満ちるのは不安である。
それは相手の声音によるものであるし、不機嫌そうな表情から来るものでもある。
しかし、それ以上に大きいのは）

……私は間違えてばかりだから、また同じような事をしてしまってるような時は教えて欲しい。
本当に、得意じゃないんだ。人と話すのは。

ふーん…


そう。



まあ、いい。許してやるさ。
ボクもこの場は気分よく帰りたいし、誰かさんが下手糞なことは今に限ったことじゃない。
付き合いの長さも加味して水に流すべきだろう。
うん、そうだな。この場はそれでいいってことにすべきだ。

だが、それはそれとして。

キミがそこまで明確な意志をもって行うと、それを信じるなら。
少なくともその努力を見届けるくらいはしないとな。
そうだろう？

（ぞっとするくらい爽やかな声。『美少年』としての外向きの声である。
　声音に反して腹の内にあるやらしさを隠す気もないようだ。
　しかも片手にジョッキを握っている。すべてが似合わない。）

……そういえば、さ。
ボクの趣味に付き合わせるばかりで百合子君には悪いなあ…なんてさ。
ボクは常々そう思っていたところなんだ。
折角だしボクと百合子さんの交友を深めるために、今度は百合子さんの趣味に付き合わせてほしいなーって、さ。

うん。いいアイデアだ。
そうしよう。そうしようよ。
きっと楽しいに違いない。いやあ楽しみだなぁ。
ねえ、百合子君？

（凌辱という手段を介さずに、損失なく心理的平穏と関係性を維持する方法。
　それは『証明』させることである。それもできる限り『正解』がない手段で、こっちを可能な限り満足させることに『成功』させる。
　最低でもその努力する様を見せてみろと、そう言ってやる。）

（美少年ボイスがひねり出された瞬間から「不味いことになったぞ」という表情になった）

（「趣味」に触れられた時には「とうとう来たか」とばかりに口元が歪んだ）

（当社比、表情が豊かである。嫌の表情ばかりであるが）

……ない。


……趣味ない……。

趣味って楽しい事だろ……？
割とこう……一人でも楽しめたり打ち込んだりするような……。

（深く考えを巡らせるように瞑目して）

……一緒にアリの行列数えたり、雲の動き見たりする……？
楽しいか分からないけど、習慣的にやってるから楽しいのかも……？

（たっぷり時間をかけて疑問形だらけの答えをひねり出した）

（マジかよこいつ。自分の戦闘技術についてはやたら喋るよな、とばかり思っていたが。）


百合子君。もう一度言うよ。
楽しみだな。きっと素敵な時間を過ごせるよね。
そうだろう？


（だが、ここで引いてはならないし引く気もない。
　自分に対して『努力する』とまで言ってのけたのだから、努力してもらわねばならない。
　助言もしない。そこから逆算して辿り着く正解を渡さないためだ。
　つーか自分で考えろそれくらい。）

お前、そもそも人の趣味に足踏み入れて自分が楽しい保証はどこにもないのだぞ。いいのか。吾はよくないとおもう。

（ちょっと見た事のない狼狽の仕方をしている。
それくらい思いつかないのだろう。念押しされれば、うっとひきつった声を上げ）

……分かった。
吾が楽しいと思う事をすればいいんだな。そうだよな？お前はそれに付き合うんだよな？

おう。そうだよ。
ちなみにボクを殴り飛ばすことは趣味としてカウントしないものとするからな。

お前、最近【反】つけてるから殴ってもめんどくさいんだよな……。
もう一度言うが、吾の楽しい事がお前の楽しい事とは限らんからな。

そもそもだ。
「吾」はお前と応対する以外は「生徒会長」とか「美少女」とかいう立場で喋ってるからな。
こっち来る前からずっとそうだ。向こうの方がずっと責任は重かったのもあるが……。
だからなんだ、「私」が喋って「お前」が応対してくれるだけで割と楽しいからな。
こういう事を言うとまたぞろ面倒くさいとか言われるんだろうが。
お前にこき下ろされてるのを許してる時点で、吾は相当自由にやってるんだ。

まぁ、それを趣味として使うのは反則っぽいからやらんが。

知るかテメー。面倒くせ―。
ボクだって実際に観劇に付き合わせる直前まで「果たしてこいつはしばらく無言で静かにするような行為に楽しみを見出せるのかどうか」と思ったわ。
誰だって経験するわそんな雑な逡巡。
勝手にどうにかしろ。

ふうん。わかった、どうにかする。

……なぁ美少年。
お前、冒険者でもあるから僻地に足を踏み入れても平気だよな？

ん？
まあ、そりゃな。
仕事の都合出向くことはあるが？

ふうん。
……登山くらいはできると見てよいな？

んん？
登山（※山中散策）くらいなら、まあ。

意外だな。か弱くともフィールドワークくらいはこなすのか。

あとはなんだ。川魚は食えるか？

川魚（※ちゃんと加工処理されたものを指す）で好き嫌いはしたことねえな…。

ふうん。じゃあ豊穣が良いな。鉄帝でも良いがまだ冷える。

釣り行くぞ。少々障があるが下手でも釣れるとこがある。

釣り……明るい分野ではないな。
自分の道具は最低限準備はするが、ちゃんとエスコートしろよ。
楽しみ方までは知らん。

うむ、山間を少し歩く(山道から外れて道なき道、もしくは獣道程度の道のりを1時間程度の道のりを指す)故、お前の足でたどり着けるかが不安であったが登山できるのであれば問題あるまい。
軽い竿が一本あれば良い。後は吾が持っていく。
釣った魚を持って帰って食うのであれば籠も持っていくと良い。吾は大抵その場で(丸呑みで)食うが。

歩きかぁ。
（気乗りはしねえけど誘えつったのボクだし切れてゴリ押した手前でやっぱなしもおかしい話だしなぁ言い訳も思いつかねえし考える労力も面倒だからこの際だから考えないようにするかぁ。）

……なんとかなるだろ。うん。
日程とかもお前に任せる。釣りに適した天気とか時期とかも知らんからな。
決まり次第連絡しろよ。

お前を抱えて飛ぶと言う手もあるが、山道を歩くのも偶には良いとおもうぞ。この時期なら傍に木苺があるやもしれぬし、花も多い。
まぁ釣りとは言うが、一人で山に行く口実のようなものよ。

うむ、任せておけ。こちらの準備が終わったら連絡する。

おう。任せる。
（一人で山に行きたい理由とは。
　パッと思いつくのは修行とか雉を撃つ（物理）とかだろうか。
　……まあ、後で聞けばいいだろ。そういう目的であるし。）

……さてな。
なんか感想戦って気分でもなくなってきたが。
お前どうする。この後寄る所とかある？

ないな。この辺の事はわからんし。
美少年は？

ない。
満足するまでアルコール入れたら転移して帰るんじゃねーの。

いつも通りだな。
（そろそろエールから他に切り替えようかと手を上げて給仕を呼ぶ。
切り替える割には種類には頓着しない様子で注文を終えると、貴方の方に顔を向けてまた実のない話でもするんだろう。いつも通りに）