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ギルドスレッド

別邸『イハ=ントレイ』

【エマ】流れよ我が涙、と祭司長は言った

 思えば、そういう世界の人であることなんて、彼女はおくびにも出さなかったのだ。

 コン=モスカは海洋貴族である。
 貴族とは、有り体に言ってしまえば面子の職業である。客一つ招くのにも、それは絡んでくる。
 エマがその別邸の扉を潜った途端、立ち居並ぶ侍女達が一斉に頭を下げた。
 まるで何時間も前から待機していたように入り口から応接間までエントランスに道を形成する彼女たちの間を通ると、わけもなく緊張してしまう。

 応接間はこれもまた大きく広いが、縦に長く序列のはっきりとわかる幻想式のそれではなく、円卓と方形の部屋の組み合わせが大きな空間らしく感じさせる海洋仕立て。
 そこをさらに通り抜け、暖炉の傍にあった蹲めいた小さな扉を抜けると……

 なるほどこれが真の“応接”をする部屋なのだろう。
 武器の類は全て侍女に預けられ、僅かに4、5人を歓待するのにちょうど良い間取りであった。
 彼女はエマが入って来るのを見ると、まるで対等の貴人が入って来たように礼をしたのだった。

 貴族とは面子の職業である。
 翻ればクレマァダは、それほどの歓待の意を“彼女”に示しているのだ。
 その真意を、相手が理解してくれるかはこれから次第であるが。

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参加者向けハンドアウト:
あなたはクレマァダによって茶会に呼ばれました。
クレマァダは、格式ばった歓待を仕掛けて来ています。
のるかそるかは、貴方次第です。

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おっ、おっ……お邪魔します。
ここ、この度はお招きいただきありがとうございます……?

(びっ……びっくりした……メイドさんで道を作られるなんて思わなかった……
裏口から勝手に忍び込むならともかく、貴族の館に正面から招待されるなんて初めてで何もわかりませんよぉ……!)

あの……ええっと……この間は改めてすいませんでした……いきなり変なこと言って……。
とんでもない。
我の方こそ……まずは此度、我の招きに応じて頂いたこと、誠に感謝致します。
突然の申し出にも関わらずこうしておいで下さり、何と申し上げて良いか。
姉が手紙を託したとあれば、貴女のことは余程信頼していたのでありましょう。先ずは、生前のご友誼に感謝を申し上げるべきでした。

さあ、掛けられよ。
今家の者が何ぞなりと持って参りますが……もしお済みでなければ、昼食など共に如何か?
どど、どういたしまして。
私としても願ったり叶ったりというところです。
是非お話を……してみたかったもので。

私のほうこそ、カタラァナさんにはとてもよくしていただいて……。

あっ、お言葉に甘えて、しし、失礼します。
お昼?いいんですかっ?え、えっと。……すいません、いただきます。ありがとうございます。
(その間少女は、ずっと観察していた。
先だっての邂逅では見られなかったへどもどした態度や、引きつったような笑い顔。
そして不意に溜息をついた)

ああ……なるほど。
お主が、『エッチャン』殿か。
――へ?

……あっ。あっはい、そうです。私が「エっちゃん」です。
彼女は私のことをかなり早い段階からそう呼んでいたと思います。

正確にはエマで……名前はもう言ってましたね。
うむ。
……アレはな。
アレは書簡に、あだ名で呼ぶ者の本名を書かんのじゃ。
おかげでイーチャン……イーリンと会うた時も赤っ恥を書いたわ。

お主のことは、聞いて居る。
沢山…………沢山、聞いて居る。
(話している間に前菜のカルパッチョが運ばれてきた。
ここ幻想ではそう簡単に手に入らない筈の生食のできる新鮮な海の幸であった)
なるほど、そうでしたか。
カタラァナさんはあなたに私達のことを手紙で教えていたんですね。

では馬の骨……ああいえ、イーリンさんにも会ったんですか?
イーちゃんだとなんだか普通に間違えたみたいですよね。ひひっ。

そうですか……たくさん、聞いていましたか。
たくさん書いてくれたんですね。うれしいなあ。

(カルパッチョが運ばれる)
わっ。おいしそうですね……!な、なんかこういうの、慣れてなくて。えっえっと。
えひひ……すいません、私育ちが悪くて……。
構わぬ。
姉の“恩人”なれば、作法なぞ瑣末ごとよ。
それに、その為のこの部屋よ。人目あるところで歓待しては、お主も気が引けよう?
……本当はもっと、お主にとって気の置けない店なぞ知っておれば良かったのじゃが。こちらこそすまぬ。

(そう言うと、添えられたワサビをフォークでちょいちょいとよけてカルパッチョを食べ始めた)
恩人………ですか。
私は彼女の友達でした。それは間違ってなかったと思いたいですね。
しかし、もっと何かしてあげられたらよかった……何か私にできることはなかったのかと、後悔するばかりです。
むしろ、私が助けられた……彼女こそ私たちの恩人というに相応しいですよ。

そ、それはそれとして……ありがたくいただきます。全然気にしないで下さい。
私の行きつけの店は周辺の治安が良くないので。
おいしい……おいしいです。
どんなに悲しみに暮れていても、ご飯はやっぱりおいしいんですよね……。
ふん。多少の治安が何じゃい。
我はモスカの祭司長ぞ、荒くれ者の10や20、1人で……は、今はもう無理じゃな。己の身くらいはまだ護れるものと思いたいが。
(美味しいと言われて、相変わらず距離の近い目と眉の間が、やっと少し離れたような気がした)

……まあ、それとして、お主は我(カタラァナ)にとって、恩人なのじゃよ。やはり。きっと自覚はないじゃろうが。
じゅ、10や20ですか。
モスカの祭司長って強さが求められるんですね……。今は無理とは、何か病気でもされたんです?

そう……そうなんですね。本当にそうであれば、あの人に何か恩を返せていたのであれば……幸いです。
しかし、どうしてそう思うんでしょう。カタラァナさんはいつも楽しそうでした。
何か困っていたんでしょうか。
……我は最早、完全な形ではないということよ。
栓無き事じゃが。半身がいなくなっては戦闘はともかく予知など使いようもあるまい。
我らは常に二人で一人だった。ゆえ、一人では欠けたところだらけじゃった。

今、何か困っていたかと問うたな。
まさにそのことじゃ。あれは……あまりに欠けたところばかりじゃった。
お主に言うて信じて貰えるかもわからぬが、真実あれは人のこころというものを毛ほども大事なものと思うておらんかったのじゃ。
(皿が下がり、プリモピアットが運ばれてくる。
スパゲッティ・コン・ネーロ・ディ・セピエで誂えられたボンゴレは、見た目以上に濃厚な貝の味わいがするだろう)
そうでしたか……。文字通り、カタラァナさんとつながっていたんですね。
凄い話です。

心を……?
うぅん……、確かに信じがたい話です。
浮世離れしていた感は確かにありましたけれども。
私以外にもいろんな人と話したり、笑ったり、歌ったり……していましたよ。

(ボンゴレを目の前にして)あっ凄い。すごくいい匂いがします。
コックさん、料理上手なんですね。……えひひ。頂戴します。
当然よ。
迎える相手と釣り合わぬ格の料理人なぞ招かぬ。
それは、モスカのみならず海洋国の沽券に関わることじゃ。
(言いながら黒いパスタをつつき、烏賊をフォークに絡めながら皿を見つめて呟いた)

それは……あれは、そうした方が良いと思っていたからに過ぎぬ。
笑って歌って見せれば、ひとは快く思ってくれるのじゃと。
実際それは一面では正しい。じゃが、致命的に間違ってもおる。

あれは愚かじゃが賢い。
そうあるべしと思っての振る舞いは、だからこそ致命的なところまで誰にも気付かれぬ。
遠からずあれは、お主らにとの間に致命的なズレを引き起こしておっただろうよ。

そういう振る舞いが、なかったか?
あれは、人の死を、人の悲劇を、尊び喜んでいた。
無垢故にどこまでも罪深かった。
そういう振る舞いが、なかったか?
あ、えと……えへひひ。
お、お、恐れ入ります。

美味しい……イカ墨ってこんなにまったりした味なんですね。
美味しいです。ほんとに。

なるほど……私もごまかし笑いはついついやってしまいますけれども。
ごまかしともまた違う……別の打算だったんですね。

――あったかもしれません。笑顔で空恐ろしいことをつぶやいてからかっていたこともあったかもしれませんね。
思えば普段の軽妙な歌にも、どこかそういう響きが混じっていたと思います。
いたずら心だと思っていましたが、あれは真に喜んで歌っていたんですね。

踏まえたうえで、話を少し戻しましょう。――なぜ私が恩人なのでしょうか。
お主が、あれを”こわがった”からじゃ。
”こわがって”……だが、”そばにいた”からじゃ。
だからお主は、あれの恩人なのじゃ。

……或いは、……いや。
あれは人の気持ちを知らぬから、人を見て色々と試しておった。
歌の見事さに感銘を受けた者は居った。
歌を畏れて距離を取っていた者も居った。
歌の異質さを知って尚傍に居た者も居った。

じゃが、あれが何となく怖いものだと知っていて。
それを認めた上で、なのに、とても近くにお主がいたから……
あれは、人を学ぶことができたのじゃ。
とても怖がりのともだちがいるのだと、我(カタラァナ)は我に言っていた。
きっと何か、そう、世の全てを揺るがす何かがあったら、沢山のエっちゃんが泣くんだねと我(カタラァナ)は我に言っていた。

なら、それは厭だな、と言っておった。
―ーそういう事でしたか。
確かに得体の知れなさは感じていました。
それでも………いえ、だからこそでしょうかね。はみ出し者の私とどこか馬が合ったんですね。
貴重な友人でした。怖いと思うこともありましたが、どこかまぶしさを感じることもありました。
私は彼女に、どこか純粋なものを感じていたと思います。
言葉にはしづらいですけれど……。
変な人ですね。私は一人だっていうのに。
その沢山の私を泣かせない為に、彼女はいってしまったのでしょうか。

凄い人ですね……まぶしさの正体はきっとこれなんでしょう。
けれど結局、一人の私は涙が止まりません。できるなら、いかないでほしかった…………。
(皿が運ばれてくるまで、彼女はしばしだまったままだった。
 セコンドピアット――鱸のアクアパッツァ。
 シンプルに白ワインとディルなどの香草、出汁を取る為の貝などを加えて蒸し煮にしてある。運ばれてきたそれをフォークで突いて口に運び、うんと頷いてその皿をじっと見つめていた)

……お主は。
お主も。我(カタラァナ)を愛してくれたのじゃな。

であれば、あれにとって今生はやはり仕合せなものであったのじゃろう。
だったに違いない。
誰にも愛されない人生では、なかったのじゃ。
(静かにアクアパッツァに手を付けている)
――それは、はい。そうですね。
私は間違いなく、そうでした。
あなたも、きっとそうだったんですよね。
…………我は。お主ほど衒いなく、そう言えぬ。
ふふふ。そうですか……。
姉妹ですし、あのカタラァナさんのことですから、色々あったんでしょうね、きっと。
実は、妹がいるとは数年前から聞いていたんです。――そのことを話すあの人は、とっても楽しそうでしたから……言えなくてもいいと思いますよ。
ん……楽しそうじゃったか。
……そうか、そうじゃろうなあ。
(そう言うと、ぱくぱくと食べていた手をふと止めて、もじもじと指を動かし始めた。
自分がなぐさめてやるのだと、そう意気込んで彼女を食事に呼んだはずなのに、なぜか自分がカウンセリングじみたことをされていて、妙に居心地が悪くなりつつもある)
……嫌いというわけではないのじゃよ?
決して。じゃが……苦手だった。
……ああっ、すいません!私ったらついつい立ち入ったことを。
ちょ、ちょっと思い出話な感じに移っちゃってました。ひひ、えひひ。
(ごまかすように残りを食べだす)

苦手……でしたか。そうですね、なるほど、なるほど。
……(いかにも振り回されていそうではあると思ったが、今度は言わないことにした)

………
……カタラァナさんはきっと幸せであった。という話でしたね。
そうであって欲しいと思います。
そうだったじゃろう。
きっと。
そう言ってくれる者が居るのであれば。

……我は、初めはの。
お主を救おうと、そんな傲慢な考えでこの場を設けた。
あれを喪って、傷ついた者同士、前に進めるようにと……
じゃが、つくづく浅はかな考えであったようじゃ。
我が何を言おうと、言わずとも、時は流れる。人は生きる。海は絶えずそこにある。

許してほしい。エッチャ……んん、違うな。
エマであったか。そう、エマよ。
頭を垂れ、教えを乞うべきは我であったようじゃ。
えへへ、許してほしいなんてとんでもないですよ。
ありがたい話です。ちなみに私も自力で前に進めたわけじゃありません。カタラァナさんの置き土産を読むまでは、ひと月ほど隠れ家から動けませんでしたからね。

それにそれを言うなら、そもそもコンタクトしたのは私じゃあないですか。
その時の私も、今クレマァダさんが言ったような気持でしたよ。……なるほど、傲慢でしたね。突っぱねられるわけです。
お互い様ということで。
んぃ……まあ、あれは、我も……言葉が過ぎたと言うか……
すまぬ……

そう思ってくれるのであれば、是非もない。
たった“ひとり”で世界に生きるのがこんなに心細く不確かものだと、我は今まで知らなかったのじゃ。
どこで何をしていようと、我にはもう半分の誰かがどこかにいた。その心強さに……今更気付く。
お互い様ですって、ひひひひ……。

そう、ですね。孤独というものは……特に、喪失してからの孤独はひどく心を蝕むものでした。
私も痛感させられました。彼女は私の友達で、それを喪うことは、出会う前の孤独なぞ比べ物にならないものでした。
半身を喪ったクレマァダさんには及ばずとも……。
……そうそう、あの後、海洋の貴族の……ええっとなんて家だったかな。
そう、メリルナートさんです。メリルナート家主導で、戦没者や軍艦のサルベージを行っていたので私も参加したんです。カタラァナさんの指の一本でも見つからないか――と。

結局痕跡は見つけられませんでしたが、海の中で彼女の歌を聞いた…………気がします。
あの人はあの海の中に確かにいるのだと。そう思えて、ようやくまともに動けるようになった……と、思います。

いつか、私たちであの静寂の青に行きません?何か起こるかもしれませんし、何もなくても、喪失の痛みが和らぐかもしれません。
あの依頼は、覚えて居る。
――そうか。お主が行ってくれていたか。

……あの海は、魔性の海じゃ。
アルバニア”ごとき”のことでもなく、また滅海竜のそれとも違った、底知れぬものがある。静寂や悠久と言って見せても、その本質は変わらんよ。
……じゃが、そんな海だからこそ。
そこに横たわれて、あれは……

…………
うむ。その時は、伴行きを願えるか。エマ。

(最後にドルチェが運ばれてくる。
それは、卵と砂糖と生クリームを混ぜて焼いて冷やし固めた菓子であった。
名をクレマ・カタラーナと言う。
それを見て彼女は目を丸くし、口をもごもごと何か言いたげに動かしていた。余計な気を回しおって、とかそういう感じに)
えひひ……あの冠位アルバニアをごときで片付けてしまえるなんて、なるほど魔性ですか。
魔性の海。どことなくカタラァナさんに結びつく感じがしますね。
あの人もいわば魔性だったのかな……なんて。

――よかった、もちろんお供いたしますとも。
とと、いよいよデザートですか。さっすが、美味しそうなケーキですね。

……どうしました?何か予定と違ってましたか?
……何でもない。
ただ、この……
ああ、まあ、良い。
良い。

元はと言えばそうやってお主をみくびっておったが故のが我の一度目の失敗じゃ。正直に申すとする。
これはな。うん、カタラーナ……クレマ・カタラーナという菓子じゃ。
そういうのはいらんと申しておったのに、やはり何か気を効かせてきおって……
クレマ・カタラーナ……。
あの人とあなたの名を冠するお菓子なんですね。

コックさんの意図は私には読み切れませんけども、このタイミングでお出しされたのは……やっぱり素敵だと思います。
あの人のことを想いながらのあなたとの食事を締めくくるにはピッタリです。

ありがたくいただきますね――
……避けて居ったからな。我が。
かつての先人の名を冠した菓子なのか、菓子の名を戯れに付けた先人が居ったのかは知らぬが。
(ぱりぱりにカラメリゼされた表面は、とても甘くてほろ苦かった)

……エマ。
エマよ。
これで、我は我(カタラァナ)より託された義理は果たしたと言えよう。
これでお主が、我を気にかける道理もないはずじゃ。
我との約束なぞ、あれとの関わりの上でのもの。もはや忘れるが良かろう。
じゃから、我のことは忘れて健やかに過ご…………

…………

…………いや。
また、会えるか?
ええ、それはもう!もちろん!もちろんですよ!
……忘れるなんてとてもできないというのもありますけれども、それはそれとして。

これからもそのー、えーっと。
普通に……個人的に仲良くしていきたいと言いますか。
あなたは、とってもいい人です。あなたのようないいひとがまた会いたいと言ってくれるのならば、私でよければ喜んで。

――さてさて、今日は本当にごちそうさまでした。
とーっても美味しかったです!
…………ん。
(首肯して、祭司長はぎこちなく微笑んだ。
嬉しいのだろうか。
楽しいのだろうか。
その笑みの理由を知っているのは、彼女と、たぶんその友である彼女だけであろう)

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