PandoraPartyProject

SS詳細

その心に温もりを、そのココロに勇気を

登場人物一覧

リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)
無敵鉄板暴牛
イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)
キラキラを守って

 まだまだ肌寒い、そんな季節。イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)は自らが持っている中でも動きやすい服装で小さく息を吐いた。ぴゅうと吹いた風が首元を撫で、イーハトーヴは思わず身震いする。
「さ、寒い……」
 いいや、こんな寒さくらいで弱音を吐くわけにはいかない。今日は自分のために予定を開けてもらったのだから。
「オフィーリアも見ててね」
 手元のぬいぐるみにそう声をかけると、彼女は『頑張りすぎて風邪なんて引かないでよね』と返す。その声はイーハトーヴ自身にしか聞こえないのだけれど、聞こえる彼はふふ、と小さく笑った。
「心配してくれるの? ありがとう、気を付けるよ」
 確かにここで頑張りすぎて体調を崩してしまっては元も子もない。モノづくりで根を詰めて良いことがないのと同じだ。
 ついつい集中し過ぎて結局──ということはままあるが、それは置いておいて。
「イーさん! お待たせしました!!」
 その声にぱっと表情を輝かせたイーハトーヴ。見ればトレーニングウェアを着込んだリュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)が満面の笑みを浮かべて駆けてくる。
「リュカシス、今日は俺のためにありがとうね」
「いえ! イーさんが一緒にトレーニングしてくれるなんてボクも楽しみで! 今日はぐっすり寝て元気いっぱいにしてきマシタ!」
 ぐっと両拳を握りしめるリュカシス。彼は小柄ながらも鉄帝人らしい筋肉の持ち主だ。反してイーハトーヴはと言えば『インドアです!』と言わんばかりの風体に、職業はぬいぐるみ作家。
 そんなデコボココンビがこの度一緒にトレーニングをしよう、という流れになったのはワケがある。

 新年早々、2人はとある海洋依頼へ参加した。新年の抱負を花火玉に込めるという風変わりな依頼である。
 そこではもちろん参加者全員が新年の抱負を語ったわけであるが──。

 ──この世界についてもっとちゃんと知りたい。
 ──きらきらしていない部分もちゃんと目に映したい。
 ──武器の使い方も、訓練くらいはし直してみようかな、とか。

 イーハトーヴが語ったのは、今から1歩を踏み出すための言葉。
 立ち止まって停滞していた彼の周りには、いつだって大切な人たちがいて、きらきら輝くものがあって。自分にとって魅力的な、いわば『正』の部分ばかりを目にしていた。
 ……いや。本当は『負』の部分を見ることが怖かったのかもしれない。夢という名のシャボン玉がぱちんとはじけて消えてしまったら、もうそれまでと同じ世界は見られないから。
 けれど、そこから抜け出すきっかけをあの依頼でもらったのだ。
『イーさん、訓練なさるということは……筋トレだね! その時は、ボクもご一緒させて! トレーニングプランも考えてきますから!』
 その時リュカシスはここぞとばかりにイーハトーヴを誘った。筋トレは1人でしていても楽しいし、強くなれる。でも1人ではなくて2人なら? 一緒に筋トレしたら?
 きっととても、とても楽しくて──いっぱい強く、勁くなれるに違いない!

 そんな経緯により共に筋トレをすることとなった2人。オフィーリアを公園のベンチへ座らせたイーハトーヴはリュカシスに1枚の羊皮紙を見せられた。
「見て!! 『トレーニンングプラン・イーハトーヴ』を作ってきたよ!!!」
「こ、こんなに……!?」
 みっちりと書き込まれたトレーニングプラン。その量にイーハトーヴは思わず固まったが、よくよく見れば複数のプランに分かれているようだ。イーハトーヴの様子や調子で選ぶつもりなのだろう。
「イーさん、筋力だけじゃなくて体力も落ちていそうなので! まずはこの簡単な筋トレから始めましょう!」
 これ、と差されたのは左上に記載されたメニュー。そうだねと頷きつつもイーハトーヴは思わずにいられない。
(召喚される前はあったんだけどなあ……)
 例え雑用係と言えど騎士団の一員だったのだ。一瞬でへばるような筋力・体力ではなかったと思う。
 それが今ではどうだ。ほんの少しばかり腕の力を使うだけで口から魂が抜け出る始末である。今までできていたことができなくなるということは少なからずショックだった。

 ちなみにそんな事態が起こったのはとある鉄帝の依頼であったが──いやああれはすごかった。何がすごかったかは本人たちにぜひ聞いてほしい。ともかくイーハトーヴはあの依頼の筋肉たいそうで撃沈したのだ。

 閑話休題。

 リュカシスの示した筋トレはストレッチから始まっていた。いらぬ怪我をしてしまわないためにも大切な準備体操である。
 脚の筋肉を伸ばし、肩回りの筋肉をほぐし。2人で組んで代わりばんこに背中も伸ばしていく。ストレッチと言えど運動には変わりなく、既にイーハトーヴの体はほこほこと温まっていた。
 始める前に感じていた寒さなどどこへやら、である。
「リュカシスがトレーニングプランまで考えてきてくれたんだもの、今日はいっぱい頑張るよ!」
「その意気デス! それじゃあ次はウォーキングしましょう!」
 まずはこの公園を1周するとリュカシスは告げ、近くに立っていた看板を示す。それは公園の案内図で、今2人とオフィーリアのいる広場の周りにはジョギングコースが用意されているようだった。
「いくつかあるこれは?」
「自分のレベルに合わせて距離を決められるんです! イーさんはまずこの短いコースかな」
 リュカシスに示された道を覚え、イーハトーヴは頷く。そこまでの距離ではないしウォーキングだ。それくらいの体力はあるだろう。
 オフィーリアへいってくるね、と告げたイーハトーヴはリュカシスとともに歩き始めた。ただ歩くといっても姿勢や視線は気を付けなければ効果がない。ただの散歩にならないように、とリュカシスの言葉を聞きながらイーハトーヴはゴールを目指して歩く。
「これ、結構、き、きついね……」
「慣れればこれも良いウォーミングアップですよ! 頑張れイーさん! もう少し!」
 そう応援するリュカシスは確かに疲れた様子を見せない。それは彼は日ごろから鍛えているからだろうし、彼にとってはこのコースもウォーミングアップに事足りないことだろう。
 けれどそんな様子を一切見せない、むしろ楽しそうなリュカシスにイーハトーヴは小さく笑う。リュカシスが不思議そうな視線を向けた。
「いや、ね。こういうの、嬉しいなって思ったんだ」
 大切な友人が自分のためにと協力してくれることが。頑張っている時に隣にいてくれる心強さが。だって、もし1人だったらもうへばってしまっていたかもしれない。
 そんな彼の言葉にリュカシスは笑って、前を見ると「あ!」と声を上げる。何だかんだあっという間にゴール──元の広場へ到着だ。
「お疲れ様です、イーさん! この調子で次のトレーニングもやってみましょうか!」
「ま、待ってリュカシス……ちょっとだけ、きゅ、休憩、していい……?」
 ウキウキと羊皮紙を広げていたリュカシスは振り返った先のイーハトーヴに目をまん丸。おっとこれはいけない、休憩をせねば。
 公園の給水所で水分補給をして、先ほどよりゆっくりと歩きながらベンチまでやってきたイーハトーヴ。急に立ち止まるのもよろしくないのだとか。
 休憩がてら、と2人は言葉を交わす。……とはいっても、主にイーハトーヴが聞き役なのだが。
「見て見て! ボクの武器は! でっかいハンマーです!」
 じゃーん! と取り出したリュカシスの武器にイーハトーヴは感嘆の声を漏らす。すごい。大きい。これを振り回せたらとても強そうだ。
「あとはトゲトゲの盾とか、かっこいい銃とか、色々!」
「トゲトゲの盾?」
 イーハトーヴが思いついたのは怯えるとまん丸くなる小動物、ハリネズミ。あれを武器として持っているとなると……ちょっと可愛い。
「ハリネズミの盾! 可愛くて格好良くなりそう!」
 想像してくすりと笑ったリュカシス。彼の手足や頭のパーツはギフトで付け替え可能だから、腕にハリネズミがくっついているようなデザインになるかもしれない。
「武器を交換するの、色々試せて楽しいんだ。今日はどんなパーツにしようかな、って!」
 どこでどんなパーツを見つけた、あのパーツはとても格好良くてロマンがあって、とひたすら喋るリュカシスの表情は生き生きとしている。まるで散歩という楽しみを今か今かと待つ犬のようだ。
 ひとしきり喋ったら、すっかり体も休まって。
「ねえ、リュカシス。トレーニング、大変だけど楽しいね。自分でも頑張って続けるけど……また、付き合ってくれる?」
「! はい、喜んで!」
 そろそろトレーニングを再開してみようかな、と告げるイーハトーヴにリュカシスは満面の笑みを浮かべる。
 戦うことが苦手だと言っていたイーハトーヴ。大変そうにしていたら、無理強いは良くないと思っていた。
(ですが、訓練を再開されたいと思ったのなら、きっと始める良いタイミングのハズ!)
 まだ、戦うことに必死にならなくて良いと思う。同時に筋トレは楽しいと思ってもらえたら、とも思う。
 だってそうしたらまた、2人で楽しく筋トレできるから。
「それじゃあイーさん、さっきのコースをもう1周してからスクワットしましょう!」
「うん! よろしくね」

 楽しそうに再びのウォーミングアップへ向かった2人の背姿を、オフィーリアはじっと眺めていた。彼女がどんな気持ちを言葉にするのかは──1歩を踏み出したぬいぐるみ作家のみぞ知る。

  • その心に温もりを、そのココロに勇気を完了
  • GM名
  • 種別SS
  • 納品日2020年04月07日
  • ・リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371
    ・イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934

PAGETOPPAGEBOTTOM