PandoraPartyProject

SS詳細

図書館では静粛に。

登場人物一覧

新道 風牙(p3p005012)
天翔る彗星
リンディス=クァドラータ(p3p007979)
夜咲紡ぎ
アカツキ・アマギ(p3p008034)
焔雀護


「お」
「ほう」
「あら」
 見知った顔とばったり。今日のお仕事仲間は、お友達チームになりそうだ。

 瀟洒な建物だ。私設図書館。とあるビブリオマニアの貴族がため込んだコレクションが会員に公開されている。ローレットも団体契約しているので、所属のイレギュラーズも見放題だ。
 それというのも、件の貴族は魔術の心得はないのに魔導書という存在にほれ込んで、財力に任せて買いあさっていたのだ。
 結果、制御を外れた魔導書が大暴れする事態になり、ローレットから日替わりでイレギュラーズが常駐することになったのだ。
 今は、対策もされているので、特に何かが起きるわけでもない。新人の研修や、仕事と仕事の間の小遣い稼ぎの常駐依頼に位置付けられている。

「そういえば、ここですんごい目でにらまれたことがあったのう」
『放火犯』アカツキ・アマギ(p3p008034)がぷふっと笑った。
「アカツキさん」
『レコード・レコーダー』リンディス=クァドラータ(p3p007979)は、決まりが悪そうだ。
「え、何だ、何だ。オレが知らないことか?」
『帰ってきた牙』新道 風牙(p3p005012)が、きょとんとした顔をする。
「風ちゃん、おらんかったか?」
「その後、来たんですよ」
「そうじゃったか」
「何だよ、それ~。二人だけで話すんなよぉ」
「そういえば、風ちゃんは、あの時はお姉さん風ぴゅーぴゅ―吹かせとったな」
 幻想種の神経シナプスは長期記憶領域に特化している。
「だって、どう見たって俺より年下だと思ったんだよ」
「ヒトを見かけで判断するものではないぞ――というより、ウォーカーの常識を持ち込むものではないぞ」
「それなー!」


 少しばかり移動しよう。空間座標はこのままで。
 アカツキがすんごい目で見られ、風雅がお姉ちゃん風を吹かせまくった時間座標まで。

 紙が空気の熱と音を吸収し、ひんやりとインクが香る空間。
 図書館は文明の極み。紙の本が普通に出回る文明レベルでよかった。
の能力は「紙」や「本」や「インク」の概念がオーバーテクノロジーとされる世界では実質無効となりかねない。
 糸に結び目を作ったり、粘土板に彫り込む方式の世界では、普通のお姉さんになりかねない。今のところ遭遇していないが。いないはずだ。リンディスの記憶にはない。
 またあまりにも進みすぎてペーパーレスでも困る。せめて、情緒としての紙本文明は残っていてもらわないと。
「これだけ紙があるとよく燃えそうじゃな――」
 ひっとリンディスは息をのんだ。
 声の主は、灰髪に薄着の幻想種。幼げに見えるが長寿種族だ。それなりの年だろう。子供扱いは失礼にあたるかもしれない。
 2メートルほど離れたところで、一冊の本を持っている。それは続き物の真ん中あたりでとても貴重な――。
 本を質にされるとリンディスは弱い。答えは全部イエスですになってしまいかねない。
 緊迫した空気が伝わったのだろう。
「――やらんが」
 アカツキは、ずいぶん子供に見える異世界人に唇を吊り上げた。
 怨敵認定解除。
 リンディスの反応はよくあることなのだろう。アカツキはクックと喉を震わせた。
「これでも、本を友にして幾星霜じゃ。そういうことはせんから、そう背中の毛を逆立てるな」
 にかにかと、この世界の幻想種にしてはもったいぶらない感情表現。イレギュラーズかもしれない。自分の世界にいながら位相がずれるというのはどういう心持だろうか。
「いえ」
 釈然としないが、本が無事ならそれでいい。としておこう。
「脅かして悪かった。思うに、本と縁が深いウォーカーじゃな? 詳しそうな顔をしている。これについても知っておるか? 背表紙と目があったのじゃがの?」
 リンディスは目を見開いた。物語に関する談笑に誘われている。
 頬に赤みがさしていくのを、火が付いたようじゃ。と、アカツキは思った。
「はい、喜んで!」
 思いのほか声が響いたので、リンディスはパッと自分の口を手でふさいだ。

 図書館では静粛に。


 瀟洒な建物のドアを開けると瀟洒なエントランスホールが待っている。
 受付で『今日のローレット』であると告げると、これまた貴族趣味なたすきが渡される。これをつけて図書館の関係者アピールをしなくてはならない。万が一の時、権威を持った邪魔者を更なる権威で黙らせるためだ。
 支度まで、若干のお時間をいただきます。
 「いや、あの時は、額に穴を開けられるのではないかと思った」
 アカツキ、当時を語りき。
「そんなことない。本を守ろうとは思いましたが、頭に風穴開けるなんて」
 リンディスは顔の前で手を振っている。ふと、砕けた口調で果たすことも増えた。
「穴が開くほど見つめられたという意味だったのに、思いの他バイオレンスな答えが返ってきたのじゃ」
「アカツキにはどう聞こえてんだ? とにかく、危害を加えるつもりはなかったってことだろ?」
 同じ音を聞いていても、あなたと私には別の言葉で聞こえている。そんな混沌。
「まあ、とにかく。そこから妾たちは和やかな書物トークを楽しんだのじゃ。この世界の本も読みこんでいたから話に花が咲いての」
「そうなんだー」
「もう少し相槌に気合を入れよ」
 アカツキにつつかれて、風牙はううんと唸った。
「本はなー。秘伝書渡されたら読むけど、実際やって見せてもらえた方が頭に入るなー」
 脳裏に浮かべているモノに壮絶な隔たりがある。
「実用書以外の本についての感想はないのか。英雄譚とかあるだろうに」
 好きじゃないのか。そういう先人のかっこいい話。
「それも、どうせだったらしゃべって聞かせてほしいなって。その方が臨場感あるし、聞きたいことはさらに突っ込んで聞けるし!」
 リピート機能とインタラクティブ機能の搭載を望む。
「ええい、どこの口伝文化圏出身者じゃ!」
 アカツキがぐがーっと吠えた。長命種にもそういう傾向があり、『実際聞いて来ればいいじゃなーい』という風潮があった。おとなしかったかつてのアカツキ的には、わざわざ出向いて聞くよりは自分の好きな時に読めた方がありがたかったのだ。
「――しゃべったのを書き写せば、みな本ですよ。じきに聞き取り始めますから」
 だから、アカツキはリンディスに足を向けて寝られない。森羅万象を本にして守護する。美しい在り方だ。
「もうすっかり図書館に溶け込んでたから探すのすごく苦労したんだぞ」
 風牙は、図書館中をうろうろしたことを思い出していた。
「あの時は、たすきはなかったし」


 基本、図書館というのは私語厳禁なのだ。
 風牙としては、どうにも場違いな気がしてならない。
 元の世界のならいざ知らず、金縁だったり宝石がちりばめられている、あからさまに高級品ですと言わんばかりの本がこれまた高そうな本棚に入れられているのだ。粗相をしたらどうなるんだろう。
 普通に置いてある本もすごく細かな模様が描かれているんだが、これも触っていいものなのだろうか。
 そういえば、他のメンバーとまだ合流してもいない。
 受付で待っていればよかった。いたたまれなくてウロウロしてたら、「もう、見回りに行かれましたよ」と言われて、慌てて追ってきたが、受付でもっと詳しく身なりを聞いておけばよかった。お嬢さん二人という情報は辛うじてもらったんだが。
 貴族の私設図書館の閲覧者はそう多いわけでもなく、そこに「お嬢さん」がいれば目立つのだが、いかんせん風牙を激しいアウェイ感が襲う。行きやすいラウンジ、本が怖くない感じの所とえり好みして、最終的に分厚い続き物の本が並べてある所で「お嬢さん」二人がふわふわのソファにから場をうずめるようにしてきゃっきゃとおしゃべりしているのを見つけたときは涙ぐみそうになっていた。ゴールだ。ここがゴールだ。
 風牙は自分よりちょっと年下な女の子二人がむつまじくしているのは微笑ましく思えた。が、手分けして、図書館の中を歩き回るのが仕事なので、座っちゃっていてはいけない。と、思った。年長者として注意しなくては。知的種族が一種類しかない世界出身者によくある傾向と言える。見た目と中身の成熟度は個人によって異なる。
「今日はローレットの仕事で来たのか? あ、俺は風牙って言うんだけど――」
 ぶっきらぼうにならないようには注意した。
「ええ」
 リンディスです。と名乗った実直そうな黒髪の子が頷いた。
「そうじゃ。お前、見当たらなくなったって言っていた三人目じゃな」
 アカツキじゃ。と名乗った灰色の髪の勝ち気そうな子が、ふむ。とうなずくと立ち上がった。
「打ち合わせ抜きですれ違ってはいけないからな。ここで待っておった。迷子になっていなくて何よりじゃ」
 時間通りにいるべきところにいなかった手前、風牙としては強く出にくい。
 だが、遅刻してないし、迷子じゃない。断じてない。風牙的には。オレは一人目なのだ。先に来ていたんだから。

 図書館では静粛に。


 ほどなく受付でたすきが渡される。
「たすき。やっぱり目立つよね」
 風牙は物理職なので赤い。
『図書館の守り手はすべてに優先される』と格調高い図案で、どんな節穴にも見えるようでかでかと刺繍されている。
 これで勲章でもついていれば大綬章だろうが、残念ながらついていない。
「だが、ないと面倒なのは身に染みとるからのぅ」
 アカツキは攻撃魔法職なので黄色。
「わかってない権力者ほど面倒なものはありません」
 補助系のリンディスは緑が基調。
 ふつふつと沸き上がる何かをお持ちのリンディスはすっと腕を通した。
「黙らせるためならなんだって付けます」


 今考えても、あの日は厄日だった。
 ろくでもない来訪者が三人もいた。
「恐れ入ります。魔導職でない方のページ閲覧は司書立ち合いになります!」
「契約者を勝手に書き換えるのは、利用者規約違反じゃ。魔導士ならいって聞かせる程でもなかろう?」
「えっと。飾りの宝石かっぱぐとかありえないよな!?」
 なんというか「エレガントに欠ける」利用者というのは、様々にろくでもない。
「なにもんだって図書館のヒトだよ!」
「小娘が偉そうに? 汝が洟垂れ小僧の頃、妾はすでにこの姿じゃぞ」
「図書館から管理業務の一部を正式に委託されております」
 「エレガントに欠ける」利用者は往々にして「責任者を呼べ!」と、大声でまくしたてる。
「良かろう、では、奥にご案内しよう」
「じゃ、責任者に来てもらおっか」
「それでは、管理責任者に通報させていただきます」
 そして、「エレガントに欠ける」利用者は、旗色が悪くなると逃走を図るのだ。
「なんといったか、ふ――風牙! その――飽食に身を任せた紳士を取り押さえろ!」
「えっと、リンディスちゃん、そいつ、飾りの宝石泥棒!」
「アカツキさん、その人、魔導書の扱いがなってません!」
 一般人など、制圧するのに何の苦労があろうか。
「エレガントに欠ける」利用者が臨時職員が職員に見えないのが問題だなどと供述したため、どんなバカでも一目瞭然のタスキが導入されたのだ。
「能ある鷹は爪を隠すものだから、能ナシにはわかりづらいのね、ごめんあそばせ。の精神です」
 と、図書館の偉い人は語った。ローレットは、その提案を受け入れた。


 図書館巡回開始。
「思い返しても、あの腕のひねり上げ具合は鮮やかじゃったのう。風ちゃん、突っ込んでいく女子だから」
 アカツキは、その後しばらく年齢三桁なことを伏せていた。年下だとは言っていない。あくまで伏せていただけだ。
「年上ってわかるまで放置してたこと、絶対忘れないからな」
 事が明るみに出たときの風牙の叫びは凄まじかったという。
「ごめんね。実際先輩だし、言いにくくって」
 リンディスは申し訳なさそうだが、自分の年齢を黙ってたので同罪である。
「いいぜ。後輩なのは変わりないし。二人とも年上っていう割には頼りないしな」
 15歳のすねながらの開き直りはなかなかメンドクサイ。
「アカツキは、なんだかんだいって箱入りお嬢だからな」
「ぐ」
 事実なので、否定できない。今日までの付き合いで家から出奔してきた経緯は知れている。
「リンディスだって、はっきりものを言うのは本が絡んだ時だけだし」
「そんなことはない……よ」
 どちらかというと、世話を焼く方だと自負している。先輩風ぴゅうぴゅうの風牙だって相当おやばい局面がある。女子力が必要な局面は性別不明にも襲い掛かるのだ。
「ほんとか? でも、押しは弱いよな」
「弱くない。ちゃんと、言うことは言ってると思う」
「そっか。でも、心配だからな!」
「どちらかというと、私の方がお世話してるよ」 
「そうじゃな。風ちゃんのふっ飛んでった後に後詰するのは妾達じゃからな」
「そう。きっちりお世話を焼かせていただきます。年上だから!」
「あのな。二人ともな」
 コホン。美しい咳払いがエントランスに響いた。受付でお姉さんがほほ笑んでいる。
「図書館では」
 ――静粛に。

  • 図書館では静粛に。完了
  • GM名田奈アガサ
  • 種別SS
  • 納品日2020年03月27日
  • ・新道 風牙(p3p005012
    ・リンディス=クァドラータ(p3p007979
    ・アカツキ・アマギ(p3p008034

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