PandoraPartyProject

SS詳細

幼年期の終わり

登場人物一覧

メープル・ツリー(p3n000199)
秋雫の妖精
ツリー・ロド(p3p000319)
ロストプライド

 サイズ。
 カメラ、充電しといてね。
 3月14日、約束したろ。一日だけ好きにしてくれていいってさ。
 お願いだよ?

「……ああ、書いちゃったな」
 これで220通目。何時ものように、もう夫婦間の交換ノートになっちゃったお手紙の最後にサインを描いて、私はため息をつく。
 私がイレギュラーズとして召喚されて、友達から恋人に、そして夫婦に。妖精郷の中では数年なんてあっという間だったのに、今では季節が巡るのがゆっくりに感じるのは幸せだからだろうか。
「ホント、いよいよダメみたいだな私」
 すっかり惚気ける事しかできなくなってしまった自分の頭をぽかぽかと殴りながらサンルームにも近い自室の窓の外を眺める。すっかり雪が溶けて、月の下では幻想らしい春模様が広がっていた。冬の終わりも重なって、私はどうかしてるんだろう。
 秋が好きな変わり者だけど、春が好きじゃないわけじゃないからね。
「もう、寝よ」
 一際大きなため息をつくと私はベッドに潜り込み、瞳を閉じた。
 堂々巡りの思考に陥らない様、何も考えずに。

●3月14日
 その日にやることはあらかじめ決めていた。珍しく朝早く起きて、髪を整えてリビングに向かう。
「おはよう、メープル……」
「おはよ、サイズ♪ 今日は1日好きにしてもらっていいんだよね?」
 ソファーに座って私を見上げるサイズに私は手のひらをふって挨拶する。サイズったら顔を赤くして、カメラを抱えてるから面白いったらありゃしない。前にデートの時に練達で買ったデジタルカメラだ。
「準備はばっちりだよ、何枚でもいける」
「よろしいよろしい、そうこなくちゃ話にならない!」
 一応画面を覗いて見たら電池のマークは満タンだ。
「じゃあ、今回のデートのお題を言いましょう、それは! 春も来たしメープルちゃんの撮影会だ!」
 無言のサイズ。なんだかノリ悪いなあ、緊張しちゃって。しょうがない奴だな。
「何か気づいてるみたいだけど……私も腹くくったんだ。わかってんならなおさら乗っときな」
「あ、ああ、そうだな……楽しもうか、メープル」
「それでよし! じゃあ、善は急げだ!」
 だって1日に使える時間は短いから、ね?
「思いついたこと全部やるからサイズもなんか言って見てよ!」
「あ、ああ」
 サイズを振り回して好き勝手するのもいつぶりだろうか。
 寝たふりしてお部屋のベッドで撮ったり、植木鉢の木々とお話して見たり。
 カメラのタイマー機能を使ってサイズとパジャマ姿で抱きしめあったり……料理をしてる風にエプロン着て見たり♪あとはあとは……服をいっぱいいっぱいおっきなスーツケースに詰め込んで。まだちょっと肌寒い幻想の街中のデートスポットに駆け出して、馬車や樽に座って妖精らしい写真を残す。ああ、被写体は勿論全部私だよ? サイズはまた今度撮ってあげるからね?
 途中、空中神殿に立ち寄って驚いた様に1枚。召喚された時のイメージだよ。ああ、今でも思い出すね……670年くらい生きてきてマジで死ぬかと思った時に飛ばされたんだった……そしたらサイズが偶然すごい顔してこっちをみててさ……はは、ここでこんなことしてる場合じゃ無いか、今日だけだから許してよね。
「……サイズ、ここでまた水着でも着よっか? 勿論キミが選んだ――」
「いい、いい、あの水着は十分撮ってるから……」
 なんて言っても私が好きにする日だから逃がしてあげない。海洋でサイズの選んだえっちな水着もバッチリ残してもらうから。でも時間がないってすぐ鉄帝に逃げられちゃったね。夏心地から一気に冬は我ながら無茶な計画だと思って震えながら冬服で一杯雪景色の中遊んださ。シャイネンナハトのこと思い出すな……
 あんなに燃えちゃったのに深緑もすっかり新しい芽吹きで元気一杯だ、寄ったついでにあそこもいかないとね。二人ならそんなに時間はかからない深く森をかき分けて、30分もしたら昔より早くあの開けた森の中の空間に辿り着いた。
「御神木様は……すっかり元気だね、ふふ、応援しとけよな!」
「メープル、何を話して……」
「ひみつ♪」
 大きな木に見守られる様にあるまるで空を反射したかの様な透き通る空色の泉――妖精郷と深緑を繋ぐ隠し道の一つだ。私がサイズとの恋に落ちてしまったあの場所、泉の底にある緋色の迷宮はもう行くことはないだろうけど、せめてね。すっかり元気になった御神木様の枝に乗ってる姿をお互いに映したり、ついていた木の実を一緒に食べる姿を残していった。
「あの時ははた迷惑な妖精と思ってたけど……」
「今もだろー、こうやって振り回してるんだからさ、ふふ!」
 初めてサイズに会った、あの日、あの場所を思い出しながら……思い出話に花を咲かせる。
「妖精郷も行くか?」
「勿論、一回通りすぎて次に行くけどね! 次はラサだよ!」
 また来るね、と声をかけると……私たちは泉に勇気を出して飛び込んで次の国へと急ぎ続けた。
「見てみて、ウェスタンハット~♪」
「ごきげんだな……」
 黄昏時には覇竜の荒野で星空を眺めながら風景を収めていく。闇市で買った妖精サイズの衣服を早速試着だ。危険かもだけど今のサイズと私なら余裕だし? 邪魔はさせないよね。日が傾いたって沈んだって突然のワイバーンが来たってメープルの1日はそう簡単には終わらない!
 練達、再現性東京のアーケード街近く。サイズと良くデートに行く所さ。私に限らず妖精ってのは機械にクラクラする生き物だけど――それでも私は大好き! エネルギー砲とかすごい戦車とか特に好きだけど、流石にそんな物は私も持てないし扱えないから……代わりにマイクを持って可愛らしく道路の前でいっぱいの車とアーケード街の入り口と一緒に制服を着て夜景で一枚!
「あ、どうしよ? P-tubeの更新撮り溜めもっとしといた方が良かったかも!?」
「メープルは精霊種だから何あっても大丈夫だと思うけど……」
「ど、どうだろ……映像越しでも通じるのかな……?」
 ま、いっか。その時考えよ。
 豊穣と言ったらお祭り騒ぎ! こんな時だからこそ最後にはしゃごうと夜までお祭り騒ぎする人たちが居たりするものだよね。私の読み通り、おっきくはないけど海洋からの仕入れ物や色々な出し物を売る屋台が並んでお祭り騒ぎしてる所があったのだ!
 浴衣に可愛らしいポニーテール。ふっふーんとご機嫌な感じで一枚パシャっと頂いちゃったよ?
「いやぁ、ホントメープルちゃんは美少女ですなー?」
「なんだその口調……まぁ、可愛いとは思うけど」
 天義では旅行っぽく聖堂とか神殿とか一杯撮って回ったよ。夜の大聖堂も意外と悪くないもんだろ? サイズ。
 最後は妖精郷。私とサイズのお城になる場所で、手を取り合って一枚お友達に撮ってもらう。サイズはタキシードで、そして私は3年前の誕生日にサイズから貰ったドレス。ああ、あの時は思わせぶりな事ばかりするからムカついて酷い事しちゃったな、私に素直になる呪いだったか。ホントにキミは妖精に弱いんだな、すっかり素直になりすぎちゃって。そんな微笑まれたらこっちだってにやけちゃうだろ。
「……次はどこ行こうか、メープル」
「どこにも行かないよ」
 カメラの電池もそろそろ限界だ。お友達が写真に悪戯をしてない事を確認して、私は電源を切ってケースに仕舞う。もう、撮影会は十分楽しんださ。服も全部着た。写真もいっぱい撮った、だから。
 
 最後の1着をスーツケースから取り出して見せると、サイズが息を呑む。
「後で思い出して後悔するくらいでちょうどいいさ……その方が忘れない」
「やっぱり、メープル」
 それはちょっと恥ずかしい、大きめの民族衣装。私の欲望の象徴、オトナの姿のための……普段着。
 ぎゅっ、と抱きしめられて、一息……と、そこで友達が近くにいるのを思い出すと、恥ずかしそうにお礼を言って、手を振った。
「ありがと、二人きりにしてもらって、いいかな」

 サイズの魔力と混沌証明と、あの人に追いつきたくていっぱい修行をして。
 私は妖精の身には余る魔力を宿してしまっていた。
 それでも普段は自分の周りに纏ってみんなと同じフェアリーの姿で居続けてるけど、今の本当の私は。
「サイズ……」
 その体液は甘い毒、啜った相手を欲求に素直に作り変える。
 サイズは妖精の血に染まった鎌、私がその先端を握りしめてやれば、傷口から流れる血で私の翅のような鮮やかな橙に色が変わっていく。……痛くないって? 今更だよ。
 妖精メープルの、一番おっきな悪戯。大好きな人を、えっちなサテュロスオトコノコに作り変える儀式。
 変化したのは、私もか。
 大きな背丈はあの人と並んでキスできるように。
 大きな胸は、色々押し付けたりして揶揄ってやりたかったから。
 大きな翅は、サイズにとっての女王様である事をみんなに教えたかったから。
 二人きりの暗い部屋で、唇を重ねて、体を絡めて。


 いつもの様に夫婦の愛を確かめ合うけれど、今日は違う。何時もより熱く、激しく、そして大切な一夜にするのだと。
「朝、ストップしたの、もう言っていいよ」
「うん……」
 今の私は大好きな人の子供を宿す事のできる。大きくてえっちな森のニンフ、ドリアード。
「誕生日、おめでとう……メープル」
「ありがと、サイズ……それと、私も……」
 心臓がバクバクと跳ね回る。掠れた声で、やっとの思いで。
「……『私をお母さんにしてください』って、大事なこと、恥ずかしくて言えなくて、ごめん」
 けど、その答えは怖くて聞けなかった。初めてニンフの色欲に逃げちゃった。
 サイズの手首を掴んで、自分の大きなムネに当てがわせて……あとはお好きなように。
 大きくてふかふかのベッドで踊って、踊って、日が登り続けるまで、ううん、登っても踊り続けた。
 それでいいさ、こういう生き方をするって決めたんだから――

 何日も何週間も過ぎ去ったかのように感じる濃密な1日は、こうして終わった。
 けれど現実はこれからも続いていく、厳しい世界の終わり、最後の戦いへと向かって――
「……ムネって、大きくても邪魔なもんだな、はは」
 朝、背伸びをする私のカラダは大きなままだった。
 今まではデートの後はチカラが抜けたようにフェアリーの姿に戻っていたけれど、大きな40cmのニンフ、ドリアードの姿のままだ。
 その気になれば戻れるだろう、いや、ホントは戻らないといけない。踊り続けたサイズの魔力は何日か何ヶ月かはわからないが……このままニンフの姿で居続ければそのうち私の魔力と混ざりきって、新たな意思を持ち始めてしまうだろう。そうなったら今度はフェアリーの躰に戻れなくなるだろう、数年か、数十年は。
 ……ダメだ、頭が幸せすぎて結論が出ないや。後で考えよう、猶予はあるんだし……
「やぁ、サイズ、キミは相変わらず早起きだな?」
「メープル、おは……うぶっ!?」
 サイズを両腕で抱き締めて、そのひんやりとする頭をぎゅぅっと胸の奥深くまで埋めてやる。サイズサンドイッチだ。
「そういえばこれも約束のうちだったね?」
「っ?!」
 サイズには激しい鼓動の音が聞こえているだろう、正直不安と興奮で頭がぐるぐるしてる。このまま取り返しがつかないまで変身し続けていいのだろうか。数日したらやっぱり酔いが覚めて慌てて戻るかもしれないけれど……今はこのまま抱きしめていたい。
「なぁサイズ。やっぱりキミにはカルマなんて向いてないよ、私の方が業が深いし」
 観念したかのように挟まれながら私の体を抱きしめるサイズの耳に、身も心もニンフに成り果てたの妖精は優しく囁いてやるのさ。
「私も観念したさ、全部終わったらもうツリーでもなんでも好きな名字を名乗るといい」
「うん」
「そんでさ……あの人といっしょに、皆で幸せになろう、ね」
「……うん」
 何いってんだろ。まだホントに決めたわけじゃないのに。不安と恐怖で頭がぐるぐるしちゃって先走っちゃって。シラフにもどったサイズに冷静になろって絶対言われるよね。今回ばかりは流石に私が悪いな、行くとこいっちゃったらサイズも満足して全力で戦いにいけるかな、つって。本当に恋愛沙汰になると先走ってわけわかんなくなっちゃうな、だめだめな私。
 はは、まぁいいや。お説教は後でちゃんと受けよっか。
 今はこのまま満足するまでずっとずうっと、サイズを抱きしめていよう――

 ハッピーバースデー、メープル

おまけSS

 拝啓 ファレノプシス様、歴代の女王様、混沌に生い茂るすべての友達へ。
 驚くでしょうけど私は結婚しました。相手は異世界の妖精鎌、サイズ。
 ちょっとネガティブだけどとても器用で頭が良くて優しくていい妖精です。
 この魔力尽きるまで、あの人を支えて、あの人の魔力を混沌に継いでいきたいと思います。
 もう少し、に行くのは遅くなります。
 それまでどうか、お元気で。
 敬具

 追伸
 すぐかはわからないけど、一人目の子供の名前はメイス・ツリーにするつもりです。
 ちょっと変ですけど愛らしいなって思います。
 でもなんだろうな、私とサイズの子なんて、元気で落ち着きがなくてお人よしになっちゃいそうで……別の世界に迷子になっちゃいそうかも!下手したら困ってる人助けて数年帰ってこなくなりそうかも!なんてなんかおっかないなぁって思っちゃうんですよね。
 ちょっとお母さん、今から心配です。そうなってもいいようにいっぱい甘やかしてあげないと。
……ん?迷子にならないようにしっかりした方がいいのかな? ごめんそれっぽく書こうとしたけど私無理!子供持ってる妖精なんて滅多にいないからわからないよー!?

 楓の木の精メープル・ツリーより


「……手紙か? 何書いてるんだメープル……」
「やーーー!? みないでーーー!?」


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