PandoraPartyProject

SS詳細

義兄様お見合い事変

登場人物一覧

星穹(p3p008330)
約束の瓊盾
ヴェルグリーズ(p3p008566)
約束の瓊剣

「兄が、会う約束がしたい、と」
 何気なくそう言った星穹に「義兄上が?」とヴェルグリーズは問うた。子供達はすやすやとお昼寝中である。
 天義の騎士団に居る兄、星涙セナは多忙だ。練達では余り馴染みのない名前だろうかと気を遣った兄が星穹と同じく和名を当て嵌めたのは幼子達との初めての顔合わせの時だった。
 ぐったりと泥酔していた兄は目が醒めてから醜態を晒したと落ち込んでいたが、直ぐに気を取り直して良き叔父として振る舞った。
 セナ・アリアライトは根っこの部分は非常に真面目で繊細だ。強かではあるが、その境遇故に何処か頼りなさげに感じる部分もある。
 現在はと言えば、そうした弱さをかなぐり捨てて何かあっても妹や家を守ると願っている。アリアライト家も此れならば脈々と続いていくだろうと噂されるほどに――その前に、兄が結婚し、子を成す必要性が出て来たことに気付いてから星穹は取りあえずは知らない振りをした。アリアライト家を継いだのは恩義でもあったのだろうが、今現在の兄はどう考え居てるだろうか。
 星穹が何か考えて居る様子であったがヴェルグリーズは暫くその百面相を面白おかしく眺めて居たが「星穹」と呼び掛けて、一先ずは彼女の思考にストップを掛けた。
「ここまで来るのかい?」
「あ、いいえ。此方に来ることが出来れば一番だったようですが……それも叶わず。
 この時勢では天義から離れる事が出来ないようで。兄はアリアライト家の後継者問題とも向き合っているようで……」
「ああ、後継者……。義兄上は養子で貰われていってアリアライトの家督を継ぐのだったね。その後継者が必要になるのか」
「はい。どうやら兄の養父達は、兄が当主として何処かの貴族令嬢と縁を結び、子宝に恵まれ、脈々と家を継いで行く地盤を固めることを望んでいらっしゃるそうで……」
「……当の義兄上は?」
「……あまり、考えて居ないようですわ。何せ、死別したと思っていた実妹と再会したばかりですから」
 成程なあとヴェルグリーズは呟いた。それはそうだろう。歳が幾許か離れた実妹は不運な出来事に見回れたが、彼が命辛々逃がしたのだ。
 しかし、その後死別してしまっただろうと思い詰めて過ごしてきただろう。アリアライト家に引き取られてからも家族という存在にいまいちに身が入らなかったのはその為だ。
 ヴェルグリーズも後々になれば調べを付けてはいるが、星穹の両親は魔種となり、二人閉じた屋敷で暮らしている。現状で悪意があるわけではないため対処を行っていないだけだが――それを天義に棲まい、騎士団員として活動して居たセナが知らなかったわけが無い。
(屹度、義兄上は両親が反転し不倶戴天の敵となった事を知っていた。天義では魔種とは大いなる災いの象徴であり許されざる悪そのものだそうだから。
 ……その上で妹は行方知れず。死別したと認識していなくては心は軋み続けただろうな。それが、今だ)
 偶然の事ながら特異運命座標として教皇猊下の要請を受けてやってきた星穹との再会を果たしたのだ。
 何処からどう見ても美しく成長した妹。その姿は流石は兄弟というだけあって良く似ていた。セナは「まさか」と思った事だろう。他人の空似とも感じた筈だ。
 それでもの呼び名が彼にとって決定的に妹である事を思い知らしめた。大切に守ってきた妹は自身よりも前線に飛び出し、傷をも厭わぬ強さを持っていた。その上で、相棒だと男性を連れて遣ってきた。実子ではなく精霊に分類されるが、子が二人居るとも告げた。
 兄の脳はパニックだっただろう。セナの気持ちを考えればヴェルグリーズは「後継者を求めるからお見合いをなさい」と言われたセナがその気にならないのも良く分かる。
「義兄上もパニックだろうから、落ち着く時間を与えてやりたいね」
「……まあ……」
 その要因である自覚があった。星穹はどこか困った顔をしてみせる。未だ、兄妹と言えども離れていた時間が長いために二人の間にはぎこちない空気が流れることがある。
 セナは星穹を当時のように可愛がって遣りたいとも思うが、彼女が一人前のレディとなってしまった今にはそう易々と距離を詰めれるものでもなかったのだろう。
「お見合いは直ぐにしなくてはならないのかな?」
「どうでしょう。……けれど、執拗に時間を指定してきていましたもの。子供達を預ける予定は立てましたけど」
「もしかして」
「ええ、もしかしなくても」
 二人は顔を見合わせた。セナは騎士団から無理に押し付けられたお見合いに臨むタイミングで敢て二人を呼び出したのだろう。援軍のつもりなのだろうか。
 星穹は肩を竦めて「もしも良い方だったら兄には縁談を進めるように進言しましょうか」と嘆息した。
 それはそれで「セラスチュームが言うのならば」なんて言い出しかねないのがセナだ。彼は人を見る目を養った方が良いタイプだと認識している。懐に一度入れてしまえば信頼が厚いのだ。ヴェルグリーズが良い相手だろうと褒め囃せば「ならば少しは話を進めようか」なんて言い出してしまうお人だ。
「……星穹、慎重に行こう」
「どうかなさいましたか?」
「いや、義兄上のことだから、此方の発言を真に受けてしまう可能性がある。
 色々とあったから、屹度今は判断能力が鈍っていて他人にも判断を仰ごうと俺達を呼んだ可能性が十二分にあるだろうから」
「まあ、確かに。は少し抜けていらっしゃるというか、世間知らずというか、人を見る目がないというか……。
 重たい荷物を無理に背負い込んでどうにもこうにも、ええ、にっちもさっちも行かなくなってから困ったと項垂れるタイプのようですから」
 それは天義の一件でよく思い知った。そんな妹と義弟は早速天義に向かう事とした。

「来てくれたのか」
 安堵を浮かべて微笑んだセナ・アリアライトその人は騎士の正装を着用して居た。ヴェルグリーズはそうしてみれば星穹と良く似た青年なのだと理解する。
 黒衣を着て騎士然としていれば星穹と雰囲気は大きく乖離して見えたのは彼が難しい表情をして居たからだろうか。
「……ヴェルグリーズ殿?」
「呼び捨てで構わない、義兄上」
「では、ヴェルグリーズ。どうかしただろうか」
「義兄上は星穹と似ているのだなあ、と。笑った顔がそっくりだった」
「そ、そう、だろうか」
 照れている。兄は嬉しそうにはにかんだが星穹はなんとも居心地の悪そうな顔をして「まあ、兄妹ですもの」ともごもごと言った。
 そんな二人の様子が実に愉快になってしまってヴェルグリーズは小さく笑みを漏してから「本題は?」と問うた。
「……実は、見合いの話が来たんだ。おれ――……私は人を見る目がなくてだな。
 いや、特に此れは責任重大だ。自分が女性に手酷い仕打ちをされるのはどうとでも良いんだがアリアライト家ともなれば、しっかりとした女主人を宛がいたい」
「そうですね。アリアライト家は貴族ですし、それなりの領地もありますもの。兄様が管理をする暇がないというならば女主人に任せるべきです」
「そうだろう。だから、婚姻を勧められたのだが、それも考えられなくてだな、うん……。
 星穹とヴェルグリーズがアリアライト領に来て、此方で生活してくれれば、問題は無いのだけれど……跡取りも、なあ」
 もごもごと言う兄にそちらが本題かとヴェルグリーズは呟いた。アリアライト領で一緒に過ごし余生を貴族として過ごしてみてはどうかと提案したかったのだろう。
 星穹は貴族の家系だ。と、言えど家門は没落している。それは兄であるセナも同じくではある。
 己のルーツがある国で、新たに養子として得た貴族一門を共に継いでいかないかという提案なのだ。
 その中で障害には出会うはずだ。特に両親のことは親しく、打ち解ける相手と共に問題を解決していきたいとセナは考えても居たのだろう。
「それは……」
「無理にとは言わない。考えて居て欲しい。兄の、なんとなくの気紛れだと思ってくれて構わない。
 何時の日か私も婚姻を結ぶだろう。そうすれば二人に重責を背負わせることはないし、アリアライトの一族として貴族の恩恵だけを享受してくれれば良い。
 領地に居ろとも言わないし、練達で過ごして貰って構わない」
「兄様」
「……な、何か」
「はっきりと仰って」
 お見合いの話を逸らし、星穹とヴェルグリーズのこれからばかりを口にするセナに星穹は眉を顰めた。
 拗ねた様子の妹の表情にセナは「ええと」と口籠もってから息を吐く。つまりは、言いたいことは単純だったのだ。
「また、星穹と家族になりたかった。星穹――セラスチュームとは血が繋がっているが、喪った時間が多かった。
 すると、相棒と言って愛しい人を連れてやってきて、子供達も血は繋がって居らずとも居るのだという。なんだか、寂しかったんだ。
 兄は家族をあまりに知らなかったのだから……子供染みた提案ですまないとはおもっているが……」
「兄様……」
 そう言われてしまえば全てを否定する事はできなかった。星穹は「大事に思って下さっていることは嬉しく思います」と穏やかに返した。
「ですけれど、全てを決定することは容易ではありません。私達が兄様と共に過ごすにしたって、兄様がアリアライトの家門をどの様にしていくかだって、この場で決めきることはできませんでしょう?」
「それは、まあ、そうだ」
「ですから、今、向き合うべきは――」
 星穹はレストランの入り口をちらりと見た。シンプルなワンピース――決して安っぽいものではない。しっかりとした仕立てのものだと良く分かる――を着用した女性が立っている。
 ヴェルグリーズがちらと星穹を見れば彼女は頷いた。どうやら見合いの相手なのだろう。金の髪を結い上げた大人しそうな女性だ。
「それでは、兄様」
「アリアライト卿、妹様ですか?」
 嫋やかな女性に声を掛けられてから星穹が固まった。ヴェルグリーズが驚いたように振り向けば金髪の女性は「ご機嫌よう」と笑う。
 エレオノーレ・オブリと名乗った彼女は聖騎士を輩出する家系の末妹にあたるらしい。それ故に騎士団経由でセナに一度の顔合わせを、と声がかけられたのだろう。
「あ、ああ。妹のセラスチュームだ」
「ご機嫌よう、オブリ嬢。セラスチュームと申します。アリアライトの姓は名乗っておりませんが……」
「イレギュラーズの方ですよね。ご活躍は意見しておりますわ。其方の方もイレギュラーズなのでしょう?」
「ヴェルグリーズです、オブリ嬢」
 恭しく、基礎の社交を弁えている様子で話す二人を見てからセナは「私もしっかりせねば」と考えたのか表情が硬くなった。
「突然の縁談で申し訳ありません。アリアライト卿のご活躍は耳にしておりました。
 これで直ぐに婚姻をと言うわけではありませんのよ。ただ、友人になれればと思っただけですもの。ですから、そんなにも緊張なさらないで」
 くすくすと笑ったエレオノーレは穏やかな紫色の瞳を細めた。星穹とヴェルグリーズが受けた第一印象はだったのは彼女の立ち居振る舞いが完璧な淑女だったからだ。
 淑女教育を施されて生きてきた貴族令嬢は聖騎士の兄弟に揉まれて育った為、生来の性格的には快活で明るい人なのだろう。その様なエピソードを交えて話すエレオノーレは「わたくしも冒険などをしてみたくて、お二人に話を聞いても宜しいでしょうか」と星穹とヴェルグリーズに話を振ったのだ。

 エレオノーレとの歓談と食事を終えてから二人はセナを見た。
 本当に善い人だった、というのが第一印象。その次に、善い人だった――けれど、どうすればいいのか分からなかったというのが次のフェーズだ。
 特段そうした関係性を望んでいるわけでも婚姻を急いできたワケでもなかった。だからこそ、友人からならばという考えに至ったのだろう。
「善い人でしたわ。それともエレオノーレ様との縁談はなかったことにしてまた次のお見合いにのですか?」
「……いや、それならばオブリ嬢とご縁を頂き友人として親しくなっていきたいとは思うのだが……」
「まあ、どちらかといえばあの人は冒険者になりたいタイプだったからイレギュラーズが身内に居るのがポイントが高かったのだろうね」
 揶揄う様子で言ったヴェルグリーズに「兄ではなく妹と婚姻を求めそうな人だったなあ」とセナはか細い声で呟くのであった。
 まだまだ彼の気苦労は耐えないのだろう。


PAGETOPPAGEBOTTOM