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宵闇彩花
登場人物一覧
ひょうきんな音楽に、人々の雑踏。それと、はしゃぐ声。それから、それから。
「わぁ……!!」
ぱぁぁ、と表情を綻ばせるイーハトーヴ・アーケイディアン (p3p006934)へ、すかさず『人にぶつけないようにね』と釘を刺す可愛らしい声。
うん、もちろんだよ。なんて返しながら頷けば、目の前の店員が少し不思議そうな視線を彼へと向けた。
大切な家族の声は自分以外に聞こえないけれど、大切な家族だからその言葉を無視なんてできないし、なにより理解のある友がいるから多少の視線など気にならない。
「あ、いた。イーハトーヴ――」
「シャルル嬢!」
背中にその『友』の声を受けて、イーハトーヴはくるりと振り返った。両手で持った、超特大のわたあめがふわふわと揺れる。
彼の体で隠れていたそれを目にして、シャルル(p3n000032)は明らかにギョッと目を剥いた。だいぶかなり大きい。思っていたよりもずっと――イーハトーヴの顔なんて余裕で隠れてしまうくらいに。
道ゆく人々が手にしていたそれは、持ち歩けるほどに食べた後のものだったから、想定外であるのも当然なのだが。
「……大きいね? それ」
「あっこれ? そうなんだよ、見ていたらあっという間に大きくなっちゃって……!」
様々な色が絡まり合って、一つになる様はよほど楽しかったのだろう。目を輝かせて語る姿にシャルルは小さく笑う。
彼が良かったのなら、こんな想定外も良いものなのだ。
「シャルル嬢、少しだけ先に味見してから行こうよ! ほら、他の人も道端で食べてるみたいだし」
示された先では道の端で邪魔にならないようにぽつぽつと、浴衣を着た人々がわたあめを摘んでいる。そこへ混ざった2人は運良く空いたベンチへ腰掛け、早速わたあめの消費に取り掛かった。
「口の中があまい……」
「ふふ、わたあめだもの。……あっ取りすぎちゃった」
手がベタベタだ、とイーハトーヴがわたあめを口にしながら呟く。あとで2人とも手を洗いに行かなければ。
落ち合わせた当初はまだ明るかった空も、宵に近づくにつれ藍に染まっていく。暗がりで見れば煌めく星々も、祭りの明かりと熱気で今は遠い。
「シャルル嬢は、気になる屋台あった?」
「んー……射的とか? あと金魚すくいも楽しそうだった」
わいわいと賑わう場所には目がいくもので、子どもたちが入れ替わり立ち替わりにやってくる姿だけでも面白かった。そんなものを眺めていたから、イーハトーヴと逸れてしまったのだが――あらかじめ行き先を聞いておいて本当に良かった。
「どっちも楽しそう! わたあめを食べ終わったら行ってみようか?」
「あ、でもうまくできるかわからないし、金魚なんて仮に取れても飼えないし」
せっかくお金がかかるのなら、ちゃんと何かが残るほうが良いのでは――なんて考えていたシャルルに、イーハトーヴがにこりと笑いかける。
「そうなったら一緒にどうやって飼ったらいいか俺も調べるよ。うまくできなくったって、楽しいことが大事だと思う。あ、もちろん、本当にやりたくないのなら無理には言わないけれど……!」
途中からアワアワと言葉を付け足すイーハトーヴに、シャルルは目をぱちくりと瞬かせて、それからくすくすと笑う。
「……ふふ、うん、そうだね。楽しいのが大事だよね。もし金魚がとれたら、皆で一緒に考えてくれる?」
――とれたら、の話だけれどね。
シャルルの視線を受けたオフィーリアが、小さく呟きを落とす。唯一それを拾えるイーハトーヴはにっこりと笑って。
「もちろんよ、だって」
「それは安心だね。じゃあこのわたあめを食べ切ったら行こうか」
「うん!」
傍でそんなこと言ってないじゃない! なんてプリプリ怒る声が聞こえるけれど、ストレートに嫌だと言わないのなら彼女はちゃんと考えてくれるだろう。素直ではないけれど、面倒見の良いおねえさんだから。
季節は夏から秋への移ろいを見せているけれど、まだ祭りの終わる気配はなく。暫しもすれば、夜空に祭りの思い出を彩る大きな花が咲くことだろう。
- 宵闇彩花完了
- GM名愁
- 種別SS
- 納品日2023年09月15日
- テーマ『『Orange Summer』』
・シャルル(p3n000032)
・イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)