PandoraPartyProject

SS詳細

その姿は空の上

登場人物一覧

ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
大樹の精霊

 幻想国王都、メフ・メフィート。この季節にしては暖かい日だ。
 公園へやってきたヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)ははぁ、と息を吐く。白くならないそれに「今日は随分と暖かい日ですのね」なんて呟いたりして。
「ヴァレーリヤ君、お待たせー!」
 後ろから聞こえてきた声にぱっと振り向けば、イレギュラーズとなってからのお茶飲み友達であるアレクシア・アトリー・アバークロンビー (p3p004630)がぱたぱたと駆けてくるところだった。そんなに急がなくてもいいのに、と零せばヴァレーリヤの背中が見えたからと眩しい笑顔が返ってくる。
「今日は頑張ろうね、ヴァレーリヤ君!」
「ええ、絶対に空を飛びますわよ!」
 頷いたヴァレーリヤが空を仰ぐ。いざ行かん、あの空へ。

 発端はいつものようにお茶を飲もうとしていた時だった。
『随分と高い所にありますわね。アレクシア、もしかして空を飛べたりする?』
 マスター不在の折に『2人で良い茶葉を使ってしまいましょう!』と探したは良いものの、見つけたのはジャンプでも届かなそうな高所。見上げるヴァレーリヤに対し、アレクシアはひらりと飛んで確保したのである。
 飛べないと何もできない、というわけではない。けれども飛べると便利だと思った瞬間だった。
「お手柔らかにお願いしますわね、アレクシア
「うん! ソフトに、優しく、ゆっくりと、だよね!」
 ヴァレーリヤからもアレクシアの不得意な魔術は教えるつもりでいるが、それはまた後日。本日は彼女が先生だ。
 任せてよ、と頷いたアレクシアはまず自らの飛行魔術を見せる。それを見つめるヴァレーリヤは至極真剣な瞳で。
(まさか、私が教える側になるなんてね)
 アレクシアはふわりと浮かびながら自分が教わった時のことを思い出す。旅人である友と初めて会った時、相手が飛んでいて。それがとても楽しそうだったのだ。
 魔術の勉強を本格的に頑張り始めたのはイレギュラーズになってからだから、アレクシア自身もまだまだ未熟。けれどそれでもこうして誰かへ教えることができるというのは、なんだか面映ゆい気持ちだった。
「どう? 魔力の流れはわかった?」
 地に足をついたアレクシア。彼女からの問いにヴァレーリヤは難しい顔をして唸る。そもそもヴァレーリヤは鉄帝人らしい真っすぐな気性も相まって、細かいことが苦手なのだ。
(だからって簡単に諦めたりしませんわよ!)
 折角飛べる友人が教えてくれるのだ。ここで何としても飛行魔術を身に着けて空からの景色を眺めたい。
「アレクシア、もう1度! もう1度見せてくださいまし!」
 熱心な生徒に破顔し、再びアレクシアは飛行魔術を披露する。手をひらりと振るとそれに合わせて彼女の体が宙へ浮いた。穴が開きそうなくらいに観察したヴァレーリヤは実践してみようと魔力を練る。
「えいっ!」
 気合を入れるヴァレーリヤ──だが、その足はぴったりと地面についたまま。それを見ていたアレクシアが小さく唸る。
「うーん……魔力が足りないのかな? 体を浮かせるのにもっと必要かも」
「も、もっと必要……」
 ヴァレーリヤがアレクシアの言葉を復唱する。いかんせん、彼女の魔力保有量は決して多くない。全力を出せば飛べるだろうか。
「えーいっ!」
 再び気合を入れるヴァレーリヤ。だがやはり、地面と足裏はくっついている。
「ア、アレクシア、どうしたら良いんですのこれ!」
 まさか自分は飛べないのか。愕然とするヴァレーリヤにアレクシアが「そんなことないよ!」と首を振る。
「多分、上手く魔力をつかえてないだけだと思うよ。私もそこまで魔力を使うわけじゃないし……」
 全身全霊を込めて使う魔術ではない。魔力効率の問題だろう。多分。きっと。
 こうしてアレクシアにアドバイスをもらいながら練習を続けていたヴァレーリヤは、何度目かのタイミングで”カチリ”と何かが嵌るような音を聞いた。
 ──次は飛べる。
 そんな確信と共に飛行魔術を使うヴァレーリヤ。その足がふわりと浮いて、はっと彼女がアレクシアの顔を見たのも束の間。

「──ああああぁぁぁぁぁああああああああ!?!?!?」

 その体はあらぬ方向へ向け、勢いよく飛び始めた。
「ヴァレーリヤ君!?」
 びゅうんと直線に飛んでいったかと思えば木々に突っ込み、かと思えば反対へ飛んで建物の屋根でバウンドする。
「アレクシア! 助け──うぎゃっ──これどうしたら止まるん──もがっ──ですの!!」
 干されていた洗濯物に突っ込み、それらを吹き飛ばしてなお進むヴァレーリヤ。アレクシアも飛んでそれを追いかける。
「落ち着いて、ゆっくり止まるようなイメージで──わぁっ!?」
 ヴァレーリヤの飛ばした洗濯物を顔で受け止めたアレクシアは慌ててそれを取る。開けた視界にはすぐそこに壁があって。
「あっ! ……ぶなかった」
 ぎりぎりで空へ回避したアレクシアは再びヴァレーリヤを追いかける。彼女はぐるんぐるんと回りながら木々の間を突き抜け、常緑樹の葉を散らしていた。
「さ、流石アレクシアですわね! ところで止まるようなイメージって──いったぁ!」
「ええっと、頭の中で少しずつブレーキがかかって、速度がゆっくりになっていく感じだよ!」
 アレクシアのいつも止まっている方法を伝えると「やってみますわ!」と悲鳴交じりの声が返ってくる。魔術と言うものは理論的な部分が多い筈なのだが、アレクシアは感覚で覚えているところも少なくなかった。ヴァレーリヤがその方法で上手くいくかはわからなかったが──。
「……あ、いい感じ! そのまま止まってみて!」
 少しずつ落ちる速度にアレクシアが追いつく。隣でそう声をかけると、引きつった表情でヴァレーリヤが頷いた。
「…………止まれた、かしら?」
「うん、大丈夫! びっくりしたね」
 苦笑を浮かべるアレクシアにヴァレーリヤは疲れた顔で頷く。全身木の葉まみれだ。飛ぶだけではなく、飛んだあとの制御も必要そうである。
「あはは、私も木の葉ついてるや。大丈夫、コツを掴めばさっきみたいなことにはならないよ」
「よろしくお願いしますわ……」
 ぐったりとしながら、まずは無事に着地するところから。2人は木の葉を体から落として、飛行制御の練習をする。
 そして──。

「ヴァレーリヤ君、下見て」
 アレクシアに促されるまま、視線を落としたヴァレーリヤは目を見張った。広がるのは先ほどまで自分たちが立っていた王都である。
「アレクシア! 王都が私たちの下に!」
「下から見上げるのとは全然違うよね。ほらあそこ、ヴァレーリヤ君が練習してた公園だよ」
 はしゃぐヴァレーリヤの様子に笑みを漏らしたアレクシアはぽつんと見える公園を指差す。地面に立っていたときは広いと思っていたのに、こうして見るとなんと小さいことか。
「あら、あそこは市場かしら?」
 首を傾げながら露店の通りを差すヴァレーリヤ。いつも通る時には雨避けの布が鮮やかであったけれど、上から見下ろすと尚更鮮やかさが際立った。
 以前あそこでブルーベリーのジャムを買ったのよ、とヴァレーリヤが告げるとアレクシアが「あっ!」と声を上げた。手元のカバンを開けた彼女はヴァレーリヤへ包み紙を見せる。
「これ! お弁当持ってきたんだ!」
「お弁当? ……あ、もしかしてピクニックの」
 きょとんと目を瞬かせたヴァレーリヤははた、と思い出す。飛行魔術を教えてもらう話をした時に「いつか空の上でお弁当を広げてピクニックをしたい」と話したのだ。
 そこへタイミングよく腹の虫が鳴る。思わずお腹を押さえて頬を赤らめるヴァレーリヤにアレクシアはくすくすと笑った。
「たくさん練習するとお腹が空くよね」
「うう……アレクシア、それを頂いてもよろしくて?」
「うん、もちろん!」
 お弁当は手を離したら落ちてしまうから、アレクシアが手元で広げたそこから摘まませて頂く。彩り豊かなサンドイッチにヴァレーリヤの表情は綻んだ。
 その表情を見て嬉しそうに笑ったアレクシアも手元からサンドイッチを1つ。空の上でピクニックなんてしたことがなかったが、眼下の風景を眺めながらというのも楽しい。
 ただ1つ、言うとするならば──。
「……ちょっと寒くなってきたね」
「……ですわね」
 弁当を食べ終え、顔を見合わせた2人。本日は比較的暖かい日ではあるのだが、やはり寒いものは寒いのである。ひと騒動終えて、ご飯も食べ終えてしまったので尚更だ。
「ねえ、アレクシア。今度はもっと暖かくなってから如何?」
「いいね! 今度はここじゃなくて、他の場所に行ってみてもいいかも」
 幻想国でなくとも良いのだ。それこそアレクシアの出身国である深緑で、綺麗な場所を探すでも良い。
「ならそれまでにもっと飛行魔法が上手くなるよう練習しますわ! きっとびっくりしますわよ!」
 ぐ、と両拳を握りしめるヴァレーリヤ。笑って頷いたアレクシアはゆっくりと高度を下げ、練習していた公園へと向かう。追いかけるヴァレーリヤはやや制御が覚束ないものの、さきほどのような暴走状態に陥る事も無い。
 不意にアレクシアは彼女に呼ばれて上を向いた。瞳に映るのは満面の笑み。
「空からの景色、良いものですわね!」

  • その姿は空の上完了
  • GM名
  • 種別SS
  • 納品日2020年01月05日
  • ・ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837
    ・アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630

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