SS詳細
ファイブキーワードゲーム
登場人物一覧
●どうかしてる奴らのどうかしてる遊び
このシナリオは五人のどうかしてる奴らがキーワードと台詞だけを決めあう遊びである。前もって言っておくと全部演劇のお話だ。
このイカれたダンスパーティを目撃した読者諸兄も楽しめるように、キーワード部分だけを先に公開しておこう!
keyword1【私達また世界救っちゃいました?】
keyword2【黒幕】
keyword3【分裂】
keyword4【炎】
keyword5【小宇宙】
画面の前の皆はこのキーワードからどんなストーリーを想像したかな?
じゃあ早速無限の扉を開いてみよう! Ready go! Follow me!
●第一界:ドレッドストック行き最後の駅馬車
雪深き山で手を振る一人のアーリアがいた。
「おーい、とまってぇ! おねがぁーい!」
六頭引きの駅馬車が動きを止め、御者の焔が頭から火を吹き上げながらアーリアを見下ろした。
「ここ三日も吹雪に追いかけられてるんだ。用があるなら手短かに頼むよ」
「連れていた馬が足を折ってしまったのよぉ。このままじゃ吹雪に呑まれてしんでしまうわぁ。馬車に乗せてくれないかしらぁ」
そういって後ろを指さすアーリア。
すると雪に半分埋もれたアーリア(馬の覆面装備)がギプスをはめた足を指さして『先に行っていいわよぉ』と言い出した。
「ねえ、増えてない?」
「雪山では人が増えるものでしょぉ?」
「そうかな」
「混沌では常識の話よぉ?」
「そうかな……えっと、災難だったね」
「乗せてあげたいのはやまやまだけどね。この馬車は貸し切りなんだ。もし乗りたいならその人と話して」
言われたまま三人のアーリアが馬車に近づくと、馬車の窓からロングバレルの銃が突き出された。
「そこで止まるのよ」
「なによぉ、強盗に見えるのかしらぁ?」
「その声……まさかアーリアなの?」
「そっちこそ、こーちゃんじゃない。どうしたのこんな所で」
コルヴェットは銃を下げると、隣の席に座った男を指さした。
「彼は私の恋人になってくれるっていう田中小宇宙(コスモ)くんよ」
「あらぁ、キラキラしたお名前ねぇ」
「これから彼と永遠を誓い合うためにドレットロックへ行くの」
「気持ちはわかるわぁ。任せて、ドレットロックまで守ってあげる」
八人のアーリアは頬に手を当て『まるでハネムーンねぇ』とうっとりと頷くと、馬車にぎゅうぎゅう乗り込んでいった。
「ところで、ドレットロックに式場なんてあったかしらぁ」
「いやね、あるに決まってるじゃ無い。『絞首台(しきじょう)』が」
「……!?」
田中小宇宙がサッと振り返った。
「あの絞首台に吊るされたものはレバーをひいた人間へ永遠にとりつくって噂があるの。早速実行しようと思っ――まって逃げないで!」
扉をあけてダッシュで逃げる田中小宇宙。
「死んで私の恋人になってよ!」
同じく扉をあけてダッシュしていくコルヴェット。
「仕方ないな……」
貸し切りにした乗客が行っちゃったことで、御者の焔は頭からぼうぼう炎を出しながら唸った。
「ここはボクに任せて先に行って。大丈夫だよ、すぐに終わらせて追いつくから」
「行ってと言われても、ねぇ……」
焔は御者席から飛び降り、雪上で田中小宇宙にバックドロップきめてるコルヴェットへと飛びかかっていった。
仕方ないわねえ。
12人のアーリアはそう言うと、御者席に乗って馬を走らせた。
ちなみにこのあと全員吹雪に呑まれた。
●第二界:エイリアンショックスペース
「「終わりだー!」」
宇宙船ナガネギ号は窮地に貧していた。
前に下りた惑星で拾い食いしたヤツの腹からエイリアン(宇宙からの侵略者全般をさす宇宙単語。特定の人物団体映画とは関係ない)がドーンしてバーンしてギャーンしたのだ。
べおーんべおーんと赤ランプを点滅させて鳴り響く格納庫。脱出法の小型宇宙船の鍵が全然見当たらないってんでクルー全員は絶望顔で膝を突いていた。
「皆さん、希望を捨ててはいけませんわ」
そんななかで一人だけおっとりしてるミディーセラ。
「そんなこといったってみっちゃん、打開策があるっていうのかい!」
「ええ、ええ。実は、こんなこともあろうかと」
ぺこぺぽんという謎の効果音と共に大きなドラムバッグを開くと――。
「わたしセティア。未来のロボット」
むくーってセティアがドラムバッグの中から起き上がった。
「……ほんとに?」
「これ、何だとおもう? これね、半額のワケギ」
「いやわけぎとかいいから」
「これ、何だとおもう? これね、半額のワケギ」
「それさっき聞いたし」
「これ、何だとおもう? これね、半額のワケギ」
「ばぐってんのかこいつ!」
セティアはよっこいしょとドラムバッグから出ると、ワケギをもしゃもしゃしながら格納庫に突入してくるエイリアンを見つめていた。
「これ、何だとおもう? これね、半額のワケギ」
「こいつ他に台詞ないのか!?」
「皆さん落ち着いて。これには意味があるのですわ」
まあまあといって両手を翳すミディーセラ。
が、なんかめきめきとエイリアンに変身した。
「皆様を安心させてこの場に足止めするという意味がね!」
「「ギャアアアアアアアアアア!!」」
格納庫から明かりが消え、ずしゃずしゃーというグロい音が響いた。
やがて静かになった闇のなかで……。
「これ、何だとおもう? これね、半額のワケギ」
こうしてエイリアン星を侵略しようとしていた人間たちは抹殺され、エイリアンの世界は救われたのであった。
●第三界:ジェレヌクプロジェクト
「やばいみんなやばい見て、あのジェレヌクこっち見てるのがちめにやばみふかいかなっておもう、たぶん」
ロッカーの中でビデオカメラを自分に向けたセティアが、ゆっくりとロッカーの覗き穴から外を撮影し始めた。
ジェレヌク。ジェレ、ジャレヌーと進化するモンスターの最終進化形態。世界を滅ぼすといわれる。ウシ科の同名生物とは関係ない。
ジェルヌクはくうるりとロッカーのほうを向くと、ゆっくりと二本足で近づいてきた。
高鳴る鼓動。吹き出る汗。震えるカメラ映像。
ジェレヌクが細長い腕をロッカーのノブにかけた、そのとき。
「うおーーーーーーーしねーーーーーーーー!」
火炎放射器を抱えた焔がジェレヌクへと掛けより、激しい炎をジェレヌクへと浴びせかけた。
炎にまかれ奇声を上げながらにげていくジェレヌク。
ロッカーから助け出されたセティアへ、焔と同じく駆けつけたミディーセラ
とアーリアが両方から肩を貸した。
「やばい、えもい」
「セティアさん、大丈夫ですか?」
「やばい」
「どこかお怪我が?」
「えもい」
「え、と、何がですか?」
「やばい」
「恐怖でやばいとえもいしか喋れなくなったようね……」
コルヴェットはスパーと電子煙草を吸うと、アーリアのほうを見た。
「みんなここで死ぬのよ!」
「諦めちゃだめよ」
「こんなことなら、あのとっておきのお酒を飲んでおけばよかった……!」
「とっておきのって……部屋にお酒を隠していたの?」
「ジェレヌクの三角形が青むしにクリスマスしたせいで私のコーラが春祭りなのよ」
「なんて?」
「だからスポーツ大会のまきびしが枝毛にカロライナしたせいで私の畳が電柱なのよ!」
「だめね……こっちも恐怖でまともな言葉がしゃべれなくなってるわ」
額に手を当ててため息をつくコルヴェット。
その一方でミディーセラはアーリアへと頷いていた。
「まあ……近くにおいしいお酒を出すお店が?」
「わかるの!?」
「死霊術士の黒幕が小宇宙の炎に分裂したのよ!」
「へえ、そんな味がするんですのねえ」
「まって、どうして会話できてるの」
「四人とも、遊んでる場合じゃないよ」
焔は火炎放射器のタールカートリッジを交換すると、コルヴェットたちへと振り返った。
「ここはもう安全じゃない。ジェレヌクたちが戻ってくるまえに外へ脱出しないと」
「で、味は?」
「その話後でもいいよね!?」
「やばい、えもい」
不定の狂気に陥った二人をほとんど引きずるようにして、焔たちは建物の外へとたどり着いた。
そこは山深い村にたつコンクリート造りの建物で、窓が一つも無いサイコロのような長方形建築物だった。
まわりには手入れのされていない森が広がり、とてもではないが人が通りかかるような様子はない。
「やばい」
「みんな聞いて。ソフトクリームを携帯電話したのはMP3なの。カワウソを平方根する必要があるわ」
「わかりました。アーリアさんがそう言うなら、わたしも賛成ですわ」
「なんて言ってるの?」
火炎放射器を前方に構えながら振り向く焔に、ミディーセラはこっくりと頷いた。
「ジェレヌクを逃がしたのはコルヴェットさんだと言っています。彼女を始末する必要があると」
「カマキリ! 盆踊りじゃないわ!」
「早くして! 冗談じゃ無いわ! と言っていますわ」
「…………」
ゆっくり振り向き、火炎放射器のノズルをコルヴェットへ向ける焔。
「どういうことか、説明してくれる?」
「ちょっと待って。私が裏切る筈なんて無いでしょ? ね、アーリア、お願いよ何か言って」
「チョコレートは筆ペンを香草焼きしたコケシよ! お願い! 早くピザを荷車して!」
「エスメラルダさんはジェレヌクを逃がした犯人だ。お願い。早く彼女を殺して。と言っていますわ」
ちがう、といって数歩後じさりするコルヴェット。
「ごめんね……ボクたちも生き残りたいんだ……」
「やばい」
火炎放射器を放とうとする焔の手を、セティアが掴んで止めた。
「やばい、えもい」
「止めないで。ジェレヌクが世界を覆えばおしまいだ。まずはボクたちがここから逃げて皆にこのことを伝えなきゃいけない。けどそれを邪魔する裏切り者がいるなら、一緒に連れて行くことなんてできないんだ」
「えもい!」
セティアは首を振ると、焔を突き飛ばし火炎放射器を奪うと、再び建物の中へと走っていた。
「待って、そっちは危険だ!」
追いかけようとする焔の手を掴むミディーセラ。
「危険なのはあなたも同じですわ」
「けど放っておけない」
ミディーセラの手を振り切って、焔は施設へと戻っていった。
「ここはボクに任せて先に行って。大丈夫だよ、すぐに終わらせて追いつくから」
施設の中を走る焔。通りかかるジェレヌクから身を隠すように小さな木箱の裏に入ると、口を押さえて息を止めた。
足音を感知していたのか、ジェレヌクはゆっくりと周りを観察し、そして何も無いことを確認するとそのまま通り過ぎていく。
「焔さん」
「――!?」
口を押さえていた焔が、後ろから肩を叩かれ慌てて振り返った。
そこに居たのは、声を潜めたミディーセラだった。
眉間に皺を寄せる焔。
「ついて来ちゃったの? あっちは……」
「大丈夫ですわ。エスメラルダさんのことはアーリアさんに任せていますから。それより、こっちを手伝います。一緒にレイスさんを探しましょう」
「……うん、そうだね。来ちゃったものは仕方ない」
「ええ、ええ……本当に」
ミディーセラは取り出した拳銃のセーフティを外した。
「えもい! えもい!」
火炎放射器を振り回しながら走るセティア。
残りのタールも僅かとなった所で、セティアはなんとか施設の最深部へとたどり着いた。
追いかけてくるジェレヌクを阻むように、鉄の扉を閉じてかんぬきを通す。
「やばい……」
がんがんと叩き付ける音が外から幾度も響くが、セティアは扉が開かないことを確認して火炎放射器をその場に放り投げた。
振り向けば、黒く輝く球体が浮いている。
人間の魂を燃料とした『小宇宙エンジン』である。
セティアはそれを暴走させる方法を、知っていたのだ。
「やばい、えもい」
操作盤を開き、各数値をいじっていく。
光を大きく波立たせ、膨らむ黒い球体。
臨界に達した小宇宙が爆発を起こす寸前の風景だ。
「えもい……」
セティアは最後の一押しとして、赤く大きなスイッチを押し込んだ。
その日、大爆発が起きた。
施設の半径数百メートルは黒い光に呑まれ、山中にはクレーターだけが残ったという。
※正しい翻訳
「みんな聞いて。ソフトクリームを携帯電話したのはMP3なの。カワウソを平方根する必要があるわ」(みんな聞いて、ジェレヌクを逃がしたのはミディーくんなの。彼を置いていく必要があるわ)
「カマキリ! 盆踊りじゃないわ!」(ちがう! 裏切り者じゃないわ!)
「チョコレートは筆ペンを香草焼きしたコケシよ! お願い! 早くピザを荷車して!」(ミディーくんは私たちを騙した黒幕よ! お願い! 早く銃を下ろして!)
●打ち上げ
「やばい、えもい」
セティアはジェレヌクの着ぐるみを脱ぐと、汗だくの額をタオルでぬぐった。
「やばいみんなやばい見て、あのジェレヌクこっち見てるのがちめにやばみふかいかなっておもう、たぶん」
脱ぎ捨てられた着ぐるみを指さすセティアに、ミディーセラがげっそりした顔で応えた。
「結局ジェレヌクってなんだったのですか? クリーチャー?」
「カモシカがカモシカじゃなかったりスイカがスイカじゃなかったり……そんなのは混沌では常識の話よぉ?」
同じくジェレヌクの着ぐるみを脱ぐアーリア。
そこへ、焔がスポーツドリンクのボトルを突きだした。
「皆撮影お疲れ様。練達で放映されるのはいつになるかな」
「さあ、撮影のお手伝いに呼ばれただけですから……スケジュールのほうはサッパリですわね」
頬に手を当てて首を傾げるミディーセラ。
「なんでもいいわぁ。とにかくお腹すいちゃった。喉も渇いたし……」
「ええ、ええ。実は、こんなこともあろうかと、レイスさんと買い出しに行っていたのです。ね?」
ミディーセラに言われて、セティアはバッグを開いた。
「これ、何だとおもう? これね、半額のワケギ」
「何買ってきてるんですか……わっ、全部ワケギ!」
「こんなことなら、あのとっておきのお酒を飲んでおけばよかった……!」
「落ち着いてアーリアさん……!」
酒切れ(?)で取り乱し始めたアーリアを羽交い締めにするミディーセラ。
そこへ、カメラをかたづけたスタッフの田中小宇宙が耳打ちしてきた。
「まあ……近くにおいしいお酒を出すお店が?」
「で、味は?」
メイクを落としてからやってきたコルヴェットがスッと会話に混じってきた。
手には空になった酒瓶。
「ああっ! とっておきのお酒ぇ……!」
「あらそうだったの? ごめんなさい。コスモ君が差し入れだっていうから……ひっく」
頬を赤くしてコスモくんの肩をがしりとつかむコルヴェット。
「死んで私の恋人になってよ!」
「始まった」
「エスメラルダさんって酔うと絡み癖ありますわね」
「ここはボクに任せて先に行って。大丈夫だよ、すぐに終わらせて追いつくから」
ジェレヌクの着ぐるみを半分まで脱いだ焔がぱたぱたと手を振った。
「お店の席は五つ……いや六つとっておいてね」
「らじゃ」