PandoraPartyProject

シナリオ詳細

怪異連続通り魔事件

完了

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●犬のお医者さん?
「猫のダンサーがいるってことは……犬のお医者さんもいるの?」
「いるぞ」
「そっかあ、さすがにいるわけ――いるの!?」
 それは、希望ヶ浜学園校長室でおきた、ささいな会話から始まった冒険であった。

 フォルトゥナリア・ヴェルーリア。最近ちょくちょく希望ヶ浜学園にやってきては依頼を受ける異界の少女である。異世界人慣れしている練達だけあって順応もやはりはやく、校長室のソファに腰掛け出されたお茶に今日もちびちびと口をつけていた。
 服装もかつての世界で勇者と冒険をした時のようなファンタジックな装束では無く、現代日本に帰属したかのような夏らしいファッションである。
 ちょっと都会めいた、着こなしのいるファッションではあるが、イメージカラーともいえる勇気の黄色をワンポイントにいれているあたり結構慣れてきた様子も見えた。
 対する校長はと言えば、夏だというのに長袖のブランドスーツをバッチリ着込み、クーラーの効いた黄泉崎ミコト校長室から一歩も出ないという姿勢を見せていた。
 当たり前のようにあるブランデーの瓶から自分でグラスに中身を注ぐと、校長は先ほどの話の続きをする。
「お前がどんな想像をしたかはわからんが……怪異は怪異なりにネットワークをもつことがある。傷付いた同胞を治癒するものがいれば、それを伝えるものもある。いつの間にか立場ができ、社会性が生まれ、職業めいたものができてくる。
 そいつはいわゆる『喋るトイプードル』だが……丁度良い、呼んでやろう」
「呼べるの!?」
 ややあってから校長室の窓よりぴょんと入ってきたのは、噂通りのトイプードルだった。
 違いとして小さな鞄を首から提げ、なんだか暑そうに舌を出している。
 何よりの違いとして……。
「あーもーあきまへんわ。外が暑ぅて暑ぅて。なんか飲むもんあります? 酒以外で」
 と、早口で喋り始めたのだった。

「やーやーどうも、この辺でお医者っちゅーか、傷付いた怪異の治療をしてまわっとるもんです。化猫だとか幽霊だとか、まあそういう連中も怪我だの病気だのになることがあるんですわ。そういう人等をちょちょいっと。
 けども最近はちと困っとりましてな。怪我人がやけに多いんですわ」

●連続怪異切り裂き魔
 似非関西弁を喋るトイプードルがいわく、最近同様の怪我をおう怪異が続出しているという。
「うちが面倒みはるんは喋る猫とか立ってるだけの幽霊さんとか、そういう人には無害な人等なんですわ。けどそういう人等を狙って刃物で斬り付ける奴が現れたっちゅう話なんですわ」
「刃物!?」
 そんなひどいよ! と身を乗り出すフォルトゥナリアに、校長は足を組んで先を続けるように促した。
「この場でその話をするということは……『特待生』への依頼と言うことで間違いないな?」
「せやなあ」
 やさしく頷くようにいうトイプードル。
 フォルトゥナリアと校長は顔を一度見合わせると、話をより深く尋ねてみることにした。

 曰く、その怪異は『無害な怪異』ばかりを狙う存在であるという。
 仮にそれを夜妖であると仮定して、必ず夜中に現れ刀のような刃物を使って斬り付けてくるという話だ。
 一見して黒いレインコートをきた人間のようにも見え、晴れている日でもレインコートを着ているので目立つは目立つという話だ。
「時間も行動も絞られている。外見も特徴的だ。目撃証言や現場検証を追っていけば犯人を掴めるだろう」
 そこまで話した校長は、持っていたグラスをスッと掲げてからフォルトゥナリアを見た。
「……私?」
「そうだ。この依頼うけてやってくれるか」
「私!?」
 とはいえ罪なきおばけの通り魔被害。無視は出来ない。
 フォルトゥナリアはこくんと頷き、立ち上がるのだった。
「わかった! その事件、解決してみせるよ!」

GMコメント

●シチュエーション
 無害な怪異を狙った通り魔事件が頻発しています。
 あなたは聞き込みや現場検証などを行って犯人を割り出し、捕まえることで事件を解決させる依頼を受けたのでした。

●犯人追跡パート
 あなたのもっているスキルやプレイングの工夫によって犯人を追いましょう。
 それなりの幸運も味方する形で、犯人にたどり着くことができるでしょう。

●戦闘パート
 相手が刀のような刃物を持っていること以外は不明の相手です。
 みなで協力して取り押さえましょう。
 人間か怪異(夜妖)かは不明なので、いちおう取り押さえる方向で考えておくとよいでしょう。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●希望ヶ浜学園
 再現性東京2010街『希望ヶ浜』に設立された学校。
 夜妖<ヨル>と呼ばれる存在と戦う学生を育成するマンモス校。
 幼稚舎から大学まで一貫した教育を行っており、希望ヶ浜地区では『由緒正しき学園』という認識をされいる裏側では怪異と戦う者達の育成を行っている。
 ローレットのイレギュラーズの皆さんは入学、編入、講師として参入することができます。
 入学/編入学年や講師としての受け持ち科目はご自分で決定していただくことが出来ます。
 ライトな学園伝奇をお楽しみいただけます。

  • 怪異連続通り魔事件完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年08月08日 22時15分
  • 参加人数6/6人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(6人)

シャルロッテ=チェシャ(p3p006490)
ロクデナシ車椅子探偵
胡桃・ツァンフオ(p3p008299)
ファイアフォックス
鏡禍・A・水月(p3p008354)
鏡花の盾
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)
挫けぬ笑顔
島風型駆逐艦 一番艦 島風(p3p010746)
島風の伝令

リプレイ


 カフェ・ローレットのメニューは豊富である。
 そんななかからあえてのオールドファッションドーナツを選択していた『挫けぬ笑顔』フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)は、それをひと囓りしてから隣のマグに手を伸ばす。
 まだ温かく湯気を上げるマグの中見はホットミルクだ。
 それをひとくち、こくりとやる。
 目を閉じ、肩をゆるめ、はあとためいきをつく姿には見ている側すら落ち着いてしまいそうだ。
 ミートパイを器用にも欠片すらこぼさず食べつつ、『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)がその様子に微笑みを向ける。
「ええと今回のメンバーは……ヴェルーリアさんから始まって」
 目線でひとりふたりと数えてから、最後に自分を指さした。
「六人か。噂話の出所を集めるには多いんだか少ないんだか……俺は深夜にやってるような店とか出歩いてるような人たちに声をかけて目撃証言を集めるつもりなんだが」
「犯行は主に夜、だったね。それを主たる行動時間に定める人々に聞き込むのは、目の付け所が良い」
 それまで口にしていたコーヒーのカップをトレーへと戻す『ロクデナシ車椅子探偵』シャルロッテ=チェシャ(p3p006490)。
 車椅子を使っているだけにテーブルとの高低差が想定と異なっているはずなのだが、その所作の優雅さたるや、ぼうっとカウンターに立っていた店員が見とれるほどである。
「目星はつけてあるのかな?」
「それは勿論、ほら」
 イズマが取り出して見せたのはaPhone10。希望ヶ浜地区で使われる最新機種のスマートフォンである。
 彼の翳した画面にはマップアプリが表示され、ピンがたっているのは飲食店やコンビニエンスストアなどだ。営業時間を絞って検索をかければ、その時間に営業している店舗を絞り込むことが出来る。
「ははあ……なるほど、便利なものだね。それなら、ボクは怪異側にインタビューをして回ってこようかな?」
「かいいがわ?」
 チョコレートののったドーナツを無言でぱくついていた『夜鏡』水月・鏡禍(p3p008354)が、そこでやっと顔をあげた。
 自分が妖怪のたぐいであるということもまああるが、此度の事件の特殊性を思い出したためである。
「今回の被害者は『無害な怪異』たちなんですよね」
 この街ではそれらを総称して夜妖と呼びはするものの、ネガティブな、あるいは敵対的なイメージを避けるためにあえて怪異と表現している。
 そうした気遣いからも分かるとおり、鏡禍は怪異たちに対して友好的だ。
「もしかしたら、ヒーロー気取りで幽霊さんや化猫さんに攻撃をして回ってるひとかもしれません。だったら許せませんよ!」
「まあまあ。結論を急ぐとよくないバイアスがかかるものだ、ゆっくりやりたまえよ」
 シャルロッテがやる気に燃える鏡禍を良い意味でたしなめる。
 ほら彼女のように、とヴェルーリアを視線で示す。
 口についた牛乳のあとをナプキンで拭っていたヴェルーリアが、きょとんとした顔をする。
「捜査に肝心なものは速さと同時に心の余裕だ。焦れば誤ったものを捕まえ、遅きに失すれば消えてしまう。こうして落ち着いてテーブルを囲む時間も、それはそれで必要なんだ」
「な、なるほど……」
 鏡禍は自分がちょっと焦って動こうとしていたことに、言われてやっと気がついた。
 それまでスマホをついついといじっていた『ファイアフォックス』胡桃・ツァンフオ(p3p008299)が顔をあげる。
「その『黒いレインコートの通り魔』も、もしかしたら悪い夜妖に憑かれただけの被害者かもしれぬの。
 実際、無害とはいえ、住民じゃなくて怪異を狙う辺りが、ただのヒトの通り魔じゃなさそうね~」
「な、なるほど……! 前情報からそんなことまでわかるんですね!」
 鏡禍が関心の目で見ていると、胡桃がSNSアプリをたちあげた画面を翳してみせる。
「わたしはしばらくネットの情報を追ってみるの。そなたはどうする?」
 話を向けられた『島風の伝令』島風型駆逐艦 一番艦 島風(p3p010746)は、既に海軍カレーパンをぺろっと食べ終え両手をしっかり両膝の上に置いて待機状態に入っていた。
 それはいいのだが、格好が希望ヶ浜学園の体操服であった。
 胸には『ぜかまし』とかいてある。
「当方装甲偽装……陸上部 編入予定。
 体操服 走行優先 ぶるま 適切」
 物凄く圧縮して喋っているので要約すると、島風は希望ヶ浜学園へ特待生として潜入し、生徒たちから噂話を集めてこようというつもりであるらしかった。
 特に足が速いからという理由で陸上部に入るつもりらしく、適しているからという理由でブルマ型体操服を着用しているらしい。希望ヶ浜はその辺だいぶ緩い服装規定をしているので、ブルマだろうがジャージだろうが気にされないのだが……実のところこれは見た目の良さ、じゃない。島風の新たな全身図を期待するため、じゃない。おそらく天の采配的な、ヤツである。
「担当は結構わかれたね。それじゃあ、早速調査にうつろっか!」
 ヴェルーリアは食事を終え、かたんと席を立った。
「怪異連続通り魔事件! きっちり解決してみせるよ!」


「あーアレね。ヤバイヤツだよ。みたことあるもん」
 そう語るのは電柱から逆さにぶら下がる影のような怪異であった。
 実身長にすると2~3mほどあるのだが、ぶら下がっていることで丁度人の顔の高さに頭がくるようになっているという謎の親切設計をもつこの怪異は、古い文献によればつり下がり入道という。一見して真っ黒い人の影のようだが、近づいてみると人間によく似ている。
 ボーダー柄のシャツにフードパーカー。ダメージジーンズにスニーカーというラフすぎる格好をしていても、これはやはり怪異なのであった。
 まあ、メイド服すら着たことのある妖怪である鏡禍が怪異のファッションにどうこういうギリはあるまい。
「本当ですか?」
 と、問うまでである。
「え、ていうか、有名だよね? ちがう? 人間ってみんなあいつのこと知ってるんじゃなかったんだ。へー」
 どうやら怪異側と人間側で認識にずれがあるらしい。鏡禍は聞いた内容をメモりながら、見たという場所について尋ねてみた……。

「人間を狙わない通り魔? あー、知ってる知ってる。オカ研の子が話してた」
 準備運動をしながら語る陸上部の先輩。
 島風は(例の独特な口調で)怪異ばかりを狙う通り魔についての情報を生徒たちから集めようとしていた。
 『怪異を狙う怪異』についての情報を日常の、それも昼間を主な活動時間とする生徒に問うのは若干のズレがあったものの、さすがは希望ヶ浜学園というべきかネットワークは広いらしい。
 島風がその先輩について尋ねてみると、どうやらそれは変わった人物であったらしく……。

「どうもありがとうございました!」
 コンビニの店長(よく喋り頭部が寂しく歳を取っているおじさん)に頭を下げて、ヴェルーリアはイズマと共に店を出る。
 人間は昼間に活動するのが普通かに思われがちだが、夜を主戦場とする人間も勿論存在する。
 そういった人々のもとを訪れ、イズマとヴェルーリアは話を聞いて回っているのだ。
 勿論彼らにとって忙しい時間帯に訪れるので本来ならば迷惑なのだが、ヴェルーリアの交渉術もあって案外しっかり話を聞くことが出来た。
「少し、整理しよう」
 ガードレールによりかかり、イズマがスマホのメモ帳アプリを立ち上げる。
 車の通りもまるでない夜の路地に、スマホの灯りはよく目立つ。
「『黒いレインコートの男』は案外多く目撃されていた。コンビニでも普通に買い物してる所を目撃されているし、バーなんかでも店の前を通りかかる所を目撃されてる」
「それだけはっきり姿をさらしてるってことは、目撃情報のある場所だけを絞って捜索すれば見つけやすいってことになるよね」
 ヴェルーリアの言葉に、イズマは強く頷いた。
「逆に言えば、それだけ堂々とした行動だってことになる。怪異だけを狙ってるとはいえ通り魔だ。普通はもっとこそこそやるだろう」
「だよね……ちょっと怖いな」
 ヴェルーリアは脳裏に黒いレインコートの人間を想像した。夜の道路の真ん中を、ナイフを片手に堂々と歩くその姿。
「けど、なんのために……」

 シャルロッテは被害者である幽霊に話を聞きに行くそれまでの間に、いくつかの調べごとをしていた。
「たとえばだ」
 ぱちんと手を合わせてみせるシャルロッテ。
「昨日の朝刊にこんな見出しが載るとする。『レインコートの男、幽霊を襲う』。
 きっとその新聞は物笑いの種にされるされるだろうね。幽霊の実在を疑うかはさておいて、人間の社会を報じる新聞が怪異の被害事件をことさらに報じ始めたらきりがない。
 ただでさえこの街の報道機関は『希望ヶ浜の日常』に傾倒しきっているというのに」
 そして、合わせていた手を開く。
「では、そのような事件が物的証拠と共に起きた場合何がニュースとして残るか。『レインコートの不審者。刃物をもってうろつく』だ。探すべきは通り魔事件ではなく、不審者の目撃情報なんだよ」
「そこまでわかっていながら……なぜ私に話を?」
 問い返してきたのはOL風の女性だ。女性といっても膝から下が透けるように消えていて、見るからにそれが幽霊とわかる半透明な身体をしている。
 随分昔にこの辺で事故に遭った地縛霊なのだと言うが、だとしても元気そうだ。怪我といえば、腕に巻かれた包帯くらい。
「いや、怪我の具合を聞いておこうと思ってね。そもそも、刃物で斬り付けられたのだよね?」
「そうなんです。急に走ってきて、刃物で斬り付けてそれで……」

「大体の話は纏まったの」
 スマホを手に握ったまま、胡桃はうんうんと頷いた。
 ネットを探ってわかったのは不審者の目撃情報。時間帯を絞ってみれば、それは夜間のこととわかる。
 場所はイズマとヴェルーリアが絞ってくれていたし、鏡禍の聞き込みもそれをより深く絞ることに役立った。犯行の方法はシャルロッテと、島風のインタビューによって浮き彫りとなっている。
 そうした調査から打ち立てた作戦。それはずばり……。
「おとり作戦なの」
 胡桃は青い炎をポッと燃え上がらせ、道の真ん中に立って見せる。
「犯人は特定の時間特定の場所を徘徊して、怪異らしいものを見つけたら無差別に遅いかかってる。けど、その方法はカッターナイフのようなもので一度斬り付けるだけ。斬り付けたら逃げてしまう。それだけ刹那的な通り魔なら、怪異に誤認させる作戦は有効かもしれぬの」
 かもしれぬ、ではなく実際有効だろうとシャルロッテたちも考えた。
 調査して分かったのは、犯人は非常に短絡的で、かつ隠蔽を考えておらず、もっといえば刹那的であろうということ。行動が規則的であるというのも加えれば、この作戦は完璧だ。
「では、作戦決行なの」


 足音が近づいてくる。
 チキチキとカッターナイフの刃を出す歯車の音に合わせて、静寂の夜にそれらはよく響いた。
 足音はダッと突然早くなり、こちらへ駆け寄ってくるのが分かった。背にそれを感じた胡桃は――狐型の炎を召喚しガチンとカッターナイフの斬撃を防御する。
「――!」
 防御されると思っていなかったのだろうか。
 黒いレインコートの人物は目をぎょっと見開き、そしてきびすを返し逃げ出そうとする。
 だが、逃がしはしない。
 予め登場を予測していた島風が絶妙なタイミングで走り出し、凄まじい速度でレインコートの人物へとタックルを浴びせた。
 腰から下にぶつけられたタックルによって転倒し、フードが外れる。
 その顔は少年のもの……であったが、様子がおかしい。
 顔に被さるようにして、狐めいた妖気が仮面のように覆っているのだ。
「これは……」
「夜妖憑きか!」
 学園の裏資料を漁っていていて知っていたシャルロッテは、そのことにすぐ気がついた。
 人間に夜妖が憑依することでおこる怪現象のひとつ。今回は、少年に何らかの夜妖が取り憑くことで引き起こしていた事件だったのだ。
 即座に車椅子を発車。
 道路の真ん中に飛び出すと手元の魔術媒体をスワイプ操作。タップひとつによって強烈な魔術をレインコートの少年めがけて叩き込む。
 防御の動作の代わりに、カッターナイフを振り込む少年。ナイフの表面には同じく妖気が覆っている。
「カッターナイフを妖刀化させるとは、随分と浅ましい……」
 こうなればとシャルロッテへ斬りかかろうとしたレインコートの少年。だがそれを鏡禍は相手の手首をがしりと握ることで止めてしまった。
「取り憑かれておこした事件なら、身体はできるだけ傷つけたくありません。なんとか――」
「ああ、任せろ!」
 イズマは素早く少年の背後に回ると、手刀をその首筋に叩き込んだ。
 非常に漫画的な技ではあるが、実際に意識だけを刈り取れる魔法武術である。
 効果は覿面だったようで、少年はがくりとその場にくずおれる。
 かわりに少年から狐型の妖気が飛び出し、イズマたちをにらみ付けた。
「そこまでだよ!」
 カッと輝く勇気の光。ヴェルーリアだ。
 狐型の妖気が遅いかかろうとした寸前、光を浴びてすぐに力を失った。まるで霞が晴れるかのように、消えてなくなってしまったのだった。


「所謂一つの、『狐憑き』なの」
 胡桃はネットロアのひとつを紹介しながら説明をしていた。
 場所はまたもカフェ・ローレット。皆のテーブルにはそれぞれ飲み物だけがある。
「どこかに封じられていた悪い怪異を呼び覚まして、取り憑かれてしまったの。怪異の目的は、『己への憎しみを増やすこと』」
「そうか。殺してしまえばともかく、姿を見せて怪我だけさせれば憎しみは自分へ向きますね」
 鏡禍は難しい顔で頷いた。
「初期に対処できたからよかったものの、これが大きな憎しみによって強化されていたなら……倒すのも難しくなっていたでしょう。僕たちの調査は無駄じゃなかった」
「その通り、だな」
 イズマも腕を組み、深く頷く。
「しかし、どうしてあの少年は化狐なんかにとりつかれたんだ?」
「おそらくはちょっとした悪戯だろうね。地域新聞にこんな掲載があったよ」
 シャルロッテが出してきたのは記事の一部をプリントアウトしたものだ。
 それによると、お稲荷様への悪戯をやめるように警告する広告が載っていた。
「知らず手を出した相手が恐ろしい怪異であった……というわけさ」
「自業自得 けれど……」
 島風は呟き、それに同意するようにヴェルーリアは頷いた。
「悪戯への『お仕置き』はもう充分成ったはず。通り魔事件の原因となった化狐も倒すことが出来たし、あの少年(こ)にこれ以上責任を負わせるのはナシ……でいきたいな」
 どうかな? とヴェルーリアが回りを見ると、イズマも鏡禍も賛成の意を示してくれた。
 島風は無表情なので解りづらいが、どうやら同意のようだ。シャルロッテは元々事件の『後処理』自体に興味がないらしく、ノーコメントといった様子である。
「なら、決まりなの」
 胡桃はスマホを操作し、校長に連絡を入れた。

 こうして、希望ヶ浜で起きた怪異連続通り魔事件は解決したのだった。
 事件に巻き込まれた少年は、夜歩きへの注意のみで済んだという。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete

PAGETOPPAGEBOTTOM