PandoraPartyProject

シナリオ詳細

テイク38、アクション!

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●映像研究会、悩む!
 貴族の少年少女が通うウォルチタン学園。
 その日、学園の校舎のはずれの一室に悲痛な叫びが木霊した。
「だめだ、だめだ、だめだああああああ!!
 こんな平和的日常映像では観客の心を掴むことはできーーーん!!」
 頭を抱えるのは、映像研究会会長クラネルだ。
 彼は今、秋の文化祭に出展する映像の編集の真っ最中だが、その出来に満足いかないようだった。
「といっても、学園に住み着いてる猫を密着取材するって言ったのクラネルじゃない。
 こんな映像になるのはわかりきってたでしょうが」
「いや、あの時はもはや何を撮影すればいいのか分からなくなるほどに追い詰められていたんだ。
 いざ撮ってみてわかったが、こんな映像みて何が楽しい?」
「癒やされるし私は良いと思うけどなぁ」
 映像研究会に在籍するカーラはそう言ってテーブルの上の猫のぬいぐるみを撫でた。
「だめだ、だめだ! こんなもんで満足出来るか!
 全部撮り直すぞ! 今度こそ、緊張感があって迫力のあるアクション映像をだな……!」
「誰がそんなアクションするんですかぁ……僕はもう屋上からロープ付けて飛び降りるのはいやですよぉ」
 スタントを無理矢理やらされたことを思い出した大人しい少年ヒューイが顔を覆う。
「ええい泣くな。
 いいか、思いついたことがある」
 クラネルはテーブルに膝を付き口元を隠す。
「俺達はなんだ? 貴族の親を持つ子供達だ。
 俺達には金がある! コネは……まだ心許ないが、とにかく金はあるんだ!」
「まさか、お金使って雇った人にスタントをさせる気? やめたほうが良いと思うけどなぁ」
「ふん、そんなヤラセ映像をとってなにが楽しい?
 いいか、金はあるんだ。なら本物を撮ろうじゃないか――!」
 ニヤリと口の端をつり上げたクラネルは怪しげな笑いを漏らすのだった。


「と、言うわけでウォルチタン学園映像研究会会長のクラネルちゃんとそのお仲間達よ」
「よ、よよろしくお願いします」
 『黒耀の夢』リリィ=クロハネ(p3n000023)の紹介に些か緊張気味のクラネル少年が手を差し出してきたので、握手を返す。
「クラネルちゃん達は練達製のビデオカメラで秋の学園祭に出展する映像を制作したいそうなの。
 その内容は――」
「ど派手で、緊張感があって、迫力ある映像です! こう刺激的で――」
「と、言うわけね。
 まあ要約すれば、実際の依頼風景を密着取材と言ったところなんだけれど……今、安全で丁度良さそうな依頼が見繕えなくてね。
 あるのは魔物退治なんだけど、そうね……三種類は用意できたわ」
 そういって見せてきた情報誌には、そこそこの危険性を持ちつつも、問題なくこなせそうな魔物の名前が並んでいたのだが――。
「って、百目のギガンテックアイってあの大巨人の!?」
「あー……、まあ一応入れておいたけど、その大巨人のギガンテックアイね。
 まあこいつは正直倒すことはできないし危険な相手だけど、その肌表面の岩石がトルパルドアイって宝石の原石らしくてね。
 ある貴族が欲しがってるそうだから、一応入れておいたんだけど……まあちょっと危険よね」
 依頼書を下げようとするリリィだが、その依頼書をクラネルが止める。
「ぜひ、これで行きましょう!!」
「え、えぇ……?」
 危険だという言葉が聞こえてないのか。イレギュラーズが呆れ顔で見ると、クラネルと共に来たカーラ少女とヒューイ少年が止めにはいった。
「ま、まあどの依頼をこなすかは特異運命座標ちゃんたちの選択に任せるわ。
 どれか一つでも良いし、こなせる数だけこなしても良し。
 でも、注意して欲しいのはクラネルちゃん達研究会の撮影メンバーが同行することね。
 対象を護衛しながらの依頼となるから、普段より注意を払わないとだめよ」
 基本的に離れて撮影することとなるが、この鼻息荒いクラネルを見ればわかるように、いつ飛び出して撮影し始めるかわからない。
 普段より注意することが多い分、慎重にならなくてはいけないだろう。
「今日の所はこんなところね。
 あとは依頼当日、一緒に依頼に向かって頂戴。クラネルちゃん達も撮影がんばってね」
「はい! ありがとうございます!!」
 キラキラした目でリリィを見送るクラネル。
 はてさて、この少年達の望みを叶えるにはどうしたものか――。

GMコメント

 こんにちは。澤見夜行(さわみ・やこう)です。
 貴族の少年達が密着取材を申し込んで来ました。
 安全を選ぶか、危険を選ぶか。イレギュラーズの選択を期待します。

●依頼達成条件
 密着取材を成功させる

■失敗条件
 かっこ悪い、失敗している映像しか撮影できなかった

●情報確度
 情報確度はAです。
 想定外の事態は起こりません。

●依頼について
 用意された三つの魔物退治依頼を選択します。
 どの依頼も危険度はありますが、護衛対象の守りやすさが違います。
 一つを選んでもいいし、三つ全てを行うこともできますが、強行日程の為大変疲れます。
 そのため複数の依頼を行う場合、依頼の本数が増えるたびにステータスにマイナス補正がかかるものと思ってください。

■畑を荒らすデルパの群れ
 四本腕に、魚の頭、毛むくじゃらの身体をもつデルパという魔物が村の畑を荒らしていて困っています。これを退治しましょう。
 魔物の数は十体。敏捷性の高い相手になります。
 危険度はそう高くありませんが、数が多いため護衛対象を守りづらい面がある依頼です。
 素早いアクションに緊張感ある映像が撮影できるはず!

■墓地より生まれるスケルトン
 ある街の墓地にどこかの魔女が呪いを掛けていったようだ。
 墓地より生まれるスケルトンを倒せ!
 魔物の数は五体。動きは鈍いが、強烈な一撃を持っている相手です。
 危険度は高めですが、数が少ないため護衛対象を守りやすい状況です。またスケルトンは武器を持つ者を優先して攻撃してきます。
 おどろおどろしい刺激的な映像が撮影できるでしょう。

■百目のギガンテックアイ
 トルパルドアイという宝石の原石が、なんらかの魔力を受けて巨人となって現れました。
 動きは鈍く攻撃性を持たない相手ですが、同時に倒すことも困難な相手です。
 数は一体。オーダーはその足部肌を傷つけ肌表面のトルパルドアイ原石を手に入れること。
 肌を傷つけられたギガンテックアイはチクリとした痛みに暴れるかもしれません。
 危険度は高く、どのような行動をとるか不明なことから護衛対象を守りづらいでしょう。
 しかし、この映像を撮影できれば、とんでもない価値が生まれるに違いありません。

●戦闘地域
 幻想国内のいろいろな地域になります。
 時刻は五時~から夜二十時まで。
 様々な環境での戦いとなりますが、概ね戦闘に影響はでないでしょう。

 そのほか、有用そうなスキルやアイテムには色々なボーナスがつきます。

 皆様の素晴らしいプレイングをお待ちしています。
 宜しくお願いいたします。

  • テイク38、アクション!完了
  • GM名澤見夜行
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年10月21日 21時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シェリー(p3p000008)
泡沫の夢
蜜姫(p3p000353)
甘露
ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)
不遜の魔王
清水 洸汰(p3p000845)
理想のにーちゃん
パティ・ポップ(p3p001367)
ドブネズミ行進曲
ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃
アオイ=アークライト(p3p005658)
機工技師
御天道・タント(p3p006204)
きらめけ!ぼくらの

リプレイ

●同行者インタビュー
「我々取材班は、ついに今日と言う日を迎えました。
 どのような展開が待っているか、若干の緊張を覚えつつ取材に挑みたいと思います」
「なんでドキュメント風の出だしになっているのよ」
 カメラを回しているクラネルに、カーラが突っ込みを入れると、クラネルは鼻を鳴らす。
「ふん、お前らわかっているのか?
 あのローレットの皆さんを撮影出来るんだぞ! 決して安くない金を積んだんだ! 凄い物が取れるに決まっているだろう! 売れるぞ~! このDVDは売れるぞぉ~!」
「いや、学園祭に出展するんでしょうが!」
 カーラの鋭い突っ込みを無視しつつ、クラネルの回すカメラは同行するイレギュラーズへと向けられる。
「では同行する皆さんに意気込みを聞いていきましょう。
 まずは、なんだか超然としたメイドっぽいお姉さんから」
 カメラを向けられた『泡沫の夢』シェリー(p3p000008)が一瞥すると静かに言葉を空気に乗せる。
「シェリーです。年齢的にはそう変わりませんのでお姉さんというのは困りましたね。
 ――より良いモノを撮ろうとする心は良い事でありますが……さて」
 危険を顧みず良いモノを撮ろうとすることをシェリーは否定しないが、それが依頼の邪魔となる様であれば、面倒だなと感じる。
 凜とした冷たさすらも感じる言葉に、クラネルは気圧された。
「お、おう、シェリーさん、クールな人だぜ……。
 気を取り直して、次は和人形のようなキミだ」
 カメラが捉えるのは小柄な少女『甘露』蜜姫(p3p000353)だ。カメラを向けられて何処か恥ずかしそうに頬を押さえる。
「……蜜姫なの。
 あの……すごく怖くて危ないのに……どうして同行して撮影したいなんて言うのかわからないの。
 蜜姫は猫さんの映像の方が、好き」
「むむ、可愛らしさ極振りって感じの子だな。
 しかーし、猫さんではドキドキワクワクびっくり映像は撮れないのであーる!
 はい、次! って、うわあああ!? な、なんだ!?」
 クラネルがカメラを向けた先にいるのは、偏った恐怖『人間』の集合体である『Eraboonehotep』オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569)その人だ。
「そう驚くものではない。
 ――派手な映像を望むとは。貴様等は実に好い紙束を選択した。我等『物語』こそが頁を捲る書籍で在り、数多の設定を抱擁する母親だ。されど興奮を得て突っ込むな! 迫力は保証しよう」
「すでに、ビックリどっきり映像が撮れてしまっている気がしないでもないが……ううむ、ローレット恐るべしだ。
 さ、次! おお、普通の少年だ」
 手にしたカメラの仰角を少し下げて、少年――に見える『雲水不住』清水 洸汰(p3p000845)を撮る。
「一応年上だかんなー。
 まあ、このコータ様の活躍を見たいってなら、遠慮するこたないかんなー」
 とはいえ仕事には危険が伴うと、バッチリ注意を入れる辺り中身は成長しているのだろうか。
「ううむ、小さい少年に釘を刺されてしまった。
 次は――これまた小さい子が来ましたね」
「あちしはパティ・ポップでち。
 一つ聞きたいのでちが、今回の依頼はアクション多めに取ってもらいたいって話でちか?」
 『ドブネズミ行進曲』パティ・ポップ(p3p001367)の問いかけに親指立てるクラネル。
「イエス! もうひゅーんどーんばこーん! って感じでお願いしますよ!」
「ふーん、まー、あちしって、ちょこまかちゅるだけでちからねー。まー頑張るでち」
「やっとまともな意気込みが来た気がするぜ。
 さー次は、おぉ、グラマラスなナイスバデーの女の子!」
 『夢見る狐子』ヒィロ=エヒト(p3p002503)へとカメラを向けたクラネルが、つま先から舐め回すようにカメラの仰角を上げていく。最後にその微笑んだ顔にフレームが合わさるとヒィロが口を開く。
「ふふん、いい絵は撮れたかな?
 全幻が泣いた! 全幻No1! 全幻騒然!
 そんな迫力満点の映像も貴重な原石もイレギュラーズにお任せ!
 君達がお金かけてるように、ボク達はプロとして命をかけてるからね。任せて頂戴」
「バッチリいい絵が撮れました!
 次は……大人しそうな、少年……か?」
 カメラのレンズが向くと一瞥しそっぽを向く『機工技師』アオイ=アークライト(p3p005658)。そうしてクラネル達に聞こえるように言葉を零す。
「派手な映像を撮りたいってのはいいが自分たちが危険な目に遭う可能性ってのは少しは考えないもんなのかな」
「ひぃぃ、なんか怒らせちゃった? 怒らせちゃったの?」
 思わずカーラがクラネルの背後に隠れる。そんな様子を見てアオイはニィ、と笑い、
「ま、そうならないように俺達がいるんだよな。見せてやろうじゃねーか、『イレギュラーズ』ってもんをさ!」
「言葉遣いが荒いだけで、結構いい人なのかな?
 さ、最後いってみよー!」
 最後の一人、その煌めくデコにレンズが向けば、『きらめけ!ぼくらの』御天道・タント(p3p006204)が待ってましたと言わんばかりに高飛車お嬢様笑いを決める。
「オーッホッホッホッ!!
 わたくしの勇姿を永久に残したいとは良い心掛け!
 躍動感溢れる映像を撮りたいならば! このわたくし!」
 タントがパチンと指を鳴らすと同時、どこからともなく声が響き渡る――
    \きらめけ!/
    \ぼくらの!/
 \\\タント様!!///
「──‬に!万事お任せですわー!!」
 ビシィ、とシャイニングチャーミングエレガントポーズ(可愛い)を決めるタント様。
「最後の最後にすごいの来たな。
 っていうかどこかのお嬢様みたいだけど、ローレットはこんな子もいるのか……」
 そうして本一件に参加するメンバーを撮影し終えたクラネルは、武者震いに身を震わせた。
「へへ、なんだかすごい映像が撮れそうな気になってきたぜ!
 いよっし、行こう! 百目のギガンテックアイに出会いによぉ!」
「――それじゃここから二時間山道だかんなー。遅れるなよー」
「えぇ!? 二時間!!?」
 貴族の少年達にはとっても荷が重い行進が始まった。

 そして、彼らは目にする。
 山間に突如現れた巨大生物を――

「馬鹿なことやってないで早く行くわよ」
 ナレーションに夢中になってたクラネルは、カーラに頭を叩かれるとイレギュラーズの後を追い、山を登り始めた――
 
●取材班は見た! 百目の巨人ギガンテックアイ!
 ――ギガンテックアイ。
 数える程しか目撃例のないその魔物は、霧深い山間に特定の時期だけ現れるという。
 情報屋の掴んだ情報によれば、その特定の時期というのが今日というこの日だったのだ。
 ギガンテックアイを初めて目撃した冒険家は言う。
 ――百目もつ山のような魔物だった、と。

 そして、彼らは目にする。
 深い霧の山道を登っては下ること二時間。
 突如感じた震動に視線を動かせば、そこに山が動いていた――

「で、でっけぇぇ――!」
 一人テンションを上げてカメラを回すクラネルを余所に、イレギュラーズはその目の前の魔物に対し、どうアクションを取れば良いか思案していた。
「これは、想定外の大きさですね。
 まさに、動く山、という形容が相応しいかと」
 ファミリアーを飛ばしその魔物の様子を探るシェリーがそう言葉を零す。十メートル程度であれば対応の仕方は浮かぶが、桁が一桁違うのであれば想定がすべて崩れるというものだ。
「然しもの我ら『物語』もあの巨体に潰されれば一溜まりもあるまいな。
 然りとて、物語を縛る理が或る以上、此処で退く選択は持ち得ないだろう」
 オラボナの言う理とは、ローレットのハイ・ルールに当たる。そう依頼を受けた以上、全力で挑む他ないのだ。
「とりあえず撤退ルートを用意しつつ、近づいてみようか。
 あれだけ大きければ、私達のことなんか気にもとめないだろうし、案外平和的に終われるかも?」
 此処でこうしていてもしょうがない。ヒィロの意見に賛成し、イレギュラーズは慎重に足下へと近づいてく。
「しかし、これは完璧に壁だなー。
 大人しいのが幸いってとこかなー?」
 コンコンと洸汰がギガンテックアイの踝に当たる部分を叩く。足は微動だにせず高く聳え立っていた。
「今のうちに宝石を確保ちたいでちね。
 ちょれらちいモノは……あれでちかね?」
 パティが指さした先、それはギガンテックアイの膝下、脛に当たる部分だろうか。紫色に光る結晶体が見えた。
「目当てのモノが見えているのなら、サクッと取ってしまいましょう。
 でこぼこした足のようですし、勢い付けて駆け上れば届きそうですわ」
「ちょれならあたちに任ちて欲ちいでち」
 言うが早いか、パティが見事な身のこなしで巨人の足を駆け上がる!
「おぉーすごい動きだ! 見る見る駆け上って――」
 身を乗り出すクラネルを蜜姫が押さえつつ、宝石へと向かうパティの映像が押さえられた。だが、すぐにパティが降りてくる。
「あの宝石めちゃくちゃ硬いでち。周囲の肌ごと切り取るちかないでちね」
「何度か攻撃を繰り返さないとだめってことか」
「なら手早――皆、離れて!」
 ヒィロの叫びに反応して一同が距離を取る。視線の先、ギガンテックアイの足に無数の亀裂が入り――開いた。
「目だ! 無数の目がこっちを見てる!」
 クラネルの上げた言葉通り、足に開いた無数の瞳。ぎょろりとした目が確かにイレギュラーズ達を捉えた。そして無造作に巨人の足が持ち上がる。
「うぉぉ――! すごいぞ巨大な足が持ち上がって――!」
「危ないですのでお下がりなさい!! 死にますわよッ!!」
 タントがクラネルを引っ張り一気に離れる。
 そうしてイレギュラーズがいた場所に、これまた無造作に足が振り下ろされた。
 激震。
 衝撃に空気が振動し、木々がへし折れる。
「ただ足の位置を変えただけでこれは――」
 冷静に状況を分析するシェリーの横ではクラネルがずいずいと身を乗り出す。それを蜜姫が捕まえて飛び出さないようにしていた。
「本当に危険なの。下がってて欲しいの。
 巨人さんにぷちって潰されたくはない、よね?」
「いやいや、しかし、この映像を撮らねばならないのですよ! すごい、すーごーいーぞー!」
「とにかく宝石を取っちまおうー。
 そしてすぐに撤退だー」
 洸汰の言葉に頷いて、イレギュラーズの宝石奪取が始まった。
 誰よりも早い反応で動き出したのはパティだった。
 今一度巨人の足を駆け上りくるりとジャンプ。宝石を前に周囲の肌をナイフで切りつける。宝石を引っ張るもまだまだ取れる気配はない。
 瞬間、轟音ともなう咆哮が響き渡る。巨人が肌を裂く痛みに上げた泣き声だ。
「巨人さんが泣いてるの!
 あ、手が動いて――!」
 カメラを装着したファミリアーで巨人の上部から撮影していた蜜姫。その巨人の様子を感じ取ると声を上げる。
 空気の揺れる音と同時、巨大な巨人の手が地面を抉りながら無作為に振るわれる。
「全員オレとオラボナの後ろに入れー」
「驚天動地の暴力。オラボナ=ヒールド=テゴスの影に身を潜めるが好い」
 洸汰とオラボナが壁となって襲い来る岩石や木々の鏑を防ぐ。巨人の手の直撃を受けようものなら、一瞬にして遥か遠方へと飛ばされてしまうだろう。
「危険地帯最前線! って感じだな……! オレも気をつけるけど、後ろも油断するなよ!」
 傷付く洸汰が声を上げる。
「ひぇぇ……クラネル、これ大丈夫なのぉ!?」
「ええい、とんでもない映像が撮れてるんだ、邪魔をするな!」
 カーラが恐怖にすくみ上がる。その恐怖を和らげるように蜜姫の神聖な光が周囲を包む。
 イレギュラーズは役割を分担し、攻撃を繰り返していたが特に巨人の注意を引き、攻撃(自衛反応)を出来るだけ仲間から離そうとしていたヒィロの活躍は目覚ましいものがあった。
「プロはどんな状況でも仕事をやり遂げる――!
 って、うわー指が迫って!? 諦めるかー!」
 巨人の摘まみ取ろうとする指をかいくぐるヒィロのプロ根性は素晴らしい。
 そして演者としてのプロ根性を見せるのがもう一人。
「オーッホッホッホッ!!
 全員わたくしに続けですわー!!」
 激震広がり土砂や落石の降り止まない戦場を、高笑い上げて華麗に駆け、優雅に飛び、典麗明媚に回って、嬋媛にカメラのレンズを捉えて放さず、窈窕に佇むその様はまさに主役級。本依頼の主旨を十分に理解していることだろう。ヒーラーのはずだけどね。
 そんな華々しいタントに映像は任せつつ、もう一人のヒーラーアオイは的確に傷付いた仲間を回復し、戦線を支える。
「鈍い動きなのが幸いしてるが、一発貰ったらアウトだからな。気を抜くんじゃねーぞ」
 言葉遣いは悪いけれど、その仕事ぶりはまさに職人。アオイとタント(主にアオイだが)に支えられイレギュラーズは継続した攻撃を繰り返すことができた。
 巨人の足に付けられた傷が広がっていく。人間で言えば掻き壊した程度の傷だが、この巨人めっぽう痛いのに弱い。傷が付けられるたびに地団駄ふむように暴れ、痛みのポイントを叩き、掻き、痛みが引かないと周囲の環境に当たることを繰り返した。
 それはもう自然災害のようなもので、とにかく不運にも一撃貰わないように祈るしかなかった。
 敵の注意を引きつけるヒィロや、防備を固めている洸汰、そして高い耐久値と再生能力で仲間を守るオラボナの三名は特に危険の直中にいた。
「おぉぉぉ――! すごい! すごすぎる!!
 とんでもない映像が撮れてるぞぉ――!!」
 そんな中クラネルだけは本当にネジが外れたように巨人に齧りつく。離れようとするクラネルをバブみを感じる慈愛ボイスで諭すオラボナのワンシーンは撮影した映像の中でも必見の名シーンだろう。
 そして幾多の攻撃の果てに、ついにその時がやってきた。
 巨人の指の間をすり抜けて、シェリーが駆ける。でこぼこした足はもう何度となく登り、登攀ルートが見えている。一瞬の遅れもなく駆け抜けて登り切ると、絢爛な舞刀を舞い魅せる。
「これで――!」
 確かな手応えと共に、巨人の肌にめり込んでいた宝石が抉り取られる。落とさないようにキャッチし、すぐさま革袋にしまい込むと、巨人から離れる。
 オォ――ン。
 一際巨大な泣き声が響く。
「何があるかわかりません、すぐに撤退します!」
 シェリーの言葉と同時、今一度巨人の足にある無数の”目”がイレギュラーズを捉えた。蒼く輝く瞳が、激昂するように赤く染まり――それは明確な敵意と殺意を持つことをイレギュラーズは感じ取った。
「急いで!」
 ぐちゃぐちゃになった山間を全力で駆ける。
 背後からは巨人の手が全てを抉り取りながら高速で近づいて――
 クラネルが振り返れば、襲い来る掌の一撃をイレギュラーズがその身を盾にブロックする姿が映る。
 吹き飛ばされるイレギュラーズ。だが、その身を挺した動きは巨人の手を止めるに至った。
 傷付き倒れるイレギュラーズが、引き摺るように身体を起こし、用意していた荷馬車に飛び込むと一目散に逃げ出した。
「ふぇぇ……死ぬかと思ったよぉ」
 身体を抱いて自らの無事を喜ぶカーラ。
「す、すげぇ……すげぇぜイレギュラーズ」
 荷馬車の中辛くも逃げ出すことに成功したクラネルは興奮冷めやらぬように震える手でカメラを抱え込むのだった。

●映像の出来映えは?
「なぁにボケっとしてるのよ」
 コツンとカーラがクラネルの頭を叩く。
「べぇっつに~」
 まるでつまらなそうにクラネルが言葉を伸ばす。
「これから”会見”なんだからシャキっとする!」
 カーラに言われて現実を思い出したクラネルは大きくため息をついた。
「カーラ、お前、”あの”映像、すごいと思うか?」
「へっ? そりゃすごいでしょう」
「……ああ、そうだな。確かにすごい。本当にすごい。
 あまりのすごさに表彰され会見まで行われるんだ。すごい以外に言いようがない」
 うんうん唸りながらクラネルが言葉を続ける。
「ただなぁ~、エンタメ的に優れてたかっていうとちょい微妙なんだよなぁ~~。
 確かにアクションもあったし、刺激もあった。危険度なんてかなりのものだ。
 でも編集してみたら、場面が基本壁に登るイレギュラーズを映してるだけなんだよ。ドキュメントや学術的には良いのかも知れないが、映画ってもっとこうシーンの切り替えとか、メリハリがあるでしょ!?」
「あんたね……それローレットの人が聞いたら泣くわよ」
「そう、ローレット、イレギュラーズ。
 個性的で本当によかった。満足してるんだけど……エンタメ的に演技が少なくてちょっと物足りなかったなぁ。
 全員があのデコお嬢様とすごい人(オラボナ)並に目立ってれば気にならなかったかもしれないけど――そうデコ娘といえば、まじあのデコ娘がどんな場面でも見切れて映っててそっちに視線がいっちまうんだよ!
 巨人か、デコかって具合だよ!? いいのか、そんなんで!?」
 ガタン、とイスから立ち上がって、拳を握るクラネル。
「いいわけあるかー! だめだ、取り直しだ、取り直し!
 テイク2いくぞー!!」
「いけるか、このバカー!」
 スパコーンとクラネルの頭が叩かれた。
 すごい映像は撮れたが、残念ながらクラネルはいまいち満足しなかった模様なのでした。
 彼らが今一度ローレットの門戸叩く日はそう遠くない未来にあるかもしれない――

成否

成功

MVP

御天道・タント(p3p006204)
きらめけ!ぼくらの

状態異常

なし

あとがき

澤見夜行です。

プレイングの質も高く、問題の無い成功となりました。
このレベルならもう一本依頼をこなしてクラネルくんの満足度をあげることもできたように思えます。が、やっぱり冒険は怖いですよね。
安牌をとる慎重派な姿勢も大事! 依頼成功を喜びましょう。

MVPは相談も積極的で、映像の主旨を体現していたタント様に差し上げます。
まあその場にいるだけで画面がうるさくなるちょっとずるいキャラでしたね。
プロ根性を余すとこなく発揮し、一人巨人の攻撃を引き寄せていたヒィロさんには称号を贈ります。
『依頼の流儀』とかにしようと思いましたが、流石にアレなので可愛くしておきます。

なおOPにいたヒューイ君は文字数稼ぐ犠牲になりました。
余談ですがタイトルのテイク38は僕の出したシナリオ本数の38番目という意味でした。キリも悪いしどーでもいいですね。

依頼お疲れ様でした!

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