シナリオ詳細
<熱砂の闇影>恋路を阻む帳がひらめく
オープニング
●神の国の領域
――仔羊よ、偽の預言者よ。我らは真なる遂行者である。
主が定めし歴史を歪めた悪魔達に天罰を。我らは歴史を修復し、主の意志を遂行する者だ。
天義に降りた神託は『現在の天義はまやかし』であり、正しき歴史に修復すべく『使徒』が訪れることを予告していた。
殉教者の森に進軍していた致命者。エル・トゥルルにおける聖遺物の汚染。そして、天義の巨大都市テセラ・ニバスを侵食した『リンバス・シティ』の顕現。それらはイレギュラーズの協力により、深刻な事態を招くことは避けられた。
聖遺物を核として作られた『遂行者』たちの領域、それは『神の国』と呼ばれた混沌のコピーであり、リンバスシティは『神の国』がテセラ・ニバスに定着したことで生まれた敵の陣地と言うべきものだった。『冠位傲慢』ルスト・シファーの権能によって構築され、各地にばら撒かれた『聖遺物』や『其れに準ずるもの』及び『遂行者が細工をした何らか』の元に『降ろす』事が出来ることも判明した。つまり、『触媒』さえあれば、リンバス・シティのように『帳』を降ろし、『現実に神の国を定着させること』が出来るのだ。
『神の国』と呼ばれる混沌の領域を広げる『遂行者』たちは、歴史を修復するという神託に従い、すべての存在を作り変えようとする。
遂行者達の魔の手は、『ラサ傭兵商会連合』にも及ぼうとしていた。
●恋に嵐
『黒き流星』 ルナ・ファ・ディール (p3p009526)は占い師の女、ユノ・シンティ・ロマに呼び出される。
ローレットの依頼を通じてユノと知り合ったルナは、ラサの地で落ち合った。そのユノは占い師らしく、ルナに謝意を示す代わりに誘いかける。
「どうかしら? 今日の運勢を占ってみない?」
ルナはあくまで仕事を優先しようと断り、ユノから用件を聞き出そうとする。
「それで? 俺たち、ローレットに売りたい情報があるんだろ?」
ルナのどこか素っ気ない態度を特に気にする様子もなく、ユノは本題に入った。
「情報を売る代わりに、私の困り事に関しても解決してもらうわ」
ユノの周囲で発生している異変と、昨今の騒動は関連しているようだった。
ユノはそこそこ人気の占い師であり、占いといえば恋愛が絡んでくるものだ。ユノを贔屓(ひいき)にしているのは、ラサの一角にある歓楽街界隈の客、そこで働く女性たちなどが中心だった。しかし、最近になって恋愛絡みの相談に応じていた常連客の多くが途絶えてしまった。歓楽街で働く常連客の1人に理由を尋ねてみると、その客は惚れていたはずの相手のことなど忘れていた。まるで最初からそんな気などなかったかのように振る舞うのだ。
「これって、ウワサになっている怪物の仕業じゃないの? ほら、アレよ。え~っと……あなたたちがワールドイーターと呼んでいた――」
終焉獣(ラグナヴァイス)に類するワールドイーターの存在、情報は巷にも流れているようだ。
見境なく世界そのものを食らう他の終焉獣とは異なり、ある一定のものを食らうことに執心するワールドイーター。今回ラサに現れたワールドイーターが何に執着しているのか、ユノは薄々感づいていた。
同様に記憶が食い違い、まるで改ざんされたかのようになっている客は複数確認された。夜の蝶にガチ恋していた客も、元カレに未練たらたらだった女性も、恋愛事に関するすべての記憶、恋心を失っているといのうがユノの分析だった。
「――というのが私の常連の共通点なのだけれど、それだけじゃないのよ」
恋心を失った客たちの腕には、小さなアザができていた。しかもそのアザは、すべて同じ形をしている。アザに関する記憶は誰もが曖昧だった。そして、誰もが直前に黒い死神のような化け物が目の前に現れ、わずかな間に消え去ったと証言したのだ。
ワールドイーターの存在、共通するアザの形――それらが何を意味するのか、ルナは理解した。ワールドイーターは恋心を食らうと共に聖痕を刻み、神の国を降ろすための触媒をばらまいている。止めなければ世界を書き換えるための『帳』が降ろされるのは時間の問題だろう。
歓楽街の客入りも減ってきていると話すユノは、今確認されている以上にワールドイーターの被害者は多いだろうと予想する。
「このままじゃ商売に響いてしょうがないわ」
そう言ってため息をつくユノに対し、ルナは早急に対処する意思を覗かせた。
「とりあえず、その歓楽街を当たってみるか――」
「ええ。一緒に情報収集しましょう」
「あ? 『一緒』に?」
「私の今週の運勢は最高なの。あなたにも運のお裾分けができるかもしれないわよ」
「いや、そんなもんに期待する気はねえよ」
「あら、そう? 私の占いは評判いいのよ」
「というか、そういう問題じゃねえ。ワールドイーターの狩場かもしれない場所に、わざわざ突っ込むつもりか?」
「そんなに心配する必要ないわよ。ローレットのあなたたちが守ってくれるんでしょ?」
当然のように同行するつもりのユノは、釈然としない様子のルナのことなど気に留めていなかった。
ラサの一角にある小規模な歓楽街。通りを挟んで並ぶ夜の店、怪しげな媚薬や精力剤を売る露店、客引きをする妖艶な女性たち──そんな歓楽街に訪れる客の姿はちらほらあるものの、賑わっているほどでもない様子はどことなく感じられた。
「ワールドイーターとかいう怪物を倒せばなんとかなるんでしょう?」
ユノは常に落ち着いた態度で、イレギュラーズと共に情報収集のために歓楽街に繰り出そうとする。
同行するイレギュラーズの1人と目が合ったユノは、妖しい笑みを浮かべて言った。
「あなた、想い続けている人がいる──恋をしている顔ね」
占い師としての直感なのか、ユノは得意気に語る。
「私は自覚はないけれど、あなたは気をつけた方がよさそうね。ワールドイーターに『恋心』を奪われないようにね」
- <熱砂の闇影>恋路を阻む帳がひらめく完了
- GM名夏雨
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年08月16日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
歓楽街に出没するというワールドイーターを討伐するため、イレギュラーズ一行は聞き込みを開始した。
手分けして歓楽街を回る8人の内、『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)、『狂言回し』回言 世界(p3p007315)、『性別:美少年』セレマ オード クロウリー(p3p007790)の3人は表通り、歓楽街の中心へと足を運ぶ。
普段見る街の光景とは異なる、歓楽街特有の雰囲気を感じつつも、夜の楽しみを求めてやって来たまばらな客の姿を3人は眺める。
早速行動を開始しようとする世界は、改めてヨゾラとセレマに向き直ると、
「ところで、表通りで聞き込みをするのはいいのだが一つだけ問題がある──」
世界は、わざとらしく真剣な表情を作って続ける。
「俺がイケメン過ぎるが故に、恋心を食べられてしまう被害者が増えてしまいかねないということだ」
世界の一言を聞いたヨゾラは、引きつった愛想笑いを浮かべてセレマを一瞥(いちべつ)した。セレマはすでに世界とヨゾラに背を向け、酒場が並ぶ場所へと歩き出していた。
世界はどこか冷たい風が、背中に吹きつける心地を覚えた。
ヨゾラが気まずそうに視線を泳がせていると、
「……くだらない冗談は程々にして、依頼に集中しないとな」
即座に切り替えた世界は、夜の歓楽街に踏み出していく。
──いかなる蛇の道も今日は怖くないのだわ、今回の敵はそれより恐ろしい事をしてくるのだから。
ひとり歓楽街の裏通りへと向かった『蒼剣の秘書』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)は、ワールドイーターの被害を食い止めるために調査を開始した。
裏通りは表通りの様子よりも寂しいもので、輝きを放つ鉱石のランプの薄明りが各所の店の看板を照らしている。
「さてさて……何か面白いうわさ話はあるかしら、と」
『こそどろ』エマ(p3p000257)も盗賊らしく、一層治安の悪い裏通りに足を向ける。悪い評判が絶えないような後ろ暗い場所は、自分のような人間にこそ相応しいだろうと、エマは1人自嘲的な薄笑いを浮かべた。
歓楽街は、色と香りと音に満ちていた。夜の帳が降りると、人々は欲望のままに街を歩き、自分の欲するものを探していた。それは金か、酒か、肉か、あるいは恋か。恋という言葉は、この街では安っぽく響くものだ。本当の恋など、この街に存在するのだろうか――。
「――歓楽街で恋心、なぁ。性欲やら独占欲の間違いじゃねぇのか」
ここにはそれらを満たすための偽りの恋しかない。そのように考える『黒き流星』ルナ・ファ・ディール(p3p009526)はつぶやいた。
「この街にも本当の恋があるかもしれないわよ。私たちが見つけられないだけで」
猫なで声で通行人にすり寄る娼婦の姿を目で追うルナに向かって、ユノ・シンティ・ロマは言った。ユノはタルをテーブル代わりにして、付き人を装うルナの傍らでタロットカードを並べていた。
ユノやルナと共に行動する『ふわふわ』えくれあ(p3p009062)は、ユノの商売を手伝うために張り切って呼び込みをしていた。
「そこのおねーさん! よくあたる占いはどうですか?」
獣種であるえくれあの愛らしいウサギの見た目と、その天真爛漫な笑顔は、歓楽街の擦れた人々の心に癒しをもたらすものだった。そのため、思わず足を止めてしまう通行人は後を絶たなかった。
やんわりと断られることも続いたが、1人2人と徐々に占いを請う客が現れ始めたとき、えくれあはどこからともなく漂う匂いに気づいた。
えくれあが嗅ぎつけたのは、チーズが焼ける香ばしい匂い、食欲をそそるトマトの芳醇な香り──。すぐに向かいにある屋台の存在に気づいたえくれあは、その屋台の主人の姿を見つけて駆け寄っていく。
「クアトロおねーさーん!」
えくれあに声を掛けられた『葡萄の沼の探求者』クアトロ・フォルマッジ(p3p009684)は、屋台で提供するピザを用意しているところであった。
クアトロは自在にピザを出現させることができるという、不可思議な能力を持っていた。そのピザの種類や具材は、クアトロの意思によって様々なものに変化させることができた。
焼きたてのピザはすでに紙箱に入った状態で、クアトロはペパロニピザのスパイシーな香りを満足そうに吸い込む。屋台を構えたクアトロは、客日照りが続く歓楽街を盛り上げようと張り切っていた。やがて屋台の前にやって来たえくれあに気づくと、
「あら、えくれあちゃん。どう? ひとつ、味見してみない?」
クアトロの誘いに表情を綻ばせるえくれあは、目の前の焼きたてのピザに更に表情を輝かせた。
「ダメなのだわよ、お姉さん……こんなことするなんて──」
こういうところは慣れていないから不安だったけれど、経験から学ぶことも多いのだわ。
きっとたくさんの不幸を積み重ねて、道を踏み外してしまったのね。私は、決してあなただけが悪いとは思わないわ。
「とっても悲しいのだわ」
路地裏で華蓮に声を掛けてきた水商売風の女性に気を取られている瞬間を狙い、男は華蓮を羽交い締めにしようと背後に忍び寄った。しかし、華蓮は瞬時に危機を察知し、男が構えていたナイフを弾き飛ばした。神通力のように放たれた一矢──華蓮の力に戦慄した男女2人は、相手を侮ったことを後悔し即座に退散した。
肩を落とす華蓮がわずかに嘆息した直後、エマは前触れなく姿を見せた。
「ひひひ、災難でしたねぇ──」
華蓮と同様に路地裏での聞き込みに励んでいたエマは、華蓮が襲われる寸前の現場に遭遇していた。
「とはいえ、さすがですね。私が出しゃばる隙もなかったですから」
「えひ、えひひ……」と特有の引き笑いを添えるエマの言い方は、強者に媚びる小悪党味を感じさせないこともなかったが、華蓮は気にせず聞き返す。
「エマさん、そちらで何か収穫はあった?」
エマは華蓮の一言を受けて、弾かれたように踵を返す。
「えひ……っ! そうなんですよ、華蓮さん。その辺のバーで気になる目撃情報がありまして、どうやらユノさんたちがいる辺りが──」
「黒い死神のような化け物を見かけなかった?」
ヨゾラは、地道に表通りでの聞き込みを続けていた。また、ヨゾラは鳥の使い魔――ファミリアーを使役することで、上空からも常に周囲に目を光らせる。そんなヨゾラだったが、時には客引きの女性に捕まることもあった。
「――そんなことより、私は可愛いお兄さんに興味があるんだけど♡」
「お店でもっとゆっくりお話ししましょう♪」
「い、いえ……僕はまだ、ややややるべきことがあるので……!」
ヨゾラはどうにか女性たちを振り払い、聞き込みを再開するために逃げ果せた。一方で、顔見知りの商人から情報を集めていた世界は、屋台の前を通り過ぎようとした。
「そこの素敵なお兄さん、美味しいピザはいかがかしら?」
──俺の顔面偏差値も馬鹿にしたものではないな。
世界はクアトロのセールストークを耳にして振り返ったが、その一言でクアトロの方に引き寄せられた通行人は世界だけではなかった。
ピザを無限に出現させることのできるクアトロは、屋台周辺に焼きたてのピザの香りを漂わせる。クアトロのピザ屋はちょっとした盛り上がりを見せていた。
歓楽街の人々を元気づけたいというのも理由の1つだったが、クアトロには別の目的もあった。クアトロはその妖艶な美貌で、男性客の心をつかんでいく。ワールドイーターがどれほどの恋、熱情を望んでいるのかはわからないが、クアトロは一時的なものでもワールドイーターを引き寄せる足掛かりになることを目論んでいた。
「世界さんも、ピザはいかが?」
世界は一抹の虚しさを覚えつつも、クアトロからすすめられたマルゲリータの一切れを受け取る。「ピザ、うまっ」と思わず声に出した世界は、あっという間に一切れを平らげていた。
世界の食いつきの良さを前にして、クアトロはそれとなく確認する。
「何か情報はつかめた?」
あつあつのチーズとトマトの酸味が絡む生地を頬張る世界は、クアトロの問いに対しある方向に顔を向けて示す。
「俺よりも、彼に期待した方がいいかもしれないね」
そうつぶやいた世界の視線の先には、その『彼』の姿があった。どこかのジャズバーから路上に引っ張り出させたスタンドアップピアノを演奏する人物――自他共に認める『美少年』セレマの演奏は、周囲の人々を魅了した。
――出会いに飢えた馬鹿どもをひっかけるには十分だ。見ず知らずの少年が、路上で洋琴を弾き語り、心付けを寄越した女に愛想よく微笑み礼を言う。まるで小説みたいなロマンチックな出会いだろう?
自身の類まれなる美貌と音楽の才能を生かし、セレマはワールドイーターのための撒き餌となる対象を仕立て上げようと路上ライブに臨んでいた。セレマの目論見通り、一般客らしい複数の女性たちが足を止め、セレマが奏でるピアノの音色に聞き入っている。セレマの手指はどこまでも滑らかな動きで鍵盤を弾き、澄んだ音色が幾重にも響き渡る。演奏家さながらの只者ならぬセレマの姿に、女性たちは熱を帯びた視線を送り続けている。セレマに落とされる女性が現れるのも時間の問題かと、ルナはその様子をユノのそばから離れず遠目に眺めていた。
セレマとその周囲の様子を観察していたルナは、1人のある女性に気づく。多くの通りすがりの女性らがセレマの路上ライブに関心を向ける中、その女性はまっすぐにユノの下を目指してやって来た。
髪を覆うようにベールを巻いた女性は、親しげにユノに声をかける。ユノが話していた常連らしいベールの女性は、早速今週の運勢についてユノに尋ねる。特に恋愛に関する結果については、彼女はユノの話を熱心に聞いている様子だった。
拍手を送る女性たちの黄色い歓声がユノたちの下まで聞こえ、セレマの路上ライブの盛況振りが窺える。
「あんな美形が演奏してるなんて、珍しいわね」
ベールの女性は歓声が聞こえた方角を見ながらつぶやく。
「あなたは彼の演奏を聞かなくてよかったの?」
演奏に見向きもしなかった女性は、ユノの言葉にはにかみながら答えた。
「だって……どんなに美形でも、今の私には彼以外考えられないもの」
その後も女性は延々と惚気話を並べる勢いだったが、ルナの行動によってその場の空気は一変する。ルナはベールの女性を即座に両腕に抱え上げると同時に、「乗れ、ユノ!」とただならぬ形相で指示を出す。ユノは反射的にルナの指示に従うと共に、華蓮の姿を目にした。華蓮は路地の向こうから、ルナらの頭上後方を狙い撃つ。
建物の屋根、ルナたちの頭上から漆黒の影が飛び出すのと同時に、ユノともう1人を抱えたルナは、迅速にその場から退避させる。神威が込められた華蓮の一撃は矢となって飛び出し、迫ろうとしていた不穏な影の正体を捉えた。
華蓮の矢が襲撃者の脇腹を裂いたことで、対象はバランスを崩しかけて着地する。その瞬間を狙うように、エマは斜め向かいの建物の上から飛び出した。その速さに反応し切れず、襲撃者はエマのタックルをまともに食らい、裏通りとの境から表通りへ突き飛ばされる。その異様な姿、騒ぎに気づいた者は多く、他のイレギュラーズも即座に戦闘に移る構えを見せた。
夜陰と同化するような漆黒の影そのものの姿は、不気味な死神の輪郭を現す──漆黒の終焉獣、ワールドイーターは堂々とイレギュラーズの前に姿を見せる。
死神らしくその手には大鎌が握られているが、大鎌の見た目は歪なものだった。赤やピンクのリボン、大中小様々なハートの装飾やきらびやかなビーズでデコレーションされた大鎌は、明らかに不釣り合いな組み合わせに見える。
ルナによって退避させられたベールの女性は、どこかに隠れるように促された。半人半獣の見た目であるルナは、獅子の胴体にユノを乗せた状態でその身を翻す。すると、ワールドイーターは脇目も振らずにルナの方へと向かって来た。
ワールドイーターの狙いを瞬時に把握したヨゾラは、凄まじい勢いでワールドイーターに突撃する。
「貴様が奪った全ての恋心を――」
背中に刻まれた魔術紋が強烈な輝きを帯びるのと同時に、ヨゾラはワールドイーターに向けて攻撃を放つ。
「とっとと返せこらぁー!」
流星のごとく至近距離に迫ったヨゾラは、砲撃を放つようにワールドイーターを吹き飛ばした。
弧を描いて宙へと投げ出されたワールドイーターだったが、着地した瞬間に反撃を開始する。その動きは、まるでヨゾラの攻撃に動じていないようでもあった。ワールドイーターを妨害しようと、更にクアトロも動き出す。
クアトロはその手の中に瞬く間に魔石を生成し、ワールドイーターに向けて弾丸のように射出する。反撃に転じようとしたワールドイーターは、クアトロの一撃によって出鼻をくじかれる。ワールドイーターが攻撃に備えて身構える間にも、エマや華蓮が周囲を取り囲んだ。
戦況は目まぐるしく移り変わり、ヨゾラは周囲の変化をはっきりと感じ取る。低くうめく獣の声が次第に無数の群れへと変化し、一帯に不穏な気配が満ちる。夜闇から這いずるように現れ出た漆黒の獣――終焉獣の群れが街中をパニックに陥れる。
世界は率先して周囲の民間人を退避させようと動く。それと同時に、世界は表通りに姿を見せた複数の終焉獣らの前に進み出た。終焉獣の注意を引くことで、世界は街の被害を最小限に抑えようと働きかける。
「精々名前負けしないよう頑張ってみるんだな――」
不敵に笑う世界は、うなり声をあげる終焉獣を挑発することで引きつけようとする。
「御大層な名前を持っているらしいが、目の前の男一人喰えないようじゃ、底が知れると言うものだ」
相手が世界の言葉をどこまで理解しているかはわからないが、目の前で無防備な姿をさらしている世界に襲いかからない理由はなかった。終焉獣が一斉に牙をむき、ワールドイーターとの闘争は混迷を極めていく。
ワールドイーターは息つく間もなくエマやクアトロの攻撃にさらされる。ワールドイーターは攻撃を掻い潜ってでもルナを捉えようとし、執着する動きを見せた。
大鎌を振り回すワールドイーターはエマたちを寄せつけず、わずかな間に無数の魔法陣を空中に発現させる。宙に描かれた魔法陣からはすべてを焼き切る熱線が乱れ飛び、ルナへと集中的に撃ち出された。しかし、ルナは自らが生み出した魔力の障壁によって熱線を食い止める。
――恋心が飯らしいが、勘弁してくれや。枯れたオッサンの感情だぜ。『恋』だなんて甘酸っぱいもんじゃねぇよ。腹下すぜ。
自らを標的にするワールドイーターに対し、ルナは口元を歪めて身構える。
「あらあら……ワールドイーターには、どれだけおいしそうに見えてるのかしらね?」
ルナの背に乗るユノは、ルナをからかうほどにはのん気そうに構えていた。うんざりするばかりのルナは、内心ではワールドイーターのことを『悪食』と称していた。
──どっちにしろ……俺の情は俺のもんだ。てめぇにくれてやるもんは鉛玉しかねぇよ。
ルナはいつでも迎え撃てるように、古めかしい銃の引き金に指先を添えた。
ワールドイーターの狙いがわかると、華蓮はルナとユノに接近させないように立ち回る。一方で、ヨゾラは街中にあふれ出した終焉獣の群れを相手に奮戦する。
「ラサの人達や歓楽街を食わせてたまるか……ぶちのめす!」
ヨゾラの能力により、終焉獣らの足元は一瞬にして星空の海に塗り替わる。星屑を散りばめた底なし沼にずぶずぶと沈み込み、終焉獣の体は泥のようにまとわりつく星屑によって侵食されていく。
世界が終焉獣の群れを一挙に引きつけたことで、ヨゾラは終焉獣の掃討に尽力することができた。また、指揮杖を掲げるえくれあもサポートに加わり、掃討に専念する者らの勢いを加速させた。
「みんなの恋心を守るためにも、がんばっておてつだいするよ!」
力強い号令、天使のように清らかな歌声と共にその能力を発揮するえくれあは、ワ
ールドイーターらへの攻撃を後押しした。
舞い踊る羽の輝きがえくれあの視界にちらついた時、不意にセレマのそのつぶやきが聞こえてきた。
「恋、恋、恋――くだらない話だ」
セレマが自らの背に発現させた光翼は、その神々しい輝きによって『美少年』という存在を際立たせる。
――ボクは恋なぞした覚えはない。恋とは、相手に対して抱いた幻想に憑りつかれること、もっとはっきり言うなら独り善がりな妄想と自慰だ。結局この怪物もそういうものだろう?
ワールドイーターに向けられるセレマの視線は常に冷淡なものであり、侮蔑の意図が込められていた。
セレマの光翼は傷を癒す力を放つのと同時に、乱れ飛ぶ無数の羽は鋭利な刃と化して終焉獣らを襲った。
世界とヨゾラが張り巡らせた保護結界ごと街を食らおうとする終焉獣、大鎌を振り回して威圧するワールドイーターとの混戦は続いた。主軸となって終焉獣らを抑え込む世界の働きもあり、集中させた攻撃は確実にワールドイーターを消耗させる。
未だワールドイーターの攻撃の勢いは衰えなかったが、ワールドイーターは今までにない行動を見せた。窮地に追い込まれたワールドイーターは、終焉獣の1体を捕食、共食いすることで体力強化を図ろうとした。黒い球体のようにつるりとしていた顔部分の口元が裂けて広がり、連なる鋭い牙を終焉獣の体に食い込ませる。ジャーキーのように容易く体を裂かれた終焉獣は、痛々しい悲鳴をあげた。
ワールドイーターは攻撃にさらされながらも、動じることなく終焉獣をむさぼる。しかし、その体はすでにクアトロが仕込んだ毒の魔石によって蝕まれていた。
一層鈍くなるばかりのワールドイーターの動きに対し、クアトロは容赦なく追撃を放つ。精神を研ぎ澄まし、特に魔力を集中させたクアトロの魔弾は、ワールドイーターの脇腹を貫くほどの威力を見せた。
苛烈な攻勢を貫いてきたワールドイーターだったが、イレギュラーズとの攻防の末に遂に膝をつく。ワールドイーターが態勢を整える前に、エマは逃走する気配を予想したように瞬速の動きを見せた。
エマの殺人的なタックルによって撥ね飛ばされたワールドイーターは、地面に突っ伏した姿をさらす。わずかな抵抗もできないほどに限界を迎えたワールドイーターの体からは、たちまち黒煙が上り始めた。残された終焉獣たちもまた、その黒煙に包まれるように消滅するに至った。
イレギュラーズの活躍により、ワールドイーターが奪った恋心も元に戻ることだろう。ユノはイレギュラーズを労うと共に、「特別にタダで占いましょうか?」と占いのサービスを申し出る。ユノは特に何か言いたげにルナに視線を送っていたが──。
「せっかくの機会だし、運勢を占ってもらってもいいかな?」
最も乗り気なヨゾラに関心を向けた。
「じゃあ、俺がモテるか占いを……」と言いかけた世界だったが、一瞬考え直したようにつぶやいた。
「いや、結果が見えてるしやっぱいいや」
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
ご参加ありがとうございました。
恋の解釈というのは人それぞれというか、1つではない方が面白いですよね。
GMコメント
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
●成功条件
ワールドイーターの討伐。
●失敗条件
ワールドイーターの逃走および、同行者のユノが重傷以上の状態になること。
●ユノ・シンティ・ロマからの一言
「なんだか最近世界がどうとか、物騒な話をよく耳にするわね……。まあ、それはひとまず置いておいて、私の護衛は頼んだわよ。まだ『恋心』を食べられていないはずのお客に心当たりもあるし、あの界隈には詳しいの。私がいれば役に立つこともあるはずよ」
●シナリオ導入
通りを挟んで並ぶ店は30軒ほどある。イレギュラーズの目的にはお構いなしに、しつこく客引きをする店員、路地裏で恫喝されるぼったくりバーの客など、夜の歓楽街らしい情景が見られるだろう――。
●敵について
●ワールドイーターについて
死神の影のような漆黒の姿。その手には赤やピンクのリボン、大中小様々なハートの装飾やきらびやかなビーズでデコレーションされた不釣り合いな大鎌が握られている。
【物近単】の攻撃以外にも、大鎌による範囲攻撃(神近列【識別】【業炎】【ショック】)、魔法陣から光線を放つ(神遠範【呪殺】【HP吸収】)などの攻撃を操る。
●終焉獣について
ワールドイーターによって呼び出された終焉獣の群れ。漆黒のどう猛な獣20体。
ワールドイーターによる統率はそこまでなく、放っておけば歓楽街周辺を喰らい尽くすために暴れ回る。また、ワールドイーターは終焉獣を利用し、共食いをすることで力の回復を図る。
個性豊かなイレギュラーズの皆さんの参加をお待ちしています。
捜索範囲について
基本となる方針、行動範囲を選択してください。
プレイング内容はこうなるであろうという状況を想定したうえで構いません。
(※選択ミスによって、選択肢とプレイング内容が矛盾した場合は、プレイングを優先します。判定が不利になることはありません)
【1】ユノと共に情報収集
ユノは普段通りに歓楽街でタロット占いの商売をするようだ。ユノのそばにいれば、客からワールドイーターの情報を聞き出せるかもしれない。あるいは、ワールドイーターが好みそうな対象に出くわすやも。
【2】表通り周辺を聞き込み、巡回
歓楽街に出入りしている人間が襲われているのなら、ワールドイーターがどこかに現れても不思議ではない。表通りを中心に捜索する。
【3】裏通り周辺を聞き込み、巡回
裏通りを中心に捜索する。隠れ家的なバーも点在する場所だが、後ろ暗い取引がどこかで行われていそうな雰囲気が漂う。要するに治安が悪い。
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