PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<烈日の焦土>隠死事

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●かくしごと
 何かを隠すのにちょうど良い場所とは、どういうところだろうか。
 できるだけ人が立ち寄らず、暴かれず、密かに潜める、そんなところ。
 隠してしまいましょう。凡人の手の届かぬところへ。
 隠してしまいましょう。倫理感を鍵として。
 鉄帝の森深くのとある村に、かくしごとをしましょうか。

●追跡者
 ――司祭のような白服の者たちが森奥へ向かうのを見た。
   きっと奥の村へ向かうのだろう。
 鉄帝側に遂行者たちの動きはないかと情報を集めていた如月=紅牙=咲耶(p3p006128)の元に、待ちに待ったその情報が転がり込んできた。咲耶はすぐに件の村の場所を調べ、仲間を集い、ローレットを発った。
 雪は溶け、夏でも涼し気な鉄帝の森の中を、行き違いましたと無駄足にならぬよう急いだ。村に到着し、司祭のような者等の話を尋ね、そうして――咲耶たちは村外れの墓地へと行き着いた。
「おや」
 少しだけ意外そうな顔をしたその男は、すぐにごきげんようと笑った。
「異教徒よ、君にも神の慈悲があらんことを」
「……この地にて謀り事でござるか?」
「謀り事だなどと。何事も疑って掛かるのはよくありませんよ」
 男――遂行者たる『氷聖』は微笑んで、でもそうですねと顎に指をかけた。
「来てしまった以上、君たちは調べるでしょうし『ありますよ』とだけは伝えておきましょうか」
 それではこれでと氷聖は帰ろうとする。
「待たれよ。はいそうですかと帰すとでも?」
「君たちに余裕があれば、お相手してくださっても構いませんよ?」
 剣呑に得物へと手を伸ばす咲耶に微笑を向けたまま、氷聖はパチリと指を鳴らした。
「刻限は日が沈み切るまでにさせてもらいました」
「なっ――!?」
 既に空は赤く染まっている。30分もすれば日が沈みきるだろう。帳が降りてからも暫くは定着しきらないとは言え、可能な限り降ろしたくはないと思うのがイレギュラーズたちの意向のはずだ。
 氷聖の側にいる信者たちが一歩前へと出る。その数、十名。全員を相手にしていては、きっとその前に降りた帳が定着することだろう。くっと咲耶は唇を噛んだ。
「ご理解いただけたようで嬉しいです。それでは、またお会いしましょう」
 悔しそうなその姿にくすっと笑みを零した氷聖は、信者等を引き連れ姿を消した。

 墓地に残されたイレギュラーズたちは眼前の土を見――そうして覚悟を決めると、掘るための道具を手に取った。
 土葬されているであろう遺体に出くわさないことを願って――。

GMコメント

 ごきげんよう、壱花です。
 かくれんぼをしたので、かくしごとをします。
 楽しく墓荒らしをしましょう。

●目的
 触媒の破壊

●シナリオについて
 このシナリオは悪依頼です。村人たちにとっては気分の良いものではありませんので、名声が下がります。
 皆さんは既にとある村の墓地に居ます。使える道具は最初から置いてある穴掘りシャベル。人数分あります。これで墓を掘り起こします。
 眼前の土を見ただけではどれがそうとはわかりません。当然のことながら遂行者側が簡単に見つからないように細工をしているからです。そのための目撃情報が出ると理解していても連れてきた信者という人手でしょう。
 墓を掘りはじめて暫くすると、あなたは「あれ?」と思います。「あれ。どうしてこの人を埋めようとしているのだったろうか」と、誰かを埋めようと穴を掘っているのだと錯覚します。
 その人は、あなたにとって『親しい人』です。仲の良い友人でもいいし、愛している人でもいいです。触媒を探すために掘り起こそうとしているわけではなく、その人のための墓穴を掘っているということに気がついたあなたは、視線をずらすと眠るように死んでいるその人の幻覚を見ます。出来るだけ深い穴を掘って、埋めてあげねばならないという焦燥感が胸を満たすことでしょう。
 触媒を探していたことも頭から抜け落ちてしまいます。食べたいと普段なら思う人もいるでしょう。ですが、その時はそう思いません。兎にも角にも、あなたはその死体を埋めねばならないのです。
 あなたはどんな気持ちで隠死事をしようとしていますか?

 ほぼ個別リプレイになるかと思います。
 シナリオ趣旨を理解してお越しくださいますと幸いです。

●埋めようとしている人について
 名前を出さないようにしてください。「黒髪の俺の友人」等は大丈夫です。
 その人の死に顔を見て、あなたは何を思うでしょう。
 自分が殺してしまった設定でも、誰かに殺されてしまった設定でも大丈夫ですが、兎にも角にもあなたはその遺体を深いところへ埋めようとします。

●触媒
 誰かが掘っているところに木偶人形があります。
 最終的に誰かのシャベルが当たって破壊されますので、破壊を強く意識する必要はありません。
 破壊された段階で、全員に掛かっていた術が解けます。それ以外では解けません。

●『遂行者』氷聖
 いつも信者たちに囲まれている遂行者。
 満足して信者たちとお家に帰りました。

●EXプレイング
 開放してあります。文字数が欲しい時に活用ください。

 それではどうぞ、楽しい隠死事を。

  • <烈日の焦土>隠死事完了
  • あなたは、大切な誰かの死体を埋める幻覚を見ます。
  • GM名壱花
  • 種別通常(悪)
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年08月14日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
シルフォイデア・エリスタリス(p3p000886)
花に集う
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
ジルーシャ・グレイ(p3p002246)
ベルディグリの傍ら
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
夜砕き
ロレイン(p3p006293)
カイト(p3p007128)
雨夜の映し身
日向寺 三毒(p3p008777)
まなうらの黄

リプレイ


「胸糞悪ィな」
「氷聖め……厄介な物を残していきおって」
「悪辣なことを」
 どれもこれも、正直な感想だ。今にも舌打ちしそうな表情で『瞑目の墓守』日向寺 三毒(p3p008777)が口にすると、眉を顰めた『夜砕き』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)と『花に集う』シルフォイデア・エリスタリス(p3p000886)もそれに倣う。
「ちょ、ちょっと……よりにもよって墓地!? おばけとかゾンビとか怒って出てこないわよね!?」
 アタシそういうの本当にダメなのよ。シャベルをぎゅうと握った『ベルディグリの傍ら』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)がブルブルと震え上がる。
「これふつーに碌でも無い事にならないか?」
 墓荒らしに対して、呪われたとか祟られたとか罰が降ったとか……そんな話はゴロゴロと転がっているものだ。嫌だなぁと思ってしまうのは仕方ないが、けれどこれは仕事だし、放置すれば帳が降りる。意を決して『雨夜の映し身』カイト(p3p007128)もシャベルを握った。
「時間もないみたいですし、手分けするしかなさそうです……ね……?」
「とりあえず掘るか……」
 エリスタリスの言葉に溜め息で同意を示し、『金庫破り』サンディ・カルタ(p3p000438)もシャベルを握り、気持ちが良いとは世辞にも言えぬ行いに眉を顰めたロレイン(p3p006293)も皆に倣った。
「……今は生者のためにちぃっとばかし、許せよ」
「主よ、どうか私達の罪をお許し下さい」
 司祭として墓荒らしなど到底許される行いではない。けれど今は御目をお瞑りくださいと『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)は祈りの言葉とともにシャベルを土へと刺し、深く沈めるために足で踏み込んだ。

(埋葬、か)
 されているという事はある種幸せなのかもしれない。
 人の命というものはいつ失われるか解らず、災害や飢饉、戦争……死したその時にその形があるとも限らない。鉄帝は大きな戦いがあってからも日が浅く、尚更のことだ。
(『サンディ・カルタ』は生者の味方だ)
 だというのに何故、今サンディは『彼女』を埋めているのだろう。
(確か任務で来たはずで)
 違う。彼女を埋めているのだ。任務ではない。
 ――何処にも行かないよう、留めるためか?
 ――深く埋めて、『未来の自分』から隠すためか?
(どっちだろう? ……わからない)
 だが、『サンディ・カルタ』ならばそうしないことが正解なはずだ。
(今は優先すべき生者がいないのか?)
 死者を後回しにするはずの『サンディ・カルタ』がそうしているのなら、きっとそうなのだろう。
 死者の見開かれた綺麗な瞳がサンディを見つめている。
 抗えない。
 掘る。
 抗えない。
 掘る。
 抗えない。
 掘る。
 抗えない。
 掘る。彼女を埋めるために。
 例えそれが誤ちだとしても、今のサンディにはそれ以外の事が出来なかった。

 ――なぁ、どうしてこうなっちゃったんだろうなぁ。
 親友のための墓穴を掘りながら、カイトはそんなことを思った。
 声には出さない。少し横に転がっている親友へも届けない。自嘲めいた乾いた笑いとともに飲み込んで、己の行いへの問いもこの墓穴と己が心の奥底へ埋葬するのだ。
 理解されたかった。理解してほしかった。それなのに、カイトは踏み込まれるのを拒んだのだ。矛盾していることは自分でも理解している。
 親友になれる人は、カイトそのものを見てくれる人は、死んでしまった。拒んで、殺した。
 ――誰のせいですか?
(おれのせいです)
 どこか他人事のように冷静な頭の片隅が問うてくる声に返す。
 ザクッと土を堀り、親友を、己の罪を、隠すように埋めていく。
 ――誰にも成れなかった、■■■の、せい。

 埋める、隠す、あるいは、誰かがいたことを忘れる。
(何故死んだのか)
 ふと気付いた時、ロレインの頭に浮かんだのはそんな言葉だった。
 何故に理由があるのか、それとも理由なんて無く、口減らしのために貴方を――。
(どうして? 貴方は人々のために生きた聖職者のはずなのに……)
 彼がどうして死んでいるのか、ロレインの心はそればかりが気になっているようだ。だが、体は心と切り離されたようにシャベルを握って掘り進めていた。
 穴を掘る。今から貴方のことを埋める穴を。
 掘っている穴から視線をずらせば、幼く可愛い顔が見えた。ふさふさの毛並みは寒い異国の地なら防寒となったのだろうか。
 痛みも苦しみも感じてい無さそうな、その眠るような顔に少なからず安堵して。ロレインは掘り続けた。苦しんで死んではいないことだけは解ったから。
(私を彼を隠そうとしている)
 心の奥底では、忘れたいと思っているのだろうか。
 隠すにしても忘れるにしても、思っていなければ今こうしてロレインは彼のための墓穴を掘っていないはずなのだから。

 ――わたしは、誰の為の穴を掘っているのか。
 ザクッ、ザクッ、ザクッ。
 考えながらも、シルフォイデアの体は穴を掘り続けていた。
(確か、直接別れすら告げられなかった義姉の――)
 遺体は見ていないし、棺は空だった……はずだ。
 それなのに。
(まるで眠っているかのよう)
 視線を穴からずらせば、その人が居た。
(……ひどい人)
 わたしを置いていった、義姉。
 後悔をせずに、前だけを向いて、今までも、これからも、ずっと先の為に生きていく。海洋王国の多くの人が称揚し、目指し、築いて、そうしていつか誰かが果てに辿り着くようなそういう生き方ができない人を置いて、勝手にいなくなってしまった人。
 ひたむきに前を見て、前へ前へと進み続ける人は、置いていかれる物事があることに気付かない。気付かないから顧みない。当然後ろに続くと思っているのだ。
(わたしは……、きっと、貴女がいたから前を向いていけたのです)
 昼に輝く太陽でも、夜を照らす月でもなかった貴女は、航海者が行く先を示す星のようだった。その小さな光があったからこそ、シルフォイデアは前を向けれていた。その背中を追えていた。
(きっと、どんな状況でも、いいえ、状況が悪ければ悪いほど、貴女は立ち上がって前を向けと言うのでしょう)
 勝手なことだ、もう導いてはくれないくせに。
 ザクッ、ザクッ、ザクッ。
 シルフォイデアは無心に穴を掘る。義姉のために。

 掘らなくちゃ。掘って掘って、掘って……。
(アラ? アタシ、どうして穴なんて掘って……ああそうそう、彼を埋めてあげないといけないんだったわ)
 チラと視線を向ければ、眠っているその人が目に入った。
 白皙に銀髪。もう二度と開かないけれど青い瞳が綺麗だったジルーシャの大切な家族――兄弟子、だった人。神童と呼ばれて、それでも誰よりも努力を重ねていた人。
「待っていて頂戴な」
 彼を埋めるのには準備が必要だ。彼に根付いてくれる花の種を用意して、埋める時に被せる土は硬すぎないようにしなくてはいけない。
(だって、アタシは知っているもの)
 ――誰の記憶にも残る香りを作りたい。
 歴史に名前を刻むんだと、師匠へ話していた彼の真っ直ぐな目を知っている。神童と呼ばれても奢らず努力を重ねるジルーシャの憧れのその人は、真っ直ぐだった。
 だから、誰にも触られないように、誰にも忘れられないようにしなくてはいけないのだ。
 白い服が土で隠れてしまう前に、花の種をぱらりと巻いた。どれかはきっと芽を伸ばすはずだ。彼を『食べて』、花が咲くはずだ。
 そうしたらその花で香りを作る。禁忌を犯して追放された存在じゃなくて、馥郁たる『神様』として名を残せるように。
「……アタシがアンタを、神様にしてあげる」
 それこそが禁忌だと、耳元で声が聞こえた――気がした。

 埋めねばならぬ。誰にも見られない地の底へ。
 土に塗れるのも構わず、ザクッザクッと咲耶は土を掘った。視線をずらさずとも、視界の端には豪奢な着物の袖と艷やかな黒髪が入り込んでいる。
 ザクッ。咲耶は彼女がどんな表情をしていたのかと彼女の顔へと視線を向けたが――よく、解らなかった。
 彼女がどんな表情で死んだか、咲耶には思い出せなかった。
 彼女の羅刹の業に恐れを覚えた時から、その顔を拝まなくなった。生地獄へと堕ちんとする彼女を理解することも止めることも出来なかった。……従者失格だ。
(……もはやどの様に殺したのか、頭に霞がかかってよく思い出せませぬが、きっと殺した時の拙者も貴方様と同じ表情を浮かべていた事にございましょう)
 死人の顔の靄が晴れ、今の咲耶と同じ――口元がつり上がった歪んだ笑顔が現れた。咲耶は秘術で、亡き主と同じ顔を持っている。
 その顔へ、体へ、土を掛ける。埋葬するは従者の務めで、最後の奉公。
(拙者は従者失格でございますな)
 主を諫めることも出来ず、死出の旅立ちの供をすることもしなかった。けれどいずれ、いつか――。
(硬い地面で申し訳ありませぬがもう暫くお待ち下さいますよう
 最後の奉公として授かった『顔』を返し、咲耶は彼女を土で覆い尽くした。

 ずっと考えていた。
 再会を喜び合うことができなかったのか。殺さねばならなかったのか。
(どうして、主はいつも私の祈りに応えて下さらないのか)
 ザクッ。土を掘る。
 ずっと心残りだった。
 彼女の体は風に溶けるように消えてしまったから触れることさえできなくて、お墓に埋めてあげられなかったこと。墓の中には何もなく、骸も魂も弔ってあげれなかったこと。
(もう三度、冬が過ぎましたわ)
 三年。それが彼女とヴァレーリヤの距離だった。
 同じ歳になった。けれども『どうして』は消えずに胸の中で燻り続けている。彼女なら――司教様なら、この問いへの答えを導いてくれただろうに。
 でも、それも今日で終わりだ。
 ザクッ、ザクッ。土を掘る。貴女を埋めてあげるための土を。
(やっと貴女と、最後の審判の日に再会できるようになりますわね)
 それが今ではないのは少し悲しい。
 横たわっていないで、本当は話しかけて欲しい。
 再会を喜び合い、生ある貴女と過ごしたい。
 けれどそれはもう、『赦されない』ことだ。
 ――ああ、主よ。敬虔なる父よ。
 ヴァレーリヤは土を掘り、そうして彼女を埋めた。
 ――どうか私達の罪をお許し下さい。

 ザクッと掘った土を、荒々しく横に捨てた。着物へと派手に跳んだ土が汚れを作るが、気にならない。それよりもと気になるのは、すぐ傍に横たわる恋人のことだ。
 返り血のような染みが出来るほどに一心不乱に掘ったからか、『彼女』がゆっくりと眠るには充分過ぎる程の穴が掘れた。視線をずらせば眠っているような彼女が居て、三毒はきゅっと下瞼と眉間に力を籠めた。
「もう、笑ってくれやしないんだな。オレなんかにゃ愛想が尽きたってか? ……遅ェよ、バカ」
 彼女が事切れているということは、三毒が誰よりも知っていた。
 三毒を捨てて逃げればよかったのに、彼女はそうしなかった。だから、殺されてしまった。
「……まだ、たりねェか」
 通常ならばこれくらいの穴で充分過ぎるはずだ。
 だが、足りないと三毒は思った。
 もうこれ以上、奪われたく無かった。日向のような笑みも、ともに過ごす柔らかな時間も、名を呼ぶ声も、髪の一本に至るまで……全て。野犬にだって、探しに来た家のモンにだって――。
 掘った。一心不乱に。深く深く穴を掘って――その途中で何かを退かしたが、何であるかなんて気にしなかった。
 ああ、彼女を埋めたらどうしようか。
 彼女の傍へ行くためにオレも眠って――。

 ――パキン。

 その時、誰かのシャベルが木のような何かに当たった。
 夢から覚めた心地を覚えながら手を伸ばせば、それは木偶人形であることがわかった。副葬品であったら申し訳ないところだ。
(オレは今、何を考えていた?)
 三毒は大きく頭を振るうと思考がはっきりとしてきて、ドッと冷や汗が滝のように背を流ていった。
 死んでも、死なせちまっても、守ってやる。そう誓って生きてきたはずだ。神使となってからは二度と同じ悲劇が起きないような平穏な世の中への変革を望み、力を振るってきたはずだ。
「胸糞悪ィ。……すまねェな」
 退かしてしまった白骨を改めて丁寧に寝かせ、土を掛けてやる。魂の気配は感じられない。既にこの場から離れて成仏しているようだが、その行為に魂のあるなしは関係ない。土を掛け終えると三毒は両の手を合わせ、弔った。
「折角埋葬されてたのに、悪ぃな」
 誰かの弔いあってのものだと言うのに墓を荒らしてしまったと、サンディは見知らぬ誰かへ謝った。
「夢、だったのかしら」
 ポツリと小さく呟いたヴァレーリヤは足元に壊れた木偶人形が落ちている事に気がついた。土と一緒に掘り出して、司教様を埋める時にシャベルが当たってしまったのだろう。「木偶人形がありましたわ」と報告すると数名からも同じものがあったと報告が上がった。ここの地方の習わしで木偶人形を副葬品として埋めるのでなければ、きっとこれが触媒だろう。
「……アンタら、何をして」
 日が暮れても墓地から帰ってこないイレギュラーズたちを不審に思ったのだろう。様子を確認しにきたと思しき男が、ヒッと短く息を呑んだ。
「こんな状況で申し訳ないと思うのではあるが……」
 けれど確認せねばならないと咲耶が木偶人形について尋ね、男はそんなものは知らないと答えると手にしていたカンテラも落っことし、慌てて村へと駆けていく。イレギュラーズが全ての墓を元通りにして戻る頃には、村の人々には話が伝わっていることだろう。
「……氷聖め」
(……ねえ、わたしは全然立ち直れていませんよ?)
 咲耶の溜め息を聞きながら、シルフォイデアは埋め返すためにザクッとシャベルを土へ刺した。
 幻覚はもう、見えない。
 木々に隠されているこの場所では、見上げても星も見えない。
 ともにここまで来た仲間たちにも色々と思うところがあるのだろう。ザクッバサッと土を掛ける音が響いている。
 誰もが静かにしている中で、シルフォイデアもそっと溶け込むように嘆息をした。何かをしていなければ余計なことを考えてしまうから、手を動かす何かがあるのは少し都合が良かった。
(貴女は本当に……ひどい人です)
 その言葉だって届くことはないのだから。
「ここは……そうだわ、ここは天義ではない」
 ロレインの視界からも彼の姿が消えた。途端に森深い墓地へと遂行者たちを追ってきたことを思い出した。そして神の国を降ろさせないために地を掘って――何故だか幻覚を見ていたようだ。
(彼がたとえ死んだとしても、それは殉教の果て)
 ぎゅっと瞳を閉ざし、ロレインは彼のことを思った。
「ジルーシャ、大丈夫か?」
「……あ。え、ええ。ごめんなさい。大丈夫よ」
 カイトは掘った穴の中で土まみれになって座り込んでいるジルーシャを見つけた。声を掛ければ放心したような声が返ってきて、彼も何かを見たのだろうと察することは容易だった。
「……墓荒らしなんて、するもんじゃないのさ」
 秘事を暴くには、それ相応の報いが降りかかるものだ。手を差し出して穴から立ち上がるのを手伝ってやりながらそう口にすれば、ジルーシャは泣きそうな表情で笑った。
 カイトへ感謝を告げると、ジルーシャは再びシャベルを握った。掘り起こした土を、穴へと戻す。そこに居た誰かを埋めるように何度も同じ動作を繰り返し、ねえと心の中で声を掛けた。
(俺はアンタが認めてくれるなら、一緒に落ちたって構わなかったのに)
 当時のジルーシャだったら、彼が認めてくれるなら、きっと――。
「……おやすみなさい司教様。いつか再会できる日を、心待ちにしてございますわ。カミツレが咲いたら、お持ちしますわね」
 幻覚を見たとは誰も言っていないから、あれはきっと主が司教を救うために手を差し伸べてくれたのだろう。
 掘り返す前よりも綺麗に整えたヴァレーリヤは墓標を立て、別れを惜しむようにそっと墓標へ抱きついてから神への祈りを捧げた。
 ――天に坐す我等が神よ、あなたの慈悲に感謝します。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

ある人にとっては、過去と向き合うもので。
ある人にとっては、未来へ進むためのもとなったことでしょう。

お疲れ様でした、イレギュラーズ。

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