シナリオ詳細
<Scarlet Queen>To live is to think
オープニング
●<Scarlet Queen>To live is to think
――遊びましょう? 存分に。
その声色が降り注いできたのは、真に戯れであったが故か。
それとも――何か別の思惑があっての事か。
●
イレギュラーズ達は船の上にいる。
客船スカーレッド・クイーン。それは海を揺蕩う……一つの王国、とでも言おうか。
一人の女性――そう、ルベル。
ルベル・ゼノ・ドラクルートによる王国が、この船だ。
「随分と稼いだようねぇ」
「……ルベル。来ましたか」
そして。そのルベルが眼前にいる。
机を挟みて対面する形であるのは――イレギュラーズたるヴァイオレット・ホロウウォーカー (p3p007470)だ。隣には澄恋 (p3p009412)の姿もあろうか……
ルベルとの狭間に流れるモノは、友好的とも敵対的ともつかぬ……独特なりし世界であったろうか。
――スカーレッド・クイーンは闇カジノを行う船。
その中でイレギュラーズ達は幾度も勝ち進んできた。
最下層から始まり、されど着実に。
上へ上へと――彼女らは進んできたのである。
故に、と述べるべきか。栄光ある勝利者たちの前に王国の『主』がやってくるのは。
だがしかしそれは『賞賛』の為ではない。それは……
「それでは――ルールを説明させて頂きます。
本ゲームは『To live is to think』。1~13のトランプカードを用いるものです」
そのルベルから一つの『ゲーム』に誘われたが故、だ。
傍に控えていたルベル配下のディーラーが言葉を紡ごう。
『To live is to think』。それは読み合いのゲームだ。
1~13のトランプカードが手元にあり、互いに伏せて一枚出し合う。
そして公開した時『数字の大きい方が勝ち』というシンプルなゲームだ。
先に二勝した方がそのラウンドを制し、次のステージに移る。ただし。
「1ラウンド中に出せるカードの数値合計には上限を定めます。
『20』です。プレイヤーは『20』を超えないようにカードを出さねばなりません」
「20? つまり……」
「例えば初手で13を出したら、次は7以下のカードで勝負して頂きます」
「ふふ。無秩序に出せてしまったなら、ひたすら最高値を出していくだけのゲームになるでしょう? 21を目指すブラックジャックと似たようなモノ……上限は決めておかなければ楽しくないものだわぁ」
ルベルが微笑む。その指先には、まるで血の如き紅きワインが在ったろうか。
彼女がゆっくりと喉へと運んでいる最中――ヴァイオレットの隣に在りしイーリン・ジョーンズ (p3p000854)やココロ=Bliss=Solitude (p3p000323)は、ルールを思考内で反芻する。
――プレイヤーは1~13のカードを一枚ずつ持っている。
ただしラウンド中に出せる数値は合計で「20」が限界。20を超えないように計算し、相手の手を読んでカードを出さねばならない……ならば。このゲームで重要なのは大きい数字ではない。
(……もしも最初に大きい数字を出してしまったなら)
散々・未散 (p3p008200)は顎に手を当てながら、ヴィクトール=エルステッド=アラステア (p3p007791)の方へと視線を滑らせようか。
――例えば、最初に13を出したら、後は残数7の中で戦わなければならない。
やれるカードの組み合わせは6と1か。5と2か……といった類になってしまう。
だがもしも相手が、こちらの最初の13を1で凌いでいたら――? もうダメだ。
その後は「10/9」と順に出されてしまえばどう足掻いても敵が確実に二勝出来てしまう。
だからこそ、このゲームは『どれだけ少ない数字で勝利を的確に収める事が出来るか』のゲームなのだ。出された1に13で勝ってしまうような圧勝は最悪。相手が1を出したなら2で。2を出して来たなら3で勝つのが良い。
――尤も。それは最善手を踏んだならの理想話。
実際の所相手が何を出すかなど分からぬのだ。
ルベルは何を出す? 1か? 1なら2で勝つのが最善だが――
もしかしたらソレを読み切って3を出しているのではないか?
それなら4を出すのが良い。だがそこまで考えて5を出しているのでは……?
そんな事を延々と考えていたら数字が大きい領域になってしまう。
どれを出すのが最善だ?
数字が大きければ勝つ確率は上がる。だが数字が迂闊に大きければ勝てなくなる。
(なるほど、ねぇ)
ニコラス・コルゥ・ハイド (p3p007576)は想う。これは……
『絶妙』を見極めろ。
『相手を見て』『相手の心』に踏み込んで。その深奥を見極めろ。
そうでなければ――この城の主にはきっと――勝てない。
どれだけ読める? 相手の手を。
どれだけ賭けれる? その選択に、己が命を――
「ふふ。まぁ、命など、賭けなくて結構」
と、その時だ。ルベルが告げる。
「これは『お遊び』なんだから、ねぇ」
「お遊び、ですか」
「勿論。懐かしい顔があって。懐かしい顔が勝ち進んでいるが為に思いついた『お遊び』。だから今回は何も賭けなくてよろしい。負けても何も頂かないわよぉ。ただただ、懐かしい顔との――『戯れ』。あぁでも商品ぐらいないと楽しくないかしらぁ。勝ったなら、そうね……最上階にでも招待してあげましょうか? あたしの、部屋に」
その、微笑みに込められた感情の色はなんだったか。
……ルベルはヴァイオレットの事を本来であれば『半端者』と称する人物だ。
前に対面した時にもぬけぬけと、真正面からルベルはその言葉を零して来たか。
余裕? 嘲笑? 侮蔑? それとももっと別の何か――?
しかしルベルはお遊びとは言うが、周りがどう捉えているか話は別なのだろう。近くにはそれなりのギャラリーも集まっている……元々この船にはルベルの美貌や魅力を目当てに来ている客もいるのだ。ルベルが出てきているならば、と考えている者達も多数。
対戦相手は誰だ――? イレギュラーズ――?
遠目に、ヴァイオレットの顔を不躾に見据える者らもいようか。
「『お友達』もいるのでしょう? このゲームは複数人でもやれる。お望みなら呼んでも結構――いわゆるチームってヤツねぇ。まぁ、同数でなければこのゲームは成立しないから、こちらも合わせるけどねぇ。
……あぁ、そうだ。
折角だから更にもう一つ『お遊び』を含めましょうか」
と、ルベルは同時――彼女は傍に控えていたディーラーに、一枚のカードを渡す。
「あたしは今、カードを一枚抜いたわぁ。そのカードはこのゲーム中使わない。その上でゲーム中に『今のカードが何か』当てる事ができたら、そちらの勝ちで構わないわよぉ」
「――なんですって?」
「勿論、外したらそちらの負けになってもらうけどねぇ?」
「そいつは……舐めてんのか?」
コルネリア=フライフォーゲル (p3p009315)は言の葉を紡ぐ。
一枚。使えないカードがあるなど……それともこちらを窺っているのか?
どれだけの力を秘めているか。己が城でどれだけ暴れられるか。
……或いは、いや。
「これはゲーム。ただの御遊びなんだから。さぁ――緩やかに楽しみましょう?」
探りに来たのかもしれない。
お遊びと称して、イレギュラーズ達の実力を自ら。
恐らく彼らはいずれ放っておいても最上階へ来るだろう、と。ならば先んじてこちらから接触し――図る。そして今回の結果をもってしてルベルは本命のゲームに全員を巻き込むつもりなのかもしれない。
ルベルはこの船の頂点者。
駆け引きに関しては屈指の実力を持つ者。
だからこそ――自分に挑んでくる者に対しては同時に警戒もするのだ。
駆け引きとは。運以外の全ての要素を塗りつぶしておくなど、基本なのだから。
ルベルは微笑み続ける。
ずっとずっと。不敵な程に。
――その瞳はワインの様に、濁っていた気がした。
- <Scarlet Queen>To live is to think完了
- 『生きることとは、考えることだ』
- GM名茶零四
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2023年08月13日 23時00分
- 参加人数8/8人
- 相談8日
- 参加費---RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●
狭間に漂う気配の根源は……如何なる感情が潜んだものか。
ルベル。あぁ『水底にて』ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)の知古。
(ルベル――今の貴方の真意は何処にあるのですか)
さればヴァイオレットは想おう。
悪辣を働くルベルが『悪』である事は疑いようもない。
だが、あちらとてヴァイオレットの狙いは分かっているはずだ。
なぜわざわざ姿を荒らし自らの懐に招き入れた?
探らねばならない。その思惑を。
この対局こそが――万の言葉を重ねるよりも通ずるならば尚更に。
「ま、つまるところこっちが楽しそうだから降りてきたんだろ?
なら精々『遊ぼう』じゃねぇか。ペナルティもないなら気負う事もねぇさ」
「ええ。だってこれは『ゲーム』なのでしょう? なら……」
そのままに『遊びましょう』と。
紡ぐのは『名無しの』ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)や『懐中時計は動き出す』ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)だ――ゲームに参加する者達に手札が配られ、視線を落としながら思考を巡らせようか。
為すべきは何か。勝利そのものか、それとも経過をこそか。
(――さて。如何したもの、でしょうかね)
(まぁ、楽しむべきでしょう。私達は遊戯即ちゲームというものにはあまり慣れていない性質のものですから。そして『ソレ』こそが皆様の助けにもなりましょう)
(……奇遇ですね、私もそう考えてはいました)
同時に『魔女の騎士』散々・未散(p3p008200)もカードを受け取ろう。ヴィクトールとアイコンタクトを取れば――あぁ。『ぼく等、お似合いですね』と感情の色を口端に染めようか。
ここまで付き合っておき乍らですが……純粋たる勝負事に己は向いていないと思うものだ。
相手の一挙手一投足。微かな瞳の挙動。呼吸音。それらを読むのが賭け事であるとするなら、ば。何かといえば彼是と趣向を凝らして、バレない程度にイカサマをするなり、相手の嫌がる事は何か――といった方向に考えてしまうから。
刹那。ルベルと視線が交われば、ルベルの口端に微笑みの色が灯ろうか。
――危ない。何か、今。
(見透かされるような感覚がありますね)
イカサマでもしようものなら即座に。
流石に神の如き目とまではいかぬだろうが、彼女はこの船の主だ――
(相応の目はあって然るものと考えるべきだわ。さながら私達は胃袋の中にいるともね)
同時にその視線の威を『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)も敏く感じ取ろう。あぁ全く、今までのギャンブラー達はただの前座だったのだと……
ルベルは違う。一寸の油断をすれば取って食われよう。
けど、単純な勝負、後腐れナシ。
(これは――)
心躍る。
胸の内に宿る熱が確かにあるのだ――さぁ。
それでは、遊びましょうか。
「神がそれを望まれる」
「――あら、賭場に望みを零す神なんているのかしらぁ?」
「それこそ正に『神のみぞ知る』事よ」
配られし13枚のカード。一人ずつ、札を出していく。
このゲーム、相手が何を出すか的確に見極めねばならない。そして……
「ルベルさん、わたしが勝ったらなんでこのような『お遊び』を考えたのか意図を教えてくれませんか」
「ふふふ。『お遊び』は『お遊び』よぉ? それじゃ不満かしらぁ?」
「それが真なら、ええ。それでも構いませんが」
ソレが真とは思えないと『医術士』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)も、一つのカードを出しながら言を紡ぐものだ。隣にいるイーリン師匠様のように己は勘が鋭い訳ではないと思えばこそ……言葉遊びよりも、いっそ真っすぐに問うてみよう。
ルベルが本当に戯れだけとは思えぬから。
だが当然というべきかルベルも笑みだけは見せるが心の奥底は探らせぬ。
その堅牢たる心の城塞に亀裂を刻まんと――札を出そうか。
「ま、やってみりゃ分かるってね。『戯れ』だってんなら楽しませてもらおうじゃないの」
「えぇえぇ――こういう手合いに慣れた御方なのでしょう? ならば胸を貸していただきましょう!」
あぁ退く理由などどこにもない。ようやっと本番なのだから、と。『慈悪の天秤』コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)は場を眺めようか。ゲームには参加する……だが目的は他の奴らを勝たせる事を主軸に。ディーラー共の挙動や心理を見据えんとするのだ。
同時に『花嫁キャノン』澄恋(p3p009412)は手持ちに至った札を『混ぜる』
そして即座に出すのだ。
分かるから読まれ、心に出でる。
ならばそもそも推察の余地を与えない。あぁそれ所か……
「へぇ。あえて『出す』のね」
「ええ。公開ふぇーずがあるだけで、ずっと明かしてても良いのですよね? るーる違反とは聞いておりませんが」
「まぁそうね、問題はないわぁ」
カードをあえて表にして出そうか。
ランダムに選んで8。およそ真ん中程度の数値を出したコレが――皆の思考に一石を投じたのは確かだ。彼女は、澄恋は一体何を考えてるのかとルベル側の者には驚きも見えようか。
されど表面公開、即提出は連中の混乱を促進する目的もあり。
一方でイレギュラーズ側はその澄恋の手を見て出す者もいる。
されば被るまい。そして開始の一手が全て出揃えば――
「では――楽しませてもらおうかしらぁ?」
ルベルが告げる。
カードオープンと同時、勝利を確信した様な……感情を混ぜながら。
初手のルベルのカードは――『13』であった。
●
「ハッ……いきなり最高手とはな」
その言葉はコルネリアのものであったか――
最強のカード。出し、被りがなければ間違いなく勝てるカード。ディーラーたちはソレに被らぬように全員バラバラに出している……そのルベルの一手は積極的に高い数字を出さんとしたコルネリアによって同数被りとなった、が。結果はルベル側ディーラーの出した11が勝利を収めた。
しかし初手に13だと? これでルベルはルール上7以下しか出せないというのに?
(――奇襲してきた、という訳ね。中々向こうもチキンレースしてくれるじゃない)
イーリンは一切の心中を顔に出さず、思考だけを巡らせるものだ。
これは初回故の奇襲だ。様子見に徹する者が多いだろうと踏んだ一撃。
実際ヴァイオレットは、少なくともこの1ステージ目は様子を見るつもりだった。
勝ちにいかず、相手の出すカードの傾向と心理を優先して探らんと。他の者にも同様にルベルという一個人を測らんとしていた者もいただろう。ルベルはその心理の動きを見据えて……
いや待て。本当にそれだけか?
(これで彼女は……8~12を出す事は出来なくなった)
(いえむしろ――『出さなくてよくなった』と表現するべきでしょうか?)
次いで未散とヴィクトールが微かに視線と意志を交わせようか。そう『除外したカードを悟らせないように』する意図もあったのでは――と言う事だ。例えばルベルが除外したのが10であれば当然ソレをイレギュラーズに悟らせたくない。
故に13を出し『出す事が出来ないカード』を初回から作り出したのでは?
これで次に8~12を出さなくても何の違和感もないのだ。
「なるほど、ねぇ。流石にそんじょそこらの連中とは違うわな」
それは逆説的に言えば8~12に本命があると言える、とニコラスは悟ろう――ただしそう思わせておいて実際は1~7の中にある事も可能性としてあり得る。
ルベルの真意はどちらだ?
見通せ。
(博徒の俺が見抜けなくてどうするって話だ)
故にニコラスの方針は決まった。
場を、荒らす。
あぁこの場はきっとルベルの支配する場なのだろう。だから――こっちから荒波立てて相手に対処させていく。如何に鉄壁の城塞であろうとも、荒れ狂う天災にまで耐えうる事が出来るか?
「ふふ。これでやっと客船のゲストって感じになってきたわ。ねえ、ココロ?」
「本当に『ゲスト』扱いだったのでしょうか。わたしにはそう思えなくなりましたよ」
いずれにせよ、ルベルは本気だ。
今の一手。誰も高カードを出さなかったら通っている。
故に――イーリンとココロは次の一手を考えつつ言の葉を交わせようか。子弟であればこそ、一見なんの意味も無そうな会話の中にも、彼女らの間で通ずる意志の疎通がある。
2を出したココロ。まだルベルと異なり、数値はどれでも出せる幅がある。同時にイーリンも13を出せるように調整していた――そう。序盤はやり過ごし、次を連勝せんとする為に。効率的なのは7付近を出す事なのだ。
まだ負けた訳ではない。
此処からだと。
とにかくイレギュラーズ同士でのカードの『被り』だけはまずい。
最的確がどこか――測らんとして。
「占いでもしてるのかしらぁ? そんな古臭いもので……勝てるとでも?」
「よく見ているものですね」
瞬間。ルベルが嘲笑うようにヴァイオレットへと声を掛けようか。
そう、ヴァイオレットは文字通り占っていたのだ。観察も絶やしてはいないがそれはとして、だ。自らの武器を十全に活かさんとするのは当然の事だろう?
「神か、天に委ねるとでもぉ? 面白いわね――神の奴隷にでもなり下がる?」
「占いというモノをそう悪しざまに解釈するものではないですよ、それに……」
元の世界において邪神とのハーフたる者が、彼女らだ。
故に天に任せるような采配が如何なものかと――だが。
「ワタクシは今は、一人で戦っている訳ではございませんので」
そんな挑発染みた言など一切知らぬ。
心理戦においては、あぁ。ルベルがどうしても一枚上手だろう。
されどそれだけで勝負は決まらない。
「ははあ……このげーむ、分かりました。
さては――10以下はどのラウンドでも出しやすいのですね?
「――今更ぁ?」
例えば思わぬ所から盤面をひっくり返してくれる――仲間もいるのだから。
紡ぐ澄恋。えぇ知らないでしょうルベル様、私が……
ずば抜けて――阿呆な事を!
ルベルが澄恋の言の真意を見抜かんと観察するが……しかし澄恋の頭の上に『?』が見えてくるだけだ。続け様、間髪入れずルベルらが出すよりも早く、またカードを表で出して……今度は11だ! えぇいコイツ正気かとディーラー側でざわつきが始まる――
だがそれでいい。
荒れよ。場と運気よ。突飛な言動と無作為な一手こそが嵐の目となる。
なによりルベルはさぞ明敏な頭脳を持っていそうだ。
ならば真剣にやればやる程相手の手の平の上で踊らされそうだから――
(――頼みましたよ、皆さん)
勝利とは。様々な形が――あるのだ。
●
ゲームが進む。1ステージ目は結局ルベル側が勝利した、が。
続く2ステージ目は荒れに荒れたものだ。
思わぬ澄恋の挙動。手札公開からの動揺をニコラスが読み切り、更に続こうか。
多数に生じる被りの被り――あ、は、は!
「さぁさ次は、おっと3ですね! さぁどうされますか皆さん!」
「おいおいどうした? ゲームやってんだろ? 楽しませろよ――かはは!
笑顔でやるもんだぜ、ゲームってのはよ!」
「ぬぅぅ……!」
付いていけぬディーラーたちを嘲笑うように。
言葉で誘い『俺もカード公開してやろうか――?』などとブラフも叩いて。
敵の心の水面に一石を投じるのだ。
――あぁ場は俺が整えてやる。此処までやってきたのだ――
(負ける訳ねぇだろ。こんな程度の波に、な!)
皆と共になら乗り越えられると。彼の脳髄はかつてない程に高速で思考が巡ろうか!
元々人数が増えれば増える程『被り』を気にして考える情報量は多くなるとは分かっていたのだ。だから彼が思考の先陣を切る様に。何を成すが最善か。出す一手は何か――見極めよう。
「ふふ。ニコラス様も澄恋様も思い思いにされていますね……
しかし、チル様は――此の城の主――あの方についてどう思われます?
私には、彼の方のこころがてんで検討がつかないのですよ」
「如何、思われるか、ですか? ふむ……そうですね……」
場の混迷。眺めつつもヴィクトールと未散は変わらずに在ろうか。
主とは当然ルベルの事。さすれば……
「――此処が一つの城であるのなら。ぼくは玉座でふんぞりかえる”王さま”は余り好きではないのですよ。けれど民草と同じ場所まで降りて来てしまう様じゃ、それは砂で作ったお城を崩されたのを怒る子供と同じだ。癇癪持ちの主など特に御免被りたい」
「そうなると私達は彼女にとって敵なのか、はたまたお人形なのか、どっちなのでしょうね」
「どちらに値するのか……ソレを視ようとしているのかもしれませんね」
未散なりのルベル評を告げてみようか。
船の王様。傲慢極まる者。その思考を読む為には、彼女を理解せねばならぬのだから。
あぁ――そう。ルベルの排したカードは……なんだ?
(考える事を、止めるな)
使っていないのは12、11、9、6、3、1。
二人とも使ったカードは確実に記憶している。カウンティング? それは技術であってもイカサマではないだろう――そもそも立証不可能だ。ともあれ、本命は1。元々最弱であるのだから、それを排しても左程の影響がない。
(しかしチル様)
(ええ、恐らく『コレ』ではないですね)
だがルベルがそんな『効率的』なカードを除外するだろうか?
除外しても影響の小さいカードを排して、なんの意味があるのだ?
それで己が威を示す事が出来るか?
そうだ。
愚かな王様。頂点にいなければ気が済まない者。
対局を通じて彼女の人となりが徐々に分かって来た気がする――ならば。
除外したのは勝つ事が出来る高数値カードだ、間違いない。ならば候補になるのは……
(12か11、9)
傲慢。格の違いを見せつけんとするならば、その辺りが本命だ。
なんとなしギャンブルのコツも分かって来た気がする――が。
どちらだ? ゲーム自体も進んでいる、カードを当てるならばそろそろでなくば。
「やれやれ……カード一枚選ぶのに難儀するものねぇ」
と、その時だ。せせら笑うように紡ぐのはイーリンか。
口ではそう言うものの彼女自体に焦りは見られない。むしろソレは相手に揺さぶりをかける為のものか……あらゆる知啓を総動員し、微かな声色にも優位に立たんとする一喝の力を込めて――このゲームを立ち回る。
イーリンもまたルベルの抜いたカードを悟らんとしていた。
このまま読み合いをしてもいいが――きっと勝機が見えてきている、と。なにより……
「大将に勝ちを拾わせなければ……何とかなる筈です……!」
「えぇそうねココロ。船の主の傲慢振りを、打ち砕いてやりましょう」
ココロの必死の応戦もあるのだから。
ココロのカード戦術は『味方を勝たせる』為に全霊を注いでいた。
敵側が高い数字を出して来た人が多いならば、そしてなによりソレで敵が勝ってしまったのなら尚更に――次のラウンドでは勝ちに行く。逆ならば続いては敵も勝ちに来るだろうからと被りを狙いて――13を出しに行く。
その為に必ず初手では2を出す事にしていたのだ。
敵に万が一1を出した者がいても、ソレが勝てぬように。
そうすればきっと――他の皆がなんとかしてくれると。
(信じていますから)
ならば……弟子の献身に師匠が応えぬ訳にはいくまい。
(――閃くしかないわね)
この勝負の大一番。不自然な打ち筋はないかとルベルを観察し続ける。
油断は出来ない。不自然に『見える』打ち方をしている可能性もあるのだから。
だがそれでも彼女の閃きは未散と同様の結論に至っていた。
高数値カード。特に女王の名を冠する……
(12……!)
ソレではないか、と。
しかし100%ではない。手を止まらせるのは、誤れば敗北するルールもあるから。
このまま読み合い合戦をして真っ当に勝つルートもあるのではないか?
ルベル以外は大した事はないのだ。
イーリンやニコラスなどの賭け事に強い者が導けば――勝ち目はあるのではないか?
「なぁ此処、煙草いいかい?」
「えぇどうぞ――それで気が乗るのならば、存分に」
「あんがとよ」
刹那。煙草に火を灯すは――コルネリアだ。
揺蕩う煙の幕越しにルベルを見据えつつ、とにかくコルネリアは『勝ち』に行く。
どうせ前回以前のギャンブルだって見られている。ならば『ここぞという時には勝負に出る』という前知識はもう持たれていると思っていいだろう……ならば焦りを出さず。むしろ余裕がある様を見せつけてやる。
空気を此方に呼び戻す。
脚を組み、煙を揺蕩せ、一寸の心すら見せぬ。
強気で、余裕で。お前達の手など見えているとばかりに。
『呑んで』やるのだ。ルベルは無理でも、周囲のディーラー共を。
(ヴァイオレット――うまくやりなよ)
されば彼女は脳裏に親しき女の顔を思い浮かべようか。
全力と全霊をもってしてルベルと相対する――彼女の顔を。
決めろ。お前が、決めるんだ。
ルベルに打ち勝てと、さすれば……
「……ねぇ今ちょっと思ったんだけど。家に招いて、いたずらしてゲームで遊んで。まさか」
ルベル貴方、友達と遊びたかっただけ……?
イーリンが告げる。ルベルの心見たりと……知古の中であればソレもあり得るだろう、と。彼女の心の芯を揺さぶらんんとし――瞬間、ルベルが視線を鋭く向ける――まるで苛立つかの様に、だ。
――こんな半端者と心を交わせたかっただけ? それは。
「舐めすぎねぇ」
微かに。カードを置く手に力が籠った気がした。
直後。
ヴァイオレットもまた、カードを選択する。
「ルベル。これで終わりです。この……余興は」
「――やっちまったな。多少はアンタにも心があるんだな」
皆が繋いでくれた、ルベルの微かな隙――ニコラスも気付こうか。
ニコラスや澄恋が荒らし、イーリンや未散の言がルベルの心を乱さんとした結果。
ヴァイオレットの出した手は12――ルベルの出した『11』の1つ上だ。
そしてこれでハッキリとした。
「さあ、ヴァイオレット様」
澄恋が視線を向けよう。秘められし札の宣言を――と。
「ダイヤのQ」
故に告げた。除外されたカードの数値を。
先程己が出した12のカードをルベルに見せつけて――
「――、――ざんねん。スペードのQよぉ」
さすれば、ルベルは開示しようか。除外されたカードを。
それはスペードの『Q』であった――
絵柄まで当てろと言っていない。数字が当たりさえすればいいのだ、つまり。
「おめでとう。貴方達の勝ちねぇ」
手を鳴らす。これで遊戯は終わりだと言わんばかりに。
だがまだだ。まだ終わっていない――ルベル、貴方は。
「人の欲と夢を沸かすこの船で」
一体何を求めて君臨するのです?
「愚問ねぇ」
ルベルは嘲笑う。今更なにを問うのかと。
「ここは愚者の集う船。夢に手を伸ばし、そして落ちていく楽園」
或いは太陽に焦がれて手を伸ばし焼かれていく馬鹿共の集まり。
――人が堕落する様こそ『我ら』の本懐であろうに。
本懐を達する王国を築く事がそんなに不思議かしらぁ?
「目を逸らしても業はどこまでも在るもの。
半端者。貴方だってここに来るまで味わなかったの?
敗北したギャンブラーの姿を見る度に心の渇きが満たされなかった?」
彼らは滅びる。手を出さなければよかった賭け事に手を出して破滅した。
――ねぇ。船の最下層にいた時より、瞳に生気が宿ってなぁい?
ルベルはソレを身に来たのだ。ヴァイオレットに不幸の蜜が溜まっていないかと。
もしも。未だ目を逸らすというのなら。
分からせてあげましょうかぁ?
「ねぇ半端者。次はお遊び抜きで――やりましょう?」
彼女はスペードのQを指さしながら、そう紡いだ。
――スペードには『死』の意味がある。
さぁやりましょう? 今度こそ正真正銘――死のゲームを。
或いは、屈服させ首輪をつけて飼ってあげましょうか。
半端者に相応しい身の程を教えてあげる――と、すれば。
「……悪には悪を、因果には応報を」
ヴァイオレットは告げよう。
半端者……ええ、ワタクシは確かにアナタの言うように、人ほど優しくもなれなければ、邪神ほど無情にもなれない半端者です。だけれども……ソレがどうしたというのだ。
私には私が信ずる信念がある。
アナタの支配するこの船の存在を肯定する事も出来ないのです。
例え半端者と謗られようとも――
――齎された悪意には応報を以て応じるのが"私"なのだから。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お待たせしました――ご参加有難うございました。
ルベルの用意したゲームではありますが、今回は意図的に除外したカードを推測できれば勝利など隙もありました。(それ自体もゲーム性の一つではありますので、実際にゲームをされる時などは、むしろソレを主体にするというのも面白いかもしれません)
MVPはゲーム性に対して様々な対応手を巡らせていた貴方に。
ありがとうございました。
GMコメント
大変お待たせしました。よろしくお願いします。
●勝利条件
ゲーム『To live is to think』に勝利する(方法は問わない)
●ゲーム『To live is to think(生きることとは、考えることだ)』
●基礎ルールまとめ
・本ゲームは「ルベル陣営」と「イレギュラーズ陣営」に別れての勝負となります。
・ゲーム開始時、参加者全員に1~13のトランプカードが配られます。
1:参加者全員、その中から1枚ずつカードを選択し提出します。
2:提出したカードを公開します。
3:公開時、最も大きい数字を出している人物(チーム)が「勝利」します。
4:提出したカードを廃棄し、次の手札選択に移ります。1~4までの工程を1ラウンドとします。
5:ラウンドは最大で3回繰り返します。この全体の流れを1ステージとし、ラウンドを「2回」勝利したチームがステージ自体の勝者となり、ステージ勝利数を1ポイント稼ぎます。
6:ステージ勝利数を「2ポイント」稼いだ人物(チーム)が、ゲーム自体の勝者となります。
●その他のルール
A:カード公開時における勝敗につきまして。提出されたカードの数値に「被り」がある場合(例えば13と13が同時に出されていた場合)「カードが被っていない中での最大値」を出した人物が勝者となります。
B:ラウンド中に提出できるカードの数値は「合計20が限度」となるように選択しなければなりません。初手で13を出した場合、残り2回では数値合計が7までになるカードしか出せないという事です。ラウンドが更新される度に数値はリセットされます。
(例:1→8→4(合計13)これは可能)
(例:13→6→1(合計20)これは可能)
(例:13→7→0(合計20)これも可能とします)
(例:13→0→7(合計20)これは不可です。出せるならば1以上は出してください)
(例:13→7→11(合計31)これはルール違反です)
C:もしも「『全員が』被り無効化による勝者無し(引き分け)」だった場合は、カードは消費した上でラウンド自体をやり直し。ただしこれが発生した場合、提出したカードはルールBの「合計20」の累計数値としてはカウントしません。また、誰かが2勝する前に全員が0しか出せなくなった場合(2勝が不可能になった場合)ステージそのものをやり直します。
D:イレギュラーズ側は8人全員参加してもいいですし、一部だけの参加でも構いません。極端には1vs1の構図でもいいです。ただし複数人参加する場合、人数が同数になる様にルベル側も参加者を追加します。追加される参加者はルベル配下の者達です。
E:禁止事項『参加者の暴力行為』『カード選択などに2分以上の時間をかける事(遅延行為全般)』『なんらかのイカサマ(の発覚)』
●特殊ルール
ルベル個人は「1枚、ゲーム中に使用しないカード」を選んでいます。
(審判役でもあるディーラーに預けています)
そのカード数値が「何」か当てる事が出来たら、ゲーム進行内容に関わらず「勝利」します。ただし外すと逆に「敗北」します。皆さんはこのカードが何なのか探ってもいいですし、探らなくても構いません。
●ルベル・ゼノ・ドラクルート
オーナーとも呼ばれる女性です。
その正体はウォーカーにして『邪神と人間のハーフ』の少女です。
闇カジノを運営する人物であり人々の血と金を浴びるように愉しむ人物ではありますが、反面、勝負の勝敗には公正な態度を取る人物だそうです。
ルベルはかなりの推察力・洞察力で出されたカードを読んできます。
駆け引きには屈指の実力を持ちます。
ただ初めて、直接相対してのゲームとなりますので、彼女の瞳を見据えながらの勝負になるでしょう。会話する事も勿論できるでしょう――その果てに、接触して来たルベルの狙いや彼女の現在の思惑が分かるかもしれません。
なお、ルベル自身がイカサマを使ってくるかは不明です。
●ディーラー(ルベル配下)
スカーレッド・クイーンに存在するルベル配下の者達です。
ゲーム進行の為のスタッフとして存在します。ルベル側ではありますが、ゲームには公平であるように感じられます(恐らくですが、個人の技術を超えた――つまりはルールレベルで――イレギュラーズに不利な事は仕掛けてこないと思われます)
ルベル側参加者として出る場合は、ひたすらルベルが勝利する様にカードを立ち回らせる事でしょう。なお読み合い能力はルベルと異なり並程度です。
●メタ的に
色々要素はありますが、皆さんは自由にプレイングを書かれてOKです。
必ずしも全ての要素を考慮する必要はありません。分かり辛い点などありましたら、こちらの方で調整しますので是非お気軽にプレイングを掛けて頂ければと思います。
また、ゲームに全員参加する必要もありません。
ルベルを探ったりと別の行動をしても構いません。よろしくお願いします。
なおイカサマはバレなければOKです。
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