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シナリオ詳細

<烈日の焦土>戦禍の疵痕

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●綜結教会
 多脚戦車が鋼色の巨躯を持ち上げ、走り出す。備え付けた主砲の轟撃が空を穿ち、大気を激震する。
 着弾と同時にそのエネルギーを爆発させた砲弾は膨らむ豪華と黒煙をあげ、盾を構えた戦士がその地面ごと吹き飛んでいく。
「連中、あんなモンどっから調達してきやがった!」
 防御に回っていた鉄帝国南部戦線ミルメコレオ分隊は今まさに撤退を余儀なくされている。
 事実、指揮官のエライザ・セブンサイトは苦虫を噛みつぶしたような顔をして部隊に撤退命令を下していた。
 副官のタコイーズが口を尖らせ、味方の撤退を助けるべく魔導小銃を連射する。
「知りませんよ! と言いたいところですが……あれ、AITですよおそらく」
「AIT? あっ」
 エライザはハッと気付いたように目を見開く。
「『AIT(アンチ・イレギュラーズ・タンク)』――綜結教会かよ、クソッ!」
 噂は徐々に広まっていた。綜結教会(ジンテジスト教会)なるカルト宗教団体が鉄帝国にじわじわと侵食しているという噂だ。
 彼らは独自に兵力をもち、今まさに自分達を苦しめている多脚戦車AIT-1をはじめとする対人兵器としてはあまりにオーバースペックな装備まで持ち出す異常な集団だ。
「だったら俺たちだけで抑えるのは無理だ。ひたすら足止めして、その間にローレットに戦力を請え。依頼料は弾むと伝えろ!」
 エライザ指揮官の命令に、タコイーズ副官は復唱してから走り出した。
「ここを抜ければ幻想だ。いらん戦禍を広げやがってあのクソどもが……!」

●戦禍の調整役
 鉄帝国南部戦線ミルメコレオ分隊の役割は、隣接する敵国である幻想王国の部隊に対して『調整』を行うことであった。
 というのも、鉄帝国は皇帝敗北以後の混乱により国内の治安は悪化。軍も魔種が参謀本部を掌握するなどという大惨事によって指示系統は壊れ、分断や離散が相継いだ。
 とはいえ軍をもたず国を維持するなど無理な話。このミルコレオ分隊もまた形だけでも整えた急造部隊として、隙を巧妙にうかがう王国の部隊への牽制を行う任務を帯びていた。
「いまこのエリアが王国と激しい戦闘を始めるとなれば、被害は大きなものになるだろう。ただの喧嘩というわけにはいかんのだ。国と国の問題はな」
 あたまをがりがりとかきながら、指揮官エライザは苦々しい様子を見せる。
 ここは南部戦線の拠点のひとつ。そのブリーフィングルームだ。
 エライザは酷い怪我を負っているようだが、それでもせめてブリーフィングはというなかば意地のようなものでこの場の席に着いている。副官のタコイーズに至っては撤退時のしんがりをつとめたせいで意識不明の重体という話だ。
「俺たちはこのエリアで戦闘を最小限に抑え、充分な軍再編がかなうまで持ちこたえる必要がある。下手なことをすれば貴重な兵士がムダに死ぬことになるからだ。
 勿論、公務で命を落とすことは皆覚悟している。だが家族を、友人を、祖国をもつひとりの人間を『ムダに』死なせるなどあってはならない。だというのに……『連中』は無理矢理にでも王国への攻撃を行うつもりらしい」

 連中というのは最近噂になっている綜結教会のことである。
 彼らは軍の内側にまで派閥を作り、今まさにミルコレオ分隊と激突している状態にあるのだ。
「彼等はあらゆる理論や事象に対して『究極の合一』『全統一』『完全なる一つ』を求め、『異神』と呼ばれる神を崇めている……らしい。
 噂じゃあ、素質のある信者に対しては薬物や魔術による洗脳、果ては改造まで行っているそうでな、奴らに言わせればそれは救済なんだと」
 ろくなものじゃない、と首を横に振る。
「なんとかうちの部隊で足止めをしているが、このままでは食い破られる。軍が疲弊している今、このエリアに今すぐさける戦力もない。そこで、ローレット……君たちに依頼する」
 エライザは依頼料となるコイン袋をテーブルの中央にスッと押した。
「綜結教会の部隊を撃滅してもらいたい。強力な多脚戦車と量産型天使による一個の部隊だ。特に多脚戦車はイレギュラーズの撃滅を目的として作られたとまで言われる嫌な兵器だ。気をつけてあたってくれ。詳しい資料はあとで渡そう」
 説明を一区切りさせてから、エライザは嘆息する。
「民や国の安全を俺たちだけで守れれば、それでよかったんだろう。だが、今は君たちに頼るしかない。どうか、力を貸してほしい。人々の明日のために」

GMコメント

●シチュエーション
 綜結教会の部隊がいたずらに戦禍を広げようとしています。
 それを阻止すべく、あなたは綜結教会の部隊を撃滅する依頼をうけました。

●フィールド
 廃墟群です。かつては小規模な街だった場所を、綜結教会の戦力が占領しているようです。
 住民は殺されたか避難したか、もう残っていません。

●エネミー
 綜結教会の一組織であるアサクラ隊なる武装集団であるとみられています。
 かつて鉄帝国の『新皇帝派』に属していた部隊で、ガハラ・アサクラ元少佐に率いられているそうです。
 元々はマフィアや死刑囚といった集団でしたが、ガハラの統率力は高く、現在は練度の高いベテラン集団になっています。
 新皇帝派に属していただけあってローレット・イレギュラーズに強い逆恨みを抱いていると思われます。
※このエリアに投入されているのは量産型天使と多脚戦車のみのようです。

・多脚戦車AIT-1×少数
 連装の大口径主砲、連装機銃、近接防御兵器としての榴散弾地雷を軸に、装備変更が可能です。
 また車体後部の輸送コンテナにより、戦況に応じた運用も可能です。
 イレギュラーズの戦闘傾向へ対応しており、『ブレイク攻撃の機関銃』→『大威力の主砲攻撃』→『高命中必殺単体のライフル攻撃』を同じ対象に連続して放つなどの戦闘を行います。
 具体的にはEXAが高く、いわゆるパンドラ復活後に確殺しようという挙動をします。
 これは通常の対人兵器としてはあまりにオーバースペックな挙動です。
 この部隊の主力であり、注意が必要な敵です。

・量産型天使×複数
 何者かによってつくられた、つぎはぎだらけの邪悪で歪な生物です。
 非常に気色悪いですが、遠目には天使のようにも見えます。
 噂によれば、信者が改造されこの姿にされてしまったといわれています。
 魔導小銃や槍を武器とし、前衛部隊を担っています。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <烈日の焦土>戦禍の疵痕完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年07月31日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
シャルロッテ=チェシャ(p3p006490)
ロクデナシ車椅子探偵
長月・イナリ(p3p008096)
狐です
観音打 至東(p3p008495)
オニキス・ハート(p3p008639)
八十八式重火砲型機動魔法少女
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色

リプレイ


 廃墟群に身を潜め、迫る敵部隊を待つ。
 ミネラルウォーターのはいったボトルを手に取って、『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)は苦笑を浮かべた。
「鉄帝は以前の動乱の傷が癒えていないという事か。
 個人的には綜結教会とやらに興味はあるが、あの天使を見るに、調べて面白いものでもなさそうだね」
「綜結教会とやらの思想は異常、だしな」
 肩をすくめて片目を瞑る『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)。
「全部一つに、なんて乱雑すぎるし、それは救済じゃなくて全部失わせてるだけだし……ろくでもない連中だ」
 なあ? と声をかけられるまで、『白銀の戦乙女』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)はブリーフィングテントで見た光景を思い出していた。
 タコイーズをはじめ重傷を負った兵の数々。兵士でされあれなのだ。これが民間人を巻き込んだ戦いになどなれば……。
「完全なる統一だかなんだかしりませんが、やっていることは殺戮と尊厳を無視した破壊活動。到底許されるものではありませんね」
「その通り、だな。
 そして何より、イレギュラーズを殺すための兵器というのが『いい度胸』じゃないか。
 許しておけないし、そんな戦車に負けはしないと示してやろう」
「はい。私達を倒すための兵器までもちこんでいるようですが……そんなもので私達を止められるとおもわないでください!」
 シフォリィもイズマも、その気持ちは同じだ。
 一方で、『破竜一番槍』観音打 至東(p3p008495)はトントンと自分の肩を叩きぐるぐると回していた。
(んふふ、こういう傭兵働きも慣れたものですね。
 慣れた頃こそなんとやらですから、是非気合を入れなおしましょうか。
 ……などと言いつつ、ちょっとピリピリしている私です。
 傷のこともあり、他のこともあり)
 などと考えていると、車椅子によりかかった『ロクデナシ車椅子探偵』シャルロッテ=チェシャ(p3p006490)がふうと息をついた。
「ここ暫くは籠りきりで、頭も体も鈍っていないか心配だったけれど……丁度良い戦場が回ってきたものだね。久々にしっかり動いて調子を戻さなくては」
 実際、彼女の活躍はかなり久しぶりだ。その軍師ぶりを発揮したのはおよそ半年は前のこと。名声の高さからすれば、待ち望む声もあったことだろう。
 そうした面々がいる一方では、『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)が教会の連中へと怒りを燃やしていた。
「比較的落ち着いている戦線で暴れ、戦火を生み出す?
 どれだけの人死にが出るか分かりません。阻止しますよ。
 こんな連中のせいで誰かが死ぬなどあってはなりません!」
 見回せば廃墟群。この場所に棲み着いた誰かもいたかもしれないと思い、そして戦火によって追われたのかもしれないと考え……より深く怒りを燃やす。
 鉄帝での戦いは記憶に新しい。『八十八式重火砲型機動魔法少女』オニキス・ハート(p3p008639)にとってもだ。
「長い戦いの冬が終わって平和に向かって動き出しているところなのに。
 まだ戦いを広げて人々を苦しめようとしている奴らがいるんだね。
 綜結教会……AITなんていう代物を持ち出すってことは私たちを引きずり出すのが目的……?
 なんにしろ奴らの好きにはさせない。その目論見ごと全てここで破壊する」
「そうね。破壊してしまえばそれで終わりだもの」
 『狐です』長月・イナリ(p3p008096)は頷き、そして心の中で呟いた。
(戦車と随伴歩兵役の天使連中か。
 なら、私の役割は随伴歩兵を少しでも戦車から引き剥がす役割だわね。
 遮蔽物が多い町中&随伴歩兵が居ない戦車なんて脆い存在という事を教育してあげるわ!)


 敵を視認。その直後に飛んでいたファミリアーが撃墜された。
 ビリリとくる死の感覚に頭を抑えながら、ゼフィラはそのことをシャルロッテへと伝達する。
「敵はこっちの定石を読んでる」
「だろうね。AITなんてものがつくられるくらいだ、『それ以外』の部分で対策してきてもおかしくない」
 シャルロッテはトントンと車椅子の手すりを指で叩いた。
 さてどうするか。こういうときの手札はまだ残っているのか。
「イナリ、広域俯瞰は?」
「アクティブよ。敵の天使は飛行をやめて三方向に分かれてる。こっちを補足したみたい」
「なら、相手も俯瞰しているとみるべきか」
 『広域俯瞰』が自分達だけのオリジナルスキルなわけではない。相手がもっていてもおかしくないし、活用してもおかしくない。
 ならば、『盤上の戦い』に乗ってやるのが戦いやすい。
「イズマ。罠を張った箇所があるね? そこで迎え撃つことは?」
「できる……けど、全員を誘い込むのか?」
「そこまではしない。一部だけひっかければ充分だ。情報が伝達され警戒が強まる。それだけ、敵は動き回らなくなる」
「そういう罠の使い方があるのか……」
 イズマはなるほどと頷くと、細剣をとり立ち上がった。
「俺も広域俯瞰をもってる。一チームだけ誘導してみる。ゼフィラ、それと至東。一緒に頼めるか?」
「了解」
 至東は独特のイントネーションでそう言うと、刀を手に立ち上がった。
「オーケー」
 シャルロッテは空中に架空のチェス盤を置いたかのように指を動かすと、長い前髪の奥で目を細めた。
「イズマのチームは敵正面チームの誘導を。残る2チームは左右に別れて迎撃。ボクの強化能力範囲から出ないように」
「それだと挟み撃ちにされませんか?」
 シフォリィの当然の疑問には、シャルロッテは『あえてさ』と応えた。
「そもそもこちらは退くつもりがない。それに、敵部隊は主力の戦車と離れて動きたくない。挟み撃ちをするにしても、そう大きく展開できないんだよ」
 イズマの仕掛けた罠への警戒もあるしねと付け加えるシャルロッテ。
「そういうことなら、乗った。まずは接近してくる天使を叩いて、その後で戦車をってことだね」
 オニキスは委細承知とばかりに遮蔽物を利用しながら移動を開始した。

「コロシ、テ、コロシ、テ」
 うめき声をあげながら歩く量産型天使。
 こちらを見つけた瞬間。『コロシテェ!』と叫びながら槍を手に突進をしかけてきた。
「上手くいってくれよ」
 イズマは剣を抜き迎撃の構えをとる――と見せかけて大きくその場から飛び退いた。
 量産型天使がひっかけたワイヤーによって近くのピンが抜かれ、小型の爆弾が炸裂する。
 ダメージを与えるには至らないものの、天使の注意をそぐには充分だ。
「ゼフィラ、至東!」
「「了解ッ」」
 イズマの合図と共にゼフィラは敵陣へ突っ込み焔華皇扇を。至東もまた突っ込み無拍子追儺を繰り出した。
 至東の斬撃が光となって飛び、天使の腕と翼を切り裂いたかとおもうとその後続にいた天使たちをも切り裂いて行く。
「そこだ!」
 天使は三つに分かれている。が、そのひとつひとつはやはり多少の固まりになっていた。
 イズマはその先頭にいる天使をひるませ、その隙に範囲攻撃を叩き込みダメージを獲得。更にイズマ自身が突進し、細剣メロディア・コンダクターの突きを繰り出すことで――。
「――響奏撃・波」
 ゴオン、という剣で突いたとは思えないような音が鳴り響き、それが衝撃並となって天使を吹き飛ばしていく。
 後続の天使へと激突したことで隊列は崩壊。
 イズマは更なる踏み込みをしかけ、天に指揮棒の如く剣を振った。
 風を切る音は美しいメロディとなり、メロディは魔法となる。魔法は空に五線譜の魔方陣を描き出し、降り注ぐ雨は剣のそれだ。

 こうした一連の戦いを、おそらく天使たちは広域俯瞰によって共有しているのだろう。
 他の部隊の動きが目に見えて鈍った。
「怯んだね、今だ」
 シャルロッテが号令を出した途端、オリーブは走り出す。
 側面方向から回り込んできていた天使が剣によって応戦を図るが、オリーブはそれをロングソードによる払いのけによって防御。後方へ回り込むとその背を切りつけた。
「タスケ、ゲェ」
 奇妙な呻きをあげる天使。量産型天使の元は人間であり、教会によって改造されたのだという噂を思いだしオリーブは兜の下で顔をしかめた。
 が、そうした時にも冷静に動くのがイナリである。
 オリーブが先頭の前衛天使を斬り伏せた途端に瞬間移動を果たし、後衛の弓を持った天使へと急接近。
 咄嗟に相手がナイフを抜いたが、それを足で蹴りつけて止めると機関銃を鈍器のように叩きつけた。
 天使たちから浴びせられる集中砲火。
 オリーブはイナリから事前に聞いていた通りに後退し、イナリへの集中砲火を許す。
 そう、彼女の真骨頂は体力が4割を下回った時にこそ発揮されるのだ。
「近接防御用の榴散弾地雷って自身の周辺の随伴歩兵を攻撃に巻き込むから別世界では廃れた兵器なのよね……天使連中巻き込んで自滅してくれないかしらねー……」
 などと余裕そうにつぶやきながら、天使たちの集中砲火を次々に回避していく。
 ほぼ一方的な射撃と打撃が、天使たちを襲い始めた。

 相手二チームを抑えたところで、敵の多脚戦車が動き始める。
「纏めて撃ちます!」
 『フルーレ・ド・ノアールネージュ』を抜いたシフォリィはその斬撃を天使たちへと放った。後続の天使とそれにくっついた形で移動する多脚戦車。
 攻撃が浴びせられたことを察して戦車が建物の影に隠れるが、それはむしろ好都合だ。
 シフォリィは隠れていた遮蔽物から身を乗り出して走り出す。
 剣を手にした天使が大上段から斬りかかるのを、ひらりと身をかわすことで回避。踊るように相手の側面を抜け、魔力を載せた斬撃を叩き込む。
 切り裂いた肉体から炎の花が咲き、天使は『グルシイ』と叫びながらその場に倒れ、のたうち回った。
「これが、量産型天使……」
「シフォリィ、伏せて!」
 ドンッ、と音がして反射的に飛び退くシフォリィ。
 振り返るとオニキスがジェット噴射によって急速に上昇。遮蔽物を無視して天使たちをロックオンした。
「120mmマジカル迫撃砲――攪乱弾」
 パタンとおりてきたARゴーグルに対象が一つ一つロックされる。遮蔽物に隠れた戦車はギリギリ範囲にいれつつ、まずは邪魔な天使からだ。
「発射」
 背負っていた拡張兵装四問全てが火を噴き、廃墟群に爆発を起こさせる。
 天使たちは見事に吹き飛び、廃墟の壁に激突した。


 民家だったであろう建物の壁が吹き飛ぶ。
 多脚戦車AIT-1の砲撃によるものだろう。
「随伴する歩兵が倒されても退かないとは、愚かなのか、それとも相応の対応力がその多脚戦車にはあるのか……この場合は後者なのかな?」
 シャルロッテは車椅子とは思えない激しい機動で落ちてくる瓦礫を回避すると、パチンと指を鳴らしてA・バトラーとA・メイドをそれぞれ呼び出した。魔導ロケットランチャーを構えるメイド、『撃て』の合図によって発射されたそれがAITへと直撃し爆発を起こしたと同時に、シャルロッテは仲間たちに突撃の指示を発した。
「ほら来たぞ、瞬く間に戦場は変わっているよ。ボクが支援するから、後は好き放題にやり給え」
 それにこたえたのは至東とゼフィラだった。
 ゼフィラは熾天宝冠のスキルによって前衛に飛び出した至東を治癒。
 至東はそれをうけつつ、機関銃による射撃を浴びせられながらもトンと空へと飛び上がった。宙駆けである。
「遠距離か近距離かの二択に加え、宙駆けを併用した天地で更に二択。
 こちらの飽和攻撃を受けながらの強制四択は、ケッコーきついんじゃないでしょうか?」
 空中から繰り出す無拍子追儺。
 飛ぶ斬撃を多脚戦車がその器用な機動力によって回避しようと動き出した、まさにその時。建物の影からイズマがぬっと姿を現した。
「攻撃に気を取られたか。無防備だな」
 メロディア・コンダクターの一振りによって繰り出されたのは斬撃ではない。風切りの音楽であり、変容したメロディだ。そしてメロディはまたしても魔法へと変わり、イズマの眼前に五線譜の魔方陣を描き出す。
 キュラッとキャタピラを動かして反転するAIT。だが遅い。イズマの砲撃は装甲を貫いてその内部をも破壊し尽くしてしまったのだった。
 ヒュン、と剣を振ってから鞘に収める。
「他の仲間たちは……うまくやってる頃かな」
 そして、彼の見た広域俯瞰では……。

「量産化しているみたいだから、調査して装甲の脆弱性など、弱点や性能を白日の下に晒してあげるわ。うふふふ、どんな構造、設計思想なのか調べるのが楽しみだわね♪」
 などといいながらイナリは短機関銃によってAITとの打ち合いに発展していた。
 壊れた建物を遮蔽物にしながら走り、回り込むような軌道を描いてAITの旋回を誘う。
 かと思えば瞬間移動をしかけてAITの真上に飛び乗り、思い切り射撃を浴びせたかと思えば即座に攻撃範囲外へと離脱する。
 とらえどころのない戦い方だ。一対一となったならこれほど厄介な敵もそういないだろう。
 故にというべきか、AITの狙いは徐々にシフォリィへと向きつつあった。
「そうなってくれるのは、むしろ好都合というもの」
 突っ走ってくる巨体から逃れるかのように走り、建物の中へと飛び込むシフォリィ。
 砲撃が建物の壁を破壊する――が、建物内にシフォリィの姿はない。
 姿を探すAIT――の真上、つまりは上空に魔法の風を纏ったシフォリィの姿があった。
 イナリからの連続攻撃を受けていた今だからこそ効く。この攻撃。
「その砲撃、封じさせて貰います!」
 空からの急降下突撃。剣がその装甲を貫き、砲身を破壊する。
 反撃の手段を失ったAITがどうするのかと言えば、残った機銃をなんとかシフォリに向けようと車体をひねることだけ。
 哀れなものだ……とは思わない。
 自分達を狙い、殺すために投入された兵器。そしてそれをしんじて疑わぬ人々。改造された天使たち。
 もし哀れむのであれば、そんな天使たちであり……武器そのものではない。
「人々の明日は、脅かせません!」
 至近距離から魔力を叩き込み、AITの車体からと飛び退く。内側で暴れた魔力は爆発を起こし、着地したシフォリィの背を茜色に一瞬照らすのだった。

 シフォリィと入れ替わるように別の戦車へ挑んでいたオリーブ。彼はAITの放つ砲撃をなんとか掻い潜りながら、クロスボウによる射撃をくり返していた。
「なんとか隙を作れれば突撃できるのですが……」
「ってことは、私の出番ってことなのかな?」
 オニキスがフッと笑ったようだ。おニューの拡張フライトユニットの翼を展開、変形。
 そして拡張ユニットをあえて切り離すと、まるでサーフボードのようにその上に飛び乗った。
 拡張ユニットが飛行し、上空からAITへの激しい射撃を浴びせる。
 対抗してAITが砲撃を放ち、拡張ユニットが撃墜――されたと同時に飛び降りたオニキスは地面に鋭く着地しながらマジカル☆アハトアハトを構えた。
 脚部パーツでしっかりと衝撃を吸収している。狙いはブレない。まるで放熱パーツのごとくツインに縛った髪が風に大きく靡き、オニキスは目を細めた。
「120mmマジカル迫撃砲――重力弾」
 砲撃――着弾。そして爆発。
 AITの動きを封じるために用意された魔術弾頭は着弾と同時に魔方陣を幾重にも展開し、ズンと下方へむけた重力を発生させる。
 多脚戦車がべたんとその身体を地面につけたその瞬間を、勿論オリーブは見逃さない。
 今だとばかりに走り、自らの剣をAITのコックピットめがけて突き立てたのだった。
 アアアという叫び声が響き、血が吹き上がる。
 量産型天使同様、これも改造された怪物が操縦していたのだろうか。そうでなくては、この戦い方はおかしいから……。
「なんという、むごいことを」
 オリーブは目を瞑り、剣を引き抜いたのだった。

 こうして、ミルメコレオ分隊が守っていた戦線でのいたずらな攻撃は回避された。
 人知れずまた、平和は守られたのである。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete

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