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シナリオ詳細

<熱砂の闇影>金砂のサーブルヴァーグ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●金砂の終焉獣、サーブルヴァーグ
「忌まわしき黒き娘の影響が、このような形で出ようとは、な……」
 錫杖を手にした老人が嘆息したように述べると、部下とおぼしき僧服の男たちが膝をつく。
 男たちはペストマスクめいた仮面で顔を覆い、頭もまたフードによって覆われている。
 一団は白き衣と金の意匠に包まれ、いっそ荘厳にさえ見える。砂の吹きすさぶ地にありながら、彼らはまるで殉教者の如く敬虔だ。
「我等がルストはどのように?」
「『存分に利用せよ』……と、仰るだろう」
 老人もまた、同じようにマスクを被る。手にしていた錫杖をしゃらんと鳴らすと、頂点にある六角形の装飾が金色の光をひいた。
 そんな彼らの視線の先。それはそれは巨大な怪物が、待ちへ向け移動を始めている。

 『金砂の終焉獣』――またはサーブルヴァーグと呼ばれたその個体はどのような意志をもって動いているか不明である。
 その姿はまるでサバンナのライオンの如く威厳に溢れ、密林のトカゲのように派手な模様に覆われ、全身は金色の砂で覆われていた。
 四足獣のごとく四肢で歩くその姿は金砂をひき、まるでそれが第二の太陽のように煌めいている。
「チッ、こいつぁえらく戦いづらいぜ」
 虎頭の傭兵マラティーは鉄の爪を装備しサーブルヴァーグへと斬りかかる。
 ただでさえ大柄なマラティーからしても見上げてしまうほどの巨大さをもったサーブルヴァーグだ。どこを斬り付けてよいか迷うものの、まずは正面から。
 そんな彼の斬撃をあざ笑うかのように、サーブルヴァーグからは金の砂が吹き付けた。ただ吹き付けただけではない。空中で無数の剣の形に変わった砂は、マラティーの爪を刀身によって受け止め、そして有り余る刀身によって斬り付けていくのだ。
 歪曲した剣のひとつがマラティーの腕を貫いたところで、グオオと声をあげ――直後に銀の弾丸が何発も撃ち込まれた。
 剣が次々と破壊され、マラティーを襲うすべての剣が砂へと還る。
「突っ込みすぎ。死ぬよ」
 大口径のリボルバーピストルをリロードしながらそう言ったのは、『銀の弾丸』ことパドラだ。
 そう、彼女もマラティーも、凶(マガキ)傭兵団の勇敢なる傭兵たちなのである。
「アタシたちじゃ戦力不足だね。戻るよ」
「だな……やっぱ、『あいつら』がいねえと話にならねえ!」
 撤収すんぞ! とマラティーが叫ぶと、他の負傷した仲間たちをつれてパドラはパカダクラへと飛び乗ったのだった。

●終焉獣と遂行者たちの共闘
「厄介なことになってきたね。助けが欲しいんだ」
 ラサは首都ネフェスルスト。ローレットのよく通うバーに現れたパドラはあなたへと歩み寄ると、カウンターによりかかってビールを注文した。
 瓶のままでてきたビールに口をつけ、フウと息をつくパドラ。
「天義からルスト派の遂行者たちが各地に散ってるって話は聞いてたんだ。聖遺物を触媒にして、『神の国』とやらを作っては帳を下ろして現実を書き換えちゃう、ってさ」
 帳によって書き換えられた現実は、曰く彼らにとってあるべき世界の姿であるという。
 ローレットが活躍せず、あるいは現れず、世界が魔種によって滅ぼされ地獄のように変わっていくそんな世界だ。
 そんな世界に、書き換えられてたまるか。
「ねえ、想像して。アタシたちが戦ってきたことが、積み上げてきたことが、いいこともわるいことも全部台無しにされる気分。……最悪だよね?」
 パドラはそう語ると、瓶を置いてあなたに向き直る。
「遂行者はこのラサにも触媒をばらまこうとしてる。それをアタシたちは阻止してたんだけど……ちょっと面倒なことになったの。
 『終焉獣』って、知ってる?」
 もしあなたがROOでの出来事に詳しいなら、あるいはアドラステイアの顛末を知っているなら、終焉獣という言葉にも聞き覚えがあるかもしれない。
 それはいわゆる世界の終わりをもたらす滅びの存在だ。
 終焉(ラスト・ラスト)に生息している詳細不明の生き物であり、滅びのアークの化身と言っても過言ではないだろう。
 そんな存在がどうやらラサへとまろびでたのだというのか。
「そういうこと。『終焉獣』は流石に強力だから、手を焼いてて……そこに遂行者たちは乗じてきたってわけ。流石に連中と同時に相手にはできないから、こっちも戦力の増強が必要なの。つまり……」
 と、最初の言葉に戻る。
「助けが欲しいんだ」
 報酬はちゃんと用意するよ、と腰に下げていたコイン袋をどんとテーブルに置いて見せた。
「ついでに、ここの払いももってあげる。どう?」

GMコメント

●シチュエーション
 ラサに出現した強大な怪物『終焉獣』と、天義からやってきたルスト派の遂行者たちが共闘し始めました。
 ラサの傭兵団は彼らの動きは掴めていますが、戦闘力が高すぎるために手を出しあぐねている様子。そんな中、ラサの大傭兵団マガキの一員であるパドラから増援の依頼がローレットへ舞い込みました。
 パドラと手を組み、終焉獣と遂行者たちを倒しましょう!

●フィールドデータ
 『アラサミド遺跡』というラサにある古代遺跡のひとつです。
 遂行者たちはここにキャンプをたて、触媒をばらまくための活動拠点としているようです。
 一方で終焉獣は巨体ではありますが知性が低く、遂行者たちに利用されているようです。
 本当はこのキャンプを叩きたいのですが、終焉獣がすぐそばをうろついているために先にそちらを片付けなくてはならない状況です。

●エネミーデータ
・『金砂の終焉獣』サーブルヴァーグ
 巨体の怪物です。獅子のような四足獣フォルムをしており、金色の砂を纏っています。
 この金の砂はサーヴルヴァーグの盾であり剣です。形を自在に変えて防御や攻撃に用いており、パドラたちの戦闘記録だけを見てもこの一体がなかなかに強力であることがわかります。

・サーブルヴァーグの子供たち(略称『子供』)
 こちらも同じく終焉獣ですが、サーブヴァーグより小型で大量に存在しています。
 リーダー個体のサーブルヴァーグを保護するように、敵対者を排除するように動きます。

・遂行者ラスールとガスマスクの一団
 ラサ地域に触媒をばらまくことを目的とした遂行者とその部下たちです。
 どうやら彼らは人間であるらしく、それぞれがそこそこの戦闘力を持っている模様です。
 特にラスールは強力で、錫杖を用いた魔術を巧みに行使して戦うとされています。
 彼らは終焉獣と共闘しているとはいっても、終焉獣側は知性が低く一方的に利用されている状況です。彼らも被害が自分達に向かないように適当に横やりを入れるというやり方をしてくるでしょう。
 場合によっては横やりを入れることなくさっさと撤収してしまうかもしれません。

●味方戦力
・『銀の弾丸』パドラ
 マガキ傭兵団の一員です。ラサを破壊しようと試みたラーガ・カンパニーとの戦いではローレットと共に活躍しました。
 銀の大口径リボルバーを主武器とし、オールレンジに対応した動きをします。
 前回の戦いで他の仲間が負傷したため、今回はパドラだけが味方戦力として参戦しています。

 余談ですが、相談中の飲食代はパドラがもってくれるそうです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <熱砂の闇影>金砂のサーブルヴァーグ完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年07月21日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)
私のイノリ
キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
グドルフ・ボイデル(p3p000694)
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
ルナ・ファ・ディール(p3p009526)
ヴァルハラより帰還す
ニャンタル・ポルタ(p3p010190)
ナチュラルボーン食いしん坊!
月季(p3p010632)
黒き流星

サポートNPC一覧(1人)

パドラ(p3n000322)

リプレイ


 バーのカウンターに寄りかかり、パドラは出されたビールの瓶を掴む。
「あとで飲み比べでもする?」
 同じようによりかかって、『優しき咆哮』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)が瓶を翳してみせる。
「いいね。けどその前に」
「サーブルヴァーグ、でしょ。あいつを片づければ自然と遂行者たちもキャンプを撤収する筈。だよね?」
「だろうな」
 『灼けつく太陽』ラダ・ジグリ(p3p000271)が椅子に腰掛けたまま振りかえり、二人の質問に答えた。
「状況から察するに、連中は終焉獣を操ってるわけじゃない。あくまで状況を利用しているにすぎない。火事に紛れて悪事を働こうというなら、火が消えれば逃げていくだろう」
 それにしても……と、ラダはテーブルに頬杖をついた。
「宗教家ってのは商売人より儲かるのかね」
「その二つは根源的には同じ物だって聞いたぜ」
 『黒き流星』ルナ・ファ・ディール(p3p009526)がニカッと笑ってテーブルの向かいで酒を飲んでいる。
「そうだパドラ。あんたとの挨拶もまだだったな。よくまぁあんなむさ苦しいとこで、んな器量良しに育ったもんだ」
「余計なお世話……って言いたいけど、事実だからね」
 肩をすくめるパドラにルナは笑って続けた。
「飲み代嵩むようなら、ハウザーに経費で申請してやれよ」
「あいつが経費なんていう真面目な単語知ってると思う?」
「じゃ、いつぞやの、変化して正装したときの貸し分だとでも言っとけ」
「それなら通じそう」
「しっかし……」
 『社長!』キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)が椅子から立ち上がってビール瓶を飲み干した。
「あのルスト派の連中ときたら、節操なくあちこちに鼻突っ込みやがってよ。
 しかもよりにもよってラサだぜ? 巫山戯やがってよ」
「ラサだと都合が悪いのか?」
 『灰想繰切』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)が問いかけると、キドーはケッと苦々しい顔だけをした。
 どうやら追求はしないほうがよさそうだ。アーマデルは話を切り替え、パドラに問いかける。
「遂行者の連中がキャンプをはっていると聞いたが、もしかしたら井戸があるんじゃないのか? 水を撒くための水源にできないだろうか」
「ないとも限らないけど……どでかいポンプがいるね。さすがに持ってきてないかな、それは」
「ほーん?」
 話は半分までしかわからないといった様子で『優しき咆哮』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)がカウンターに頬杖をついた。
「よーわからんけど、あれでしょ? 敵は倒す! そんな感じの奴でしょ?
 おーけーおーけー、ワタシに任せなさいってぇの。いや任されたら困るな、みんなで頑張ろーぜぃ」
 ごはん美味しかったし、と手をかざす月季。
 アバウトだが、方向性はだいぶ間違っていない。
「へっ。それにしても砂遊びするバケモンとはね。まァ、タダ飯タダ酒ぶんの仕事くれえはしてやるか!」
 『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)が空っぽになった瓶を置いて席から立ち上がる。
「で、作戦は?」
 新しく、栓も抜いていない酒瓶を手に持ったままグドルフが振り返る。
 『ナチュラルボーン食いしん坊!』ニャンタル・ポルタ(p3p010190)が無言で空を指さした。
「雨乞いでも」
「降るかよー」
「せんよりましじゃろ!」
 ニャンタルは二本の剣うちゅうシリーズを交差させて頭上でかちかちとぶつけてみせる。
「サーブルヴァーグは砂の怪物。水で固まれば動きが鈍るのが道理じゃ。ま、そうでないにしても挟み撃ちにして叩けば勝てる相手じゃろ」
「だな」
 話は纏まったとみたのか、パドラが支払いを済ませて酒場を出ようとしていた。
「さ、そろそろ行こうか。余所者を追い出しに」
 ホルスターから、銀のリボルバーを抜いて。


 パカダクラにのり、砂漠を走る一団。
 見えてきたのは砂漠に聳えるように立つ獅子の如き砂の巨体、サーブルヴァーグだ。
 自走していたルナが空を空を走り始め、サーブルヴァーグとの交戦可能距離へといち早く入り込む。
「さあて、どう撃ってくるかね」
 にやりと笑い、ライフルの狙いを付ける。発砲――と同時にサーブルヴァーグの砂が舞い上がり無数の剣を形作った。スローイングダガーにも似たそれはルナへと次々に発射される。
 全弾直撃――かにみえたが、それらはルナの展開した魔術結界によって眼前で停止し、ぱらぱらと砂に還っておちていく。
 見下ろすと、ズズズとサーブルヴァーグの子供たちが砂の中から這い出るように動き始めていた。
「まずはこいつらからだな」
 サーブルヴァーグを押さえ込むことは、仲間と力を合わせれば難しいことでもない。しかし子供たちの襲撃をうけながらとあっては結界も破られかねない危険がある。安全な撃退のためには必須となるのだ。
「っつーわけで作戦通りだ、頼むぜ!」
「任せて。行くよパドラ」
 シキがガンブレードを握って走り出すと、パドラが子供たちに一定の距離をとりながら銃撃を開始。
「いつでもいいよ、やってシキ」
 合図を受け、シキはブレードのトリガーを握り込んだ。
 ギィンという奇妙な音が鳴り響き、それをうけた子供たちがシキへと密集し始める。
 子供たちなどと称してはみたが、大きさにして虎一頭分といったところか。それが一度に密集し飛びかかってくるのだが地獄めいている。
 シキは最初の一頭が牙をむき出しにして食らいついてくるのを、刀でガードする形で受け止めた。
 今こいつらを蹴散らせば……と想像したものの、今回味方にヒーラーが少ない。ここは防御に専念するべきタイミングだろう。
「纏めてなぎ払って! できるでしょ!」
「おうよ」
 キドーがキヒヒと笑いながら角笛を吹き鳴らした。
 それは俺の役目だとばかりに邪妖精がどこからともなく飛び出してきて、ワイルドハント狩猟団がサーブルヴァーグの子供たちめがけて殺到する。
 獅子のような身体を切り裂き、あるいは切り裂かれるその乱闘状態の中を、ラダは冷静にスコープで狙いをつけた。
「よく見える」
 タタタンとミシンのような連射が放たれた。シキを巻き込んだ連射だが、見事なことにサーブルヴァーグの子供たちにのみ命中する射撃であった。
 もしスローで今の様子を見直すことが出来たなら、ラダがスコープ越しにサーブルヴァーグの子供たちの頭に狙いをつけ、星座をなぞるような繊細かつ正確な腕運びとテンポで連射をしかけていたことがわかるだろう。
「なるほど。見習いたいところだ」
 アーマデルはそのように言いながら英霊残響の音色を奏でる。特殊な音色はサーブルヴァーグの子供たちへと響きわたり、的確に敵だけを狙って苦しみをあたえていく。
 どうやらそれだけでは少々心許ないと思ったのか、蛇鞭剣ダナブトゥバンをチェーンモードに展開して届く範囲のサーブルヴァーグの子供たちを次々に切り裂き始める。
「よし、開けたのじゃ!」
 アーマデルたちの攻撃によって、邪魔になっていたサーブルヴァーグの子供たちが殲滅された。そこを突っ切る形でニャンタルたちはサーブルヴァーグ本体へと突撃を開始した。
 トウ! とルナの背に飛び乗ったニャンタルは自慢の双剣うちゅうやばい&うちゅうすごいを抜刀する。
 それにつきそう形で砂の上を走る月季とグドルフ。
 先制攻撃を放ったのは月季だった。
「くらえ、ひっとあんどあうぇい!」
 月季の繰り出した蹴りがサーブルヴァーグの砂の爪をへし折り、そこへニャンタルがルナから飛び降りることで急降下突撃をしかけた。
「うちゅうのやばさを知るがよい!」
 斬! と叫びながら双剣を同時に叩き込むニャンタル。
 爪を折られて防御をし損なったサーブルヴァーグに見事に剣が刺さり、砂を派手に散らさせた。
 そんな中で、グドルフがニッと笑う。
「アレやっとくか?」
「アレってどれ?」
「アレはアレだよ!」
 グドルフはサーブルヴァーグめがけて山賊斧をぶん投げた。
 凄まじい回転をかけて突き刺さった斧を、砂でできた爪で払ってグドルフへと突進し始めるサーブルヴァーグ。
 グドルフはにやりと笑うと、アラサミド遺跡へ向かって走り始めた。
「ウオオオ! ヤベエ!! おいそこのおめえら、助けろ!!!」

 キャンプから双眼鏡で様子を見ていたガスマスクの老人は、こちらに走ってくるグドルフとその一団。そしてそれを追いかけるサーブルヴァーグを見て嘆息した。
 同じ光景を見ていたであろう部下が双眼鏡を下ろす。
「どうしますラスール殿」
「あれは『三賊』だ。やつらが出てきた以上終焉獣も終わりだろう。作戦を終了する」
「撤収するのですか?」
「捕まって情報を吐くオモチャにでもなりたいかね?」
 皮肉たっぷりに言う老人に、部下は慌てて首を横に振った。
「撤収を始めます」
「重要なもの以外は捨てていけ。どうせ役に立たない」

「お、逃げるっぽいなあの連中」
 グドルフがサーブルヴァーグを誘導しながらそう言うと、同じく走っていた月季が振り返った。
「おっかけてブッコロ?」
「ここでチームを分けるのは危険っぽいんだよなあ」
 サーブルヴァーグは誘導に応じてこそいるが、いつまでも引っ張り回せる自信はグドルフにはなかった。なにかしら確証があるというより、長年の経験と勘によってではあるのだが、ナメると負けそうなきがするのである。
「おい盗賊ぅ! 作戦変更だ、ここで向かえ打――」
 ぎゅんとその場で方向転換をかけ、仲間のほうへと戻ろうとした、その途端。
 ぽたりとグドルフの鼻先が濡れた。
 ハッとしてニャンタルが顔を上げる。
 空にはいつの間にか雲がかかり、サァッというにわか雨が降り注いだのだ。
「おお……おおおお!」
 祈雨術で雨が降ったらいいなあくらいに思っていたが、本当に降るとは!
 そして狙い通りと言うべきか、サーブルヴァーグは砂を巻き上げ爪や剣を作ろうとしてそれに失敗している様子だった。
 代わりにと、べったりと身体に張り付いた砂を硬化させて鱗のように変質させ始めている。
 雨が降ったら防御に徹するということだろう。
「最悪ビールを瓶ごとぶっかけようかと思ってたけど……まさかうまくいくとはね」
 シキが濡れた髪をかき上げてふりかえると、パドラが呆れたように肩をすくめた。
「雨を降らせて砂の魔物を弱らせようって言い出した時はさすがに無理だと思ったけど、やっちゃうんだもんね。さすがイレギュラーズ……って感じかな」
 だがここまで追い込めばあとはもう一息だ。
 パドラはサーブルヴァーグに射撃可能きょりまで近づくと、両手でしっかりと構えたリボルバーピストルを撃ちまくった。
「よっしゃ、装甲ぶち抜けばいいんだろ? 手伝うぜ!」
 ルナもザッと砂地に着地すると、ライフルを構えて撃ちまくる。
 こういう時のための撃ち方というものがあるのだ。
 ルナは一点を集中的に狙いながら突進し、至近距離に至ったところで傷付いた装甲部を零距離射撃。装甲をひっぺがしてやったところで――。
「伏せろ」
 ラダがライフルに特殊弾頭を詰めて構えていた。
 ルナがサッと飛び退くと、テンペスト弾頭が雨降る空を穿つように走り、ひっぺがした装甲部へと着弾、破裂した。
 グオオと吠えるサーブルヴァーグ。
 そこへ月季が物凄いスピードで飛行し突っ込んでいった。
「おりゃっ、くらえい!」
 これができれば百点だとばかりに宙返りをはさんで蹴りを繰り出す月季。
 その攻撃に伴って、アーマデルが至近距離まで迫って蛇銃剣アルファルドを突き立てた。
 零距離からの発砲。ほとんど爆発のような衝撃が走り、アーマデルはその衝撃で飛び退いた。
 同じく衝撃から逃げるように飛び退く月季。
「暑いだろ。こんな時ゃあ、水分補給が大事だよなあ。オラオラ遠慮すんな、タップリ飲めよ!」
 グドルフは手にしていた酒瓶を思い切り投げつけると、ばしゃんと酒が弾ける中へ飛びかかった。
 山賊刀が装甲を切り裂き、その内側の肉をも切り裂く。
 ここでようやくというべきか、サーブルヴァーグが肉と血のある魔物であるとわかった。なぜなら、装甲の内側から赤い血を吹き上げさせたためだ。
「オラ、ぶっ放せ子鬼ども!」
 キドーが邪妖精にコインを放り投げて命じると、それに応じた邪妖精が礫を大量に投げ始める。
 石の礫とて速度が乗れば兜をやぶり、人の頭を破壊する。それはサーブルヴァーグとて例外ではないらしい。装甲を穴だらけにしたサーブルヴァーグが身体をゆすり、せめてもと反撃に出始める。
「爪の攻撃、かな?」
「む! かかってくるがいい!」
 剣を構えるシキとニャンタル。
 サーブルヴァーグはどこか緩慢さを思わせる動きで爪を繰り出したが、それをかわすことはシキとニャンタルの二人にとって容易だった。
 それぞれ横っ飛びに回避すると、濡れた地面を転がってそれぞれサーブルヴァーグの側面へ。剣を装甲を破って突き立てると、そのままがりがりと身体を切り裂きながら走り抜けた。
 駆け抜け終えた、その後は……グオオと最後の叫びをあげ、サーブルヴァーグは泥のように溶けてきえてしまったのだった。
 気付けば雨もあがり、ぐっしょりと髪を濡らしたパドラが前髪を指で払う。
「お疲れ様。約束通り、飲み直す?」


 シキとパドラはビール瓶で乾杯すると、二人同時に口をつける。
「終焉銃が倒れたおかげで、あのあたりも安全になったよ。道を使ってる商人もいたから、かなり助かったんじゃないかな」
「商人の話は聞いてなかったけど?」
「アタシもさっき聞いたばっかりだし」
 酒場ではどうやら、ローレット・イレギュラーズがサーブルヴァーグを倒した話で持ちきりであるらしい。
 月季は浮かれたムードに乗っかってパーティー気分で楽しんでいるようだ。時折いーえいという声が聞こえてくる。
「そういや、あの遂行者どもはどうなったんだ?」
 キドーがピーナッツをつまみながら問いかけてきた。
 それにはむすっとした顔のグドルフが答える。
「さあな。尻尾巻いて逃げやがった。全員ぶちのめしてやりたかったのによ。キャンプにもろくなもんを残していきやがらねえし」
「元々大したものを置いておくつもりはなかったんだろう。目的が触媒のばらまきだからな」
 ラダが嘆息したように言う。
「触媒……か。そいつがばらまかれれば、またラサにも『神の国』とやらが作られるのかね」
 ルナの呟きに、ニャンタルがううむと唸った。
「問題はそのあとじゃな。帳が降りれば連中の思うままじゃ。取り返すにも一苦労になる」
「結局は、地道に連中を排除するほかない……ということか」
 アーマデルは椅子に寄りかかって目を瞑っているようだ。
「それにしても……途中で雨が降り出すとは、本当に幸運だったな」
「祈雨術のちからじゃろ!?」
 じゃろ!? と自己主張を激しくするニャンタルに、シキが苦笑する。
「私も一緒にやってたけど、まさか本当に降るとは思わなかった。幸運が味方したね」
「なら、その幸運に」
 パドラがビール瓶をスッと差し出す。
 シキたちは同じように瓶を翳した。
「「幸運に」」

成否

成功

MVP

ニャンタル・ポルタ(p3p010190)
ナチュラルボーン食いしん坊!

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete

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