シナリオ詳細
メガ・バスピス。或いは、漂流生活24…。
オープニング
●青い海、青い空、それから絶望
「まいったっすね」
空が青い。
どこまでも広く、青い空だ。
「あぁ、本当にまいった。こりゃ駄目だ。干上がっちゃうよ」
もう汗もかかない。
ぐったりと疲れた顔をして寒櫻院・史之(p3p002233)が甲板に伏せる。
夏の陽気が、じりじりと史之、そしてイフタフ・ヤー・シムシム(p3n000231)の肌を焼く。頬にピリピリとした痛みを感じ始めたところで、イフタフと史之はのろのろと日陰の方へ移動した。
足元には渇いた甲板。
見上げる先には、半ばほどでへし折れたマストと、ボロボロになった帆があった。
それから、甲板の端には人の骨。
骨、骨、骨……骨の山。
「まさか、豪華客船だと思って乗り込んだのが……幽霊船だったなんて」
3日。
イフタフを始めとした数名が、幽霊船に乗り込んでから既にそれだけの時間が経過している。
「豪華客船? 俺はミステリーツアーって聞いてたけど……?」
「……何っすか、それ?」
事の起こりは3日前。
港で「豪華客船遊覧ツアー招待券」なるチケットを拾ったところにまで遡る。
招待券に記載された集合場所は、海洋のとある廃港だ。港に停泊していた、絢爛豪華な遊覧船に集まった者たちは誰もが目を輝かせた。
今夜は船でパーティーだ。
美味しい食事に、美味しいお酒。
客室に用意されたベッドはふかふか。
夜の海が一望できるデッキには、気持ちの良い風が吹いていた。
イフタフをはじめとした数名の客は、実に贅沢な一夜を過ごした。腹は満ちて、気分はほろよい。用意された客室で一夜を明かし……。
目が覚めた時、そこは見知らぬ海の上だった。
オンボロの客室。窓ガラスは割れ、ドアは半壊しているし、壁には穴が開いている。
「ゆ、幽霊船……?」
目を覚ましてから1時間。
イフタフは、自分の置かれた状況を正しく理解したのであった。
「食糧、水は無し。マストは全壊、舵は利かないっすね」
「羅針盤も狂っているし……ここがどこかも分からない。お手上げだよね」
潮の流れや、船の速度から判断するに、きっと陸地からそう遠くは離れていないはずである。
かといって、陸地が見えるほどでもない。
「手がかりは一冊の日記帳だけ」
日記帳……つまり、それは航海日誌だ。
日付は、今から50年ほど前のものとなっている。
内容と言えば、取り留めのない航海日誌。どうやらこの幽霊船、元は海洋のとある海域で見つかった未知の魚を見学するための遊覧船であったらしい。
未知なる魚類の名前は“サカバンバスピス”。
ヒレのないオタマジャクシか河豚に似た形。
頭部の真正面に並んだつぶらな瞳と、半開きの口。
真正面から見ると「(◉_◉)」←こんな感じの顔をしている。
イフタフも知っている魚だ。
つい先月、見たばかりである。
「んー……船の周りを泳いでいるのって、サカバンバスピスっすよね」
甲板の端から身を乗り出して、イフタフは海面を覗き込んだ。
船の周囲をゆっくりとおよぐ幾つもの魚影。そのフォルムから、それらがサカバンバスピスのものであることが分かる。
それから、もう1つ……。
「泳いで逃げ出そうにも……アレがいるんじゃ、ちょっとなぁ」
船より数十メートルほど後方には、体長30メートルに近い巨大な魚影が見えている。
あれも、サカバンバスピスだ。
それも、特大サイズの育ちすぎた個体……メガ・サカバンバスピスとでも呼称しようか。
泳ぐのが下手なサカバンバスピスだとしても、そのサイズはあまりにも巨大。圧巻の一言に尽きる。そして、大きさとは強さだ。
下手に刺激し、船を攻撃されでもしたら、海の真ん中で足を失う。
「さて……陸が見えてくるまで、どう生き残りましょうかね」
「まぁ、なるようになるんじゃないかなぁ?」
イフタフも史之も、もう何かを考えるだけの余裕がないのだ。
何しろ3日、飲まず食わずが続いているので、脳に回すカロリーが足りない。
- メガ・バスピス。或いは、漂流生活24…。完了
- GM名病み月
- 種別 通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年07月11日 22時10分
- 参加人数7/7人
- 相談0日
- 参加費100RC
参加者 : 7 人
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参加者一覧(7人)
リプレイ
●海の上、船の上
太陽光が降り注ぐ。
穏やかな風が吹いている。
風は吹いているけれど、船は少しも進まない。と、いうよりも正しくは波に流されている。
何しろ、そこは幽霊船。
既に3日も、海洋のただひたすらに広い海を漂っている。
甲板の真ん中に、木箱が1つ。
木箱の上に並べられているのは、幾つかの罅割れたコップだ。
「実は俺、ギフトでドリンク出し放題なんだよね」
トトト、とコップに注がれるのは水である。
だが、ポットや水筒の類は無い。『若木』寒櫻院・史之(p3p002233)の手から、コップに直接、注がれている。
「み、水っすか!? 水? うわ、本当に水だ! 何で今まで黙ってたんすか!?」
「雨水で凌げてたし、こんな長期間の漂流になると思ってなかったから……かな? こんなサバイバル向きのギフトになるとは思わなかった」
溜め息をひとつ。
史之は青い海を見た。今のところ、どこにも陸地の影は見えない。
オタマジャクシのような形の魚がたくさん。
ヒレはなく、ただ波に流されるように泳いでいる。
真正面に並んだ円らな瞳と、半開きの口。頭部から胴体までを覆う盾のような鱗。
名をサカバンバスピスという、太古の時代に生きたという魚だ。
「まあ、バスピス! パスピスじゃない!」
既に絶滅したはずの魚を見つけ『永遠の少女』ルミエール・ローズブレイド(p3p002902)は喜声をあげた。
甲板後部、海面まで続くタラップを降りた場所である。元は荷物の搬入や、漁のために使っていた区画だろう。
「ルミバンバスピスよ! ご機嫌よう!」
海水に浸したルミエンバスピス……もとい、ルミエールの手にサカバンバスピスたちが寄って来る。半開きの口でルミエールの手を突いているのは、餌と間違えているからか。
これから自分たちが餌となる予定なのに、顔に似てのんきなものである。
「お前等の血肉や魂は1片たりとも無駄にしないぞーワハハハハー」
ルミエールの隣には『彼岸と此岸の魔術師』赤羽・大地(p3p004151)が並んでいた。
数日間の断食生活によって、既に意識が朦朧としている。
「むう、あれ魚なのにワタシの目よりキラキラしてるデス」
えいえい、とサカバンバスピスを突くのは『不死呪』アオゾラ・フルーフ・エーヴィヒカイト(p3p009438)。
彼女は昨日、沈みかけていた別の船から救助された。この幽霊船に置いては新参であるが、遭難期間という意味では、誰よりも先輩にあたる。
「(◉△◉)……」
アオゾラに突かれているサカバンバスピスは、どことなく不機嫌そうだった。
「(◉▿◉)……」
「(◉▿◉)……?」
「デシテー」
「……魚、ではないデス?」
よくよく見れば、『開幕を告げる星』ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)がサカバンバスピスと一緒に泳いでいるが、一体、どういうつもりだろうか。
少しの間、そっちを見ていたアオゾラだったが、やがて“見て見ないふり”をすることに決めた。
薄暗いキッチン。
ごそごそと、何かを漁る音がする。
「にゃあ……お腹空きましたにゃ……」
調理台の前に立ち、1匹の猫……否、『ひだまり猫』もこねこ みーお(p3p009481)が何かをこねているようだ。
だが、何を?
遭難してすぐ、キッチンは隅から隅まで調べている。食糧や飲料を求めてだ。結果、見つかったのは腐った缶詰が幾つかと、空になった酒瓶だけ。
みーおがこねられるようなものなど、何も無かったはずである。
「パン作りたい……こね、こね……食べ物出せるギフトなら良かったですにゃ?」
だが、みーおは何かをこねている。
虚ろな目をして、調理台の上にある“何か”を猫の手でこねまわしている。
後部甲板の端に立ち、『挫けぬ笑顔』フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)が大海原へ目を向ける。
幽霊船の後方には、数日前から巨大な魚影が見えている。全貌を窺うことは出来ないが、体長は30メートルほどに及ぶだろうか。
鮫か、鯨か、それとも別の海の怪物か。
否、それは巨大なサカバンバスピス。
「以前沈没船を探索した時に友だちになったバスピスさん……を、大きくしたような魚さんね」
何のつもりで、船について来ているのかは分からない。
だが、敵意を感じないことも事実だ。
だから、フォルトゥナリアはサカバンバスピスに向けて手を振った。
今の距離では声が届かない。
せめて、もう少し船によって来てくれれば意思の疎通も叶うかもしれない。
事態を好転させるには、時に少しの勇気と冒険が必要となる。
●遥かな海のサカバンバスピス
ウミネコ。
猫の上半身に、魚の下半身を持つ海の生き物だ。青みがかった体毛に混じって、魚らしい鱗が全身を覆っていた。
「にゃぁー」
調理台の上で、くすぐったそうに身を捩っているのがそれだ。
どこからか幽霊船に迷い込み、みーおに懐いたウミネコだ。それをみーおは、ひたすらにこねていた。
まるでパンをこねるみたいに。
「食糧も水も無いですにゃ」
キッチンをはじめ、食糧倉庫や、船室なども探し回った。
だが、どこにも食糧は残っていなかった。
「燃料だけなら、廃材とか扉を焼けば何とかなりますにゃ」
「みゃぁお?」
つまり、その気になれば火を起すことは出来る。
暖を取ることは出来るし、魚でも獲って来れば焼いて調理することも出来る。
しかし、それだけだ。
魚を獲るにしても、釣り竿が無い。網も無い。
そもそも、船の周囲を泳いでいるのはサカバンバスピスだけである。
「にゃぁお?」
「うぅん? 駄目ですにゃ。サカバンバスピス食べるのは最終手段ですにゃ」
首を傾げるウミネコへ、みーおは微笑みかけるのだった。
「さて……」
そう言って、史之は立ち上がる。
史之の方を一瞥し、イフタフはおや? と首を傾げた。
「ん? どこ行くんっすか?」
「なに、喉の渇きも癒えたからね」
腰の刀をマストに立てかけ、着物をばさりと脱ぎ捨てた。
露になるのは、傷だらけの上半身。
衣服を着ていると分かりづらいが、鍛え抜かれた筋肉が骨の上に張り付いている。
「メガ・バスピスと泳ぐよ!」
「は? あれと!?」
「泳ぐよ! はじめましてって挨拶しちゃお!」
困惑するイフタフをその場に残し、史之は駆け出した。あっという間に甲板を駆け抜け、イフタフが制止する暇もなく、海へ向かって跳び込んだのだ。
「……えぇ?」
イレギュラーズは、時々、思い切り過ぎなほどに思い切った行動を取る。
改めてそのことを実感したイフタフは、史之を放っておくことにした。
幽霊船にて遭難中。
実は、ルシアだけは“そう思って”いなかった。
ルシアは自身の意のままに“お茶をお菓子”を好きなだけ生み出すことが出来る。つまりルシアは、どういったシチュエーションであれ飢え渇くということは無い。
「デシテー」
「(◉_◉)」
「(◉▽◉)」
金の髪を波に躍らせ、ルシアは泳ぐ。
サカバンバスピスたちと一緒に波と戯れるその様は、まるで人魚のようである。
ルシアとサカバンバスピスは、どこか通じ合っているみたいだ。
まるで、既知であるかのように。
キラキラと水飛沫が跳ねる。
青い空に虹がかかった。
「バスピス同士一緒に泳ぎましょう!」
「泳ぐのがあまり上手くないんだな。そんなんじゃ、すぐに悪い奴に捕まっちまうぞ」
海を泳ぐルミエールと大地が、サカバンバスピスへ手を伸ばす。
餌に群がるみたいにして、サカバンバスピスたちが2人の手元に集まって来た。
驚くほどに警戒心の薄い魚だ。
だが、それがいい。
「同じバスピスですもの、少しぐらい食べても許してくれるわよね?」
「キッチリ、美味しク、料理してやるからなァ〜?」
ルミエールと大地の手が、サカバンバスピスへと伸びる。
そーっと、そーっと、サカバンバスピスを驚かせることが無いように。
「……不便なものデスね。飢えて、すっかり……ワタシは食糧がない位では死なないデスガどうするですかネ」
どこか目がイッている2人を眺めながら、アオゾラはポツリと呟いた。
食事をせずともアオゾラが死ぬことは無いが、他の者はそうもいかない。となれば、食料が必要なはずで……既に3日、漂流生活は続いているけれどそろそろ飢えも原因だろう。
極度の上は、判断力を狂わせる。
例えば、先ほど海に飛び込んで行った史之なども、きっとその類だろう。そうアオゾラは予想していた。
「あの魚、食べられるのでショウ……か」
その時、時間が止まった。
アオゾラの時間も、ルミエールと大地の時間も。
動きを止めた3人が見たのは銃口だった。
海から顔を覗かせたルシアが、ルミエールと大地の方に狙撃銃の銃口を差し向けているのだ。
「デシテー」
なぜ、仲間に銃口を向けたのか。
それはきっと、サカバンバスピスを守るためだろう。
ルシアの後ろに、1匹、2匹、3匹とサカバンバスピスたちが集まって来る。
「(◉_◉)」
「(◉_◉)(◉_◉)(◉_◉)」
「(◉_◉)(◉_◉)(◉_◉)(◉_◉)(◉_◉)(◉_◉)(◉_◉)」
円らな瞳が、ずらりと並ぶ。
「……ヒェ」
余りに不気味な光景に、アオゾラは息を飲みこんだ。
「助けて―!」
そんな声が海に木霊す。
フォルトゥナリアの声が聞こえたのだろうか。海水を掻き分け、巨大なサカバンバスピス……通称、メガ・サカバンバスピスが海から顔を覗かせた。
その頭の上には史之が乗っている。
「……え?」
一瞬、フォルトゥナリアは目を疑った。
疑ったが、現実は変わらない。とりあえずメガ・サカバンバスピスと戯れている史之を見なかったことにした。
不都合なことから目を逸らす。
そう言うのも処世術である。
「わ、私たち遭難しちゃったんだ!」
フォルトゥナリアは腕を伸ばして、メガ・サカバンバスピスへ語り掛ける。
メガ・サカバンバスピスは大きく円らな瞳をじぃと見開いたまま、フォルトゥナリアの声に耳を傾けていた。耳があるかは知らないが。
メガ・サカバンバスピスに語り掛け、意思の疎通を図るフォルトゥナリアの姿は、まるで神話に出て来る巫女か何かのようではないだろうか。
「できる範囲で頼み事も聞くよ! なのでお願い!」
真摯に、頼む。
心より、語り掛ける。
今のフォルトゥナリアこそ。
今の彼女の姿こそ、海洋国家に古くより伝わるメガ・サカバンバスピスの巫女に違いないのだ。
西の空が次第に赤く染まっていく。
夕暮れ時。
少しだけ冷たくなった風を全身に浴びながら、イフタフは空を見上げていた。
喉の渇きは癒えたものの、依然として腹は空いたまま。仰向けに倒れ、両腕はだらんと甲板に投げ出している。指先には、もう力が入っていない。
コツン、と。
イフタフの耳が足音を拾った。
「それ……何持ってるんっすか? 食べ物っすか?」
足音の主は、ウミネコを抱えたみーおである。
みーおはウミネコを隠すように抱きしめると、イフタフから数メートルほど離れた位置で立ち止まる。
「食べないですにゃ。それより、他の人たちはどこですかにゃ?」
「さぁ? 好き勝手にうろうろしているみたいっすよ。何か収獲があればいいっすけどね」
3日間、サカバンバスピス以外の生き物を見つけていないのだ。
あまり期待は出来ないだろう。史之のおかげで、飲料を確保できただけ幸運だ。飲み水があると無いのでは、生存期間が大幅に変わってくる。
「こんなことなら、もっとたくさん食べておけばよかったですにゃ」
「豪華客船のパーティっすか? あれも全部、夢だったんじゃないっすかね」
「じゃあ、駄目ですにゃ。お腹に溜まらないですにゃ」
くるる、と2人の腹が鳴る。
疲れたようにみーおが甲板に腰を降ろした。
その、直後のことである。
「大変デス。みな様の様子がおかしいデス」
甲板に駆け込んで来たアオゾラが、そんな台詞を口にした。
●サカバンバスピスの呼び声
甲板に上がって来たのは、ルミエールと大地の2人だ。
「(◉▿◉)ゴキゲンヨウ! ゴキゲンヨウ!」
「(◉▿◉)ワハハハハー」
真正面を向いたまま、瞬きをしない円らな瞳。半開きの口。だらんと両手を下げたまま、ゆらゆらと揺れるようにして、2人は甲板に上がって来たのだ。
「な、なんっすか、あれ?」
驚愕しながら、イフタフは甲板を後退る。
「サカバンバスピスに交わればサカバンバスピスになる……デス」
ぽつり、とアオゾラはそう呟いた。
「そんな朱に交わればみたいにゃことを……」
それで納得いくものか。
だが、目の前で起きているのはそう言うことだ。ウミネコを庇うように抱きしめて、みーおはルミエールと大地の傍から距離を取る。
「そう言えば、聞いたことがありマス。どこかの港街では、歳を重ねた住人の顔が徐々に魚みたいになると」
「……サカバンバスピス面ってやつっすね。なるほど……2人は呼ばれてしまったんっすか」
このままでは、いずれ自分たちもそうなるかも知れない。
そんな恐怖を抱きながら、イフタフは脳を回転させる。カロリー不足で平時より格段に思考が鈍いが、どうにか答えに辿り着く。
「ば、バリケードを張るっす!」
「了解にゃ」
ルミエールと大地の進行を食い止めるべく、2人は急いで行動を開始した。
「(◉▿◉)ルミバンバスピスヨ! ゴキゲンヨウ!」
「(◉▿◉)2000キロカロリー。体重1キロニツキ約35 ミリリットル」
少なくとも、今のルミエールと大地は正気ではない。
甲板が少し騒がしい。
イフタフや仲間たちが、何か遊んでいるのだろうか。
「お気楽なものだね。こっちは、交渉中だって言うのに」
不満そうに溜め息を零し、フォルトゥナリアは海の方へ向き直る。
そこにいたのは、メガ・サカバンバスピスだ。
交渉開始から数時間。
初めは意思の疎通にも難儀したものだが、根気よく対話を重ねたことによりフォルトゥナリアとメガ・サカバンバスピスは、今ではすっかり友達だった。
「それで……えっと、この船は、あなたのお友達の船だったんだね」
視線を伏せて、フォルトゥナリアはそう言った。
今より100年近く前。
幽霊船の乗員たちは、1匹のサカバンバスピスと友誼を結んだ。人と魚、種族は違えど乗員たちとサカバンバスピスは、まるで家族のようだった。
時は流れ、乗員たちは流行り病に侵された。
1人が死んで、2人が死んで、そして誰もいなくなった。最後に残ったサカバンバスピスは、乗員のいない船を……自分たちの“家”を、以来ずっと守り続けているらしい。
長い時間をかけて、フォルトゥナリアはそんな話を聞きだした。
「そうか。“思い出”は、大切にしなきゃならないよな」
同情するかのように、史之はメガ・サカバンバスピスの頭を撫でた。
嘆くように、サカバンバスピスが空へ鳴く。
悲しい声だ。
在りし日の暖かな記憶を思い出しているのだろう。
「失った人たちを生き返らせることは出来ないけれど、この船に害を与えるようなことはしないよ。約束する」
「そうだね。でも……せめて、陸地の方角だけでも教えてもらえないかな。さもなきゃ、俺たちまで“思い出”の仲間入りだ」
昼夜を問わず、船は海を漂っているのだ。
フォルトゥナリアや史之は、もはや自分たちが海洋のどこを漂っているのか分からないでいる。
そんな2人の気持ちが通じたのだろう。
メガ・サカバンバスピスは、硬い鱗に覆われた頭部で船の底を押した。
僅かに、船の進路が変わる。
どうやらこのまま、陸地の近くに送ってくれるつもりらしい。
穏やかな波に揺られている。
潮騒は、まるで子守歌のようだった。
「デシテー」
「(◉▿◉)」
「(◉▿◉)」
ぽけー、っと空を眺めながらルシアは海を漂っている。
船に結んだロープ。その先に繋げた浮き輪に座って、船に随行している形だ。
「……ん?」
空が暗くなったころ、ルシアは何かに気が付いた。
サカバンバスピスたちが、ぴちゃぴちゃと跳ねる。
水飛沫の向こう側、1キロか2キロほど先に陸地の影が見えていた。
「そろそろ帰る時間でして。またどこかで会うのでしてー!」
浮き輪に繋がるロープを解く。
サカバンバスピスたちに手を振り、ルシアはバタ足で陸地の方へと泳いでいった。
そんなルシアの遥か後方。
甲板の上で、イフタフたちの悲鳴が聞こえる。
その翌日のことである。
どこか様子のおかしいイフタフたちが、とある港で発見された。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様です。
皆さんは無事に港に帰還しました。
依頼は成功となります。
この度はご参加いただきありがとうございました。
(◉▿◉)
GMコメント
●ミッション
陸が見えて来るまで(デフォルトで24時間ほど)生き残ろう
●サカバンバスピス
“盾”を意味する名を持つ魚。
遥か昔に滅んだ種らしいが、海洋には今も生息している。発見報告例は少ない。
顔の正面に並んだ目と、半開きの口。
ヒレはなく、尾だけで泳ぐのが特徴。
あまりにもゆるい見た目から、一部ではゆるキャラのようなものとして人気を得ている。
幽霊船の周囲を群れで回遊しているようだ。
「(◉_◉)」←こんな感じの顔をしている。
●メガ・サカバンバスピス
目測で30メートルほどに迫る巨大なサカバンバスピス。
一定の距離を保ったまま、幽霊船の後を付いて来ている。
何を考えているかは不明だが、万が一にも不況を買えば幽霊船が破壊されかねない。そのため、現状はノータッチを決め込んでいる。
「(◉▿◉)」 ←こんな感じの顔をしている。
●幽霊船
元は遊覧船だったらしい幽霊船。
船はボロボロ、今にも沈んでしまいそうなほどに損壊が激しい。
マストは折れているし、舵は利かない。羅針盤は狂っている。
甲板には多数の人骨が転がっている。
初日の夜にイフタフが参加したパーティは、幽霊船の見せた幻覚だったようだ。
※なお、今回のシナリオでは【船】など海上を移動できる乗り物の類は使用できない。
動機
当シナリオにおけるキャラクターの動機や意気込みを、以下のうち近いものからお選び下さい。
【1】豪華客船はいずこに?
「豪華客船遊覧ツアー招待券」に釣られてきました。
【2】あぁ、これは実にミステリー
「ミステリーツアー」と聞いて船に乗り込みました。
【3】一難去ってまた一難
遭難中に幽霊船を見つけ、乗り込みました。依然、遭難は継続中です。
主な行動
漂流生活中に何をするのか……そんな選択肢になります。
【1】生き延びるには食糧と水が必要だ
幽霊船の内部を散策、調査し、食糧や水を探します。いい物が見つかるといいですね。
【2】船が動けば何とかなる
船の修理を試みます。頑張れば、舵かマストぐらいは修理できるかもしれませんが、漂流物を回収し資材とする必要があります。
【3】……あの、魚
サカバンバスピスにコンタクトを取ります。食糧にするもよし、一緒に泳ぐも良し。
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