シナリオ詳細
<フイユモールの終>影無間に染まる
オープニング
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空を混沌が覆い、周囲からあらゆるものが消えていく。
欠け落ちるように、吸い込まれるように、奪い去られるように消えていく。
それぞれの形態はことなれど、それらすべての『掠奪』がひとつの出来事を軸に起きていることは明らかだった。
――『冠位暴食』ベルゼーの権能、『飽くなき暴食』の発現によるものだ。彼自身にすら制御が利かぬそれは、すべてを喰らい尽くすまで終わらない。
竜種達はその暴走に従い、或いはその力の矛先を他国に変えようと考えた。
当然ながら一枚岩ではなかったが、すべてベルゼーを想うがゆえ、彼の人徳が為せる技である。
イレギュラーズとて、亜竜集落の現状なりそこで暮らす人々の証言なり、戦ってきた竜種の証言などからベルゼーの人となりをなんとなくは聞いている。
聞いているが、それは理解とイコールかといえば違うだろう。竜種達も、本来のベルゼーの暴威を理解しきっていない……のかもしれない。
空が哭く。
ベルゼーの権能の暴走は、仮初めの花園すらも崩壊させ続けていた。
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「空が、暗い……?」
ローレット・イレギュラーズの誰かが呆然としたように呟いた。
否、それは空の色ではない。
それはまさしく、無数の影が折り重なった、空に生まれた虫食い穴である。
翼の音を響かせて、狂ったように吠えたけるレムレース・ドラゴンの群れ。『女神の欠片』がこの状況を錯誤して生み出した呪いの影のようなもの。
それが、空を一部でこそあれ切り取る勢いでこちらに向かってきている。
総数でいえば100や200の騒ぎではなく、されど個々の体格と推定される力量は亜竜のそれにも大きく劣ろう。
問題は、そんな数が雪崩を打ってイレギュラーズの妨害へと突き進んでいることだ。
彼我の距離はいまだ十分、ここにいる者達が防壁となってそれらを撃退できれば後続の仲間達が一気に進むことができる。
仮に、それらのあとにより強大な個体が続くとしても――イレギュラーズは、この場で踏ん張らねばならない。
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女神の欠片が生み出し続けるレムレース・ドラゴン達は、揃って強大な恨みを抱えていた。
それは生み出されたことそのものへの怒り、世界を破壊しようとする力への怒り、異物への怒り。
そして、いくら生み出されようとも世界を守れぬ自身への怒り。
それはレムレース・ドラゴン達の死とともに澱のように蓄積し、折り重なり、新たな影を生み出しつつあった。
- <フイユモールの終>影無間に染まる完了
- GM名ふみの
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年07月24日 22時30分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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それは怒りを抱えている。
妄執ではなく、怨恨ではなく、本能から膨れ上がった怒りが場を満たしている。
ならばそれは、純然たる防衛本能なのだろう。
「な……なんという数でありますか……!? いくら本物の竜ではないにしても、これだけの数が現れるとは……」
「無尽蔵に食べるだけじゃなくて、無尽蔵に生み出せられるのは反則じゃないっスかね?」
『宇宙の保安官』ムサシ・セルブライト(p3p010126)と『青の疾風譚』ライオリット・ベンダバール(p3p010380)はそれぞれ、決して経験の浅いイレギュラーズではない。それなりの修羅場を多く潜ってきた身だ。だが、眼前から際限なく湧き、溢れかえるレムレース・ドラゴンの群れには分かっていても閉口する。この敵襲を撃退するには、並ならぬ努力と意思力が必要であると本能で察したのだ。恐れはないが、途方もない戦いはそれだけで、両者の肌にじっとりと汗の玉を浮かばせた。
「あの美しかった景色がこんな風になってしまうなんて……」
「はっ、全くやりきれねえな。ベルゼーにしろレムレース・ドラゴンにしろ護りたいって想いの果てがこのザマかよ。見てらんねえぜ」
「まるで此の世の終わりってな風景ねえ。今回も過分に愉しいことになりそうだわ?」
『慟哭中和』ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)は淀んだ空気を肺に入れ、その淀みが己の見知ったものであることに深い悲しみを覚えた。美麗であった竜種の園が、毒の精霊種たる自分が安堵を覚える空間になってしまうとは。その現象の起源、そしてベルゼーの意思がこの崩壊を望んでいないことを知る『巨星の娘』紅花 牡丹(p3p010983)含む多くのイレギュラーズにとって、この状況は言葉にできないやるせなさや不快感が混じる。ならば、彼らの意思をそのまま受け止め、イレギュラーズなりのやり方で救済を果たすのが己の役割と理解した。そうすべきだと、彼女は理解したのだ。寧ろ、『猛き者の意志』ゼファー(p3p007625)はこの状況に期待の色すら見せていた。必要以上に激しさを増す状況、ひとつの世界の終わりが見え始めたこの場にあって、冠位魔種の関わる戦場はどこも愉快なまでに派手だ。
「竜が徒党を組んでこっちをボコスカボコスカ殴ってくる依頼があるってマジっすか? ひえぇー……怖いっすねぇ」
「言ってる場合かよ、ボク達が今から『それ』になるんだよ!」
「……マジっすか?」
「大マジだ。しかし、行手を阻むのは竜種だけじゃねえって事か。止まってられるほど暇じゃねえんだけどな」
絶望的な状況の中、どこか他人事のような口ぶりの『救急搬送班』ウルズ・ウィムフォクシー(p3p009291)に、『性別:美少年』セレマ オード クロウリー(p3p007790)が珍しく焦り混じりの突っ込みを入れる。今や遅しと迫る脅威を前に、しかし現実的ではない状況を信じられないのも無理はない。呆然と聞き返してきたウルズに、『運命砕き』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)は肩を竦め応じた。
向かうべきは冠位暴食。ここはその道程でしかない。彼にとっては路傍の石ひとつ、しかし多くのイレギュラーズ達にとっては退路を奪いかねぬ脅威。出遭ったならば戦わねば。向かってくるなら排除せねば。
数の暴力は、単体への攻めに特化したルカ等には厄介な存在であり。
死を確実なものとしない攻撃の嵐は、ムサシや牡丹、そしてセレマのように「命の余丁」を長く取る者達にとっては吹き流しが風に煽られるような事象だ。
大した問題ではない。ベルゼーが積み上げた感情と、今まさに巻き込まれた屈辱的な状況を思えば微塵も苦にはならない。
耐えろというなら終わるまで。倒せというなら悉く。
ローレット・イレギュラーズは、今そういう場所にいるのだ。
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「来やがるぞ! 足並み揃えて、ボクに合わせろ! 自分達を守れ、ヤワな奴を庇え、先ずは耐えろ!」
セレマは叫ぶと、ジョシュアとライオリットを背負う形で腕を広げた。連携よりも個の『死ににくさ』でものをいわせ、敵を引き付ける……そんな徹底した個人主義の権化が、前に出ることなく庇うことに主眼を置いている。ただ数の暴力に殺されるだけなら十八番だが、亜竜タイプとなれば話が違うのだ。庇われた二人も状況を察してか、彼の腕や服を掴み、離れない。
「今日はお客さんが無駄に多いわねえ。さっきの愉しいっての、早速撤回したくなってきたわ?」
「自分も引き付けますから、ゼファーさんが愉しめる範囲で愉しむといいであります!」
ゼファーの冗談に冗談を返しつつ、両者は向かってくる集団へ挑発を仕掛ける。数と勢いから、それだけでは抑えきれない……が、数の暴力を緩和するには十分だ。
「初っ端の数が数だ、一気に削らせて貰うぜ!」
集団がいくつかに割れた瞬間、フリーだった個体群先頭に対し、地面から杭が突き立つ。それでバランスを崩した群体は次々とルカの生み出した闘気の杭の餌食と化し、黒い煙となって消失していった。紛い物ごときにくれてやるには過大な威力だが、蹴散らすのにこれ以上の技もあるまい。それでも突っ込んでくるというなら、連携して耐えるのみ。
「ルカ、まだいけるな?」
「ああ、まだ……次が来たら、頼む!」
飛来した偽竜の群れを凌ぎ、傷の具合を軽く確認したルカは今一度生身で受けることを決意する。本領を発揮するなら、命を危機に差し出さねばならない。だが正面からの削り合いは、ルカが不利。牡丹はルカを守りつつ、彼のポテンシャルを十全に発揮するためのサポートとなるべく機を窺っていたのだ。
「治療は……まだ不要っすね! ヨシ!」
ウルズは傷つきながらも不敵に笑うルカや、仲間達を庇って己を的にかけた二人の傷の程度を確認し、庇うことも治療もまだ問題ないと判断した。実際、それは間違っていない。
「自分はこれくらい痛いうちには入らないであります! 一発くらいなんでありますか!」
「ホント、ルカがいなかったら全部受け止めてたわけでしょう? この柔肌をずたずたにするなんて酷い話だと思うわ」
ムサシは着装したスーツに多少の擦過痕があるものの、本体に影響があるほどとは到底思えない。対して、生身で受けるゼファーも巧みに槍の穂先と石突でもって爪を受け流し、深い傷を避けている。頑丈さと死ににくさでいえば、戦闘力と両立させる両者は流石の実力と言えようか。
「お前ら回復する余地あるからって言いたい放題言いやがって! ボクがこいつらに攫われたらウルズ、お前が2人を守るんだぞわかってるのかばーかばーか!」
「ぼ、僕も適度に削りますから……」
「オレも爪やら牙やらを折って出来るだけ傷を減らすっスから! がんばってくださいっス!」
「頑張ってくれてるのは嬉しいけど焼け石に水なんだよな! ありがとよ!」
セレマはそんな中、飛来する偽竜達に幾度となく殺されていた。殺されるたびに再構築される肉体は、一瞬ごとに背後に届きかねぬ爪牙を受け止め続ける。ジョシュアとライオリットも言葉に留まらず、飛来する偽竜の肉体を傷つけその力を削ぐ事に注力するが、常に風前の灯を保ち続けるセレマからすれば焼け石に水程度の補助ではある。だが、その心意気は間違いなくセレマに対し支えになっているし、彼の最大の危惧であった『セレマが攫われ、布陣が崩れる危険性』へのブレーキ足りうる。互いが互いに関心がなければ、瞬く間に状況は悪化していた筈なのだから。
「オレは硬い、オレは無敵だ!」
「ああ、そうだな。アンタは頑丈だぜ、牡丹」
倒された分を即座に充足させた偽竜の猛攻は、油断なくルカを倒すべく襲いかかる。だが、その前には既に牡丹が立ちはだかり、襲い来る爪牙をいなしていく。自己暗示じみた己への鼓舞は、そのまま肉体の頑健さの証明へと繋がる。
ルカの肉体はもう『準備が整った』。これ以上無駄に傷つける必要はなく、そして今はまだ必要以上に力を振るうタイミングではない。
「ここで下がるわけには……いかない……!」
「最近は人命救助ばっかりだったけど、この調子だと今度も治療で終わりそうっすねぇ……それはそれで、役に立ってる感じがして何よりっすけど!」
――これが、150秒もの間殺到するのか。次々と飛び込んでくる偽竜の猛攻を凌ぎ、ムサシは危機感ではなく己の成長への喜びで震えを覚えていた。より強い敵と、より激しい攻撃から、仲間を守れるという自覚が、彼のヒーローとしての矜持をより強く固めていく。
イレギュラーズ達がこれを耐えることも、受け止めることも造作はなかろう。
ウルズがカバーに入る暇なく、盾として壁として立ちはだかった面々は己の役割を果たした。無論、ウルズの治癒無くばこのあとの戦闘を疲弊したまま迎えたであろうが……。
倒され、しかし殲滅されぬままに翻弄される偽竜達。女神の欠片に感情という雑音が在るとすれば、甘く見られたものだと憤慨もしただろう。防衛本能がやがて敵意として膨れ上がることで、一つの形を取るのは必然ですらあった。
「何度死んだか数えてないが、漸く終っ……てはねえな」
「漸く本気になった……ってことかしら。其れとも、最後の悪足掻きってトコ?」
偽竜達が唐突に動きを止め、煙のように消えていく。それらは渦を巻いて一つの影へと撚り集められていくのが見えた。ひと心地ついたセレマはしかし、それが終わりではないことを理解する。ゼファーは影から覗いた凶悪なマズルが、大型の偽竜、ネスト・ドラゴンであることを理解した。
「おい2人、動けるな? ここまで体をはってやったんだから、無理とは言わせないぞ」
「任せてください。ここからは僕達の出番です」
「守ってもらった分、全力っすよ」
セレマに守られ、その力を温存してきたジョシュアとライオリットが改めて得物を構える。守られた分を、ここで返す為に。
両者の意気込みに視線を向けたルカは、改めて牡丹に目配せしてから大剣を構えた。あの大物は頑丈なのだろう。強力なのだろう。
だが、自然と負ける気が全くしなかったのだ。
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ネストが大きく胸を張り、影色の炎を吐き出してくる。威力としては十二分、範囲も広い。これを陣形中央に叩き込まれれば、さしものイレギュラーズも大なり小なり苦戦は免れなかっただろう。
だが、その危機感は現実にはならなかった。ゼファーが大きく距離を取りつつ狙いを向けさせたことで、あらぬ方向に炎が撒き散らされたからである。
そして、つまりそれは背後がガラ空きってことだ。
「温存してきた分、一気に叩き込むっスよ!」
ライオリットは重ねがけした自己強化、その更に上から一撃に賭けた強化を上乗せし、一発叩き込む。最早音と彼、いずれが速いのかわからぬ勢いで突き込まれた『死』の具現は、実現こそしないが大きな衝撃をネストに与えた。
「よくやった。このまま何もさせずに勝つぞ。手始めに、ブレスだなんだ面倒臭い真似事に興じる知恵を封じてやる」
「肉体が頑丈だというなら、弱らせればより攻撃が通るということですね。……得意分野というものです」
セレマは有言実行とばかりにネストの攻撃能力を大幅に封じにかかる。ブレスが半ばで途切れたそれは動揺したように大首を回したが、その原因に気付くことはないだろう。恐らく、死を迎えるその時まで。その哀れな姿をくすりと笑うでもなく、ジョシュアの一閃が突き立てられ、ネストの防御にはあからさまな穴が生まれた。狙って下さい、と言わんばかりのそれを、見逃すイレギュラーズではない。
傷を甘受し、偽竜の猛攻を受け止めた。牡丹との連携で、凌ぎ続けた。消耗の多さは、ただ一撃のためだけに積み重ねたフェイクだ。
苦戦ではなく、苦労でもなく。それは勝利のために敷かれたレールにすぎない。ルカ・ガンビーノという男は、そういう類なのだ。
「登場して貰ったところ早速で悪ぃが……消えて貰うぜ!」
一閃。
黒犬のレプリカを両手で構えたルカの本気の一撃は、ジョシュアが生んだ隙へと的確に突き込まれた。贋物とはいえ、サイズ感は本物に大差無きネスト・ドラゴンを――ルカは切り裂いた。
「レーザー・ブレードッ!」
断末魔じみた咆哮をあげるネストだが、しかし消滅しきらない――ムサシは油断なく、己の力をそれに向けた。
「もう一発叩き込んで、その頭ぶち抜いてあげましょう。いいわよね、ムサシ?」
「止めはおまかせするであります……輝勇閃光……ブライト・エグゼクションッ!」
ゼファーが崩れ落ちる足元、顎下に槍を向け飛び込む。
ムサシは自らをレーザーブレードと為し、未だ駆動する贋物の心臓を打ち抜いた。
胴を両断され、頭部と心臓を貫かれた偽竜が存在を残しておけるわけがない。
煙のように消滅したそれを確認した一同の疲労は凄まじいものであったが、牡丹とウルズの尽力の末、ほぼ無傷の状態で先に進むこととなる。
全ては――ベルゼーの権能を止めるために。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様でした。
みんな、格好良かったぜ。
GMコメント
●成功条件
・レムレース・ドラゴンの猛攻を15ターン以上凌ぐ(戦闘不能半数以下で乗り切る)
・上記完遂後、ネスト・ドラゴンの撃破
●ネスト・ドラゴン
レムレース・ドラゴンが集合し融合した大型の竜種に似た存在。
所詮は『影』なので竜種には遥か及びませんし、能力的にもレムレース・ドラゴン10体分程度の基礎性能(HP・APなど。攻防関係の数値はそれなり)なので、決して強敵と言っていい性能ではありません。
が、これが現れるのは16ターン開始時のため、そこそこの消耗前提で戦わなければならないのがネック。常時低空飛行で、仮に地上戦となってもトカゲなのでそれなり速い。
・シャドウブレス(物中扇:【万能】【毒系列】【乱れ系列】【呪い】など)竜の息を模倣した影の放射。
・シャドウスピン(物至域:【飛】【痺れ系列】【呪殺】など)全身を高速回転させて周囲の的を弾き飛ばす。
・その他、爪や牙や角による攻撃、空中からのランディングアタックなど技は多彩だが、消耗を押さえれば然程の実力ではない。
●レムレース・ドラゴン×無数
女神の欠片がヘスペリデスの危機を感じ取ったことで発生させた、竜種の影のようなもの。
常に20~30体が出現し、倒されてもガンガン補充されていきます。相当に防衛機構がバグってる模様。
15ターンの間に撤退まで追い込めない場合、キレてネスト・ドラゴンを出現させるまでが本シナリオのバグり方。
低空飛行で四方から群がってくるし、個体ごとの体格的に怒りの付与が全体に行き届く可能性はまずないのでその辺含め、慎重な立ち回りが求められる。
主に翼や爪などでダメージ系BSの下位と呪いを延々と付与しようとする。
●戦場:『崩壊の花園』
ベルゼーの暴走により、崩壊がかなり進んでいるヘスペリデス内での戦闘。
足元は安定しているが、周囲の空気が淀んでいるため敵味方問わず【毒系列】BSについて付与ターン数が「4→5」に延びる状態。
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