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シナリオ詳細

<フイユモールの終>石穿つ雨垂れ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●雨に沈んだ竜
 わからない。わからないから石をまたひとつ、積んでみた。
 雨に濡れて黒ずんでしまった石たちを、歪な屋根へと、またひとつ。
 話に聞いた建物を、人間たちの造り上げたものを真似して建てたもの。何度も崩し、何度でも積み上げていけるそれは、雨に沈んでばかりいるフレビリスの遊び相手だった。だから遊び相手にかれは問う。
「ニンゲンは、どうして奇跡とかいうやつ、起こすの?」
 特異運命座標のひとりが身命を賭し、奇跡で道標を描いた。
 あの道標が他の特異運命座標を、ベルゼーの『腹のなか』へ招き入れている。本来であれば皆ベルゼーに呑まれ、喰われた時点で「おしまい」だ。けれど彼らは、奇跡に導かれたイレギュラーズは、無事なままベルゼーの腹の中を進んでいる。
 フレビリスがふと思い起こすのは、対峙した特異運命座標から投げかけられた、たくさんの言葉。
「ニンゲンは脆い。なのに……できるって思えて、動ける。どうして」
 ぱたぱた。ばたばた。
 鈍色の鱗にこびりついた不思議な感覚を、やまぬ雨が洗い流そうとしていく。おかげで常に雨と共に在るフレビリスは、ざわつく感覚から目を逸らすことが叶った。しかし離れないものもある。
 ――悲しいことは避けられないとしても、それだけで終わらせない為に行くつもりなんだよ。
 そう話していた特異運命座標の姿が、脳裏をよぎる。
 ――本当はベルゼーさんの近くで、何かしたかったりするんじゃないのか?
 まるで諭すような口振りだったと、今なら思える。
 か弱い生き物である人間が、竜を諭そうとしたのか、と可能性を考えもした。ならば傲慢だと切り捨てられるが、しかしフレビリスの行き着く先は結局、「わからない」に尽きる。傲慢で済ますにはあまりにも、彼らの言動が、眼差しが、気迫が――フレビリスの想像する弱き者(ニンゲン)と違う温度をしていて、「変」だと感じたから。
 わからないことだらけで変な人間たちは今、ベルゼーの腹の中で生きている。もしもこれを奇跡と彼らが呼ぶのなら。
「……変なの」
 やっぱり、会いたくはない。

●恵みの雨
 雨纏のフレビリスは想い出に浸っていた。
 美しかった頃のヘスペリデスという想い出に。たとえ周りで雨が降り続けようとも。
 ことん、ことんと神殿らしき場所に大きな石を積んで遊んでいるかのようだ。ところどころ欠けていた柱や屋根が、フレビリスの尾や鼻、口によって運ばれた石で補われていく。それでもまだ、イレギュラーズが知る「建物」よりかなり歪だ。
 そして、ベルゼーの権能を削るべく腹の中を訪れたイレギュラーズにとって、場を掌握しているフレビリスは追い出すべき敵だ。だというのに、自身を追い出そうとしている相手を前にしながらもフレビリスは石遊びをやめなかった。
「おまえたちと一緒は、やだ」
 訪れたイレギュラーズを眼の端で捉えて、フレビリスが言う。幼子のわがままに似た物言いで。
 一度目の出会いから、そんなかれへ幾らかの感情を抱えてやってきた者もいる。囲 飛呂(p3p010030)がそうだった。
「一緒は無理だろうなって、俺も思っているよ。ただ……」
 フレビリスがストレートに拒んだところで、飛呂は変わらない。
「フレビリスさんが『したい』こと、あれから気になっていたんだ」
 ベルゼーの宿す権能――『飽くなき暴食』が、人も竜も大地も呑み込まんとする今この時。
 ベルゼーを悲しませたくない、だから人間には帰ってほしいと願っていた鈍色の竜へ、飛呂が連ねるのは。
「……まさかとは思うけど。ここに呑まれて養分になること、とか言わないよね?」
 飛呂が確認のため尋ねた一言は、フレビリスの頭を横に振らせる。
「フレビリス、のまれるつもりない。だってそれ、ベルゼーがすごく悲しむことだから」
 かれは云う。
 此処に居られるのは、暴走する前のベルゼーから許可をもらっていたからだと。
 ベルゼーの『権能掌握』によって、一度だけ彼の腹部から脱出できる。だから想い出に沈みながら待っていた。
「ニンゲン、奇跡とかいうやつで、ここへくる。感じ取ったから、確かめに来た……けど」
 言い淀む巨竜の顔つきは、変わらず悲しげで。
「おまえたち変。会いたくなかった」
「光栄だな」
 少なくとも無関心では終わらなかった事実を想い、飛呂が口の端を上げる。
「ところであの遺跡みたいなのは?」
 イレギュラーズが揃って、石積みの神殿へ視線を向けた。
「フレビリスがつくった。つくったら崩して、またつくる。ずっとそうしてきた」
 淡々と紡ぐ竜の周りで、そぼ降る雨。
 飛呂が知る前の時よりも、今は――今だけは雨が和らいで見えた。

GMコメント

●成功条件
 雨纏のフレビリスの追放

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●ロケーション
 ベルゼーの権能『飽くなき暴食』――いわばベルゼーの腹の中。
 美しかった頃の、穏やかで風光明媚なヘスペリデスが再現されています。
 なだらかな丘陵地帯を見渡せる小高い位置に、沢山の石を積み重ねて築かれた「神殿めいた建造物」がぽつんと建っています。(建物のイメージは、古代ギリシャのアクロポリス)
 建物自体は人間が作る物より遥かに不格好で、内部や近くで暴れたらあっさり崩れるでしょう。
 辺りには草花の他、石ころから人間大の岩まで転がっています。樹木は多くありません。
 建物やフレビリスの周りには、なぜか大量の農作物が実っていますが、いずれも敵です。

●敵:雨纏のフレビリス(竜種)
 体長5m程、鈍色の鱗を持つ明星種『アリオス』の若き竜。
 翼も長くて太い尾もあり、四足歩行をします。
 イレギュラーズとの邂逅によって、今回の心理状態となりました。
 暴走前のベルゼーから承認を得ていたため、一度だけ『飽くなき暴食』内に出入りでき、しかも想い出で築かれたこのエリアを掌握する「権限」を持ちます。
 この「権限」を放棄させることでも、外へ追い出せます。

・雨纏
 フレビリスを中心として半径20m前後に発生している、雨が降りやまぬ範囲。
 現在分かっている効果は三つ。
 一つは、雨がフレビリスを癒すこと。
 もう一つは、範囲内では能力上昇系の効果が消滅し、留まったままではバフ効果の掛け直しもできないこと。これは何故かフレビリスにも効くため、フレビリスも自身を強化しません。しなくても強いです。
 ただし、デバフ類は『雨纏』に左右されません。
 そしてもう一つ、フレビリスの感情に応じて雨の勢いや効果が変わること。怒りや悲しみが深まるほど強さを増します。

・雨樋
 集まった雨の勢いで、直線上にいる存在を遠くまで押し流します。呪殺あり。

・虹焔
 フレビリスが吐く虹色の焔。紅焔、苦鳴あり。高威力で広範囲。

●敵:恵雨の成果(ウィンクルム)×100体以上
 ベルゼーが飲み込んだ誰かの想い出らしく、「黄金の稲穂が集まったもの」や「瑞々しい農作物」の姿で顕現されています。
 フレビリスの雨纏の範囲内にいる間は大人しく、範囲から外れると攻撃的に。
 体当たりや締め付けといった攻撃のみですが、数が多いので注意が必要です。

★GMより
 雨纏のフレビリスが浸るベルゼーさんのお腹の中、攻略していきましょう。
 ご縁がございましたら、よろしくお願いいたします。
 アフターアクションありがとうございました!

  • <フイユモールの終>石穿つ雨垂れ完了
  • GM名棟方ろか
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年07月24日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ウェール=ナイトボート(p3p000561)
永炎勇狼
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)
鏡花の癒し
カイト(p3p007128)
雨夜の映し身
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き
ルーキス・ファウン(p3p008870)
蒼光双閃
ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)
人間賛歌
囲 飛呂(p3p010030)
君のもとに

リプレイ


 出迎えてくれた広大な野の美に、『高貴な責務』ルチア・アフラニア(p3p006865)は思わず吐息で笑う。
(なんだか懐かしい感じね)
 拙い神殿の造りが目を癒し、靴裏から伝う踏み心地は足取りへ活力を齎した。
(まさかベルゼーのお腹の中で、アテナイで学んでいた頃を思い出すなんて)
 ほろ苦さをも噛み締めながら、ルチアが姿勢を改めた。
 何故なら彼女たちの前には巨大な竜がいて。
「フレビリスさん、外、出て欲しいんだけど……」
 『点睛穿貫』囲 飛呂(p3p010030)が願いを寄せるも、フレビリスという名の竜から返ったのは「やだ」の一言。だよな、と肩を竦め、飛呂は一先ず保護結界を展開した。青々と茂る世界で、石積みの建造物を守るために。
 彼に続いて『最強のダチ』ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)も望みを音で模る。権能を手放して外へ行こうという誘いに、鈍色の竜はやはり頷かない。
 心地良く雨に打たれる野菜たちへ軽く目線を投げた後、『導きの双閃』ルーキス・ファウン(p3p008870)は竜が纏う雨へ飛び込んだ。見渡す限りの平穏から、雨降る景色に一変した視界で、彼は再び竜を仰ぎ見て。
(感動の再会、とはいかないか……)
 四つ足を動かさぬ彼と違い、ルーキスは駆け回る感覚を忘れない。
 見知った顔へフレビリスも視線を投げはする。だが来訪者の目的を察している彼から掛かる声は、無かった。
 だからだろうか。漂う静穏からルチアが昔日を思い起こしたのは。ただそんな彼女の口からも異質と言えるのは、丘陵地の各方面より押し寄せる、無数の農作物たち。異様な波間に呑まれてしまう前に、彼女は竜へ語りかけた。
「ベルゼーが貴方に権能を与えたのは……果たして石を積み続けて欲しかったからなのかしら」
 かの者の名を出せば当然、竜の頭がルチアへ向かう。
「人の営みで喩えるなら、貴方のそれは親を案じる子の愛情なのでしょうけれど……」
 フレビリスが雨で覆い隠した不安や葛藤を掬い上げ、平易に伝える。
「そうあれと望んでいた訳ではない、と思うわ」
 あくまで礼節を欠けぬよう注意を払いつつ、ルチアは告げた。すると。
「親とか子とか、わかんない。でも」
 竜が閉ざしていた口を動かす。
「ニンゲンからはそう見える、ってこと?」
「ええ、ある一面に於いては」
 深く肯うルチアに、あどけなさを残す竜は「そっか」と呟くのみ。
 こうした応酬を眺めて『運命砕き』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)は、ベルゼーの生き様が腹の内でもカタチを成している事実に歯痒さを覚えた。
「ベルゼーは愛されてるな……本当に」
 そうと実感するだけで済めば、どれほど良かったか。余分な言葉は腹底へ置き、彼は手短に宣言する。
「俺はベルゼーを止めたい。だから進ませて貰う」
「言うと思った」
 フレビリスが呆れを含んだ息を吐くのを視界に入れて、『永炎勇狼』ウェール=ナイトボート(p3p000561)が首の後ろをがしがしと掻く。
(一緒は、やだ。か……)
 思わず唸ってしまう。拒み方の種類など多くはない。ゆえにフレビリスの拒否は真っ直ぐで。
(俺達が嫌いだから無理、ダメ。ではなく……やだ、なんだな)
 音の違いをウェールも考えずにいられない。勿論思惟に耽るばかりでなく。
「腹決まっているのかもしれないが、此処から追い出させてもらうぞ!」
 ウェールが咆哮に籠めた標的改竄の力は、フレビリスの竜鱗を震わせた。
「やだ! フレビリス、ここから出ない……ッ」
 かれは暴れ出す。尾に足、翼、首をも使って。
 やだ、と言う様を目の当たりにして、『金の軌跡』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)の胸裏に築き始めたものがあった。
 人間を見下すだけでもなければ、無関心で終えもしない。
(人間がどうと話していても、ずっとマリア達を『見て』くれている、な)
 きっと、嫌いな感情に嘘はない。同じくらい、わからないというもやもやが竜の胸裏に巣食っているのかもしれないと、エクスマリアはじわりと滲む感覚を手の平に包む。そして大きなまなこを一度瞼で覆い、深く息を吸い込んだ。
(マリアにはフレビリスの『したいこと』とやらはわからない、が)
 次に目を開くとき、彼女は号令を発して皆を支えた。
(これがマリアにできること、だ)
 そうしたやりとりが続く一方、雨脚が強まる予感を覚えて顎をひと撫でしながら、『雨夜の映し身』カイト(p3p007128)は付近を見やる。
(……たぶんなぁ、自分の穏やかな世界だったんだろうな)
 戦いになれば踏み躙ってしまう長閑さだ。気が引ける側面もあるが、同時に己の内で起こる滾りをカイトは感じた。
「必要なのは時間だ。対話の時間を有効活用しないとな」
 舞台を整えるべく、カイトが先ず選んだ道は、冷え切った雨帳で自身へ力を招く道。封印の術も連ねれば、竜がじろりと彼をねめつけた。悪いな、とカイトは掲げた片腕で挨拶する。
「会話の邪魔になる可能性を排しておきたい。アンタの一撃は重いからな」
「……こんなので」
 ――やれると思うの?
 問いたげな声色が、竜の喉から淀みなく湧き出てきた。


 雨は竜を囲ったまま降り続け、境界線から出れば何処までも穏やかな佳景が横たわる。在りし日のヘスペリデスと雨纏の竜という歪な均衡が、ベルゼーの腹の中でも確かに息をしていた。
 息吹を痛感するからこそ、ルカは一帯を埋め尽くした葉野菜や根菜、麦穂を見渡す。
「終わりが視えるなら、いくらでも戦うが……数が数だからな」
 三桁を優に超すウィンクルムは脅威だ。
「確かに、相手したかねーな」
 カイトも溜息めいた音を落として、付き纏う葉野菜を黒き大地へ呑ませていく。大地より伸びた混じり気なき色こそ、カイトの生み出した黒顎だが――狂暴な農作物たちに、それを意識する余裕が果たして有っただろうか。
「マリアも片付けておく。ついででもすっきりするはず、だ」
 エクスマリアの聢唱ユーサネイジアが、フレビリスの固い鱗を磨くついでに、怒涛の勢いで押し寄せた豊穣の賜物を撃ち抜いた。これまでも皆の手で空き地を造りだしたが、空いた先から野菜の群れが埋めていく。
 解っていたとばかりに肩を竦めて、ルカが解き放ったのは闘気だ。矢雨が野菜を次々と砕き、一瞬だけでも足の踏み場を増やす。
 そうしてルカは草を蹴り、濡れてしな垂れる植物の傍――雨纏の主へ近づいた。
「フレビリス、ベルゼーがお前を飲んだら悲しむって言ったよな」
 ルカの問いかけに、大きな竜がこくりと肯う。
「アイツがこのヘスペリデスや竜や亜竜達を飲み込んだら、アイツは悲しいだろう」
「それも、ベルゼー悲しむ」
「だから俺はアイツを止めに行く」
 相容れぬ主張で射抜くルカに、フレビリスも複雑そうな双眸を向けていて。
「俺とお前は一緒じゃねえかも知れねえ。だけど……」
 歩み寄れる距離を測り、差し出せる手があるのをルカは訴えた。
「ベルゼーを悲しませたくねえってのは、これだけはきっと一緒だ!」
「一緒は、やだ」
 フレビリスの声はむすっとしていた。
 直後、雨樋が無尽蔵なる雨で水勢を築き、訪問者を押し流す。
 すぐさま元いた場所まで駆け戻った一人に、ウェールがいた。雨の位置が激しく移ろわないよう、呼気を整えたウェールは自らの修復に集中する。そして色違いの眼に、竜の寂しげな姿を映し、こう問いかける。
「飲み込まれた誰かの想い出を、ここでどれぐらい目にしたんだ?」
しかし当の竜はそこに関心を持たぬのか、「数えてない」と素っ気なく返すだけ。
 間を置かずしてルーキスが放ったのは――夢めいた景色をも断ち切る、鬼百合。フレビリスの横っ腹へと叩き付けた一太刀が、鋭利な光を鱗に滑らせた。
 鬱陶しげに振られた竜尾が彼を打つ。衝撃と痛みに気を取られてしまえば、周りに目をやる余裕など有りはしない。だがルーキスは積まれた石を崩さずに着地を果たした。
 明らかに『避けた』彼の動きは、フレビリスの首を傾げさせる。
「っ……君にとっても、ここは大事な場所、なんだろう?」
 石積みの建物を巻き込まぬよう、ルーキスは細心の注意を払っていた。雨の音や威は気にせずとも、ここだけは。
「お前たちが、どうして」
「綺麗にしておくに越したことは無い。そう思って」
 竜の疑問に真っ向からルーキスが答える。フレビリスはますます不思議そうだ。

 ――大事な場所。

 鍵となる単語を元に目を向けさせようと、ルカも口を開く。
「ここ、お前がヘスペリデスを好きだから再現された場所でもあるんだろう?」
「ん。フレビリス、ここ好き」
 竜が戸惑いもせず答えたから、ヤツェクも話題の波を途切れさせない。
 詩人の心意気で皆を鼓舞するべく、高らかに歌ってから話しかける。
「なあ、ずいぶんと趣のある建物だな、フレビリス」
 話を続けながら彼が招くのは、天上のエンテレケイア。暖かな陽光が降り注ぐのを、雨の中でフレビリスがじっと見つめる。
「おれから見てもステキな場所だ」
 活力を漲らせ、ヤツェクは更に天より降る宝冠で恩寵をウェールへ贈った。
「思い出ってのは、何時でも一番素敵な姿で残ってるからな」
「……思い出」
 ぽつり。朝露の如き静けさで竜が呟くのを聴き、飛呂はジャケットに付いた土を払って、金の穂波を飛び越える。
「思い出話しようか、フレビリスさん」
 ラフィング・ピリオドで巨竜の体力を削ったばかりの飛呂が、雨の外から誘った。やだ、と無遠慮な返事が届くのも彼の予想通りで、片眉を上げ、いつぞやの魔法陣の話をする。
「あの陣。なんで傘なんだって思ってた」
 フレビリスにとって未知の物なら、ベルゼーを経由して知った可能性まで考えた。
ただひとつ、気がかりな点が飛呂にはあって。
「でも傘差してたら残念なことに、相手の顔が見えない」
「……それ、ニンゲンにとって大事?」
「たぶんね。だから顔見える側行きたかったりしないのかな、って」
 竜の喉がキュグルルと鳴くや、大粒の雨があらゆる音を掻き消すかのように地へ叩きつけられる。
 しかしどんなに土砂降りで見通しがきかない場でも。どんなにベルゼーの腹の中で想像する未来が暗く沈んでいても。ルチアの澄んだ眼差しは、曇らない。
(やむを得ないわね)
 踏み入るのを避けていた彼女は、泥濘んだ地へ靴先から飛び込む。すべては仲間へ遍く癒しを送るため。もうひとつ、迷える竜へ言の葉を捧げるためにも。
「無限に悩み続けるくらいなら、先を目指していくことはできないかしら」
「先、目指す?」
「先ずここを出てからの話ね。……それとも、私たちが信じられない?」
 確認するルチアを映したフレビリスの眼光に、僅かながら陰りが生じる。
「お前たちは、なんか、やだ」
 困惑とも取れる一言が、雨音の狭間から滲んでいった。


 石を積んでいた。
 わからないと称した石を積み、崩れてもまた積んで、均衡を保つ遊びに耽ってきた。
 けれどイレギュラーズはそんな竜へ、言葉と力で新たなる視点を起こそうとした。
 彼らの行いに、四季折々の天気の移ろいを髣髴とさせながら、エクスマリアは疵を癒すための福音をウェールへと紡ぐ。彼の咆哮が元より合図だった。だから予定通りに福音を鳴らしただけではあるのだが。
 エクスマリアは、皆がフレビリスと接する様子を見守り続けてきたから。
(腹を割って語ってくれれば、いい。折角お互い腹の中に居ることだし)
 必要な時間を得る為に、彼女は挺身する。
 そしてエクスマリアの望みを形に変え、ウェールはフレビリスと向き合う。
「物言わぬ亡骸が、誰かが存在していた証が、この地に増えるのは嫌なんだよな?」
 尋ねれば竜が頭を上下に振った。
「つまり、一度会っただけの俺らが『変わり果てる』なんて、そんな姿を見たくないのと同義とも言える」
 ひとつの解釈として綴ったウェールに、今度のフレビリスは不服を顕わにする。
「優しいんだな」
 ウェールが躊躇わず告げるものだから、いよいよフレビリスの表情も険しさで突き抜けそうだった。
「と、こんな感じで人ってもんは、都合のいい解釈やこじつけが得意な生き物でな」
 平然と言ってのけたウェールに、フレビリスも怒気を撒き散らすには至らない。代わりに尾が暴れ、焔が撒き散らされはしても。
 流れは滞らず、荒れる尾に払われて間もないルーキスも、鬼百合と共に言を寄せた。
「君は優しいと思う。フレビリス」
「なんで」
「こうして話せているのが何よりの証拠だろう。相手の排除に会話は必要ない。それに……」
 連ねるのをルーキスはやめない。想い交えて進む道を諦めていない証だ。
「この雨の中では、君自身にすら自己強化の力が働かない。どうしてなのかを考えた」
 結果、彼が思い至ったのは。
「無意識下で自分の力を制御しているからでは? 周りのものを傷付けないために」
「え……そう、なの?」
 竜眼がきょとんと丸みを帯びた。ルーキスの云う通り無意識による抑制だとしたら、当事者には答えようもないだろう。
 飛呂も、ジャミル・タクティールで実りの数々を掃射しながら、皆に続いて思いを馳せる。
「竜が実際どういう存在なのか、話さなきゃわかんなかった」
 顔を合わせ、言葉を交わしたからこそ芽生えた考えだ。
「フレビリスさんも、人相手って『そう』だったりしないか?」
 雨を纏う竜には答えられなかった。わかんない、と返すことすら侭ならずに。
 ――詩を、言の葉を紡ぐのにヤツェクは慣れている。慣れているからこそ感じ取った。
「ひとが竜を諭すのは、確かに傲慢かもしれんな」
 竜種を眼前にしている事実から入り、そして。
「だが、小さくて愚かで好奇心旺盛で向こう見ずだからこそ、勇気をもって先に進める」
「無謀」
 黙っていられずにフレビリスが唸るも、ヤツェクは喉奥でくつりと笑うに留めた。
「今おれがあんたの前にいるのは、そういう感情のおかげだ」
 ヤツェクの大きな声は、聞き逃す隙すら与えないぐらいにしかとフレビリスへ届く。
 矢継ぎ早、赫纏う剣を振り翳したルカが大地を蹴る。飛び掛かる先は言うまでも無くフレビリスだ。一点集中、かの竜へクリムゾン・ジョーカーを刻み付けて。
「退いてくれフレビリス!」
 叫んでも相手は応じない。だが喉が嗄れようとも、三白眼に熱意を揺らめかせて訴えるルカの声音は、フレビリスの意識を否が応でも吸い寄せた。
「あいつが何百年も掛けて作ってきたこの奇跡みてえな場所を、他でもないアイツに壊させたくはねえ!」
 ヘスペリデスはもちろん、竜と亜竜の絆もベルゼーが長い時の糸を紡いで固めた地盤だろう。盤石の礎さえあれば、その上で様々な命が歴史を描いていける。ただ、その『盤石の礎』を拵える苦労こそ、常人には計り知れぬもの。
 ルカもそれを知っているから、諦めきれない。
 虹焔で照らされた世界でも、ルカの決した意はすぐに消えやしない。
 潰えぬものは、まだあった。
 一瓶を呷ったルチアから零れる、清らかな歌声だ。
 ――ルリルリィ・ルリルラ。
 コーパス・C・キャロルが戦線を支える。
 ぜえと荒い息で周りが肩を上下させていても、どうにか仲間たちは気持ちを、覚悟を綴れた。
「俺は、ベルゼーの選んだ道を見届けたい。この先は俺達に任せてくれないか?」
 ルーキスが懇願に近い強さでそう口にすれば、低くカイトも望む。
「…………カタを付けるから、せめて待っててくれやしねぇか、外で」
 人間と竜の隔たりを眼にした上で、彼は眉間を深めた。ちらりと、竜が積んできた成果を瞥見して。
「積み上げて、また直すことに意義は、あるんじゃないのか?」
 一からやり直すことになっても。原形を留めていなくても。人も竜も為せる行いのひとつを、カイトが結んでいく。ベルゼーの中だからこそ。壊れゆくものを知るからこそ――フレビリスは、押し黙ったままだ。
 加えてヤツェクも、一人一人が繋げてきた想いを後押しするべく立ち上がる。
「奇跡ってのは生ききろうとした結果だ。おれたちの仲間も、何人も生き切って、奇跡を残した」
「何人も?」
 芽吹いた興味が、フレビリスの瞳へ宿る。
「生き切って、外で奴のことを覚えていてやれ、フレビリス」
 ヤツェクが説いた後、しおしおと畳まれ始めた竜の翼を視認したところで、エクスマリアがフレビリスへ手を差し出す。
「そうだよ、雨纏のフレビリス。さあ、一度、憂鬱な雨は晴らしてしまおう」
 かけた誘いは誰よりも明るく、誰よりも晴れ渡っていた。
「どうせ雨を降らすなら、もっと心地よいものが最適、だ。涙に暮れるのも悪くない、けど」
 エクスマリアの歌に、竜が乗ることは終ぞなかったが。
 いつからか、フレビリスを四囲するほの暗さは――涙雨と化していて。
「傘を捨てて踊りたくなるくらいに、自由な気持ちであるべき、だ」
 変化知らずな面差しでは、静寂を湛えた眼差しが、ひときわ鮮烈な光で竜を捉えていた。
 だから思わず、竜の口を衝いて出たのは。
「……やっぱりお前たち、変」
 蔑む物言いは相変わらず。至って元気そうな竜は、徐に頭をもたげると。
「信じるとかじゃ、ない。ただ、どう動くのか……見るのもいい」
 こうして雨纏のフレビリスは権限を放棄し、外へ追放されていく。
 見送るイレギュラーズの眼に映った竜鱗は――どこか、銀の輝きを連想させる色をしていた。

成否

成功

MVP

ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)
鏡花の癒し

状態異常

ウェール=ナイトボート(p3p000561)[重傷]
永炎勇狼
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)[重傷]
運命砕き
ルーキス・ファウン(p3p008870)[重傷]
蒼光双閃
囲 飛呂(p3p010030)[重傷]
君のもとに

あとがき

 お疲れさまでした。
 たくさんの想いはもちろん、戦局を崩れさせないための細かいフォローまで、皆さま本当にありがとうございました。
 またご縁が繋がりましたら、そのときはよろしくお願いいたしますね。

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