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シナリオ詳細

<黄泉桎梏>『四番目』の受難

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●誰そ彼の土手にて
 膝を抱えて沈みゆく夕日を眺める者が一人。名をクワトロという。何よりも大切な主人の指令を受けて豊穣まで来たのはいいが、いつも通り不運に見舞われそれを果たすことが出来ずにいたのだ。
「……ぐすん」
 涙目になりながらもどこが悪かったのか、今日一日の行動を振り返ってみる。

 その日、主人から命令を受け取ったクワトロは、張り切って朝早くから出かけ豊穣の地へと降り立っていた。
 さっそく命令を実行とするが、そういえばまだ朝食を食べていないことに気付くと、まずは近くにあった大きめの町へと向かい腹ごしらえをすることにしたのだ。
 普段見ることのない街の風景を興味深げにきょろきょろと見回す様子は、まさに「おのぼりさん」の典型と言えるだろう。
「うちのそばは天下一品だよぉ!」
「お蕎麦! いいですね、大盛下さい!!」
「よう、団子はどうだい!」
「お団子ですか、食べます! あと、お茶もあればください!」
 などと屋台やら茶屋やらを巡ってたっぷりと豊穣の味覚を堪能したところで、いざ仕事をと町の外に向かおうとしたその時だ。
「おっと。すみません、大丈夫ですか?」
「大丈夫! こっちこそ前見てなくてごめんね。それじゃ、オイラは急ぐから!」
 周りの風景を見ながら歩いていたせいか、走ってきた子供とぶつかってしまった。怪我はないかと気に掛けるクワトロだったが、子供の方には怪我はなかったようで一安心だ。
 ――それがスリだったとは後で知ったのだが。

 スリに気付くことなく町の外へと出たクワトロは、川沿いの街道を慎重に歩いていた。海洋では油断した隙に烏に大切なものを奪われてしまったので、今度はそんなことにならないように特に上は厳重に。
「あっ! あぁ!!」
 などと思っていたら、今度は足元がお留守になっていたようだ。石に躓いてやっぱり盛大に転んでしまう。そしてその拍子に、肩にかけていた鞄の蓋が開いてしまい中に大切に仕舞っていたメダリオンが飛び出した。
 気付いたクワトロが咄嗟に手を伸ばすも届くことはなく、メダリオンが土手の坂道をころころと転がりぼちゃんと音を立てて川底に沈んでいくのをただ眺めているしかできなかった。
 しかし、クワトロはめげない。こんなこともあろうかと、三枚ものメダリオンを持ってきていたのだ。一枚くらい落としてしまっても問題は無い。

 気を取り直してクワトロは近くの山の中へと入っていく。今回の目的地はこの山の中にある寺なのだ。雑木林をかき分けながら進んでいくと、案の定というべきか真っすぐに山寺へと辿り着くことは出来なかった。
 あっちでもないこっちでもないと暫くうろうろしていると、鞄の肩紐が木の枝かなにかに引っかかったようだ。
「あれ? 取れません! うーんと、えーと……えい!」
 がさごそと動かしてみるが全く取れる気配がないとみるや、力任せに鞄を引っ張った。
 その結果、鞄は木の枝からは外れたが、どうやら底に穴が開いてしまったらしい。そのことに気付かぬまま森を歩いてようやく山寺へと到達したクワトロは、そこで儀式を執り行おうとして気付く。
 三枚あったはずのメダリオンがどこにもない、と。

●そして話は冒頭に戻る
 これまでの反省を活かし万全の体制で臨んだにも関わらず、命令を果たせないままこのような事態になったのだ。死んだ魚の目をして遠くの空を眺めてしまうのも無理はない。
 しかし、現実逃避はこれくらいにしておくべきだろう。なぜなら、このまま任務失敗で帰還したとすれば、同僚に何を言われるか分からないのだから。
 ウーノは何も言わずそもそも興味すら持たないだろう。トレは表面上は慰めてくれるかもしれないが、裏では何を考えているのか分かったものではない。そしてドゥーエ。ここぞとばかりに茶化してくることは間違いない。
 それだけは何としても避けたい。絶対に避けたい。
 なんとしてもバレる前に終わらせなければ。そのためには人手が必要だ。クワトロは立ち上がると、協力者を集めるために町へと向かう。

「探し物の手伝い、ですか?」
「あぁ。まちの入り口んところで色んな人に声を掛けてるみたいだぜ」
「うーん……気になるしちょっと行ってみようかな。僕も手伝えるかもしれないし」
 仕事の帰り、たまたまこの町に立ち寄っていた『氷雪剣舞』セシル・アーネット(p3p010940)は、自分と同じくらいの子供が何やら必死に手伝ってくれる人を探しているという噂を聞くと、自分で役に立てるならとその手伝いを募集している子供の下へ向かうことにした。
 到着したその時、相手の顔を見て驚くことになるとは知らずに。

GMコメント

本シナリオは
・セシル・アーネット(p3p010940)様
のアフターアクションとなります。

もの探しとなっており難しい内容ではないので、どなたでも気軽に参加できると思います。
よろしくお願いします。

●目標
 クワトロのメダリオンを1枚以上見つけてクワトロに返す

●ロケーションなど
 豊穣某所です。
 比較的大きな町で賑わっています。
 近くには山や川があり、自然も豊かなようです。
 クワトロが協力者を集め始めたのは夕方ですが、皆さんが捜索を開始するのは日を改めてからになるので、シナリオ中は昼間となります。

●クワトロのメダリオン
 両手の親指と人差し指で輪を作ったのと同じくらいの大きさのメダリオンです。
 表裏に羅針盤の絵が描かれているので、見つければすぐにそれと分かるでしょう。
 勘付いている方もいらっしゃると思いますが、帳を降ろすための聖遺物です。
 しかしご安心ください。最終的にはクワトロの不運によって紛失、もしくは破損するためこのシナリオの結果で帳が降りることは絶対にありえません。

●人物
・クワトロ
 致命者です。
 十五歳くらいの体格で、中性的な顔立ちをしています。
 後述のティツィオを主としており、その命令で色々と動いているようですが、本人のドジや不運によって命令遂行率は0%を記録しています。
 このシナリオ中でイレギュラーズと敵対することはありません。
 また、クワトロ自身は町の中でメダリオンを探すようです。

・ウーノ、ドゥーエ、トレ
 致命者です。
 クワトロと全く同じ容姿をしており見た目では見分けがつきません。
 クワトロと同じくティツィオの命令で暗躍していますが、このシナリオには登場しません。

・ティツィオ
 遂行者です。
 クワトロの主人ですが、クワトロに命令を出したのみでこのシナリオには登場しません。
 容姿、素性、能力など現時点では一切不明です。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。


●捜索場所
 捜索場所の候補は以下となります。
 なお、メダリオンは1枚でも見つかればいいため、参加者の皆様は必ずしも各選択肢へ均等に分散する必要はありません。

【1】町
 絶好のカモだったクワトロは、案の定町の中でスリにあってしまいました。
 どうやら、その時に財布と一緒に「なんかキラキラしてて綺麗だから値打ちがあるかも?」とスられてしまったようです。
 町の中を上手く探せれば見つかるかもしれません。

【2】川
 転んだ拍子にメダリオンが川の中に落ちてしまいました。
 しかし、山寺で全てのメダリオンを失くしたことに気付いたクワトロが、慌てて探しに来た時には落としたはずの場所にはありませんでした。
 町で聞いてみると、この川には水棲の妖がいるようです。大人しい性格で人を襲うことはありませんが、川に落ちたものを自分のものとして巣に持ち帰ることもあるようです。

【3】山
 クワトロが鞄に穴を開けた山の中ですが、通った道のどこにも落ちていませんでした。
 ただし、クワトロ以外の足跡が幾つか見つかりました。
 この山には山賊が潜んでいるらしいという噂があるようです。

  • <黄泉桎梏>『四番目』の受難完了
  • GM名東雲東
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年07月19日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

志屍 志(p3p000416)
天下無双のくノ一
アルチェロ=ナタリー=バレーヌ(p3p001584)
優しきおばあちゃん
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
ディバイン・シールド
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
フルール プリュニエ(p3p002501)
夢語る李花
八重 慧(p3p008813)
歪角ノ夜叉
火野・彩陽(p3p010663)
晶竜封殺
セシル・アーネット(p3p010940)
雪花の星剣

リプレイ


 『氷雪剣舞』セシル・アーネット(p3p010940)は昨日の事を思い出す。
 町人の噂話を聞いて向かった先で手伝いを募集していたのは、これまで戦ってきたウーノやドゥーエと全く同じ顔をした人物だったのだから、驚きのあまり体が固まってしまったのも無理はないだろう。
 平静を装って事情を聞きつつその言動から別人らしいとは理解したが、やはり頭がついていかないような気もする。
「やぁ、クワトロくん。この間ぶりだね?」
「あ! 史之さん! 先日はありがとうございました!!」
 集まった中にいた『若木』寒櫻院・史之(p3p002233)は、少し前に海洋にある自身の領地で行き倒れていたクワトロを助け、その流れで今回と同じようにメダリオン探しを手伝った縁があった。
 そのことはクワトロも覚えていたようで、史之に気付くと元気よく挨拶を深々と頭を下げる。
 そんな一幕もありつつ少し待っていると、依頼を受けた全員が集まったようだ。クワトロを含め、合計九名でメダリオンを探すことになる。
「ただのおばあちゃんだけれど……できる限りアナタの手助けをすると約束するわ」
「ありがとうございます!!」
 クワトロの手を握り、『静観の蝶』アルチェロ=ナタリー=バレーヌ(p3p001584)がそう言うと、感謝感激雨あられといった様子で協力してくれることを喜んでいる。
「メダリオンは三枚持ってたそうっすけど、揃わないと困ったり『使えない』モンなんすか?」
「いえ、一枚でもあれば大丈夫です!」
「じゃあもう一個。声掛けより、クワトロさんに『仲間』いるならそっちに手伝ってもらう方が早かったんじゃって思うんすけど…できない理由でもあったんすか?」
「うぅ……。それはそうなんですけど、失敗続きでマスターにも申し訳なく……。仲間にも馬鹿にされそうで……」
「あぁ分かった! 分かったっすから、元気出して探しましょ?」
 依頼内容の確認という体裁をとりつつ、クワトロやその仲間に関して探りを入れた『歪角ノ夜叉』八重 慧(p3p008813)だったが、消え入りそうな声であからさまに落ち込むクワトロに、それ以上の追及をするのは流石に可哀そうになってきたのか、慌てて励ましの言葉を投げかけつつメダリオン捜索へと話の舵を切ったのだった。


 クワトロと共に町の中の探索に向かったのは、セシル、アルチェロに加えて、『遺言代行業』志屍 瑠璃(p3p000416)と『夢語る李花』フルール プリュニエ(p3p002501)の四名だった。
「クワトロの坊や。町でぶつかった子等の見た目などは覚えているかしら」
「えぇと……たしか、灰色の着物を着た子供で、髪はぼさぼさとしてて……」
 クワトロから詳しく話を聞いてみると、どうやらここでスリにあった可能性が高そうだ。犯人と思われるその子供の特徴をアルチェロが聞くが、なにぶん全くの無警戒であったことから判然としないようだ。
 しかし、その僅かな情報でも分かることはある。
「恐らく、家を持たない孤児でしょう」
 推測を述べるのは瑠璃だった。これくらいの規模の町になれば裏町もあるはず。裏町に生きる親のいない子供たちは、生活のために徒党を組んでスリや万引きをしていることがあるだと。
 クワトロを狙ったのはそういった一派の可能性が高いと判断すると、手分けして町の中を探すことになる。
「セシルさんでしたっけ? どうして私を助けてくれるんですか?」
「え?」
「史之さんもそうですけど、ウーノやドゥーエと戦ったと本人たちから聞きました。私もその仲間なのに……」
「そんなの簡単ですよ。困ってる人は放っておけませんから」
「……あなたはいい人なんですね」
 クワトロは自身の属する派閥とイレギュラーズが敵対していることは把握しているらしい。それでもなぜ助けてくれるのか。孤児たちを探しながらセシルにそう問いかけるが、そのセシルはこともなげにそんなことを言う。
 その言葉にクワトロは嬉しそうな、しかしどこか悲しげな表情をしていたのだった。


「……どうぞ」
「ありがとよ」
 クワトロたちと一旦分かれた瑠璃は、裏通りにいた物乞いの罅割れた茶碗に幾らかの金を入れた。この物乞い、実はこの町の情報屋なのだ。
 事前にクワトロの容姿を伝えてその動向を探らせていたので、結果を聞きに来たという訳だ。
 金の代わりに情報屋から渡された紙を見ると、そこには町の地図が描かれていた。
「この辺でスリをしてる子供って言うと、そこにいる連中だろうな」
「ありがとうございます」
 地図に記された赤い点が子供たちのアジトなのだろう。地図を懐にしまうと、瑠璃は足早にクワトロたちとの合流を目指す。
 情報屋の話では、ある程度盗んだものが貯まると盗品専門の質屋に持っていかれるそうだ。そうなるとどこに行ったのか分からなくなってしまう。


 瑠璃が情報を掴んだと聞いて、クワトロを始め町の捜索に加わった者たちが再び集まると、情報にあった子供たちのアジトへと向かう。
 貧民窟の更に奥まったところにある、今にも崩れそうな廃屋がそれだ。もとは何かの倉庫だったらしく、大人数の子供たちが纏まって暮らすにはちょうど良かったのだろう。
「先に中を調べます」
 そう言って瑠璃が倉庫を指すと、街の中で見つけ使役しておいた猫が素早くそこへ近づいていく。
 穴の開いた壁からそっと中を覗く猫の視覚と聴覚は瑠璃自身と共有してあるため、中の様子がはっきりと分かる。子供の数は十数人といったところか。
 貧しい暮らしをしているらしく、身なりはぼろぼろで痩せこけている。十代後半くらいの子が数人おり、その子たちがリーダーとなっているのだろう。
 倉庫の奥の方には盗品らしきものが収められた箱があり、その中にはクワトロのメダリオンらしきものも確認できた。犯人はこの子供たちで間違いないだろう。
「確認できました、行きましょう」
 瑠璃を先頭に子供たちのアジトへ乗り込めば、当然だが子供たちは侵入者に敵意を見せる。
「お前ら! 俺たちになんの用だ!」
「争うつもりはありません。盗ったものを返して欲しいだけです」
「信用できるか!」
 両手を挙げて敵意がない事をアピールするが、子供たちはそれを信じず襲い掛かろうとする。
 が、その時アルチェロが奥で固まっている特に幼い子供を見て咄嗟に動いた。
「あ!!」
「あらあら、こんなに痩せて可哀そうに。ほら、これをお食べ」
「……え?」
 襲い掛かる子供たちの合間を縫ってアルチェロが進み奥の子供たちに近づくと、風呂敷に包まれた食べ物や飲み物を差し出す。
 街の中を探しているとき、瑠璃からの連絡で貧しい子供たちが犯人だと知ったアルチェロは、手持ちの金で買えるだけの食料と飲み物を買い込んでから合流していたのだ。
「この食料と飲み水で、そちらのメダリオンと交換するというのはいかが? 他にも欲しいものがあったら言ってね。出来る限り用意するから」
「お、おう……」
 明らかに釣り合っていない。アルチェロが出す分が大きすぎるのだ。しかし、そんなことは当のアルチェロ自身が気にしない。
 能面のように動かない表情のまま交渉を持ち掛けるアルチェロに怯む年長の子供だが、その背中に広がる蝶のような羽が暖かく柔らかな光を放っていることに気付くと、警戒心を緩めて交渉に応じる気配を見せた。
 子供としての直感がアルチェロの慈愛を感じ取ったのかもしれない。


「もう盗みはしちゃダメだよ?」
「……分かったよ。悪かったな、それを盗って」
「いえいえ、ちゃんと帰ってきたならいいんですよ!」
 アルチェロが食料を配り終えて無事にメダリオンを返してもらうと、後で改めてもう盗みをしなくても済むように、働き口を探す手伝いをすると約束を交わしてセシルたちは待ち合わせ場所へと向かうのだった。


 川の探索へ向かった『歪角ノ夜叉』八重 慧(p3p008813)は、なにか手がかりがないかとクワトロに聞いておいた、メダリオンを落とした場所を探していた。
「南天さんは河原あたりに引っかかってないか探してください。俺は水中探します」
 赤い実をつけた小枝に慧がそう呼びかけると、小枝を中心に植物の蔦のようなものが現れそれらが固まり人を象る。
 式神として顕現した南天は、こくりと頷くと河原の茂みや川の縁といった辺りを探し始め、慧は川の中にもぐりその底にメダリオンがないか確かめていく。
 が、どれだけ探してもやはりこの近辺にはないようだ。それらしいものは見当たらなかった。
「すまねぇ、遅れちまった!」
「あ、来たっすね。まだ始めたばかりなんで大丈夫っすよ!」
 慧が一休みしていると、町の方から『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)がやってきた。ゴリョウもまたメダリオン探しの一員だったのだが、捜索を始める前に町で準備をしていたのだ。
「やっぱり、妖が持って行っちゃったかもっすね」
「そうか……。どの辺に住んでるのかは分かるか?」
「少し聞いてみるっす。こんな場所通る誰かなんて、そう多くはないでしょうし」
 植物の意思を読み取れる慧が河原に生えていた草花に語り掛け、河童らしき存在が川上の方に数匹程度の群れで生活しているらしいことを知ることが出来た。
 恐らく、メダリオンを持っていったのもその河童たちなのだろう。ゴリョウと慧は早速川上へと向かって歩を進めるのだった。
「ググェッ!?」
「大丈夫っすよ~。俺らは敵じゃないっす」
「今日はお前さんたちにこれを持ってきたんだ」
 川を辿って上流に向かうと、ゴリョウが持前の知識と視野の広さであっという間に河童たちを見つけた。鬱蒼とした茂みに隠れるように生活しており、大人しい性格で人間に危害を加えるような存在ではないというのは本当なのだろう。
 突然現れたゴリョウと慧に驚いたようだが、敵意がないらしいことを感じ取ると差し出された荷物を興味深げに眺めている。
 亜竜の引く竜車に満載していたのは、ゴリョウが予め用意していた数々の食材たち。豊穣で水棲の妖といべ河童と考え、特に大量の胡瓜と胡瓜を使った料理を持ってきて正解だったようだ。
 特製のもろ味噌や味噌マヨネーズを使ったもろきゅうにかっぱ巻き、浅漬けなどなど……。先に用意していたものを振る舞うと、河童たちが喜んでそれを食べている間に、鮎と胡瓜の酢の物や香り味噌ピリ辛炒めといった調理が必要なものを作っていく。
「ぶはははッ、出張ゴリョウ亭ってなぁ!」
「ゴリョウさんの料理だけでも十分美味っすけど、こいつがあればもっと美味しいっすよ」
 ゴリョウの作る料理に涎が溢れそうになるのを我慢しつつ、慧が荷袋から取り出したのは酒だ。それもそこらの酒とは訳が違う一級品。
 これには河童たちも大いに盛り上がった。
 ゴリョウと慧が河童たちに食事と酒を振る舞い大宴会が始まると、酒の席での余興も必要になってくる。河童を相手に余興と言えばやはり相撲だろう。
 ゴリョウが河童たちの中でも体格のいい者を何名か指名すると、宴席の中央で乱取りのような相撲が展開される。
「ふぅん!!」
「グェ!?」
 綺麗にゴリョウの上手投げが決まると、河童たちも拍手喝采だ。河童たちも相撲には自信があったようだが、やはりゴリョウほどの相手になると簡単には勝てない。
 互いに認め合って握手を交わすと、夕暮れが迫ってきたことに気付く。宴会はこの辺りにして、そろそろ目的を果たさねばならない。
「これくらいのキラキラしたもんを探しているんっすけどね……」
「ギョェ……?」
 言葉は伝わらないものの身振り手振りで慧がなんとか伝えると、河童たちの巣の奥へと案内された。どうやらそこに欲しいものがあれば持って行っていいという事らしい。
 河童たちに礼を言うと、二人でその中を探し始めるのだった。


 山の中へと向かったのは史之と『放逐されし頭首候補』火野・彩陽(p3p010663)の二人だ。事前に聞いていた通りに山の中へと分け入り、クワトロのものらしい足跡をたどって奥へと進むと、足跡が乱れた場所に辿り着く。
 ここが鞄を木の枝に引っかけたという場所なのだろう。メダリオンを落としたとすればここが怪しい。
「うーん、見つからないね……」
「誰かが持っていったのかもしれへんなぁ」
 こんな山奥に誰が……。と思う史之だったが、彩陽が指した場所を見てみると明らかにクワトロの物とは異なる足跡が残っていた。少なくとも四、五人くらいはいるだろうか。
 山賊が潜んでいるらしいという噂を思い出すと、この足跡の主たちがその山賊ではないかと考え至り、二人は足跡を辿っていくことにする。
 薄暗い山の中では見にくい足跡も彩陽であればはっきりと見ることが出来る。暫く歩いていくと、やがて遠くに山小屋のようなものが見えてきた。
「あそこが?」
「間違いないやろ」
 ただの山小屋のようにも見えなくもないが、このような普段人が出入りしないような奥地にあるのもおかしな話だ。山賊の拠点と見て間違いないだろう。
 先手必勝。山賊に悟られる前に史之と彩陽は山小屋へと乗り込んだ。
「なんだ、てめぇら!!」
「そんなことどうでもいいよ。面倒だから抵抗しないで掴まってくれないかな?」
「んだとぉ!?」
 扉を蹴破って侵入してきた史之に殺気を向ける山賊たちだが、史之にとっては田舎山賊の殺気程度たいしたことはない。どこ吹く風と投降を呼びかけるが、案の定大人しく従う気はないようだ。
 ろくに手入れされていないようなぼろぼろの刀を構えて史之に襲い掛かってくる。が、彼我の戦力差は圧倒的だ。山賊が仮に数十人いたとしても史之に敵うことはないだろう。
 その証拠に、四方八方から同時に襲い掛かった山賊は、太刀による乱撃を受けて吹き飛ばされた。鞘から抜かず気絶させるのに留めたのはせめてもの慈悲か。
「力、貸してもらうで?」
 史之が前に出て山賊たちと斬り結んでいる間、彩陽もまた動いていた。
 付近に漂う動物霊や山賊の被害にあったと思われる人々の霊へと語りかけると、霊魂に宿る霊力を分けて貰う。
 霊力は番えた弓矢へと宿ると全体が仄かに光を発する。そのまま狙いを定めると、息を潜め史之の背後から襲いかかろうとしていた山賊の一人へと放たれる。
「ぎゃあっ!?」
 放たれた矢は正確に山賊の眉間を撃ち抜いた。しかし、彩陽の一撃は殺す為の技ではない。死霊たちから借りた霊力によって鏃が保護されていたため、矢は突き刺さることなく鈍器で殴られたような痛みを与えるのみ。
 頭を強く揺さぶられた山賊はそのまま意識を失って倒れるのだった。
「しかしよくもまぁ、こんなにガラクタを貯めこんだものだね」
「これは探すのに一苦労しそうやなぁ」
 鎧袖一触に山賊たちを蹴散らすと、敢えて気絶させずに残していた山賊の一人に案内させて、その財産の隠し場所へと案内させた。
 そこには後で換金でもする予定だったのだろう幾つもの物品が無造作に積み上げられた。果たしてこの中にメダリオンはあるのだろうか。
 少々不安になってきた史之だが、そこでふと思う。本来クワトロは敵のはずである。にも関わらずこうして探し物の手伝いをすることになるとは……。などと考えた辺りで深く考えることを止めた。
 乗りかかった船でもあるし、依頼は依頼だ。引き受けた以上は達成せねばならない。彩陽と史之は、目覚めた山賊たちにも手伝わせながらガラクタの山の中からメダリオンを探すのだった。


 メダリオンを見つけても見つけなくても、夕方には一度町の入り口で合流することになっていた。
 町での探索を終えて無事にメダリオンを取り返したセシルはここぞとばかりにクワトロを質問攻めにしていた。
 なぜここに来たのか、誰の指示なのか、主人はどんな人物なのか。しかし、クワトロはそらの質問に対して詳細に答えることは出来ない。
 だが、曖昧ではあるものの規定に引っかからないように言葉を選んで答えようとはしてくれた。手伝ってくれたお礼のつもりなのだろう。
 そうして話している内に、川に向かっていたゴリョウと慧、そして山に向かっていた史之と彩陽が合流する。どちらも無事にメダリオンを見つけることが出来たらしい。
「これで三枚揃いました! 皆さんありがとうございます!!」
「せっかくだからメダリオンを使った儀式とやらを見せてもらいたいな。そのくらいの役得はあってもいいだろクワトロ君?」
「儀式ですか? いいですよ!」
 三枚のメダリオンが揃ったところで、史之の発案により山奥の古寺へと向かう。本来の予定ではここでクワトロが儀式を執り行い帳が降ろされる予定だった。


 境内の中で三枚のメダリオンを地面に置くと、クワトロは懐から取り出した聖書を開き、そこに書かれた言葉を読み上げていく。
 次第に聖書は強く輝き始め――
「ぎゃーーー!!!」
 一際強く発光したかと思ったが、それは聖書によるものではなく突如として上空から落ちてきた稲妻であった。
 稲妻の直撃を受けたクワトロは黒コゲとなり、地面に置いていたメダリオンもまた稲妻によって打ち砕かれている。
 予想外のことに驚くイレギュラーズであったが、上空を見ると暗雲が立ち込めており一雨きそうだ。
 痙攣しているクワトロを抱えて急いで町へと戻ると、今回の依頼はここまでという事で解散する運びとなったのだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

大変長らくお待たせいたしました。
依頼は無事に完了です、お疲れさまでした。
なお、クワトロが雷に打たれた以上の被害はありませんでした。

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