シナリオ詳細
<黄泉桎梏>呉藍に夏梅と雨
オープニング
●
「あそこの、いいよね」
「筆に載せてからの滑りがいい塩梅なんだよナ」
「そうそう。肌に載せてもべたっとしなくて。あと発色もかなり好き」
ローレット、豊穣支部。
ふたりの男性が話をしている。片割れは劉・雨泽(p3n000218)。もうひとりの男は――
「劉さん、お呼ばれ頂いたそうで。どないしたん?」
「ああ、来た来た。おふたりさん、こっちこっち」
顔を覗かせて声を掛けた蜻蛉(p3p002599)へ、雨泽がひらりと手を振り招いた。
おふたりさん――つまり、同行者が居る――の片割れ、十夜 縁(p3p000099)が彼女の後ろに続くのだが、蜻蛉が足を止めたものだから、彼もそれに倣った。
「……何してはるん?」
美しい笑みと、柔らかな声。けれどそこには少しばかり険が含まれて。
「あっ、やっぱり『蜻蛉』は君であっていたんだね」
「よォ、べっぴんさん」
雨泽と話していた美丈夫と蜻蛉はどうやら知り合いらしい。縁の視線が蜻蛉と見知らぬ男との間を静かに移動した。
とりあえず座って話そうと雨泽に招かれ、上がり框に腰を落ち着けた。
「彼はね、情報提供者の槐。豊穣でお化粧のプロをしているよ」
縁への紹介をすれば、ふたりは目礼で応じ合う。
「で、情報っていうのは、多分『触媒』なんじゃないかなーって僕は思っていて」
槐曰く、最近小間物屋に入る商品に異変が生じたのだそうだ。
「俺は化粧師だからヨ、奴(やっこ)さん方の店にもよく顔を出すんダ」
新作の紅の色や筆は抑えておかねぇとと話す槐に、うんうんと雨泽が同意を示している。特に筆は消耗品だ。用途に合わせて何本も違う筆を用意するし、使い勝手が良ければそれが売られている内にスペアをいくつか抑えておきたい。
豊穣の小間物屋には沢山の商品が置かれている。紅や頬紅、櫛に簪。刺繍の愛らしい手巾。それから外つ国から来た珍かな物も、たまに。見ているだけでも目を楽しませてくれて、女性たちにとても人気で――勿論、男性とて入用な物は小間物屋で揃えるのだから、男性にも人気だ。
そんな小間物屋に、生じた異変とは――。
「発注した覚えのない化粧品が紛れ混んでたりするんだって」
大抵店主たちは、おまけか試供品かと思うらしく、妙だなとは思わない。
けれど様々な小間物屋に顔を出して化粧品を見て歩く槐には引っ掛かった。
――此れは何か裏があるんじゃねぇカ?
何でもないただのおまけならいい。でもそうじゃないなら? 槐は化粧品で女たちが不幸になるのは嫌いだ。化粧は女を美しく飾るもので、時にちょっとした幸せを舞い込ませるまじないでなくてはならない。
ちょいと調べてくれねぇカと話を持ちかけられた雨泽は化粧品を卸している店を当たってみた。
「どこもね、覚えがないって首を傾げたんだよね」
ね、怪しいでしょ。
首を傾げて笑う雨泽にあなたが顎を引けば、それでねと話を続けた。
「お客さんの振りをして、小間物屋さんを見て回ってほしい。怪しいものがあれば購入する形で引き取って。店側や他の客を不安にさせないこと」
指をみっつ折って注意点を告げた。
勿論、小間物屋は多いから、人海戦術。誰かと一緒に行動してもいいけど、いろんな店を廻る必要があるため、小間物屋に印をつけた地図が配られる。
「この星印はなんだ?」
「あ、そこはね」
縁の問いに、雨泽の声が弾む。
「『恋梅そぉだ』を扱っているお店。休憩にいいんじゃないかなって」
青梅を大量の氷砂糖で瓶詰めして作った甘い梅シロップに、炭酸水を混ぜて作った代物だ。炭酸水はまだあまり馴染みのない者も多いため、広めるためにいくつかの店が普及に強力しているのだ。
「まぁ、気軽にさ、デートだと思って行ってきてくれる? というか、民たちを不安にさせないように、『ちゃんとしたデート』ってスタイルでよろしくね」
調査のスタイルじゃ駄目だからねと念押しをした雨泽が、「あ」と窓へと顔を向けた。
――雨が降ってきた。
- <黄泉桎梏>呉藍に夏梅と雨完了
- GM名壱花
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年07月15日 22時15分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
サポートNPC一覧(1人)
リプレイ
●
この時期の豊穣は、毎日しとしとと雨が降っている。
軒や傘に跳ねる雨粒に耳を澄ませるのも乙なものだが、人によっては――髪質によっては髪が膨張し、悩ましい日々となろう。
(もう……)
髪量が多いからそうなるかなとは思っていた『夢語る李花』フルール プリュニエ(p3p002501)が、自身の髪に触れて小さくため息を吐いた。買い物を心から楽しむためにも、まずは髪結いが必要だろう。小間物屋巡りの前に、フルールは髪結い屋へと消えていく。
「ぴちぴちちゃぷちゃぷ、ぴちぴちちゃぷちゃぷ♪」
傘をさした『かみさまの仔』冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)は多少の雨に濡れても気にしないのか、足取りが軽い。
「雨泽様とのおでかけは、でーとではないですか……?」
睦月の後方を歩く『あたたかな声』ニル(p3p009185)が首を傾げた。
複数人でもデート? 普通のお出かけとはどう違うの? 手を繋ぐとデート? 一緒に傘に入るのがデート?
頭の上にハテナを飛ばしまくっているニルに、雨泽が小さく笑った。
「あれは縁に言ったことだから、ニルは気にしなくて大丈夫だよ」
デートって言うのはねと、雨泽が指差す先には何故だか挙動不審な黒衣の男。
「ま、ま、まが……まずは、あちらのお店など如何でしょうか?」
どうやら同行者――真賀根の名前すら呼べない『黒蛇』物部 支佐手(p3p009422)は身体にガチガチに力が入っている様子。『逢引らしくせよ』と小声で促されたため頑張っているようだが、幼い頃の初恋と憧れと敬愛をこじらせている女性を前にした支佐手の脳はもういっぱいいっぱいだ。
(うおおおお、宮様が近い! しかも私服! ええ匂いがする! どうすりゃええんじゃ、これ!)
「手でも繋ぐか?」
「へ? 手? 手!? そんな恐れ多いことです宮――」
「ほら、支佐手」
今日の私はお前の妹子だろうと告げる声に、支佐手は雷に撃たれた。
「ほら、次の店に行こう、我が背子殿。舶来物を選んでくれる約束だろう?」
完全に微笑ましく思われてしまっている支佐手は、カチコチと固まりながらも小間物屋を回っていく。依頼内容は真賀根が知っているから、彼女が上手く手綱を握……エスコートしてくれるだろう。
「『冬夜の裔』、あんたは調査を手伝ってくれ」
別行動をして噂話等を探ってきてほしいと『灰想繰切』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)が伝えれば、冬夜の裔は緩く首を傾げた。
「……仕事だな? ならば対価をよこせ」
「対価はあとでな。……後払いだ、断固として。あんた先払いにすると浮かれて仕事しないだろ、知ってるんだぞ」
「は?」
冬夜の裔の対価は、アーマデルを傷つけることだ。出血していては店の者たちが気にするだろうと尤もらしく告げれば、舌打ちとともに冬夜の裔はふらりと姿を消した。
「雨泽殿」
「なぁに」
「発見した触媒は破壊すればいいのか?」
「そうしてもいいけど、容器だけだと思うから中身を移し替えれば使えるよ」
「そうか」
心得たと顎を引くアーマデルは元々言葉数が多い方ではない。『酒蔵の聖女』を伴い、彼もひとりで行動するようだ。
綺麗に結い上げてもらったお陰で、首元は涼やか。赤銅色の子猫のような精霊を抱え、フルールは小間物屋を巡った。
紅や頬紅は、様々な色がある。肌の色や見た目に合わせたもの、それから好みで他の女性客等が手に取っていくのを眺め、フルールは首を傾げた。
「ね、キャスパリーグはどんな私が良いと思う?」
お化粧には詳しくないから、フルールには自分に似合う色が解らない。けれどそれは精霊にも同じらしい。一緒に首を傾げていて、何とも愛らしい。
「店主さん、私にはどの色が似合います?」
問えば、そうですねぇと店主が選んでくれる。
濃すぎる色よりも咲き初めの花のような淡い色をすすめられた。
「いい色」
手の甲で色味を確かめながら、そういえばと口を開く。
「最近ここらで仕入先がわからないお化粧品とかありませんでしたか?」
仕えている商人から見つけたら買い取るよう命令されているのだと告げれば、「売る訳にも……と取っておいたんだがいいのかい?」と店主は店奥から持ってきた。
談笑するフルールの直ぐ側を、屋台を引いた『鉄帝うどん品評会2022『金賞』受賞』御子神・天狐(p3p009798)が歩いていった。
「うどんー、うどんはいらんかのー」
「お嬢ちゃん、よかったらうちの軒先で商売してくれていいよ」
時刻は昼時が近い。棒手振りのように往来で突然屋台を始める訳にはいかないから、うどんの屋台を開くには辺りの店の許可がいる。
今日はうどんの気分になったのであろう小間物屋の店主へ忝ないと応じ、小間物屋の入り口に被さらないように気をつけて店を開かせtもらうことにした。
「お、いい匂いだね。お嬢ちゃん、香露はあるかい?」
「香露じゃの」
道端では氷水でしめてザルには出来ないから、熱い麺に冷たい汁を掛けたぬるい香露うどん。
「うちの店にもくれないかい?」
狭い通り故、あちらこちらの店から声がかかり、大繁盛だ。
昼時を終えて再び屋台を引き出したら、店々を見て回る。
キラキラとした石の嵌った簪に、可憐な花が描かれた櫛。雨の憂鬱を払うためにもそういった小物に手を伸ばす客も多くおり、天狐もそれらに目を輝かせた。
「店主、掘り出し物はないかの。売り手に困っておるものでもよいぞ。ワシはそういったものに目がなくてのぅ」
インスピレーションを得られれば、天狐の料理に取り入れられる。
幾つか入手しながらも、恋梅そぉだも味わった。
「これも取り入れられるかの……しゅわしゅわしたうどん……んん、いけるかもしれぬ」
香露の際に炭酸は、爽快さが増して美味しくなりそうだ。
「ふたりはお化粧するの?」
小間物屋をともに巡っていたニルと睦月へ雨泽が声を掛けた。
「姉さんから神子化粧を施されたりはしていました」
「ニルもしてもらったことはあります」
けれどふたりとも、自分では……となると首を横へと振った。
「初心者にでも使いやすくて、僕に似合うようなものがあればいいのですが」
夫さん好みの化粧が似合う熟女になりたいのだと睦月がきりりと眉を上げれば、「……難しくない?」と素直に雨泽が首を傾げた。だってまだ睦月は未成年だ。化粧の似合う熟女より、自分に合った化粧方法を模索した方がいい。
「そういうものなのですか?」
「そういうものだよ」
顔を貸してと雨泽が言って、睦月は素直に目を閉じる。テスターとして置かれている試供品に店主へ断りを入れてから手を伸ばすと、薄紅を睦月の瞼と頬へと置いた。
「ほら、これだけで可愛い」
「わあ、ちょっとした工夫で、ずいぶんと変わるものですね」
「雨泽様、ニルにもお願いします」
「はーい。あ、店主。これこのまま買い取らせて」
「おや、いいんですか?」
どうしたんですかと覗き込むニルへ、ちらっと蓋を見せる。他の同じ商品にはない『印』がそこにあった。
そんな調子で次々と小間物屋を覗いていく。お化粧初心者のふたりに使いやすい筆等を教えながら回れば、触媒らしきもの以外もそれなりに買い込んだ。
「そろそろ噂の恋梅そぉだなるものをいただきませんか?」
睦月の提案に、ふたりは頷く。
しゅわしゅわの泡に、きらきらな金平糖。
いつまでも見ていたくなるのか、目をぱっちりとさせてニルは梅と見つめ合っている。
「ん、おいしいけど、実はすっぱい……。梅らしくていいですね」
早速口にした睦月は頬を押さえた。甘くて美味しくて、お土産にしたくなる。
「ねえ、これ、お土産にできないでしょうか」
「できるよ。帰る頃に買うといいよ」
「ニルもお土産にしたいです!」
睦月は海洋に、ニルは練達に、お土産を持って帰りたい人がいる。豊穣の食べ物は保存料等が使われていないからイレギュラーズ以外には持ち帰りは難しいが、空中神殿を経由できる彼等なら大丈夫だろう。
「雨泽様、恋は梅の味なのですか?」
「どうなんだろう?」
「ニルはみなさまのことがすきです。でもそれは恋とは違うのですよね?」
「そうだね。僕はニルが好きだけど、恋をしてはいないよ」
「……ニルにはよくわかりません」
「僕にもよくわからないや」
「雨泽様でもわからないこと、あるのですね」
「いっぱいあるよ」
恋も解らないし、どうすれば世界がよりよくなるのかも解らない。今はただ帳が降りないようにすることで精一杯だ。
「雨泽様は、恋をしていますか?」
「僕は……出来ないよ」
そぉだを口にした横顔はどこか物憂げで。
(いつか恋をしたのなら、その恋が素敵でありますように)
ニルは自身にも雨泽にも、他の人にも、そう願った。誰の元にも悲しみは降りず、みんな幸せであるといい。
「そういえば雨泽様、先日一緒に作ったランプ――」
ともだちに贈ったら喜んでもらえたのだと、ニルは夜が寂しくなくなったのだと報告を。
返る声もよかったねと明るくなって、ニルは雨粒みたいに言葉を跳ねさせた。
「おんし、丁度ええところに! わしらと一緒に回りましょう、の?」
「……馬に蹴られる趣味はないのだけれど」
「そうは言わず、の?」
ニルたちと別れた雨泽を見つけた支佐手は、ずずいと身を寄せた。圧が強い。
真賀根のような美しい貴人は複数名で『えすこおと』するのが当然だと支佐手が宣えば、それはそうだと雨泽も頷いた。何でも奢ってくれるらしい。し、今後もこれは『出し』にできそうだ。
「そぉだは飲んだ?」
幾つか小間物屋を回り、頑張って支佐手が真賀根に紅を進めた頃、雨泽が休憩しようと口にして。真賀根を床几に座らせると支佐手と雨泽は連れ立って買いに行った。
「宮様、どうぞ」
パチパチ弾ける炭酸水はとても涼しげで、梅は甘酸っぱくて爽やかだ。
「いつの間にか、梅の時期になっていたか」
「気に入って頂けたようで良かったです」
真賀根が頬を緩める。季節を感じ、穏やかに笑う。そんな柔らかな一時は昨年までは遠いものだった。
「ねえ支佐手、『我が妹子』じゃないの?」
「宮様、こちらの菓子も如何ですかの? どうやら雨泽殿はもう腹いっぱいのようですけえ」
「……君、きっと普段から真賀根殿に行動が幼いって思われてるよ」
檸檬の砂糖漬けを取り上げられた雨泽が口を尖らせる。何おうと小競り合いが始まるのを、真賀根はくすくすと笑って見守った。
「すまなかったな雨泽。支佐手が迷惑を掛けた」
「いえ、真賀根殿はお気になさらず。支佐手の事は友人だと思っているので、これくらい……」
「そうです宮様、雨泽殿のことは気にせんといてください」
「君は気にして」
そうかと笑む真賀根の表情は、雨泽から見ても保護者のそれに見える。
「支佐手も有難う。お前のお陰で、良い休息ができた」
「宮様。このような息抜きであればわしはいつでも……お、おおおおお逢瀬を」
まごつきだした気配に、雨泽はそっとその場を後にした。
(市中に広く出回る前にとめねば、だな)
フードを目深に被ったアーマデルは雨の中を行く。
「梅酒じゃない、だと?」
傍らの酒蔵の聖女に先刻恋梅そぉだを買い与えたのだが、不満が飛んできた。アーマデルは未成年で買えないのだから、我慢して欲しい。
「店主、この紅なのだが」
「うん? あれ、変な印があるね。すまないね、お客さん」
とある小物屋で件の触媒と思しき物を見つければ、気付いていなかった店主は下げるよと言ってきた。
「……他の店でもこういうことが増えているようだな」
「そうなんだよ、稀に増えてることもあって」
それは仕入れた覚えがないのにおまけのように入っていたり、勝手に誰かが置いていったり。そういうものはお客さんに何かあった時に困ると口にする店主は何も知らないようで、調査のために買い取っているとアーマデルが申し出れば無料で持っていっていいよと言ってくれた。
(これは……貝、か? これが刻印なのだろうか)
描かれているのはオウムガイの様に見えた。
あら劉さんと声が掛かった。
槐と話を弾ませていた雨泽が視線を向ければ、ひとつの傘に収まる『幻蒼海龍』十夜 縁(p3p000099)と『暁月夜』蜻蛉(p3p002599)の姿。
「……そんな目で見るんじゃねぇよ。充分『ちゃんとしたデート』になってるだろ?」
「色々見て回って、楽しませてもろうとります」
「そりゃァ何よりだねェ」
雨泽が口を開くよりも先に傍らの槐が口を開き、蜻蛉は笑顔を固定し、縁の眉間には深いシワが刻まれた。
「今雨泽の旦那と新色を試してるんだが、姐さんもどうだい?」
雨泽も笑みを固定したまま口を挟まない。彼がわざと声を掛けているのを知っているからだ。
「おおきに。でも今日はお断りさせてもらいます。縁さんと逢瀬やの」
ほな、また。
腕にかけた手で縁を促して、ふたりは槐から離れていく。
「……よかったのかい?」
「……ん? ええのよ」
お化粧の新色よりも、あなたの方が大事。
それにあの男は縁の反応を見たくて、わざと声を掛けてきたのだ。
「もしかして、妬いてくれはった?」
「妬……ッ!? ……いては、ねぇよ。この手のモンは、詳しいやつの目利きがあった方がいいんじゃねぇかと思ってだな――」
「そないに否定せんでも。こういう時は素直におなりなさいな、んふふ」
不機嫌に見える横顔が、こんなにも愛おしいなんて。
淡く朱の乗った頬は前方ばかりを見ているが、蜻蛉の胸は暖かだ。
出会った頃から、ふたりの間にも幾つもの違いが生じている。
左手の薬指の『証』がその最たるものだろう。
他にも、蜻蛉の化粧は薄くなり、ふたりの距離も近い。
「この風変わりな頬紅……これがええかしら。縁さんは、好き?」
「さてなぁ、俺は普段の嬢ちゃんがつけてるモンが好――……あぁいや、こいつなんていいと思うぜ」
ひとつの傘の中では必ず触れ合ってしまう上、傘を持つ縁の腕には蜻蛉の手が置かれている。ついそちらに意識がいってしまう縁だが、そんな気持ちがバレないようにとしっかりと答え――きれてはいなくて、くすくすと笑われた。
「ほんなら、これは?」
(どれも似合う)
それが百点満点の答えでないことも知っている。
だが其れ以上の答えが出てこなくて無口になってしまう縁を見て、彼をわざと困らせている蜻蛉はくすくすと笑った。
「結構買ったな」
「あら。もう降参です?」
軽口を返しても、荷物を持つ縁の手にはそれなりの量の小物たち。化粧品も簪も、どれも蜻蛉に似合うのだから仕方がない。
休憩しましょうかと買い求めに歩を向ければ、恋梅そぉだを手にまたぶらり。
「はい、縁さんにはこれ。甘くて美味しいの」
お口を開けてと、匙の上に乗った梅が告げている。
真一文字に口を引き結び、渋い顔で蜻蛉を見る。
にこり。
「早う開けて」
「わかった、わかった、降参だ……!」
「……甘いけど、酸っぱいんよ。まるで恋みたいやの」
渋々開いた口に、ころり。
転がり込んだ梅は冷たく、そして広がる甘酸っぱさ。
間近で見上げてくる蜻蛉の表情も甘く、そして悪戯猫のようで――。
「――……ああ、確かにこいつは『恋の味』だ」
ころころと喉を震わせて笑った蜻蛉が、そっと縁の肩へと頭を預けた。
傘の中、寄り添う影がまた、ひとつとなる。
酸いも甘いも乗り越えて、ようやっとひとつとなったのだ。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
ころころしゅわり。
よき一日となっておりますように。
つ【ご祝儀】
GMコメント
ごきげんよう、壱花です。
触媒を探しましょう。
●シナリオについて
豊穣の町中で小間物屋さん巡りをし、触媒を探しましょう。
お店や民を不安にさせないように、普通に買い物を楽しんでいる姿を心掛けてください。触媒らしきものは複数ばら撒かれているようなので、巡っていれば見つかります。特に難しい調査は必要ありません。買い物を楽しんでください。
基本的には誰かを指定していなければソロ行動になるかと思います。
●シチュエーション
時間帯は昼間、天候は小雨。
豊穣の大通りや、裏道など。大小様々な小間物屋。
ところどころで紫陽花を見かけることでしょう。
●触媒
それは紅や頬紅と言った、豊穣で扱われる化粧品の形をしています。
店主が仕入れた覚えのないもの、或いは他の同じ商品にはないのにコレだけ変な印が入っている……みたいなものです。
●恋梅そぉだ
梅シロップを炭酸で割ったソーダ水。可愛くカラフルな金平糖と甘い梅がころんと入っていて、匙で掬って食べれます。甘いのですが、梅は梅。果肉を頬張れば酸っぱいでしょう。
地図で星印を入れられた店で販売しています。軒下で床几に座って頂けます。
●同行NPC
劉・雨泽(p3n000218)が同行します。
お声掛けがあれば反応します。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
●EXプレイング
開放してあります。
文字数が欲しい、関係者さんと過ごしたい、等ありましたらどうぞ。
可能な範囲でお応えいたします。
●ご注意
公序良俗に反する事、他の人への迷惑&妨害行為、未成年の飲酒は厳禁です。年齢不明の方は自己申告でお願いします。
それでは楽しい、雨の一日を。
交流
誰かとだけ・ひとりっきりの描写等も可能です。
どの場合でも行動によってはモブNPCは出ることはあります。
【1】ソロ
ひとりでゆっくりのんびりと。
【2】ペアorグループ
ふたりっきりやお友達と。
【名前+ID】or【グループ名】をプレイング頭に。
一方通行の場合は適用されません。お忘れずに。
【3】マルチ
特定の同行者がおらず、絡めそうなプレイングであった場合、他参加者さんとご一緒することも。
同行している弊NPCは話しかけると反応します。
【4】NPCと交流
おすすめはしませんが、弊NPCとすごく交流したい方向け。
なるべくふたりきりの描写を心がけますが、それぞれの行動や他の方の行動によってはふたりきりが難しい場合もあります。
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