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シナリオ詳細

大剣の冒険者は死んだ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ローレットへの依頼者
 ローレットへは、様々ものが依頼に訪れる。
 例えば、幻想の村に住む農民たち。街道に現れた、害獣たちを追い払ってほしい、とか。
 例えば、高名な魔術師。術の触媒に使う怪物の翼が必要なので、討伐して持ってきてほしい、とか。
 例えば、幻想貴族から。政敵を見事に暗殺してほしい、とか。
 ローレットに所属するイレギュラーズ――つまりあなた達は、自らが活動することで、世界を救うための『パンドラ』を蒐集することか出来る。どんな些細なことでも、あなたが依頼をこなすことは、すなわち世界のためにつながる。
 それ故に、上述したように、様々な依頼者がローレットを訪れて依頼を持ってくるわけだ。そんな様々な依頼の裏をとったり、あなたたちに情報をもたらしたりする人たちのことを、情報屋、と呼んでいる。例えば彼女、ラーシア・フェリル(p3n000012)も、ローレットで情報屋として働いている一人で、今日もそんな、ローレットにもたらされた依頼の情報精査などを行っていた。地味な書類仕事だが、それでも重要な仕事だ。
「この人は――」
 と、ラーシアがつぶやいた。大量の書類を捌いていく中で、ふと見かけた、一人の男の名前。
「モーガン・ディテス。ローレットの所属ではないですけど、確か冒険者の方でしたね。それも、界隈ではそれなりに名の知れた」
 大剣のモーガン、と言われれば、あの冒険者の、と思うものもいたかもしれない。数年ほど前だったが、それなりに成果を残した冒険者で、とおり名の通り、巨大な大剣を武器とした、荒々しい戦士だった。
「その彼が、どうしてローレットに依頼を?」
 奇妙な話ではある。モーガンが噂通りの冒険者ならば、多少の問題など、自力で仲間を募って解決しただろう。では、何故そうしないのかといえば、それに値するだけの理由があるのだ。
「……ちょっと、連絡を取ってみましょうか」
 ふと、ラーシアはそんな気になった。この依頼書に記された仕事は、さほど難しいという仕事ではなかった。だから、そんな仕事を頼んだ彼について、興味がわいたのである――。

「俺は間抜けだったのさ」
 と、あなたたちイレギュラーズの前で、モーガンと名乗った男は言った。
 かつては筋骨隆々としていたであろう体の名残は見えるが、しかし衰えは確かに見えていた。そして、最も特徴的であったのは、己の右腕を欠損していたことだ。
「アンタらローレットのイレギュラーズに負けないってな、本気で思ってた。だから、俺達はパーティを組んで、アンタらがやるべきであるような、怪物退治の仕事を受けて――」
 自嘲気味に笑った。
「全滅したのさ。仲間は全員死んだ。当時結婚を約束してた女もいて、そいつも。で、俺はその怪物に右腕を食われちまって、それでも無様に逃げ出してきた」
 よくある冒険者の挫折である、と言われればそうだろう。だがそれでも、彼が自身と希望に満ち溢れて戦ったことは事実だった。それを愚かと笑うことはできまい。誰しも、紙一重なのだ。栄光と破滅の間は。
「俺たちの受けた仕事は、村を守ることだった……俺はそれを達成できなかったんだ。俺は仲間だけじゃなくて、クライアントも失った。トラウマ、っつうんだろうな。今でもいろんな夢を見る。モーガンさんなら大丈夫だよね、って慕ってくれた村のガキが、目の間で怪物に食われる夢。仲間たちが、お前もこっちにこいって手招きしている夢。本当に怪物に食われちまう夢……」
「モーガンさんは」
 ラーシアが言う。
「その。最後の戦いを、手伝ってほしい、とのことなのです」
「最後というと」
 あなたと同じ依頼を受けた、ローレットのイレギュラーズが尋ねる。
「その……冒険者としての引退、ですか?」
「ああ。まぁ、実質もう引退してるようなもんだったんだがな」
 苦笑する。
「あきらめがついた、っていうのかな。色々なことに……でも、けじめをつけたいんだ」
 そういって、わずかにくすぶる炎が、彼の瞳のうちに見えた気がした。
「俺がかつて戦って、敗北した怪物。そいつは、ケイオスガーゴイルだ。
 今のあんたらなら、笑っちまうだろう。何せ、アンタらは覇龍領域で竜と戦ってるってんだろ。そんなのに比べたら……なんて事のない、怪物なんだ。
 でも、俺はこいつを倒したい。倒して……終わりにしたい」
 そういって、力なく、笑う。
「あんたらへの依頼は、俺がケイオスガーゴイルと戦っている間、周りの取り巻きどもを抑えておいてほしいってもんだ。
 ケイオスガーゴイルの取り巻きどもは、石造りの化け物どもだ。
 ロック・ウルフ――石の狼。ストーン・ベア――石造りのヒグマ。笑っちまうかもしれねぇが、今の俺には、こいつらだって十分以上の強敵なんだ」
 確かに、ありふれた、と言っては何だが、オーソドックスな魔物たちの名を、彼は挙げた。無論、油断していい相手というわけではないが。
「この取り巻きどもを――そうだな、百秒(10ターン)、抑えてくれればいい。それで、なんにしても、ケリはつく」
 モーガンが、頷いた。
「たのむ。俺の最後の戦いを、完遂させてほしい」
 そう、言った。

 依頼を受諾したあなたたちが、モーガンの案内を受けてローレットの外に出ようとしたとき、
「もしかしたら、モーガンさんは死ぬつもりなのかもしれません」
 と、ラーシアが言った。
「……そんな気が、したんです。依頼自体は、魔物の足止めです。ですが……」
 ラーシアが、少しだけ、悲しそうな顔をして。
「可能であれば……モーガンさんの加勢をしてあげてください。つらいかもしれませんが、人は生きてこそ、だと思うんです」
 あなたは、頷いた。できる限りなら、命を救ってやりたいと、そう思った……のかもしれない。
 いずれにしても、賽は投げられた。
 大剣の冒険者の最後の戦いを、あなたたちは見届けるのだ。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 大剣の冒険者の、最後の戦い。

●成功条件
 モーガンが戦いを完遂する。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●状況
 ある冒険者が居ました。名を、モーガン。彼はあふれる自信のまま、仲間たちとともにとある村を守る仕事を受け、失敗し、モーガンを残し全滅しました。
 そのトラウマが癒えぬ中、それでもモーガンは『仇討ち』に向かうといいます。相手は、ケイオスガーゴイル。とはいえ、この相手はモーガンがしますので、皆さんの仕事は、彼がケイオスガーゴイルと戦う100秒(10ターン)の間、取り巻きであるロックウルフとストーンベアと戦っていればいいわけですが……。
 メタ的なことを言いますとモーガンは死ぬつもりです。100秒、戦った果てに、彼は相打ちとなり死に絶えるでしょう。
 それを、皆さんは良しとするのも良いですし、その破滅的な願いを否定し、助けてあげてもかまいません。
 もし助けるのであれば、しっかりとした戦術と、仲間と連携をとって、速やかに取り巻きの怪物たちを倒し、モーガンの援護に向かう必要があるでしょう。
 時間はあまり残されていません。いずれにしても、既に賽は投げられたのです……。
 作戦決行タイミングは昼。あたりは平原になっています。視界が悪いとか、足場が悪いといったことはなく、戦闘ペナルティのようなものは発生しないものとします。
 また、もしモーガンを助けに行く場合は、取り巻きを全滅させた後の移動時間などは考えないものとして構いません。制限ターン以内に取り巻きを倒せれば、そのまま望むならモーガンを助けに行くこともできます。

●エネミーデータ
 ロック・ウルフ ×5
  岩石に魔の生命が宿り、狼のような姿をとった魔物です。
  石造りの体は防御技術に優れます。とはいえ、小型の魔物なため、そこまでタフというわけでもありません。
  速度を重視したユニットになります。派手に戦場を動き回り、牙による攻撃などで『出血』系列のBSを付与し、こちらの体力を減らしてくるでしょう。
  タンク役の人がしっかり押さえ、攻撃役が各個撃破したり、或いは範囲攻撃などでまとめて薙ぎ払ってやるといいでしょう。

 ストーン・ベア ×1
  巨大な岩石に魔の生命が宿り、ヒグマのような姿をとった魔物です。
  ロック・ウルフと同様に防御技術に優れます。大型であるため、HPなども高く、非常にタフです。
  また、一撃が重く、殴りつけられれば吹っ飛ばされてしまったりもするでしょう。
  半面、速度面での性能は低く、容易に先手を取ることが可能なはずです。
  速度で翻弄するもよし、防無をもった攻撃で一気に削ってやるもよし、です。

 ケイオスガーゴイル ×1
  大型の魔物です。ガーゴイルは、石造りの悪魔のような姿をした怪物になります。
  取り巻きのボスということもあり、高い防御技術とHP、さらに神秘属性の遠距離攻撃なども行ってきます。
  バランスよく仲間たちの役割を決め、自分のなすべき役割をしっかりと果せれば、決して強敵というほどではありません。
  なお、この魔物とは、モーガンの加勢を行う場合に遭遇します。
  もしモーガンの戦いを見届けるならば、モーガンは決死と必死の覚悟で、この魔物と相打ちになるでしょう。

●味方NPC
 モーガン・ディテス
  今回の依頼主であり、皆さんが救うか、或いは最後の戦いを見届けるかするべき相手です。
  戦闘能力は皆さんより低いですが、今回は必死さと決死の覚悟で、ケイオスガーゴイルと相打ちになる運命です。
  もちろん、それを止めるのであれば、その運命も覆るでしょう。皆さんの選択と戦いにかかっています。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。

  • 大剣の冒険者は死んだ完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年07月16日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)
白き寓話
マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)
黒鎖の傭兵
オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
回言 世界(p3p007315)
狂言回し
シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)
天下無双の貴族騎士
グリゼルダ=ロッジェロ(p3p009285)
心に寄り添う
フィノアーシェ・M・ミラージュ(p3p010036)
彷徨いの巫
綾辻・愛奈(p3p010320)
綺羅星の守護者

リプレイ

●道行
「俺は」
 と、静かに――モーガンには聞こえぬように、『狂言回し』回言 世界(p3p007315)は声を上げた。
「俺はモーガンさんと知り合いってわけでもないから、まあ好きにしてくれとしか言えないな」
 そう言う。
 ――情報屋のことを思い起こしてみれば、なるほど、「モーガンは死ぬつもりかもしれない」という言葉は、正しいのかもしれなかった。
 纏う雰囲気が、なんとなく、それを思い起こさせるのだ。例えば、その『雰囲気』を敏感に感じ取っていたのは、『激唱乙女』綾辻・愛奈(p3p010320)である。
「もちろん、助けたい、と思うなら、その気持ちを無下にするつもりなんてない。あくまで、俺のスタンスの話だ。
 みんなが助けたいと思うのなら、俺は全力でサポートする。そうでなくても、受けた仕事はきっちりこなす。そういう事」
「僕も、モーガンがこの場で死を選ぼうと、関係ない――と考えている。あえて冷たい言い方をすると、だが」
 『最期の願いを』シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)が、続いた。
「だが、一つ言うなら、本当にモーガンが死ぬことを村の人々や仲間たちは願っているのか。それだけははっきりさせてモーガンに伝えたい。
 そのためにも、彼にはこの場で生きてもらわなくてはな」
「個人的には、冒険者としての最後を、仲間の仇討ちで終える、というのは綺麗なものだとおもう」
 『黒鎖の傭兵』マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)が、そう言った。
「もちろん、その最後が死で終わるのだとしたら、納得はできないが」
「結局は、皆さん」
 『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)が、言う。
「助けたい――という事で、良いですね?」
「構わないわ」
 『白き寓話』ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)が、優しく笑って言った。
「彼の想いと私たちの感情は別物だし、明言もされてないから。
 ちょっと彼にとっては願いと少しずれるかもしれないけれど。みんなで帰りましょうか。
 みんなもほら、そんな顔、してるものね?」
 そういってくすりと笑うヴァイスへ、愛奈が、ふぅ、と息を吐いた。
「ええ、構いませんよ――どうも、力が入っていけない」
 そう、手を軽く振った。
「私情か?」
 マカライトが尋ねるのへ、愛奈が苦笑する。
「ええ、まぁ。ですが、それに入れ込むことはない――とは言えません。ちょっと自信ないですね」
「それだけ、大切な思いなのだろう」
 ふむ、と『心に寄り添う』グリゼルダ=ロッジェロ(p3p009285)が、頷いた。
「あなたとは違うが、私にもモーガン殿には言いたいことがある。それを私情というのならば私情なのだろう。
 いずれにしても、想いはいずこにあれど、目指す結末は同じ、とみた。ならば私たちが目指すその結末に、いかにして至れるか、が重要だな」
「我もそれで問題はないぞ」
 『彷徨いの巫』フィノアーシェ・M・ミラージュ(p3p010036)が頷く。
「モーガンの気持ちは分からんでもないが。それでも、皆の意思に背くことはしない。
 では、グリゼルダの言う通り、どうすればいいかを考えようか。
 我らのひとまずの敵は、取り巻きの岩石モンスターどもだ」
「本来なら、事が済むまで引き付ければいいんだが」
 世界が言う。
「目的を果たすなら、速やかに片づけないとならないな」
「電撃戦か」
 グリゼルダが、ふむ、と唸る。そんな一行に、依頼主であるモーガンが声をかけてきた。
「作戦会議かい?」
「ああ」
 フィノアーシェが頷く。
「どう動かくか、とな」
「ああ、別に文句があるとかじゃなくてな。なんだか懐かしくなっちまった。俺達もパーティで、良く喧々諤々したもんさ。
 時に、意見の違いでケンカをすることもあったが――ま、しばらくしたら、一緒に飯を食ってたもんだ」
「よい友人たちだったのだな」
 シューヴェルトがそういうのへ、モーガンがうなづいた。
「ああ……そうだな、良い奴らだった。俺があの時逃げ出せたのも、俺の実力というより、あいつらが時間を稼いでくれたからってのが大きい。
 ……その時間も、俺は無駄に使っちまった。せめてガキの一人でも連れて逃げられればな……」
「あまり気になさらないで。気休めだけれど」
 ヴァイスがそういうのへ、モーガンが力なく笑った。
「ま、そう言うのも今日で仕舞だ。あいつらに恥ずかしくないように、やることは全部終わらせたい。
 改めて、頼むぜ、英雄さんたち」
 すこしだけかなしげに笑うモーガンに、イレギュラーズたちはうなづいた。
「……やはり、か」
 モーガンに聞こえぬように、マカライトが小さくつぶやく。なるほど、確かに、そこにはすべてを終わらせたいと願う、そう言う思いがにじみ出ているように感じていた。

●岩石の怪物たち
 一行がたどり着いたのは、モーガンが敗北した、幻想の小さな村だ。すでに住人たちの姿はなく、廃墟と化している。
「この先の草原に」
 モーガンが言った。
「奴らの巣がある。
 俺はケイオスガーゴイルを相手するから、その間の、取り巻きどもの相手を頼みたい」
「ああ」
 マカライトが頷く。モーガンが、ゆっくりと足を踏み出した。そのタイミングで、
「ああ、そうだ」
 と、マカライトが声を上げた。
「モーガン。戦いが終わったら、どうしたい?」
 ぎくり、というように、モーガンが反応した。ゆっくりと振り返る。
「どう、とは?」
「いや……今後の展望というかな。
 冒険者を引退して――何をしよう、とかだ。
 片腕なのはハンデだが、練達に行けば高性能な義手もあるだろうし、魔術的に補う手段もあるだろう。
 いろいろと、やれるはずだ。くすぶっていた時間を取り戻すようにな」
「そうだな。考えたこともなかった」
 そう、悲しげに笑って、モーガンはもう一度前を見た。今度は振り返らない。マカライトは目を細めた。
「そうか。考えておくといい」
 そうとだけ告げて、マカライトはモーガンを見送る。
「他に言葉をかけることもないでしょう。今は」
 オリーブが言った。
「剣で。こちらの意思を証明しましょう」
 その言葉に、仲間たちはうなづいた。
 敵の『巣』までは、さほど時間はかからなかった。ケイオスガーゴイルの潜む巣は、巨大な石柱の上だった。そこには、まさに一体のガーゴイル像が場違いなように立っていたが、足元に転がっている『動物』の骨を観れば、あれが恐ろしい怪物であることに即座に気付いただろう。
「よう。まだ待ってたか」
 モーガンが、そう言って、ゆっくりと大剣を構えた。すると、同時に、あたりの地面が隆起して、都合六体の石造りの怪物たちが現れる。
「頼むぜ!」
 モーガンが叫び、ケイオスガーゴイルへととびかかる一方、現れた石造りの狼とか熊のような怪物が、威嚇するように吠え、モーガンを狙う――いや。
「まずは予定通り! 奴らを引きはがすぞ!」
 真っ先に飛び込んだのは、グリゼルダだ! グリゼルダの反応速度に、この戦場にてついてこれるものなどは存在しない! グリゼルダは『鈍ら』を振り上げると、石造りの熊に勢いよく切りかかった!
「図体ばかりでかくて動きは愚鈍だな!」
 挑発の言葉とともに斬撃をお見舞いする。ぐあ、と雄たけびを上げた石造りの熊が、その岩石の剛腕をグリゼルダへ叩きつけんと振り下ろす。グリゼルダは跳躍してそれを回避すると、
「狼どもを頼む!」
 叫ぶのへ、シューヴェルトが続いた。
「空間を絶つ――」
 ふっ、という呼気とともに、『魔応』の刃が空を切った。刹那、その斬撃は文字通りに『空』を切り、その『空』ごと岩石狼を断裂する!
「!?」
 空間ごと切り裂かれた、という事態に、岩石狼の知能は追いつかなかった。なぜ自分が断裂されたのかもわからぬまま、その体を土塊に返していく。
「予定通り、だ! 速やかに『撃破』する!」
 シューヴェルトの宣言に、仲間たちはうなづいた。そう、これは『時間稼ぎ』ではない。『撃破』だ!
「了解だ。ならば、力を尽くす」
 世界はそう答えて、ぱちん、と指先を鳴らした。同時、生み出された呪塊の刃は、岩石狼たちへ驟雨のごとく降り注ぐ。その刃が、傷をつけることはない。だが、内に込められた呪いは、まるで水しぶきが飛ぶように、岩石狼の体の内で炸裂した!
「!? が、ギギ!?」
 体の異常に、岩石狼たちが身震いをする世界の込めた呪詛の刃が、岩石狼たちの内を蝕み始めたのだ。
「悪いな、邪魔はさせない――ま、そもそもこの件のトリガーをひいたのはどう考えてもお前たちだ。
 数年越しの、お天道様の断罪って奴だろう。諦めてくれ」
 ぎあ、ぎあ、と岩石狼たちが悲鳴を上げるも、しかし断末魔のようにイレギュラーズたちへと襲い掛かった。鋭い牙はイレギュラーズたちの体を傷つけ、その体から血をほとばしらせる。
「ちっ……だが!」
 マカライトがその武器を振るう。空から飛来するは、雪崩のごとき飽和射撃。生み出された魔力の弾丸が、岩石狼たちを上空から次々と打ち据えた。がん、がん、という硬い音を立てて、岩石狼たちの体が次々と崩れていくのがわかる。
「このまま押しとおす。熊の方を」
 マカライトが再度崩落魔弾を打ち込むのへ、一方岩石熊と戦っていたグリゼルダが、その斬撃を岩石熊へと叩きこんだ!
「邪魔だ!」
 斬! 振り下ろされた刃が、岩石熊の巨岩のような腕を切り砕いた。がああ! 悲鳴を上げる熊が、それでもタックルを狙う。グリゼルダがとっさにガードし、それを受け止めつつも吹っ飛ばされるのへ、
「とどめを頼む!」
 叫ぶグリゼルダの言葉にうなづくように、白い影が戦場を走った。ヴァイス。手にした儀式短剣を、一足飛びに接敵して、最も脆い場所へと叩きつける!
「ちょっと、眠っていて頂戴ね」
 たんっ、と音は軽く。しかし、そこから全身にひびの入った岩石熊が、悲鳴とともに崩れ落ちた。がしゃん、とその体を千々に砕き、地に落下する。
「行きましょう、息を整えている時間も惜しいわ」
 ヴァイスが言った。
 ここまでは、前哨戦だ。そのように、イレギュラーズたち自身が決めた。
 ここからが、彼らの望んだ戦場になる。

●自分の望んだ結末
 本当のことを言えば、死ぬつもりだった。
 そのために、変な話だが、可能な限り体を戻した。もちろん全盛期までとは言わないが、何とか、剣を振るえるようにまでは。
 あとは、気合だけだった。何せこっちは死んでもいい。死んでもいいのだ。だから、すべてをかけて戦うことができる。
 命を懸け、命を乗せ。あの時できなかったことをやるだけだった。そうしたらようやく、皆に向き合えるような気がした。その時初めて、恨み言も、何もかもを、すべて、受け入れられるような気がした。
 そうだな、すまなかった、と思った。俺だけが生き残って、無様に生き残っているなんて、許せないよな。
 だからもうすぐ、俺は地獄に落ちようと。そう思っていた。
 のに。俺の目の前に立つ、こいつらは――!
「どう、して」
 そう、モーガンは喘ぐように言った。傷だらけの体は、倒れる寸前であったけれども。それでも、それでも、イレギュラーズたちは間に合った。
「どうしてといわれれば」
 愛奈が言う。
「これはひどく個人的な感情なんです。
 貴方を見てると、ウチの隊長を見てるようなんですよ、モーガンさん。
 無責任に突撃して、失敗して、この世の終わりみたいな顔して死にに行こうとしてる。
 貴方のやりたいようにやらせてあげたいですが、命を捨てるならノー、です。
 でないと、私の彼への気持ちが嘘になるじゃないですか。
 だからこれは、私のわがままです。酷い女に、依頼してしまいましたね。みるめ、無いですよ」
 そう言って、笑った。
 そう言って、愛奈はモーガンの前に立ち。ルーンの防御壁で、その一撃を受け止めて。
「私は、助けます。貴方を。私の、わがままで。そうでしょう!?」
 叫ぶ――同時に、ルーンの防御壁を、打ち払った。ケイオスガーゴイルが体勢を崩す――そこへ、振るわれたのは、何の変哲もないロングソードだ。
「ケイオスガーゴイルもまた硬い相手ですね。帰ったら剣を買い替えないと」
 ふ、と、剣を振るった。かけた剣先が、餅の巣の姿を映す。オリーブ。彼もまた冒険者なれば。
「文句は受け付けません。自分がそうすると決めたから、そうするのです。
 それでも文句を言いたいのなら、戦いの後で聞きますよ」
 たんっ、と、オリーブは深く踏み込んだ。横なぎに振るった斬撃が、モーガンの攻撃によってひびの入った体に、さらに深いそれを生み出す。
「いったん、息を整えてください。すぐに、渡します」
 オリーブがそう言って、ケイオスガーゴイルを押し込んだ。間髪入れず、世界の回復術式が、モーガンの傷をふさいだ。
「馬鹿か」
 モーガンが言う。
「馬鹿か、アンタらは! それで無茶をして、アンタらだって、傷だらけじゃあないか!」
 そういう。確かに、イレギュラーズたちは、取り巻きの突破に少々無茶をした。それ故に、損害は大きい。
 それでも、踏み込もうと決めた。手にしようと決めた。
 ならば、踏み込むまでだ。
「モーガン。貴様はまだ……死にたいか?」
 フィノアーシェが、そう尋ねた。
「正直、最初から分かっていたよ。あの、情報屋の娘ですらわかるほどに、貴様は、わかりやすかった。
 そのうえで依頼を受けて、我らはこの道を選んだ。
 貴様と、同じだ。選んだ。それが、貴様と衝突することになっても、だ。
 正直、死に場所を求める貴様の気持ちはわかる。
 それでも――生きてこそ、と、あの情報屋は言っていたぞ」
 ふ、と、フィノアーシェは笑った。
「どうする? 我は『手伝う』ぞ。依頼通りにな」
 そういうのへ、モーガンは、一瞬、目を丸くしてから、笑った。
「英雄ってのには、敵わねぇなぁ」
 そう言って、立ち上がる。
「手伝ってくれよ。かたき討ちだ。帰ったらいっぱい奢らせてくれ」
「承知した」
 フィノアーシェが、頷いた。駆ける。刹那に接敵。振るう神刀。
「その硬い外皮、砕かせてもらう!」
 振り下ろされた刃が、ケイオスガーゴイルの体を砕いた。それが、モーガンの、そしてイレギュラーズたちの、想いの蓄積による、崩壊だった。
「タルタロス、足を止めろ!」
 マカライトが叫んだ。同時、鎖の陣の内より、巨大な拳が現れ、ケイオスガーゴイルを殴りつける! ずおう! 強烈な風と、圧! そして直撃の撃が、ケイオスガーゴイルを地面に叩きつけた。
「やってちょうだい?」
 ヴァイスがほほ笑んだ。
「皆で帰りましょう」
 モーガンが、立ち上がった。その剣を、掲げ、飛び込む。
「終わりだ――ずっと、ずっと、終わらせたかった」
 泣くようにそう言って。
 その刃を、ケイオスガーゴイルの中心に叩きつけた。
 がぐん、と。石がわれる音がする。
 そのまま、がらがらと、ケイオスガーゴイルの体が、崩れていった――。

●鎮魂
 そのまま、イレギュラーズたちはモーガンとともに廃墟となった村まで戻ってきていた。
「墓って言う墓もねぇんだ」
 と、モーガンは言う。
「結局、ここは亡んじまって。モンスターも近くにいるから、近寄るに近寄れなくて。だから、ここが墓標っつったら、墓標なんだ」
「それは」
 フィノアーシェが頷き、
「ならば、ここに墓を作ることが、貴様がやるべき最初の事だろうな。
 手伝おう。そして、我もまた、手を合わせたい」
「そうね。きっと、それがいいと思うわ」
 ヴァイスもまた、ほほ笑んだ。
「この地にとどまっていたものたちは」
 シューヴェルトが言う。
「なにも、君たちを恨んでなどいなかった。もちろん、死を嘆く声はあったが、それは君たちへの恨みでも、呼ぶ声でもなかった。
 ……信じるかどうかは、君に任せる」
「そうか……ありがとよ……」
 モーガンがうなづいた。
「まぁ、なんだ。もし、どうして助けた、なんて殴りかかってきたら、言ってやろうと思っていたんだが」
 マカライトが言う。
「因縁を終わらせる事でつけるのには文句はない。
 だが、己の死と共に果たすのはお門違いだ。報いですらなく、死んだ仲間への侮辱他ならん。そう思う。
 無様に逃げ出した事に後悔が、罪があると言うなら生きろ。苦しんで最後まで生き抜いて、最後に笑って死ね。
 ……それが、本当に仲間たちに報いることだと、そう思う」
「ああ、今なら、なんとなくわかるよ。アンタのいう事も」
 そう言って、モーガンが頷いた。
「何もわかってなかったんだな……ここに至るまで。だから、俺はあんたたちみたいにはなれなかったのかもしれねぇ」
「ま。落ち込むとそういうものだろう」
 そう言って、世界が肩をすくめた。
「モーガン殿。私からは」
 グリゼルダが、柔らかく笑った。
「思い出を、語ってほしい。貴殿と、仲間たちの」
「そうですね。いっぱい奢ってもらうという約束でした。
 ついでに、教えてもらうとしましょう」
 オリーブが頷く。
「死んだらそれまでですが、生きてたらまた人生変わってきますよ。
 一度死んだ私が言うんです。保証します」
 ふ、と、愛奈が笑った。
 モーガンも、笑った。

 大剣の冒険者は死んで。
 一人のただの男が生まれた。
 これは、そう言う話。

成否

成功

MVP

綾辻・愛奈(p3p010320)
綺羅星の守護者

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 男はまた、新しい人生を歩み出すのです。

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