シナリオ詳細
一夜の夢と現の狭間。或いは、bar“wild Chicken”…。
オープニング
●月に盃
深夜0時の鐘の鳴る頃。
ラサの砂漠に、見慣れぬテントが現れた。
「な……なんだァ、こりゃ?」
馬車の荷台から身を乗り出して、クウハ (p3p010695)が目を丸くする。
見上げるほどの大きなテントだ。天幕は目に痛いほどの赤。夜闇の中でもよく目立つ。
「今の今までなかったわよ、こんなの……わたしが狐か狸にでも化かされてるんじゃなければね」
馬車の手綱を握っていたのはレイリー=シュタイン (p3p007270)だ。
ついさっきまで、たしかにこんなテントはそこに無かったはずだ。だが、今はある。まるで蜃気楼か何かのように、突如としてそこに現れたのだ。
「任務には関係のない事象だ。気づかなかったふりをして立ち去ってもいいと思うが?」
「無理じゃろ……こんなもの見てしまったら、放置しておけん」
皇 刺幻 (p3p007840)と夢野 幸潮 (p3p010573)は、馬車の荷台から砂漠へ降りた。それぞれ得物に手を伸ばし、周囲の様子を窺っている。
砂漠の真ん中。
時刻は深夜。
見慣れぬ現象に巻き込まれたのだから、警戒するのも当然と言うもの。
「……何も起こらないね。突然、現れたっていうのを無視すれば、ただのテントのように見えるけど」
そう呟いて、板谷 辰太郎 (p3p010606)は顎に手を触れ思案する。
突然、そこに現れるテントが“ただのテント”であるはずは無いのだが、そうは言ってもみたところ不審な点が見当たらないのも事実。
「テントはただのテントですけど……これは、空間の方がおかしくなっているような」
おずおずとした様子で、フルール プリュニエ (p3p002501)が天とを見やる。
テントの向こうに見えている夜空だが、先ほどまでとは星の位置が違って見えた。
「ってことは、どっちみち無視できないよね。絶対これ、怪しいもん」
フォルトゥナリア・ヴェルーリア (p3p009512)はため息を零した。
回避不能の砂漠の怪奇現象だ。
取り込まれてしまった以上、関わるほかに道は無い。
●砂漠の酒場
テントの中は明るかった。
高い位置にシャンデリアが吊るされているからだ。
ずらりと不規則に並ぶ丸テーブル。中央には円形のバーカウンター。
カウンターには所せましと酒やミネラルウォーター、ジュースの瓶が並んでいる。
「酒場……のようね」
周囲の様子を見まわして、レイリーはそう呟いた。
空気に混じる酒精の気配。
だが、酒場はしんと静まっている。人の姿は、イレギュラーズの一行以外に見当たらない。
と、その時だ。
コトン、と背後で音がした。
「え……入口が」
背後を見やったフォルトゥナリアが目を丸くする。
さっきまでそこにあったはずの出入り口が、いつの間にか消えていたのだ。
代わりに、そこには1羽の鶏が立っていた。
否、1人の鶏というべきか。
鶏を模した被り物で頭部を包んだ小柄な女性だ。衣服からすると、彼女はバーテンダーなのだろうか。
「ようこそ、bar“wild Chicken”へ」
しゃがれた声で彼女は言った。
よくよく見れば、鶏の被り物は継ぎ接ぎだらけ。どうにも気味の悪い風貌をしている。
「このテキーラはサービスですので、まず飲んで落ち着いてください」
そう言って鶏頭の女性は、近くにあったショットグラスにテキーラを並々と注いでいく。もちろん、未成年や酒が飲めない者たちには、テキーラに風味を寄せたノンアルコールのジュースである。
「“また”変なことに巻き込まれたと思っていますね。すみません。謝って許してもらおうとも思っていませんよ」
くっくと嗤う。
笑ったのだと思う。
その声は引き攣っていたが、楽しそうな気配だけは伝わって来た。
「でも、こういう事態に巻き込まれることに皆さんは“ときめき”みたいなものを感じているのではないですか? 殺伐とした世の中ですからね。そういう気持ちを忘れないでほしいと思います」
一行が口を挟む間も無く、女性は淡々と言葉を紡ぐ。
「せっかく来たんですから、楽しみましょう? ねぇ? 所詮、これは一夜の夢です。夢の中でならいくら騒いだって誰の迷惑にもなりません」
全員にウェルカムドリンクを配ると、鶏頭の女性はカウンターの方へと向かった。
「飲んで、騒いで、酔って、潰れて……そうして朝が来たのなら、私が起こしてあげますよ。ご覧の通り、鶏ですから。モーニングコールは得意なんです」
つまり、酔いつぶれるまで飲んで、騒げ、と彼女は言っているのだろう。
「ここの飲み物は全部、酔えますよ。バーボン、テキーラ、ジン、ウォッカ、シェリー酒にラム、ベルモット、キャンティ、コルン、ジンジャーエールにオレンジジュース……何でもあります」
手際よく、カウンターに幾つものグラスを並べていく。
ピカピカに磨かれたグラスには、イレギュラーズたちの顔が映っている。
「私の名前は“WildChicken”。いごお見知りおきを……では、注文をお伺いしましょう」
- 一夜の夢と現の狭間。或いは、bar“wild Chicken”…。完了
- GM名病み月
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2023年07月12日 22時05分
- 参加人数7/7人
- 相談8日
- 参加費150RC
参加者 : 7 人
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参加者一覧(7人)
リプレイ
●酒は飲んでも飲まれるな
「ネタが!!!」
テキーラを喉に流し込み、『敗れた幻想の担い手』夢野 幸潮(p3p010573)が天井へ向けて声を張り上げた。
「古い!!!」
そこはbar“wild Chicken”。
砂漠の真ん中で発見された、不可思議なテントの中にある、奇々怪々な酒場である。
「どうされました? 釣り針にかかった( ´∀`)のような顔をして?」
「絶対知ってるやん! 令和やぞ!!!
心配そうな声音でもって、幸潮の傍に近づいたのは奇妙な出で立ちのバーテンダー。頭に被るは、継ぎ接ぎだらけの鶏の被り物である。
「どうしたの、幸潮? もう酔ってるの? れいわってなに?」
何故か憤る幸潮を案じたのは、何もバーテンダーだけではない。彼女……『ヴァイスドラッヘ』レイリー=シュタイン(p3p007270)も幸潮を気に掛ける者の1人だ。
片手に豊穣酒の瓶、もう片手には1組の赤い盃を持って幸潮の肩に手を回す。
「楽しむなら美味しいお酒にしたいし……幸潮、ちょっと付き合ってよ!」
「っはぁ〜……ままええわ。この混沌にあのchが存在しているかは謎だからな、何かしら外世界からの電波を受信して出来上がったんだろう……うん」
「何を受信したの? 大丈夫? お水飲む?」
なお、bar“wild Chicken”においては水でも酔える。
楽し気なレイリーの声が酒場に響いた。
「いえーい、カンパーイ!」
レイリーと幸潮を一瞥し、『あいいろのおもい』クウハ(p3p010695)は口の中で舌を転がす。
少しの間、思案して何かに納得したのだろう。
うん、と大きく頷くと手にしたグラスを頭上へ掲げた。
「タダ酒にタダ飯とくりゃ、飲んで食って騒ぐもんだよな!」
それから、ふわりと浮き上がるとカウンター席の『六天回帰』皇 刺幻(p3p007840)に跳びついた。後ろから首に手を回し、刺幻の顔の前にビールのグラスを突き付けた。
「つーわけで刺幻! まさか天下の魔王サマが酒に弱いなんて事はねェよな? どっちが飲めるか勝負しようぜ!」
開幕から暫く時間も経った。
刺幻もいい塩梅に酔っているものと思ったのだ。
だが、そうではなかった。
「あぁ? いいぜ、やってやるぉぉろろおお」
「ぬぉォ!?」
刺幻の顔は真っ白だった。
振り返ると同時に、胃の中身をちょっと吐き零したのを目撃し、クウハは脱兎のごとく後ろへと跳んだ。
騒がしい夜だ。
カウンター席に腰かけて、『夢語る李花』フルール プリュニエ(p3p002501)はテーブルの上に肘をつく。
ずらりと並んだ酒瓶を眺め、フルールはくすりと微笑んだ。
「わぁ、不思議な場所ですね。たくさんお酒が並んでいるようだけど、勿論普通のジュースはありますよね?」
フルールは未成年である。
なので、酒を飲むことは出来ない。
出来ないが、それでも酔えるのだ。どういう秘術によるものか、bar“wild Chicken”においては全ての飲料で“酔える”。そもそもの話、人と言うのは“雰囲気”でも酔える。
「もちろん、ノンアルコールのドリンクも各種取り揃えております」
慇懃に礼をし、バーテンダーは棚の一角を指し示す。
ずらり、と幾つもの瓶が並んだその一角がソフトドリンクの置き場なのだろう。
「ジュースください。すもものさっぱりしたやつが良いのですが?」
「えぇ、もちろんございます。ですが、お客様」
すい、とバーテンダーはフルールの手元を指してこう言った。
「既にお手元に、飲みかけのものがございますが?」
「はぇ?」
どうやら少し、ふわふわしているようである。
テントの端のテーブル席には『挫けぬ笑顔』フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)と『“蠅”を拒み“蛆”であり続ける』板谷 辰太郎(p3p010606)の姿がある。
「実はちゃんとした場でお酒飲むの初めてなんだよね」
フォルトゥナリアが手にしているのは、米を原材料とした酒だ。
ふわりと香る酒精を楽しみ、ちびりと唇を湿らせる。
甘く、とろけるような味わいに、フォルトゥナリアの頬が自然と綻んだ。
一方、辰太郎はと言うとどんより濁った瞳をしている。飲んでいるのは蒸留酒。それも度数が40を超える強い酒だ。
度数が40を超えてくると、アルコールはそう簡単には凍らない。
少しとろみがつく程度だ。
「それ、強いお酒だよね。平気なの?」
「えぇ、まぁ……故郷で家で飲むときは40%くらいのウォッカでよくやってたので」
そう言うわりに、辰太郎の目元は赤い。
ペースはゆっくりとしたものだが、飲み続けていれば当然に酒は回るのだ。
「うぅん……」
少し悩んで、フォルトゥナリアは結界を展開。
無意識下での破壊がこれで無効になった。辰太郎が酔って暴れる性質のようにも思わないが、何しろ酔っ払いなので、何を仕出かすかは不明なのである。
傍若無人……という言葉もある。
フォルトゥナリアの心遣いが、無意味であるとは思えない。
●酔っ払いだからって何しても許されるわけじゃない
フォルトゥナリアはテーブルの上に、幾つもの串を刺して並べた。
串のうち1つには、オリーブの酢漬けが刺さっている。
「爆弾を埋めたところを敵に踏ませることで、棒の下全部に爆弾が埋まってるように思わせたのは今思い出しても良い作戦だったよ」
どうやら、串は旗を、テーブルは大地を、オリーブは爆弾を現しているらしい。
それは、かつてとある任務で実施した戦略だ。“良い作戦”とフォルトゥナリアが言うだけあって、かなりの戦果をあげただろう。
フォルトゥナリアの話を聞くのは、レイリーと幸潮の2人だ。
レイリーは黙って、フォルトゥナリアの前に羊の串焼きとエスカルゴを差し出したし、幸潮は豊穣の酒を、空の杯にとくと注いだ。
杯を手に取り、澄んだ酒精をぐいと口に流し込む。
「豊穣の米のお酒は良いね! 喉越し良くて、それでいて喉の奥がカッと熱くなって、気分も良くなってくる!」
熱くなった喉に手を触れ、フォルトゥナリアはくっくと笑った。
それから酒に潤んだ瞳でレイリーを見やる。
「ねぇ、何か話してほしいな。心の中の宝物を聞きたいんだ」
レイリーとフォルトゥナリアは、両者ともに“盾役”だ。互いの話は、参考になることも多いのだろう。
もっとも、今日という日の会話を酔いが覚めた後も覚えているかは不明だが。
絡み酒というものがある。
その名の通り、酒によって人に絡む様子を指す言葉だ。なお、絡み方には幾つもの種類があり、例えば説教、例えば不条理な怒り、例えば愚痴など様々である。
辰太郎がそれだった。
「まだ俺が小学一年生の頃のことだけどさ、クラスの奴らと対戦格闘ゲームを遊んでたんだ。字の読み書きもまだ覚束ないもんだから説明書なんて読まない、読んでも理解できない。だからみんなコントローラーをメチャクチャに操作してさ、テクニックとか駆け引きなんてものは存在しない状態さ」
語るのは、今は遠い昔の話。
幼いころの、セピア色の記憶の一端。
それを聞くのは、バーテンダーだ。グラスを磨き上げながら、辰太郎の話に耳を傾けている。
「そんな中で、コマンド入力で技が出ることに俺だけが気づいちゃったんだよね。で、安定して技を出す俺の動きを見て“どうやるのか教えろ”って言ってきて、俺も素直に教えたけどさぁ……誰も俺と同じようにできるようにはならなかった」
コマンド入力と言うのは高等技能だ。
簡単に入力できるようなら、誰だって苦労していないし、私だってもっと格闘ゲームが好きになっていたことだろう。未だに狙ったタイミングでエキサイティングな骨折を繰り出せない。何か知らんが別の技が出る。一事が万事“なにがでるかな?”状態なのである。
きっと、上手くボタンが押せていないのだろう。
「そりゃできるようにならなくて当然だよなぁ。それでウソツキ呼ばわりされて喧嘩になって、あとは仲間外れさ。無能はいつだって、数の暴力で自分たちより優れた奴を排除する」
幼い頃に、辰太郎はそれを知った。
世界の真理を理解した。
「まったく、クソな話だよ」
俯き気味に語る言葉を、バーテンダーはただ黙って聞いていた。
辰太郎が、静かに酒を飲んでいるのとは対称的に、バカ騒ぎしている者たちもいる。
「ほら、皆さんもっと飲んで? 私が飲ませてあげましょうか? 大丈夫、これは水です。たぶん! 黄金ではないです!」
まず1人目はフルールだ。
空いたグラスに水……という名のスピリタスを並々と注ぎ、それを刺幻の前に置く。
なお、フルールが飲んでいるのは黄金色のパインジュースだ。たぶん。
「ダメだ、頭いてえし眠気が覚めて目がまわぅぉぇぇ……」
促されるままに刺幻はグラスを手に取ると、強い酒精を喉の奥へと流し込む。目はとろんとしているし、頭は左右に揺れている。
「口から飲めなくなったんなら、そん時ゃケツから飲ませてやる。しっかりついてこいよ、魔王サマ?」
「あえぇぇ……? クウハが5人で腹踊りしてる……?」
「してねェっつー!!」
前後不覚も極まっている刺幻を指さし、クウハは腹を抱えて笑った。
「皆さん、見事に飲んだくれてますね。私も何だか酔ってきたような? でもいつも通り夢に酔ってますもんね!」
つられてか、それとも雰囲気に酔っているのか。
2人を指さし、フルールも笑う。
今日は誰もが上機嫌。夢心地の酔いの席。
クウハは2つのグラスに酒を注ぎ入れ、片方を自分が、もう片方を刺幻に持たせた。
グラスを掲げ、打ち鳴らす。
「わーっはははは!」
何がそんなに愉快なのか。
グラスの中身を2人は同時に飲み干して、叩きつけるようにテーブルへと置いた。
「麦茶だこれェ!」
「は、ははは! はぁ……ダメだあちぃ、クーラーもついてれぇろかぁ??? おらぁとりぃへやひやへぇ〜〜〜〜」
麦茶(酔う)がトドメとなったのだろう。
ついに刺幻がテーブルに沈んだ。目がぐるぐると回っている。
「うーん、死屍累々……可愛く“しし☆るいるい♪”って感じかしら?」
刺幻の頬を突いた。
呻くばかりで、意味のある言葉は返って来ない。
「んー……酔い覚ましにいい料理でも頼んどいてやろう。海鮮類にサラダ、フルーツ、チョコレートがいい筈だ」
すっかり酔いが回っているのは、何も刺幻だけではない。
1人で静かに酒を楽しむ辰太郎も、サイリウムを振り回しているフォルトゥナリアも、2人の世界に入り込んでいるレイリーと幸潮も、誰もが酔っぱらっていた。
心得たもので、クウハが料理を頼むより先に、バーテンダーは幾つかの小皿を用意していた。それを各人の前へそっと差し出して、音もなくカウンターに戻っていくその所作は、なるほど彼女が“プロフェッショナル”であることを、理解せずにはいられないほど洗練されたものである。
「そのワインが美味しそうでいいわね。私も一杯もらっていいかしら」
レイリーが指差したのは、幸潮が飲んでいる赤ワインだ。“アテ”として用意したガーリックトーストを齧りながら、幸潮はワインボトルを手に取る。
グラスに注がれたワインを唇に寄せ、レイリーは幸潮の方へ流し目を送った。
「どうかしら? 少しは気品というものが出てる?」
「さぁて、どうだか」
「つまらないわね。ねぇ、幸潮も酔えてるかしら?」
つれない返事が不満らしい。
レイリーは席を立つと、幸潮の隣に移動した。
「酔いどれの我は如何なるか我にも予想はつかぬが……っとレイリー、隣がいいのか?」
それから、もたれるようにして幸潮の肩に頬を寄せる。
距離が近い。
互いの熱も、吐息も伝わる距離である。
だが、幸潮はレイリーを遠ざけるようなことはしなかった。
「ああもぅ……混沌の我はどうにも揺らぐ」
頬が赤いのは、酒が回っているからか。
それとも別の理由によるものか。にぃ、と笑みを浮かべたままレイリーはグラスを幸潮の前へと差し出した。
「レイリーも飲みたいのか?」
幸潮は問うた。
レイリーは微笑むばかりで、何も答えない。
ワイングラスの縁と縁を軽くぶつけて、2人は同時に赤い酒精を舌へと乗せた。
「ねぇ、どうかしら?」
幸潮の耳に吐息を吹きかけるように、レイリーはそう囁いた。
耳から頬を赤く染めた幸潮は、視線を逸らした答えを返す。
「…………ああ。いつにも増して美しくて愛らしいよ」
そして、2人は手を伸ばす。
互いの首に腕を回して、そっと顔を寄せるのだった。
なお、そんな2人のすぐ後ろではフォルトゥナリアがサイリウムを振り回している。
●酒は心の燃料です
酒というのは恐ろしいものだ。
ほどほどであれば楽しいだけだが、過ぎれば正気を失わせるし、人を突飛な行動にも走らせる。
「それじゃあ、ヴァイス☆ドラッヘ! 一曲歌わせてもらいます!」
例えば、今のレイリーがそうだ。
酒場の中央に位置取ると、一瞬のうちにアイドルの衣装に着替えを終える。そして、ビシっと決めポーズ。
スポットライトは、自ら光るフォルトゥナリアだ。
右へ左へ跳びまわりながら、様々な角度からレイリーを照らす。
「私の歌で、良い夢魅せてあげる!」
「はい! はい! わー!!」
合いの手を入れるフォルトゥナリア。
サイリウムを振る動作は、まさに玄人のそれである。
そして、もう1人……。
「愛してる。だから、輝いているレイリーを、もっと見せてくれ」
踊り、歌うレイリーを、後方より優しい瞳で見つめつつ幸潮はそう呟いた。
こっちもこっちで、いい感じに酔っぱらっている。
ずっと。
ずっと、飲み続けているのだ。
1人、2人と酔いつぶれるのも当然だ。
「な〜にが魔王様じゃこちとらただのゲーマーオタクだよ馬鹿がぁ〜〜〜」
「なぁにが、ウソツキだ。世の中、正直者が損するように出来てるんだ」
例えば刺幻と辰太郎などは、割と早期に酔いつぶれている。
それから、歌って、踊って、ノリノリだったレイリーが体力の限界を迎えて潰れた。次に幸潮とフォルトゥナリアが、レイリーに寄り添うように眠って、床の隅に転がっている。
「はぁー飲んだ♪」
酔いつぶれた5人を横目に、フルールはまだ飲んでいる。
なお、今飲んでいるのは白桃のジュースだ。とろりとした甘さがやみつきになると好評である。
なかなかどうしてペースが早い。
きっと直に、フルールも酔い潰れるだろう。
「良い夢は見られましたか?」
空いたグラスを下げながら、バーテンダーはそう問うた。
「いい夢、見てんじゃねェかな。皆、幸せそうだ」
なお刺幻と辰太郎は、そこまでではない。
くすり、とバーテンダーは笑う。
「ところでマスター」
空いたグラスを差し出しながら、クウハは問いを投げかける。
「大切な相手と飲む時にお勧めの酒ってなんかあるか? 参考までに聞かせてくれよ」
なんて。
その問いに、彼女はなんと答えただろうか。
なにはともあれ、今夜という日は酒精と共に過ぎていく。
そして、明けて朝が来て。
一夜の夢のおぼろげながら楽しい記憶だけが脳の片隅に残る。
余談であるが、今夜集った7人は全員二日酔いに悩まされたという。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様です。
かくして全員が酔いつぶれ、不可思議な一夜は終わりを迎えました。
依頼は成功となります。
この度はシナリオのリクエストありがとうございました。
縁があれば、また別の機会にお会いしましょう。
※なお【重症】は二日酔い的なものです。
GMコメント
●ミッション
全員が酔いつぶれるまで、飲んで、騒ぐ
●NPC
・WildChicken
継ぎ接ぎだらけの鶏を模した被り物を被った女性。
バーテンダーのようだ。
彼女曰く、飲んで騒いで酔いつぶれて朝を迎えれば、一夜の夢は終わるらしい。
酒なら何でも作れるし、だいたい何でも容易されている。
※なお、未成年の飲酒は禁止されているが、この空間においては何を飲んでも【酔える】らしい。
●フィールド
ラサの砂漠。
突如として現れた赤いテント。
店内には幾つもの丸テーブル。中央には円形のバーカウンター。
酒ならだいたい何でもあるし、言えばよほどに珍しいものでなければドリンクの類はだいたい出て来る。
シャンパンタワーの用意もされているようだ。
※何らかの怪奇現象に巻き込まれて、一行は夢の中にいるらしい。
※酔いつぶれると朝になって夢から覚める。夢とはそういうものなので。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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