PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<0と1の裏側>想い出の彼方

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 練達。かつて巻き起こったR.O.Oの事件と、竜種襲撃被害からの復興も大分進んでいる都市で――しかし再び不穏なる影が蠢いていた。
 それがウェルネス・クラフト・テクノロジー・ハートフル・ソリューションズ株式会社。
 略称『WCTHS』の台頭だ。
 表向きは『健康と環境の持続可能性を科学する――』などと謳う胡散臭い会社……しかし希望ヶ浜支店を中心として幾つか練達に支部を持っており、積極的なセミナーなども相まって知名度が近頃高まりつつある。
「だけど実際に調べてみれば、彼らの言は全て嘘っぱちだ。セミナーでは言葉巧みに色んな効能を宣伝して熱心な顧客確保をしようとしてるけれど――その目的はどうにも『別』にあるらしい」
「別……ていうと、つまり――」
「うん。予測は付いているかもしれないけれど、つまりは洗脳の方が主目的だね。
 どうも裏には妙なカルト教団の存在があるみたいなんだ」
 集まってくれたイレギュラーズ達に説明するのはギルオス・ホリス(p3n000016)だ。眼前にはハリエット(p3p009025)の姿もあろうか――彼女の瞳を見据えながら紡がれる情報はWCTHSの背後に控えていると思われる組織の事……
 世界的な新興カルト宗教『綜結教会(ジンテジスト教会)』なる者達だ。
「何それ。教会って、天義か何かの印象があるけれど」
「ビンゴだ京。正に天義を発とする団体で――遂行者なる連中とも関わりがあると疑われてる。だから練達の当局も迂闊に踏み込めないみたいでね。内部にどんな戦力が控えているか分からない……」
 続け様には椅子に腰かけている郷田 京(p3p009529)もギルオスの説明を聞いていた、が。どうにも当初予想した以上にWCTHSとやらは危険性のある団体のようだ。
 何より彼の言った『遂行者』の存在。
 ――天義で暗躍している『神の国』も関わっている、と言う事か。
 ならば練達や希望ヶ浜に存在する警察機構だけでは手に余る。故にローレットに一斉摘発の依頼が来た、というのが今回の経緯。WCTHS所有のビルや倉庫などに踏み込み、教団に洗脳、もしくは誘拐されている者達を救出せねばならない――
「君達に担当してもらいたいのは希望ヶ浜の港にある倉庫だ。
 WCTHSが拉致した一般人がそこに集められているらしい――
 放っておけばじっくりと洗脳されてしまうだろうね」
「そうなる前に、助けないと。じゃあ一般人の救出と」
「邪魔する連中を全員ぶちのめせばいい、って事よね!」
「あぁ。だが、問題もある。当然あちらにも備えがある事だろう……調べた所によると綜結教会は、何か異形な天使みたいな個体を所有しているようでね。恐らく踏み込めばソレらが出てくるはずだ」
「――異形の天使?」
 仔細は知れないが、教会の尖兵的な存在であろうかとギルオスは語る。
 倉庫内部にも警備として配置されている筈だ。交戦は避けられまい。
 一般人の救出と、敵勢力の撃退をどう進めるか。ギルオスが入手した情報によれば、その倉庫は正面入り口以外の出入り口が存在しない。窓もないらしい。つまり裏口から侵入、更にそこから一般人を脱出させると言う事は出来なさそうなのだ……
 ただ倉庫の壁は際立って堅いわけではない。
 壁をすり抜ける技能があれば正面以外から侵入する事は叶うだろうし、派手に攻撃を加えれば大きな穴をあける事も可能かもしれない――
「まぁ幾つか作戦は立てられそうだよね。
 一般人の救出に関しては僕も支援しよう。今回は人手もいりそうだしね」
「珍しいね。ギルオスさんも依頼に来るのは……」
「ははは。普段は情報屋だからね――でもまぁ、時には出るさ」
 ハリエットが微かに目を見開こうか。
 ギルオスは情報屋だ。普段は前に出でず、後方で支援している。
 が。彼も実はそこまで戦えない訳でもない。最前線で多くの戦いを乗り越えてきたイレギュラーズ達程ではないものの、自衛程度ならば出来るのだ。一般人たちも救出せねばならぬこの状況では一人でもいた方がいいだろう、と……今日は彼も往こうか。

 あぁ――皆の平穏と幸せの為に、少しぐらいは無理をするものさ。


 ――希望ヶ浜。その一角の港に存在する倉庫からは、すすり泣くような声が聞こえた。
 拉致された一般人だ。軽い気持ちでセミナーに来てだけなのに囚われてしまった。冷たいコンテナの中に拉致され、どこかに運ばれるのか……それとも此処で何か行われるのか……分からないが、分からないが故にこそ未知の恐怖に包まれている。
 しかも外には……明らかに『化け物』たるモノの姿まである。
 アレは一体なんなのだろうか? 『天使』に見えない事もないが、しかし気持ち悪さも同時に感じる。ただ一つハッキリと分かる事は……抵抗すれば恐らく殺されると言う事だ。それが足を竦ませ、誰も彼もから抵抗の意思を奪い取っている。
「うぅ俺達は……これからどうなるんだ……」
 一人の男性が怯えた言を零そう。
 耳を澄ませば聞こえてくるのは、あの天使共の呻き声のような唸り声のようなものだけ。
 あぁもうどうする事も出来ないか――と思った、その時。
「――で? この気持ち悪いのは何?」
「いや何と言われても……教団の天使で……」
「視界に入れないで。ホントに気持ち悪いから」
 女の声が、聞こえた。
 呻き声のようなモノだけが聞こえる天使とは違う、明確な人間の声。だがあのWCTHSの職員と話しているのか囚われた側と友好的な存在ではなさそうだ……まぁ、なにやらWCTHSと揉めている様子も感じられるが。
 ともあれコンテナの外にいるようなので姿は窺い知れぬ。
「はぁ。まったく……ちょっと外の空気を吸って来るわ。なんでここ窓ないのよ」
「窓があったら侵入されるではないですか」
「だったらもうちょっと壁とか厚くしてないと馬鹿みたいよ」
 直後。女は倉庫の壁を叩いて音を響かせつつ――外へ出でようか。
 空は星空に包まれていた。時刻はもう夜であり……周囲は完全に、暗い。
 あぁ誰かが近付いてくるには絶好の時間だな、なんて思いながら。
「ギルオス、貴方は来るのでしょうね。此処で親しくなった者達を連れて」
 風に蕩けて消えるような言を、紡いだ。
 その人物は眺めていた。
 誰か待ち人でも待っているかのように――彼方を眺めていた。

GMコメント

●依頼達成条件
・敵勢力の撃退。
・可能な限りの一般人の保護(努力目標)

●フィールド
 希望ヶ浜の港側に存在するWCTHS所有の倉庫です。
 WCTHSとは近頃練達で勢力を拡大している株式会社です――しかしその裏には新興カルト宗教『綜結教会(ジンテジスト教会)』が存在する事が判明しています。またこの教会は『神の国』『遂行者』とも関わりがあると目されているようです。

 時刻は夜です。倉庫周辺までの接近は労せず行える事でしょう。後述の敵戦力も全て倉庫内部に位置しています。また倉庫内部はライトで満たされていますし、内部はそれなりの広さがありますので戦闘には支障ないでしょう。

 『正面入り口』以外の出入り口は、窓を含めて存在しません。明らかに誰かを監禁する為のような雰囲気を感じえます……しかし壁自体は際立って堅い訳ではありませんので、壁をすり抜ける技能や、もしくは攻撃を重ねれば大きな穴を開ける事は十分可能でしょう。

 倉庫内には幾つかのコンテナがあり、その内の一つに一般人が纏めて囚われているようです。救出してあげてください。

●敵戦力
・量産型天使×12体
 練達には似つかわしくもない程の異形達です。
 遠目には天使のようにも見えますが……近くで見ればより異形さが際立つでしょう。
 うめき声のような声を発する個体もいますが、知性は感じません。
 妖しげな光を放つ遠距離攻撃や、突進などを行う神秘属性の攻撃を得手とするようです。

・WCTHS職員×3人
 天使と異なり人間です。恐らくWCTHSに洗脳された者達なのでしょうか……
 あまり正常な様子は伺えません。後述する『店長』の指示に従い行動してきます。
 銃などを用いて物理中~遠距離攻撃を行ってくるようです。
 天使と比べると優れた肉体は宿していませんが、的確に当ててくる傾向があるようです。

・店長×1人
 スピリチュアルコンサルタント……などという役職を与えられているWCTHSの職員です。天義では『致命者』と分類される、要は人間的な存在として作られたモノであり魔物の類に属する者です。
 治癒系統のスキルを使用し、量産型天使達の傷やBSを治癒する行動を中心に行動します。また、量産型天使達の行動を指揮しているようです。

●救助対象
・一般人×??名
 WCTHSに拉致されている者達です。
 倉庫の一角のコンテナ内部に纏まって囚われています。そのまま船に積み込んで、どこぞへと連れて行くつもりだったのでしょうか……?戦闘力は皆無です。可能限り保護してあげてください――
 具体的な数は不明ですが何百人もいる訳ではありません。
 恐らく10~20名程度と思われます。

●立場不明者
・???×1人
 詳細不明です。この人物は敵か味方かもよく分かりません。
 ただ、その人物周辺では精霊や使い魔の類が機能を停止します。
 非戦『妖精殺し』の類を持っているのかもしれません。

●味方戦力
・ギルオス・ホリス(p3n0000016)
 情報屋です。ある程度の応戦能力はあり、戦う事も可能です。
 基本的には一般人の保護、脱出支援に務めます。
 何か別途指示してもOKです。(周囲の偵察、敵の引き付けなど)

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <0と1の裏側>想い出の彼方完了
  • GM名茶零四
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年07月09日 22時15分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

グドルフ・ボイデル(p3p000694)
ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
アベリア・クォーツ・バルツァーレク(p3p004937)
願いの先
一条 夢心地(p3p008344)
殿
楊枝 茄子子(p3p008356)
虚飾
ハリエット(p3p009025)
暖かな記憶
結月 沙耶(p3p009126)
怪盗乱麻
郷田 京(p3p009529)
ハイテンションガール
桐生 雄(p3p010750)
流浪鬼

サポートNPC一覧(1人)

ギルオス・ホリス(p3n000016)

リプレイ


 ――闇に紛れ往く。
 件の倉庫が見えてきた。気配を見るに、まだイレギュラーズ達は発見されていないか。
 ならば好都合。
「カチコミはインパクトが重要じゃからの~
 しかしどこ行っても教会と名が付く連中は悪さをしておるのう。
 どうせまたこれもリア・クォーツ関係のアレなんじゃろ? 練達コラボ?」
「殿。言い残す事はそれだけでいいのかしら?」
「えっ! 関係ないのかえ――!? じゃあ茄子子関係のアレじゃろ?
 えっ! それも関係ないのかえ? 関連依頼的なアレじゃろ? 違うの?」
 依頼の話を聞いてから思わず一部イレギュラーズと関連があると信じて疑わぬは『殿』一条 夢心地(p3p008344)か。だが『願いの先』リア・クォーツ(p3p004937)はそれ所ではない――なにせ、嫌な予感が止まらぬのだ。
 精霊達が震えている。精霊達が泣いている。
 ……嫌な音色も聞こえる気がするのだ。
 この先には何かが『待って』いるのかもしれぬ――だけど。
(ガブリエル様……必ず、成してみせます)
 リアは、誓う。己に託された想いに応える為にも。
「それにしてもカルト宗教を組む会社なんてね……
 そんなのが練達でも蔓延り始めてるだなんて、いやな予感しかしないよ」
「まるで、今からテロリストの隠れ家に乗り込むような気分だ。
 ……あながち、ソレで間違ってはいない気がしているがな。
 問題なのは待ち構えているのが人間らしからぬ連中である事、か」
 次いで『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)に『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)は現場となり得る倉庫の方を、突入前に一瞥しようか。
 こんな所にも神の国に関わる連中が来ているとは……
 宗教絡みは別口でも相手にしている、が。
(『向こうの方がよっぽど宗教している』ではないか)
 汰磨羈は零しそうになる言葉を呑み込み、気配を殺して更に接近しようか。
 何はともあれ、人質の救出こそ最優先。
 その為に往くのだ。夢心地、リア、ヨゾラ、汰磨羈――それから。

「――どうもォ、希望ヶ浜クリーンサービスですけれどもォ。留守ですかァ?」

 『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)もその一人、か。
 ……彼の服装は薄汚い作業着と軍手。更にモップにバケツを手にしている――
 一見すれば誰が彼をイレギュラーズなどと思おうか。清掃員姿で件の倉庫の扉を叩いて――まぁ反応はねぇわなぁ、そりゃ。でもまぁ別にいいんだよ。だって。
「いねぇんですかい? まぁでもねぇ、こっちも掃除せずには、帰れないんでねェ──
 ──さあて、準備はいいかあ、野郎ども。お掃除の時間だぜえ!」
「おぉよ、派手に行くぜ――! オラ、カルト集団共がッ! 仕置きの時間だぜ!!」
 仮に見られていようとも、可能な限り自然に近付くのが目的だっただけなのだから!
 声を張り上げ吶喊するとしようか『流浪鬼』桐生 雄(p3p010750)と共に! 狙いは敵の目を正面に引き付ける事――故に、近付くまでは慎重に来たが、いざや突入となればもう遠慮はせぬ。
 グドルフの合図と共に総力をもってして扉をブチ破り――
 そのまま薄汚い天使の如き存在を薙ぎ払ってやろうか!
「な、なに――!? イレギュラーズか!? クソ、迎撃しろ急げ!!」
「ほっほっほ! 正々堂々突撃じゃ~悪には天誅ぞ! ものども麿に続け~~~い!」
「単純に大暴れするのは久しぶりだな。
 あぁ只管、真正面に己が力を振るえばいいというのも偶には悪くない。
 ――では、最初からフルスロットルで行こうか!」
 然らば夢心地に汰磨羈も大暴れ。自らの存在を誇示するように立ち回ろうか――
 噂の『店長』らしき者が慌てながらも配下に指示を出して正面へと戦力を集中させる。天使らしき異形らがイレギュラーズへと黒き光を放ち、WCTHS職員は銃撃。ならばと夢心地は銃撃を切り伏せ、汰磨羈は超圧縮した刀身を敵陣へと叩きつけようか。
 一気に広がる戦闘の気配……その最中にて。

「――カウントダウンするよ。……3、2、1、開けて」
「よし……一気に突き破る。全部ぶっ潰していいよな?」

 倉庫後方側で別なる異変が生じていた。
 言の葉零していたは『嘘つきな少女』楊枝 茄子子(p3p008356)だ。それは正面から突入を試みたグドルフ達の動きに乗じた……人質救出の為の動き。彼らが引き寄せてくれている間に完全に別角度から――侵入を果たすのである。
 茄子子の声掛けと共に合わせられた攻勢は、倉庫の壁を容易く突き破ろうか。
 『奪うは人心までも』結月 沙耶(p3p009126)の一撃は特に強烈だ。新興宗教などという単語は……『ある存在』を彼女に思い起こさせ、その内に憤怒にも似た猛りを抱かせようか。
 故に容赦はしない。全て打ちのめさんと――一気呵成に踏み込もう。
「正面側で敵をひきつけてくれている間に。急ごう。
 ――ギルオスさんは、一般人の保護や脱出支援をお願い。
 でも絶対に単独行動はしないでね。約束」
「あぁ分かっているよ。無茶はしない――だから安心して、君達は君達の目的を成してくれ」
「はは。そう言って無茶する事もあるからね、ギルオスさんは!
 ま、さーて、行こうじゃないの、ハリエットちゃん!
 ギルオスさんご指名だもんね、頑張ってこーぜ、えいえいおー!!」
「え、えいえいおー」
 更に『暖かな記憶』ハリエット(p3p009025)や『ハイテンションガール』郷田 京(p3p009529)、そして支援として付いてきたギルオスも其方の方から侵入を果たそうか。
 先の倉庫に穴を開けた騒ぎは流石に敵側もすぐ気付く筈だ。
 その前に人質のコンテナを見つけ出さんと警戒も行いながら――往こう。
「しっかし、まったくもう、はるばる天義から練達まで足を伸ばしてくるなんて、随分と働き者みたいね? てか練達だけじゃなくて海洋とか幻想とかも出たんでしょ? まー、悪党の徒労を横からぶち壊してやるのは気持ちが良いし、アタシは構わないわよ?
 ――根こそぎ踏みつぶしてあげるから」
「ははは。京はいつも頼もしいね」
 京は戦意も高々に。と、同時――
(……それにしても)
 ハリエットは思考するものだ。
 ギルオスさんが前線に立つなんて――本当に珍しい、と。
 かつて、ギルオスが前線に立たない話を聞いた己からすると……
 ……だからこそだろうか。ハリエットの胸中には一抹の不安も過る。
 何か起こるのではないかと。ただ、もし仮にそうなのだとしても。
(――必ず守ってみせる)
 強い意志と共に彼女は戦場に立とう。必ず、必ずと――念ずるように。


 倉庫正面、裏側。双方でイレギュラーズの動きが見えていた。
 その中でも正面の方は激戦が繰り広げられていたか――イレギュラーズ側は精鋭と言っていい面々が揃っていた、が。それでも戦力を正面と裏に分散させたことにより流石に数の劣勢はある。今の所はまだ天秤がどちらに傾くとも言えぬ状況であった。
「店長……噂の致命者、だね。なら心配はいらないね……!!」
 正面入り口。ヨゾラは迫りくる敵影を払いのけるように、泥を顕現させ押し流す。
 天使や職員、そして可能であれば店長も巻き込めるようにと――
 それにしても厄介だ。あぁ致命者……人間のように見えて人間でないのは分かっている、が。
(見た目が人間ってのは、やっぱりね……!)
 それでもなさねばならぬと、ヨゾラは口端を噤みながら撃を紡ごう。
 店長の放つ指示と力が周囲の者らを癒しているのだから。
 彼を放置していればいるだけ……戦闘はきっと長引く事であろうから。
「裏の方にもイレギュラーズが……!? クソ、天使を割かねば……!!」
「ゲハハハ! なーに言ってんだ、まだ始まったばかりだろうよ!!
 せっかくアツくなってきたんだ、もうちっと付き合えよ。ノリの悪い奴だよなぁ!」
「悪の匂いぞ、悪の匂いがあっちこっちからプンプンしおる!
 少しばかり風の通りがよくなったぐらいで狼狽えるでないわ~~!」
 同時に店長は、裏側の方にも戦力を回さんとする……が。防がんと立ち回るのはグドルフや夢心地だ。連中の統率を乱さんと、とにかくグドルフはぶった斬る。店長の指揮をかき乱し、こちらに集中させんとするのだ――更に夢心地も店長の余裕を無くさんと、前へ。
 指揮する者が一人であるならば……奴の負担を大きくし、戦力の分散など考えさせぬ様にするのだ。今の所数の上ではWCTHSの方が有利であるからこそ、派手な動きは継続しよう。それでも裏側に意識を向けんとする個体がいれば夢心地の瞳よりビーム一閃!
「麿たちを舐めたらアカンぞ~! 数を割いたなら押しつぶしてくれようぞ!!」
「しっかし、此処も神の国に関わる連中なんだよな……ここじゃ真っ当に陰謀してんなぁ。別に誉めちゃいねぇが、よ」
 同時。夢心地のビームによる土煙が挙がれば、雄が斬り込もうか。
 思考するは『神の国』に関わっている今までの依頼だ――聖遺物が酒樽だからひたすら飲むとか、ガキに興奮する女が支配する幼稚園とか……そんな色物を幾つか相手取って来た。なんならこんなのばっかか? とも思っていたのだが。
「場所によってこう……随分違うなオイ。違えば良いとは言わねぇけどな!」
 正面、天使が雄の行動を阻まんと突進してくる――のに合わせ、彼は跳躍しようか。
 躱すと同時に斬撃一つ。天使の羽を落とすが如き一撃と共に連中を打ちのめしてやろうではないか。あぁ、色物だろうがそうでなかろうが、やる事は変わらぬのだ。お前達の好き勝手になんざ――誰がさせるかよ。

「聞こえる!? 貴方達を救いに来たわ! 落ち着いて、あたし達の言う事を聞いて!
 大丈夫――必ず、生きてここから帰れるから!!」

 そして。激化する戦場の中で、リアは透き通る声を倉庫内に響かせるものだ。
 どのコンテナに集合させられているかリアからは分からぬ、が。関係ない。何処にいようとも彼らの音色に、己が言の葉が届く様に……張り上げよう。その心に雫としてしみ込むように。
 ――救いが来たのだと。
「今すぐ助けてあげるわ! だから……もう少しだけの辛抱だからね!」
「クッ――あの女を黙らせろ、天使共! 殺せッ!」
「そう焦るな。お前達皆、順々に相手していってやるさ」
 故にリアは店長を狙いて、空を薙ぐ斬撃を放とうか。
 奴の思考を乱しこちらに集中させる為に……
 であれば夢心地やグドルフ、雄らの動きも相まって店長の狙いは、ひとまず裏側の存在よりも前面の駆逐を優先する思考に染まりつつあるものだ。コンテナは幾つもある、人質の救出を優先しているのだとしてもそう簡単には見つかりはせぬだろう、と……
 その思考は怒りに染まったが為もあろう。
 ――故。汰磨羈はその刹那を逃さず衝くものだ。
 周囲の状況は俯瞰するような視点と共に冷静に把握している。店長の指揮に隙があらば、その角度から突き破るように攻勢を仕掛ける……主たる狙いは数の多い天使。次いで銃撃を仕掛けてくる職員、と言った所か。
「さて。お前達は洗脳されているだけか――?
 では、運よく生き残れるかどうか祈ってみるか? どの神にかは知らんがな」
「づ、ぉ――!?」
 不殺の意志と共に職員は薙ごう。上手く生け捕りに出来れば情報源になるかもしれぬ、と。

「正面の方は大分引き付けてくれているみたいだな。
 ――今の内ならまだ行動しやすいだろう。急ごう」

 同時。銃撃に斬撃の音が響く気配を沙耶は感じ取りながら、即座に移動していく。
 裏側から侵入した彼女にとって最優先すべきは、とにもかくにも人質の救出。
 救いを求める声がないかと探知する術も巡らせるのだ――
「どーせさっきの穴開けがバレてない、なんて事はないだろうし急がないとね」
「そうね! ま、幸いと言っていいのかしら、人質が多いから……『声』が分かりやすいわ!」
 更に裏側方面で行動している茄子子は、同時に保護なる結界をもってして不要な破壊が行われぬように気遣おうか。彼女もまた、恐怖に震え助けを求めている願いがないかと探り、一刻も早く人質らの位置を特定せんと立ち回る。
 壁をぶっ壊したのだ。敵に露見しているのなら、もう足を緩やかにする必要もない、と。
 駆け巡り探していく――であれば京の優れし耳に、人質らのすすり泣く声が捉えられようか。
 ――ここだ。このコンテナだ。
「打ち抜くわよ――中の人、離れててよね……!」
「さて……怪盗としては随分派手でダイナミックなエントリー方法だが、まぁこれもありだろうなたまには!」
 然らば、当たりを付ければ京は内部を透視し、人質のいない所へともう一度攻撃を仕掛けよう。五指に込められた力が、コンテナなんぞ物ともせぬ一撃を顕現させる――更に沙耶も機を合わせて撃を叩き込め、ば。
「さぁ、助けに来たわよ! 誰も怪我はしてない、わよね!?」
「おーい! 助けに来たよ! 助かりたいヤツから女子供連れてこっち来な!
 脚竦んだとかそういうのいいからね。生きたいなら抗えよ。
 ガタガタしてるだけだと――ホントに死ぬよ?」
「た……助けがきた、のか!? 警察、っぽくはないが……」
「ああもう! 今はとにかく逃げるのが優先! いいわね!!?」
「その人達は味方よ! その人達について行けば逃げられるわ! 安心して!!」
 内部に突入する。先の、リアの人々の心を統率しうる一声もあってか救いが来ると事前に分かっていたが故に――囚われていた者達の動揺は思っていたより小さいように見えるか。京や茄子子の声に従って、人質達が動き始める。
「もう大丈夫。落ち着いて。そこの穴から外に出られるよ。
 押さないで。順番。必ず皆出れるからね――大丈夫だよ」
「よし、皆の避難誘導は任せてくれ。天使達が来るかもしれないから、そっちを頼みたい」
 次いでハリエットにギルオスも人質らの誘導と護衛を行おうか。
 人質は見つけることが叶ったが、しかしまだ油断は出来ない。敵の追撃がくるかもしれぬと――思っていれば、やはり来た。天使だ。ヨゾラ達が多くを押し留めてくれているおかげか見えている影は今の所一体だけだが、しかし人質達にとっては恐怖の象徴だろう。
 故にハリエットは即座に動く。銃を構え、引き金絞り上げよう。
 向かってくる前に撃ち落とす。絶対に人質には近づけさせぬと――
「このクソ忙しい時に……あー、むしゃくしゃしてきた。サンドバック、OK?」
「ギルオスさん、一般人は任せた! 天使はアタシが――ぶっ飛ばすわッ!」
「京も無茶しないようにね!」
 然らば沙耶に京も応戦の構えをみせようか。奴らが一般人を狙い定める様に沙耶は攪乱し、注意を引き付ける。そして彼女に引き寄せられた隙を突いて京の一撃が天使の横っ面を殴りつけるものだ――
 やはり皆、頼りになる。
 戦況は人質をこのまま外に引っ張り出せればイレギュラーズ側が優勢となるだろう。正面の戦力に加え、後方のメンバーも本格的に戦闘に参戦出来れば、挟み撃ちの形にもなるのだ。そうすれば店長とやらが如何に支援に動いても限度が来る。
 勝てる。今回も問題なく。
 人質らを誘導するギルオスは勝利を確信――した、その瞬間。
「ギルオス」
 彼は声を掛けられた。
 人質達の中に紛れていた、なんぞやの人物から声が。其処にいたのは女だ。
 まるで親し気に。まるで以前会った事があるかのように。さすれば……
「――イラス?」
 ギルオスは微かな逡巡と共に声を紡ごうか……
 だけどその瞳には困惑の色が混ざっている。
 ――生きているはずがない、という類の困惑だ。だって、彼女は。
「君は、死んだはずだ。僕がかつていた世界で」
「……この人が、イラスさん?」
 生きている筈がないからと。
 その時の話を……微かにだが聞いたことのあるハリエットも、困惑の言の葉を紡ごうか。
 死人が現れた? なんの為に。
 分からないけれど――その傍にハリエットはいよう。
 何が起こるのだとしても。ギルオスの力に……なってあげたいからと。


「君は……いったい誰だ? 胡散臭い宗教の関係者か?
 そもそも……なぜここにいる? 巻き込まれただけの一般人とは思えないな」
 沙耶が語る。彼女も人質の中に紛れていた、人質ではなさそうな存在……イラスに気付いたからか。ギルオスの様子を見れば只事でないのだけは――分かった。故に警戒しつつ、対話を試みて。
「宗教の関係者、ね……まぁそうと言えばそうだけど。
 私は連中の拉致とかそういうのには興味ないわ。だから邪魔はしないわよ」
「はっ? じゃあなんでこんな現場にいるのよ?
 ――ていうかギルオスさん、あの女誰よ? ハッキリ言ってよね、誤解のないように?」
「いや、その――」
「元カノよ」
「はっ!!??」
「なんじゃと――!!? ちょっと! ギルオス! 麿という者がおりながらなんなのよこの女! キ――ッ!! 認めない、認めないわ!! なんなの! 雰囲気出しちゃって! どういうことなの!! どういうことなの――ッ!! 今カレの麿に説明しなさいよ、この浮気者――!!」
「そうよてめぇを知ってそうなその女――誰よ!!」
「ちょっと夢心地、雄! 場を混沌とさせないでくれるかな!!?」
 さすれば敵意は――イラスからは少なくとも感じえない。
 だが敵意がないにしてはこんな現場にいる意味が分からぬ、と。京も警戒を解かずにイラスへ……いやむしろギルオスへ問い詰めんとすれ、ば。なんて? 今――なんて言った? 京と何故か夢心地と雄の敵意がイラスに向かう――!
「そういう事実はない! 昔の仲間だっただけだ!
 ――長くなるから仔細は省くけど、だが、そもそも君はさっきも言った通り」
「死んだはずって? まぁそうね。
 私もそのつもりだったけど、この世界に転移したみたいなのよ。
 そしたらなんか生き残ってね。来たのは随分昔よ」
「そうか。で、今は色々余裕がない状況でね、過去話に花を咲かせてる場合じゃないんだ」
 京の視線を即座に感知して、否定の言葉を紡ぐギルオス。
 ――が、今は戦闘の最中だ。割と真面目に、ふざけている場合ではない、と。
 故に意図を理解せねばならぬ。彼女が此処にいる意味は――なんなのかと。
 味方ならば良し。しかしもしも、敵だというのならば……
(――――)
 ハリエットは注意する。どうであれ、その手に抱く銃をどこにでも向けられるように、と。
 さすれば。
「ぐ、ぉ、ぉ……! 馬鹿な人質も解放されるとは……!?
 おのれ、我々の……WCTHSの……綜結教会の崇高な意思を理解できぬ輩に……!!」
「なーっはっは! 麿たちを舐めたらアカンぞよ。ほれほれ、ほ~れ!!」
「カルト集団が崇高だなんだとエラそーに抜かしてんじゃねえよ、この人攫い野郎が!
 拉致して洗脳しようとしておいてごちゃごちゃ五月蠅え!
 テメェらみたいなのは――這いつくばるのがお似合いなんだよ!!」
 正面側。WCTHSの戦力は崩れつつあった。
 店長の治癒と号令を中心としてイレギュラーズに対抗していた、が。イレギュラーズ達の巧みな攪乱と多数への攻撃が、店長の治癒を上回りつつあったのである。
 そして何より、グドルフらの派手な立ち回りが功を奏し、後方側の人質救出がスムーズに進んだ事の影響も大きい。結果として後方側の人員が戦闘に本格参入できる時間も短縮されたのだ。当然として天使らの攻撃もイレギュラーズ達には叩き込まれているが……それ以上に攻勢の方が強い。
 夢心地は煽り立てるように甲高く笑いながらビーム連打。Vシネマのドンパチよろしく、火力飛び交う派手な展開こそ望むところ――! 吹き飛ぶ天使。巻き込まれる職員。そして陣が崩れた所へと、憤怒の感情を身に込めながら雄が往く。
 ――練達は俺のお気に入りの遊び場なんだよ。
「それを荒らす奴ぁこの”流浪鬼”桐生雄様と愉快な仲間たちがぶっ飛ばしてやらぁ! 誰のシマに手を出したか――そのくっだらねぇ思想しか詰まってねぇ脳みそに刻みやがれ!」
「全くだ。天義に籠っていればよかったものを……
 この地に手を出したのが運の尽きだ。さぁ、潔く果てよ!」
 剛撃一閃。続け様には汰磨羈もまた押し切らんと戦線を挙げていこうか。人質が解放されつつあるのであればコンテナ自体も利用して射線を上から横から確保していく――天使達も黒き光と共に反撃してくるが、しかし。
「無茶はしないようにね――! 少しずつ押し込んでいきましょう!
 そろそろ茄子子達もこっちに合流できるはずだわッ……!」
「おのれあの女ァ……! 舐めた真似を……!!」
 傷が深まる前にリアの治癒が齎されればイレギュラーズ側の崩壊は遠かった。
 いやそれだけではない。リアの攻勢に怒りを宿す店長は、冷静さを欠く動きも時折見せようか。彼女に撃を成さんとする――のに合わせ、彼女はカウンターの一撃をもお見舞いしてやる。アレが所謂伝説の、クォーツ式ドロップキック……!
「女だったら簡単に御せるとでも思った? あたし、これでも頑丈なのよ――
 暫くは付き合ってもらうわ! 店長……いえ、致命者!」
「こんな新興宗教に関わる会社なんかで……誰も倒れさせないよ……!!」
 更にヨゾラも万一の事あらば、と治癒の力を紡ごうか。さすればイレギュラーズ達の体力は盤石である……後は余力あらば、ヨゾラは囚われていた一般人たちが殺しというショッキングな場面を目撃せぬように煙の幻影も顕現させようか。
 致命者といえど人間に姿が酷似しているのだから。出来るならば――見せたくない、と。
 同時。グドルフは倉庫である事を利用して、そこいらに在るモノを手当たり次第に利用するものだ。落ちていたレンガらしきモノを高速で投擲すれば、職員の顔面に直撃しようか。されば落とした銃を拾い上げて、後ろから強襲せんとしてきた天使に銃弾三撃。
 もののついでに古ぼけたモップを足先で宙に浮かせば、勢いの儘にフルスイング――
「おっと、モップがヘシ折れちまった。かあ〜、使えねえな。
 ちったぁ堅さの伴ったヤツじゃねぇとな。やっぱよ――
 オッ、いいもん持ってんじゃねえか。それ、寄越せよ!」
 続け様。見つけたのはマシンガンだ――なんでこんなモノまであるのか。
 やはりWCTHSとやらの倉庫は碌な所ではないらしい! ともあれと盛大に銃撃の雨あられ降らせてやろう。あっ? 弾切れ? んじゃあバット代わりだなぁ、オイッ!!
 グドルフは縦横無尽に暴れ回る。されば、派手に動く彼に攻撃が集中するものだが――むしろ痛みこそが彼を本気の状態へと至らせようか。そうなればもう手の付けようがない程である。彼を起点に、WCTDS側の陣地を食い破っていけ、ば。
「スピリチュアルコンサルタントだかなんだか、御大層な名前を持ってるようだが……胡散臭い宗教にしろ何にしろ一般人を狙った時点でもう宗教としては終わっている! 宗教は弱者を救う為のもの……弱者を食い物にするものが宗教であってたまるものか!」
「は~? スピリチュアル……なに?
 まぁなんであれ店長より会長の方がいっぱい治療できるし〜
 そもそも役職的にも会長の方が格上だし。店長が勝てる道理がないよね」
 沙耶に茄子子も遂に正面戦力と距離を縮めつつあった。
 沙耶は強襲する様に天使らの背後から畳みかけ、茄子子は天からの輝きをもってして邪なる天使を穿とうか。こっちくんな石化しろや、ぶっ飛ばすよ?
 次いで最前線を担っていたグドルフや夢心地、雄などが射程に入れば治癒と、活力を齎す号令一つ。
「練達は羽衣教会のものなので。帰ってくださいさよなら〜」
「羽衣教会……! 知っているぞ、名高き邪教だな……! WCTHSこそが正しき――」
「君達みたいなのがどう言おうが自由だけどさ、練達は渡さないよ」
 もう少しでレトゥムを終わらせて、もう1回羽衣教会を国教にするために打診しにいこうと思ってたのに――なんてのは冗談だけど。ただ、全力なんだよね会長は。適当に羽衣教会会長してる訳じゃないし、天義だってガチで取りに行ってる。
 ――天義だって私が奪うから。
 横から入って来たカルト宗教なんかの席はないんだよ。
「手出しはさせない。ルスト・シファー? 知ったこっちゃないね。ぶっ潰すよ」
「あんたらの企みも――これで終わりよ!」
 羽衣教会理論をぶちあげながら茄子子は皆に治癒の術を巡らせようか。
 ――押しつぶしていく。天使は倒れ、職員も倒れ。
 最早店長一人で抗えるような状況ではないのだ。
 或いは『他に戦力がいれば』話は別だったかもしれない、が。
「潮時ね。私は帰るわ、今日の所はね」
「イラス。君も転移して来たというのなら、イレギュラーズの筈だ。味方じゃないのか?」
「違うわよ。私はね、貴方を殺すつもりで此処にいたんだし。
 ――でも隙が無いからやめとくわ。『今日の所は』ね」
「成程。WCTHSの関係者……というよりは第三勢力、か?
 遂行者に協力する立ち位置ならば――容赦は出来んぞ」
「ギルオスさんには個人的に感謝してるんだ。害するなら、誰だろうと見逃せないね」
 その戦力になりえるようなイラスは――どうもやる気が無さげの様であった。彼女の目的はどうも……言を信じるならばギルオスの殺害にあったようである。
 言を受けて汰磨羈はWCTHSに協力する、別の思惑を持った人物であろうと感じようか。もしもギルオスが一人で行動していたり、或いはイレギュラーズの作戦に甘い所があればWCTHSらの動きに乗じて『ソレ』を行っていたかもしれない。
 しかしイレギュラーズらの動きは実に機敏であり、警戒も堅かった。今もヨゾラがギルオスをいつでも護る事が出来る位置に付かんと試みている。故にイラスは今日の所は何もしなかったのだ。
 ……ただ旧知の間柄と話しただけの一時に留めたのだ。
「――ッ、敵なんだね、貴方は」
「させないよ。ちょっと色っぽいからって、なんなのさ……!」
 が。そんな発言をすれば許せぬという意志を即座に見せるのはハリエットに京だ。
 ギルオスに害をなさせぬ様に――その前へと立ち塞がろうか。更にはリアも『不測の事態』と考えて、天使を蹴り飛ばしながらいつでも庇える位置へと辿り着こう。精霊達はまだ怯えている……
「やっぱり、精霊達を驚かせている存在がいるわよね――どうしたものかしら」
「精霊が動きを止めてたから、やっぱりね~うーん」
 やはり油断は出来ない、と思考するのだから。
 リアに次いで茄子子も警戒しようか。精霊の動きが鈍い、とは思っていた……
 だが話をする気はない。敵対するのなら容赦しないだけだと――
「そう警戒しないで良いわよ。さっきも言った通り、今日は帰るから。
 それより貴方達は――一体ギルオスの『何』なのかしら?」
 と、その時だ。イラスは倉庫の壁に手を当てて、すり抜ける動作を見せようか。
 物質透過の術だ。そのまま闇夜の中に消えていくつもりか。で、あれば。
「京よ。ギルオスさんとは親しい仲――って言ったら、どうする?」
「ハリエット。……ギルオスさんに生き方を教えて貰った、ただの子供だよ」
「そう。――可哀想な子達ね」
 イラスは心の底から京たちを……憐憫のような瞳で見据えるものだ。
「その男に深く関わると、碌な未来はないわよ」
「イラス――」
「じゃあねギルオス。近い内にまた会いましょう――今日は、話せて良かったわ」
 刹那、消える。
 倉庫の壁の奥へと。追おうと思えば出来たかもしれない、が。今日の所の依頼はイラスをどうこうする事ではない。WCTHSを壊滅させ、彼らに攫われた者達の救助だ――外へと逃がした一般人たちの無事を確かめ、安全の為当局に引き渡しておくのが優先だろうか。
「ったく、ギルオスもなんかカルト教団とは別口な感じの女がいるっぽいなぁ?」
「てか、だいたい何よ、ハッ! ちょっと色っぽい雰囲気だけどアタシの方が上よ、上! ねー、ギルオスさん、アタシの方がスタイル良いしおっぱい大きいもん! 知ってるわよね~! なによ、疑うなら触って確かめなさいよ、ねー、ほら! ほら!!」
「待て、待つんだ京! 止めるんだ! 今そういう場合じゃ……!!」
 然らば、雄はイラスが消えた方向を警戒しながらギルオスへと言を紡ごうか――さすれば京が急接近しており、慌てふためいている。イラスとの関係性については、また今度事態が落ち着いてから……となるだろうか。
「――まぁ人もそれぞれってヤツだろうがよ。今はWCTHSの方が先決だらぁな」
 故。グドルフはギルオスの過去には追求せぬ。それよりもWCTHSが違法事業に関わっていた証拠品やらを押収せんと彼は倉庫を調べようか。職員が銃を持っていた事もあるのだ。探せば幾らでも黒いモノは出てくるだろう、と。
 ……そもそも。人は誰しも、何かを抱えて生きている。
 掘る事はないのだ。土深く、埋めた果てがあるのなら。
 それを掘り起こす選択を行うかは、当人だけが選択して良いモノなのだから。
 ……何はともあれ些か妙な存在の介入はあったものだ、が。
 依頼は成功だ。囚われた者達は全員無事。
 これもイレギュラーズ達の尽力の賜物だろう――
「……想い出が追って来た、か」
「ギルオスさん?」
「いや、なんでもないよ」
 刹那。ギルオスが言を零す。
 ……懐かしむような視線には、如何な想いが込められていたか。
 ハリエットはただ今は――彼の服の裾を掴むに、留めるのであった。

成否

成功

MVP

グドルフ・ボイデル(p3p000694)

状態異常

なし

あとがき

 依頼、お疲れさまでしたイレギュラーズ。
 ギルオスと関連があるイラスがどう動くかは、幾つかのパターンがありましたが今回は左程大きな動きを見せる事なく立ち去りました。彼女は今回は話すだけでも最低限良かったようです――己が心に区切りを付ける為に。彼女が具体的に何を想っているかは、またいずれ。

 MVPは変装して近付いた上に、縦横無尽に暴れ回った貴方へと。

 ありがとうございました。

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