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シナリオ詳細

再現性東京20XX:幻惑夢幻の化猫ダンサー

完了

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ご想像いただきたい。再現性東京20XX希望ヶ浜地区のナイトクラブ。つまりは一本のポールが立った特殊な舞台。店内は薄暗く、淫靡なライトに照らし出された舞台には――なんと一匹の巨大な猫。大きさにして1m半はあろうかというその猫はポールに手足をかけたかと思うとくるくると回り始め、腰をくねらせ振り返り、手招きをして尻尾をくねらせる。
 このような異常な光景を見たあなたは正気度チェック――ではなく。観客達はこの化猫ダンスに思わず魅了され、財布にあった全ての紙幣をぶん投げるという暴挙に出てしまったという。
 そんな宴は一夜の間続き、翌朝にはすっからかんになった客達(店員達すらも含む)が店先で呆然としたままのぼる朝日を見つめるというシュールな出来事がおきたのだった。
「で、その解決を……しろって?」
 古木・文(p3p001262)は一度眼鏡を外すと、ポケットから取り出したクロスで丁寧にレンズや鼻あてを拭い装着しなおしてから相手を見た。
 相手の名は黄泉崎ミコト。希望ヶ浜学園の校長である。そしてここは、彼の務める校長室だ。といっても、彼が校長らしい仕事をしているところを文は一度も見ていないのだが。
 実際、黄泉崎校長は棚から取り出してきたブランデーとグラスをテーブルへと持ってくると、自分と文の分をそれぞれ注ぐ。
「安心しろ、一人でとは言わん」
「そんな心配はしてなかったけれど――」
 呟く文を無視するかのようにがらりと開く校長室の扉。入り口に立っていたのはフォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)。
「夜妖が出たって聞いたよ! 任せて、日常を守るのも私の仕事だから!」
 今回はキッチリと現代日本風の服装を着こなしてきたフォルトゥナリア。その服装には不似合いな星型のオブジェクトがついた杖をビシッと構え、やる気満々で文と校長の顔を交互に見た。
「それで!? 今回は誰を倒せばいいの!?」
「ええと、それがね……」
 文は説明に迷ったあげく、とりあえず第八資料室から持ち出してきた資料の一つを広げた。

 化猫。
 人間に化ける手段を持った妖怪。
 飼い主の怨念を晴らすために現れるという説や、人間社会に入り込み悪戯を仕掛けるという説、狡猾で知恵があり人間の言葉を理解するという話や、病気や治癒や幸運をもたらすという話まである。
 要するに人間社会に密接に紐付いた怪異であり、いかに猫という生き物が人間の生活に溶け込んでいるかを示す指標とも言えるだろう。
「怪異というものは、時として人間社会の有り様を映し出す。猫を通してみる人間社会というやつだな。人を騙す、恨みを晴らす、知恵を廻らせる、時に幸せにもしてくれる……と。
 どれが正しいかはこの際どうでもいい。今回現れた夜妖『化猫』の正体を探り出し、事件を解決させることが重要だ」
 この場合の解決とは、化猫が夜のクラブに現れ人々を魅了しお金をごっそり奪って(?)しまう事件のことだろう。
 誰も怪我や病気になっていないとはいえ、持ち金をごっそり奪われるのは相当に嫌な被害だ。再発を防止したいというのも無理からぬことだろうし……おそらくはそういった筋から校長宛に要請があったということなのだろう。
「この際、解決の仕方は問わん。お前がどう決着させたいのかだけは、決めておくんだな」

GMコメント

※こちらはライトシナリオです。短いプレイングと選択肢のみで進むアドリブいっぱいのライトな冒険をお楽しみください。

●シチュエーション
 ある日、化猫が夜のクラブに現れ踊りまくると見ている人たちが魅了されスパチャの嵐と化すという事件がありました。
 誰も怪我をしていないとはいえ持ち金を全部スるのは相当な痛手。すぐにでも事件を解決してほしいと要請がありました。

●一口プレイング
 あなたは今回の事件をどのように解決(決着)させたいですか?
 その希望を書いてみてください。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。


探索スタイル
事件をどのように追うかを決めましょう。
自分に合ったやり方、得意なやり方、非戦スキルが活かせるやり方を選ぶのもヨシです。

【1】関係者にインタビューしてみる
事件の被害にあった人物や店などにインタビューします
事件の経緯を洗い直せるかもしれません

【2】資料を漁ってみる
化猫に関する資料を漁ってみます
事件の手口や背景がわかるかもしれません

【3】あえて現場に飛び込んでみる
次に事件が起こりそうなクラブに潜入してみます
うっかり事件に巻き込まれるかもしれませんが、得るものもあるでしょう


バトルスタイル?
もし戦闘が起きたなら、どんなポジションで戦うかを決めておきましょう

【1】メインアタッカー
火力をとにかく出して相手を撃破します

【2】サブアタッカー
連続攻撃を与えたり相手のステータスを下げたりと、味方の攻撃をサポートします

【3】ヒーラー
味方がダメージを受けた際に治癒します。この役割が要らない場面ではサブアタッカーとなります。

【4】ディフェンダー
防御能力を駆使して味方へのダメージを軽減させます

  • 再現性東京20XX:幻惑夢幻の化猫ダンサー完了
  • ライト、シティアドベンチャー:化猫全額虹スパチャ事件を追え!
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別 通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年06月19日 22時05分
  • 参加人数6/6人
  • 相談0日
  • 参加費100RC

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(6人)

エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
古木・文(p3p001262)
文具屋
イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)
キラキラを守って
エルシア・クレンオータ(p3p008209)
自然を想う心
胡桃・ツァンフオ(p3p008299)
ファイアフォックス
フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)
挫けぬ笑顔

リプレイ


 いらっしゃいませ、ご注文はお決まりですか?
 そんなありふれた文句の聞こえるハンバーガーショップ。四人がけのテーブル二つ分をまたぐ形で、六人のイレギュラーズたちはそれぞれ席について思い思いの過ごし方をしていた。
「はむ――あ、思ったより美味しい!」
 ハンバーガーにかじりついて目をキラーンとさせる『挫けぬ笑顔』フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)。
 その様子を正面から微笑ましく眺める『結切』古木・文(p3p001262)。彼の手元にはハンバーガーとコーラ、そしてフライドポテトのセットがどこか整然と並んでいる。
 自分の分のフライドポテトをつまみあげ、それをじっと青い瞳で見つめていた『金の軌跡』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)がその視線を向かいの少年へと移した。
「こういうものは、食べ慣れているのか?」
「うーん……慣れたと言ったら、嘘になるかなあ」
 『覚悟の行方』イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)は少しばかり食べづらいソースつきのハンバーガーを器用にぱくぱくと囓っている。それこそ初めて食べたときには『これが、はんばーがー?』という漫画に出てくるお嬢様みたいな台詞をはいたものだが、手先の器用さもあって食べ方に慣れるのは早かったらしい。
「本当にハンバーガーになれていない人は、全部のパーツを分解して一個ずつ食べていくそうですよ?」
 『自然を想う心』エルシア・クレンオータ(p3p008209)がどこかから聞いてきたような知識を語り始める。事実っちゃ事実なのだが、慣れの次元が文化レベルで違う話である。
 かくいうエルシアのトレーに置かれているのはポテトパイとフライドポテト。肉を食べない主義なのかと思うほどのメニューチョイスである。
「言われて見れば、一個ずつ食べられそうなの……」
 試しにぺらっとハンバーガーの上部分を剥がしてみる『ファイアフォックス』胡桃・ツァンフオ(p3p008299)。
「ただし、ハンバーガーは分解すると味が落ちるそうですよ?」
「そんなことあるの?」
「囓る力の配分で味の感じ方が違うとか」
「そんなことあるのね」
 もしこの世にハンバーガーの上部分だけを食べられるという貴重な経験をした方がいれば、共感頂けるかもしれない話であった。
「さて、と」
 ある程度食べ終わったところで文は手をウェットティッシュで拭い、懐から手帳を取り出してくる。
「今回の依頼は化猫事件の解決だったよね。みんなはどうしたい?」
「…………」
 エクスマリアが無言で手をかざし人差し指だけを立てる。そして自らの目にスッと向けた。
 視線の魔術でぶちころがす。という無言のメッセージである。
 夜妖が出た時の基本的な対処法とはいえ、なかなかアグレッシブないしはバイオレンスな考え方である。
 一方でエルシアは『そんなこと考えてもいなかった』という様子で目をぱちくりさせていた。
「倒したら解決……ではなかったのでしたっけ」
「解決の手段は問われていないの。だから、迷惑さえかけなくなればいいんじゃないかしら」
 胡桃がここでようやくというべきか、平和的な手段を提示してきた。
 言われて見ればその通りだ。
 フォルトゥナリアがこくこくと頷く。
「悪さをしないように言いきかせればいいのよ。こう、ぴかーっとやって!」
 フォルトゥナリアは両手を顔の横に翳してぴかーっというジェスチャーをした。眩しいというより単に可愛い。
「うーん……俺も、できれば平和的に解決したいかな」
 イーハトーヴはドリンクのストローをずずっと飲み終えたあたりでそんなことを言った。
 文がイーハトーヴの意見に対して頷いて見せる。
「僕も同じだよ。といっても……この事件、実は分からないことの方が圧倒的に多いんだよね」
 文の言葉に対して意外そうな反応を見せたのは、場の半数。フォルトゥナリア、胡桃、エルシア、そしてエクスマリア。いや、半数以上か。
 イーハトーヴは分かっていた、というわけでは実はなく、単にそこまで深く考えを巡らせてはいなかったといった様子だ。なので文に感心した視線を向けている。
「どういうこと?」
 フォルトゥナリアが問いかけると、エルシアが『ああ』と理解の反応を示した。
「『手段』しか分かっていません」
「それがわかれば、充分ではないのか?」
 エクスマリアの問いかけに首を振るエルシア。
「動機と主犯が分かっていないんです。猫が踊ってお金を巻き上げる事件……ですが、なぜ猫がお金を? こうしてハンバーガーを買いに来るわけでもなし、お金をバスタブに埋めて飛び込みたいわけでもないでしょう。いや、そうじゃないと断言はできませんが」
「…………」
 胡桃は猫がハンバーガーショップにきて「てりやきバーガーセットくださいにゃ」と言い出す風景を想像してちょっと和んだ。あと札場風呂猫はちょっと見たかった。
「じゃあ、主犯は? 猫が犯人じゃないのかしら? ……あっ」
 胡桃はそう問いかけてみてから、自分ですぐに自分で理解した。声に出すと分かること、というものもある。
「誰かに頼まれたり、命令されたりってパターンもあるの」
「もしくは、誰かのためによかれと思って……とか、な」
 エクスマリアが『ありがちな話だ』と付け加える。
「その通り」
 文は手帳にさらさらとここまでの話を纏めてから顔を上げた。
「単に猫がお金を巻き上げたってだけの事件じゃない。平和的な解決を目指すなら、背後関係を洗うのは必要かもしれないね。
 僕はひとまず第八資料室に戻って化猫の資料を漁ってみる。過去に似たような事件がないかも調べようかな。皆はどうする?」
 エクスマリアが目をきらりとさせて言った。
「次に事件がおこりそうな店にいって踊ってみせよう」
 エルシアが目をきらりとさせて言った。
「次に事件がおこりそうな店にいって踊ってみせましょう」
 胡桃が目をきらりとさせて言った。
「次に事件がおこりそうな店にいって踊ってみせるの」
 そして、三人は沈黙した。たがいの顔をちらちらと見てから。
「「…………え?」」
 よりによって三人とも? という視線と声である。
 そんな中でおずおずと手を上げるイーハトーヴ。
「次に事件が起きる店に行って、猫さんに話を聞いてみたい……かな」
「あ、あ、私も現場に行って猫さんに言いきかせるつもり!」
 そしてまた、沈黙。顔を見合わせる六人。
 文以外全員現場に行くんかい、と。
「これはまた、面白いことになりそうだ……」
 文は手元のコーヒーに口をつけてから、小さい声で呟いた。


 事件が起きたらなにをする? そう、例えば君が探偵なら。
 手帳片手にインタビューをする?
 夜の寂れたバーに行って写真を翳す?
 図書館で新聞を並べて事件を探す?
 ここにいる五人はそうしなかった。
 だからあえて、あなたの頭の中でこんな音楽を流してほしい。
 黒人シンガーが歌い出すような、リズミカルなダンスミュージックを。

 扉が、扉が、開いた。現れたのは銀の燐光を纏ったような金髪碧眼褐色肌の美少女である。短く編み上げた髪をなびかせて歩くそのさまに、思わずナイトクラブの男たちは振り返る。
 それで終わったなら、今宵は不思議な夜だったで済むかもしれない。だが男たちは彼女の――エクスマリアの通り過ぎた直後にまた振り返ることになる。
 入り口の扉がまた開き、ファーのついたロングコートを羽織った金髪ハーモニアが前髪をかきあげながら店へと入ってきた。
 くり返すようだがここはナイトクラブ。ただナイトなクラブというわけではない。舞台にポールが立ったそれはそれは特殊なお店である。
 女性が一人で来る場所じゃないどころか、むしろ彼女たちは舞台にこそあがる女性に――少なくとも場の男たちには見えた。
 それだけなら。
 そうそれだけなら、今宵はやっぱり不思議な夜だったですむかもしれない。酒を飲んだ時のエピソードトークくらいにはなるだろう。
 だが男たちは彼女――エルシアが通り過ぎた後に謎の予感に背筋を震わせた。
 バタンと扉が開いた時、その予感は確信に変わる。
 そう。そうだ。長い髪に長い尻尾。学生服をバリッバリに着こなしたけもみみ少女があろうことか現れたのである。
 ショットグラスを手にしていた男が思わず『うそやん』と呟いたのは、なにも彼だけの感想に留まらないだろう。
 少女――胡桃は先の二人の例に漏れずずんずんと歩いて行くと、バーカウンターの前に立ち止まり(少々苦労しつつも)椅子へと腰かけテーブルをトンと叩いた。
 ここで酒を出すようならマスターもマスターだが、そこは流石に空気を読んでかチェリーの入ったソフトドリンクをそっと差し出す。
 マンハッタンというカクテルドリンクを知っているなら、これがそのノンアルコール版だとわかるだろう。
 マスターはさりげなく手をかざし、その方向を見てみると額がが不自然に広いサラリーマン風のおじさんがピッと二本指を立てていた。
 三人の美少女は同時にグラスに手を付けると、全く同時に飲み干して、そしてチェリーを口にくわえる。
 まるでそれが合図であったかのように、その怪奇現象は始まった。

 しん――と静まりかえった。
 薄暗い店内。ステージに淫靡なライトが照らされる。
 始まりの合図であり、誰もがそれを待っていた。
 期待に応えるように現れたのは、しかし期待を大きく裏切るものだった。
 全長にして1m半はあろうかという巨大な猫がステージの袖から現れたかと思うと、見事なキャットウォークでポールの前へと歩いてくる。
 ショットグラスを手にした男が『うそやん』と二度目の呟きを発するか発しないかというそのタイミングで――しかしそれは起こった。
 パッとライトがもうひとつ灯り、対面にいつの間にか用意されたステージが照らし出される。
 だれがどう用意したものか、いかに設置されたものかわからない。なんとなくだが、骨組みむき出しの天井にがしりと張り付いているフォルトゥナリアが何かしたのは間違いない。
 そして――。そうだ。いまあなたの脳内で一度音楽がついつい止まっていることだろう。
 お待たせした。シンガーの高らかなロングボイスと共に始めると良い。
 一つ目のライトでエクスマリアが照らし出される。
 銀の燐光は揺らめく深海の魚のように優雅で、腰をくねらせる動きにはダンスを見慣れた男たちもついごくりと喉を鳴らすほど。
 先ほどの額が広いおじさんに至ってはピン留めした札束を既に懐から取り出していた。
 二つ目のライトが照らし出される。
 ファーのついたロングコートをすとんと脱ぎ捨てたエルシアの容姿は水着のそれを越えていた。
 かつて、いかな水着ピンナップであってもしてこなかったようなド派手な露出がそこにはあった。ステージからそびえ立つポールに足をかけ、キッと力強く観客を見つめるエルシアの瞳にはプロ顔負けの淫靡さが宿っている。
 そう、真に色気を持つ者はその視線だけで人を魅了できるのだ。
 となると――バーのマスターはハッとして三つ目のステージへ振り返る。
 そうだ。胡桃が制服バリバリの格好でステージに立ち、きゅぴーんと両手と片膝を高く掲げた謎ポーズをとっていた。
 そこから繰り出すキレッキレのダンスには、思わずマスターは拍手を送ってしまう。
 対抗するのは巨大猫。ポールに尻尾と足を絡めくるくると回ったり、腰をなめらかにくねらせ猫の魅力を解き放つ。
 その力は――拮抗していたと言わざるを得ない!(額の広いおじさん曰く)
 そしておじさんは札束を天にぶちまける勢いで放ち、店の男たちも、マスターまでもが手持ちのお金を小銭に至るまでぶちまけたのだった。
 おひねりでいっぱいになった四つのステージ。
 正直何を見せられているのか誰も説明できないような、エピソードトークにするにしても現実味がなさ過ぎる光景に男たちが唖然としていると……そこでやっと、店の隅にいたイーハトーヴが立ち上がった。
「少し、お話を聞かせて貰ってもいいかな」
 続いて、天井に張り付いていたフォルトゥナリアがすちゃっと床に着地する。
「私からも、いいかな?」
 二人の視線を受け、巨大猫……もとい化猫は口を開く。
「この私に対抗するダンサーがいるなんて、ね。こんな夜は初めてよ。気分がいいわ。少しなら、話してあげる」
 あ、喋れるんだ。
 イーハトーヴは割と今更、そんなことを呟いた。


 店の灯りが全体的に明るくなった。
 化猫はカウンター席に座り、テーブルをトントンと叩く。
 出されたのはマンハッタン。さきほどのおじさんが(お金ない筈なのに)ピッと二本指を立てている。
 化猫はウィンクをひとつすると二つに分かれた尻尾をくねらせながらカクテルを口にする。
 その隣で。
「どうしてこんなことを?」
 多分誰もが聞きたいであろうことを、イーハトーヴは口にした。
「『どうして』? それはふしぎな質問ね。あなたはなぜ生きているのか問われたら、どう答えるか決めているの?」
「うん?」
 思ったよりもスケールの大きな話が帰ってきて、イーハトーヴは目をぱちくりさせた。
 フォルトゥナリアも同じだ。声に出してはいないものの、同じ質問をするつもりだったのだから。
 が、答えは案外別の所から返ってきた。
「『化猫は人に治癒や幸運をもたらす』」
 手帳を手に、かつかつと店内を歩く文だ。
 彼は慣れた様子で席に着くと、自分でカクテルを注文した。マンハッタンと似ているが、色の透き通ってチェリーののっていないもの。コスモポリタンだ。
「招き猫しかり、猫は幸運や癒やしの象徴としても知られているんだ。化猫がその側面を切り取ったのだとすれば、行為の原因はそこにある。そしてそれは存在のありかたそのものであって、行動原理よりも上位にある。だから、『なぜ』じゃないんだ」
 文の説明に、しかしイーハトーヴとフォルトゥナリアは納得いかなかったらしい。小首をかしげている。
 ちなみにダンサー三人娘は踊り疲れたのかそばのテーブル席でドリンクをちびちびやっていた。
「いいかい。人はお金を払うとき、少なからず気持ちがいいんだ。それも、好きなことに使うならなおのことね」
 散財をストレスの発散方法にしてしまう人がいるように、スパチャ文化が現代日本にあるように。
 そう言われて、イーハトーヴは『おひねり』の根本的な意味を思いだしハッとした。
「そうか……猫さんは、人を幸せにしたくてやったんだ」
「え、じゃあお金は?」
「これのことかしら」
 化猫は懐(どこだろう)から布袋を取り出すと、それをカウンターにドンと置いた。
「私には必要ないけれど、返されると気分を害するものなのでしょう?」
 フォルトゥナリアは目をぱちくりさせ、中身をそっと覗いてみる。すっごい量のお金だった。
「えっとね……お金を払うのは気持ちいいかもしれないけど、なくなっちゃうと悲しいのよ」
「悲しいと行けないの?」
 きょとんとする化猫に、フォルトゥナリアはくちをぱくぱくさせる。
 そしていろんな……哲学とかなんとか、そういう難しいワードがたっくさん頭のなかを流れた末に、こう叫んだ。
「『バランス!』」

 ここからは、後日談である。
 化猫が『いらないから』と置いていったお金は、事件の起きたお店を通じて当時の客たちに返されることになった。
 その際にちょっとばかりお金を突き返したり、どころか全額突き返す者がいたらしい。
 なんでも、『あの子また来ないの?』とか言いながら。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete

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