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シナリオ詳細

<0と1の裏側>渡る世間は魑魅魍魎

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●今、流行ってます
 ――気持ちを変えると自分が変わる。
      自分が変わると未来が見える!

 私共は『健康と環境の持続可能性を科学するウェルネス・クラフト・テクノロジー・ハートフル・ソリューションズ株式会社(WCTHS)』。この社名に聞き覚えの在る方は――ああ、大勢の方が。ありがとうございます。ありがとうございます、どうぞお手をお下げ下さい。
 御存知の通り、私共は健康食品販売を始めとした皆様の日々の健康をサポートさせて頂きたく活動している会社でございます。お客様からの反響もとてもよく……ええ、ええ。今日はご友人とのお誘いで? そうですね、皆様お誘い合わせの上で来てくださるほどに信頼を頂いておりまして、私共も嬉しい限りです。少し不安を感じていらっしゃった方もいるかと思います。ですが、今実際此処に来て、ご自分の目で見て、いかがでしたでしょうか? 私共に怪しい点が無いことはご理解頂けるかとは思いますが、けれども懸念というものは残るもの。お時間が許すようでしたら今後のお話で――……

 再現性東京202X:希望ヶ浜市、何処かの雑居ビル。
 最近市内各地でセミナーを開いているWCTHSが、今日も室内に集う人々へ語りかけていた。
 やっていることはよくある怪しげな健康食品を売る会社みたいに、自己啓発セミナーやストレッチ教室。運動をしたら是非どうぞと美味しい水を飲めば、気分も爽やか。身体も軽くなった気がする。また来ようと晴れ晴れとした気持ちで人々は帰路へとつき、友人知人を誘ってまたやってくる。
 ――たまに帰らぬ人がいることに、気づかぬまま。

●騙されてます
「何だかわたし、最近変わったと思いませんか?」
「……はあ」
 何故だか唐突にドヤ顔で澄恋(p3p009412)に告げられた劉・雨泽(p3n000218)が生返事を返す。視線はすぐに横にずれて澄恋の隣、耀 英司(p3p009524)へ。『彼女、どうしちゃったの』の視線を受けた彼は両手を上向けて肩をすくめて見せた。
「素晴らしいお話を聞いて、ちょっとした運動と健康的な食事で、人は変われるのです」
「へえ」
「知っていますか、雨泽様。健康食×オイルストレッチ、それは古代メソポタミアの祈りの形でもあったそうです」
「ははあ。……メソポタミアってなに」
「わたしもそこまでは至れておりません」
 雨泽の視線が英司へと向かう。――止めてくれない?
 英司は肩を竦めたまま小首を傾げる。――面白いから嫌だね。
「こちらの食品は注目の中南米健康食、キノコとハーブの不思議な力で……」
「……へー……」
「聞いてますか、雨泽様」
「聞いてるよー」
「それでですね、とても良かったので、皆様もどうかなって思って」
「なるほど?」
 これは何かの商法に嵌って、騙されてるぞ。
 ちょっと話を聞いただけでも雨泽だって解る。これは健康食品販売、自己啓発セミナー、ストレッチ教室とかをやっている信憑性やエビデンスに欠ける疑似科学を主体としたよくある怪しいやつだ。澄恋が手にした食品とて、怪しい……。
 雨泽の視線は何で止めないのと言いたげに英司へと向かった。
「因みに、何ていう会社?」
「ええっと、うぇるね……ごめんなさい、会社名は少し長くて……ハートフルが入っているのは覚えているのですが」
 ハートフルだなんて、正しくわたしにぴったり!
 にこにこと告げる澄恋へ、雨泽がいつも通りの笑みを返した。
「ごめんね、澄恋。ちょっと英司を借りてもいいかな」
「日にちを相談されるのですか? どうぞどうぞ」
 澄恋は他のイレギュラーズにも一緒に行きませんかと勧めに行き、笑顔で見送ってから雨泽は英司と肩をガシッと組んだ。
「……解ってるでしょ、君」
「おいおいおいおい、藪から棒に何の話だ?」
 ――WCTHS。その会社の背後には天義を発とする世界的な新興カルト宗教『綜結教会(ジンテジスト教会)』がある。セミナー等を開いて健康に対する人々の意識を利用し、徐々に背後にあるカルト教団への入信を誘うのが奴等の手口で、健康食品と銘打たれた商品は――口にすれば確かに健康になった気になれる。だがそれはそこに含まれる違法な薬物等のせいである。
 その情報は練達復興公社から回ってきたばかりだから英司は知らない訳だが、ただ怪しい集団であることは彼とて知っているはずだ。それなのに何故止めないのかと雨泽は英司へ問うたのだ。
「――俺は、俺の在処に土足で踏み入るような奴等を許すつもりはねえ」
「わあ」
 つまり、澄恋がイレギュラーズたちを誘うところまで好きにさせておいて、皆の力を借りて完全に潰すつもりなのだ、この男は。
「まあ練達の警察側からの依頼があるからちょうどいいんだけどね」
 澄恋だけには知らせず、楽しい買い物に行こうか。
 いつも通りニッコリと笑った雨泽へ英司が拳を突き出し、雨泽はそれにコツリと返す。
 悪いものは、潰してしまおう。WCTHSの職員や教団の信者などを一斉に摘発し、お縄につけるが一番だ。
 きっとそれは末端でありトカゲの尻尾だろうけれど、WCTHS――彼等は遂行者等と関わりがあるだろうことを雨泽が囁いた。

GMコメント

 ごきげんよう、壱花です。
 健康食品を取り扱っているお店に行きましょう。健康になれますよ!
 ここにあるのは全てPL情報です。

●目的
 WCTHSの一斉摘発

●シナリオについて
 澄恋さんは『新しい自分に変われる』につられてものは試しに行ってみたら、いいところー! となってしまいました。何もかも上手くいく輝かしい未来がきっとこの先にあります! やったね!
 澄恋さんは信じています。他の方は信じていてもいいし、事情をちゃんと雨泽や英司さんから聞いていてもいいです。信じていたほうがボロが出にくいかと思います。
 出来るだけ目的がバレないように立ち回り、一斉に摘発して警察に引き渡すことが目的となります。
 また、何処かに拉致された一般人がいます。人の出入りの多いビルなので、当然解りづらいような場所でしょう。バレないように探し出し、救出してあげてください。

●フィールド:練達『WCTHSショップ』
 とある雑居ビルです。1階で健康食品販売のショップをしており、他の階でセミナーやストレッチ教室を開いています。職員用の事務所と……元々はヤのつく自由業の方々の事務所にしていた雑居ビルなのでしょう。そちらの事務所もあります。
 拉致された人々を発見すると手まみれ天使のようなものが現れ、襲ってきます。

●エネミー『量産型天使カスタム』2体
 量産型天使の中に散見される、強力な個体です。見た目はシナリオトップに出てる感じです。飛行型です。沢山のお手々を蠢かして飛んでいます。非常に気色悪いですが、遠目には天使のようにも見えます。旦那様研究のインスピレーションとなるかもしれませんね。
 通常の量産型天使よりも強い存在です。原材料はなんでしょうね?
「……テ、ロシテ」
「……ゥ、ァァィ、ィァ」
 と喋りますが、敵を排除するよう命令が下っています。また、一般人も巻き込んだ攻撃をします。EXFとEXA、命中が高いようです。

●『店長』
『スピリチュアルコンサルタント』という役職を与えられた『致命者』です。
 運が良いことに決行日に留守にしていました。(出てきません)

●WCTHSの職員
 ショップ店員は主に信者とヤのつく自由業の皆様方。お客様として大人しくしていれば優しく接してきますが、「そちらは関係者以外立入禁止です」等言っても皆さんが突破しようとしたりすると、オラオラしてきます。
 セミナーは綜結教会の信者たち。

●拉致された人々 3名
 ビル内の何処かにいるようです。
 「ふたり連れて行かれた」みたいな話が聞けます。
 そういえば、何で拉致されたんでしょうね……?

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●EXプレイング
 開放してあります。文字数が欲しい時に活用ください。

 それでは、イレギュラーズの皆様、宜しくお願い致します。

  • <0と1の裏側>渡る世間は魑魅魍魎完了
  • 私たちと一緒に明るい未来を!
  • GM名壱花
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年07月01日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ウェール=ナイトボート(p3p000561)
永炎勇狼
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
松元 聖霊(p3p008208)
それでも前へ
楊枝 茄子子(p3p008356)
虚飾
ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)
人間賛歌
耀 澄恋(p3p009412)
六道の底からあなたを想う
耀 英司(p3p009524)
諢帙@縺ヲ繧九h縲∵セ?°
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女

リプレイ

●こんにちは、ねこです!
「こんにちは! ご友人も誘ってとのだったので仲間と飼い猫のたまきちを連れてきました!」
 にっこり笑顔の澄恋は純度100%のぴゅあぴゅあ瞳。
 にっこりと笑んだ店員は、小さくこくんと顎を引く。
 そうして。
「お引取りください」
「えっえっ?」
「にゃにゃ!?」
 ショップの敷居を跨ぐこと無く、澄恋と抱き抱えられた猫――『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)の眼前で容赦なく自動ドアは閉ざされ、すぐに入ってこようとされないようにロックされた。
 当然、ショップに犬猫等の動物を連れ込もうとする者など、出入り口で止められる。常識的に考えて欲しい。どう考えても性質の悪い客でしか無い。
「えっ、えええーーーーーーー!?」
「にゃっ、にゃにゃにゃーーーーーー!?」
 で、で、で、出オチ~~~~~~~~~~!?

 ――時間は少し遡る。
 とても良い経験をしたのだと語る澄恋は善意100%で皆を誘った。それはもう本当に生き生きとして幸せそうで、凹んでいた彼女の姿を知っている『医者の決意』松元 聖霊(p3p008208)からすると本当に良かったと思えるもので――
「……な訳ねぇだろうがアホ! 英司! お前がありながらなんでこんなことなってんだ!? おい! 目ェ離すなって言っただろうが! 左目の治療もまだまだなのに変なサプリやら健康法(笑)とやらで治療に支障でたらどうすんだよ!」
「まあまあ、落ち着けよ聖霊」
「こんな状況で落ち着いてられっか!」
 聖霊は『怪人暗黒騎士』耀 英司(p3p009524)を隅へと呼ぶと彼の襟元を掴み、とても器用に小声で叫び、どうどうと両手でジェスチャーする英司をガックンガックンと揺さぶった。医者からしたら、本当に巫山戯た案件だった。本当にこの患者たちは愚か者が過ぎる。
(ここを完膚無きまでに叩きのめしたら、次はお前だからな、澄恋ェ!)
 ギリリと病巣を見つけたような鋭い眼差しで睨まれていることを、澄恋は知らない。
「この子を連れて行ってくれ」
「コイツは……」
 英司の手にふかりとした熱が乗った。
「ハムスターだ」
「わぁお! 可愛い子ちゃんじゃあねえか」
 こんな時に渡されるハムスターがただの愛玩動物であるわけがない。『永炎勇狼』ウェール=ナイトボート(p3p000561)に手渡されたハムスターを英司は胸ポケットの特等席へと案内した。
「俺は先に一般客として入る」
 完全な人型でないといけないからとアノニマスで凡庸な一般客に姿を変えたウェールは、澄恋たちよりも先に店へと向かった。
(練達にまぁたカルト宗教が来たよ。練達は羽衣教会のものなのに。ムカつく)
 澄恋には「うんうん楽しみだね」と笑顔で返している『嘘つきな少女』楊枝 茄子子(p3p008356)の心は荒れていた。仕方がない。他宗教を認める神のほうが少ないし、しかも綜結教会は教えが被っている。
(ぽっと出のくせに。絶対に潰してやるから。お前らの思い通りにはさせない)
 これはもう宗教戦争だって辞さない。
 心の中で物凄く敵視しながらも、茄子子は『普段と違う顔』でにっこりと微笑んだ。
(明らかに不味い組織ですよね……)
 ありきたりな雑居ビルでショップとセミナーとストレッチ教室とかやっているって時点で、まーーーー怪しい。そんなこと『未来への葬送』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)にだって解る。
(……私には純粋さが足りないのでしょうか?)
 ちらりと視線を向ければ、純度100%の鬼娘が「早くいきましょう!」と元気に手を振っている。
(でもどんな研究をしているのか気になるので、聞いてみなくては)
 そうしてマリエッタと茄子子は汰磨羈を抱えた澄恋についていき――一緒に締め出されたのだった。

(おれはもはや並みの幸せではなびかんぞ)
 求婚を受け入れてもらえた『陽気な歌が世界を回す』ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)には今、それ以上の喜びはない。
 こっそりと8ミリビデオカメラを鞄に忍び込ませたヤツェクは、客に混ざって店内に入り込んだ。バレた時用に売れない芸人の突撃レポの装いもし、手に取った瓶の食品表示欄を撮影したりした。
「こりゃあいい商品だらけだ!」
「原材料にも拘っております。お口に合わないこともありますので、希望がありましたらご試食も可能ですよ」
 店員は撮られていることにも気づかず、にこやかに接する。
 ここに並んでいる商品は警察の介入等があっても大丈夫なように、スーパーにあるものを詰め替えたようなものばかりだ。本当にヤバいものはセミナーを受けた者やそれを含めたカモ(常連客)にのみ『特別な健康食品』として販売されている。澄恋が所持している健康食品もセミナー後に購入したものだ。
 客たちの信心はWCTHSへ向けられているが、商品が褒められる事に関してはヤツェクのカリスマに惹かれて同調するだろう。素晴らしさを陽気に歌い上げれば、みな素晴らしいと称賛していた。
「お客様、何かお探しでしょうか?」
 店員が聖霊の元へと向かった。
「俺は医者でな。最近患者からココの話を聞いて治療に使えそうならうちに置いてみてもいいかと思ってよ」
 というのは勿論嘘だし、表情は胡散臭いと思っている事を隠していない。
「ああ、お医者様ですか。やはり疑わしいですよね」
「すまない、顔に出ていたか?」
「ご納得されるよう、説明させて頂きますね」
 ショップ店員が声に力を籠めた話し出す。ああ、これは長引きそうだ。
 ヤツェクが客たちの視線を集めている間に階段近くへとウェールが移動すれば、店外が騒がしくなった。澄恋たちだ。その隙きにウェールはするりと階段影へと入り込み、音を立てずに上っていく。
(本当に食べるだけで健康になれるのなら息子たちには食わせたい、が……)
 親として我が子にはいい物を食べさせたい。人として愛してる者にいい物を食べさせたい。美味しく食べれて健康にもいいなら誰だって買うだろう。
(この店はそんな思いを踏み躙っている)
 チラリと見た店内に居た客たちは、殆どが信じ切った顔をしていた。もしかしたら病気の家族を抱えた者とて居たかもしれない。そういった者はきっと藁にでもすがるいいカモだ。
 2Fはどうやら会議室のようだ。透視で覗き見ても違和感はない。ひとつの部屋ではどうやらセミナー中らしく、複数人の老若男女が居た。
 階段はひとつきり。廊下には女性用トイレしか無かったことから、男性用は3Fなのだろうかと思いながら階段を上った。

「あー……聖霊と汰磨羈はいつ来るんだ?」
 屋上にひとり、英司がぽつり。裏方作業組のふたりを待っている。
「なあ、ウェール」
 胸ポケットで顔をクシクシしているハムスターに話しかけてみたけれど、ウェールからの返答は無かった。

●私はねこである
 名前はたまきち。
 今日は澄恋の飼い猫という立場でここに来たが追い出され、誘ってきた澄恋には置いていかれ、どうしたものかなと外で考えている。とりあえず、肉球に熱されたアスファルトがとても熱い。
 だがまあ、私はねこだぞ?
 正面からの潜入が出来ないのならば別のルートを探せば良い。こういう雑居ビルには大抵店員たちの移動用であったり火災用に外階段がついているものだ。ほらあった。
 とっとっとっ。見よ、この軽やかな駆け上がり! 実にねこらしいしなやかな動きであろう。狸だなどと誰も言うまいて。
 そして屋上には……ほら、あったあった。通気――んん? なんだこのキノコみたいなのは。ねこが入れないではないか。
「お、汰磨羈、来たか」
 にゃ。その声は英司。このキノコのようなものを開けるのだ。そう、そうだぞ。えらいぞ、流石はねこのしもべ。入れるのかって? 蓋さえ開けばこちらのものよ。ほれ見ておれ、こう、ねこらしく、液体みたいにどぅるんっと……おち、おち……にゃあぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁぁ――……

「ねこ、置いてきました! 入れてください! お買い物したいです……!」
 必死に頼み込み、胡乱げな視線に(同行している茄子子とマリエッタが)耐え抜き、何とか店内へ入れてもらった澄恋であった。が。
「重鎮の方にお礼を直接伝えたいのですが何方にいらっしゃいますか?」
「ええ……」
 またも店員は言葉を詰まらせる事態となった。この鴨客、常識がなさ過ぎる。たった数回通っただけの客が企業のトップに会える訳がない。
 ――皆さんは既にお気付きだろうか。
 実は澄恋は、このウェルネス・クラフト・テクノロジー・ハートフル・ソリューションズ株式会社(WCTHS)の人たちからは『痛客』だと思われている。異形は『怪異』である希望ヶ浜市において角を曝し、常に白無垢姿、そして目に眼帯とくれば――「あっ、そういうお年頃(中二病)なのかな」と思われてしまっても仕方がない。
「ここでお肌が剥きたてのゆでたまごみたいになるって聞いたんですけど! 澄恋くんみたいになるって! 聞いたんですけど!!」
 つまり。
「ところで、どんな血を使ってるんです?」
 変な言動をすれば。
(あ~~~~~~、同類か~~~~~)
 という目で見られてしまうのだ。
「……ごほん、なんか変な言葉が出てしまいました。気にしないでください」
 いや、気にしますよ。店員たちはもう疑念でいっぱいだ。
「澄恋さんの話を聞いていたらとても興味がわいてしまって……私も自分の美容には手が抜けないタイプなので新しい自分になれるぐらいに、素敵な物があるならぜひお話を聞いてみたいなぁと」
「でしたら私が商品説明をしますね」
「いえ、出来ればもっと沢山の商品を管理している人からお話を伺うことはできませんか?」
「申し訳ありません、店長は今日は休暇を頂いておりまして」
 そうですかと、一応分別のあるマリエッタは引き下がる。澄恋への対応を見ていても、それ以上の収獲は得られないだろう。

『うわぁ、また来たよこの客……』
『やべぇよ、この客……誰か助けて』
『……暗い、怖い』
『にゃぁぁあぁぁぁぁ』
『……うぅぅう……』
『……タイ……ケテ』
『……ロシテ……』

 茄子子と聖霊、英司の人助けセンサーがそんな声を拾った。全ての声は同じくらいの大きさで、場所は全て近いことが解った。人が密集しているであろうこの地ではもっと遠くからの様々な助けを求める声も多く、雑音が多い。
(猫は汰磨羈だな)
 と言う事は、全て同じ建物内にいるのだろう事は解る。
(人員的なヘルプを求めているのは店員だね)
 店内を見渡して直接視界に入れた茄子子には、どの店員かが解った。
 では、後のものは? この建物内で確実に誰かが助けを求めていることまでしか解らない。

 ――――
 ――

「に゛ゃっ」
 旅の終点へと辿り着いた汰磨羈の体は、格子をぶち抜いた。
 しかし慌てること無くくるくるしゅたんと降り立って、室内を見る。
 室内は暗く、そして寒く――何かが蠢いた。
(人だ。拉致にあった被害者か?)
 猿ぐつわをした人影がみっつ。汰磨羈(猫)を凝視している。強張りが溶けるのを見て、彼等が突然現れた不審物に怯えていたことが解った。
 安心させようとねこの姿から戻ろうとし――汰磨羈はイレギュラーズとして忘れてはいけないことを思い出す。此処は『再現性東京202X:希望ヶ浜市』である。猫が人になることは『怪異』であり、それは此処の住人たちには恐怖を与える行いだ。恐怖を与えれば彼等は容易に気を失うし、怪異に遭遇した記憶が残る。それはよくない。
(早く誰か来るのだ……!)

『私は地下だ! 助けが欲しい!』

 ――地下か!
 いくつもの雑音の中に、汰磨羈の声が響いた。聖霊が近くにいる仲間たちへ知らせ、茄子子がハムスターへと声をかける。ウェールは途中で合流したヤツェクとともに階下へと向かい、英司は――
(コイツ等が行かせてくれなさそうだ)
 屋上の扉を蹴破って侵入した英司は、5Fの事務所にいた。そこで『ちょっと手荒な話し合い』をして、けれどやはり上階で動けば埃がたつもの。下の階の連中がガヤガヤとちょっぴり物騒な得物を手に『ご挨拶』に来たところだ。
 視界に入ったパソコンのモニターの中には1Fのショップが映し出されているのをチラと見た。下のことは頼りになる仲間たちが上手いことやってくれることだろう。
「んだ、お前ェ! やんのかコラ!」
「どこの組のもんだ!」
「おいおい、台本でもあるのか? 三下のセリフ吐きやがって」
「あ゛あ゛ん!?」
 血の気があって大変よろしい。
 そうでなくては、この気持ちの晴らしようもない。
「すまないな、少し離れていてくれ」
 胸ポケットからハムスターをぷらりと摘み上げ、神棚の上へと退避させる。今から行う荒事は『話し合い』では済まない。巻き込まれたらハムスターが可哀想だ。
 心の隙につけ込まれるのは、助けて欲しいからだ。
 隙が出来るのは、一人で居られる強さを持ってしまっているからだ。
 そんな澄恋の心の隙に、こういう奴等は容赦なく踏み入ってくる。
(業腹だ)
 ネクタイへと指をかけて緩めると、英司の姿が変わっていく。それを見せるのは、本来ならいけないことだ。
 しかし英司は、コイツ等全員、澄恋を傷つける者全て、殺したいほど憎かった。
(記憶が飛ぶくらい痛めつけてやるよ)
 ――弱くなっていい。澄恋。君はとっくに強く、俺はその弱さごと愛している。

「地下への入り口は? 1Fには上に昇る階段しか無かったぞ」
 上へと向かう階段はセミナーやストレッチ教室等の関係で、解りやすく、そして清潔感が保たれた状態でご丁寧に『こちら』と小さな看板も置いてある。
 ざっとショップ内を見渡してもそれらしいものは見当たらないし、ウェールの透視にも引っかからない。
 ――だが。
 上へ登る階段裏の大量のダンボールが積まれた店舗側スペース。余裕で1m以上の幅があるため透視は出来ないが、ここしか無いだろう。
「ちょ、ちょっとお客さん!」
「どいてくださいません?」
「危ないから下がっていてくれ」
 缶詰でもぎっしりと詰まっているのだろうか、とても重たいダンボールを乱雑にどけようとすれば店員が慌てて阻害しに来る。それを手荒く弾き返しながら障害物を退ければ――
「あった」
 扉と、地下階段への入り口。
 完璧な変装で羽衣教会の会長だとはバレていない茄子子は、階段へと足を踏み入れるとすぐ《オルド・クロニクル》を展開させた。神秘が明かされることはご法度だ。突然のビル崩壊。そしてそれを人が神秘を行使して崩壊させたと知られるのもよくない。
 イレギュラーズたちは地下への階段を駆け降りる。
「ここですか? 御無礼!」
 ――ドォン! 『か弱い』一撃で鉄の扉が吹き飛んだ。
「ご無事ですか!?」
 同時にマリエッタの高い声が響き、室内に居た三人が目を剥いて埃が舞う出入り口へと視線を向ける。
 室内へとイレギュラーズたちが足を踏み入れた、その瞬間。
 ――ぞわり。
 イレギュラーズたちの後方で厭な感覚が膨れ上がった。
「――いけない。一般人に目隠しを!」
 練達事情に通じている茄子子が鋭く声を上げた。神秘は秘匿せねばならない。
「すまぬ」
 一般人たちの背後へと回っていた汰磨羈が変化を解き、ととと、と素早く手刀をみっつ。一般人たちの意識を刈り取った。
 その間にも、他のイレギュラーズたちは敵性反応らしきモノへと視線を向けている。
「あら~おててが沢山で可愛らしい! 企業ますこっとですかね」
「わぁすごい。マスコットとして0点の造形だぁ。え、可愛い? ……可愛い、かぁ?」
 どう見たってこの造形は……と幾人かのイレギュラーズたちの考えは重なり、視線だけで考えを伝えあった。思い描いた最悪の答えはきっと正解だ。
「どうやって動いてるのでしょう? よし、ちょっと解体してみましょうか!」
 ……勿論、澄恋は解っていない。
「……タ、ケテ……タイ」
「イタ、……ィタイィタイィ」
「……無理して喋らなくていい。絶対に楽にしてやるから」
 きっと、殺すことでしか救えない。
 イレギュラーズたちは隠し持っていた得物を取り出し、戦闘体勢へと移行する。
 聖霊がぎゅっと唇を噛む。
 ――尊厳を守ってやることも、医者の役目だ。

 ――――
 ――

 出来るだけ長引かずに終えたかったが、悍ましい天使との戦いはかなり長引くこととなった。
「怖かったな。もう大丈夫だ」
 目覚めた一般人たちは室内にあった最低限の水と食料のみで数日間命を繋いでいたらしい。やせ細った体を震わせ涙を流し、落ち着くとぽつりぽつりと話し出す。
「……ふたり、連れていかれたんです」
「……きっと何処かにふたりが……」
「……おれたちが探しておく。直に警察も来る。アンタたちは体を休めてくれ」
 被害者の肩へと手を置いて、ヤツェクが口にした。
 連れて行かれたふたり、先程の天使もどきが二体……ああ、カクテルの一杯でもひっかけないとやっていられない。
 警察への引き渡し等、やるべき全てを終えたら、高級ホテルのバーでの一杯に皆を誘ってみるのもいいかもしれない。

『英司、そちらはどうだ? ……と、今度は繋がったか』
 ハムスター越しに初めてハイテレパスが飛んできた。英司は知らないことだが、2Fでも3Fでも、ウェールが試みていたことを英司は知った。不格好な天使たちがジャミングしていたのだろう。
「ああ、こっちも今終わったところだ」
 英司はサッカーをするように、容赦なく足元の男の頭を蹴り飛ばす。
 澄恋の心に汚い脚で踏み入ったんだ、これくらいで済んで安いものだ。
 真変身は解いてある。まあ、死にゃぁしねえだろ。

 英司が上階から、その他のイレギュラーズたちが下階から戻った時、他の店員――敵組織の関係者たちは全て逃げた後だった。

成否

失敗

MVP

耀 英司(p3p009524)
諢帙@縺ヲ繧九h縲∵セ?°

状態異常

なし

あとがき

皆さんの個別行動が多すぎて戦闘の文字数が……なのですが、マスコメに強敵とあるとおり、かなり長引いています。
また、「WCTHSの職員や教団の信者などを一斉に摘発」とOPにありますとおり、押さえなくてはいけない関係者たちへの対応を誰もしていないため、1~3Fに居た関係者たちは騒ぎで全員逃げました。
色々予定が狂いまくってひとりで事務所で大忙しとなった英司さんへMVPを。

お疲れ様でした、イレギュラーズ。

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