PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<黄昏崩壊>枯花の楽園

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 地が揺れる。
 大地の叫びが聞こえる。
「ラドン! ラドン! ラドネスチタ!」
 黒い翼を有していた少女は叫んだ。慌てて走り寄ってくる子供の名前は『転寝竜』オーリアティア。
 伝承で知られる『微睡竜』オルドネウムの系譜に連なるという竜だ。
 その手にはつるつるとした甲羅を有する手脚が異様に長い亀のようなモンスターを手にしていた。
「スベスベゴンザレスが逃げていこうとしているぞ。何かが起こる!」
「起こっているの間違いだろう。ティア」
「んむ? 確かに、そうだな。あははは! ヘスペリデスが崩れて云ってるぜ……崩れて……ああっ、ぼくの寝床は!?」
 大慌てをしている竜種の子供にラドネスチタは嘆息した。ラドネスチタが幼子の姿を真似るのはオーリアティアの為である。
 物怖じせず、自らが伝承竜の系譜であると言って憚らぬオーリアティアは他の竜種にも避けられるラドネスチタにも友好的な存在だ。
 その気易さは竜種だけではない。イレギュラーズにも発揮されたらしい。
 勿論、オーリアティアがイレギュラーズを同等の存在として認識しているわけではない、が、『ご先祖様』を好きな者をオーリアティアは好きなのだ。

 ――ぼくのご先祖様はすげーんだぞってのを知ってる奴らは好きだ。けど、ぼくときみたちは同等じゃない。ぼくは竜で、きみは人だ。

 敵対していないからこそ、彼等のことも気になった。あのちっぽけな『人間』たちは巻込まれてしまうのだろうか。
「……人間、大丈夫かな」
「さて」
「ラドンはどうするんだ? ベルゼーは、ぼくたちに逃げろって言ってた。逃げるのか?」
「……さて」
 ラドネスチタはその場で動かぬ儘、座った。オーリアティアは「へんなの」と呟いてから顔を上げる。
 この場所が崩壊することが近いことを知っていた。ベルゼーが暴走すれば竜だって一溜まりも無い。
 オーリアティアが其れを知っていたのは、300余年も前に天帝種の一匹がその身をベルゼーに投じて暴走『未遂』を止めたからだった。
 僅か300余年も前の話だ。酷く困った話ではあるが、彼女の体がそろそろ消化され尽くされてしまうと言うのは皆も知っていた。
(そんなもんだよな。竜だって、人だって、肉だもん)
 オーリアティアは呟いてから、嵐の兆しばかりをながめていた。
 聞こえる。天帝種の一匹の叫びが――ジャバーウォックだ。
 こうもなれば、彼等が行なうのは簡単な結論だけである。
「ベルゼーを護るんだろうなあ、あいつら。ぼくはしらないぜ。ぼくは、好きなように生きる」
 竜だって一枚岩じゃない。たまたま、ベルゼー・グラトニオスが好かれやすい性質を有していたことも、彼が竜に愛されたことも、そうした特異な存在だっただけに過ぎない。
 オーリアティアとてベルゼーは好きだ。ジャバーウォックのことも、ラドネスチタの事も好きだ。
 それでも。
「ぼくは『オルドネウムの系譜』なんだぜ、優先するのはこの血だけ」
 ――あと、素直なことを言うと寝床を壊されたのがむかつく。


 遂にベルゼー・グラトニオスの権能が『暴走』し始めた。
 時間が限られているとは聞いていた。だからこそ、それ程驚くことではないだろう。
 彼の権能は先ずはヘスペリデスを喰らい尽くすだろう。ヘスペリデスへと辿り着いたイレギュラーズを待っていたのは竜種であるオーリアティアだ。
「寝てる暇も無いぜ」
 少年のように話す竜は唇を尖らせた。後方では木の幹に背を預けて座っている人の姿をしたラドネスチタの姿が見えた。
「ラドン、今考え事の最中なんだって。きみたちも逃げた方が良いんじゃない?
 ジャバーウォックはベルゼーを護ろうとするぜ。ぼくはさ、どうでもいいっちゃいいんだけど」
 オーリアティアは言う。ベルゼーの周辺に居る者は彼の延命のために覇竜以外の場所を彼の『餌』にするつもりだろう、と。
 その為には小腹を満たすためにヘスペリデスを食らい付くし、落ち着いた頃にその標的を外――練達や海洋に向けるだろうと想定されていた。
 時間稼ぎのためにジャバーウォックは動き出した。其れだけではない。此れを機だと感じた竜種達が行動を開始したのだ。
「ぼくはラドンがどうするか決めたら此処から去ろうと思ってるよ。まあ、どうするか決まらないけど」
 からからと笑ったオーリアティア。人間のことは嫌いでも好きでも無い。ただ、生物として大枠で認識している。
 幼竜だから、と理由を付けているが本音はオーリアティアの先祖であるオルドネウムは『勇者』と冒険をしたと伝わっているからだ。
 ――目の前の人間が勇者っぽいから、ちょっとだけ話し相手にしてみただけである。
「ぼくが止めてもきみたちはきみたちの遣ることがあると想ってるぜ。だから、まあ、此処であったのも何かの縁だしさ」
 オーリアティアはそっと目の前を指差した。
「ぼくの寝床を台無しにしたあいつら、どうにかしようぜ。
 あれ、『女神の欠片』なんだってさ。きみたちがここに入ってこなければこうならなかったのかもしれないし、ベルゼーが暴走しなければああならなかったのかもしれないし。
 色々考えることはあるけどさ、ぼくが言えるのはただ一つ。
 あれ、きみたちにあげるから、とりあえずラドンが考える時間だけ与えてやって欲しいの、と。
 ――ぼく、寝床台無しにされるの一番嫌いなんだよね。殺そう?」

GMコメント

●成功条件
 レムレース・ドラゴンの撃破(女神の欠片の確保)

●『眠竜の寝所』
 イレギュラーズが整備して上げたオーリアティアの居所です。今はレムレース・ドラゴンに荒されています。
 周辺には壊れてしまったテントや、引き裂かれた布などが散らばっています。
 後方の巨樹の幹には人間の姿をしたラドネスチタが凭れ掛かり何かを考えて居るようです。
 レムレース・ドラゴンを倒す事で女神の欠片を確保することが可能です。

●『レムレース・ドラゴン』
 ・灰色の翼 1体
 非常に巨大なドラゴンです。オーリアティアが相手にしています。
 倒しきるだけは、オーリアティアに任せておけば大丈夫です。
 範囲攻撃を得意としているのか、周囲を巻込もうとしてくるようですが……?

 ・暗色の翼 1体
 灰色の翼と同じく巨大なドラゴンです。イレギュラーズに襲いかかってきています。
 単体攻撃を得意としており非常に堅牢です。ダメージが高く注意をするべきでしょう。
 詳細は不明ですが、非常に強力なユニットです。

 ・小さき翼達 20体
 ワイバーン程度の大きさです。イレギュラーズに襲いかかって来ます。
 個体ごとに差異があり、回復・支援・庇うなど様々な役割分担を得意としているようです。
 数が多く連携を得意としています。注意をし連携を崩しましょう。

●『転寝竜』オーリアティア
 この地に棲まう幼竜。長い時間を眠ることで知られる『微睡竜』の系譜であり、オーリアティアもよく眠る。三度の飯より眠るのが好き。
 竜としての姿は暗褐色に近い。今回は人間の姿をして戦います。竜としての意地と相手を侮る典型的な竜種ブレイン。
 戦う事は余り好まず、未だ年若い竜であることから発展途上とも言えるが、眠り続ける為に堅牢な肉体を有する。
 防御に優れ、ちょっとやそっとのことでは怯まない。ただし、其方に能力を振った為か攻撃に関してはからっきし。
「まあ、それでもあんなやつ、殴ればなんとかなるよね」

●『狂黒竜ラドネスチタ』
 通称をラドン。ベルゼーの友とも言える存在です。
 人間から見れば巨大な竜です。この一体を包み込むほどの黒き瘴気をその身から発します。
 普段はもの凄い大きな体をしていますがオーリアティアに合わせて子供の姿をとっています。
 ベルゼーの友人であると認識していたイレギュラーズが彼を倒さねばならない現状に対して憂いているのか何か考え込んでいます。
 攻撃・防御共にそうした動作はとりません。オーリアティア曰く「まあ、放置しても怪我するくらいでしょ! あはは!」

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <黄昏崩壊>枯花の楽園完了
  • GM名夏あかね
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年06月28日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
大樹の精霊
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
鏡禍・A・水月(p3p008354)
鏡花の盾
オウェード=ランドマスター(p3p009184)
黒鉄守護
煉・朱華(p3p010458)
未来を背負う者
ヴィルメイズ・サズ・ブロート(p3p010531)
指切りげんまん

リプレイ


「この異変。いよいよ暴食が、抑え切れなくなった、か……? なんにせよ、マリア達にやれることは、変わらぬようだ、が」
 天を仰げば、瓦礫が空へと吸い込まれていく。全てを飲み尽くさんとする暴食を前にして『金の軌跡』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)はヘスペリデスの大地を踏んだ。
「ぼくと利害が一致したんだろ? きみたちが此処に来たかとかベルゼーがどうしたとか、ぼくはそういうのあんまり考えないんだよね」
 唇を尖らせたオーリアティア。靴先で大地をぐりぐりと穿っている幼竜はまるで子供の様な姿をしていた。その背後には座りながら溜まり何かを考えて居るラドネスチタの姿が見えた。視線を向けてから『蒼穹の魔女』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)は「よし」と杖を握り締める。
「オーリアティア君、無茶はしないでね! いくら竜と言えども、怪我したら直ぐに治らないんだから!」
「いま、ぼくのこと侮った? うそうそ、心配って言うんだろ。けど、無用だぜ、きみたちが生き残ることを優先した方が良い!」
 オーリアティアは威嚇でもするように眼前のレムレース・ドラゴンを睨め付けた。灰色の翼とオーリアティアが呼んだそれは巨大だが、本来の姿のオーリアティアからすれば『丁度良い相手』なのかもしれない。
「……ラドネスチタさんは何を考えていらっしゃるんでしょう?
 出来たら邪魔はしたくはないですね、名案があるかもしれませんから」
 後方のラドネスチタを見遣った『守護者』水月・鏡禍(p3p008354)にオーリアティアは「パパが殺されるかどうかだと思ってるんだよ」とさらりと返した。
「ふむ……黒い竜も悩んでいるんじゃな……。
 それに、寝床を荒されたか……あ寝床を荒らされたらワシも困るからのう……ワシが来たからにはこれ以上荒らす事はさせぬ……」
 青き薔薇の花を護る為に誂えられた片手斧を握り締めた『黒鉄守護』オウェード=ランドマスター(p3p009184)に「そうそう」とオーリアティアは頷いた。眠ることを自らの生命活動において一番だと認識するこの竜はレムレース・ドラゴンだけではなくベルゼーに対しても怒っているのだろう。
「寝床を台無しにされた方やり返す、シンプルだけど分かり易くていいじゃないっ!
 眠竜の寝所には私達だって世話になったし、家の流儀は『やられたらやり返す』……よ。
 ティアがやる気になって、連中を殺るって言うなら私に否はないわ」
 好きに呼んでと言った竜種に『煉獄の剣』朱華(p3p010458)は力強く頷いた。
「連中をぶっ飛ばして、この一件に片が付いたら新しい寝床探しでも、ダメになった寝床を直すのでも何だって付き合ってあげるわ。
 折角出来た縁だもの。事が終わってハイさよなら……は、流石に寂しいもの」
「本当のぼくはでっかいからね、大きな穴蔵を探すんだぜ? 約束は?」
「ええ。その為には連中をなんとかしなくっちゃね!」
 オーリアティアが『灰色の翼』と呼んだレムレース・ドラゴンをなんとかするのならば、残る全てはイレギュラーズの『分け前』だ。
 確かに厄介な相手だが、それで煉の炎が落ち着くわけもなく炎の剣を握り締めてから朱華は敵対するすべてを睨め付けた。
「ええ、ええ、約束しましょう。この事態が落ち着いたらもっと豪華で快適な寝床を作りましょうね」
 頷いてみせる『竜は視た』ヴィルメイズ・サズ・ブロート(p3p010531)。呪術用の扇をはためかせてからヴィルメイズは目を伏せる。
「ああ……とうとう始まってしまいましたか。
 この状況に最も心を痛めているのは、おそらくベルゼー様ご本人でしょう……。とりあえず、この湧いてきた竜もどきをどうにかしましょう」
「ぼくも心を痛めてる」
 頬を膨らませ、灰色の翼を勢い良く殴りつけたオーリアティアがくるりと振り返った。幼竜らしい子どもっぽい口調と、自己主張だと微笑ましくなった『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)はつい、笑みを零す。
「オーリアティアさんは初めまして、だね? 寝床を台無しにしたことは申し訳ないし……全力で協力させて欲しいんだ」
 ワイバーンを思わせる大きさの竜が飛び込んでくる。ヨゾラは星海を食べ寝たようにその周囲を漆黒へと染め上げた。


 周囲が騒がしくなれど、ラドネスチタは黙ったままだ。
「亜竜の子達は多く見てきたし、其の人間臭さも沢山見てきたつもり。
 ……だけれど、うん。竜っていうデカい奴らにも思い悩むことがあるのね?」
 何処か不思議な心地になって『猛き者の意志』ゼファー(p3p007625)がぽつりと呟けばオーリアティアは周囲など気にしない暴れっぷりで「当たり前だろ」と返した。
「ぼくらだって心があるんだぜ。まあ、確かにぼくはきみたちをその辺を歩いてる虫とかウサギと同じように思ってるけど」
「その認識は変わらないのね」
「変わらないとも。けど、考えることは出来るから生き物の特権ってヤツだ!」
 暴れ回るオーリアティアに任せながらも、飛び回った小さなレムレース・ドラゴン達元も、涼やかに、そして鮮やかに槍の間合いに巻込んでいく。
 軽やかな西風を思わせる一撃に続くように一度命を奪う事に特化した師匠(おじいちゃん)の教えは空を自由に踊ろうとする小竜を叩き落とす。
「その特権に、悩んでいるようだが。……友の力になれることがあるなら、為してみせよう」
 友達にはなれやしない。種が違う。そう告げるラドネスチタが居れど、友情を感じるのは互いの心だ。エクスマリアは少なくとも目の前の竜種に対して友情と親愛を抱いているし、ラドネスチタの為に身を張る事を念頭にも置いている。
 それはヨゾラと手同じ。ラドンと呼ぶ事の出来る黒き巨竜。オーリアティアの言う通りベルゼーの事を考えて居ることは直ぐにでも察せられた。
「ラドン君……」
 アレクシアは呟いてから、全体を巻込むように漆黒の気配を放った。杖の先の花は、黒く染まり魔力と共に広がって行く。
 一人でレムレース・ドラゴンを相手取ることになるオーリアティアは慢心していないか、そして後方で考え込んでいるラドネスチタに危害が加えられないか。その心配りが此処では必要であるとアレクシアは認識している。何せ、オーリアティアは竜種だ。如何にその個が強くとも、幼く竜である尊厳が敵を侮る切欠ともなろう。
「そうですか……。ラドネスチタさんの考えが纏まるまで、時間稼ぎをしましょうか」
 妖精が育て、精霊が加護を与えたという金の林檎を手にしていた鏡禍はあやかしとしての本質をその身に纏わせた。手鏡の内部からぞろりと這うように現れた妖力はレムレース・ドラゴンの気を惹かんとする。一度、外方を向かれたとて、その行く先を遮る事は出来る。
(……竜種のお二人を巻込まないように尽力しなくては)
 鏡禍がじりじりと後方へと下がっていく。連携をとっているように見られたレムレース・ドラゴンを眺め遣っていたオウェードは斧を手に回復手であろう小さき翼目掛けて踏込んだ。
「この現状に悩ましい気持はワシも分かる……」
「ラドネスチタはベルゼーを殺したくはない。あれが死ぬところを見たくはない。お前達を殺さねばならないのだろうか」
「……それは……どうであろうかな……」
 オウェードは一度躊躇った。しかし、それを否定しきってしまえばラドネスチタの思考を遮ることになるとも知っている。口を噤み、ラドネスチタに任せるだけだ。ただ、その背中でイレギュラーズが為すべきを認識してくれれば、と。そう願わずには居られない。
「ティア、私達が周辺をどうにかするわ。けど、この場をこれ以上荒されないために『その時』は協力して頂戴?」
「ぼくに巻込まれてきみが死なないことだけを願っててよ」
 オーリアティアがにいと唇を吊り上げた。不遜で不適。悪戯っこのように笑う童女。しかして、それが200余も生きた竜だというのだから朱華は『年上』なのに『子ども』を相手にする難しさを感じていた。
 明るく笑っているオーリアティア。其れとは対照的に思い悩んだラドネスチタ。双方を見詰めながらもヴィルメイズは儀礼舞踊を踏み扇を揺らがせた。
 竜の角と鱗を切り出して加工したともされたあつらえの扇をひらりと揺らがせたヴィルメイズは――風精の羽根の匂いを嗅いで正気を失うことはなく――ゆっくりと目を伏せる。
「ええ、ラドネスチタ様にもなれば我々を踏み付けることは容易いことでしょう。けれど……我々とてオーリアティア様の寝床を作る程度には友好的な存在であるのですよ」
 背を向け、鏡禍が行く手を遮る暗色の翼の竜を眺めたヴィルメイズは唇にゆったりとした笑みを浮かべて見せた。その友好的姿勢を如何にして受け取ってくれるのかが賭けでもある。
「まったく」
 嘆息したゼファーが勢い良く大地を踏み締めた。オウェードが見定めた回復手のレムレース・ドラゴンへと向けて、西風の気配が無慈悲な弾丸となり迫り行く。
 どうしたって、『儘ならない』事ばかりだとゼファーは知っていた。この戦いは、屹度巣立ちだ。
 子離れ、親離れをして決着をつけるか。子離れ、親離れが出来ず世界を滅ぼすか。ああ、ほら、見て見れば良い。『親離れ』の出来ない怪竜が暴れ回っているのだ。目の前の黒蝕の翼を有した巨竜はそれでも尚、考えるだけの知恵があったか。
「……嗚呼、運命の女神ってヤツは本当にアバズレなんですから!」


 空より降り注ぐ鉄の星。エクスマリアの放つ其れは、敵味方の区別なく、痛烈な一撃を見舞い続ける。
 アレクシアのサポートを受けながらも出来る限り仲間達を巻込まないような位置取りを心掛けた。
「いったぁ!」
「あ、転んだ」
「うるさいぞ」
 勢い良く走り回っていたオーリアティアが前につんのめってレムレース・ドラゴンの攻撃を偶然にも避けた。転んだ彼女が拗ねたように声を上げれば「ほら、油断するからよ」と朱華が笑う。
「ラドン君は……」
 アレクシアはオーリアティアに回復を施しながら背中越しにラドネスチタに声を掛けた。
「……ねえ、ラドン君。ベルゼーさんと戦えとは言わない。でも、この地を守ってあげて欲しい。
 私達……いや、私はさ、この世界が好きなんだ。いろんな景色を見せて、色んな人と出会わせてくれたこの世界が。
 だから、それを守るために戦う。例えそれが、ベルゼーさんと戦うことになろうとも。大切なものを守るために。
 ――ねえ、だからラドン君も、自分の心に従って。守りたいと思うものをまもって」
「その為には、おまえたちを殺さなくてはならない」
「……そうかもね」
 苦々しげにアレクシアは唇を噛んだ。ああ、そうだろう。つい最近であったばかりのイレギュラーズと、幻想種であるアレクシアだって『まだ』生きたことのない途方もない時間を共に過ごしてきたベルゼー。
 その何方を優先するのかと問われれば、応えなんて簡単だ。ベルゼーに近しくなく、自身の血筋自体を愛好するオーリアティアでさえ来やすい存在であれど「ぼくはきみの友達ではない」と口にするのだから。
「さて、竜種の方にとって我々は虫ケラ同然の命かもしれませんが、一寸の虫にも五分の魂という言葉がございまして。
 180cmの私で換算すると90cmくらいは魂というわけですね。……まあつまり、人間はあなた方が思うより『しぶとい』ってことですよ」
「ちがうぞ。きみの60%位は水だ」
「そういう事ではございません、オーリアティア様」
 指差してくるオーリアティアにヴィルメイズは「指差してはなりません、めっ!」と扇で戦ぐ。鏡禍に引き寄せられていく巨大なレムレース・ドラゴン。回復手を失った竜を一瞥してから朱華の炎が赫々たる光を灯す。
「確かに困難である……しかしそれがワシを奮い立たせるッ!」
 オウェードはぐしりと汗を拭ってから闘志を全開にさせ、地を踏み締めた華やかなる閃撃を叩き着ける。
 レムレース・ドラゴンの首がぐいんと上がったことに気付き鏡禍は「構えて」と声を上げた。オーリアティアの側を見ていたから分かる。ブレスを履く予備動作だ。オーリアティア自身は「ぼくのほうが上だよ」とブレス合戦をしていたが――
「やれ、作り物の竜でもそういうのは吐き出せるものなのね」
 ゼファーが後退する。吹き荒れたブレスの下をヨゾラは走り抜けていく。
「影も幻影もぶちのめす! 星の破撃―――!」
 勢い良くぶん殴る。叩き着けた魔力の光を受けながらエクスマリアの藍玉は確かに見据えた。レムレース・ドラゴンに放つ連続魔が無数に叩き着けられる。
「終わりに、しよう」
「そうだね。誰も食わせも、倒れさせもしない……全員生きて乗り切るんだよ! だから、もう終わりだ!」
 ヨゾラの全力の一撃を受けて、レムレース・ドラゴンの姿が掻き消えていく。オウェードは「そっちは……!?」と振り向くがゼファーはがくりと肩を落とした。
「待って、あれって……」
「ティア、何してるの?」
 小さな童女がレムレース・ドラゴンの首を掴み上げ大地にびたんびたんと叩き降ろしている。
「きみたち、これ、止めを刺して良いぞ。ぼくは興味が無い」
「……」
 呆気も取られるような光景にアレクシアは「侮っちゃダメっていったでしょう」と唇を尖らせたのだった。


「ラドンさん……君は、どうしたい?」
 周辺を確認し、一息吐いたところでヨゾラは「怪我した。すりむいたー!」と騒ぎ立てるオーリアティアを宥めながら見詰めた。
 オーリアティアに危害が加わらないように時を配っていたアレクシアは「ほら、言ったじゃない」と揶揄うように笑う。
「これはあいつらにされたんじゃないよ。ぼくが『ころんだ』んだ」
「見てたわ」
 朱華が揶揄うように笑えばオーリアティアは「人間が二足で歩くのがわるい。ぼくは四足の方が慣れてるんだ」と頬を膨らませる。
「ティア、静かにしろ」
「ラドン、ぼくの取り柄をうしなわせないで」
 拗ねた様子のオーリアティアを見詰めてからラドネスチタは嘆息し、俯いた。
 鏡禍は女神の欠片を拾い集めてから、その応えを待っている。まだまだ、諦めるには屹度早い。けれど、これはそういう話ではなさそうだ。
「思うに、『ベルゼー・グラトニオスへの対処』というわけではないのでしょう。それはラドンさんが決めることですね」
 鏡禍はあやかしだ。鏡のあやかしは、鏡面よりその人相を覗くようにラドネスチタをまじまじと見詰めている。
 はらはらとしているヴィルメイズは唇を引き結んでから黙した儘のラドネスチタを眺めて居た。
 ゼファーはやれやれと一歩踏み出す。オーリアティアがその背中にチョコチョコと着いてやってきた。
「雛が何時か巣立って、自分の翼で飛ぶ様に貴方は、貴方の翼で飛べばいいんじゃない?」
 のろのろと顔を上げたラドネスチタの黒い瞳がゼファーを見詰めている。頼るよすがもなくなった、幼い子供の様な顔をして居た。
「思い悩むぐらいなら、真正面から突き付けてやればいいのよ。其れは違うんじゃないか、ってね」
 小さな人間だ。所詮は虫螻のような物だろうとゼファーは認識していた。そんな存在がやけるお節介は屹度、この程度なのだ。
 黙りこくったラドネスチタにエクスマリアは「ラドン、ラドン」と声を掛けた。
「もしベルゼーについて悩むなら……マリア達と来る、か? 共に来れば、ベルゼーと会うことは出来る、だろう」
「……会う……」
「ああ。直に話して、初めて分かることもあるかも、しれない。だから」
 エクスマリアは小さな手を差し伸べた。ラドネスチタは黙ったままだ。
「行こう」
 その小さな掌に、手を重ねたのは――オーリアティアだった。
「ラドネスチタは、連れていかないで」
「ティア……?」
 ぱちくりと瞬いた朱華にオーリアティアは笑う。
「こいつ、あんな図体だけど、優しいんだ。きみたちを殺すか、ベルゼーを殺すか、そんなことで迷って、どちらかに手を上げれば、後悔する。
 ぼくはきみたちを友達だとは思えない。ぼくは竜で、きみたちは人だから。それはラドネスチタも同じだよ」
 オーリアティアはにんまりと笑ってからエクスマリアの手をぎゅっと握り締めた。
「でも、きみがラドンを友達だと思うなら、きみの思う最善を尽くして欲しい。
 ラドンもぼくも、一時の心の痛みで済むように。ぼくが思うに、ベルゼーは遠い遠い未来にまで苦しむことになるなら、終らせて欲しいとおもうよ」
「オーリアティア様……」
 ヴィルメイズは苦々しげにその顔を見た。それは、彼を殺せという事か。ラドネスチタもオーリアティアも、これからずっと生きていく。竜は長命だ。遠い未来に、同じ事で悩み今度は彼を殺すのは自らになる可能性だってあるのだ。
「大丈夫だよ、ぼくらはこれでも義理堅い。いつか、恩返しはしてやるよ。まあ、寝床? 未だ作って貰ってませんし?」
 揶揄うように笑ったオーリアティアに「約束したしね」とヨゾラは頷いた。離れていく掌を眺めてからエクスマリアはぎゅうと握りこぶしを作ってラドネスチタに向き合った。
「ラドン。マリアは、友人として、ベルゼーに会ってくる」
「……どうか、苦しまないように」
 その未来ばかりを願ったのは屹度――それしか許されない事を知っていたからだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

鏡禍・A・水月(p3p008354)[重傷]
鏡花の盾
オウェード=ランドマスター(p3p009184)[重傷]
黒鉄守護

あとがき

 お疲れ様でした。

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