シナリオ詳細
<黄昏崩壊>黒き竜の守る土地。或いは、激怒するレムレース…。
オープニング
●『ヘスペリデス』へ
『冠位暴食』ベルゼー・グラトニオス。
亜竜集落『フリアノン』では里おじさまとして親しまれてきた存在だ。
ベルゼーは、里長達のよき相談役であった。
ベルゼーの助力により、覇竜領域は長い間、平和であった。
だが、平和はいつまでも続かない。
世界が、運命が、そして何よりベルゼー自身の在り方が平和であることを許さない。
ピュニシオンの森の先。
黄昏の似合う、最果ての地。
その名は『ヘスペリデス』という。
へスペリデスの踏破を急ぐイレギュラーズだが、当然、そう易々とことは進まない。
亜竜が、魔物が、魔種が、竜種が、イレギュラーズの行く手を阻む。
例えば、イフタフ・ヤー・シムシム(p3n000231)を含む数名の前に立ちはだかったすらりとした細い竜も……正確には竜に似た形の影もまた、イレギュラーズの進路を阻む障害の1つだ。
レムレースドラゴン。
ヘスペリデスの崩壊に伴い『女神の欠片』が過剰反応して出現させた奇怪にして、狂暴な存在である。形は竜のそれに似ているが、レムレースドラゴンは竜ではない。
当然、その戦闘力も竜には遠く及ばない。
「だからと言って、油断できる相手ってわけでも無さそうっすけど」
イフタフは、影で出来た竜を見上げてそう言った。
体長は4、5メートルほどと竜にしては小さめだ。
存在感も希薄で、例えば一撃でも入れれば崩れ去ってしまいそうな気配を感じる。
だが、竜たちから感じる敵意は本物だ。まるで、無数の剣を突き付けられているようなプレッシャーを感じずにはいられない。
「ひぃ……これはきつい。おしっこちびりそうっす」
イフタフたちの前に現れたレムレースドラゴンの数は3体。どの個体も、蛇のような長い体と、鋭い爪を備えた四肢を備えている。
見た目の違いと言えば、頭部から伸びる角の数だろうか。
1体は、まっすぐに伸びた長い角を。
残る2体は、頭部の左右から伸びた歪に捻じ曲がった2本角を有している。
「っ……見つかった! 見つかっちゃったっす! 撤退、撤退! 可能な限り情報を集めて、一旦、退くっすよ!」
そう叫ぶなり、イフタフは誰よりも先に踵を返して元来た道を引き返す。
その背後で、激しい雷鳴が鳴り響き、大地が大きく揺れたのだった。
●3匹の竜
「さて、皆さん無事に逃げて来られたみたいっすね。よかった……分からん殺しは避けたいっすからね」
遺跡らしき岩の影に身を潜め、イフタフは大きなため息を零す。
それから、一緒に行動していたイレギュラーズたちの顔を順に見回した。
「ここ、遺跡みたいっすけど、遺跡じゃないっすね。遺跡を真似て岩を積み上げたり、削ったりしただけで、細部とかかなりめちゃくちゃっす」
岩に手を触れ、イフタフは言う。
その手は細かく震えていた。
「連中、遺跡の奥の方に陣取ったまま出て来ないっす。えーっと、名前が無いと不便だし、とりあえずロングホーンとツインホーンって仮称するとして……」
地面に指を走らせて、土の上に周囲の見取り図を描いた。
遺跡のように岩の積み上げられた土地だ。幸いなことに、身を隠す場所はいくらでもある。だが、ヘスペリデスの奥へ向かうためには必ずレムレースたちのいる場所を通過しなければいけない。
顎に手を触れ、イフタフはしばらく思案した。
レムレースドラゴンは、『女神の欠片』より生じた存在だ。そしてどうやらへスペリデスに踏み込んだ者を無差別に敵と認識している節がある。
そんなレムレースドラゴンが、同じ場所に留まり続けているのはなぜか。
「……『女神の欠片』がある、とか?」
自分たちを生み出した『女神の欠片』。
それを守っているのか、或いは、それから遠くに離れられないのかも知れない。
「もしかして『女神の欠片』を回収しないと、アイツら、何度でも蘇ったりするんっすかね?」
その可能性に思い至ったイフタフは、途端に顔色を悪くする。
口元を手で抑え、浅い呼吸を何度も繰り返した。
先の遭遇で感じたプレッシャーと、3匹のレムレースに追いかけられた恐怖を思い出したのだ。
「だとしたら、アイツらを倒すだけじゃなくって『女神の欠片』の回収も必要っすね」
3匹を討伐するだけでは、このルートの安全を確保したとは言い切れない。
「目的は2つ。レムレース3匹の討伐と、『女神の欠片』の回収っす」
2本の指を立て、イフタフは告げる。
「敵の能力の確認に映るっすけど、まずロングホーンの方はあまりこちらに近づいて来なかったっす。ただ、角を起点に【致命】を伴う【雷陣】を撃って来ました」
おそらく、角の本数によって役割が違う。
イフタフはそう予想している。
「2本角の方は、至近距離の斬撃……それと【怒り】【魔凶】の付与でしたね。こいつらが前に出て、戦線を引っ掻き回した隙に、ロングホーンが雷撃を撃ち込む。そう言う戦法と見て間違いないと思うっす」
相手は複数。
それも、しっかりと役割を分担している手合いである。
「こっちも、無策では行けないっすよ。損害が大きくなりかねない」
可能な限り迅速に。
そして確実に、3匹のレムレースドラゴンを葬り去ること。
言い含めるように、イフタフはそう告げるのだった。
- <黄昏崩壊>黒き竜の守る土地。或いは、激怒するレムレース…。完了
- GM名病み月
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年06月28日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●亡霊竜の守護する遺跡
雷鳴が轟き、大地が揺れた。
地面を焼き焦がす電光。焦げた臭いが鼻腔を擽る。
雷の出所は、荒廃した遺跡の最奥。平屋の上に陣取った1本角の影の竜。ロングホーンと呼ばれる個体だ。
加えて、雷光の中を疾駆する2体の影がある。細く、長い脚を高速で回転させながら2本角の竜が疾駆したのだ。
鋭い爪を一閃。
建物に深い裂傷を刻んだ。
飛び散る瓦礫の雨の中を、『導きの双閃』ルーキス・ファウン(p3p008870)が疾駆する。落雷と瓦礫を回避しながら、ルーキスは遺跡の影に飛び込んだ。
「しょ、初っ端からひどい目に遭った……竜三頭との追いかけっことか、もう二度と御免です。命がいくつあっても足りないので!!」
額に滲む汗を拭って、ルーキスは大きなため息を零した。
ルーキスの姿を見失ったのか。2匹のツインホーンは、瓦礫の山の上に立ち視線を左右に巡らせている。
「おお、これは中々ド派手ですね。これが竜の……」
ツインホーンが吠え猛る。獲物を見失ったことに苛立っている風だ。耳を押さえて『瀉血する灼血の魔女』ルトヴィリア・シュルフツ(p3p010843)は眉を顰める。
「いえ。たしかに厄介ではありますが本物の竜種ほどの力ではない」
『劉の書架守』劉・紫琳(p3p010462)が首を振る。
「え、本物では無い?」
「えぇ。かといって侮れる相手でもありませんが。これに勝てないようではこの先戦うもっと強大な相手……あの人には届かない」
ライフルに弾丸を装填し、紫琳は大きく深呼吸。
狙撃を成功させるには、冷静でなければいけない。焦れば弾丸は当たらない。
「なぁんだ。血も奪えない相手なら……とっとと済ませてしまいましょうか!」
ルトヴィリアは手首の包帯を解く。
包帯の下には、まだ新しい裂傷があった。
じくりと滲んだ赤い血が、意思を持つように蠢いている。
ツインホーン2匹は前線へ。
対して、ロングホーンは後方に位置したまま遺跡の広い範囲を睥睨しているようだ。
ピクリ、とロングホーンが首をもたげた。
視界の隅で、影が揺れたからだ。
「おぅ、こりゃまた毛色の違う敵が出てきたじゃねぇか。でも生き物じゃねぇのは良いな」
「土地が怒っているのだろうか、歴史が、思いが……だが乗り越える必要がある。もう持たないのだから」
遺跡の影から現れたのは『竜驤劍鬼』幻夢桜・獅門(p3p009000)と『新たな可能性』ミスト=センテトリー(p3p010054)の2人。
対峙するのは、ツインホーンの片割れだ。
「命の削り合いも楽しいもんだが、何にも余計な事を考えずに遠慮なくぶっ壊せるのは魅力的だぜ」
ツインホーンの目が2人へ向いた。
獅門は肩に大太刀を担ぎ、腰を低くする。闘志に溢れたその様にツインホーンは唸り声を零しながら、前肢の爪で地面を掻いた。
獅門が大太刀を一閃させる。
それと同時に、ツインホーンが駆け出した。
もう1体のツインホーンを相手取るのはルーキスだ。
振り回された尻尾の一撃を、掻い潜るように回避してルーキスは一瞬でツインホーンの懐へ。この位置なら、ロングホーンの雷撃を浴びることも無いはずだ。
ツインホーンが爪を振るう。
ルーキスは剣を横に倒して、爪の一撃を受け止めた。
刹那、ルーキスの背後から飛び出した人影が1つ。
「女神の欠片から現れた竜のような存在、捨て置くわけにはいかないな。撃破した上で欠片を回収するぞ!」
両手に剣を携えたその人影は『傲慢なる黒』クロバ・フユツキ(p3p000145)のものだ。
一閃。
放たれる渾身の斬撃が、ツインホーンの角に深い裂傷を刻む。
敵は3体。
そのうち2体のツインホーンは、イレギュラーズが抑えている。戦況は拮抗しているといっていいだろう。
だが、優勢ではない。
拮抗状態は、ほんの些細なきっかけで崩壊する。
例えば、最後方で控えているロングホーンがそれだ。今だって、長い角の先端に雷を迸らせながら、攻撃の機会を窺っていた。
「見ててくださいね! 貴女は僕が護ってみせますから!」
当然、無視は出来ない。
『守護者』水月・鏡禍(p3p008354)はそう言って、『高貴な責務』ルチア・アフラニア(p3p006865)の手を取った。
鏡禍の役割はロングホーンの牽制だ。
単身で乗り込み、ツインホーンの討伐まで邪魔をさせずに時間を稼ぐ。
決死隊と言い換えてもいい。
ロングホーンは鏡禍を見据え、ぐるると唸る。
「レムレース……故郷にも似たような言葉があったわね。悪霊ならば悪霊らしく、この場で消滅してくれれば良いのだけれど」
戦場全体を見渡して、ルチアは誰にも聞こえない程度の声でそう呟いた。
今でこそ拮抗状態を保てているが、きっとそう遠くないうちに戦況は大きく動く。
ピリピリとした緊張感が、ルチアの脳を震わせた。
●『女神の欠片』より出でしもの
落雷が降り注ぐ。
空気の焦げた臭いが漂う。
揺れる大地を鏡禍が駆ける。
ロングホーンの虚ろな瞳が、眼前に迫る鏡禍を捉えた。長い角の先端で空気がパチパチと爆ぜるような音を鳴らした。
集約する真白い雷光。
発生させた雷を己の魔力で1つに束ね、1点に向け解き放つのだ。空間を引き裂くような閃光が走った。
それはまっすぐ、鏡禍の胸部を貫いた。
膨大な電力を細く束ねた一撃を受けた鏡禍は命を落としただろうか。少なくとも、ロングホーンは己の雷撃に絶対の信頼を置いている。
だが、鏡禍は立っていた。
片腕には痛々しい火傷の痕。血さえ既に蒸発し、爛れた肉の色だけが覗く。
だが、鏡禍は未だ健在だ。
呼吸は荒い。額には汗が滲んでいる。
鏡禍の眼前、砕けた鏡の欠片が地面に散らばった。
「倒れませんよ。……僕がおまえを抑えていることが彼女を護ることにつながるんですから」
そう告げて、鏡禍は左の腕を掲げる。
空間から滲むように、そこに鏡が現れた。
指揮するようにルチアが左右に腕を振る。
腕を振った先に向けて燐光が飛んだ。仲間たちの傷を癒し、気力を回復させながらルチアは視線を遺跡の奥へ。
何度目かの落雷が大地を揺らす。
砂埃の向こうに、小さな人影が見えた。
鏡禍はまだ立っている。だが、当然ながら無傷ではない。
「注意しないと……一人でロングホーンを抑えているのだから、いつ落ちないとも限らない」
尾の一撃に薙ぎ払われて、獅門とミストが大地を転がる。
傷ついた2人を横目に、ツインホーンが次の獲物と定めた相手はルトヴィリアだった。ルトヴィリアの顔に影が落ちる。
見上げた先には、影のように真っ黒な2本角の竜の凶顔。
「竜擬きが、あたしを止められると……いや止められるなあ」
ツインホーンが爪を高くへ振りかぶる。
距離が近い。
回避も、逃走も出来そうにない。
「まあとにかく、のんびりしてる暇はないんですよ!」
鋭い爪が顔を引き裂く直前に、ルトヴィリアは腕を横へ振り抜いた。刹那、空気がちりりと鳴いて、灼熱の業火が巻き起こる。
まるで爆発。
獄炎がツインホーンの腕を飲み込んだ。
炎の破片が飛び散った。
その中には、土と血に濡れたルトヴィリアの姿もある。衝撃に弾き飛ばされたルトヴィリアは、無防備なまま数度、地面を跳ねるように転がった。
「ぅ……うぅ。い、たぁ」
意識はある。
大きなダメージを負ってはいるが、生きている。焦点の定まらない目でツインホーンを見やったルトヴィリアは、血塗れの右腕を持ち上げた。
ぼたぼたと血が滴る。
その指先から生み出された黒い炎が、ルトヴィリアの腕を包み込む。
2本の角から不気味な気配が漂っている。
空間に黒い軌跡を描き、ツインホーンが疾走する。遺跡を足場にした立体的な軌道に翻弄され、ルーキスとクロバは決定打を叩き込めないでいた。
ルーキスの頭上をツインホーンが通過する。
行きがけの駄賃とばかりに、鋭い爪を真下へ向けて振り下ろす。ルーキスは剣を横にして爪の一撃を防御。
衝撃が、腕の骨を痺れさせた。
「っ……!?」
防御に意識を集中させた一瞬の隙を、ツインホーンは見逃さない。
着地と同時に、踵を返し追加の一撃。
ルーキスの脇に深い裂傷を刻む。
「ルーキス!?」
片膝を突いたルーキスの名をクロバが呼んだ。
そうしながら、ツインホーンへ斬りかかる。不意を突いた斬撃だが、ツインホーンは首を高くへもたげることでそれを回避。
開幕早々、角を傷つけられたことで警戒を強めている風だ。
だが、それはつまり、角への攻撃が有効だということの証拠に他ならない。
「角、狙うぞ。いけるか?」
「はぁ、はぁ……もちろん。では、気を取り直して進みましょうか」
復帰したルーキスを伴って、2人はツインホーンの追走を開始した。
スコープに目を当て、紫琳は微かな吐息を零す。
極度の集中により、紫琳の脳が痛みを発した。これまで数度、ツインホーンへ銃弾を撃ち込んでいるが、致命傷には程遠い。
「素早い動きでこちらの戦線を崩すツインホーンが厄介ですね」
首や眉間、心臓などの急所を狙った狙撃は全て直撃を外されていた。
素早い動きが原因だ。
絶えず動き続けるツインホーンを狙い撃つのは容易ではないのだ。
「ですが、この調子なら……」
肺いっぱいに空気を吸い込み、口を噤んだ。
スコープを覗き込み、ライフルのトリガーに指をかける。
地面が揺れても、遠くに雷が落ちても、紫琳は僅かも動じない。スコープを覗き、指先に意識を集中させ、いずれ来るその機会を今かと待っていた。
そして、やがて……。
ツインホーンは、建物と建物の間に着地。
ルーキスが高くへ跳躍し、上方の逃げ道を塞ぐ。
ルーキスを追って、ツインホーンが首を上げた。
先ほどまでルーキスが塞いでいた射線が空いている。上を向いたツインホーンの無防備な喉が晒されている。
この瞬間を待っていたのだ。
「私の弾丸で、縛り付けてしまいましょう」
引き金を引いた。
火薬が爆ぜて、1発の銃弾が放たれた。
ツインホーンの鋭い牙が、ルーキスの肩を深く抉る。
だが、牙はそれ以上、肉に食い込むことは無い。
「よし!」
ツインホーンの喉に、紫琳の銃弾が命中したのだ。黒い体に穴が穿たれ、着弾地点を中心に極寒の冷気が吹き荒れる。
喉から顎、胸にかけてを凍結させたツインホーンが声にならない絶叫をあげた。
「竜の鱗すら経つ一閃だ、さぁその角を落とせるか試させてもらう!!」
ツインホーンが硬直している隙をつき、その背中にクロバが跳び乗る。背中を、首をかけぬけてあっという間に頭部へ至ると、2本の剣を顔の前で交差させた。
一閃。
×印を描くように放たれたクロバの斬撃が、2本の角を斬り落とす。
同時刻。
もう1体のツインホーンにも動きがあった。
ツインホーンの抑え役はミストと獅門だ。ルチアの補助を受けながら、一進一退の攻防を繰り広げている。
「多少の絡め手ぐらい許してくれよ?」
ミストが殴打を叩き込むのは、ルトヴィリアによって焼かれた方の腕だった。影のような体でも、痛みは感じているのだろう。
拳が腕を打つたびに、ツインホーンは鬱陶しそうな唸り声を零した。
だが、足りない。
1度や2度の殴打では、ツインホーンの巨体は揺るがない。
牙による攻撃を回避するため、ミストが跳んだ。遺跡を足場に利用した立体的な動きは、奇しくもツインホーンが先に行ったものと同種である。
「っ……!? 足元、気をつけて!」
「間に合……わない!」
遺跡の壁を駆け上がるミストへ、ルトヴィリアとルチアが声を投げた。
遺跡の根元から上方へ向け、亀裂が走っていたからだ。ミストが壁を蹴るのと同時に、亀裂を中心に遺跡が崩れる。
「しっ……まった」
空中でミストが姿勢を崩す。
ミストの視線と、ツインホーンの視線が交差した。
刹那、にやり、と。
ツインホーンが笑った気がした。
ミストの体が地面に叩き落された。
倒れたミストに、遺跡の瓦礫が降りかかる。
それから、ツインホーンの爪も。
1度では終わらない。
2度、3度と連続でミストの体を爪が嬲った。その度に地面が揺れて、血が飛び散る。
「おい、生きてるか! 生きてるなら一旦下がれ!」
ミストの窮地を救ったのは獅門である。
大振りな大太刀の一撃が、ツインホーンの爪を砕いた。その隙にミストは【パンドラ】を消費しながら、後方へと撤退。
「生き、ている。各個処理できれば理想だ……あまり無茶はするなよ」
「おぉ、なかなか油断ならねぇ相手だからな。いい修行になりそうだ」
怒り心頭といった様子のツインホーン。その喉元に、獅門が刀の切っ先を突き付ける。
「ここを乗り越えて、また一つ強くなってみせるぜ!」
そう言って獅門が、1歩、強く踏み込んだ。
爪と大太刀が何度も何度もぶつかった。
金属片が、肉の欠片が、血飛沫が飛び散る。
何度、幾ら深い傷を負わされても獅門は倒れない。1歩も退かない。退かないままに、ツインホーンに食い下がる。
ツインホーンは、それが苛立たしくて仕方なかった。
ルチアの援護や、ルトヴィリアの牽制、そして戦線復帰したミストの横槍。すべてが苛立たしい。
だから吠えた。
黒いオーラを撒き散らし、怒り狂って吠え狂った。
「やられる前に真っ二つにしてやるぜ!」
その咆哮に応えるように、獅門が大太刀を下段に構える。
斬り上げ。
から、刹那の斬り下ろしへと太刀の軌道が変化する。
速度と重さの相乗効果が、ツインホーンの鼻先を捉えた。
ザクン、と。
顔面に深い裂傷を負い、ツインホーンは空へ向かって悲鳴をあげた。
●竜の消失
2匹の竜が地に伏した。
残る1匹。ロングホーンを残すのみ。だが、ツインホーンは『女神の欠片』がある限り、何度だって蘇る。
「ロクト、ハイマ。気をつけて行って来なさ……こらハイマ! ロクトを噛み噛みしないの、いじめちゃダメ」
「……気を付けてくださいね。とくに落雷。できるだけ岩陰を移動するのがいいでしょう」
女神の欠片の捜索に向かうのは、ルトヴィリアと紫琳だ。
2人の位置は、遺跡の中央。ロングホーンの射程から、僅かに外れた地点である。
度重なる落雷を受け、鏡禍は既に満身創痍だ。
意識は朦朧としているし、【パンドラ】だって消費している。それでも、倒れられない理由があった。だから、鏡禍は立ち続けた。
そんな鏡禍を嘲笑うかのように、ロングホーンが角の先端に雷を灯す。
放たれるのは、極限まで細く小さく圧縮した雷の砲撃。
「倒れ……ない」
鏡禍は眼前に鏡を掲げる。
鏡を展開しても、ダメージは避けられないだろう。
だが、鏡禍は気づいていなかった。
ツインホーンを撃破した仲間たちが、すぐ後ろにまで来ていることに。
「避けてっ!」
雷が直撃する寸前、ルチアが鏡禍を押し倒す。もつれるように2人は地面に倒れ込む。その頭上を、雷が通過した。
「ぁ……ルチア、さん?」
雷はルチアの背中を焼いていた。
傷は深い。皮膚は炭化しているようにも見えるが、少なくともルチアは意識を保っている。
だから、問題ない。
抱き起こした鏡禍の胸に手を当てた。
その手を中心に、淡い燐光が飛び散った。
「もう、大丈夫だから」
ツインホーンは撃破したのだ。
そう言って、ルチアは笑った。
痛みのせいか、顔には脂汗が浮いているけれど、それでもルチアは微笑んだ。
落雷が降り注ぐ。
だが、動きの速いツインホーンに比べると、ロングホーンの攻撃速度はひどく遅い。
雷を発生させるのに、多少の時間が必要なせいだ。
1度目の落雷は避けられなかった。
だが、2度目は無い。
ルーキスが。
クロバが。
ミストが。
獅門が。
ロングホーンに肉薄すると、それぞれの得物を振り回す。肉が裂け、骨が断たれて、ついにロングホーンの体が地に伏した。
半ばほどからへし折れた角が、地面に転がる。
それっきり、2度と雷が降ることは無かった。
影は影に。
暗い空へ溶けるように、ロングホーンが消えていく。
「回収、したわよ!」
時を同じく、ルトヴィリアが『女神の欠片』を見つけたようだ。
「というかこれ、普通にあたしがほし……ごほん」
なんて。
ルトヴィリアの独り言に、紫琳はじっとりとした目を向けた。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お世話になっております。
レムレースドラゴン3体の撃破および『女神の欠片』の回収に成功しました。
依頼は成功となります。
この度はご参加いただき、ありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。
GMコメント
●ミッション
レムレースドラゴン3体の討伐と、『女神の欠片』の回収。
●ターゲット
・ロングホーン(レムレースドラゴン)×1
1本角のレムレースドラゴン。
全長は5メートルほど。
蛇のような細く長い体に、長い四肢が付いている。翼は無いので、飛べないものと思われる。
後方に控え、積極的に移動することはあまりない。
雷撃:神超遠範or単に大ダメージ【雷陣】【致命】
1本角を起点に放つ雷撃。
・ツインホーン(レムレースドラゴン)×2
2本角のレムレースドラゴン。
全長は5メートルほど。
蛇のような細く長い体に、長い四肢が付いている。翼は無いので、飛べないものと思われる。
素早く動き、積極的に接近、鋭い爪で攻撃を仕掛けて来る。
恐慌:神近範に小ダメージ【怒り】【魔凶】
2本角から放たれる不気味なオーラ。
●フィールド
ピュニシオンの森の先にある土地、ヘスペリオス。
『ラドンの罪域』を越えた先に存在している風光明媚な空間。ピュニシオンの森から見て黄昏に位置し、この空間独特の花や植物が咲き乱れている。
今回の舞台は、ヘスペリオスの一角にある遺跡らしき地帯。
実際には遺跡ではなく、遺跡を模して岩などを組み上げただけの場所。そのため、身を隠すための障害物や段差が多い。
遺跡の奥、出口の付近に3匹のレムレースドラゴンは待機している。
また、遺跡のどこかに『女神の欠片』があるようだ。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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