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シナリオ詳細

<黄昏崩壊>悪竜の憧憬

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 天が紅く染め上げられていた。
 踏み入った人々を癒す独特な形や香りを楽しませる草花は引きちぎられたように宙へ漂っている。
 竜の気まぐれに作り上げられた不格好は石組みの痕跡は砕け、荒らされている。
「おぉ、この光景は……ベルゼー様。遂にすべてを呑む時が来たのだな」
 その光景を見る男の目は、輝いていた。
 その瞳に宿る感情は一種の憧憬と畏怖にも似ている色がある。
「暴食の王よ、我が主よ。素晴らしい、素晴らしいことだ。
 貴方の権能は、いつ見ても素晴らしい。全てを呑む腹のなんと羨ましい事か!」
 こみ上げる感情に突き動かされるまま、男は笑っている。
 徐々に大きくなる声に反応するように近づいてくるは『影』
「ふん、食いでの無い影が、俺を邪魔するつもりだとでも?」
 途端、傲慢にもそれらを一瞥して男は舌打ちする。
 冠位暴食への一方的な憧憬を抱いて笑い、不機嫌に舌を打ったこの男の名を、黒黥という。
 貪食の竜翼の異名を持つ男は、この世を蝕む呪いとでもいうべき魔種の一角。
「何を食っても同じだが、貴様らは食っても食っている気にもならん」
 そう舌を打った男の周囲には、影の正体たる『女神の欠片』が既に幾つか転がっていた。
「――まぁ、いい。この光景を見ればイレギュラーズの連中も確実にこの地を踏むだろう。
 貴様らには何の食いでもないが、奴らを喰らう準備運動と行こう――」
 全身から闘志を溢れだした黒黥が咆哮を上げた。
 質量を持った咆哮が影を食い止め、直後には肉薄と同時に影の腹部を黒竜の腕が刺し穿った。


 ラドンの罪域にて数人のイレギュラーズはある魔種と遭遇していた。
 ある意味でどこまでも『らしい』暴食の魔種は、周辺を食いつぶしてイレギュラーズを待ち受けていた。
 その動きはあまりにも分かりやすく、追撃は容易――と思われていた。
 だがその予測に反して、黒黥と名乗るその魔種の追撃は容易ならざる状態だった。
 理由は定かではないものの黒黥は黄金の園『ヘスペリデス』での行動が見受けられなかった。
 それは暴食の気まぐれに作られた場所、竜達の住まう黄昏の地に踏み入ることを拒んでいるかのように。
 ――だが、それも今日この日までの事だ。
 天が赤く染まり、何かに引っ張られるように天へと浮かぶ楽園の構成要素だった物達。
「来たか、特異点」
 黒竜は黄昏ならざる大地と化したヘスペリデスに立っていた。
「へへっ、猛禽は獲物を逃さないんだぞ!」
 カイト・シャルラハ(p3p000684)は愛槍を構えて笑う。
「随分、大人しくしていたようですが……それも終わりですか?」
 マリエッタ・エーレイン(p3p010534)は黒黥の周囲に散らばる『女神の欠片』を見やる。
 燻るように黒い煙を上げるそれらはきっと『レムレース・ドラゴン』だった物。
「食事の時間は終わったか」
 槍を構えたベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)もその惨状を見て問うものだ。
「まさか、こんな影なぞ食事にもならん。此度の食事は、貴様らだ特異点ども」
「悪いが、お前の食事になる心算は無いぞ」
「はっ。笑わせる」
 ベネディクトと視線を合わせた黒黥が笑う。
 それは本家本元の竜種にも及ばぬ傲岸不遜にして獰猛なる笑みであった。

GMコメント

 そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。

●オーダー
【1】『貪食の竜翼』黒黥の撃退

●フィールドデータ
 崩壊しつつあるヘスペリデスの一角です。
 無理矢理に引きちぎられたように草花の抜けた大地のそこかしこに『女神の欠片』が落ちています。

●エネミーデータ
・『貪食の竜翼』黒黥
 闇で塗りたくったような紫がかるような濃い黒髪に深く澱んだ藍色の瞳、
 額に1本と側頭部の2本の計3本の角を生やし、翼と尻尾のある亜竜種風の魔種です。属性は暴食。
 非常に傲慢かつ冷笑的、黒竜を思わせる雰囲気を持ちます。

 どこか興奮冷めやらぬ様子を見せます。
 暴走しようとしているベルゼーの権能へある種の憧憬を抱いている雰囲気があります。

 非常にタフで物攻、反応、EXA、防技、抵抗が高め。
 爆発的な攻撃と手数で1人ずつ磨り潰す物理ファイター。
 【連】や【追撃】【スプラッシュ】などの各種連続攻撃の他、【邪道】属性が予測されます。
 他にも魔力を籠めることで質量を乗せた咆哮による神秘攻撃なども可能です。

 なお、これらの攻撃はあくまで主力の攻撃でしかありません。
 何らかの奥の手のような攻撃も存在している物と思われます。

・レムレース・ドラゴン×8
 ヘスペリデスの崩壊に伴い『女神の欠片』が過剰反応して出現させた個体です。
 周辺の生物を激しく敵視し、全てヘスペリデスへの攻撃者と捉えているのか無差別に襲い掛かります。
『黒い影で出来た竜』のようにも見え、頭部に3本の角を生やしています。
 どこか黒黥にも似ているように見えます。

 黒く輝く雷と炎が混じったブレスを放つ他、巨体による物理戦闘を行います。
 ブレスには【火炎】系列、【痺れ】系列、【足止め】系列、【呪い】のBSを齎す効果を持ちます。
 また、その射程は超遠貫、超遠単、超遠範の3種存在します。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <黄昏崩壊>悪竜の憧憬完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年06月29日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
回言 世界(p3p007315)
狂言回し
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)
慈悪の天秤
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女

リプレイ


「俺もまだ喰われるつもりはないンでなァ。
 黒黥……今宵の晩餐、お前に喰わせるモンは何1つもねぇ。とっととお引取り願おうか」
 魔術式を緋色に輝かせ、『祝呪反魂』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)は答えるものだ。
 静かに握った純白の大弓を魔種へと向ければ、男が鼻で笑う。
「わざわざこんな奴らまで利用するってのァ、悪竜? だったかも随分と余裕がないと見える」
「あぁ? 何のことだ?」
 レムレース・ドラゴンを見やり、そのまま視線を黒黥を見た『金庫破り』サンディ・カルタ(p3p000438)に、黒黥はぎらりとサンディの方を見る。
(さて、挑発をしてみたものの、効果あるか?)
「おいおい、まさかこいつらの事か?」
 何を意味するのか気付いたらしき黒黥が顎でレムレース・ドラゴンの一体を示し。
「――下らねぇ、こんな腹の足しにもならねえゲテモノを利用だぁ? マジで下らねぇ」
(あんま意味無さそうだなぁ……レムレース・ドラゴンを狩らせられたらこっちも都合が良いんだけどな)
 タロットカードを用意しながら、サンディは冷静に分析していく。
「腹が減ったぁ? 俺は簡単に喰われる気はないからな」
 槍を構える『太陽の翼』カイト・シャルラハ(p3p000684)が言えば、黒黥が笑った。
「あぁ、お前は覚えているぞ、先は食いそびれたからな」
「逆にこの槍で食いちぎってやらぁ! 鳥種勇者舐めんな!
 ごきりと拳を鳴らした黒黥へと、カイトはそう啖呵を切る。
「斜に構えた様子に見えて、なかなかどうしてテンション上がってるみたいじゃないか! でも、興奮してちょっと分析が足りてないんじゃないかな?」
「貴様は……あの時の拳士か。ふん、この光景を見て心が躍らぬとはな。晩餐としてはとても気分がいい」
 拳を構える『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)に気付いたらしい黒黥が鼻を鳴らす。
「食事をするテイドの考えでオレたちを倒してやろうだなんて、甘く見すぎだってことを教えてやるよ!」
「――はっ、言わせておけば」
 昏い狂気の目と視線を合わせ、イグナートは拳を構えた。
「え?なんかよくわからないんだが、負けると俺達食われちゃう感じなのこれ?
 いや、あの……殺される覚悟はともかく食べられる覚悟はできてないので一度お家に帰らせてください。ダ――」
「逃げたいなら逃げればいい。肉が少なさそうだ」
「メですか、そうですか――えっ」
 思わず『狂言回し』回言 世界(p3p007315)は驚くものだ。
「――食うのが後になるだけだ」
「あっ、はい」
 逃がす気はないと言外に伝えられて思わず答えていた。
「戦場で顔を合わせるのは幾度目か──だが、貴様も全てを出し尽くしてる訳ではないだろう。黒黥の」
 槍を構える『騎士の矜持』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は黒黥へと問うた。
「愚問だな、貴様らが出させられるものならば、やってみればいい」
 男はそう言って笑っている。
(貪食の竜翼とも呼ばれる存在だ。女神の欠片やレムレース・ドラゴン、或いは俺達を喰らって一気にその力を高めたりする事が可能なのではないかと言う想像はあるが……)
 警戒はすれど、それだけが条件ではない、というのも何となくベネディクトは思うものだ。
「奴もまた幾度かの戦いを経てその力を増しているだろう。皆、気を付けてくれ」
 「ハァン……随分と強気だこと。腹空かせて食い散らかしてまだ足りないって駄々こねるのねぇ。
 おとなしく喰われてやるならこんなとこにゃ立ってねぇ。ぶちのめしてやるわ」
 煙草を消し、『慈悪の天秤』コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)はそう応じるものである。
「黒黥。貴方もベルゼーを主というのですね。
 ええ、少し意外でした。純粋な欲求と暴虐を振るう者と思っていましたので」
 血印から鎌を作りだした『輝奪のヘリオドール』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)は言う。
「あん? そりゃあ、まぁな。あの方は俺にとっちゃある意味で憧れみてえなもんだ」
「ならば私は……貴方をその暴食の呪いから解き放つ。
 魔種という存在である以上、私にできることはその程度ですから」
「はっ――やれるもんならな」
 笑った魔種へとマリエッタも応じるように鎌を振るう。


 戦場に咆哮が響く。
 戦場を幾つもの稲光と炎を引きつれた黒いブレスが戦場を迸る。
 うち1本は黒黥諸共に焼き払っていた。
「あの2体は私が」
 マリエッタはレムレース・ドラゴンに向けて血で出来たナイフを叩き込む。
 炸裂したナイフはその場で弾け、その内側へと浸透する。
「あまり当たりたくないな」
 世界はその光景を見るや魔力を解放する。
 瞳に茨の模様が浮かび上がるのと同時、既に術式は起動している。
 穏やかな深緑を思わせる穏やかな光景が幻覚となって戦場に顕現する。
 幻影にすぎぬ光景はしかし、仲間達の傷を癒す優しい風と光を生み、受けたばかりの傷を優しく打ち消していく。
「流石に雑すぎるだろ」
 サンディはその光景に思わずそんな声を漏らしつつ、タロットカードを翳す。
 燃えさかる呪符は描かれた不死鳥の示す通り、再生を司る。
 光が戦場を照らし、仲間達を包み込む。
「さっきのくだらねえ挑発も気に喰わねぇし、うざってぇ光だ。てめえから潰してやればいいな?」
 空に影が差し、飛び込んできた黒黥がサンディへと拳を振り下ろす。
「へっ、そう簡単には潰されないぜ!」
 炸裂する拳打が爆発的な勢いでサンディに傷を増やしていく。
 レイチェルは圧倒的な速度で大弓を引いた。
「普通に考えれば周りの奴らからだろうが――お前を自由にさせるわけもねぇ」
 月下美人咲き誇る弓が抱くは紅蓮の炎、一条の矢へと姿を変えたそれは限界まで引き絞られている。
 尾を引いて放たれた炎の矢が戦場を翔け抜ける。
 それに気づいた黒黥が手を矢へと向け、正面から殴り返す。
 炸裂した炎が魔種の身体へと纏わりつくのと同時、既にレイチェルは二の矢を番えている。
「──復讐するは”我”にあり」
 短く紡いだ詠唱、引き絞られた炎は射出と同時に矢の形から解けていく。
 煌々たる輝きを帯びた炎は空に炸裂し、天を覆いつくすばかりの炎の雨となって戦場に降り注いだ。
 熱を持たぬソレは戦場に呪いにも似た炎を残して消えていく。
「ちぃ、魔術師か……鬱陶しい」
 苛立つように舌打ちする声は、炎に塗れた黒黥のもの。
「言っただろ、自由にはさせねぇ」
 射線を整え言うレイチェルに魔種が鼻を鳴らす。
 続けて動くのはカイトである。
 占星術による加護を自らに降ろせば猛禽の瞳は静かに魔種を捉えている。
(猛禽は、獲物を逃さない。狙いを逃さない)
 それは猛禽の群れが獲物を狩るための策、仲間達へと齎す鳥獣の目。
 赤き勇者の威風はそれだけに終わらぬ。
 目立つその姿がレムレースドラゴンの注意を惹きつける。
「他の影の竜も相手しないといけないんでね、ちょっとばかしアタシに付き合って頂戴な
 その動きに合わせてコルネリアは黒黥へと跳びこんだ。
 壁のように立ちふさがり、福音砲機をバルカンに変え、一気に魔弾をぶちまける。
「まあでも、個人的にはキミは分かりやすくてキライじゃないよ!」
 肉薄するイグナートは目の前の魔種へと小さく笑う。
「ふん、それを言うならこちらも貴様の事は左程嫌いではない。
 拳でやりあう男はあまり嫌いではない――食う時は多少は味わってやろう」
「できるモノなら!」
 イグナートは拳を握り、思いっきり振り抜いた。
 栄光を刺す拳打を真っすぐに撃ち込み、その影を衝くようにして手刀を放つ。
 鍛え上げられた手刀で肉を穿つように撃ちめば黒黥の口元に血が浮かぶ。
「奴を倒す前に、まずはこちらからだな」
 ベネディクトは剣と槍を構え一気に跳びこんでいく。
 間合いに入ったレムレース・ドラゴンめがけて槍を叩き込み、何とか槍を潜り抜けた個体へは剣が閃く。
 無地に、残酷に切り刻む壮絶極まる斬撃は黒き闘志を纏い、まるで獣が食らい潰すが如き収奪を見せる。
(絶対に、貴方達を暴食の罪から奪い取ってあげます)
 ヘリオドールの瞳を魔種へと向けたマリエッタは自らの強化を果たすと視線をレムレース・ドラゴンに向ける。
 マリエッタは人差し指に傷を入れると、そのままその場で陣を描く。
 宙に浮かび上がった陣から射出された無数の武器が何度もレムレースドラゴンを串刺しにしていく。


「猛禽は、獲物を、逃さない、って言ってるだろ!!!」
 そこへと追撃とばかりに飛び込んだのはその時を待っていたカイトである。
 赤き彗星が如くカイトは三叉槍を振り抜いた。
 黒黥へと叩きつけた一閃は魔種の精神へと食い込んだ。
 炸裂した一撃に黒黥が視線をあげる。
 ここではないどこかを呆然と見つめるその姿は間違いなくその一撃に意味があったことを示す。
 虹色に輝く空と緋色の大地に挟まれた男は狂気に囚われよう。
「アタシ達なんて喰っても腹壊すだけじゃなぁい?」
「ふん、それを決めるのは俺だ、あの影如きに比べれば、貴様らの方が遥かにうまそうだろう?」
「大食い自慢しても、食い散らかして汚すなんて礼儀を知らないんじゃ程度が知れちゃうわよ?」
「はっ、ならばその汚れも食いつぶせばよかろうな?」
「やれるならやってみな」
 挑発と同時、福音砲機の弾丸を一気に叩き込んだ。
 余燼の弾丸は黒き魔種の身体を撃ち抜き、そのまま戦場を翔け抜けていく。
「捉えている」
 茨を浮かべた世界の魔眼は四象へと接続する。
 四象の権能が一斉に魔種を包み込む。
「どうしたよ、こんなもんか?」
 サンディは再び黒黥を挑発する。
 循環した魔力が傷を癒しながらも受ける攻撃は激しく、けれど宣戦崩壊でもない。
 ぎらつく魔種の双眸と合わさった視線、それに嵐神は苛立ちを見せる。
 暴風が魔種に隙を作らんと吹き荒れる。
「――あぁぁ、くそが」
 苛立つように、魔種が舌を打つ。
「血を流しすぎたか? 腹を空かせすぎたか?」
 ふらふらと魔種が体勢を屈めた。
 それはまるで『本来はその体勢が正しい』とでもいうように、四足歩行の獣のように。
「仕方ねぇ、貴様らの勝ちだ――存分に食われろ」
 刹那、まるで音が食われたが如く戦場が無音に至り、直後には黒黥を中心に向こうの見えない深い闇が弾けた。
「これはマズそうだね! ミンナ、後は任せるね!」
 イグナートは仲間を庇うようにして前へと跳び込んだ。
 握りしめた拳を真っすぐに叩きつけた刹那、身体から力が抜けていく。
 きっとそれは仲間達の分も庇ったからか、巨大な黒竜に食らいつくされるような感覚がイグナートを包み込む。
「……自ら食われたか」
 そんな声と共に払われた闇、そこにはイグナートを残して何もなかった。
 ヘスペリデス特有の草木も、浮かんでいた大地も、下手をすれば空気さえも、何よりも――辺りに落ちていた『女神の欠片』も。
「しかし、喰らいつくしたかと思ったが、身体が残っているとは……これもパンドラの加護か」
 払われた闇は消えることなく黒黥の周囲に揺蕩い、形を整えていく。
 それは黒黥を中心とする黒い闇で出来た竜のように見えた。
 一体化した黒黥の身体は、こうして見るとどこか竜人を描いた刺青のように見える。


 その光景を見たベネディクトは何が起こったのか何となく察するものだ。
「貪食の竜翼、その地のあらゆるものを喰らいつくして去っていく極小の災害……それが全力か、黒黥の」
 文字通りの黒き竜となった黒黥にベネディクトは視線を向ける。
「是なり」
「なれば、それがお前の本当の姿か?」
「是であり否である」
「どんだけ強そうだろうが、一人で戦ってるわけじゃねぇんだ。通しゃしねぇ」
 コルネリアは自らを奮い立たせるように走り込む。
「行きな、ベネディクト。防いでやっからぶちかましてやれ!」
 福音砲機を銃剣のように変え、思いっきり振り抜いた。
 覚悟と勇気を刃に変えた一閃が黒き竜へと叩きつけられる。
「その思い、確かに受け取った! 撃退などとは言わん、その首を貰らい受ける!」
 応じるようにベネディクトは槍を地面に突き立て、代わって剣を抜いた。
「ふん、良かろう、金色の騎士よ。
 竜を狩るは騎士という――できるモノなら、やってみせよ」
 剣に黒き雷を纏い、覚悟と共にベネディクトは飛び込んだ。
 それに応じるように、黒竜が口を開き、口腔へとなお濃い闇が集束していく。
「勝負!!」
 そこめがけ、ベネディクトは飛び込んだ。
 黒狼の一閃が飛んでいく。
 口腔に集まる闇が放たれるよりも前に、ベネディクトの一閃が黒黥の身体を撃ち抜いた。
「良い一撃だ――だが、足りん」
 黒竜の顔から声が聞こえる。
 それと同じく、竜の口腔には未だ闇が集まっていた。
「あれを正面から受けるのは拙そうですね……」
 続くようにマリエッタが動いた。
 跳びこむままに打ち込んだ血の槍が内側で弾け、闇が僅かに戦場に散れば。
 追撃に放つ渾身の神滅の一閃が闇の中へと深く飲み込まれていく。
「冷静に考えれば、付与の一種なんだろうが……」
 世界は直感でそんなことを考えながらも魔眼を黒黥に向けた。
 魔眼が作り出した一本の槍を打ち出せば、黒黥へと吸い込まれていく。
「ふん」
 黒黥が鼻で笑った直後、男を包む闇がひとりでに動いて槍を叩き落とす。
「目障りだ」
 竜の口腔に集束していた闇が爆ぜ、戦場を包んだ。
「――ほう、まだ立つか」
 パンドラの輝きを帯びながら、サンディは笑ってみせた。
「気合いだっ!」
 顔を上げてそう啖呵を切れば、魔種が舌打ちする。
「いつか逆にお前を喰らってやるよ。この顔、覚えておくンだな!」
 レイチェルは大地へと自らの血を垂らす。
 魔力を帯びた血液は陣を描き、紅蓮の焔が姿を見せる。
「はっ、俺が言うの物なんだが、だとしたら貴様も随分な悪食だな!」
 獰猛な獣の如き炎がうなりを上げれば、それを見上げた魔種が笑う。
「それから、これは1つ訂正だ」
 魔種へ向けてレイチェルは続けた。猛る憤怒の焔は魔種を獲物と定めていた。
「――1つだけお前に喰わせてやるよ、前菜だ。
『憤怒、そして復讐の焔こそ我が刃。復讐の果てに燃え尽きるのが我が生なり』」
 解放されし復讐の焔が魔種を呑みこんだ。
 立ち上る紅蓮の焔、苛烈なる一撃が包み――爆ぜた。
 散り付く炎が魔種へと確かな傷を刻んでいるが、一方でまだ悠然と立っている。
「我が名は黒黥、飽くなき空腹により罰を受けし罪人なり。
 人間よ、ベルゼーの下で待つ。次は本気で食いつぶそう」
 竜の姿をした黒黥が咆哮を上げた。
「逃げんのかてめえ! 大人しく喰われやがれ!!!」
 飛び出すように打ち出したカイトの槍が真っすぐに黒黥へと伸びる。
 強かに撃ち込んだ一撃は再び黒黥の肉体を貫いた。
「ふん、その小さな口で俺が食えるか」
 黒黥の挑発は負け惜しみにすぎまい。飛び去る男を見据え、カイトは小さく息を吐いた。

成否

成功

MVP

コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)
慈悪の天秤

状態異常

サンディ・カルタ(p3p000438)[重傷]
金庫破り
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)[重傷]
黒撃
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)[重傷]
死血の魔女

あとがき

完全に黒竜のようになった黒黥との戦いは次回へ。お疲れさまでした、イレギュラーズ。

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