PandoraPartyProject

シナリオ詳細

井さんの誕生日サードインパクト

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●井さんの誕生日三日目
 気づけばあなたたちイレギュラーズは廃墟にいた。
 廃墟にいて、バニー服を着て、後ろ手に手を縛られていた――!
「どういうことだオラァ!!」
 リア・クォーツ (p3p004937)が叫ぶ! その後ろで、バニー服を着せられて後ろ手に縛れていたジェック・アーロン (p3p004755)が泡を吹いて倒れていた。
「どうって」
 リースリット・エウリア・ファーレル (p3p001984)が嫌そうな顔をする。
「この依頼を持ってきたのはリアさんでは……?」
 そういう通り、この依頼を持ってきたのはリアさんである。

 順を追ってはなそう。練達で行われる脱出ゲームのモニター募集。これはそんな依頼であった。
 後にリアさんの語ったところによると。
「ただの脱出ゲームだと思ったの。
 ほんとよ。リクシナ発注文に、

 洗井落雲がお誕生日を迎えたので全員バニースーツです
 そして、全員両手を縛られています

 なんて書いてないから」
 そう、遠い目をした。
 なんにしても、普通の脱出ゲームのモニターだと思って依頼を受けて、気づいたらバニースーツを着て両手を縛られていたのである。
 状況説明終わり。

「つまりどういうことなの」
 長谷部 朋子 (p3p008321)があきれたように言う。ジェックその後ろで泡吹いて倒れていた。
「つまり――脱出ゲームということです」
 と、声が上がった。そこには、
「井! テメェの仕業か!」
 リアが叫ぶように、井(p3n000292)の姿があったのである。
「しかも、二人……!? いえ、三人……いえ……!?」
 リースリットが目を丸くした。そこには、およそ八人の井が居たのである! 井、それは井みたいな姿をした変なウォーカーであるが、今はアライグマの獣種みたいな姿にもなれるようになっており、目の前にいる八人の井は、アライグマの獣種の格好をしていた。
「いえ、本物の井は僕一人です」
 その中の一人がなんか言った。
「残りはその、着ぐるみでして」
「着ぐるみ……?」
 うん、と着ぐるみの井たちがうなづく。
「えっと、これは一応、ちゃんとした依頼なのです」
 井の着ぐるみ、井ぐるみが言った。
「これは新型の脱出ゲームのモニターです、とはお伝えしましたよね。皆さんは、バニースーツを着て後ろ手に縛られながら、井さんの姿をした我々アライグマ軍団に追っかけまわされてもらいます」
「どういうシチュエーション?」
 朋子が嫌そうな声で言った。ジェックが泡を吹いて倒れた。
「どうもこうも、バニースーツを着て後ろ手に縛られながら、井さんの姿をした我々アライグマ軍団に追っかけまわされるとしか……。
 これ、たぶん絶対受けると思うんですよね。この夏の練達のアクティビティの目玉にしたいんです」
「そんなことしたら、練達亡ぶと思うけれど」
 リアががるる、と呻きながら言った。
「とにかく状況は理解したわ。この状態(バニースーツを着せられて後ろ手で縛られた状態)で、井から逃げ回ればいいと。ちなみに、井に捕まったらどうなるの?」
「それは」
 井ぐるみが言った。
「舐めまわすように写真を撮られて、売店で売られます」
「やだーーーーーーーーっ!!!!」
 ジェックが半泣きで叫んだ。
「でも、ほら、ハイルールですし……」
「出たよハイルール」
 朋子が苦虫を嚙み潰したような顔をした。
「とにかく、お仕事ですので、皆さんにはテストプレイをしていただきたいのです。
 あ、このゲームは、協力プレイのように見せかけて協力プレイではないので、うまく利用しあって、助け合って、最終的に裏切って自分だけ生き延びてください」
「うーん、暗黒デスゲーム……」
 リースリットがうなだれた。頭を抱えたかったが、両手を縛られているのでできなかった。
「それじゃ、しばらくしたらぴんぽーん、って音がするので、それを合図にゲームスタートです。
 皆さんは、この廃墟ビルの10階から、一階に向けて進んでくださいね。一階が出口です。
 それじゃ、テストよろしくお願いします」
 と、井ぐるみたちがそういい残し、部屋を後にした。
 あとには、微妙な空気のイレギュラーズたちが残された。
「ハイルールなら仕方ないわね」
 リアが言った。
「頑張りましょう、皆」
「やだーーーーーーーっ!!!」
 ジェックが泣いた。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 これはリクエストシナリオなので、僕は悪くないです。

●成功条件
 誰か一人でも無事に出口にたどり着く
  or
 全員が捕まって写真撮影される

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。


●状況
 新規脱出ゲームイベントのモニター募集依頼を受けた皆さん。意気揚々と練達のビルに向かってみれば、そこには八人の井(一人の井+七人の井の着ぐるみを着た人たち)がいました。
 井たちは言います。
 「これはバニースーツを着て両手を縛られた状態で脱出を目指すゲームです。皆さんを我々八人の井が追いかけます。捕まったら、写真撮影をされてイベントの売店で売ります」
 と――。
 冗談じゃねぇ! となった皆さん。ここは仲間たちを生贄にささげて、一人だけでも生き残りましょう!
 じゃなかった、協力して脱出を目指し、みんなで仲良く生き残りましょう!
 シナリオで扱うのは、10階建てのビル。フロアは『会社のオフィスのようなイメージの部屋と廊下が無数に存在しています』。部屋の中には、大きなデスクやロッカーなどが置いてあるイメージですね。
 1フロアはあまり広くはありませんので、ビルを登ったり下りたりかく乱しつつ、最終的に一番下の出口に向かうこととなります。
 しかし、ただ移動すればいいわけではありません。以下のイベントが発生します。

 1.井増加イベント
   ランダム回数発生します。このイベントを1分以内に成功させないと、追手の井が増加します。
   7階の部屋と、3階の部屋にあるスイッチを押して、井の増加を止めましょう。

 2.出口のカギ出現イベント
   ある程度時間が経過すると、出口にかかったカギを解錠するためのカギが出現します。
   この鍵が出現したときに、どこに出現したかのアナウンスが発生します。聞き漏らさないようにしましょう。

 3.一回だけ写真撮影をなかったことにできる権登場イベント
   持っていると、一回だけ、捕まっても許される権利がえられるアイテムが入手できるイベントです。
   持っていると保険になりますが、そこまでして得る価値があるかは……?
   ちなみに、誰かが捕まった際に、この権利をその人物に売りつけることが可能です。対価は適当に決めてください。

 以上となります。
 それでは、皆さんのご参加とプレイングをお待ちしております。

  • 井さんの誕生日サードインパクト完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2023年06月27日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)
炎の守護者
リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)
紅炎の勇者
※参加確定済み※
ジェック・アーロン(p3p004755)
冠位狙撃者
※参加確定済み※
アベリア・クォーツ・バルツァーレク(p3p004937)
願いの先
※参加確定済み※
ソア(p3p007025)
愛しき雷陣
エルシア・クレンオータ(p3p008209)
自然を想う心
長谷部 朋子(p3p008321)
蛮族令嬢
※参加確定済み※
マグタレーナ・マトカ・マハロヴァ(p3p009452)
彼方への祈り

サポートNPC一覧(1人)

井(p3n000292)
絶対紳士

リプレイ

●それでは今日の犠牲者の皆さんの発表です。
 『炎の守護者』チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)様。
 『紅炎の勇者』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)様。
 『冠位狙撃者』ジェック・アーロン(p3p004755)様。
 『願いの先』リア・クォーツ(p3p004937)様。
 『無尽虎爪』ソア(p3p007025)様。
 『自然を想う心』エルシア・クレンオータ(p3p008209)様。
 『蛮族令嬢』長谷部 朋子(p3p008321)様。
 『想光を紡ぐ』マグタレーナ・マトカ・マハロヴァ(p3p009452)様。
 いじょう、おつかれさまでした。

●本編
「洗井ィ!! アンタ三日連続でリプレイ冒頭に雑にキャラ名とID列記する感じのクソリプレイ書いてて恥ずかしくないの!?」
 がうがうとリアが吠える。リアはバニーである。というかみんなバニーであった。それはもちろんチャロロ君もバニーであり、チャロロ君は男の子だけどバニーだった。大丈夫だよ、男の子からしか摂取出来ない栄養が、あるからね。
「気持ち悪い!」
 チャロロ君がつらそうな声を上げた。
「なんで……?
 オイラ男だよ?
 男のぺたんこピタピタバニースーツなんて誰が得するんだよー!
 いや、得するんだ、この井って人たちは……どうなってるんだよ、わからないよ……!」
「写真(イラスト)もまってますが?」
 井が言った。井は八人いる。厳密に言うと、一人は井で、残りは井っぽい着ぐるみを着ている洗井落雲である。
「本当に嫌ですわ……!」
 チャロロ君は女装すると、ついお嬢様口調になってしまうのである。バニーって女装のうちに入るんだね。僕は一つ大人になった。
「それはいいのですけど」
 と、リースリットが言う。
「いえ、本当は何もよくないのですけど、もうよいということにして話を進めます。
 とにかく、これは『ルールのあるゲーム』という認識でいいのですね?」
「それはもちろんです」
 井が言った。
「言い方を変えれば、『ルールを守ってゲームをクリアすれば助かる』。こういうことです」
 そう、井が答える。
「やはり……これは再現性東京とかでよくある、絶対にやらなければ依頼をクリアできないタイプの依頼ではないということ……!」
「再現性東京をなんだと思ってるんですか?」
 エルシアが思わず突っ込んだ。
「……いけません。私ったら、深緑ガチ勢なのに、つい他国のフォローをしてしまいました。
 まぁ、それはさておき、実に練達らしい野蛮なゲームです。何が野蛮って、ハイヒールで後ろ手に手を縛られてる状態で逃げ回るとか、普通の人間ができるものではないでしょう、危なすぎて。物理的に店頭の危機を感じるのですが。特に下り階段とか」
「なるほど」
 井が頷いた。
「では、転びそうなときはスタッフが体を張って支える感じで……」
「早く逮捕されてくださいね。インタビューを受けるときは、『あの人は絶対何かやると思ってました』って答えますから」
 エルシアがにっこりと笑った。
「まぁ、とにかく、この状況で何とかしないってことだけはわかったよ」
 朋子がげんなりした様子で言った。
「あたしとしたことがまんまと嵌められるとはね……リア・クォーツ、油断ならない女だ。
 前々からセンシティブだとは思ってたけど、まさかあたし達まで巻き込んであられもない写真撮影を図るとは……見抜けなかった、この炎のネアンデルタールの目をもってしても!
 ていうかマジで手枷取れねぇんだけど何で出来たんだこれ、ちょっとした合金程度なら粉砕できるのにびくともしねぇ!」
「聞きたいですか?」
「別にいいよ! どうせこのシナリオでしか出てこない謎素材なんだろうから!」
「んー、とにかく、ボクたちはこの」
 と、ソアが自分の体を見やる。バニーと、手かせ。
「かっこーで、脱出する……えっと、イベントみたいなのは、教えてもらった通りなんだよね?」
「ええ。ハンター……じゃなくて、井増加イベントや、鍵の出現など……オープニングとシナリオ詳細に書いた通りです。そこは情報精度Aなので」
「このPPPってゲーム、キャラクターをはずかしめるときだけ情報精度Aとかにしてない?」
 ソアが目を細めた。それから、こほん、と咳払い。
「まぁ、わかったよ。それと、どうすればいいのかも、だいたい」
「母としては、子の誕生日を祝うことは歓迎いたしますが」
 マグタレーナが、ほう、と息を吐いた。
「誕生日会ってこういうものでしたか? 母を縛ってどうしたいのですか。
 ……いえ、洗井落雲がそういうのがお好きなのでしたら、仕方ありません。
 わたくしとしても、諦めますが」
「助かります」
 井が言った。たすかります。
「やだ……」
 ジェックが部屋の端っこで、うじうじしながら言った。
「やだ……」
「もうしょうがないのよ、ジェック」
 リアがほほ笑む。
「一緒に頑張りましょう。ところであんたのプレイング見たら『絶対にだれも信じない、一人で脱出してやる』みたいなこと書いてあるけど。
 許すわけないじゃない。あんたはあたしと一緒に脱出するの。ごめん、嘘。脱出するのはあたしだけ。あんたは途中でいい感じに写真撮られて闇市辺りで売りさばかれて」
「もうちょっと本音を隠すとかさぁ!!!」
 ジェックが頭を抱え――られなかったので、まぁそういう気持ちで叫んだ。朋子が、ふむん、と唸った。
「さすがだ……どっちも与太慣れしてやがる」
「慣れたくなかったよ!?」
 ジェックが叫んだ。
「あ、じゃあ、そろそろ皆さん準備良さそうなので。ゲームスタートします。もう、文字数も二千字ちょっと行ってますからね。
 じゃあ、よーいスタート、で始めてください。
 はい、よーいスタート」
 と、井が言うと、ごーん、と鐘のような音が鳴り響いた。それから気づくと、近くにいたはずの八人の井もいなくなっていた。どうやら、配置についたらしい。
「ふっふー、生き残るのはボクだよ~!」
 と、ソアがたったと走っていく。
「仕方ありませんね」
 はぁ、と嘆息しながら、エルシアも進んでいく。
「それでは、皆さま、ご武運を」
 マグタレーナも部屋を後にして、
「うう、絶対ろくな目にあいませんわよ……!」
 チャロロも自分の運命を悟りつつ進んでいく。結局残ったのはリアと、リースリットと、朋子と、ジェックだった。四人は顔を見合わせて、
「あとで覚えとけよ?」
 にっこりと笑った朋子が先に出て行って、それからリースリットがはぁ、とため息をついて出ていく。
「なる様にしかなりませんよね」
 そう、言葉を残して。まったくその通りである。
「まぁ、いいけど」
 リアが言った。
「ジェック、本当に一人で何とかするつもり?」
「アタシは一人で生き残る」
 ジェックが、まっすぐにリアを見つめた。その瞳は、確かな決意の炎が宿っている。
「いいわ。なら、この瞬間から、あたしたちは敵同士よ」
 そういった。
 ジェックも、不敵に笑った。でも冷静に考えると、このシナリオに限って言えば、最初の段階からすでにこいつは味方ではない。
 健闘を祈る様に。リアは、にっこりと笑うと、ゆっくりとジェックの傍に寄ってから、思いっきり足元をすくってやった。
「あ」
 ジェックが転倒する! リアはすぐに踵を返した!
「井!!! 此処に転んでるやつがいるわよ!!!!!!!」
 大声で叫びながら、リアが部屋から飛び出していく!
「ひどすぎる!!!! 絶対ガブリエルに密告してやるからね!!!!」
 ジェックがじたばたしながら絶叫した。
 そう言う感じでスタートです。

●最後に笑うのは誰か
「真面目にルールを考えると」
 と、リースリットがゆっくりと階段を下りていく。ビルの構造は、十階建てのオフィスビルを想像してもらえれば近い。さすがにエレベーターの類は存在しないため、階段を使って降りなければならない。もちろん、階段は複数個所――紳士協定上、井たちはやらないが、一つしかない階段を抑えてしまえばほとんど参加者が封殺されてしまうため――存在する。
「このゲームは、出口のカギの争奪戦……と言えます」
 その通りといえる。もちろん、合間合間の小イベントもあるが、実際には、如何にこの出口の鍵を手に入れるか、という戦いになるだろう。なにせ、これがなければ外に出られない。鍵を持っていればさっさと外に出ることも、逆に逃げ回って他の参加者を陥れることもできるわけだ。
 ただ、鍵がどの階に現れるかはランダム。となると、中間階層で待機するのが一番動きやすい。
「……追跡者の増加を止めるためのスイッチは、七階と三階に固定。対応するなら、五階が一番なのですが――」
 はぁ、と嘆息する。
「絶対みんな、協力しないんですよね……!」
 そうだね。リースリットが現実を覚悟したところで、一度目のアナウンスが鳴る――。
 さて、三階である。ここでは、チャロロが井放出スイッチを抑えるべく奮闘していた。井放出スイッチってこの世の地獄みたいな文字列だな。
「うう、でも……!」
 部屋の中はオフィス風の場所であり、デスクなどが散乱している。その陰に隠れつつ、チャロロはお嬢様口調で独り言ちた。
「三階をおせても、七階のを押せるかは……」
 微妙なところである。そもそも、このイベントは協力が必須なわけなのだが、こう、協力的な人間がリースリットとチャロロくらいしかいない。エルシアは例外ではあったが、自分の策略の関係上、井が増えてもダメージはないと踏んでいるし、マグタレーナもこのイベント参加に積極的ではない。
 となると、この二人しか実質的なイベント参加者がいないわけで、そうなれば、イベント妨害に向かった井たちは、すべてこの二人にぶつかることになる――。
「いやあぁぁぁ!! 追っ手が!」
 というわけで、当然のようにチャロロの悲鳴が三階にこだました。そちらにカメラ(撮影用)を向けてみれば、既に井に取り囲まれて、パシャパシャと写真を撮られているチャロロの無残な姿があったのである。
「うぅ……どうして私がこんな目に……。
 そ、そんなポーズ取らされるなんて屈辱ですわ……」
「あー、いいですよ、今度はちょっと視線を上目遣いにしてみましょう」
「してみましょうじゃないよ! 終わったら全員井じゃなくて丼にしてやるからね!」
 さて、チャロロがこうなっているわけで、当然七階のリースリットもこうなっている。
「あああ!! どうして! だれも! 真面目にイベントをこなそうとしないのですか!!」
「いいですよリースリットさん、こう、くっ、って感じでにらみつけてください」
「私は!!! 姫騎士じゃ!!! ありません!!!」
 顔を真っ赤にしてぎゃんと叫ぶリースリット。そんな様を眺めながら、リアはにやりと笑った。
「愚かね……真面目に生きたやつから脱落していく。これが混沌世界よ……」
 悪役みたいな顔をしてリアが言った。それはさておき、井が放出されてしまったわけで、全体としてはマイナスに働いている。のだが、どうもこの人たちは、障害が増える=蹴落とす手段が増える、位にしか考えていないようである。悪いひとたちだな。
 さて、しばし時間が進み。何度目かの井放出イベントが発生したが、これも当然のごとく全員無視。また井が増える。
「くそ~~! どいつもこいつも信用できねぇし、唯一まともそうなチャロロ君はもう脱落して写真撮影会に入ってる!」
 朋子がぎりり、と奥歯を噛みしめた。殴って解決できない事態はとても解決が大変である。殴れば解決できないからである。
「くそ……これが井をぼこぼこにする依頼だったらもう容赦しねぇのにな……!」
 井が迫ってきても、殴って黙らせることができない。よかった、井を撃退可能とかにしなくて。さて、状況としては、プレイヤーたちに不利な状況で膠着していたわけだが、ここで転機が訪れた。というのも、『鍵が出現しました』というアナウンスが鳴り響いたのである――!
「鍵が……!」
 ひょい、とマグタレーナが顔を出した。もちろん、目を閉じているので見えないが、それはさておき、鍵は入手しておきたい。
「朋子さん、協力しませんか?」
 そう声をかけるのへ、朋子はいぶかしげな顔をした。
「誰も信用できねぇ……」
「気持ちはわかりますが……そもそもこれは、協力のゲームです。幸いわたくしは、エコーロケーションと超聴力で、井さんと偽井さんの、心臓のドキドキとカ荒い吐息を感じ取ることができます」
「前世でどんな罪を犯したらそんな苦行を?」
「とにかく! これで井さんたちの状況を把握し、鍵を確保します……如何ですか?」
「そうだな……」
 朋子が頷く。マグタレーナは、まともな参加者である、と考えられた。平たく言うと、信用できそうなのだ。
「わかった。あたしも命は惜しい。提案に乗るぜ」
「ありがとうございます。では、さっそく、あたりをサーチしましょう」
 そういって、マグタレーナが意識を集中する。した。
「……囲まれてますね」
「なんで!?」
 朋子が慌てた様子で叫ぶ――だが、この時、朋子のネアンデルタール脳に電流が走った!
「そりゃそうだよ! あたしらどんだけ井放出イベントを無視したと思ってんだ!」
「確かに」
 マグタレーナが、そりゃそうだ、とうなづいた。というわけで、この後二人の撮影会が始まることとなる。
 さて、この井放出イベントの無視は、すべてのプレイヤーたちに平等に最悪の状況をもたらしていた!
「うわーん! なんでこんなに井が居るの!!」
 ソアが叫ぶ!
「いえ、それはまぁ、あれだけイベントを無視していては」
 さもありなん、とエルシアがうなづいた。そう、だれも、まじめに、井放出イベントをクリアしようとしていないのである!
「しかし、これは予定外というか。
 確かに、偽の井は着ぐるみですから、ちょっとタックルすれば倒せます。私が井放出イベントを無視していたのは、むしろ偽物の井が増えれば増えるほど、着ぐるみの井が増えるわけで、私の策がより確実性を増すからです。問題は」
「問題は?」
「こんなに増えると思っていませんでした」
「だめだーっ!」
 二人が必死に走るその後ろに、大量の井(きぐるみ)が迫ってくる。井のすし詰めのようである。地獄かな。
「困りましたね……このままでは、脱出もままならないかもしれません……」
「あ、そうだ、エルシアさん! いい策があるの!」
 と、ソアが言った。エルシアが、ほう、と唸り、「どのような」と口にしようとした瞬間! ソアがエルシアの足を思いっきりひっかけた!
「きゃんっ!?」
 エルシアがそのまま、ばたりと倒れる。そこには都合よくクッションがあったので、エルシアに怪我はありません。実際安全です。
「ありがとう! 後であなたのお写真を買ってあげるからね!」
 ソアがにっこにこで走り出す! エルシアがきゃいきゃいわめくのが聞こえたが、すぐにカメラのフラッシュ音にかき消された。あとは、このまま階段を駆け上って、鍵を確保するだけだ――が!
「しまった! こっちにも井が!」
 だが、そこにいたのは井だ! 井はどこにでもいる。君たちが増やしたんだからしょうがないよね。
「お願い……ほんの少しだけ見逃して?」
 目を潤ませて、ソアが井に言う。
「こんな可愛いウサギさんの話を聞かないわけないよね?」
 きゅるん、とお願いする。かわいい。
「えっ!!!! こんなかわいい兎の写真を撮っていいんですか!?!?!?!」
 問題は、井は度を超えたやべーやつだったということである。というわけで、ソアも写真を撮られまくった。
 鍵が現れたのは、6階である――というわけで、残る生存者であるリアは、クオリアの音を最大限に活用し、6階に駆け上がっていた。
 階段を駆け上がるたびに、息が弾む。今までの人生でこれ以上ないほどに、リアは全力で走っていた。なにせ、ここで失敗すれば恥ずかしい撮影会である。この写真がお土産屋で売られたりしたら、絶対にガブリエルに送り付けるやつが出てくるのだ。
「許せない……それだけは……!」
 もう勘弁してほしい、そういうの――と胸中で呟きつつ、リアは走った。防火扉をけり開ける勢いで開いて、目の前のオフィスへ。並ぶデスクの一つに、小さな小箱があった。
「あれか――!」
 リアが飛び込む。小箱を開いた。そこには鍵が入っている。自由への、鍵だ。その筈だった。
「空……!?」
 唖然とした様子で、リアがつぶやいた。そこには、何もなかった。何も、入ってはいなかった。どうして? 一瞬、頭の中が真っ白になる。何故? 何故? いや、その答えは、もうわかっている。わかっていた。あの、最大のライバルが。
「ジェックが……!」
 すでに、到達していたのだ。そして鍵を回収して、立ち去った……!
「……渡会さんのバニー……特定部位のサイズがちょっと小さくてサイズが合わないから手で抑えておかないとずり落ちそうになるんだけど……!」
 悔しげに、つぶやいた。その言葉にうなづくように、大量の井が、リアに迫ろうとしていた。

●エンディング
 アタシは学んだんだ。
 誰も信じてはいけない。
 誰の手も取らない。
 自分一人で逃げ延びる。
 誰も、アタシを助けては、くれない。
 ジェックは胸中でそう独白する。あらゆる手段を利用し、階下へ、階下へ、降りていく。
 最悪のスタートを切ったこのシナリオだったが、しかしジェックは最大の力を振り絞って生き延びた。誰も信用せず、誰にも会わないように、自分の気配を殺し続けた。標的をスナイプする時を思い出し、ただただ、自分を景色の一部とするように。
 あるいはこれは、スナイプであった。最大のタイミングで、最高の戦果を得る。鍵が六階に現れたのは、まさに僥倖だった。ジェックは付近の階層にあたりをつけ、潜伏していた。だから誰よりも速く、鍵にタッチできた。
「生き残る。アタシは――」
 つぶやく。今なら井たちも、すぐには追いついてこれないはずだ。このまま一階の出口まで進んで、鍵を使って脱出する。それでおしまい。ゲームエンドだ。もう目の前に、出口の扉があった。自然、ジェックの口元に、笑みが浮かぶ。生き延びることができる。これで。

 その、数十分ほど前の話である。
 ソアは一人、一階の出口の扉の前にいた。
「出口のドアの鍵穴にガムか何か詰めて塞いじゃお。
 ドアノブもひん曲げておこ」
 何故そんなことをするのだろうか。
 人の心がないのだろうか。

「あああああああああ!!! ソアアアアアアアアッ!!!」
 ジェックが絶叫をあげつつ地団駄を踏んだ。
「どこの! 世界に! 出口を破壊する奴がいるの!!!」
 出口の壁は分厚い。物質透過は難しいし、破壊するのにも時間がかかるだろう。
 だかだかと、足音が聞こえる。ゲームエンドの音は、すぐそこまで迫りつつある。
 ジェックは天を見上げた。
 その少し後に、カメラのシャッター音が響いた――。

 完。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 全滅しました。

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