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シナリオ詳細

在庫の山〜KICKMEPLZ〜

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●在庫の山
 在庫の山。
 在庫の山。
 ざいこのやま。
 おお、呪われし在庫の山! この単語に根源的恐怖を感じぬ者は人ではない、去れ。なお、ウォーカーは例外とする。
 在庫の山はあるだけでメンタルにスリップダメージを負わせてくる強敵だ。そして、おそろしいことに、こやつ、どこにでも現れるのだ。ここ豊穣にも当前、在庫の山は現れるのだ。

●時が経つのは早いもの
「春過ぎて、もう夏来たわ、奥方の」
「衣干すてふ、天香久山」
 豊穣、黒影鬼灯領。高天京郊外にあるのどかな領地だ。
 そこにある大きな屋敷の、これまた広い庭で、ふたりの忍が洗濯物を干していた。
「暦」。鬼灯の配下であり、彼に名を奪われ、彼によって安寧を得た忍集団である。
 こうしてのんきに振る舞ってはいるものの、刃を交えれば誰もがその鋭さに気づくだろう。
「霜月さん、弥生さん、ボクも手伝うよ」
 縁側の沓脱石を降りてきたのは、ひよこ色のワンピースを着た子だ。見る人が見れば、男とわかるだろうが、パッと見は少女にしか見えない。その後ろから、翠の髪の幻想種らしき男の子が顔をのぞかせた。鬼灯に保護されている、孤児院の子どもたちだ。名無しの魔種に狙われており、鬼灯の庇護下に入って久しい。すっかり暦たちと仲良くなり、こうして日常へ溶け込むまでになった。
 ワンピースの少年が振り返る。
「ザスもお手伝いしよ?」
「うん」
 ふたりの忍のまとう雰囲気が柔らかくなる。特に霜月と呼ばれた忍は、目元を優しくゆるませた。
「いいこだねェ、ロロフォイ、ザス。あとで一緒におやつを作ろうか。和三盆のいいのが手に入ったんだよォ」
「やった! 和三盆だいすき! ザスも好きだよね! 弥生さんは?」
「奥方が好きだから俺も好きだな」
「弥生ちゃん、奥方の衣装干すためにきてるだろォ?」
「なにか問題でも?」
「問題がないのが問題」
 霜月は小さく頭を振った。
「弥生さん、お手伝い嫌なの?」
 ロロフォイがシトリンの瞳を弥生へ向けた。
「奥方のためになるのだから、嫌なはずがない」
「ふぅん? 結局、弥生さん自身はどう思ってるの?」
「さてな」
 奥方、というのは、暦たちが敬愛する鬼灯の妻、生き人形章姫のことだ。小さく、愛くるしく、それでいて聖母のような優しさを併せ持つ、暦たちの精神的支柱である。
 弥生はその章姫へ、絶対とも言える忠誠を捧げている。ので、こうした雑用なども、じつはけっこう自分から進んでこなしている。家事というのはまだまだ人力で行うもので、頭数は多ければ多い程よい。そんなわけだから、霜月は弥生のサポートをありがたく受け取っていた。孤児院の子どもたちが来てからは、炊事にかける時間が大幅に増えた。仲間や子どもたちのだけでなく、あの大食らいのシスターイザベラのまで作っているのだ。もちろん彼女は率先して炊事を手伝っちゃくれるのだが、はっきり言って台所に自分以外がいると落ち着かない霜月としては、ありがた迷惑だった。
 炊事の負担が増えたぶん、他のことへ手が回らなくなった。修練もしたいし、自慢の命中精度も磨き足りない。よって、霜月のほうも「奥方のため」と、一言つけるだけでなんでもホイホイやってくれる弥生をあてにしているのだった。
 弥生も弥生で、霜月の負担を気にしていた。顔に出すことはないが。だから奥方のためといいつつ、さりげなく霜月をフォローしている。
 まだまだお子様のロロフォイには、よくわからない信頼関係がそこにはあった。
 ロロフォイと弥生の会話を聞きながら、衣を叩いてしわを伸ばしていたザスがかすかに笑う。
「あんまりつっこんじゃダメだよ、ロロフォイ」
「なんで?」
「なんでも」
「ちぇー」
 やっぱりザスのほうが年上だけあって、多少は人情の機微というものを心得ているのだなと、霜月と弥生は感じた。
 年上……。ザスは幻想種だ。耳こそ削がれているものの、儚げな雰囲気はたしかに幻想種特有のものだ。いったいいくつになるのだろうか。弥生と霜月は目配せをかわしあい、好奇心は猫をも殺すと確認しあった。
 四人がかりで洗濯物を終え、縁側に座って一休み。まっしろな洗濯物が風にはためくのを、見るともなく見やる。
 その時。

「ダメったらダメったらダメだ!」

 背後の部屋から障子を破らんばかりの勢いで怒声が響いた。ぎょっとしたロロフォイとザスが、霜月と弥生につかまる。
「今のは……」
「如月ちゃんの声だねェ」

●広間にて
「そこを! なんとか! このとおり!」
 商人風の男が土下座している。高天京の呉服屋の主だ。暦たちもたびたび世話になっている相手だった。でなけりゃ、わざわざ広間にあげたりしない。
 暦のリーダー格、如月は、頭痛がするのか、頭へ手をやっていた。家計を預かる会計係、睦月がハラハラしながら如月と商人のやりとりを見守っている。呉服屋の主、篤胤トモユキは、額を畳へ擦り付けたまま大声をあげた。
「さきほども申し上げた通り、仕入れた水着が売れんのです! 今年は例年を超える暑さになると予想し、シレンツィオからはるばる海を越えてやってきた舶来物の数々が、冷夏になるとの噂で、ちっとも動かんのです……! このままでは商売が立ち行かず、暦の皆様へも装束のご提供ができなくなること、必至!」
 忍装束は基本的にオーダーメイドである。動きやすく、かつ収納に優れた装束を、期限内に作れる服屋は少ない。篤胤屋が畳むようなことになれば、困るのは暦たちの方だ。
 が。
「一身上の都合で、俺たちは肌を見せられないんだ!」
「そ、そうだよ、もっと言ってやって!」
「言いにくいことをスパッと言ってのける! さすが如月! そこにシビれるあこがれるゥ!」
 如月が一喝し、金銀双子が喝采を叫ぶ。
「そこを! なんとか!」
 だがしかし、篤胤も引き下がらない。
「……なんの騒ぎだ」
 呆れた声が届く。
 あ、頭領。双子が姿勢を正した。
 昼寝から目覚めた暦のトップ、黒影 鬼灯(p3p007949)は、腕に愛しい妻を抱いたまま部屋へはいってきた。
「なァに、たいしたことじゃないさ。そこの篤胤の旦那が、進退賭けて仕入れた水着が売れなくて困ってんのさ」
 部屋の隅で、ミョールから冷たい麦茶を受け取った武器商人(p3p001107)は、涼やかな笑みを見せた。
「おお、武器商人殿。来たならば声をかけてくれればいいものを」
「お気に入りの顔を見たかっただけだよゥ。すぐ戻るつもりが、楽しい見世物が始まったんでつい長居しちまったんだよ」
 武器商人が、いとしげに【魔法使いの弟子】リリコ (p3n000096)の頭へ手を置く。リリコはほんのりと頬を染めた。とんがり帽子の大きなリボンがぴこぴこ揺れている。
「篤胤屋殿か。俺たちも何くれと世話になってはいるが、水着の販売となると門外漢だな」
「そこで暦の皆様の出番ですよ! 豊穣でも名のしれた方々が水着姿で接客となれば! 各層へから注文が殺到すること、間違いなし!」
「水着姿で接客う?」
 鬼灯は顔布の下で、口をへの字にした。それは露出狂というのでは……?
「接客せずとも、店先へ立っていてくださるだけでけっこう!」
「紳士度が上がった気がする」
 鬼灯は冷静に返した。呉服屋の店先に半裸の忍がいたら、普通引かれそうなもんだが。だがそれがいい、と言うやつだろうか。
「篤胤屋殿、貴殿には多大な恩がある。だがさすがに暦を看板にするわけにはいかない」
「今なら奥方様の水着を10着進呈!」
「心得た」
「「頭領ー!!??」」
 目をむいた如月と双子へ、鬼灯は鷹揚に手をふる。
「安心しろ、暦は留守番だ。ようするにあれだろう、篤胤屋殿、水着が売れればいいのだろう?」
「左様で」
「ここにいる武器商人殿が一肌脱いでくださるそうだ」
「あれ、どうして我(アタシ)に飛び火してるんだい?」
「豊穣において、神の使いともされるイレギュラーズの水着姿。いかがか、篤胤屋殿」
「ほほう……宜しいですな」
「ちょいとちょいと、我(アタシ)を無視して話を進めないどくれよゥ」
「決まりだな。あとは頼んだ、武器商人殿」
 武器商人はするっと座を抜けようとした鬼灯の襟首を捕まえた。
「なに自分だけ安全圏に隠れようってんだい? 道連れだよ?」
「い、いや、俺は、依頼を出しに、ローレット支部まで……」
「そのままトンズラしようって腹だろう? ちゃァんと、『視え』てるよ?」
「う」

●そして依頼が張り出された
 集合場所へあなたが行くと、水着姿の子どもたちが見えた。特に緑色のビキニを着た女の子が目を引いた。ほっそりとした体はガリガリで、うっすらとアバラが浮いている。陶磁器のような肌を朱にそめて、少女は下を向いていた。
「……はずかしい」
「まあまあ、リリコ。みんな水着だし、怖くないよ」
 リリコと呼ばれたその子は、頼みの綱を見る目であなたを見た。
 その隣に立っている、中学生くらいの少年は、兄貴分だろうか。平々凡々としているが、血のように赤い髪と瞳が印象的だ。
 彼は【孤児院最年長】ベネラー (p3n000140)と名のった。雑にひっかけたパーカーの下、クソダサファイアパターンの入った白い水着を着ている。別な意味でビーチの主役になれそうだと、あなたは若干の畏怖を感じながらその少年を見つめた。
「ようこそいらっしゃいました。それでは奥で着替えてください。水着は好きなのを選んでいいそうです」

 え? 水着姿で接客すんの? 今から?

 ベネラーから、依頼のくわしい内容を聞いたあなたは一歩、後ずさった。
 が、ここまで来たのだ。やるしかない。そこであなたは……。

GMコメント

みどりです。ベネラーくんのお話を、ちょっとずつ進めていきたいと思います。

そんなことはさておき、水着だ。

あなたは豊穣は高天京の篤胤屋という呉服屋の在庫の山と格闘してください。水着を着ましょう。
水着頼んだ人も頼めなかった人も、頼まなかった人も、みーんなウェルカムです。

●戦場
豊穣の表通りです。往来は人が多く、流れが早いです。店の間取りは広く、豊穣風ではありますが、ワゴンやマネキンも使えます。

●友軍
 みどりのNPCこと、孤児院の子どもたちが参加しています。
 ロロフォイ(TOPの黄色い子)とザス(TOPの緑の子)、ユリック、ミョールは接客。
 ベネラー、リリコはレジ。
 チナナとシスターイザベラはモデルです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

下記の選択肢から、行動をざっくり決めてください。


水着を……
水着を着るか着ないか決めてください。

【1】着る
あなたは人気者です。誰もがあなたの艶姿に視線を奪われることでしょう。
プレイングへ、水着の詳細、または該当するイラストをご記入ください。

【2】着ない
それもまたよし。代わりにこいつが俺のビーチスタイルだぜ! ってのをプレイングへ書き込んでください。


行動場所
 以下の選択肢の中から行動する場所を選択して下さい。

【1】接客
接客や店内の飾り付けをします。自分は水着着ないけど、マネキンをトータルコーディネートしてみる、というのもアリです。

【2】レジ
地獄の忙しさです。覚悟してきてください。リリコが微妙に渋い麦茶を差し入れてくれます。

【3】モデル
日傘なんかさして、往来でビラを配ります。あなたはきっと売上に貢献できるでしょう。

  • 在庫の山〜KICKMEPLZ〜完了
  • GM名赤白みどり
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年06月24日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

武器商人(p3p001107)
闇之雲
ロレイン(p3p006293)
アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)
Le Chasseur.
黒影 鬼灯(p3p007949)
やさしき愛妻家
流星(p3p008041)
水無月の名代
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)
挫けぬ笑顔
玄野 壱和(p3p010806)
ねこ

リプレイ

●戦闘開始

 ぶおおおお! ぶおおおおおおおおおおお~!

「ほら貝だと? なんだべさ!」
 豊穣のニンゲンなら慣れ親しんでいるその音色に、だれもがふりかえった。つかみは成功、とばかりに『水無月の名代』流星(p3p008041)は、ほら貝を激しく吹き鳴らす。続々と人が集まってくる。
「ヒヒ、腕が鳴るね」
『闇之雲』武器商人(p3p001107)がきれいな笑みを見せる。
『挫けぬ笑顔』フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)も、レジでぴんと背筋を伸ばし、胸を張った。
「始まるよ、リリコさん、ベネラーさん、待機して!」
「……うん」
「はい!」
 人いきれを眺めた『惑わす怪猫』玄野 壱和(p3p010806)はこめかみを押さえた。
「おいおい、いきなりトばすなア。ま、やれるだけやるカ」
 レジに入った壱和はにやりと微笑んだ。
「布陣は完璧、準備も重畳」
 ロレイン(p3p006293)も迫りくる人波を見やる。
「……やるしか、ない」
『Le Chasseur.』アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)はドキドキする胸を押さえた。
『やさしき愛妻家』黒影 鬼灯(p3p007949)が腕の中の章姫を床へおろす。
「がんばるのだわ、鬼灯くん」
「章殿、まかせてくれ。睦月も来ている」
「頭領、水着は勘弁してください。減る」
「うん知ってる。好きにしていいぞ」
 よかったああと睦月。
『灰想繰切』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)はよくわかっていると言いたげだ。
「ああ、ニンジャはしのぶもの。露出度が上がると減るからな」
 いざ行かん、決戦の場へ。


「いいですか、篤胤さん」
 アッシュは人差し指を振った。
「物を売り込むのであれば、其の物の魅力を伝えることが商売に於いては肝要である、と。良いものであれば無条件に売れるというのは都合のよい幻想に過ぎないのです」
「耳の痛い話です」
「しかしながら着眼点は悪くないです。モデルを用意して商品をアピールする……実に、理にかなった戦略かと」
「わかってくれますか!」
「ええ、水着着用イメージの浸透、なんかあれいいなーという購買欲の刺激。しかし、なんでも着ればいいというものではありません」
 アッシュは声を低める。
「モデルに合った、いや、引き立てる水着。ただ単に値段だけでセレクトしても良い結果には繋がりません。その点、今日集まったイレギュラーズには、服装センスに天賦の才があります」
 アッシュはビシィっとフォルトゥナリアを指さした。
「エントリーナンバー1! フォルトゥナリアさん!」
「ええっ、な、なにかな!?」
 指さされた方はびっくりしている。
「ごらんください! 緑で統一し、差し色にイエローを配したこの配色を! イメージカラーの上に踊る金髪。さらに補色となる赤の組み合わせ。お花柄のパレオがふんわり。フリルたっぷりの女らしくあるビキニ姿ながら、活発さも兼ね添えています。アンクレット代わりのシュシュがまたかわいらしいですね」
「そ、そんなに言われると照れるな」
「さらにさらに、お着替え用までご用意してらっしゃいます。こちらはイエローをメインにしたビキニの上からゆったりしたフリルたっぷりの上着を羽織り、より女性らしさに特化したおしとやかな夏の日の思い出とも言うべき艶姿。上半身に視線を集めていると見せかけて、ほっそりとした生足がまぶしいです!」
「だ、だから、詳細に解説されると、照れるよ」
 フォルトゥナリアは、同じレジ係のリリコとベネラーを振り返った。しゃがみこみ、小さなふたりと視線を合わせる。
「はじめましてふたりとも! 見ての通り準備は万端だよ。リリコさんも安心して! 少なくとも私、フォルトゥナリア・ヴェルーリアが一緒に水着を着て接客するから!」
「……心強いわ」
「よろしくおねがいいたします」
 安堵したのか、リリコの能面のような無表情がやわらぐ。ベネラーのほうは親しみを込めて会釈をした。再びアッシュの声が響く。
「エントリーナンバー2! 壱和さん!」
「お? 水着紹介の流レ?」
「夏の定番、サンダル! ショート丈のボトムの上はTシャツ、そして無造作に着こなしたラッシュガード、シックな色合いのキャップ。日焼け対策は完璧と思いきや、見ての通りへそだし! チラリズムが光ります! 愛情たっぷり見栄えもバッチリ、水着の良いところをわかって押さえているかのような着こなし、お見事です!」
「オレの水着姿なんか評して、たのしいカ?」
「たのしいに決まってるではないですか。どんどん行きますよ。エントリーナンバー3! 鬼灯さん!」
「章殿の服はなんぼあってもいいですからね!(豊穣の民が困っているなら、力を貸すのは当然の事)」
「おっと、さっそく本音と建前が入れ替わっています! さあ水着の方は矢絣を散らしたルーズタイプ! 紺と黒でまとめたコーデ! こんな時でも口元隠れは外せない、漆黒のマスク! かぶったフードから突き出た角が怪しさと色香を感じさせます。そして奥さんは珍しくツインテール、青のセーラーロングワンピースに黄色いお靴。地味目の色合いでまとめた鬼灯さんと対照的に華やかさにあふれています!」
「そうだろうそうだろう、章殿はかわいいからな」
「さらにはエントリーナンバー4! アーマデルさん!」
「召喚されてきたのが海洋の決戦終盤、つまり豊穣へ到着する直前くらいでな。海を見たのはそれが初めてで……」
「浮かれた気分がつたわってくるかのようなキャミソール風の上着! 丈の長いパーカーがすらっとした肢体を彩る素敵空間! ざっくり編んだ麦わら帽子と対象的な鋭い飾りが元アサシンの経歴を表すかのよう。露出度は低いながらも、まさか紐パン? と気になってしまう、美少年の妖しい美しさを前面に押し出すコーデ!」
「豊穣風だからちょうどいいかなと」
「そしてエントリーナンバー5! 流星さん!」
「奥方殿の水着の為なら、この流星、一肌でも二肌でも脱ぎましょう! 接客でもモデルでも何なりと!(暦の皆様の裸体をさらさぬためとあらば、この流星にお任せを! 立派に勤めを果たしましょう!)」
「もうだめだこの師弟! パーカーの下からチラリするサラシで巻いた胸が色っぽい! 変装なら俺にまかせろ、さすがは暦配下、水無月の名代! ショートスパッツタイプの水着はあくまで忍カラー、見事な黒! そのうえに羽織るパーカーは師匠のイメージカラー、オレンジです! ここも師匠とおそろいなのか、パーカーの裾を彩る房飾りがシャラシャラ揺れて、細い体と見事に調和しています!」
「まずは男物。しっかり宣伝することで、家族や恋人などのくくりでの一括購入を促そう」
「着眼点からして生真面目いい子の香りがします、あとで頭をナデナデしたいですね。さらにはエントリーナンバー6! ロレインさん! あああああ、これは! これはど直球ストレート、正統派白ビキニ! 白ビキニです! 胸元の聖職者モチーフと相反するかのような水鉄砲、じつにすばらしいですね」
「豊穣はまだまだ水着がマイナーみたいだから、この機会にいろんな水着を知ってもらいましょう?」
「女性が肌を出す、それだけでこんなにまぶしいものなのですね! 魅惑の谷間とおしりからふとももへかけてのライン、この黄金比! サンダルまでホワイトでそろえるというこだわりっぷり、清楚そのものなのに色香が漂うのは何故でしょうか? 明るいトイカラーの水鉄砲がここでもいい仕事をしています!」
「お触りする人には、この水鉄砲でお仕置きよ」
「そして大トリ! エントリーナンバー7! 武器商人さん!」
「大丈夫かい、冬の娘。叫びすぎてそろそろ酸欠になってやしないかい?」
「まず目を引くのは、アイスクリームのようなベルドーム型日傘! 頂点にちょこんと乗せられたさくらんぼの飾りが文字通り紅一点! 清純さも兼ね添えたシルクのブルーベイビードールの下からはダメージデニムのショートパンツがチラ見え、つま先にかけて白から水色に染まっていく編み上げサンダルと足元にも気を抜かない、性別不明のすてきさすばらしさを感じさせるトータルコーディネートは圧巻の一言!」
「どうだいリリコ、おかしいところ、ない?」
「……とっても、すてき。私の銀の月はいつもおしゃれね」
 リリコはまぶしそうに武器商人を見上げた。その瞳には深い信頼がある。
「と、このように」
 急にスンってなったアッシュは篤胤へ顔を向けた。
「篤胤さんは運に恵まれました。これだけの良素材が水着を着ている。すでに現時点でバカ売れは確定」
「ありがたいことです、それで、お嬢さんは着ないのですか?」
「はい? なにを?」
「水着を」
「……わたしが、着る」
「ここまでやっといて自分は抜けようったって、そうはいかねぇゼ?」
「そうだよ、アッシュさんも着よう?」
 壱和とフォルトゥナリアがじりじりと距離を狭める。アッシュが唸る。
「これは、想定外でした」

「……自分がとなると、恥ずかしいものですね」
「そんなことはない、よく似合っている。そのフリル、じつに女性らしい」
 流星がアッシュへ向けてそう言うと、鬼灯もうなずいた。
「たっぷりとつけられた長いリボンのテールが風になびく様も心ときめかせるな。裁縫好きの俺の腕が疼く」
「イケてるねぇ、かわいいコがかわいい格好してるのはいいものだ。我(アタシ)とはまた違った方向性の日傘もじつにいい感じだよ」
「忍がボディラインを出すとなにかが減るが、アッシュ殿はその逆だな。その国宝級の肢体を見せつけないなど、もったいないことだ」
 武器商人とアーマデルもどこか満足そう。
「水着といい日傘といい、くらげっぽくて、どこか神秘的ね。海の上を滑る月をも思わせる独特の空気がある。ナイスな着こなしよ」
「ロレインさんまで……みんなして私の水着を評しないでください」
「「おたがいさまおたがいさま」」
 にこにこした一同は、円陣を組んで気合を入れる。鬼灯が音頭を取った。
「目指すは篤胤屋のー」
「「完売!!!!!」」
 はじけるように円陣がほどかれ、モデル担当は次々とおしながきを手に、押し寄せる人々の前へ闘牛士のごとく飛び出した。
「はい、並んで並んで。これがおしながきよ。なんと家族割あり。恋人割あり。おひとりさまはなんと三着目は無料!」
 ロレインがあざやかな手さばきでチラシを配っていく。
「水着はいいものよ? 酷暑じゃなくても、海じゃなくても、1ファッションとして水着を着てみない?」
 そういってウインクをしたならば、四人家族はメロメロだ。兄と妹はぽわんと赤い顔。鼻の下を伸ばした旦那の後頭部を、奥さんがはたいている。
「ケンカしないの。私が魅力的なのは仕方がないことだもの」
 モデルだし? と、ロレインは微笑んでみせる。それを見たあまりの尊みに、お客がバタバタと倒れ伏す。
 倒れたお客を助け起こしていくのは流星。
「しっかりしろ、傷は浅い! ……いやまさか、ほらがいがここまで効くとは。お客が津波のよう」
 変装の達人、流星。いまは女の身を晒し、章姫とおそろいの青い日傘、青いセーラーワンピースをまとっている。お靴は当然黄色のエナメルシューズ。露出度の低い水着は、いまだ肌をみせることに抵抗のある豊穣女子たちから熱い視線を送られている。
「店員割にモデル割、両方つかえたのは幸運だった。あと9着、なにがなんでも買い揃えてみせる!」
 拳握りしめ、誰に聞かせるともなく宣言。
「この夏の水着は篤胤屋へ。舶来品も多数取り揃えております! 特におすすめは、これ! これと、さらにこのレースの手袋をあわせると、上品さがアップ!」
 水着本体だけでなく、小物を売り込むのも忘れていない。アーマデルはかち割り氷を量産し、リリコの淹れた微妙な味の麦茶へ入れていく。冷えた麦茶は人々を癒す命の水となるのだ。
「ところでベネラー殿。いい水着だな」
「あ、はい」
「情熱ほとばしる熱いハートの持ち主にしか似合わないタイプのモチーフを華麗に着こなしているな」
「これはいちばん安かったからで」
「……なるほど、ベネラー殿らしいな。本題だ、もし変な大人に話しかけられても、決してついていってはいけないぞ」
「やだなあ、大丈夫ですよ」
「ほんとか? ほんとうか? もし案内を頼まれたら、その場で他の大人か忍に引き継ぐのだぞ?」
「大丈夫ですってば。はい、お客様、なんでしょう。褌タイプの水着ですか? どこだったかな。ついてきてほしい? わかりました」
「ストップ、言ったそばから。睦月殿、睦月殿ー!」
「はいはい、代わりに案内しますよ、お客さぁん?」
 あからさまに落胆したお客を、バッチリ着込んだ睦月が案内とみせかけて店からぺいってする。
 アッシュは人混みを前に圧倒されている。
「……やっぱり行かなくてはだめですか、そうですか」
「がんばれ、冬の娘」
「だめですよね。はい。そうですよね。あ、あの、すてきなみずぎをみてはいきませんんか」
 涙声でおめめをうるませながら下から見上げるアッシュの姿に、近・扇のお客がノックアウト。
「あの子が着てるのと同じのをあたいにおくれー!」
「おらにも、おらにもー!」
「あんた男だろ、どうするつもりなんだい!?」
「飾って拝むだよ!!!」
「あ、あは、あはは……」
 アッシュは所在なさげに殺気立つお客の横で頬をポリポリかく。
(少し恥ずかしい気はします、けれど……こんな変わった経験するのも悪くない、かな)
「海月の女神様ー! おらの買った水着に祝福をー!」
「あたいも、あたいもー!」
(前言撤回)
 なんか新手の宗教がはじまってしまった。日傘で顔を隠し、店内へ逃げ込むアッシュ。
「今日はもう、海を漂うクラゲさんになりたいきぶんです……」
 控室で一息ついたアッシュの隣で、鬼灯夫妻がなにやらはなしあっている。
「鬼灯くん! 私今日お店屋さんやるのよ! 店員さんやりたいのだわ! いらっしゃいませ~ごらんんくださーい! ってやるのよ!」
「ということはだっこは」
「今日は残念だけど、見送るのよ。自分の足で歩きたいのだわ!」
「寂しい」
「鬼灯くん……。すぐそばなのだわ。鬼灯くんが見守ってくれるのよね?」
「もちろんだ章殿、俺が! 全力で! サポートしようとも!」
「うれしい! 鬼灯くんのそういうところもだいすきなのだわ!」
「章殿ー!」
「鬼灯くーん!」
 お熱いなあ、なんておもいながら、アッシュは夫婦を見つめた。
 接客のために店先へ出た章姫は、それはもう愛くるしかった。我も我もと握手を求めるお客が集まる。篤胤屋店先は、即席握手会場になった。
「あの暦の奥方さまがいらしているらしいぞ」
「なんだって、そいつは行かなきゃ!」
 分厚い人混みがさらに分厚くなる。
「はい、並んで並んで。水着一着で奥方とのふれあいタイム一回! 1分まで!」
「睦月、こんなところでも仕事に徹するその姿勢、みごとだ」
「頭領は奥方へ不埒を働く輩がいないか見張っていてください!」
「心得た」
 章姫は来る客全てへ天使の笑顔を振りまき、おしむことなく小さな両手で包むように握手をしている。ほとんどの客はそれで満足するのだが、そうではない客もいる。
「あ! その水着、私とお揃いなのだわ! おそろいはうれしいのだわ!」
「でへへ、章姫様とおそろいっすわ。たまらんっすわ。今日はもうこれ着て帰りまハァハァ」
「天誅」
「へぶっ」
「その黒いお水着ね! ここのところにね、猫さんがいるのだわ!」
「おおっ、気づかなかったでござる。さすが章姫様は慧眼ですな、いかがですかな、これから逢引などドゥフコポォ」
「天誅」
「はうあっ」
「なんかすげーことになってんナ」
 ごくりと生唾をのみくだすレジの壱和。なお、不埒な客は、引き続き睦月によってぺいってされている。
「これでも茶屋やってるから勘定くらいはできる……ガ、この数は想定外だゼ」
 おもわず自分にクイックアップを付与する壱和。フォルトゥナリアが叫ぶ。
「壱和さん、団体さんが来たよ! 水練のための水着がほしい中学生ダンスィーズ!」
「はあ? 団体!? あーもウ! 来るならこいヨ! おらっいけ『たま』!」
 ちょいーん。式神が空いたレジへ座る。座る。座ったまま何もしない。
「しまった、結局精密操作すんのオレだから、単純にオレの手が4本に増えただケー!」
「なんでもいいからさばいて、壱和さん!」
「わかってんよフォルチュ(がちっ)いって、舌噛んダ!」
「ヴェルでいいよヴェルで!」
「よっしゃヴェル! やるぞ!」
「おー!」
 カタカタカタッ! ッターン! チャリーン! 領収書くださーい。ハイッ! 上様デヨロシイデスカッ! シャラララッ! ビリッ! パシッ!
「おまちのおきゃくさマー!!!」
 24時間ファイターをがぶ飲みし、鬼気迫る勢いでレジへ向かう壱和。たまはてちてちとレジを打つ。
「フンヌグゥオオオオオオオオオオオオオ!」
 ズダダダダダダダダダ!!!
「壱和さんが本気だ、負けてられない!」
 フォルトゥナリアも本気をだしてレジ業務へ打ち込む。その傍らで、まだちょっと計算機なるものへ不慣れなリリコへのフォローも忘れない。
「麦茶をありがとう、リリコさん! 喋ってると喉が渇くからね、水分がしみわたるよ! この絶妙な渋さも目を覚まさせてくれて良いね!」
「……つぎは、もうちょっとうまくなっていたい」
「あはは、気にしない気にしない。さ、がんばろう? 一山越してきたみたいだよ」
「……うん」
 フォルトゥナリアは思う。そりゃあ、水着姿で人前へ出るのは恥ずかしいところもあるよ。でもね、不安だったり恥ずかしさだったりでうつむいたり落ち込んでる人に、少しでも前に進める勇気を分け与えてこその勇者だと思う。そして勇気が必要な場は戦場だけではなく、こういう時だって必要だと思うから。
 だから彼女は胸を張る。太陽のような笑顔で。
「いらっしゃいませ! ご一緒にこちらの小物はいかがですか?」

「ところで篤胤屋」
「はい武器商人殿」
「今年は結局冷夏って噂なんだろう? いかがかな、旅行業者と提携し、シレンツィオツアー割引券を配ってみては」
「おお、いいですな!」
「ヒヒ、使えるものは何でも使うのが我(アタシ)流でね」
 密談を済ませ、武器商人は我が意を得たりと微笑んだ。

成否

成功

MVP

フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)
挫けぬ笑顔

状態異常

なし

あとがき

おつかれさまでしたー!

水着で接客! 皆さんイケてましたよ!!!
MVPは、レジで奮闘しつつさまざまな局面へも対応しようとしていたあなたへ。

またのご利用をお待ちしてます。

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