シナリオ詳細
<黄昏の園>ストイシャはアイスを作りたい
オープニング
●ストイシャの思索
「うう……」
ヘスペリデスの中でも、比較的『整った』建築物である。その家の中で、ひとり呟くのは、青髪の少女だ。
彼女の名は『ストイシャ』。ヘスペリデスにいるという時点で、当然見たい目通りの少女ではなく、彼女は人の姿をとれる竜種、『将星種『レグルス』』の名を冠する、実に強力な存在である。
そんな彼女が何をしているのかといえば、考え事といえば『お姉さま』……ザビーネ=ザビアボロスの事である。
ザビーネ=ザビアボロスの立場は危うい。というのも、人間に対して、表面上とはいえ二度の撤退を行ったザビーネを、竜種のプライドの塊のような存在である先代のザビアボロスは、不愉快に思っているらしい、のだ。
問題は、ザビーネ=ザビアボロスの思考が今一つと読めないところで、万が一を考えれば、『先代がそう判断されたのならば』と自ら身を引く可能性は否定できない。それどころか、その首を差し出す危険性すらも、ある――とストイシャの双子の弟であるところムラデンは考えているらしい。
そうなれば、ストイシャとしても困る。ストイシャはザビーネに仕えるレグルスであったが、ザビアボロスの一族に仕えているかというか、ザビーネ個人に仕えているという気持ちが、ムラデンよりも強い。ザビーネなきザビアボロスの一族など、ぶっちゃけどうなっても知ったことではないのである。
「お姉さま……」
ムラデンの策を考えれば、個自体を何とかする『外れ値(イレギュラー)』を見つけないといけないのだという。そして、それがあるいは、今ヘスペリデスへとやってきた『人間』であるかもしれない……らしいの、だが。
「……信じられない」
ストイシャは嘆息する。ムラデン以上に、人間というものに興味がないというか、見下しているのがストイシャである。そもそも、こんなお使いをさせて、それで……なにかを見極められる、ものか。
「でも、やらないとね……お姉さまのためだし……」
お姉さまの為なら、たとえ「人間(むし)」の群れの仲間でも……でもちょっと怖いなぁ、等と思いつつ、ストイシャは次の策を練った……。
「にににに、人間、生きてる?」
と、ヘスペリデスを探索するあなた達の前にこっそりと現れたのは、青毛の少女だった。確か、名をストイシャ。ザビーネ=ザビアボロスに仕える、レグルスであったはずだが、何かこちらに試す目的もあるのか、たびたび顔を出して仕事を押し付けてくる。
「うわ、い、生きてる……怖い……」
「失礼な」
あなたの仲間のイレギュラーズが声をあげる。とはいえ、ストイシャの卑屈なのだか傲慢なのだかわからない態度にも、もう慣れたかもしれない……初めてあってびっくりいしたものもいたかもしれないが。
「……しごと、あるんだけど。やる?」
と、尋ねる。嫌そうに。だが、
「また、女神の欠片の情報か?」
ストイシャはこちらを罠にはめたことはない。尋ねてみれば、そうだ、とうなづいた。
女神の欠片は、『花護竜』テロニュクスと『魔種・白堊』がベルゼー・グラトニオスの苦しみを少しでも和らげるために、とイレギュラーズにたちの収集を依頼したものだ。それがどのような効果をもたらすのかはいまだ不明だが、しかし集めておいて損はないだろう。女神の欠片は、個体ごとに姿が異なっていて、花であったり、卵の殻であったり、と様々なのだそうだ。
「……め、めめ、女神の欠片があるのは、ヘスペリデスから少し行ったところにある、氷洞窟」
ストイシャが言うには、その洞窟は万年氷が存在するほどの、天然の冷凍庫とでも言うべきところであり、人間では長時間も耐えられないような寒さの場所なのだという。
「それに、アイスヴァイザーンっていう、う、鬱陶しいワイバーンが住んでるの。それを倒しながら、女神の欠片を探す、少しハードなお仕事」
「それで」
仲間の一人が言う。
「情報の見返りは?」
そう尋ねるのへ、ストイシャに尋ねるのへ、ストイシャはうなづいた。
「最奥の氷を持ってきて。アイス作るの。最近暑いから」
「そっか……」
ふむ、とうなる。ストイシャの思惑はさておき、女神の欠片を回収するのは問題ない。
「了解しました。その仕事、受けましょう」
仲間の言葉に、あなたもうなづいたストイシャが、ふひ、と笑うと、
「じゃ、じゃ、じゃあ、頑張って。せいぜい、しなないでね」
と、そういってくれるのであった。たぶん、激励……だろう……。
- <黄昏の園>ストイシャはアイスを作りたい完了
- GM名洗井落雲
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2023年06月10日 22時20分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●氷穴の戦い
「なるほど、これは常人なら死ぬな」
と、事も無げに言い放つのは、『性別:美少年』セレマ オード クロウリー(p3p007790)である。
ヘスペリデス近辺に存在する、氷穴洞。天然の冷凍庫ともいえるそこは、竜であるならばなんともないだろうが、防寒対策をしっかり施さないで人間が侵入すれば、長時間は耐えられないだろう。仮に防寒対策をしっかりしたとしても、長居をするには少々厳しい。
それ故に、ここでは実に質の良い氷がとれるわけだが、ほとんどの竜種にとっては、たまに体を冷やしに来るような場所でしかないのだろう。なんにしても、人間のいるべき場所ではない、というわけだが。
「まぁ、死ぬ程度なら、問題ない」
再度、事も無げに言い放つセレマ。ストイシャは「えぇ……」と明らかに困惑した表情を向けた。
「人間ってこの寒さで死ぬものだと思ってた……」
「いや、普通は死ぬんだが……」
『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)が、さすがに困ったような顔をする。どう説明すべきか。
「セレマはなんというか。特別でね」
「特別……」
じろり、とストイシャがみやる。セレマが、鼻を鳴らした。気に入らないのは、ストイシャがこのようにおどおどとしながら、こちらへ警戒心を全く抱いていないという所だった。
警戒。執着。そういったものは、相手にある程度の価値を見出すからこそ発生する。例えば、人間が蜂を警戒するのは、こちらを刺すことによる攻撃、そこに『価値』とでも言うべきものを見出すからだ。敵の攻撃に、自分を毀損するだけの力、価値、そういったものがあると認めているからだ。
翻って、ストイシャにはそれがない。たぶん、キモイとか、そういうふうには思っているだろうが、それでも、自分たちを害する存在だとは思っていない。故に、彼女は警戒心を抱かない。
「……このままじゃ、舐められっぱなしってことだ」
セレマが不快気にそういった。竜に認められるということは、しかし並大抵では済まないだろう。
「さておき」
ゼフィラが言った。
「アイスを作る、というのが気になるな。竜にもそういった文化があるのかい?」
「さぁ。わ、私は、お姉さまが持ってきてくれた本に書いてあるのを、真似しているだけ」
「ザビーネさん、ですね?」
『輝奪のヘリオドール』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)がそういうのへ、ストイシャはうなづく。
「本というのは、やはりフリアノンや、外から流れてきたものなのでしょうか」
「そ、そう」
うなづくのへ、ゼフィラがふむ、とうなづく。
「ということは、私たちが食べてるアイスとかと、あんまり変わりはないのかしら」
『煉獄の剣』朱華(p3p010458)が言う。
「フリアノンだと、果汁なんかを固めてアイスにするの。外からミルクが手にはいったら、ミルクアイスよね」
「似たようなものだと思う」
ストイシャが言った。
「レシピ自体は、変わらないから。材料は、代わりに、この辺りの似たのを使う」
「そう言えば、アイスを作るのに、氷が必要なのか?」
『永炎勇狼』ウェール=ナイトボート(p3p000561)が尋ねた。
「例えば……氷のブレスなどを使えば、冷やせそうだが」
その言葉に、ストイシャが眉をひそめた。
「……凍り付いて、食べられるようなものじゃなくなるけど」
「それもそうか」
確かに生命をそのまま冷凍するようなブレスを、竜は吐くのだろう。ならば、食べごろとか、冷やして固めるとかを通り越して、氷の塊ができるだけに違いない。
「今回作るのは、かき氷のようなものなのか?」
「かき氷って何」
ストイシャが言った。
「しらない」
「知らないのか……? 氷をな、薄く切り裂いて……雪のようにして食べるんだが」
「何それ」
ちょっとストイシャが目を輝かせた。どうやら、持っていた本には載っていなかったらしい。
「ということは、やっぱりミルクアイスとかなのかな?」
『炎の守護者』チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)が尋ねる。
「氷は、程よい温度に、アイスを冷やすために使うんだね?」
「そう。ワイヴァーンの卵と、ギガノトタウロスのミルクを使うの……」
「スケールが大きいな……」
『金の軌跡』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)が、感心したように言った。
「ギガノトタウロスは、魔物の類か? この辺りに住む」
「そう。人間の飼ってる、牛、に近いと思う、から」
「気になる、味だ。無事依頼が成功したら、アイスを少し、食べさせてほしい」
「…………別にいいけど」
少しだけ考えた様子を見せてから、ストイシャが言った。とりあえず、嫌われてはいないようだ。それも、これまでの依頼の成果といえただろう。この友好的な関係は、是非とも継続したいところだが……。
「うむ、前回のスイートポテトは実に美味であった。今回のアイスも期待が持てるというもの!」
『ノットプリズン』炎 練倒(p3p010353)が、うんうんとうなづいた。
「甘いものは脳によい――つまり甘味とは知性である。知性、すなわち吾輩である!
というわけで、甘いものが欲しいのである!」
「一応、チョコとか用意してあるよ」
チャロロが笑った。
「少しでもエネルギーを確保しないとね。あ、ストイシャさんも、食べたくなったら言ってね」
「……別に、このくらいの寒さは何ともないけど」
そういいつつ、
「……あとでもらう」
と、ストイシャは言うのである。
●氷穴探検
さて、ストイシャとの交流は穏やかにすんだものの、氷穴攻略は穏やかとはいいがたい。
「なるべく口元も抑えておいた方がいい」
ウェールが言う。
「この冷たさだ。吸いこんで、内側から体が冷えてしまうかもしれないからな」
マフラーで口元を覆いつつ、そういうのへ、
「……ボクはまぁ、平気だが」
セレマが言う。
「他のやつらはしっかりと耐寒装備をしておけ。本当に、極寒の吹雪の中を歩くような心地だ」
ひゅう、と洞窟の奥から吹く風は、まるで吹雪のように厳しく冷たい。奥に進もうとすればするほど、それは顕著に感じられた。セレマで例えるならば、一歩一歩歩くたびに死んでいるような状態である。
「なんであれは平気なの……?」
ストイシャが小首をかしげた。セレマだから、としか言いようがない。
「こちらが警戒するべきは、寒さだけではないな」
ゼフィラが言う。
「動いてるものが多い。つまり、この氷穴に適応した、竜だか亜竜だかがいるということだろう」
「りゅ、竜はいない」
ストイシャが言った。
「亜竜だけ」
「アイスヴァイザーンといったか」
エクスマリアがうなづいた。
「ストイシャ、その、奴らを刺激しないでほしい」
「わ、わかってるし」
ぷい、とストイシャが言った。エクスマリアが要請したとおり、ストイシャはかなり竜としての気配を抑えている。これは、亜竜たちを刺激しなという意味もあったし、ストイシャとしては、『亜竜にぶつかった時のイレギュラーズたちの行動が見たい』という面もあるのだ。そのため、ストイシャとしては、気配を殺しておくのに反対する理由はなかった。
「そうだ、なるべく会話もしない方がいい。するならボクのハイテレパスを中継して頼む」
セレマが言った。
「なんで?」
朱華が尋ねるのへ、セレマが答えた。
「アイスヴァイザーンとやらが、どうやってこっちを察知してるか、だ。この暗所だ、視覚はよくないだろう。これだけ寒ければ、獲物の匂いなんてのも消し飛んでしまう。そうなると、こちらを察知するのに使うなら、音だ」
(なるほどね、おっけー)
朱華が頷く。うえぇ、とストイシャが思わず声を上げた。
(直接頭に……キモイ……)
(聞こえてるぞドラゴン。というか、内心ではずいぶんはっきり喋るじゃあないか。最初からもっとはきはき喋ってろ)
(あいつ嫌い!)
べ、と舌を出しつつ、しかし念話に対応してくれるのは向こうの慈悲といえるだろう。
(ええと、とにかく進みましょうか)
マリエッタが苦笑を浮かべつつ、そう『思う』。
(足元にも気をつけましょう)
(そうだね、ちょっと滑りやすいや)
チャロロがそう思う。とはいえ、一行は相応の装備をしているため、特に問題は発生しないだろう。
果たして、一行は進む。行程は順調であったが、もちろん敵との遭遇がなかったわけではない。といっても、索敵面ではしっかりしていたため、奇襲を受ける状況は発生しなかったし、むしろ先手をとれる状況すらあったほどだ。戦闘回数自体も片手で容易に数えられる程度であって、大した損害なく、イレギュラーズたちは歩を進めていた。
(……このくらいなら何とかするのね)
と、セレマから目を逸らしながら、ストイシャは思う。
(前とはメンバーが違うけど、即席でも充分に対応できる。群れの力って奴かな……)
それは人の力であり、ローレットの力でもあるだろう。とはいえ、ここまでは前哨戦。本番は、最奥にたどり着いてからだ。
(使えるか、使えないかでいえば)
ストイシャは思う。
(使える。今のところは。
……先代様の動きもあやしい、ってムラデンが言ってた。私もそう思う。もしかしたら、このニンゲンを使わないといけない時が、すぐ来るかもしれない。こいつらは――)
使えるかもしれない、と、ストイシャは思う。
さて、竜の思惑はさておいて、一行は最奥へとたどり着いていた。幾人かダメージを負っていたが、許容範囲といったところか。さすがに無傷とはいくまい。
「ここまでくれば」
セレマが言った。
「普通にしゃべってくれて問題ないだろう。よかったな、ドラゴン、キモくなくて」
そういうのへ、ストイシャが、べ、と舌を出した。
「ねぇ、ストイシャさん。万年氷はどれくらい必要なのかな?」
そう、チャロロが尋ねるのへ、ストイシャはうなづいた。
「…………抱えられるくらい」
「おっけ。たぶん、素材を冷やし固めるときに使うんだよね。確かにそれくらいかな? 念のため、ちょっと大きくけずろっか!」
「女神の欠片はどこにあるかわかりますか?」
マリエッタが言う。朱華が続けた。
「たしか、フリアノンの力の欠片……なのよね。こんなところにもあるなんて」
そういって、視線を巡らせる。万年氷は、壁から染み出す水を、階層になる様に固まって誕生する。つまり、壁際の氷がそれなわけだが、
「あった。なんでだろう、見ると、其れだってわかる」
朱華の言葉通りといえた。みれば、それが女神の欠片だと分かった。氷の中に、何か、暖かなものがあるのを、イレギュラーズたちは理解できていた。
「では、さっそく削り取ろう。
……と言いたいところだが」
ウェールが構える。すると、氷穴の天井から、三体の、アイスヴァイザーンが落下してきたではないか! どん、と床に着地したそれは、巨大な四肢を持ち、皮膚もつるりとした、異形の爬虫類のようだ。
「道中何度も見たけど、気持ちの悪い造形だな!」
セレマがその美しい顔を不快気にゆがめた。確かにアイスヴァイザーンは、気持ちの悪い造形、と言って問題ないだろう。
「マリエッタ殿、保護結界を! 此処で戦闘をし、万年氷を破壊してはまずいのである!」
練倒が声を上げるのへ、マリエッタはうなづいた。
「任せてください……これで!」
清涼な、暖かな空気が、あたりを包み込んだ。保護の結界が、万年氷を戦いの余波から隠しさる。
「さて、では、こいつらを仕留めて帰還と行こうか。この洞窟には興味を惹かれるけれど、しかしこの寒さには耐えられないのでね!」
ゼフィラが身構える――頷いたのは、エクスマリアだ。
「同感だ。これ以上冷えれば――アイスを食べたくなくなってしまう」
むむ、と唸りつつ。その言葉に合わせるように、仲間たちは構えた――同時!
びゅあ、と奇怪な雄たけびを上げ、アイスヴァイザーンたちがどたどたと走り出す。突進! イレギュラーズたちは一気に飛びずさり、それをよけて見せた。
「ストイシャは――」
エクスマリアが視線を向けるのへ、ストイシャはすでに戦闘領域外へと移動している。いつの間に。あるいは、アイスヴァイザーンの気配を察知し、既に姿を隠していたのかもしれない。いずれにしても、全力で戦って問題はなさそうだ。
「セレマ!」
ウェールが叫ぶのへ、セレマはうなづいた。
「任せろ。不細工の相手は不快だが、仕事はこなしてやる」
ぱちん、と指を鳴らす。それだけで、セレマは相手の目をひける。そこには砂糖菓子のように甘い、この世の美が存在するのだ。それを見て、目を逸らすことなど――亜竜と言えど、できまい!
アイスヴァイザーンたちが、強烈な氷のブレスを吐きだした。セレマは堂々とそれを受け止めて見せる。美は変わらない。衰えない。故に、不変・不壊。
「念のためだ、チャロロ、そっちでも引き付けておけ!」
セレマの言葉に、
「任せて!」
チャロロが機械盾を構えて、声を上げた。アイスヴァイザーンのうち一匹が、チャロロに向かい突撃する! その衝撃を正面から受け止めながら、
「攻撃お願い!」
「おっけー!」
朱華が叫び、
「寒い場所の敵にはこの手に限るわ。――燃え尽きなさいっ!」
灼熱の剣を、アイスヴァイザーンへと叩きつける! もとより極寒の地にいる彼らに、この極炎の熱は耐え切れまい! ぎゅあお、と悲鳴をあげながら、アイスヴァイザーンが転げまわる!
「いけ、ハイペリオン!」
ゼフィラが追撃とばかりに、ミニぺリオンの群れを召喚、突撃を敢行させる! さむさに、へくし、とくしゃみをするミニぺリオンたちが、次々とアイスヴァイザーンに着弾! そのまま、意識を刈り取った。
残るうちの一匹が、ぎゅあ、と声をあげながらぶよぶよとしたしっぽを振り回す。ぴょん、とウェールは飛び上がって回避。
「悪いな……竜のアイスの作り方を教えてもらって、息子とアイスパーティをしたいんだ!」
その手にしたカードから銃を実体化させ、引き金を引いた。赤の弾丸が、アイスヴァイザーンを狙う! 着弾! それは着弾したアイスヴァイザーンの肉に強烈な熱による打撃を与えた。ぎゅああ、とアイスヴァイザーンが悲鳴を上げる!
「視れれば、終わりだ」
エクスマリアがつぶやき、その視線を、ウェールの貫いた傷跡へと向ける。同時、視線が死線を描き、斬撃となってその傷跡を切り裂いた。ぶしゃ、と鮮血がほとばしり、しかしアイスヴァイザーン自身の冷気で即座に凍り付いた。バタバタと赤い氷が落ちていく中、アイスヴァイザーンはその意識を失い、手放した。
「のこりは、一体」
エクスマリアの言葉に、練倒が竜骨斧を叩きつける! ずばん、と強烈な音を立てたい一撃が、アイスヴァイザーンをしたたかに打ち付ける。
「まだ、であるか!」
仕留めきれない! 練倒は舌打ち一つ、飛びあがった。アイスヴァイザーンの振るったしっぽが、練倒に強烈な打撃を与える。痛みを堪えつつ、着地。
「だが、もう少しのはずである!」
「攻撃します――鮮血の魔女からは、逃れられない……!」
マリエッタがその手を掲げる――同時、先ほど吹き出していた、別のアイスヴァイザーンの血氷が、まるで意思持つように動き出した。それは鋭利な赤の氷刃と化して、アイスヴァイザーンへと突き刺さる! 血があるならば、それを媒介に武器にできる。鮮血魔女。その名の通りに、血とは彼女の知であり力である。
ぎゅあああ! アイスヴァイザーンが雄たけびを上げ、断末魔と悪あがきのブレスを吐き出した。それがイレギュラーズたちを激しく消耗させるが、しかしイレギュラーズたちの勢いを止めるには至らない!
「こいつで、ラスト!」
チャロロが、機煌宝剣を強烈に叩きつけた。刃がアイスヴァイザーンの首を切り裂き、そのまま大地に落下させた。体がわずかに痙攣して、動かなくなる。果たして、アイスヴァイザーンたちは全滅の姿をさらすこととなった――。
●帰還
「取り出してみると、小さくなるものなのですね……?」
マリエッタが、女神の欠片を不思議そうに見やる。こぶし大の氷は、不思議なことに、イレギュラーズが手にしても、その熱で溶ける様子は見られない。
「万年氷、と呼ばれる所以か。魔術的なものもあるのだろうか? 熱への耐性があるらしい」
ゼフィラが感心したように声を上げる。
「ふむ、ストイシャ殿の氷も、これくらいでよいであるか?」
練倒の言葉に、ストイシャはうなづく。
「じゅ、充分」
「じゃあ、帰ろうか」
チャロロがうなづいた。
「さすがにそろそろしんどいんだよね……」
「この寒さは、常人にはね」
セレマがそういった。自分は平気だが、と言いたげな様子だが。
「……セレマさん、もしかして、凍死しては復活してを繰り返してるの……?」
チャロロが尋ねるのへ、
「ご想像にお任せする」
セレマは肩をすくめた。
「アイスか……一つ、作るところを見せてはもらえないだろうか?」
ウェールがそういうのへ、ストイシャがうなづく。
「……まぁ、いいけど」
「じつは、私も、食べてみたいんだ」
エクスマリアが、瞳を輝かせる。
「私も気になるのよね、竜のアイスって!」
朱華がそういって、それから「あ」と声を上げた。ポケットの中を探ると、チョコレートを取り出す。
「これ、あとで上げるって言ってたよね? ストイシャもお疲れ様!」
そういって手渡されたチョコレートを、ストイシャは受け取って。
「……もらっとく」
そう、目を逸らしながら、しかし嬉しそうに、言うのだった。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
ご参加ありがとうございました。
皆さんの活躍により、女神の欠片の回収、および、ストイシャのオーダーも完遂。
後に、皆でアイスを作って食べたようです。
GMコメント
お世話になっております。洗井落雲です。
ストイシャの情報を受けて、女神の欠片と、ついでに氷を取りに行きましょう!
●成功条件
『女神の欠片』と、『万年氷』の確保。
●情報精度
このシナリオの情報精度はC-です。
信用していい情報とそうでない情報を切り分けて下さい。
不測の事態を警戒して下さい。
●状況
ヘスペリデスを探索していたあなたたちイレギュラーズ。そこに、ザビーネ=ザビアボロスの眷属の一人である、レグルス・ストイシャが姿を現しました。
どうもこちらの実力を測っている彼女ですが、今回もその一環の雑用のようです。
とはいえ、ただ働きではありません。どうやら彼女の指示する氷洞窟には、女神の欠片も存在するようで、その蒐集はイレギュラーズとしても望む所。
利害の一致というかなんというか。皆さんは、ストイシャとともに氷洞窟へアタックすることになります。
作戦決行タイミングは昼。作戦結構エリアは氷洞窟です。
エリアは数kmほどの入り組んだ洞窟になっています。ちょっとしたダンジョンのようなものです。また、内部は非常に冷えており、何らかの対策を施さなければ、徐々に体力を奪われて行ってしまうほどです。
当然のごとく光源もないため、そのあたりの用意もしっかりしておきましょう。
女神の欠片もまた万年氷であり、ストイシャの望む万年氷のある最奥のエリアに一緒に存在します。両方回収しておいてください。
なお、ややこしくなるので、帰りに関しては気にしないでいいものとします。行きと、戦闘に注力してください。
●エネミーデータ
アイスヴァイザーン ×???
氷の洞窟に潜む、氷穴のワイバーンです。翼は退化しており、飛べない種類ですが、その分手足が進化しており、天井や壁に張り付いての奇襲攻撃や、氷のブレスによる強烈な攻撃を行ってきます。
戦闘では1~3体程度の群れと戦うことになるかと思います。敵も、こちらを索敵する程度の知能は持っていますので、警戒は怠らないようにしてください。
総数は不明のうえ、ヘスペリデス付近に住むような強力なワイバーンです。全滅させよう、等とは考えない方がいいです。極力戦闘を避けて、最小限の戦闘で奥まで進んでください。
●味方(?)NPC
レグルス・ストイシャ
なんとなく同行しているレグルスの少女です。味方というよりは、一緒にいるだけですし、助けてはくれないでしょう。
むしろ助けを求めるとドン引きして帰ってしまうかもですので、まぁ、道中のちょっとした話相手くらいに思っていてください。お菓子とかくれるかもしれません。ぺいっと。
以上となります。
それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。
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