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シナリオ詳細

神宿れかし

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●彼女の不幸は神の意志
 規則的に軋むベッドの音。
 不規則に吐き出される息遣い。
『天井の染みを数えている間に終わる』という俗説は、正しきを神に委ねた国には通用しない。
 神の領地に一片の染みも許されず、白く塗り拡げられた塗装に塗りムラが無いのは、果たしていかほどの技術を要したのか。
 そしてその白地を舞うように描かれた天使の姿にも歪みがない。今にも手を伸ばせば触れられそうな質感と距離感。
 だが彼女の手は振動に合わせて無機質に揺れるだけで、決してなにものをも掴むことはないだろう。

 ここは神のおわす場所。
 神のありかたが宿る場所。
 彼女の不幸が神の意志であるとするならば、彼女に神は微笑まなかったということか。
 ……或いは、彼女は神に愛される存在ではなかったのか。彼女は『不幸』ではないのではないか。
 疑ってはいけない。勘ぐってはいけない。そんなことをすれば命すら危うい、生きているだけできっと、彼女は幸福な部類なのである。
 なのに辛いと感じるならばこの心が間違っている。

 彼女が理性的な思考を行ったのは、おそらくこれが最初で最後である。
 いずれ彼女はこともなげに命を失うであろう。……人を一人亡き者にするのに、天義(このくに)ほど罪悪感をすりつぶすことができる国もそうないのだから。

●宿った『ら良いのになあ』
「君達の中に、天義に剣を向けてもいいよって奴はいるかい? 今回は大体、そういう趣旨の依頼だよ」
 『博愛声義』垂水 公直(p3n000021)の質問に、眉を顰めたイレギュラーズがいればそれは正しい感情の発露である。大なり小なり友好的な(しかし水面下はその限りではない)国に堂々と喧嘩を売れ、というのは如何にも道理にそぐわない話であるからだ。
「そんな目すんなよ。別になんの罪もない連中を虐殺しろとか子供の首を獲ってこいって話じゃないんだ。むしろ不幸な子供は減る」
 資料を手に、話を続けてもよいか目で問う公直に、一同は先を促す。
「今回の標的は……なんて読むんだこれ、ミヒャエリス? とかいう司教の殺害依頼だ。依頼人はその司教の教区にいる一般教徒。娘が心神喪失状態にあり、継続的な労働に就くことも誰かに嫁ぐことも出来ない状態なので、司教含めたその教区の連中が彼女の処刑を支持し、執行まで間のない状態なんだと。健全じゃない魂は神に愛されない、家畜にもなれぬ娘に神は無い、とな」
 どうやら、健全ではないもの、健全な社会を形成できない者は正しくはない、とかそういう理屈であるようだ。天義にしてはずいぶんと脳筋じみた思想である、と首を傾げる者もいるだろう。
「で、依頼人が言うにはその司教殿が彼女の心を壊した原因なんだとさ。彼女が『そう』なったのはつい最近で、依頼者が気付いてから処刑の話が出るまでが余りに早かったと……これ以上話す必要は?」
 理由、というかこの話に至った流れを理解しろ、と暗に目で伝えてくる公直に、一同は暗澹たる気持ちになった。司教の下衆さについても、である。
「君達には都市部での司教の巡察を襲撃してもらうことになる。大通りのど真ん中での大立ち回りになる。問題は神聖騎士数名と各種魔法を使える助祭くらいだな。司教は戦闘手段が無い『ことになっている』が、手持ちの暗器くらいは警戒すべきだろう。ことをなしたら即離脱すること」
 そこまで聞いて、イレギュラーズの一人が疑問を投げかける。
 少女はどうなるのか、と。「さあ?」、と公直は肩をすくめた。
「健全なる魂は健全なる肉体に宿る、だっけか? 脳筋共が大好きな台詞だけどさ。原義からして間違ってるから好きじゃないんだよ俺。健全じゃなかったら宿っちゃいけないのかね?」
 宿った例を見たことはないが、と続けた彼のどこか諦めたような口調の意図を察した者がいるかは定かではない。
 ないが、この依頼は碌な結末を迎えないだろう、というのは誰にでも理解できたのである。

GMコメント

●注意事項
 この依頼は『悪属性依頼』です。
 成功した場合、『天義』における名声がマイナスされます。
 又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●達成条件
 司教ミヒャエリスの殺害。その他の人間の生死は成否に影響しない。

●ミヒャエリス
 天義の僻地教区の司教。
 精力的な活動と強力な地盤によって司教職を長く務めている、傍目に見れば優秀な人物。そのため神聖騎士も優秀な人材を集めており、盤石の地位にある。
 他方で地位を悪用したという噂も絶えないが、口は封じられているのだから広まりようもない。
 戦闘能力は皆無に等しいとされているが、聖職者特有の暗器を有している可能性も十二分にありうる。

●神聖騎士×7
 ミヒャエリスの護衛を務める騎士。常に2名ほどが傍につき、5名が遊撃に回る。この構成は流動的に前後し、遊撃と護衛が入れ替わるケースも頻繁にあるため、ダメージコントロールは相当優秀な域にあると言えよう。物至扇の強烈な斬撃や神遠単の魔力込の刺突などを繰り出す。いずれにも出血を伴い、さらに至近専用の単体攻撃(詳細不明)は必殺を伴うとか。
 堅牢な鎧と長剣を持つ。

●助祭魔道士×4
 基本的に回復専門の魔道士。不調の回復、肉体の治癒などが出来るが、助祭階級の為さほど即効性は期待できない模様。

●戦場
 教区大通り。
 昼の為ひと目に付きますが、襲撃成否を問わず一般人が介入することはないでしょう。彼らも命が惜しいのです。

 以上です。
 いろいろありますがそういう感じでヨロシクオネガイシマス。

  • 神宿れかし完了
  • GM名三白累
  • 種別通常(悪)
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年10月16日 21時35分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

八田 悠(p3p000687)
あなたの世界
アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)
無限円舞
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
ラクリマ・イース(p3p004247)
白き歌
オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
鞍馬天狗(p3p006226)
第二十四代目天狗棟梁
レイス・ヒューリーハート(p3p006294)
復讐鬼

リプレイ

●宿るは神か罪か
「この綺麗すぎる神の国から逃げた私が、こんな形で帰ってくるなんてねぇ」
 『酔興』アーリア・スピリッツ(p3p004400)は誰に聞かせるでもなく口にする。ローレットでも指折りの酒豪であろう彼女の過去はしかし、明け透けな態度に似合わず知るものは多くあるまい。尤も、それを知って喜ぶのは下卑た司教ぐらいであろうが。
「まあ、どこだって外見綺麗でも中はアレとかあるんだろうさ」
 『祖なる現身』八田 悠(p3p000687)の言葉が慰めになるかは別としても。彼らの視界の端に映った司教の姿は『表向きには』きらびやかであり、多くの天義の民の信仰心を強く刺激しているに違いない。内実を覆い隠すように周囲を固める護衛は、さながらその欲を糊塗する蝋細工か何かだろうか。
「……チッ、屑が……虫唾が走る」
 『復讐鬼』レイス・ヒューリーハート(p3p006294)にとってみれば、殺すべき司教は魔種に等しい憎悪を燃やす対象でもあった。彼自身の過去と処刑を宣告された少女の影がダブるのも、嫌悪感に拍車をかけている。
「名も知らない彼女に同情した、なんて事は言わないわ」
 『カースドデストラクション』アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)は犠牲となった少女と表裏のような関係にある。彼女は救われ、少女は救われなかった。それだけの違いである。尤も、アンナを救われた者と定義することが正しいかは判断が分かれるが。少なくとも、彼女は正気の下にこの国へ剣を向ける覚悟を決めている。
 アーリアら4人が司教を観察する、その逆側では。依頼に参加した残り4名が、めいめい離れすぎないよう位置取りしつつ、司教の動向を、そして襲撃の機を窺っていた。
「……で、奴の行動は、ここを通るって事になるようじゃがな……全くもって、外道が」
「多くを語る必要もない」
 『第二十四代目天狗棟梁』鞍馬天狗(p3p006226)は『五行絶影』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)に菓子袋を押し付けつつ、街の構造を検分する。それなりに広い都市であるゆえに、望み通りの場所を探し出すのも、そこが巡察経路に入っているのかを確認するのにも時間を要したが。多少日数を消費しようと、相手の行動を把握しておけばあとは襲撃の機会などいくらでも巡ってくるものだ。
 汰磨羈は受け取った菓子を咀嚼しつつ、如何にも無力な子供然とした態度を演じてみせた。相手に思うことはある。だが、宣言して叫んで回って、その正しさが相手に、天義の人々に、そして被害を受けた者達に響くだろうか? 冗談にもならぬ。
「天義に剣を向けられるか……ですか」
 『特異運命座標』オリーブ・ローレル(p3p004352)は情報屋が依頼を説明した時の言葉を反芻する。偽り混じりであれ、司教の意志は天義のそれと同一視される。彼を手にかければ結果として天義に弓を引くのと変わらない。それは、軽いリスクではない。
 されど放っておけるかといえば、彼にとっては否であった。それだけの話である。鞍馬天狗と汰磨羈を視界の端に捉えつつ、彼もさりげない動きで司教たちを追い、襲撃への準備を進めていく。
「何が神の意志だ……弱き者の心を支えるその言葉が悪になってどうする」
 『白き歌』ラクリマ・イース(p3p004247)の声には、少なからず怒りが籠められていた。それが何に由来するものなのかは定かではないが、神の意志を僭称する者が人を庇護せず、まして人から未来を奪うなどという間違いが起きてはならない、そう考えるのは間違いではあるまい。

(司教様が狙い通りの場所に近付いたわぁ。私が近付いたら、すぐ動いて頂戴ねぇ)
(分かりました)
 アーリアのテレパシーに、ラクリマは端的に応じる。手はずとしては、教徒を装ったアーリアが油断を誘い、一気に神聖騎士の頭数を減らす算段である。逃げ場は今、司教達が横切る場所からは近くなく。包囲が容易な位置までのこのこと現れたわけだ。愚かな、とイレギュラーズは思っただろう。
 狙い通り、狙うに易いルートを通ってくれたと。押し込めば勝てる、と。その考えは或いは、正しいのかもしれない。

 イレギュラーズ達が動き出す直前。助祭の1人が、ミヒャエリスへ耳打ちする。
「……うむ、そうか」
 広大な街で、何度となく。己を見る目、己を探る者の存在に気付かぬ彼ではなかった。司教・ミヒャエリスは下衆で無力であるが無能ではない。
 自らを観察する目が何を意図し、どこで仕掛けるのかは、多少なり勘付いていた。だが彼は危機を知りつつも経路を変えることはしなかった。
 機会を失わせ続ければ、襲撃者がやり口を変えかねない。『好機と見て狙ってくるなら好きにさせればよい』。
 なまじ神聖騎士に金を注ぎ込んだわけではないのだ。これは反逆者への刑の執行であり、理解できぬ者への見せしめである。自らこそ正義と息を巻く神の敵に、罰あらんことを。

●罰は誰の身に
「わぁ、司教様だわぁ!」
 嬌声をあげて司教のもとへと駆けてくる女性がひとり。どこか淫蕩さを漂わせる彼女の姿には、天義の者としての慎ましさは見られない。
 神聖騎士達はその姿見を問題とせず、司教に徒に近付く態度をこそ問題とした。近付けさせまいと1人が剣を手に前進し、周囲の騎士たちが身構えたところでその女性は……アーリアの声は力ある呪いへと変じ、遊撃の騎士を2人ほど巻き込んだ。
「貴方がたの不徳を、神は許さないでしょう」
「不敬なり。不遜なり。神ならざる魂で断罪を語るなど笑止」
 オリーブはアーリアへと近付いてきた騎士へ大剣を振り下ろし、慈悲ある刃でもって制圧せんと試みる。騎士はその一撃を切っ先でいなし、そのまま横薙ぎの斬撃を見舞う。
 オリーブの鎧がわずかに削れるが、追撃をと騎士が踏み込むより早く、その兜をラクリマの魔弾が揺らしにかかる。
 何とか踏みとどまった騎士は、錯乱した仲間に斬りかかられ、一歩退き。騎士達の間に突如として発生した爆発が、3人を纏めて吹き飛ばした。
「悪いが、このまま押し切らせて貰う」
 ぶすぶすと焦げる音を無視し、汰磨羈が感情のない声で宣言する。助祭達は既に動いているが、熟練のイレギュラーズに比べれば魔力を練り上げる精度は大きく劣る。一手で仕留めれば、十分に勝ちの目はあろうというものだ。
「覚悟せよ! 汝らの悪行、真なる神が見ておる!」
「神のおわす国にあって『真なる』を語るか。やつばらは余程、信仰に疎いと見える」
 鞍馬天狗が助祭の手元へと魔弾を穿ち、十字架を取り落とさせる。狼狽えつつも癒やしの魔力を練り上げるその姿を見て、司教は口元を歪めた。危機的な状況にあろうと他者を優先する自己犠牲。周囲の雑音を聞かず、瞳に宿った信仰心。助祭達は決して強力ではないが、刻み込まれた忠誠は実力不足を補って余りある。
「あの助祭共も同罪か……それとも司教に洗脳でもされたか。どちらにしろ生かしていていい相手でもないな」
 レイスは助祭へ向け、狙いすました一射を打ち込む。自らではなく騎士のために治療を行使した助祭に、その一撃を耐えられる余裕はなかった。
 だが、レイスも無傷とはいかぬ。銃を向けたタイミングにあわせ、騎士の突きが彼の手を打ったのだ。先程まで、アーリアの呪言で正気を失っていた手合いである。その狙いは正確であり、尋常ならざる威力をもって、レイスを打ったのだ。
「流石に、鍛えられた騎士様ってことか。面倒だね」
「いきなり襲撃されてあの対応……嫌になるね」
 悠の治癒の光と、ラクリマが放った幻雪が相次いでレイスを癒やす。両者の魔力をもって治癒は七分、といったところ。威力もだが、攻撃精度の高さがより傷を深くに押し込んだことを窺わせる傷跡である。
「逃げたければ逃げると良いわ。ご自慢の騎士と一緒なら恨みを持つ人達からも逃げ切れるかもね?」
 アンナは悪戯めいた笑みを浮かべながら、騎士達をすり抜けて司教へと肉薄する。割り込んできた騎士の剣を布で絡め取り、連続した剣戟でもってバランスを崩させる……見事な連撃だが、直後に放たれた助祭の治癒により、思ったよりも成果が薄いか。
「逃げる事は罪ある者の行いである。神の威光を示す我らに逃げよなどと、異なことを言う娘よ」
「己は無実だとでも言うつもりか、司教?」
 ミヒャエリスの目に罪を意識した色はない。それどころか、騎士と助祭を一人ずつ欠いてなお、余裕すら見えた。……汰磨羈には、挑発にすら見えたに違いない。
「道に惑う者が、導く者を問い質すなど。恥を知れ」
 決然とした声で、騎士は剣を引き、アンナの放った布を振り払う。返す刃と振り上げられた打ち込みは、当たっていればものの数発でアンナを行動不能に追い込んだことだろう。当たっていれば、の話だが。
 他方、鞍馬天狗は。助祭魔道士を繰り返し魔弾で狙い、着実に倒そうとするものの、十分な成果を挙げられなかった。高く飛びすぎたことで狙いが定まっていないのか……そう気付いた彼が地表へ向かうより早く、騎士の魔術突撃が羽根に大穴を空けたのだ。落下の衝撃は兎も角、受けたダメージは計り知れない。治癒が間に合うが先か、失血で意識を失うのが先かの域まで、彼は追い込まれていた。
「それだけの腕を持ちながら、何故このような司教に従うのですか。国の安寧を願うなら、信仰を食い物にする者は断罪すべきではないのですか?」
 オリーブは、傷を追った騎士と入れ違いで前に出てきた相手に、その在り方の是非を問う。『鉄帝』を良き国へと導くため、己の手を汚すことを厭わない彼である。騎士達に道理あらば、揺さぶれると踏んでもおかしくはない。
「彼が信徒を導き、正しくあれと述べ。右へ倣え、神を敬えと教える以上は我らに否やはない」
 だが、騎士の答えは端的で、かつオリーブの考えとは徹底的な断絶があった。悪法もまた法なり、と淡々と返されれば、己の立ち位置も、正義感も、わずかに揺らぐ。
「神の言うことなら、国を超えて殺しに往く事も、司教の不正義に目を瞑る事もアリなのかしらぁ?」
 その問いかけに籠もったトーンは、騎士も、オリーブすらも背筋を凍らせる冷たさを秘めていた。或いは物理的な冷たさであったのか。
 騎士の手元は、アーリアの放った氷の鎖で雁字搦めにされている。
「天義に在りて神を棄てよと嘯く者があれば死すべきだ。多くを導く才覚があらば、多少の犠牲は、捨て置くべき……だ……!」
 鎖を引き、騎士は絞り出すように応じる。見る間に塞がったオリーブの傷も、鎖の重さも、増して追撃へと向かってくる汰磨羈の殺意も騎士にとって大した問題ではない。
 司教を守りきれぬ己への不義理こそが、彼の声から力を奪い取っていたのだ。

 司教は、追い込まれてもなお表情を変えなかった。助祭達はすでに皆が動けず、騎士達は治療による支援を受けられない。他方、襲撃者は2人ほどを行動不能にされ、残っている者も生傷絶えぬ有様だが、水際で癒やされ、或いは耐え抜いて前に出てくる始末。不利は明らかだった。
「今から神に祈ってみる? 愛されているなら助かるかもしれないわね」
 アンナの剣が護衛の騎士を貫き、いきおい、司教の肩を抉る。痛みに顔を顰めたその姿は無様だが、しかし見返してくる瞳は狂信に濁ったままだ。
「……貴様は」
 司教が口を開く。命乞いか、神への祈りか。一進一退の攻防で浅からぬ傷を受けた仲間達がその言葉に意識を向けたことが、肩越しではあるがアンナも理解できた。他方、騎士達は……イレギュラーズのみを見ている。司教の言葉を聞かないのは、分かりきっているからか。
「死を前にしてしか、危機を感じた時にしか神に祈れなんだか。追い込まれた挙げ句に罪を雪ぐ為、『それ』に縋ったのだろう」
 陽光を受けて煌めく十字に、司教はわずかに視線を向けた。己の在り方に劣情を向けられたような羞恥心と嫌悪感が、アンナの胸にせり上がる。
「『祈り』とは生き方、そして情の与え方に他ならぬ! 私の行いに不義があるのであれば、それは神に捧げるべき神子(みこ)を広められなかった事であろうよ! 成る程、斯様な意味であれば、私は義を持たぬ下郎と変わらぬだろうなあ?」
 顔を赤く染めたアンナの喉へと突き出された十字……その先端の刃が届くより早く、汰磨羈の掌打が司教を貫いた。びしゃりと散った返り血が、2人の顔をわずかに染める。
「業と果報。その摂理に従え」
 静かな宣言が、司教の死体に降りかかる。
 残った騎士は僅か。司教の死に動揺を強くする彼らの心の隙を縫って、ラクリマの悲哀の歌が突き刺さる。基より彼は、居合わせた司教の配下を生かすつもりがなかったのである。

「この司教は不正義につき、断罪を行ったわぁ。付き人も同罪よぉ」
 免罪符を掲げ、アーリアはざわめく人々へと宣言する。先程までの大立ち回りを思わせないしなやかな足取り、その堂々たる態度……そして『正規の免罪符』という存在は、人々から正常な判断力を奪い去り、信仰で塗り潰す。
 さすがに堂々と、は逃げられないにせよ。逃走を確実にするまでの暇程度は生み出せただろう。
 アーリアは、一連の流れを見て『天義』という国のあり方にあらためて疑心を抱いた。殺人すらも免罪符一枚で説得されうる異常な空気。
 そして、レイスが救えまいかと考え、足を向けた先で……依頼人と処刑対象の妹君が無理心中を図っていた事実。
 両者はレイスの後ろ盾となった治療院で一命を取り留めたが、まともな生活も……娘に至っては今後、新たな生命も授かれはすまい。

 義を貫くとは、どういうことなのか。どうあるべきなのか。それは正しい判断なのか――少なくとも、居合わせたイレギュラーズに答えられる者は居なかっただろう。

成否

成功

MVP

仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式

状態異常

鞍馬天狗(p3p006226)[重傷]
第二十四代目天狗棟梁
レイス・ヒューリーハート(p3p006294)[重傷]
復讐鬼

あとがき

 逃げられないように確実に、というのはとてもよい判断だと思います。大きな街でそれを探し出す時間さえ無視できるのであれば、ですが。
 できればこの機会に戦闘マニュアルの熟読をお勧めします。戦闘ルールと射程は似た数値が出てるので間違いやすいのかな、とも思いますし。
 その他諸々ありますが、相手には相手の正義があるので、結果として通常よりごりごり正気を削られた人が若干名居ても責任は取りかねます。
(リプレイ内では全員平然としてると思うんですが、今後どう生かして頂くかは各人の自由です、の、で!)
 兎に角、お疲れ様でした。MVPは描写面では兎も角、全体的に確実に止めを刺して回った貴方にどうぞ。
 なお、免罪符補正が大きく、名声マイナスが軽減されています。ちょっとだけ。

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