シナリオ詳細
<廃滅の海色>神の国への来訪客
オープニング
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天義に降りた神託が国内に新たなる騒動を起こしている。
――仔羊よ、偽の預言者よ。我らは真なる遂行者である。
――主が定めし歴史を歪めた悪魔達に天罰を。我らは歴史を修復し、主の意志を遂行する者だ。
新たな神託は、『現在の天義はまやかし』であり、正しき歴史に修復すべく『使徒』が訪れると予告していた。
イレギュラーズの活躍によって、その『使徒』、影の進軍は食い止められていた……と思いきや、それは氷山の一角。
影は人知れぬところで密かに活動を進めていたようだ。
「『触媒』……厄介だね」
『海賊淑女』オリヴィア・ミラン(p3n000011)は一つ嘆息し、話を始める。
『神の国』は聖遺物を核とした作られた『遂行者』たちの領域。
混沌のコピーであるこの領域はルスト・シファー(冠位傲慢)の権能によって構築されたおり、使徒によってばら撒かれた触媒によって現実に神の国を定着させるという。
「ほっといたら、完全に世界が作り替えられてしまうよ」
影の動きは天義……聖教国ネメシスの知るところではあったが、大々的に騎士団を国外へと派遣することもできず、ローレットに依頼することにしたのだ。
天義がローレットへと託す『純粋なる黒衣』は、聖戦の意を示す。
神が為に行う断罪に当たって被る穢れ……返り血により、敬虔なる者の身を守る為、聖戦に加わる騎士は何物にも染まらぬ色として、黒衣を纏うのだという。
「ローレットに対しても、天義は黒衣を纏って依頼に当たってほしいと懇願しているよ」
さて、テセラ・ニバスの帳(異言都市(リンバス・シティ))の内部に存在していた『アリスティーデ大聖堂』より『神の国』の各地へと移動できる。
海洋の国内によってばら撒かれた触媒によって、静寂の青を包み込む大規模な帳の出現が預言されたという。
「仲では、折角、皆で越えた『廃滅』の病が再現されているのさ」
廃滅病……かつて絶望の青と呼ばれた海で蔓延していた魔種アルバニアによる呪い。
病状が進行しきった場合、溶けて海の一部となるとも言われている。
それだけではない。神の国である以上、ワールドイーターや影の天使がうろついているという。
「中には、混沌から迷い込んだ一般人の姿もあるそうだよ」
なんでも、深海にある竜宮にてバーを営む海種女性イネッサと、客数名が行方不明になっているらしい。
おそらくは竜宮にも触媒を持ち込んだものがいるはずだが……。
「イネッサや客の安否が心配さ。急いでおくれ」
手早く説明を終えたオリヴィアが手渡す参考資料を受け取り、イレギュラーズは取り急ぎ目的地へと急行するのである。
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『アリスティーデ大聖堂』からイレギュラーズが至った『神の国』。
深海にある竜宮へと向かった……はずだったが、そこは現実とは異なる場所であった。
非常に美しい街並みに、多数の海種が行き来するのが一般的な竜宮のイメージであるはずが、そこは見る影もなく破壊しつくされていた。
あちらこちらに建物の残骸が転がり、人の代わりに黒い生き物が蠢いており、似て非なるまさに異世界。
「ここは……?」
自身が運営するバーを営業している最中、5人の男性客と共にこの世界へと強制的に迷い込んでしまったバーテン、イネッサ・レヴィヨン。
彼女は変わり果てた竜宮の姿に、戸惑いを隠せない。
「マスターこれは一体……?」
「ちと飲みすぎたかな」
客はいずれも多少寄ってはいたが、自我は保っている。
さすがにこの状況が酔いによる幻覚だとは思わず、現状把握に努めようとしていた。
その時、ゆっくりとこちらへとやってくる人影が……。
「ふふっ、地の国からようこそ」
多数の黒い影を引き連れて現れたのは、遂行者ナーワルだった。
爆ぜるような体躯を薄布で覆う彼女は戸惑う来訪者達へと笑いかけて。
「喜ぶべきことですよ。貴女達は先んじてこの世界へと招かれたのですから」
そう告げたナーワルは傍に控えていた人間の指や腕を思わせる黒い体躯の終焉獣をけしかけてくる。
「マスター、危ない!」
「ここは俺達が!!」
海種男性達もすっかり酔いがさめてしまったらしく、身を挺してイネッサを終焉獣から守ろうとする。
終焉獣らは躊躇なく男性達の身を爪で裂き、あるいは手で握り潰そうとした。
「ああ……」
自分の為に犠牲になった客に申し訳なさを感じてしまうイネッサ。
5人の客はいずれも人の姿を保っていたが、終焉獣によって狂気に陥ってしまって。
「tpa0laelpaojoelkjoug……」
「lz.lgou……igyghpairenb」
「何を……言っているの?」
異言を紡ぐようになってしまった客に、イネッサは愕然としてしまう。
ここは本当に竜宮なのか。
あの客を救うことは可能なのか。
どうしたらよいのかわからないイネッサから、ナーワルは背を向けて。
「それでは、縁があればまた会いましょう」
この場は終焉獣に任せ、ナーワルはいずこかへと去っていく。
終焉獣に異言を話すものとなり果てた客に囲まれ、イネッサは茫然としてがっくりと膝をついてしまうのだった。
- <廃滅の海色>神の国への来訪客完了
- GM名なちゅい
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年06月14日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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イレギュラーズは『アリスティーデ大聖堂』から、『神の国』へと至る。
神の国ではあるが、この場は竜宮をベースとした場所。
「これなら、なにがあってもすぐうごけるの!」
ならば、戦地は水中になると判断した『欠けない月』ピリア(p3p010939)は人魚の姿になっている。
自在に泳ぎ、感覚をつかむべく彼女が周囲で泳ぐ中で、メンバーは周囲を見回して。
「しかしまあ……これが神の国とやらの竜宮か。随分な荒れようだな」
『揺蕩う黒の禍つ鳥』エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)の視界には、瓦礫の山が立ち並ぶ。
「あーあーあーあー……竜宮がめちゃめちゃになっちゃってますね」
あまりにひどい惨状に、『こそどろ』エマ(p3p000257)は何かを感じ取ってか、言葉が止まらない。
元の世界の竜宮では飲み屋街だった一角だ。だが、そこに光り輝くネオンも、ほろ酔いで歩く人々もない。
これが神の国の顕現というのなら……。
「まったく、歴史の修正だ? ろくでもねぇなその『主』とやらは」
エレンシアは遂行者を名乗る者達の思考に悪態をつかずにはいられない。
「竜宮に『迷惑客』はある意味つきモンではあるが……酔っ払いの類の方がまだ可愛く見えるレベルだな、こいつは」
『幻蒼海龍』十夜 縁(p3p000099)は迷惑客というのも生ぬるい相手に険しい顔をする。
「海洋のあれも大事件だったけど、竜宮にまで来るとはねぇ」
『木漏れ日の優しさ』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)は、つい去年あったあの出来事を思い返す。
時の流れは早い。だが。
「それでせっかくの平和を脅かされるのは許せないわよね」
「いままであったこと、なかったことにしちゃうのは……よくないの!」
オデットに同意したピリアが叫ぶ。
どんなことがあっても、今まで起きたことは大事だと。
「しゅうふくなんてめっ、なの!」
ピリアだけではない。
これが祝福であるものかと、皆、怒りに震えている。
「故郷である豊穣の否定にも、知人もいる竜宮への蛮行にも、まあ腹立ってるんで」
「お世話になった人らがおるところやしね。手は出させたくないなあ」
『歪角ノ夜叉』八重 慧(p3p008813)、『放逐されし頭首候補』火野・彩陽(p3p010663)がそれぞれ、この依頼に臨む理由を語る。
「まあそのいけ好かねぇ奴等の邪魔でもしてやるか」
皆、戦う理由は異なるが、エレンシアは天義の代行として託された黒衣を纏う。
(ここは……)
『開幕を告げる星』ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)はこの地の状況を推察する。
昔に流行っていた廃滅病がそのままの状態だったなら。
あるいは、もし、竜宮が夢も希望もない変わる前の状態だったなら。
「ここはきっとそういう場所でして? この国の神はきっと邪神なのですよ」
ただ、今は余計なことを考えている場合ではないと、ルシアは大きく頭を振る。
なぜなら、孤立無援状態となっている一人の女性を視認したからだ。
「「poijerothseprghghseli……」」
「何を……言っているの?」
救出対象であるバーテンダー、イネッサは、守られていたはずの男性客5名に囲まれていたのだ。
その周囲には、黒い2本の腕と3本の指……終焉獣と呼ばれる怪物がいる。
「遠路はるばるご苦労さまっす、でもここで終いっすよ」
「何がなんだかって感じの敵さんですが、とりあえず急いで対処しないとですね!」
「「…………」」
慧の呼びかけ、エマの決起にメンバーが素早く戦闘態勢を整えるのに対し、終焉獣がこちらを威嚇してくる。
「イネッサさん! しっかりするのでして!」
「で、でも……」
「あの人たちはちゃんと助けられるのですよ! ルシアたちが助けるのです!」
ただ、高火力が出せるよう準備しており、消し飛ばしかねない為、他メンバーにお任せする他ないともごもご言いつつ。
「とにかく! そういう訳ですので『助けた後』の事だけを考えてどーんと構えてほしいのですよ!」
――それと、迎えの言葉は「ごめんなさい」じゃなくて「ありがとう」でして!
ルシアの言葉に、それまで曇っていたイネッサの表情は少しだけ晴れる。
「大丈夫よ、みんな助けてあげる。だってみんなそのつもりなんだもの!」
オデットの傍にいた数名が頷き、身構える。
(イネッサもバーの客だった奴等も出来れば救いたいもんだな)
エレンシアはこの場は仲間に託して。
「そっちの対処は任せる! ワールドイーターの対処は任せろ!」
それに合わせ、皆散開し始めると、終焉獣の一隊もこちらへと飛び掛かってくる。
「ふふ……」
すでに遠くまで離れていた遂行者は始まる戦いを見ることなく、この場から去っていったのだった。
●
討伐すべきは終焉獣5体。
だが、目下のところは、異言を話すものとされた男性客に囲まれたイネッサの救出が最優先だ。
いち早く動き始めた彩陽は自己強化してから、終焉獣……特に全長3mもある傲慢の腕目掛けて矢を射放つ。
見定めた彩陽の一矢は見事に敵の肘部分を穿つが、終焉獣はそれだけでは止まらない。
見た目こそ腕でも、人間の構造とは根本的に異なっている可能性も高い。
それでも、相手の攻撃を少しでも鈍らせることで、戦いを有利に運ぼうと彩陽は立ち回る。
「攻撃役はあのクソでかい腕か!」
エレンシアも続き、戦場を制して火力を活かして攻めるべく敵に向けて突っ込み、『対城技』でぶった切りにかかる。
抵抗する腕は自重を活かしてエルボーを叩き込んでくる。
その威力は思った以上に重く、脳天がくらくらしてしまうが、エレンシアは気をしっかり持って反撃しようとする。
しかし、こんな姿をした終焉獣にも思考能力はあるらしく、前に出てきた拒絶の指が腕を守るように布陣してきたのが面倒だ。
「マナーなってねぇお方にゃ、お帰り願いましょ」
ならばと、チームの盾役となる慧が自らに聖なるかなを下ろしてから、終焉獣全てを捉える。
慧が内なる炎を放出すれば、それを浴びた黒い異形どもは彼を敵視して優先的に襲い掛かり始める。
彼が注意を引くのは、所持する守護宝石によるところも少なからずあった。
敵が集まるのは慧にとって望むところ。
後は注意を引き続け、イネッサや客救出を待つのみだ。
「とりあえず、目の前のあの良く分からないのをずどーんするのです!」
触媒も探したいが、ルシアは全力で終焉獣を叩くことに専念する。
持前の火力に加えて殲滅の力を自らに付与し、加えて自身に降ろした魔神の一部から得た魔力を高めて。
「ずどーん!」
解き放った魔力は腕2体と指1体を纏めて貫通する。
「「…………!!??」」
さすがの終焉獣も強力な一撃に、体が大きくぐらついていたようだ。
少し距離をとって、イネッサらの救出に当たるメンバー達。
「まずはおかしくなっちまった客を引き離すとするか」
「「uyenbkznliuyaierp……」
縁が注視するのは、終焉獣によって異言を話すものとされた男性客達だ。
「せっかく身体張って嬢ちゃんを守ったんだ、こんな所で狂気に呑まれちまったら格好つけた甲斐がねぇんじゃねぇかい? お前さん方」
まず、縁は一人ずつ刀で切りかかっていく。
男性客はいずれも腕っぷし自慢の海の男。
弱いおっさんの攻撃の一発くらい食らったところでと考えていた縁だったが、耐えた客達は彼へと虚ろな表情のまま歩いていく。
それでもまだイネッサが依然客に囲まれたままだとエマは感覚で察して、効率的に吹っ飛ばせそうな客目掛けて衝術を飛ばす。
「イネッサさんは安全なところで隠れてもらってもいいですよ!」
「ええ……、頼んだわ」
躊躇いながらも、イネッサはエマに返事をして開けた道を通ってこの場から離れる。
無論、イレギュラーズもそれを黙ってみてはいない。
「お客さんを助けないと」
イネッサを追おうとする男性客達を気絶させるべく、魔眼を開いていたオデットは男性客のみを激しく瞬く神聖な光で包み込む。
光に灼かれる男性客の様子を窺うオデットだが、彼らは変わらず理解できない言葉を紡ぎながら、拳を振り上げてくる。
イネッサが脱出したことに、ピリアは安堵するも、以前お客さんは皆何かに囚われたまま。
(すごくしんぱいだけど……)
この場は他メンバーに任せ、ピリアも全力で終焉獣の相手をする。
「なかまどうしでポカポカしててほしいの! ピリアのおねがい、きいて?」
ピリアが歌うは、かつてこの海……いや、元の世界である混沌において、海洋の海が絶望の青と呼ばれていた時のもの。
終焉獣に感情などあるかすら怪しいが、何か精神に作用したらしく、指2本が同士討ちを始める。
「うまくいったの!」
ピリアはそれに気を良くしてさらに声を上げて歌うのである。
●
海の男達は荒事……例えば、海王種などの対処などもあり、多少慣れてはいるはずだ。
ただ、荒事の経験はイレギュラーズには遠く及ばない。何せ彼らは海王種すら打ち倒しているのだから。
閃光を瞬かせるオデットは、男性客1人が崩れ落ちたのを確認する。
皆、眼前の相手の対処に専念しており、オデットはすかさずその男性客を運び出す。
そこでは、不安そうに戦況を見つめるイネッサがおり、オデットは凍狼の子犬、オディールを呼び出して傍につかせる。
少しでも、気持ちが収まれたと考えるが、イネッサが笑顔を見せたことで、オデットも次なる戦いに向かう。
縁は組技によって向かい来る客1人をのしてしまう。
気絶させた客を縁はすぐさま抱え、戦闘に巻き込まれぬよう運び、地面へと転がす。
なお、その客の傍についていてほしいとイネッサに願い、縁は次なる相手へと向かう。
エマもまた慈悲の一打で客1人を卒倒させる。
「ちょっと扱いが雑ですが……」
丁寧に移動していると時間がかかってしまう。
流れ弾で死ぬよりはと、エマは衝術を使って先ほど縁が別の一人を運んだ方向へと吹っ飛ばしていた。
残る客を相手取りながら、慧はふと竜宮が廃墟となっていることを再認識して。
「せっかく綺麗になった竜宮こんなんにするとは、まぁ悪趣味なこって」
小さく頭を振った慧はイネッサ達の方に敵が近づかぬよう抑える。
合わせて、常に退路も考慮に入れる。
倒れた男性客から離れられるように。そして、浸食した場所から逃げられるように。
慧が配慮しつつ、男性客の殴り掛かりに耐える暇に、オデットが異言を紡ぎ続ける2体を神気閃光で照らし、正気に戻す。
とはいえ、意識を失ってしまったこともあり、オデットは縁と手分けして男性客らを戦場から運び出していた。
イネッサに引き続き、男性客全員を元に戻したイレギュラーズ。
思いっきり戦えるようになったことで終焉獣の殲滅に力を注ぐが、相手も本領を発揮してくる。
「指もまあ、正直大変そうやし……先に倒したいよなあ」
仲間を巻き込まぬよう立ち回り、彩陽は終焉獣だけを捕捉して無数の弾丸を浴びせかける。
邪魔になっているのは指の方だが、腕の方がパワーで攻め来るのが厄介だ。
「…………!」
巨大な腕から振るわれる不意の一撃。
敵の能力を抑えていたと思っていた彩陽だが、これには対処できずに近場の瓦礫にめり込むように倒れる。
よろけて起き上がった彩陽はパンドラを砕いていた。
思わぬ攻撃を食らっていたのはルシアも同じ。ただ、彼女は距離をとった立ち回りに加えて後の攻撃も考えて大立ち回りし、魔力を高めていく。
エレンシアもまた終焉獣の攻撃で怯みながらも、腕を庇おうとする邪魔な指を叩く。
できる限り腕一本に火力を集中させていたエレンシアは仲間達の攻撃に重ねる。
(まあ、アタシが仕留め損ねても……)
この場には、火力に特化させた魔砲娘がいる。
最悪彼女に任せればと、エレンシアは大太刀で見事に傲慢の腕の内、右腕を思いっきりぶった切る。
だが、それを待っていたといわんばかりに、拳を叩きつけてくる相方の左腕。
前のめりになっていた彼女も食いしばりながら、運命の力に頼って踏みとどまっていた。
倒れかけたメンバーには、ピリアがすぐさま癒しに当たる。
「いたいのいたいの、とんでけ! なの!」
初手こそ攻撃していたピリアだったが、思った以上の猛攻を受けて仲間の回復に専念し、大天使の祝福をもたらし、天使の歌を響かせる。
そこで、救出に当たっていたメンバーも駆けつけてくる。
(見た感じ指が腕を守るのかなっていう挙動を見せてますね)
エマが速やかに戦況を把握し、元々いたメンバーに腕を任せて自身は指から叩き始める。
空中殺法で指の全体をエマが切り裂いていく傍で、エレンシアが一太刀浴びせた直後、ルシアが残る腕にありったけの火力を叩き込む。
「ずどーんでして!!」
二の腕よりの肘に大きな穴を穿ち、ルシアは見事に傲慢の左腕を消し飛ばしてしまった。
残る3本の絶望の指は防御能力に優れはするが、能力は腕に比べればやや格下といった印象だ。
思った以上に、終焉獣の意識が自身からそれていることを気に掛ける慧は強く炎を発する。
慧はさらに呪刀を刻み込み、光を発して指のヘイトを買う。
相手がこちらに向けて爪を振るってくればこちらのもの。
「悪いが、腕と指だけのやつは客とはみなさねぇんでな。支払いは命で頼むぜ」
残る敵が3体となったことで、縁も個別対処に切り替えていた。
縁の発した呪言は歪みの力となり、指の全体をねじ切る。
元の姿に戻ることなくひしゃげて消え去る指の傍、オデット、ピリアは危険を察して。
「ダメよ、これ以上弄らせたりしないわ」
鋭い爪で空間を引き裂くのを許すわけにはいかぬと、オデットはそいつ目掛けて近づき、生み出した小さな太陽を叩き込む。
「石化でカッチコチなの~!」
しぶとい敵へとピリアも歪みの力で追撃する。
これには指も耐えられず、仲間の後を追うようにこの場から消え失せてしまう。
客の中には目覚め始めたものもいたようだが、イネッサが状況説明をしてくれている。
今はこちらの対処に専念と彩陽は光芒パルティーレを使う。
残る敵は一体だが、こいつも浸食の危険がある以上はと、彩陽は無数の弾丸を浴びせかけてその力を削ぎにかかる。
「…………!」
その指が怯めば、エマが音速の殺術を見舞って追い詰める。
全身から噴き出す黒い物体は血か、はたまた……。
ここでもエレンシアが突っ込んで大太刀を振り下ろした直後、ルシアが狙い定めて魔神の大砲を叩き込む。
眩い光が走った直後、最後の絶望の指は跡形もなく消し飛んでいたのだった。
●
全ての客を救い出し、終焉獣を撃破したイレギュラーズは事後処理に動き出す。
オデットは仲間の支援を受けながら、精霊と共に遂行者の残した痕跡を探す。
終焉獣を連れてきたのはもちろんだが、後は触媒を設置、この空間を維持するために帳を下ろすなど色々と画策するべく動いていたようだ。
「怪しいものを探すのですよ」
元々、触媒があるかもと考えていたルシアだが、オデットの言葉でほぼ確信を得たようだ。
そちらが捜索に動く傍ら、別メンバー達がイネッサや客の介抱に当たる。
真っ先に泳いでいったピリアは救急バッグや持ち前の医療技術を使って応急手当を行っていて。
「イネッサさんも、だいじょうぶ?」
「ええ、助けてくれてありがとう」
事態もある程度落ち着いたが、イネッサは現状が把握できずにまだ不安そうにしていたようだ。
頭に載せるウサギ……うみちゃんも心配していたと話すピリアは、そのウサギのことを紹介しつつ一緒に話をして場を和ませる。
「バーで飲んでた途中だったんでしょ、ほら皆一緒に帰って美味い酒飲みますよ!」
次第に我に戻った客もそこへ加わり、慧の言葉に大笑いすら巻き起こり始めるのを見て、縁も微笑んでいた。
「歓談するのもいいが、とりあえず、元の竜宮へと連れて帰らねーとな」
エレンシアがそう話す間に、ルシアが触媒らしきものをいくつか発見する。
それらは瓦礫に埋もれていた酒瓶であったり、看板であったりと元の竜宮ゆかりの品であったようだ。
「それじゃ、……どーん!」
ルシアは仲間と手分けして、それらの触媒とその付近を徹底的に破壊する。
すると、次第に空間が歪み、消えていく。
同時に、神の国へと迷い込んだイネッサ達もまた、元の世界へと戻っていく。
それを見届けたイレギュラーズ達もまた、この場を後にすることにしたのだった。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お世話になります。なちゅいです。
MVPはイネッサや男性客を多く助け出したあなたへ。
ご参加、ありがとうございました。
GMコメント
イレギュラーズの皆様こんにちは。GMのなちゅいです。
人気のバーテンダー女性や客達が神の国へと迷い込んでしまったようです。
女性や客を救出しつつ、敵の掃討を願います。
●状況
舞台は竜宮……と思しき神の国です。
ただ、現実である地の国とは異なり、荒れ果ててしまっています。
衝撃を覚えるイネッサや客をナーワルの連れた一隊が強襲。イネッサは客によって守られて無事ですが、代わりに客はワールドイーターによって異言を話すもの(ゼノグロシアン)へと変えられてしまったようです。
遂行者ナーワルが何か画策した痕跡が残されていますが、当のナーワル本人はすでに別所へと向かったようで、その姿はありません。
●敵
○ワールドイーター(終焉獣『ラグナヴァイス』)×5体
R.O.Oで観測されたモンスター。現実では終焉獣(ラグナヴァイス)と呼ばれています。
いずれも真っ黒な体躯をしているのが特徴的です。
・拒絶の指×3体
全長1~1.5mほど。
身を盾とし、仲間を守ろうと立ち回るようです。
地面を叩きつけて揺らすことがある他、指先を叩きつけたり、爪でひっかりたりしてきます。
爪で空間を引き裂いて浸食を進めることもあります。
・傲慢の腕×2体
全長3m超。それぞれ、左腕、右腕のようです。
二の腕から手までが地面をホバリングするように浮遊しています。
拳で殴りつけたり、叩き潰したり、手で握り潰そうとしたり、エルボーを繰り出したりと多様な攻撃手段を持ちます。
空間を殴りつけて穴を開け、浸食を進めることも。
〇異言を話すもの(ゼノグロシアン)×5体
竜宮在住の海種の成人男性達。いずれもバーの客です。
イネッサを守った末、狂気に陥って『異言(ゼノグロシア)』を話すように。
腕っぷしの強い者も多く、直接殴り掛かってくるものがほとんど。
生かしたまま倒すことで正気に戻せることがわかっています。
〇遂行者:ティーチャー・ナーワル
以前は黒鉄の鎧で身を包んでいた女性遂行者。
修道服を纏った旅人女性。リドニア・アルフェーネ(p3p010574)さんの関係者です。
残念ながら、すでにこの場に姿はないようです。
●NPC
○イネッサ・レヴィヨン
今回の依頼者。竜宮某所にてバー「メル・プロフォンドール」を営むスタイルの良い海種女性。年齢不詳。
艶っぽい見た目ながらも、安価で飲み物を提供してくれ、客の悩みを聞いてくれることもあって人気の女性。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
それでは、よろしくお願いいたします。
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