シナリオ詳細
<廃滅の海色>昏き波濤のオパール・ネラ
オープニング
●コン=モスカの惑い
サンブカス=コン=モスカはイザベラ・パニ・アイスからの知らせを聞き、直ぐに娘を呼び寄せた。
娘とは即ち、祭司長であるクレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)だ。
さて――コン=モスカとは何か。
静寂の青の入り口に存在するその地は総主祭司を頂点とし、名も知れられぬ神への信仰を貫く一族である。
クレマァダは数奇な運命にある娘だ。姉であり、大司祭であり、御子でもあったカタラァナ=コン=モスカ (p3p004390)は波濤に飲まれ消えた。彼女の宿命は器として竜を頂く事であったのか、それとも――
双子というのは不可思議なもので、姉の身の異変を夜毎に感じていたという。
クレマァダが見た予知の夢は不吉をも感じさせた。二十二年と七カ月、それから四日振りに発令された『王国大号令』を果たすが為にやって来た姉に「行かないで、お姉ちゃん」と言って居たならば彼女の運命は大きく違った事だろう。
そんな素直な言葉を吐く事は当時の彼女には難しかった。精々が心配ですという意味合いで「萎びた昆布」と告げるだけ。
姉と交代するように、娘は特異運命座標となった。海と呼ぶべき神の座に踏み入れて静まる絶望の波濤をその双眸に映したのだ。
海に神性を見出し、滅海竜の信仰を頂いた娘。
彼女は父を見て「何を、仰いますか」と唇を震わせた。
「――滅海竜の復活?」
毀れ落ちた言葉は荒唐無稽であった。父の真面目な表情にクレマァダは「冗談を」と笑う事も出来まい。
「それが為された場合はシレンツィオは滅びるだろう」
「勿論。……しかし、あの竜(かみ)は水底に眠っておられるのでは」
「それを揺さ振らんとする物が顕れた。漸く一度の眠りに着いた物を悪戯に起こすなど認められまい」
クレマァダは頷く。父の張り詰めた空気に背筋は自然に伸びた。
此処に居るのは『特異運命座標』のクレマァダ=コン=モスカではない――『祭司長』クレマァダ=コン=モスカだ。
その身が帯びていたモスカの巫女としての力は全て失われた。しかし、信仰は、その毅然とした在り方は変わらずにやって来た筈だ。
「夢を見た」
クレマァダの指先が震えた。
――昏い。
悲壮な程に鳴く風の中、猛る荒波が白き泡沫をも飲み込んでゆく。
――昏い。怯える程に、昏い。
海と空、その交わる狭間の美しき地平。世界の底にまるで大穴でも空いたかのように全てを呑み込む濁流は、地平の栓が抜けたかのようだった。
影が見える。強大な、虚空さえ飲み喰らう様なものだ。
神聖なる絶望の青――見渡す程の美しき聖域に嵐の獣が存在しているのだ。
闇が喰らう。全てを。この世界の終わりを思わす様に、大口を開いて。
「どうして、貴方様が――」
父が見た夢は、嘗ての『我(カタラァナ)』の命運を顕わしていたのだと、そう認識したのに。
今、父が向けたその眸の意味は――
●
神の国に至れり。
クレマァダはフェルディン・T・レオンハート(p3p000215)を伴に『コン=モスカ』へとやって来た。
「酷い有様じゃ」
「……これが、嘗ての……」
絶望の青。
人を寄せ付けぬ廃滅の気配。昏く悍ましい空気。
クレマァダは『神の国』に存在していたグラニィタ=カフェ=コレットに許可を得て、孤島へと向かうことに決めた。
「我らコン=モスカは紙を頂く。『モスカの加護』と呼ぶべき秘術を有しておったのだ。
コンテュール卿に言わせれば『絶望の青に挑む冒険者への祝福』。実に皮肉じゃの。
廃滅の結界……ふむ、『廃滅病(アルバニア・シンドローム)』は我らが神をも蝕む狂気であった」
その祝福が人死にを加速させるように海へと送り出していたのだから。
孤島オパール・ネラはコン=モスカの聖地である。その奥地にてクレマァダは慣れ親しんだ儀式を行なうべきだと父にそう言われたのだ。
「それに意味が?」
「分からぬ。じゃが、夢見がそうだというならば、そうするべきじゃろう」
船で渡った先、孤島オパール・ネラの深海遺跡へと繋がる階段には有象無象が存在していた。
「このような所に……」
忌々しげに呟いたクレマァダは『滅び』の象徴を睨め付けた。
ああ、そうだ。この地に宝珠を納める事で『滅び』の力は薄れようもの。ならば、祭壇を壊せば良いと言うことか。
特に、天義の信仰者からすれば『異邦の神を祀る一族』など排除してしまいたいことだろう。
(ッ――忌々しい……)
クレマァダが睨め付けた先には、青ざめた海の象徴が立っていた。
「おね……え――……ちゃん……?」
- <廃滅の海色>昏き波濤のオパール・ネラ完了
- GM名夏あかね
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年06月07日 22時30分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●
悍ましく、懐かしい気配。それが『海淵の祭司』クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)のよく知っている海そのものであった。
だからこそ、彼女は旅人達を航海へ送り出す時に加護を与えるのだ。もう二度とは帰らぬその人達に、せめてもの手向けのように。
「うおおーっ! 凄く遺跡してる! めっちゃ、エモ!」
誰もが『辛気くさい顔をして居る』ならば自分だけは何時も通りで居ようと『音呂木の巫女見習い』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)は考えて居た。
相変わらずの普段通り。そうでなくては秋奈(おんな)が廃る。うっかり転ばないように、足元が見えるように明るく明るく照らすのだ。
「これから深海に行くってのに太陽ってか! ぶははっ」
「あら、海の中にだって案外太陽は差すものよ? 此の海じゃ、いい男もいい女も死に過ぎたのよね。
出来ればみんな、静かに眠らせておいてやりたいんですけれど……ねえ?」
どうかしら、と槍を手にして『猛き者の意志』ゼファー(p3p007625)が振り返れば『海淵の騎士』フェルディン・T・レオンハート(p3p000215)は静かに頷いた。フェルディンにとっても気が気じゃない。何せ、この最奥に存在する『触媒』を一度見てしまったのだから。
それは廃滅の病蔓延る海に棲まうた巨竜にも似たワールドイーターであった。無論、そのサイズは小さくそれと見紛う事は無い。
だが、しかし、それらを連れていた巫女の姿は――
「いやはや、本当に悪戯付も居た者だね。滅海竜は『彼女達』が死力を振り絞ってやっと眠ってもらったというのにまた起こされちゃあ困るよ。
そうだろう、祭司長殿。……祭司長殿?」
嫋やかに袖口で口元を覆い隠した『闇之雲』武器商人(p3p001107)は切れ長の眸を彼女へ遣ったが答えることはない。唇を引き結んでオパール=ネラに――『コン=モスカの聖地』に立った娘は深海遺跡へ続く階段を眺めるだけだ。
「おんやまあ……確かにカタラァナ様を思い出す容貌をしておりんすなあ。
本物のカタラァナ様とは縁がありんしたから、気になって来てみんしたが……。
なるほどなるほど。ワールドイーターはコン=モスカの力を欲していた、という事でごぜーますかね?」
ちらりと視線を遣った『Enigma』エマ・ウィートラント(p3p005065)にクレマァダは硬質な声音で「違う」とだけ応えた。
コン=モスカという存在がこの海にとって『見送る者』であっただけの存在ならば、ワールドイーターの目的はそのようなものではない。ただ、この地を正しき歴史に修正せんとしているのだ。
ああ、だって――廃滅病の流行時に、クレマァダ=コン=モスカはイレギュラーズでは無かった。廃滅病の流行時に、クレマァダ=コン=モスカはただのコン=モスカの祭祀としてこの地で儀式を執り行った。その変化が、歴史には赦されざるモノであったなら。
「……あの頃はまだイレギュラーズじゃなかったんだ。一人の海洋軍人としてそこにいた――だからこそ焼き付いた奇跡があるんだ」
スコルピウスを担ぎ上げ、『朝日が昇る』赤羽 旭日(p3p008879)の唇が震えた。慣れぬイレギュラーズとしての戦だけではない。海洋軍人として培ったコレまでもが揺るがされるかのような悍ましさ。
「万が一にも勘違いされたら困るんだ……頼むよ、伝説のまま眠っててくれ」
「ええ。ええ。妙見子ちゃんはこの海が『静寂』ではなかった頃を知りませんもの」
星空を内在させた尾を揺らがせて『愛し人が為』水天宮 妙見子(p3p010644)は鉄扇をその背に、ゆっくりと岩肌を撫でた。
「静寂ではなく――絶望と、……この地域はそう呼ばれていたのですね。
……すみません……妙見子はつい最近召喚されたので詳しくは分からないのですが。
皆様が絶望から静寂に生まれ変わらせたこの海をまた汚すわけにはいきませんものね、妙見子ちゃん張り切っちゃいます!」
だからこそ、彼女の不安も、彼女の『その表情の意味』も聞いておかねばならなかった。
妙見子の視線の先、クレマァダを気遣う様にフェルディンはそっと背を撫でる。
「……不思議なものかよ」
「クレマァダさん」
フェルディンは気丈に振る舞いながらも、彼女は一人の心優しい娘であることを忘れては無かった。
厳格な祭司長ならば聖地を穢す行いを信仰への愚弄だと叫ぶことだろうか。侮っても居ない、信頼している。けれど、彼女の浮かべた表情は――
「クレマァダさん?」
思った以上に、様々な感情が混ざり合って崩れ落ちていくような。
「この海があの海であるならば、我(カタラァナ)は生きている。当然の理じゃ」
ああだって――『我(カタラァナ)』はイレギュラーズでなかったならば、今も。
●
海へ、海へ。底へ、底へ。
下り降りていくその階段をリズミカルに、楽しげに、どこか歌うように駆け下りて行く『触媒』の娘。
その足取りの軽やかさにも見せられる感覚を覚えながら武器商人は狭苦しく、徐々に光を失って行く海底遺跡へと続く階段を見下ろした。
効率的に自らを戦いへと誘う最適解を導き出す紫雲の傍らに、尾を揺らがせる傾国の乙女は立っている。
「そちらは頼むよ、水天宮の方」
「ふふ♡ ふへへ……任せれちゃったので妙見子は向こう側に向かいます。商人様もご武運を!」
うっとりと笑みを浮かべて見せた妙見子は楽しげに水竜を見詰めていた。蠢く其れ等に妙見子は何の言われもないけれど――その地に立つだけで体に感じられた不調から『此処は危険である』事だけはひしひしと感じられる。
参りましょうと唇に乗せた音色と共に、眼窩に見下ろす広い空間に辿り着いた触媒が歌うように唇を動かした。その後方には祠が見えたか。
(ああ、巻込んでしまいそう――だけれど)
それが大切なものであることは翌々分かって居るからこそ。立ち塞がる水竜らを眺め遣ってから九つの尾の魔力と術式が混ざり合う。
――其は極東にて再誕した新たなる九尾、全ての悪しきを喰らう護国の狐也……水天宮・九尾式!
唇に乗せたその響きと共に、周囲へと広がり行く呪術の気配。其れ等纏めて流し行く海嘯はクレマァダが有する限定的な再現。黄金色に煌めいた眸を有せども、彼女は決して竜の器には慣れやしなかった。けれど――腕の一振りはその再現を熟して見せよう。
そう。この海が『あの海』であったならば我(カタラァナ)は生きている。僕(クレマァダ)はコン=モスカ島で待っている。
そんなことが有り得やしない。そんな物は言い訳だ。甘えて等は居られない。クレマァダは目を伏せってから唇を戦慄かせた。
「触媒を真っ先に狙うべきじゃ。外す言い訳をひとつでも多く持って居たいだけじゃ」
世界とは過去ばかりを見据えては分かり易い程にクレマァダを苦しめるのだ。電脳の世界で、真性怪異の指先で、一体どれだけの我(カタラァナ)を虜のしてきたのか。
(今宵もまた、我はカタラァナを、お姉ちゃんを――!)
その傍らにそっと立っていたのはフェルディンだった。自らを未熟と位置付けたのは祭司長と比べれば波濤を宿す剣も未だ未だ至る境地があるからだ。
「彼女の波を感じる事は出来ましょう」
「……うむ」
たったそれだけで『言いたいことは繋がる』。彼女との面識はフェルディンにはない。彼女がクレマァダのかたわれである事しか分かりやしない。けれど、その人と鳴りはあの日の『此処』に集った仲間達から聞いている。
『違う』と思えば、そう感じることが出来たならば容赦すまい。いや、『違わない』ならば。彼女であるならばあの時の誓いを――
「うーん、ニセラァナちゃんまで遠いかね。やー、いつかぶり。って覚えてねーわ! ぶわっはっは! さ、こっちだぜ?」
秋奈は誰よりも迷うことなく前線へと滑り出した。声を張り上げ水竜を誘うように刀を引き抜いた。長刀はずるりとその身を揺らがせる水竜の鱗を傷付けるように多段のスピードで叩き着けられる。
「うぉっとー!?」
水流が勢い良く放たれた。秋奈を狙った水をすり抜け、触媒の娘の元へと駆けるゼファーは「頼んだわよ」とひらりと後ろ手に降って。
廃滅病の気配が身を蝕んだ。喉奥に感じられたひりついた気配など、遠く遠くに置き去りにしたい。
「ああ、もう。愉しい思い出ではないやつをセットにしてくれちゃって……サービス精神旺盛なのも度を越したら考え物だわ?」
誰も廃滅病も、滅海竜も喜ばしい思い出に何てなりやしない。けれど、所詮は再現。そして『紛い物だけれど気配は似通っている』ならば。
「あの頃よりも、ずっとずっと私達も強くなっているんですもの。多少の無茶を張るのも、戦いの華ってヤツだわ?」
あの時よりも、きっと。師匠(おじいちゃん)の授けてくれた技も業も、全てを使いこなせるようになった筈。
ゼファーの声音が触媒の娘へと響く。眼前で笑ったそれはどう足掻いたって見たこと在る人の其れだった。後方から走って遣ってくる『彼女』にだって良く似ている。
「似ていらっしゃるのですか?」
こてりと首を傾げ妙見子が問い掛ければ「とってもねえ」と武器商人は静かに答える。
面影とは厄介なものだと妙見子だって知っている。それが濃ければ濃いほどに遁れ得ぬものとなった。夕暮れ時の足元で覗く影のようにそれは自身の傍にある忘れ得ぬものなのだ。
(この波の音も、その中に込められる感情だって、似ていらっしゃるのでしょうね)
だからこそ、誰もがその姿を双眸に映してはその名を確かなものとしたのだろう。
カタラァナ、と。
忘れることのない巫女の名前。奉じられた器。たったひとりだけの、クレマァダの姉。
脈々と続く巫女の系譜に何があるかを妙見子(かみ)はよく知っていたけれど、人の世は簡単なことで終らぬとも理解していた。
「厄介なものでありんすなあ」
「……ええ、人間とは、とても」
眉を顰めた妙見子へとエマは小さく頷いた。全く以て人間とは脆くて厄介なのだ。それでも、儚いからこそ歩むのが人なのだと思えば愛おしさも抱くだろう。
「それにしたって、本物のカタラァナ様の外見をしても空っぽでは意味はないでありんすよ」
首をこてりと傾げて見せるエマの魔術回路が光を帯びた。熱砂の嵐が触媒へと絡みつく。その激しさの中でも触媒の娘は唇を動かして――波を動かす。
波は、壁のように立ちはだかったか。行く手を塞ぐように天井スレスレを飛びながら進む旭日は流星の如く駆けた。構えるは銃――と呼ぶよりも杖としての用法が正しいであろうか。
内部に仕込まれた加速術式が音を立てる。物理的な弾丸には限界を感じていた。だからこそ旭日は複雑化した術式から魂を弾丸に変え打ち出した。
「あの海の再来ならば、確かな人の強さを魅せ付けてやろう」
赤羽隊を率いる存在として旭日にとっても負けられぬ戦いだった。水竜を釘付けにする仲間達の向こう側にゼファーの背中が見える。
触媒の娘の前に立っていた彼女の傍にはクレマァダが居る。秋奈は武器商人に「バトンタッチだぜ?」と合図をして勢い良く触媒の娘へと近付いた。
旭日の弾丸に、秋奈の一刀。無数に、放たれたその中に静かに佇む武器商人の唇がついと吊り上がって笑った。
その眸に問われれば、その声に耳を傾ければ、その姿に見せられれば、破滅は武器商人を恐れの象徴として見せることだろう。
水竜の声は波濤として響き渡った。その下に立っている。唇が揺れ動けば報復の乙女は嘲笑う――ああ、だって、彼女は何もかもを逃がすわけがないのだから。
「悪いね。我(アタシ)に見つかったことが最大の過ちだったと気付いておくれ?」
形だけの謝罪に込められたのは嘲笑うかのような声音だけであった。もう見付けてしまったのだから、何もかもが遅いのだから。
●
「……神様の封印を解かれればとんでも無い事になる未来しか見えない。止めさせていただきんすよ」
神様とは、何か。エマは翌々知っている。何故かと言えば、それがカタラァナ=コン=モスカという娘の信ずる全てであったからだ。
彼女を培った神は、彼女と共に深海のそのまた深く、何処とも言えぬ場所で揺蕩うように眠ったという。水竜の動きを眺め、其れ等を巻込むかの如く堕天の煌めきを放つ。
波濤に巻込まれる旭日と共に、競り立った水壁を眺め遣った。それは旭日が『海洋軍人』の中で語られる悍ましき戦いを彷彿とさせたように、エマにとってもあの絶海での出来事を思い立たせた。
ガワばかりを見て居れば心揺さ振られる事も多いだろう。舞うように美しく槍を大薙ぎさせる。幼い頃と比べればぐんと伸びた背丈と共に涼しげに身をこなすゼファーの視線が鋭くも水竜へと投げ付けられた。
突き刺さった槍を引き抜けば濃い、死の香りが漂った。不快な気配に眉を寄せ、笑う。
「……だけれど、其れは悪手よ。そんなもの見せられたら……猶更、皆負けられなくなるもの。ねえ?」
それが『彼女』を思わせるならば、尚更に。
妙見子の知らない彼女はどの様な存在であったのだろう。扇にぶつかる水流を凪ぐように遠ざける。ふわりと揺らいだ黒髪に合わせるように衣は踊る。
嫋やかな笑みを浮かべる星の化身の眼前で水竜が勢い良く吐出す波濤に押しつぶされること亡く雷の気配を叩き込んだ旭日が「やらせない」と言葉にした。
奇跡なんて再現できなくとも目に焼き付く光景だけは消し去ることなど出来るものか。エマの一刀は「さあ、終いでありんすよ」と声音と共に降ったか。
「水天宮の方、さあ、どうするかな?」
「ええ。とっても素敵な『竜』ですけれど、お終いにしましょう?」
にんまりと微笑めば武器商人は相づちのように災禍の気配を手招いた。鋭く、突き刺す棘の如く。
水竜の動きをその場に留めた妙見子はにんまりと微笑みながら神威の魔剣を振り上げた。
「ニセラァナちゃん、へいへい。知ってるかい? 両手が溶けてきて感覚なくなってきても勝てば大丈夫なのです」
「へえ」
声音まで、彼女と同じであったから秋奈は「ニラちゃんさあ」と『彼女ではない誰か』に呼び掛けるように声を掛けた。
「マジ、間に合うかなんてわかんなくってもしんどいって言ってらんないしさ、色々とあるんだよね。
おねーさんは秋奈というの! 覚えといてくれると嬉しいなっ! ついでにさ、『私じゃ騎士にゃ似合わない』」
秋奈が勢い良くフェルディンを吹き飛ばす。武器商人が「ああ、頑張る時間だね」と手を振る其れに応えれば、クレマァダの傍らにその足は縺れながらも辿り着いた。
偽物か否か、それ以前に。その姿をした触媒を決して彼女の手にかけさせたくは無かった。
それが彼女の片割れであったとしても。其れが彼女の母親であったとしても。それが彼女らコン=モスカに言われある仇敵であったとしても、だ。
どの様な存在であれど、同じ顔をして同じように笑った『かたわれ』を模したそれ。
(ああ、惨いことをさせるわけにはならないと、思って居たのにな)
何時だってクレマァダはフェルディンの創造の上を行くのだ。彼女は凜と立っている。倒すべきだと拳を握る。
「……全く以て、貴女という人は」
弱さなんて、滲ませないからこそ『祭司長』なのだろうか。
彼女がイレギュラーズになって身に着けた強さはかたわれを喪ったからだ。彼女がそうではなかった頃の弱さは何処かに捨ててしまった。
(その弱さをボクだけは知っていられたら良いのに)
隠した本音は並び立つことだけで表した。ならば。
となりに暖かさだけがあった。何も出来ない弱虫(クレマァダ)なんて此処には居ない。
「ワールドイーター。例えどんな姿をしておろうと、貴様はカタラァナではあり得ない」
消波の更に先、音を置き去りに、彼女を乗り越えるように絶対的な一打を放つ。
絶海剣も、拳も、何もかもが、その心を叫ばせた。眼前で笑う『お姉ちゃん』に叩き込む一撃が眩い水流となってその場に煌めいた。
――いつか彼女には心から笑って頂きます。だからどうか、安心してお休み下さい。
触媒に罅が入る。波濤の中で見慣れた姿に亀裂が走った。まるで、鏡が割れるようにそれは崩れ落ちていく。
ふと、崩れゆく帳の中でクレマァダは疑問に思う。
何故、グラニィタが案内役として設置されたのか
あれは主祭司。教えを束ねるもの。絶望の青への立ち入りを許可するのは、コン=モスカの勤めならば。
それがあの振る舞い。まるで、祭司長かそれ以上であるような――そこまで考えてから壊れた触媒が象っていた我(カタラァナ)の声がした。
「だって、僕(クレマァダ)は僕を喪ったらどうなるか分かって居るでしょう?」
愚問だ。有り得ない未来など、聞いてなるものか。クレマァダには笑った触媒が母の顔をして居るように見えた。
――歌はぱたりと止んで、世界は崩れていって仕舞った。それで、おしまい。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
おつかれさまでした。
GMコメント
●成功条件
・『触媒』の破壊
●フィールド情報
『絶望の青』と呼ばれていた海域の入り口。
コン=モスカ領。その最果ての地である聖地。孤島オパール・ネラ。船で上陸済みです。
島には古代遺跡が存在し、深海へと繋がる階段が存在しています。深海には『祠』があり、コン=モスカの巫女は代々その地で神々へと祈りを捧げるのだそうです。
その最中に、『ワールドイーター』と『触媒のワールドイーター』が存在しています。
祠へと向かわんとする其れ等を阻み、祠を護りながら触媒を破壊して下さい。
この地では長く滞在していると『廃滅病』に似た病(BS)に罹患します。
ただし、この『領域』のみのスペシャルブレンドです。特別製です。
出れば解除されます。出ない(領域が消えない限り)は永続です。解除スキルなどでは解除不可となります。
このBSが付与されると徐々に『最大HP』が減少していきます。この効果でHPが0になる事はありません。また廃滅病と似た症状が身体に発生する事もあるようです。
(異臭が生じる、体の一部が溶けるかのような感覚を味わうなど。これらの要素はステータスの数値には影響しません。またこれらも神の国を出ると解除されます)
●エネミー
・『ワールドイーター:水竜』2体
滅海竜リヴァイアサンにも似た外見をしていますが全長3m程度の小ささです。能力も其れなり。
紛い物です。外見と少しばかりの能力を得ているようです。波濤での攻撃を得意としています。
階段を塞ぐように動いているほか、カタラァナ……?を護ろうとしているようです。。
・『触媒のワールドイーター:カタラァナ……?』
カタラァナ=コン=モスカを思わせる外見のワールドイーターです。
カタラァナでしょうか?リモーネでしょうか?それとも?
それでも、外見がコン=モスカの誰かに似ていることには違いありません。クレマァダさんには誰に見えるでしょうか。
唄を歌っており、波濤の魔術を駆使して戦います。
ワールドイーター:水竜に護られるように立っており、楽しげに祠へ向けて進軍していきます。
祠を壊してしまえば、神様をもう一度目覚めさせられる。然うして、この海とともに深く溶けてしまいたいようです。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
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