シナリオ詳細
<伝承の帳>白き模造
オープニング
●
天義の巨大都市テセラ・ニバスを侵食した『リンバス・シティ』が顕現した。顕現せしめる――『帳』。それは何の前触れもなく唐突に降りてくる。
あれは何だと人々が見上げ、されど危険だと感じなければ見過ごされ、巻き込まれる。天義ではもう、その危険を直接体験した者たちも多いだろう。しかし、他国では……そうではない。
天義から遠く離れた幻想王国『カノッサ男爵領』。
そこへ、唐突に『帳』が降りた――。
「――先生」
白い衣を纏った信徒たちに先生と呼ばれた男性が、柔らかな笑みを浮かべながら振り返る。
「何か問題でも?」
「先生のお手を煩わせる程の事でもないのですが……天使たちはどうしましょうか?」
「そうですね……。『桜』では設定が少し甘かったようなので、確りと粛清出来るようにしましょうか」
はいと応じる信徒もまた、先生と呼ばれた人物に準ずる者なのだろう。遂行者か魔種――或いはどちらも、か。
「此処もじきに安定しますし、もう出立されますか?」
「いえ、今回は――」
柔らかな声の男は、まるで愛おしいものでも見つけたかの如くゆっくりと微笑む。優しいその眼差しに信徒は呼吸を忘れて見入ってしまう。
「俺も一度、見ていこうかと思います」
神に仇なす者たちを。
黒を纏い、汚れなき白を汚さんとする者たちを。
『聖女』ルル等から話は聞いてはいるが、報告が誇張されている可能性も否めない。矢張り実際に見て判断しなくてはと穏やかに微笑む彼に、信徒は頻りに頷き返した。
「それに皆もあの子も『手伝い』をしてくれていますし、俺だけ休むことは出来ませんしね」
男が悪戯めいた笑みを浮かべれば、目元の黒子が妙に艶めかしく信徒の瞳に映りこんだ。これは、人たらしの笑みである。
●
「ヴェルグリーズ、居る? 居た。居るね」
バタバタと資料を片手にローレットの奥からやってきた劉・雨泽(p3n000218)は、「どうした?」と目を丸くしたヴェルグリーズ(p3p008566)の眼前まで来ると「落ち着いて聞いてほしい」と唇を開いた。
「……君が預かっている領地、『カノッサ男爵領』 に『帳』が降りた」
ガタン、とヴェルグリーズが座していた椅子を転がして立ち上がった。
どうしてと何故が脳に浮かんだ。
まだ少女と言っても良い幻想貴族の勝ち気な顔が脳をよぎる。彼女は、無事なのだろうか。いや、彼女だけではない。住民たちは、皆――……。
「落ち着いて。……一応説明するね」
「……ヴェルグリーズ、ひとまず座りましょう?」
側にいたジルーシャ・グレイ(p3p002246)が彼の肩に手を置いて、ニル(p3p009185)がすぐに立て直してくれた椅子へとヴェルグリーズを導く。『きっと大丈夫』なんて言葉は、まだ彼には告げられない。
天義で暗躍している、神の代理人を名乗る遂行者たち。彼等がルスト・シファー(冠位傲慢)の権能によって『神の国』というこの世界のコピー領域を作ることが出来ることは、今までの経緯からイレギュラーズたちも知ることとなった。
「確か先日の桜雲の土地では」
「うん。梯が降りて聖遺物を壊してきてもらったよね」
でもね、と雨泽が続ける。
「『触媒』の元に『帳』を下ろす事によって定着させることも可能みたいなんだ」
つまるところ、各地に触媒となる何らかが既にばら撒かれており、遂行者たちは神の国を作った後にそれを各地に定着させることにしたのだ。
――ことは既に、天義だけの問題ではない。
「……定着するとどうなるんだい?」
「……『上書き』される、と思う」
定着率が上がるごとに神の国の姿が現実に反映され、上書きされた人間は人の在り方まで変わってしまうことだろう。……既に帳が降りているため、変化は始まっている。
「帳内の――現実側の触媒を破壊すれば良いのでござろうか?」
静かに状況を確認した如月=紅牙=咲耶(p3p006128)へ、雨泽も梅雨時の雨が如く静かに返す。
「ううん。広い領地内を探し回っては間に合わない。神の国のほうが小さい筈だから、先に神の国の消滅を行ってほしい」
現実の男爵領に在るであろう触媒は、神の国を消滅させてから見つけて破壊すればいい。それこそ人手を募り、人海戦術で行えるだろう。
「僕は各地にばら撒かれているであろう『触媒』を探しに行くから同行できないんだけど」
「大丈夫です、雨泽様。ニル、がんばります」
「うん。巻き込まれている人たちも居ると思うから、気をつけて」
雨泽はヴェルグリーズへ案じる視線を投げかけてから、よろしくねと全員の顔を見ていつも通り笑うのだった。君たちなら大丈夫だよ、と。
- <伝承の帳>白き模造完了
- GM名壱花
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2023年06月03日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●
――何故。
カノッサ男爵領。そこに異変があるならば、まず気がつける。絶対に見逃さない。そんな思いを胸にアリスティーデ大聖堂から彼の神の国へと転移した『約束の瓊剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)は、幾度も胸の中で唱えていた。
「神の国かぁ。仰々しい名前の割にはなんつーか、あんま変わらないんだな」
きょろりと視線を彷徨わせた『竜の狩人』ミヅハ・ソレイユ(p3p008648)がそう口にした。
町並みは、ヴェルグリーズがよく知ったもの。しかし、エルドリードの端に行くほど建物が崩れているのが気になった。
まるで、一度建築してから壊されたかのように。
まるで、いずれすべてがそうなると示唆するかのように。
(……嫌な感じだな)
『航空猟兵』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)にとって帳や遂行者は、正直どうでも良い対岸の火事だった。……天義で起こっているだけならば。
(まさか『こっち』にまで来るなんてな)
生まれ故郷たる幻想。そこへ帳を降ろされるとなっては、アルヴァにとっても他人事ではなくなる。
「まさか天義の外にまで『帳』が降りるなんて……!」
「遂に幻想にもこの空間が……」
アルヴァの思考と同じタイミングで同じ気持ちを声で発したのは『ベルディグリの傍ら』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)。傍らで眉を上げながらも静かな口調で口にした『夜砕き』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)とは、先刻『桜雲』の神の国を潰したばかりだ。
「神の国は、かんたんに作れるものなのでしょうか?」
「みゃー、どうなんだろう……」
情報屋の雨泽は、幻想を『あたたかな声』ニル(p3p009185)たちへ任せ、海洋へと旅立った。天義、幻想、海洋……一度に距離の離れたたくさんの場所に出現させれるだなんて、下準備がされていたのか、それともそれほどまでに敵の手勢が多いのか。きっとそのどれもかもしれないと、『祈光のシュネー』祝音・猫乃見・来探(p3p009413)は遠くの地で働いているであろう雨泽を思って眉を寄せた。
(僕も頑張らないと)
猫好き仲間の彼がどうか危険な目にはあいませんようにと願い、気を引き締める。
――どうして。
幾度も、ヴェルグリーズの中に同じ思いが浮かぶ。
その思いはきっと幻想を祖国としている者たちならば抱いてしまうかもしれない。チラと視線を向けた『黒蛇』物部 支佐手(p3p009422)の視線の先には咲耶の姿。戦友の祖国の危機とあらば、黙って見過ごす訳にもいかない。
「やっぱりと言うか何て言うか、多いわね」
影の天使と幾度か戦闘をし、建物の影に隠れて一息。近くに寄ってくる天使がいないかどうかの警戒はニルと支佐手が担う中、こっそりと建物から顔を覗かせ遠くまで見遣ったジルーシャの視界にはいくつもの天使らしき者たちが蠢いている。
「ヴェルグリーズ、怪しいものはあるか?」
「……ああ」
――どうして、『そこ』なんだ。
最初は何故この男爵領なのだ、と思った。
けれども『それ』が見えた途端、どうして『そこ』に『それ』があるのか、と思った。
「……男爵邸が違う建築物となっている」
苦しい。思いつく限りの苦味をすり潰して食んだような、苦しい声だった。
「神殿、でござるな」
「ああ……」
超視力、そして広域俯瞰により視界に入っていたジルーシャと咲耶、ニルと支佐手は「矢張り」と思った。特に『桜雲』の神の国にて神殿を見ている者等にとっては確信にも近い。……それが男爵邸の在るべき場所に建っているとまでは思わなかったけれど。
「行き先は決まり、だな」
さっさと終わらせてしまおう。アルヴァが動き出すのに合わせ、皆とは逆へと視線を向けた祝音が「あっ」と声を上げる。
「あの人、普通の人……?」
よたよたと歩く男の姿があった。これまでコピーされた住人たちに声を掛けてみたが、あまり『人らしい』反応は見られなかったのに、その男は辺りを不安げに見渡し、時折コピー住人へ声を掛けては顔を歪ませていた。
「あれは……」
ヴェルグリーズにとっては知った顔だ。
(あの人は確か……パン屋をやっていて、奥さんと去年生まれたばかりの小さな子供がいて……)
知人が影の天使となっている町中を歩き回ったり、反応がおかしくなった知人に声を掛けて回るのは恐ろしいことだろう。けれどきっと――妻子を探しているのだ。
ヴェルグリーズが男に声を掛けると、男はパッと上げた表情に希望を点した。
「ここは戦場になるでござる。巻き込まれぬ様に急ぎ屋内に逃げられよ!」
「だが、俺の嫁さんと娘が」
「大丈夫だよ。僕たちが探すから……!」
だからひとまず安全な場所に避難を。
安全そうな空き家は既に透視で祝音が見つけ、巻き込まれた一般人を何人か誘導済みだ。不安な気持ちはわかるけれど外を出歩いて影の天使に見つかった方が危ないと、イレギュラーズたちは促した。
「天使が近づいています……!」
俯瞰と超視力で広範囲の索敵が叶うニルが告げ、イレギュラーズたちは顔を見合わせる。
「わしにお任せを。御身にゃ、傷ひとつ付けさせませんけえ」
支佐手が前へ出、その傍らで咲耶が得物を引き抜き、ミヅハは矢を番えた。
「だいじょうぶです、ニルが守ります」
「悪いが少しの間大人しくしていてくれ。すぐ終わらせる」
一般男性の傍らにはニルとジルーシャが立ち、その前方にはアルヴァ。範囲攻撃からも絶対に守りきる姿勢を見せた。
イレギュラーズたちは影の天使を避け、一体一体が強化されているため主に一体で居る場合のみ戦闘し、神殿――らしき建物を目指した。
たどり着く頃には、それなりに疲労が蓄積されている。
それでも弱音を吐いている暇はなく――ここからが本番だ。
「ようこそ、異端者たちよ。歓迎します」
驚くこともなく、数段の階段の上――祭壇で翼を生やしている男が微笑んだ。
「お主が先生とやらでござるな」
「ああ。以前も俺の信者たちに会われたのですね? そうです、そう呼ばれております」
「ハァイ、初めまして。よければ名前を教えて頂戴な」
アタシはジルーシャよとジルーシャが名乗れば、穏やかにキトンブルーの瞳が細められる。
「俺は氷聖(ひさと)と申します。神の御前では人は等しく矮小な身。覚えて頂かなくとも結構です」
いいえ覚えておくわとジルーシャ。
「あなたがここを作ったのですか?」
「そうですよ」
「どうして……」
ニルはどうしてと声を震わせる。此処を選んだ理由も、何故神の国を作るのか、ニルには何も解らなかった。
「どうして……かなしいことをするのですか?」
定着してしまえば『上書き』されてしまう。それはニルにとって悲しいことだ。
けれども。
「君は優しいですね。けれど、悲しいことではありませんよ。『正史』に戻るだけです」
「……正史とは、何だ」
「君たちが壊してしまった『本来在るべき正しい姿』のことです」
男爵家の在るべき場所に、それがない。
つまり、イレギュラーズたちが大召喚で現れなければこの男爵領は――男爵家は潰えている。それが正史だ。
(嫌な予感が……)
――模しているんじゃなくて本当の住人が書き換わった姿なんじゃないか?
杞憂であって欲しいと願ったアルヴァの悪い予感は、遠からずと言ったところだろうか。
正しくは『正史では死んでいる者』は影の天使の姿となっており、定着した場合、今生きている本人はこの世から消えるのだ。
「つまるところ、天使の姿をしている御仁は『死すべき宿命』にあった、と」
「理解が早くて助かります」
ミヅハとともに奇襲を警戒して油断なく辺りへと視線を向けていた支佐手が口を挟めば、満点の評価を出す教師のように氷聖が笑みを向けた。
「……くそ、弾かれたか」
予めリーディングを試みる事は仲間たちへと通達済みだ。その言葉のみで仲間たちには通じただろう。
「覗き見ようだなんて、恥ずかしいことをされる人ですね。……まあ俺の思考なんて『真実』しかありませんけれど」
「そうです、先生はいつも正しいことを仰っしゃられます」
困ったような笑みを浮かべて笑う男に、直ぐ様信者が彼をたてる。彼が黒と言えば黒で、彼が白と言えば白。世界はそのように出来ていると信じ切っているかのようだ。
「成る程。であれば、速やかにこの空間を止めて頂く」
「……ここの核、どこ」
咲耶が静かに言い放ち、怒りで眼の前が赤くなりそうな思いで祝音がぎゅうと杖を握った。
「核はどこにある? それにハルベルト殿とヴィルヘルミーネ殿も見当たらなかった。二人をどうしたんだ? それに答えたらさっさとここから出て行ってくれるかな」
一刻も早く氷聖の姿を視界から追いやりたいのだろう。矢継ぎ早にヴェルグリーズは問い、その姿を氷聖は告解でも聞くかのように穏やかに見つめている。
「核は天使に埋めてありますよ」
此処まで来る間に見たでしょう?
微笑んでから、周囲の信者たちから先生と呼ばれる男――氷聖は小首を傾げる。
「君たちが探している方のことは知りませんが――ああ、男爵家の方ですか?」
傍らの信者が何事か囁くのに耳を傾けてから得心したような顔をする氷聖へ、ヴェルグリーズはそうだと低い声で応じた。
「核を持った天使を自分で探しますか? それとも俺が呼びましょうか? ……ああでも、答え終えたらすぐ俺には早く出て行ってほしいのでしたね。ならばこれにて」
質問には応じましたのでと、氷聖が微笑む。
「待て。呼んでからにしろ」
「……君は困った子ですね」
まるで不出来な生徒を見守るように微笑んで、氷聖は影の天使たちを喚んだ。
「この中に必ず居ますので、どうぞ自由に探して下さい」
よもや、滅ぼしに来た身で、どの個体がとまで教えを乞うような厚顔な方々ではないでしょう?
「っと、矢張り大勢でのお出ましで」
「覚悟はしとりましたが、えらい数ですの……」
素早く咲耶と支佐手の視線が交錯する。此度もお任せをと、支佐手が顎を引いた。
祭壇の階下、イレギュラーズたちの居る扉口近くまで、溢れそうなほどに黒が蠢いている。影の天使たちはどれもが黒く、何体いるのか数えるのは厄介だが、倒していけば良い――倒すしか無い、だろう。
「くっ」
「ヴェルグリーズ様……」
見知った影に眉を寄せるヴェルグリーズをニルが案じた。悲しい気持ちが胸に満ち、やっぱりこれはいけないことなのだと強く思う。
(『先生』はやさしそうで……でもかなしいことをしています)
きれいなお花は好き。けれどそこが誰かのだいすきを奪っていてはいけない。
火明の剣を振るって蛇神を喚んだ支佐手の天変地災が鎮まると、そこへ駆けていく咲耶を助くるようにニルも泥の魔術を展開する。
「なあアンタ、遂行者ってやつか?」
番えた矢を影の天使へと放ち、誰も問わなかったことをミヅハは問うた。
「ええ、そうですよ」
「だと思った」
この胡散臭さは間違いなく遂行者に違いない。
「彼等も、我が同志です」
信者たちもまたそうなのだと穏やかに告げる氷聖へ、信者たちは感極まったような表情をしている。信じている存在に認められたようで、彼等は嬉しいのだろう。
「っ……!?」
傷を負いながらも果敢に攻撃に応じるイレギュラーズたち。影の天使の数を少し減らすことが叶ったその時――ヴェルグリーズが息を飲んだ。透視で何かが埋まってそうな天使の元へと向かうべく剣を振るっていた、その矢先だった。
「影の……二人!? どういうことだ?」
「先刻説明したとおりですが?」
幻想にサーカスがやってきた時にイレギュラーズたちが大量召喚されなかったら――幻想は滅び、男爵家も滅んでいた。察せなかったのかと――もしくは察したくなかったのかと、氷聖は今度はしっかりと言葉にしてヴェルグリーズへと告げた。
「運良く生き延びた者もおりましょう。……君たちは此処で、『小さな子供』を見ましたか?」
小さな天使も住人も、居なかったはずだ。滅んでいては生まれてくることもない。
「ッ、ばか、な。そんな、そんな事が……!」
ぎり。激しい怒りが湧いて、ヴェルグリーズは拳を握りしめ唇を噛みしめる。この領地はヴェルグリーズにとっては大事な家のひとつで、ふたりとも大切な人なのだ。そんなこと、許されて良い訳がない。
「定着なんて……上書きなんてさせない! 絶対に倒すから……!」
祝音は回復に専念する外ない状況となっている。それでも手が足りず、ニルもサポートに回っている。けれども皆を支え続ければ、仲間たちが必ず悲劇を止めてくれる!
「あれが核……? ふたり、います」
ヴェルグリーズ同様、透視で核を探っていたニルが眉を寄せた。
「……底意地の悪いお方なようで」
支佐手が目をすがめた。イレギュラーズたちが透視を用いるだろうことも読んでの、フェイクを入れてあるのだ。
どちらかが本物で、どちらかが偽物だ。どちらが本物かと問うイレギュラーズたちに、氷聖は「そこまで甘えるのですか?」と咲った。
鑑定眼を用いたところでその核を正しく知らないため、価値など分かりようもない。ただの石を核に仕立てることも出来るのだから。
――どちらも、倒すしか無い。
ヴェルグリーズは大切な人の姿を模した天使を殺す決意を持って、剣の柄を握りしめた。
「……まあそんな上手くはいかないか」
ミヅハの矢は影に飲み込まれた先から溶解され、核までは到達しない。
「先生、そろそろお時間が」
「そうですね。だいぶ時間も経ってしまいましたし、俺はこの辺で失礼しますね」
本当は核が破壊されるまで見守ろうと思っていたようだが、時間がかなり経過している。見ているのも飽きてきた頃ですしと、柔和な笑みとともに本人にとっては悪気のない感想を置いた氷聖の姿を、影の天使たちが守るように隠していく。
「それでは『冒涜者たち』、またお会いしましょう。……天国への扉は万人に開かれているものですからね」
「っ、待て!」
影の天使の攻撃を受け止めながらもヴェルグリーズが叫ぶも、影の天使たちの隙間からまるで幼子を見守るような柔和な笑みだけを残し、氷聖は信者たちを引き連れてその場から姿を消したのだった。
イレギュラーズたちが核を破壊し、影の天使たちも討伐し終える頃。
誰もが疲弊し床へと膝をついていた。
けれども死者は出ていない。
強化された大量の天使たち、そして更に強化されている影カノッサと影ヴィルヘルミーネを相手にイレギュラーズたちを互いに欠けている点をフォローしあい、よく戦った。
(良かった……皆で帰れる、よ)
疲弊しきった身体で祝音は最後の力を振り絞り、聖体頌歌を口遊む。
それは白き神殿に相応しい、清らかな旋律となりて仲間たちの傷を癒やすのであった。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
あとがき
幾度か存在だけ出ている『先生』との遭遇回でした。
お疲れ様でした、イレギュラーズ。
GMコメント
ごきげんよう、壱花です。
そうだ、ヴェルグリーズさんの領地に神殿を建てよう!
という事で先生が建てました。一級建築士の先生かもしれませんね。
●成功条件
神の国にある核の破壊
遂行者を撤退させる
●シナリオについて
テセラ・ニバスの帳(異言都市(リンバス・シティ))の内部に存在していた『アリスティーデ大聖堂』より『神の国』の各地へと移動できます。
神の国の調査をし、触媒を見つけ出して破壊することが目的となります。が、此度は遂行者がいるため、遂行者も退けねばなりません。
神の国では普通に暮らしている感じの人間に遭遇しますが、彼等の生死は問いません。放っておいても回収されない限り(神の国の核を破壊されれば)神の国とともにその内消滅することでしょう。
『先生』は核が破壊されると撤退します。
●フィールド『神の国内・幻想王国』カノッサ男爵領・エルドリード
メフ・メフィートの北に位置するカノッサ男爵家が擁する領地であり、領主代行としてヴェルグリーズさんが領地の一部を管理している土地です。顕現された神の国はカノッサ男爵家が居を構える街「エルドリード」です。
コピー住民や巻き込まれた一般人たちの中に『カノッサ・ハルベルト』『ヴィルヘルミーネ・カノッサ』の姿は無いようです――が。
ヴェルグリーズさんが参加していた場合、探索すればすぐに異変に気がつくことでしょう。カノッサ男爵家がある場所に白い西洋風の神殿が出来ています。また、今なお春の花が咲いており美しいですが、領域内には虫や小動物が居ません。
この地の『核』となるのは『聖遺物』『其れに準ずるもの』『遂行者の聖痕が刻まれた品物や生物』です。
この地は正に遂行者達の為の場所ですので、『エネミー』が強化されます。
核が破壊されればその領域の上書きがリセットされ、迷い混んだ人は普通に帰れます。……生きてさえいれば。
●エネミー
・『影の天使』 30体
神の国内をウロウロしています。全て、『カノッサ男爵領の住民』の姿を模しています。しかし姿は影の如く塗り潰されたように黒く、その背には天使の翼が生え、基本的には祈るように手を組んでいます。しかし住民の姿を模しているからか、空は飛んでいないようです。
先生が「しっかり守ろうね」と命令したので、『桜雲』時よりしっかりと敵の排除を行います。此度は住民と話していても、住民ごと攻撃してきます。
『カノッサ・ハルベルト』『ヴィルヘルミーネ・カノッサ』の姿を模した影の天使も居ます。影カノッサは斧を、影ヴィルヘルミーネは剣を所持しています。この2体は更に強化されています。
・『先生』
先生と呼ばれる一度も姿を見せていない謎の人物。
これまでの話から察するに、遂行者であり神の使徒のようです。
多くの場合、信者に囲まれ、大変親しまれています。
戦闘能力、言動、ともに不明。信者たち曰く、大変優しい人だとか――。
此度はイレギュラーズたちを観察するような素振りを見せます。
関連シナリオ:『白は灰に、灰は黒に』『神の国は桜雲にあり』
●核
先生と対話をすると判明します。此度は遂行者の聖痕が刻まれた品物です。
影カノッサ、影ヴィルヘルミーネ、そのどちらかの身体のどこかに埋め込まれた核となります。
「自分で探しますか? それとも俺が呼びましょうか?」と先生は聞いてくれます。優しいので。
●一般人 複数名
神の国にはコピー住民の他に、巻き込まれてしまった現実のカノッサ男爵領の住民が居ます。彼等の顔はしっかりと視認できます。知人や領主が突然影のようになったと困惑しており、状況を理解しておりません。命ある存在です。
●コピー住民
カノッサ男爵領の住民をコピーした存在です。
話しかけても挨拶くらいしかまだ出来ません。日常生活を送っています。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
●EXプレイング
開放してあります。文字数が欲しい時に活用ください。
(今回、関係者さんの同行を希望されても描写されません)
それでは、イレギュラーズの皆様、宜しくお願い致します。
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