シナリオ詳細
<黄昏の園>ムラデンの人類観察記
オープニング
●ムラデンは試したい
「というわけで、どうしようかなぁ」
と、ヘスペリデスの『自室』でそういうのは、レグルスたる竜の少年、ムラデンである。
少年は、ザビーネ=ザビアボロスに仕える竜である。主が人間に『何らかの興味を抱いている』ことを察知し、自分もまた『ヒトに興味を抱いた』。これを厳密に言えば、『変な動物がいるので観察したい』という欲求であり、例えば対等の立場としてみているわけではないことを強調しておく。竜の価値観は傲慢であり超常である。たやすく、人が対等の存在だと思われたと考えるのは早計だ。
とはいえムラデンにしてみれば、ザビーネの役に立つならば、人間であろうとも利用すべきだと考えていた。これは人間が役に立つかがそもそも疑わしいという妹(ストイシャ)の意見とは異なるものであり、ムラデンの方がいくばくか『前向き』であるともいえる。
「ま、だめで元々。役に立ったなら囮くらいにはなるかもだし」
……見ての通り、人間に好意的というわけではないことは、何重にも警戒しておく。
「でも、うーん、役に立つか、見極める、だよね。この間はストイシャと一緒に行ったし、それ以外にもストイシャがなんかアプローチしてたな。真似してみるか」
そういうと、ムラデンはんー、と口元の似人差し指を当てて、何事かを考え始めた。例えば、何らかの厄介ごととか、そういうのが発生していないかを、思い出したのだ。
「ああ、そういえば。この間生まれたアリオスの子竜が、鱗が乾燥している、とか言ってたな」
ふむふむ、とムラデンはつぶやいて、ぽん、と手を叩いた。
「解決を押し付けてみよう――さて、どう出るかな?」
にやにやと楽し気に、笑いながら。
●ラディラズのだ液
「やぁやぁ、人間諸君、元気かい?」
そう、ヘスペリデスで調査を続けるあなた達ローレット・イレギュラーズ達の前に、やはり依然と同様、突然姿をあわらしたのは、赤毛の少年、レグルスのムラデンだ。
「相変わらず、ヘスペリデスで好き放題やってくれてるようで何より。非常に鬱陶しいけど、まぁ、ここまで来たのは実力なのかもね。
あ、別にほめてるわけじゃないぜ。めんどくさいなぁ、と思ってるだけ」
ケタケタと笑う少年に、わずかにむっとしたものもいるかもしれない。だが、彼はレグルス、偉大なる竜だ。その気になれば、貴方たちをまとめて大けがをさせるくらいなら朝飯前だろう。
「さて、そんな君たちに朗報だ。お仕事、というか、情報を一つ上げよう」
そう言うムラデンに、あなたは小首をかしげた。
「何の情報だ?」
仲間の一人が尋ねるのへ、ムラデンはうなづいた。
「『女神の欠片』を探してるんだろう? 僕が知ってる、ラディラズって亜竜の巣で、それを見つけたんだ。教えてやってもいい」
女神の欠片とは、『花護竜』テロニュクスと『魔種・白堊』によってイレギュラーズに収集が要請されているアイテムだ。どうも、ベルゼーに関与するものらしく、現在は収集が必須と考えられている。
「でも、ただでは教えてあげない。君たちには、こう、約束――してほしい。約束って変だな。あ、竜と契約したからって変な気を起こさないでよ。うぬぼれないで。
とにかく、僕の知り合いのアリオスが子供を産んだんだけど、そいつがひどい乾燥肌でね。保湿のために、ラディラズのだ液がこう、このツボ」
大きく抱えて、ムラデンは不格好なツボを取り出した。
「これに一杯くらいほしい。そうすれば、今シーズンくらいは、お肌も潤うだろうからね。
というわけで、これはキミたちにとっては、正式なおしごと、ってわけ。
どう? やる?」
そう尋ねるムラデンは、既にこちらを値踏みにかかっているような視線を送っていた。もとより、こちらの強さや動きを図っているようなのが、ムラデンという少年竜だ。これも気まぐれというより、そういった『試験』なのだと思った方がいいだろう。
「そうですね。結局、女神の欠片は集めなければなりません。やりましょう」
仲間がそういうのへ、あなたもうなづいた。
「きまった! じゃあ、さっそく、情報を授けよう~」
そういって、ムラデンはラディラズの巣の情報を、あなたたちに伝えたのである――。
- <黄昏の園>ムラデンの人類観察記完了
- GM名洗井落雲
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年05月30日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●少年竜の思惑
「うーん、こうやって君たちと移動するのは二度目になるわけだね」
楽しげに笑いながらそう言うのは、レグルス・ムラデンである。今回は、彼からの二度目の情報提供ということになる。
「今回もしっかり頼むよ、うんうん」
「少しは見極められたか」
『黒鎖の傭兵』マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)がそういってみせるのへ、ムラデンは肩をすくめた。
「何のことやら。僕はほら、面倒な仕事を君たちに押し付けているだけだよ」
「……」
『愛し人が為』水天宮 妙見子(p3p010644)が、わずかに複雑気な視線を向けたのへ、ムラデンは意地わるげな視線を向けた。
「ええと、君は初めましてだっけかな。違ってたらごめんね。僕はほら、竜以外の生き物の顔を見分けるのが苦手なんだ」
挑発……というか、からかわれている、のだと理解している。妙見子はしかし、ムラデンの実力のほどを十分理解していた。見た目の年齢差は大人と子供だが、その実力差は、そっくりそのまま反転して適用できる。こちらが子供なのだ。
「……ええ、ええ、初めましてですとも。私は水天宮 妙見子。『しがない人間』でございまして」
気に留めるものか、という様子で一礼して見せるのへ、ムラデンは笑った。
「そうだったね。元の世界だと神様だった……ような気がしたけど、それは別の人だったかな」
「このクソガキ」
にこりと笑いながら思わず口をついて出る。ムラデンはケタケタと笑った。
「まぁ許してあげよう。さて、今回のお仕事、覚えてる?」
「このツボ一杯の」
と、『殿』一条 夢心地(p3p008344)が抱きかかえていたツボに視線を落とした。殿が抱えるほどに大きなツボは、今は当然ながら空っぽだ。
「亜竜のだ液を集めるわけじゃな。
え、ばっちくないかの?」
夢心地はそういうと、割れないようにツボを地面に置いた。そして、懐から小瓶を取り出すと、
「お殿様印のかぶれにくいユーカリ油使用の軟膏(第2類医薬品)の方が効くと思うのじゃ。
こんなこともあろうかと! 持ち歩いておる夢心地七つ道具のひとつになる。
どうじゃ? どうじゃ? こっちにせぬか? ん? ん?」
と、差し出して見せたのへ、ムラデンが不思議気に顔を見せた。
「へぇ、人間の薬って奴?」
「うむ。乾燥肌によぅくきくぞ? つけてみるかの?」
「んー、とりあえず僕はいいや。でも、くれるっていうなら貰っておく。妹(ストイシャ)は家事とか趣味だから、手が荒れるかもだから。
ま、それはありがたいんだけど、このツボ一杯を今用意はできないだろ?」
「それはまぁ、そうじゃなぁ」
夢心地が、かっかかとわらう。
「……だめ?」
「だめ。このツボ一杯。これがお仕事」
「そんなぁ……」
しょぼん、と殿がしょぼくれた。
「……やっぱり、本当はこっちの戦い方を見たいんだろうね……」
『正義の味方』ルビー・アールオース(p3p009378)がつぶやく。ルビーもまた、以前ムラデンと対峙した一人だ。その時は、彼の圧倒的ともいえる、竜種の力に撤退を余儀なくされた。あの力を見れば、今随分と『気安く』接されているという気持ちがある。だが、ルビーは当然、緊張を解かない。ここはヘスペリデス。竜の園。彼らが本気でこちらに敵対するのならば、イレギュラーズたちを全滅させることはたやすいだろう。
「おそらくは、な。脅威と感じているのか、あるいは有用性を図っているのかは、なんともだが」
『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)が言う。『脅威と感じているのか』と言ったのは、ささやかなプライドかもしれない。竜が、人間を脅威に感じることはないだろうが、それでも、一矢報いたいという気持ちは、当然ながら皆の心の中にある。
「……私が相対したのはストイシャの方だったが、それでもわかる。あのムラデンというのは底が知れん」
汰磨羈の言葉に、ルビーはうなづく。やはり、相手は竜なのだ……そこは忘れてはいけない。
「ああ、たぬきだ! 前回ぶりかな?」
「汰磨羈だよ! 泣くぞ!?」
……やはり、おちょくられてるような感じはする。ルビーはこちらをにやにやと見つめてくる少年に、わずかに微笑で返した。
「ま、とにかくお仕事なのは変わらないからね!」
『瑠璃の刃』ヒィロ=エヒト(p3p002503)が、んー、と伸びをしながら言った。
「女神の欠片を集めるのは今のボク達のお仕事の一つだし、唾液を回収するっていう汚れ仕事も、底辺(スラム)で生きてたボクにはまぁお似合いのお仕事だろうし?
そっちの竜さんにはしっかり査定してもらお!」
屈託なくそう言うのへ、『玻璃の瞳』美咲・マクスウェル(p3p005192)は苦笑して見せる。
「あんまり自分を卑下しないで、ヒィロ。これも立派なお仕事よ」
それから、ふむ、とうなってから、
「情報によると、亜竜ラディラズ。大地亜竜ね。
フリアノンとかの方では、目撃されたことはないの?」
と、『劉の書架守』劉・紫琳(p3p010462)に尋ねるのへ、紫琳は頷いた。
「そうですね……大地亜竜の類はいますが、ラディラズという種類は、おそらく人里周辺には損座しないと思います」
「ヘスペリデス付近に住む亜竜だ」
ムラデンが口をはさんだ。
「あんなのが人里にいたら、君たちは住む場所を変えなきゃいけない……とは言わないけど。
もうちょっとびくびくして生きることになったんじゃない?」
「確かに、この辺りの亜竜、特にピュニシオンの森からの亜竜は、人里付近の亜竜とは狂暴性も攻撃性も違います」
ふむ、と紫琳が頷いた。
「もともと、あの森が不帰の森というほどに、危険地帯だったのです。ここからは、亜竜種の私たちでも、まったくの未知の地ですから。
本当に、気を付けませんと」
「そうだね。でも、今回はやっつけてほしいんだよね~」
できる? と言いたげに、ムラデンが言う。マカライトがうなづいた。
「もちろんだ。この手の荒事は慣れている」
「言ったでしょ? お似合いの仕事、って」
ヒィロが笑った。
「ま、見せてあげるわ。私たちの力をね」
美咲がほほ笑んで見せる。ムラデンが楽しそうに笑ってみせた。
「で、大地亜竜、ってことは、地面を走り回っているのよね?
木々なんて障害になるし生態に噛み合わないような?」
そう小首をかしげる美咲に、ムラデンは「いい着眼点だ」と、そういってから、
「答えは簡単。障害にならないから」
と、あたりを指さした。そこには、まるで何かが突撃してへし折れたような木々が転がっていた。
●だ液採取作戦
だずん! だずん! と大きな音が響く。それは、ラディラズが地面を踏みしめる音だ。見た目は、まさに巨大な二足歩行の蜥蜴といったところか。足はとんでもなく太く、なるほど、これで邪魔な木々を蹴り飛ばしているのだろう。あるいは、へし折った木は巣にも使うのかもしれない。いずれにしても、彼らにとって木々などは障害にならないわけだ。
「ふぅむ、やはり集団で行動。巣の付近に集まっておったのは僥倖じゃな!」
夢心地が木々を透視しつつそういう。巣の付近には八匹のラディラズがいる。
「あの足にやられたら厄介そうね」
美咲が言う。
「ただ、ああいうタイプはすぐ息切れするわ。情報通りなら」
「僕は嘘はつかないよ。ついても意味がないからね」
美咲が視線を向けるのへ、ムラデンは肩をすくめた。
「疑ってるわけじゃないわよ。ただ、全部を正直に教えてくれてるとも思ってないだけ」
「正解~」
ムラデンが笑うのへ、美咲も笑ってみせた。どちらも食えない人物である。
「とにかく、どうしようか?」
ヒィロがそういうのへ、マカライトがうなづく。
「方針としては、盾役でまとめて、一気に体力を減らす感じだな」
ルビーが続けた。
「そうだね。もちろん、相手も体力を回復する手段を持ってると思うけど、それでも一気にダメージを与えた方が効率がいいよ」
「一体一体を相手ではじり貧になるからな。息切れをするとは言え、生命力が低いとも限らんから、一体一体に時間かけることになる可能性もある」
汰磨羈がそういうのへ、妙見子が頷く。
「では、僭越ながら私が盾役を。あとは、ヒィロ様もお手伝いいただけると助かります」
「そうだね。ボクらでしっかり押さえて、あとは皆にお任せする感じ!」
にっこりとヒィロが笑う。盾役が二人いれば、充分だろう。
「念のため、周囲の警戒と、敵の動きはファミリア―で厳に行います」
紫琳が言うのへ、夢心地がうなづく。
「うむうむ。森に逃げられては厄介じゃからな! というわけで、さっそく参ろうぞ!」
夢心地が刀、長介を抜き放つ。仲間たちもそれに合わせ、武器を構えた――突撃! 不意を突く形での、戦闘開始だ!
「さぁて、お仕事開始! 妙見子さん、行くよ!」
「ええ、ええ!」
妙見子が鉄扇を構える。ばぁ、と開くや、二人で一気に敵陣へと突っ込む!
「今日のダンサーは二人だよ!」
「おさわりは禁止です!」
とはいえ、二人の盾は対照的ともいえる。ヒィロはまさに、ダンサーのごとく回避を主体とした柔の盾、妙見子はその鉄扇で敵の攻撃を受け止める、重の盾だ。
「重い女じゃん」
ムラデンが笑う。
「重い女って言われた気がする!」
妙見子がぎゃー、と吠えた。とはいえ、ドラゴンの挑発にかかわっている暇はない。強烈なラディラズのけりの一撃は、確かに妙見子に強烈な衝撃となって体力を徐々に奪っているのだ。
もちろん、ヒィロも完全回避を続けられるわけではあるまい。時に狡猾に放たれる必中の一撃は、ヒィロに着実にダメージを与えている。
「となると、やはり速攻で行くか!」
マカライトが叫んだ。ティンダロスに騎乗したマカライトは、まさに人馬一体、いや人狼一体か。なんにしても、ティンダロスの背からその刃を振るえば、発生した魔力弾幕が、雪崩のごとく降り注ぐ。究極の面制圧射撃。魔力弾が降り注ぐ中、ぎゅあおう、とお他k米をあげつつ、ラディラズが疾走する。そのまま、強烈な跳び蹴り! マカライトが口笛を吹くと、ティンダロスがそれを察して急速方向転換。ラディラズが眼前で突っ込んでいく。
「随分と動き回る!」
「まかせて、機動力を殺す!」
美咲が叫んだ。手にしたのは包丁。輝くは魔眼。その包丁が空間を裂くや、それは理外の領域を以って、ラディラズへと斬撃を届かせる。斬。その太い脚に、鋭い傷が走った! ぎゃあ、とラディラズたちが悲鳴を上げる!
「ナイスじゃ!」
夢心地が、びっ、と親指を立てる。
「さぁて獣ども、また来週! 歯ぁ磨けよ!」
円月を描くがごとく、長介をゆっくりとふるう――途端、ほとばしる夢心地の熱い思いが、その円月の軌跡より、強力なビームとなって放たれる! 原理は不明だが、とにかく放たれた! ぎ、ぃ、と巻き込まれたラディラズが悲鳴を上げた。苛烈な夢心地ビームに体を焼かれたラディラズが、地面に横たわる。どろ、と粘性の液体を吐き出した。
「きったな! あ、いや、これが目的ものであるか!」
夢心地が嫌そうに長介でだ液をつんつんした。
「汚すなよ? 一応、それが目的の物だからな!」
汰磨羈がそういいながら、跳躍する。間髪入れず、ラディラズが強烈な踏みつけ攻撃を行ってきた。けりほどではないが、しかし大木のような筋肉の足から放たれるそれは、一撃を受ければ相当のダメージになるだろう。実際のところ、早期にダメージを与えて疲弊させるイレギュラーズたちの戦術は的確であったが、それでもまだ食らいついてくるのが、ヘスペリデス付近に住む亜竜の恐ろしいところといえる。
「ま、楽な戦いなどは、これまでもなかったよ!」
衝撃からの痛みを堪えつつ、汰磨羈は笑ってみせた。ラディラズたちがぎゅあぎゅあと鳴き始めると、今度は上空を制圧するかの如く、その脚力で跳躍を始める。
「全員頭上注意! あの重量が落ちてくるだけで大概よ!」
いち早く察した美咲が叫ぶ。イレギュラーズたちが飛びずさると、間髪入れずラディラズたちが落下してくる。大地が揺れた。
「めちゃくちゃですね……!」
紫琳が目を丸くした。
「やはり、ピュニシオンより先、常識などは通用しないのでしょう……生態は気になります、が! 今は依頼優先です!」
紫琳が対物ライフルを構えた。再び跳躍しようとしたラディラズの足を、ライフルの強烈な弾丸が狙う! ぼん、と音を立てて、ラディラズの足に食い込んだ弾丸が、ラディラズを絶命させる。べろり、と舌を出したラディラズの口元にだ液がたまる。ちらり、と視線を送り、
「確かに、随分と粘性が高いですが……ハーブのような匂いもしますね。もしかして、この辺りに生えている草木と関係が?」
「さぁて、どうだろ? それより、まだ敵はいるんだから頑張ってね~?」
これだけの戦闘だ、付近にいるだけでも巻き込まれようものだが、しかしムラデンは涼しい顔で立っている。巻き込まれていない、というより、巻き込まれても気にならない、というのだろう。
「言われなくても!」
ルビーが声を上げて、『深紅の月』を構えた。今回は両手剣の形態。相手の筋肉は分厚い。ならば、威力で断ち切る!
「直接的なリベンジじゃなくても! 今度こそ、見せてやるんだから! 私たちの可能性を!」
ラディラズの一体を、ルビーがとらえた。跳躍――その首を狙って、刃を振り下ろす! 斬撃! 一撃が、まさに三日月を描くように弧を描いた。ずん、とラディラズの首と胴体が泣き別れになって、そのまま同じタイミングで地面に倒れ伏す。
「残りは!?」
ルビーが叫ぶのへ、ヒィロが答えた。
「二体! でも、もうどっちもヘロヘロだよ!」
「私も結構ヘロヘロなのですけれどね! というわけで、引き続き速攻でお願いします!」
軽口をたたきつつ、妙見子が笑ってみせる。汰磨羈が頷いた。
「美咲! 御主はヒィロの方に向かって、敵の足を止めてくれ!
私は妙見子の方に向かう!」
「了解!」
美咲が頷き、駆けだす。手にした包丁。裂くは空間。同時、残るラディラズの一体の足が切り裂かれる!
「お待たせ、ヒィロ!」
「ううん、ジャストタイミング!」
美咲がヒィロの手を取って、ともに跳躍する。間髪入れずに、マカライトの鎖が、巨大な剣のようにラディラズへと振り下ろされた! 断! ラディラズの体が真っ二つに切り裂かれる!
「残りはそっちだ!」
「任せろ! 足を止める! ルビー、ぶった切れ!」
汰磨羈がその手を掲げた。同時、生まれる太極のうちより生まれる、無極のエネルギー。強烈な光が、さながら光の槍のように解き放たれ、ラディラズの足を貫く! ぎゃあ、と悲鳴を上げて倒れるラディラズへ、ルビーの深紅の月が月閃を描く――!
「おしまいっ!」
言葉とともに、刃がラディラズの生命を絶った。ずん、と斃れた最後のラディラズのその音を最後に、戦場には静寂が訪れたのだった――。
●目的達成
「これ、人にも使えるかと思ったが――」
汰磨羈がそういいながら、ツボの中身を見やる。粘性のそれは、ハーブとだ液の入り混じったような奇妙な臭いをしていた。
「……うん! 無理そうだな!」
にかっと笑う。無理。
「まぁ、そうだろうね。僕も竜の姿でもなければつけたくないよ」
ムラデンがツボを受け取って、しっかりとふたをした。
「お疲れ様。で、君たちの目的の女神の欠片は、その辺に咲いてるよ。すぐに見つかるだろうから、休憩がてら探してみたら?」
と、そういう。美咲が肩をすくめつつ、
「で、お眼鏡にはかなった?」
「仕事はしっかりしてくれたんじゃない?」
ムラデンは笑う。割と好感触のようである。
「お仕事完了ー。
またのご利用をお待ちしております!」
アハッ、とヒィロが笑うのへ、美咲が苦笑した。
「……盾役だったからとはいえ、それでもだ液だらけね。こっちいらっしゃい、吹いてあげるから」
そういう美咲へ、ヒィロがにこにことうなづいた。
「女神の欠片は……あ、これだね」
ルビーがそういう先には、小さな白い花の群生地がある。だが、その中でひときわ白く輝く花があって、それは見ただけで、超常のものであることを理解させるものだ。
「ぬっ、こっちにも咲いておる! だめーそれは麿が見つけたんだから麿が持っていくの!」
夢心地がバタバタするのへ、紫琳が肩を落とした。
「まぁ、御好きにどうぞ……しかし、見たことのない花ですね。やはり、この辺り独特のものなのでしょうか?」
小首をかしげる。確かに、フリアノンの辺りには咲いていないような花だ。
「こういった花を食べたりして、奴のだ液にも保湿効果が表れたのだろうかな」
マカライトが言うのへ、妙見子が苦笑する。
「まぁ、でもだ液……だ液……スケールを感じますねぇ」
「お、元上位存在。気になる? つけてあげようか?」
ムラデンがそういってかからかうのへ、妙見子は舌を出した。
「結構! それより、リベンジマッチを覚悟しておいてくださいよ!」
そういうのへ、ムラデンは小ばかにしたように肩をすくめた。
「はいはい、気が向いたらね~」
ぐぬぬ、と妙見子が呻いた。
仲良くなった……というわけではないが、ムラデンがイレギュラーズたちの働きに好感触を抱いたのは間違いないだろう。
今はひとまず、それでいいはずだ。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
ご参加ありがとうございました。
女神の欠片も確保し、だ液も確保し。ムラデンは満足そうです。
GMコメント
お世話になっております。洗井落雲です。
ラディラズの巣へと向かい、女神の欠片と、だ液を回収しましょう!
●成功条件
ラディラズの巣にて、ラディラズのだ液の採取・および女神の欠片の回収
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
●状況
ヘスペリデスを調査していた皆さんの前に、レグルスの少年竜、ムラデンが現れます。
なんでも、彼は女神の欠片が存在する場所を教える代わりに、ついでにラディラズのだ液を採取してきてほしい、と取引を持ち掛けます。
もちろん、偉大なる竜が親切心やら困ったから、等といって取引や仕事を持ちかけるわけがありません。これはどうも、こちらの強さや、動きを見定めているようなのです。
ムラデンの思惑はさておき、今のところ攻撃の意思はなく、さらに言えば、女神の欠片の回収もこちらには必須。となれば、この依頼、いけない理由はありません。
皆さんはムラデンより情報を聞き出し、亜竜ラディラズの巣へと向かうのでした。
作戦決行タイミングは昼。
周囲は森のようになっており、高い木々が視界をふさいでいます。
●エネミーデータ
亜竜ラディラズ × 8
黄土色の鱗を持つ、大地の属性を持つ亜竜。空を飛ばず、地面を走り回るタイプの亜竜です。
強靭な足から放たれるキックは非常に強力であり、こちらを吹っ『飛』ばしてくるでしょう。
また、その一撃は『渾身』を持つため、放っておくと高威力の攻撃を連発してくる可能性があります。できるだけ素早く体力を減らして、疲弊させてしまった方がいいでしょう。
ラディラズのだ液の採取方法ですが、シンプルに『戦闘不能になるときに』吐き出します。八体もいるわけですから、全部戦闘不能にすれば十分な量が確保できるでしょう。
また、女神の欠片は、巣の辺りに咲く小さな白い花の姿をしています。これは見ればすぐわかるものとします。
●同行者
レグルス・ムラデン
レグルスの少年竜です。皆さんに同行しますが、当然味方というわけではありません。
皆さんを観察したいだけなので、手を貸してくれませんし、手を貸してくれ、等といえば、興味を失って去ってしまうでしょう。
皆さんへの好感度は、今のところあんまり高くないです。
以上となります。
それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。
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