PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<黄昏の園>ストイシャのスイートポテト消滅事件

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●きょうだいの疑念
「……お姉さまのために、とはいうものの」
 と、ストイシャはヘスペリデスの『家』でそういう。
 ヘスペリデスには、竜が人の文化を模して作り上げた集落のようなもの、がある。もちろん、人の技術を用いたわけでもないそれは、子供の作った積み木のお城の様に不格好でめちゃくちゃだ。少しの衝撃で壊れて落ちそうな趣もあるそれだったが、竜たちはおおむね満足げに利用している……者もいるのだろう。
 ストイシャがいる『家』は、比較的、綺麗である。むろん、職人のそれを想像すれば不意を打たれるが、まぁ、少女のような人間形態のストイシャが短時間逗留するには、まぁ問題のない作りであるといえた
 ストイシャの家には、どこからか流れてきたのか、人間の本とか、『竜が人間のそれをまねて作った本』とかがおいてあって、ついでに『かまどのようなもの』まであった。ここで火を起こして、『料理を作れる』のだ。ストイシャにとって、それは『趣味』といってもよかった。読書と、お菓子作りである。今一つ弱気(陰キャ)で、他の竜と交流をすることも少ないストイシャにとって、それは憩いの時間であった。
 さておき、話をもどすと、ストイシャにとっては、ムラデンの提案――ザビーネ=ザビアボロスの力となるための行動を起こす――に賛同するところではあったが、同時に『それに人間が使えるか考える』ということに関しては、いまいち乗り気ではなかった。
 何せ人間である。例えばこれは、人間で例えれば『猫の手を借りよう』と真顔で提案されたものに等しい。猫など役に立つものか。とはいえ、お姉さま……ザビーネが人間に何か興味を抱いていることは事実であったし(例えば、彼女はいまだに、右目のやけど後を治さないのだ! すぐに治せるはずなのに、意図的に放置している)、となれば……お姉さまの意をくむ意味でも、人に、何らかのアプローチをするのは間違いではないのかもしれない。
「……つかれた」
 そう、嫌そうにつぶやいた。確かに疲れた。ピュニシオンの森で、人間たちの相手をしたのも、まぁ、嫌だったし、人間を『試す』のも正直嫌だ。疲れた。なので、今日はとっておきのおやつでも食べようと思った。亜竜種たちの里から流れてきた(物理的に、だろうか。あるいは、たまたま竜の領域に迷い込んで死んだ間抜けな亜竜種の遺品かもしれない)らしい、お菓子作りの本を参考にして、見よう見まねでスイートポテトなる菓子を作ったのだ。それは、原形の素材を用意できない故に、そのあたりの芋だのなんだので代用したものだが、なんだかんだ美味しくできていて、お気に入りだった。それを、竜言語魔法の冷蔵室で冷やしておいておいたのを、食べようと思ったのだ。
 そんなわけで、ストイシャはウキウキの気分で冷蔵庫を開けた。
 なかった。
 中に何もなかった。
「……ムラデン……!」
 犯人はすぐに思いついた。赤毛の、弟の仕業に間違いなかったのだ……。

●スイートポテトを作りましょう
「あ、亜竜のゴーティズを狩ってきて」
 そう、こちら――あなたをはじめとする、ローレット・イレギュラーズたちだ――を物陰から嫌そうに見つめつついうのは、ストイシャと名乗ったレグルスである。
 ヘスペリデスの探索を続けていたあなたたちイレギュラーズたちは、なにか自分たちを呼ぶような声を聴いた。気がした。たぶん聞き間違いかな、と思ってその場を離れようとしたら、また聞こえたのであたりを見回した――ところ、物陰に隠れたストイシャという、青髪の少女竜(レグルス)がいたわけである。
「そ、そういうの専門なのでしょ? 別に、私、私が行ってもいいのだけど。
 でもこれって、ちょうどいいし」
 何が丁度いいのか――と思い返してみれば、そういえば先日、ムラデンという少年竜とともに、こちらを試すようなことをやったばかりである。二人の目的が「ローレット・イレギュラーズが使えるか」を確認することであるならば、なるほど、『亜竜を倒せる程度には力がある』と確認するのは、彼女の目的に沿っているのだろう。
「それはいいが」
 仲間の一人が言う。
「どうしてだ?」
「た、たた、た、卵が欲しい、の」
 そう、たどたどしく言う。
「スイートポテト、知ってる? お菓子よ。それを作りたいの。
 で、その材料の卵黄に、ゴーティズの卵が必要なの。
 ゴーティズ、鬱陶しくて嫌いだけど――卵はおいしいの。
 だから、ゴーティズを全部やっつけて、卵を持ってきて。
 べ、べつに、あなた達にも『無意味』じゃないわ。
 女神の欠片――知ってるでしょ。卵の一つが、それになってるのを確認したの」
 女神の欠片――それは、『花護竜』テロニュクスと『魔種・白堊』によって収集を依頼されたものだ。ベルゼーに関するものらしいが、詳細は不明。とはいえ、集めることに越したことないはずである。
「ど、どど、どうするの? やる?」
 そう尋ねるストイシャに、貴方はうなづいた。
 ストイシャの目論見がいずこにあろうとも、女神の欠片を集めるのならば、そんにはならないはずだった。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 スイートポテトを作りたいのです。

●成功条件
 すべてのゴーティズを撃破し、卵を一つ、女神の欠片を一つ、確保する。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●状況
 ヘスペリデスを探索する皆さんの前に、ストイシャ、となのるレグルスの少女が現れました。
 彼女はどうも、スイートポテトを作るために、亜竜ゴーティズを撃破し、卵を持ち帰ってほしい、というらしいのです。
 無論、偉大なるレグルスの竜である彼女が、人間に亜竜退治をただ依頼するわけがありません。自分でやった方が早いですからね。
 となると、彼女はこちらの力を図っていると見た方がいいでしょう。また、彼女からもたらされた情報によれば、卵の一つが女神の欠片となっており、これはローレットとしても収集しなければなりません。
 となれば、この依頼を受けない理由もないです。竜に力を示すのもそうですし、女神の欠片を収集するのもそうです。
 そんなわけで、皆さんはさっそく、ゴーティズの巣へと向かうのでした。
 作戦決行タイミングは昼。作戦エリアは、ゴーティズの巣となっています。鳥の巣を大きくしたようなイメージです。そのため、足場はあまりよろしくないほか、見通しもあまりよくないでしょう。

●エネミーデータ
 亜竜ゴーティズ ×10
  緑色の鱗と、巨大な翼を持った、ザ・ワイバーンといった様子の亜竜です。特筆すべきは、火炎のブレスでしょうか、広範囲にまき散らされる炎のブレスは、火炎系列のBSを付与する強力な一撃です。
  鋭い爪には麻痺毒が分泌され、痺れ系列のBSを付与してきます。
  数も多く、またそれなりに頭もいいため、集中攻撃を狙ってくる可能性があります。しっかり引きつけたり、役割分担をして、確実に撃破していきましょう。

●同行者
 ストイシャ
  レグルスの少女。ついてきますが、当然味方ではありません。
  話くらいはしてくれると思いますが、怒らせたりはしないようにしましょう。敵に回すと厄介ではすみません。
  皆さんのへの好感度は、あんまり高くはないです。が、お願いしたらスイートポテトとかくれるかもしれません。のらねこに、ぺいっ、っておやつなげる感覚で。


 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。

  • <黄昏の園>ストイシャのスイートポテト消滅事件完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年05月29日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

零・K・メルヴィル(p3p000277)
つばさ
ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)
黒鎖の傭兵
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
ラムダ・アイリス(p3p008609)
血風旋華
ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)
変わる切欠
ユーフォニー(p3p010323)
竜域の娘
炎 練倒(p3p010353)
ノットプリズン

リプレイ

●スイートポテトまでの道行き
 明確に恐れを感じる。
 イレギュラーズたちが向かうのは、亜竜ゴーティズの巣。そこには当然のごとく亜竜の卵があり、其れの採取が仕事の目的だ。
 卵を採取する目的は二つ。一つは、それが女神の欠片、という存在になっているということ。
 もう一つは、レグルス・ストイシャがスイートポテトを作るために必要だから、らしい。
 無論、ストイシャはレグルスと呼ばれる強力な竜の一系統である。なれば、ストイシャ単独でこの程度の仕事はこなせるわけだが、しかしそうしないのには、どうにも訳がありそうだ。
 試す。あるいは、見極める。
 そういった意志を感じるわけだが、それはそれとして、ストイシャはどうも、こちらに対してはおっかなびっくりのように感じられた。
「とはいっても、あれだ。「この子猫、ひっかかないよね?」という恐れに近いわけだが」
 『黒鎖の傭兵』マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)はストイシャと会うのは初めてではないが、それ故に彼女の性質を理解している。臆病というか、陰キャ気味というか。もちろん、それは同族に対しての態度ではあり、人間のことは当然のごとく見下している。
 見下しているというか、彼女がこちらに向ける視線は、マカライトの言うとおりに「小型動物」に対するそれにすぎない。幼い子供が、犬にびくびくと触れる様子、といえばいいだろうか。噛んでくる、とは思うが、殺される、とは思っていない。それはつまり、対等かそれ以上の存在だとは決して思っていない、驕れる恐怖、ともいえる。
「あの子たちの実力は確かだよ。悔しいけどね」
 『咎人狩り』ラムダ・アイリス(p3p008609)がそういう。ラムダが直接相対したのは駄蜥蜴ことムラデンの方だろうが、しかしそれでも突破はならなかった。
「まぁ、駄蜥蜴の方には思う所はあるけれど、ストイシャの方には特に……交流が可能なら、やっておいて損はない思うよ」
「けど、ファーストインプレッションですよね……」
 『誰かと手をつなぐための温度』ユーフォニー(p3p010323)が、むむむ、とうなった。
「こう……怖くないよー、って言ってあげる……とか……?」
「子供をあやすような感じでいいのか……? いや、子供のように見えるが……」
 マカライトが苦笑する。ちらり、と後ろを見やれば、ストイシャが、じ、とこちらを見据えている。見た目は確かに、子供のようだ。だが、その気になれば、こちらを全滅させておつりがくるほどの力を持っていることは自覚しなければならない。
 つまり、怒らせたらアウト。
「……子供をあやすような感じか」
 改めて、マカライトが苦笑する。
「あー、じゃあ、俺から、行ってみていいか……?」
 『恋揺れる天華』零・K・メルヴィル(p3p000277)が手を上げる。
「おねがいします」
 とユーフォニーが言うのへ、零はこほん、と咳払い。振り返り、極力友好的に、語り掛ける。
「初めましてだよな、ストイシャ。
 俺の名前は零、パン屋です。
 改めて今回は情報を有難う……!」
 務めてにこやかにそういう零に、ストイシャは僅かに、びくりと肩を震わせ、
「しゃ、しゃしゃ、喋った……!」
「そこから……?」
 零が苦笑する。ストイシャはコホン、と咳払い。
「い、いえ、なんでも。
 私は、ストイシャ。知ってるよね?」
「もちろん……。
 えっと……お近づきと言うか良ければだけれど、良ければフランスパン……いります……?
 君が知ってる人だと、ベルゼーも食べたことある奴なんですけど、これ」
 どこからともなく取り出した(というか、ギフトで生み出した)フランスパン。ストイシャが変な顔をした。
「……パンは、本で読んだことある、けど」
 じろり、と見やる。
「……思ったより、堅そう。ふわふわしてる、ってきいたの」
「これは、外はカリッと焼いてるやつなので……!」
 ストイシャが、怪しいものかのようにそれを受け取ると、躊躇なくガリっとかじった。フランスパンなどは硬いが、流石少女と言え、竜種の強靭なあごである。
「…………もらっとく」
 こくこくとうなづく。餌付け成功である。
「……むこうが小動物のようであるな」
 『ノットプリズン』炎 練倒(p3p010353)が、ふむん、と声を上げた。
「初めましてであるな、ストイシャ殿。吾輩は炎練倒である」
「……亜竜種は、何度か見たことある」
 ストイシャが言う。確かに、竜種が一番人間と接するとしたら、おそらくは同じ覇竜領域に住む亜竜種だろう。
「えっと、私はユーフォニーです。初めまして」
 にこりと笑うユーフォニーに、ストイシャはうなづいた。
「……あの暑苦しい人の気配を感じる」
「シェームさんの事かな……?」
 小首をかしげる。ストイシャからしたら、シェームは暑苦しいのかもしれない。
「しかし、スイートポテトか。竜種も料理をするのだな」
 『黄泉路の蛇』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)がそういうのへ、ストイシャは頷いた。
「……する竜はする。しない竜はしない。私は、本に載ってることが、気になって」
「その本は」
 『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)が続けた。
「亜竜種の里から流れてきた本なのかな?」
「お、お、おねえさまが、そっちに行ったときに、たまに持って帰ってきてくれるの」
 ふひ、と笑う。
「おねえさまは、やさしい竜だから、ムラデンにもお土産くれたりする……」
 と、そこまで行って、はっ、とした表情を見せた。
「……そ、そそ、そんなことより、仕事はちゃんとしてね」
 むっ、と引き締めた顔をして見せる。
「大丈夫ですよ。僕たちにお任せください」
 『温かな季節』ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)が、穏やかに微笑んでいった。
「そうそう、もしお仕事が無事に終わったら、どうかスイートポテトを作るのを手伝わせてください。
 本に載ってない料理も、お教えできると思います」
 ジョシュアがそういうのへ、ストイシャは、む、とうなってから、
「か、か、考えておく」
 と、一言そう返した。

 亜竜ゴーティズの巣に到着してみれば、なるほど、鳥の巣を大きくしたようなイメージだ。足は大きな枝で構成されていて、些か歩きにくい。ストイシャは苦も無く進んでいる。飛んでいるのか、あるいは。なんにしても、竜としての力の一端を見せつけられた気分だ。
「……じゃ、じゃあ、ここからだから」
 ストイシャがそういう。
「私は、ここで見てるから。せいぜい、死なないで。
 ……その、人間の死体とか見るの気持ち悪いし……」
 心配というか、マジで気持ち悪がっているだけだろう。苦笑しつつ、
「任せろ。最高の食材を用意してやる」
 マカライトがそう答えた。仲間たちもそれにうなづき、かくして巣上での戦いが始まろうとしていた――。

●食材採取
「さぁて、なんとも、相手は『ワイバーン』って感じの姿だね?」
 ラムダが笑う。相対するゴーティズは、緑色の鱗と翼を持った、絵にかいたようなワイバーンであるといえた。
「卵は……あのあたりか。けど、倒さなきゃ回収は難しそうだ」
 ラムダの言葉に従って視線を向けてみれば、巣の中央辺りに卵はある。が、そこには当然のごとくゴーティズたちがおり、当然のごとく、卵をくれるとは思えない。
「ということは、吾輩のスゥーパァーインテリジェンスで戦術を練れば、つまり全員ぼっこぼこにしてやるのが近道であると!」
「まぁ、そうなりますね……」
 ユーフォニーが苦笑する。実際の所、ヘスペリデス付近に住むワイバーンであるゴーティズは、見た目通りの雑魚とはいいがたい。卵自体が目的である以上、万が一でも運搬中に破壊してしまうような事態は避けたいところだ。
「ストイシャさんに、力を見せるためにも……頑張りましょう!」
 ユーフォニーの言葉に、ジョシュアは頷いた。
「ええ。まずは、卵が戦いの余波で破壊されないように引きはがしたいところですが」
「そうだな。バックアップは行う。ユーフォニー、任せても大丈夫か?」
 尋ねるマカライトに、ユーフォニーがうなづく。
「まかせてください……!」
 そのバングルから、暖かな炎が巻き起こる。が、それは瞬く間に悪の眼をひく苛烈な炎となって、ワイバーン達の注意を一気にユーフォニーへと向けた。
「さぁ、こっちです!」
 ユーフォニーが身構える。八匹のうち、何匹かの亜竜が、引き付けられる様子を見せながらユーフォニーへと向かう。残る亜竜も、まるで合わせたようにユーフォニーへと飛来した。
「なるほど、一気にユーフォニー殿を落とすつもりか」
 アーマデルが軽く歯噛みする。
「確かに、多少の知能はあるようだ、が……!」
 蛇銃剣アルファルドを構える。間髪入れず、目にもとまらぬ早撃ちが、魔術の弾丸を次々と吐き出した! 殺戮楽団、鉛の演奏。吐き出された銃弾が、次々とゴーティズ達に襲い掛かる! 高い音を立てて、ゴーティズの鱗に突き刺さった。ぎゅあ、と悲鳴を上げたゴーティズのうち一匹へ、零が一息にとびかかる!
 打撃! 強烈な一撃が、ゴーティズの背骨を粉砕した。ぐえあ、と悲鳴を上げたゴーティズのうち一体が、巣に落下する。
「次だ!」
 叫ぶ。
「さっさと片付けよう!」
 勇敢に/見えるように。これは、アピールの場でもある。竜たるストイシャに、有用性を見せつけるための。
「お任せだよ!」
 ラムダが叫び、その手を掲げる。途端、降りるは不吉の帳。ワールドエンドの狂気。紫のそれが、ゴーティズの視界を埋め尽くす。恐慌と恐怖が、彼らの脳裏を上書きする。
「止める――そこから、やって!」
「まとめて吹き飛ばすよ! 悪いけど、美味しい卵と貴重な卵の為に……ぶちのめさせてもらうよ!」
 ヨゾラが、その手をぐ、と握りしめた――同時、夜空の色を思わせるような、蒼と黒と光をちりばめた泥が、空間を裂いて現れる。それらが、まるで波のようにゴーティズをしたたかに打ち据えた。ぐわおう、と鳴り響くは、強烈な夜空の大海原か。混沌と星々の泥が、夜空の海が、亜竜たちを飲み込み討つ!
 一匹がその泥にまみれて消えて行ったが、しかしすべてがその末路をたどったわけではない。泥から這う這うの体で逃げ出したゴーティズ達は、雄たけびとともに火炎のブレスを吐き散らした。竜のそれには遠く及ばずとも、強烈なそれはまさに焔の暴風か。吐き出されたそれを受け止めながら、
「あっつ!? ……あれ、思ったより平気だ……パンを焼く時も熱いからか……? え、なんで……?」
 零が声を上げる。なぜか持ってる火炎無効。持っててよかった火炎無効。
「とはいえ、まともに食らい続けるのは危険であるぞ!」
 練倒が叫ぶ。継続的なダメージとしての火炎は無効化できても、単発のブレスのダメージまでもが無効化できるわけではない。そして、恐ろしいのは継続ダメージだけでなく、爆発的な威力も申し分ないところであろう。
「……っ!」
 ユーフォニーが、体に走る痛みに顔をしかめた。勇気と決意はあれど、しかし体が完全についていってくれるとは限らない。
「あまり時間をかけてもいられません!」
 ジョシュアが声を上げる。弓を構え、矢を番える。放たれた聖なる矢は、ゴーティズの眉間に突き刺さった。ぎゃ、と悲鳴を上げて、ゴーティズが落下する。
「ジリ貧……というのも情けないですし、攻勢を維持しましょう!」
「同感だ!」
 アーマデルが叫ぶ。銃剣の銃を撃ち放ちけん制射撃を放ちながら、
「ラムダ殿!」
「OK!」
 仲間にバトンを渡す。ラムダの斬撃が、ゴーティズの体をえぐり、地に叩き落とした。
「あの駄蜥蜴に比べれば、ぬるいっ!」
 返す斬撃が、さらなるゴーティズの眼を切り裂く。ぎゃあ、と雄たけびを上げるゴーティズが、力強くその翼をはばたかせ、ラムダを吹き飛ばした。距離をとるべく。ラムダは空中で態勢を整えて、巣に着地。
「態勢を整えさせちゃだめだ!」
「わかっている!」
 マカライトが叫ぶ。ワイバーン・ジーヴァとともに翔けるそれは、まさに一筋の剣閃か。その光が一直線に瞬くや、残光がゴーティズを切り裂いていることに、刹那の後に気付く。
「残りは」
 マカライトが叫ぶ。間髪入れず、分断されたゴーティズが、巣に落下した。
「何匹だ!?」
「残り、2!」
 ヨゾラが叫ぶ。
「こっちも限界だから、一気に仕留めよう!」
 その拳を強く握る。飛び出す! 同時、その体が星のごとく輝いた!
「『夜の星の破撃(ナハトスターブラスター)』ッ!」
 その名のごとく、夜の星が輝くがごとく。煌めく光となったヨゾラが、その拳をゴーティズに叩きつけた! 厳密に言えば、圧倒的な破壊力を持った魔力塊を、ゼロ距離で叩きつけるわけだが――ぱっと見は、拳の一撃のようにも見える。いずれにせよ、圧倒的な破壊力を叩きつけらえたゴーティズが、そのままの勢いで巣に落下! ばぐおうん、と強烈な破砕音とともに、叩きつけられた!
「残りは、こちらだ!」
 アーマデルが叫ぶ。
「ユーフォニー殿、もう大丈夫だ、下がってくれ!」
 限界を迎えつつあったユーフォニーが頷く、後方へと跳躍する。それを追うように飛来するゴーティズへ、アーマデルは刃を構えた。
「――シッ!」
 鋭い呼気とともに、蛇鞭剣を振るう。しなやかに跳ねるそれが、ゴーティズを叩き落とすように、上部からの打撃を与える。
 ぎゅあおう、と悲鳴を上げて、ゴーティズが叩きつけられた。が、ゴーティズは怒りの表情を見せながら、ブレスを吐くべくと息を吸い込む!
「させない!」
 零がその拳で、ゴーティズの口を、上から殴りつけた。行き場を失った火炎が、口中で爆発する! 身を焼くような感覚を覚えながら、爆風に乗って零は後方へと跳躍、着地した。
「これで――」
 ふぅ、と額をぬぐう。あたりには、倒されたゴーティズの死体が散らばっていた。
「おわり、か。卵のためとはいえ、全滅させるのもなんだか――」
「き、気にしないでも、いいよ」
 ストイシャが言った。
「こ、ここ、こいつら、すごいたくさんいるから。8匹見たら80匹はいるから。どうせ明日にはまた増えてる」
「そんなに?」
 零がいやそうな顔をした。家庭内害虫のような扱いだ。
「お、おつかれさま。良いんじゃない? じゃ、卵回収して、帰りましょ」
 ストイシャがそういうのへ、皆はうなづいた。並ぶ卵の中には、ひときわ輝く変わった卵があって、イレギュラーズたちが近づくと、手のひら大の小さな塊になった。これが女神の欠片であろう。
「運搬は任せて。チャリオッツで運ぶよ」
 ラムダがそういうのへ、ドレイク・チャリオッツがのんびりと鳴き声を上げた。

●スイートポテトとストイシャ
「……え、なんで家までついてきたの……?」
 と、ストイシャが不思議そうな顔をした。
 ヘスペリデスにある、ストイシャの別荘のような場所。人が作ったものより不格好なそこに、なぜかイレギュラーズたちも同席している。
「ああ、せっかくだから、お手伝いとかしようと思ってね?」
 ラムダが言う。
「あ、そうだ。ゴーティズの卵を使ったスイートポテトには負けるかもだけど、ボクもこんなモノを持っているんだ」
 と、ラムダがロールケーキを差し出したので、ストイシャはぱっ、とそれを受け取った。
「……ろ、ロールケーキはもらうけど」
「駄目か?」
 零が言う。
「その手の料理の自信はあるし……どう、かな……?」
 尋ねるのへ、ストイシャが一瞬、悩んだ顔をしたが、
「……ま、まぁ、少しくらいなら」
 見極めも必要だろう、とは思ったのだろうか。意外にも、許可はしてくれた。
「ならば、さっそく材料を用意しよう。芋はいいぞ。育ちやすく、栄養価が高い。
 ……芋? ……フリアノン……ポテ……うっ記憶が……」
 なんかアーマデルが頭を抱えたので、練倒が不審そうな顔をした。
「フリアノンで一体何が……?」
「スイートポテトがあるならば、一緒に美味しい紅茶はどうですか?」
 ジョシュアがほほ笑む。
「心得はあります。良ければ、ご用意します」
「お茶……! 本で読んだことがある……!」
 ストイシャが目を輝かせつつ、咳払い。
「ま、まぁ、いいと思う……」
「では、私も。スイートポテトのパイを作りますね」
 ユーフォ―ニーがほほ笑んだ。
「スイートポテトの、パイ……?」
「はい! とっても美味しいのですよ。
 よかったら、なのですけれど」
 そういうのへ、ストイシャが、むー、とうなりつつ、
「い、いいよ。でも、汚さないで」
「はい。ありがとうございます」
 一応受け入れてくれたことに、ユーフォニーは嬉しそうに微笑んだ。
「この辺の道具などは、やはりフリアノンから、ザビーネ=ザビアボロスが?」
 マカライトが尋ねるのへ、ストイシャはうなづいた。
「……わ、私の持ち物は、そう。お姉さまがお土産にくれた」
「なるほどな……」
 嘆息する。
「じゃ、じゃあ、始めるから。邪魔しないなら、好きにして」
 ストイシャがそういうのへ、
「ありがとう! スイートポテト、楽しみだなぁ」
 ヨゾラが笑ってうなづいた。
 しばらくののちに出来上がったスイートポテトは、見た目こそ独特なれど、美味なものだったという。
 竜と人の奇妙なお茶会は、完全に打ち解けたとはもちろん言い難いが、それなりの距離感で行われたようだった。

成否

成功

MVP

零・K・メルヴィル(p3p000277)
つばさ

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 スイートポテトは、とても甘かったようです。

PAGETOPPAGEBOTTOM