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シナリオ詳細

<黄昏の園>ムラデンとストイシャと

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●黄昏の園へ
「いやぁ、結局」
 と、レグルス=ムラデンは声を上げた。
 執事服を着た、赤毛の少年である。だが、それはあくまで『ヒトの姿をとった竜』にすぎない。
「人間たちはヘスペリデスへと向かったのか。んー、あの人たち、結構頑張ったみたいだね?」
「だ、大丈夫かな?」
 同様に、青髪のメイド服風の少女=レグルス=ストイシャが頷いた。
「あ、あっちにおいてある本とか、食べられないかな……?」
 不満げに、口をとがらせる。二人がいるのは、ピュニシオンの森に広がる、ザビアボロス一族のエリアである。ピュニシオンの森奥深く、誰も近寄らぬそこは、それ故に『人間たちの通り道』とはなりえなかった。それはローレットにとっても、ザビーネと名乗る竜にとっても幸運なことであったといえるだろう。もしここが通り道であるのだとしたら、ローレットにとってザビアボロスの一族との戦闘は避けられないものになっていたはずだ。
「人間って本食べるの? すごいな……何がおいしいんだろ。
 まぁ、そんなことより、おひいさまだ」
「お姉さま?」
 ストイシャが小首をかしげた。
「な、なにか、お怒りとか、かしら?」
「というか、ちょっとがっかりしてるのかもね――僕らが割と、普通に帰ってきたことに」
「なにそれ。私たちが、やられちゃえばよかった、とか思ったっていうこと?」
 ストイシャは、解りやすく怒った顔をする。
「お、お姉さまはそんなこと考えないもん。私たちが無事で、よかったって思ってる」
「それはそう。おひいさまはほら、最近――人間観察にお熱を入れてるだろう?
 僕らを派遣したのも、そういう一環だと、今は思うんだよね」
「つまり――試し、みたいなやつ?
 ……うう、深緑に一回行ったとき、あった、お姉さまと一緒にいた暑苦しくてこわいおじさんが言ってたみたいで、いや」
「シェームか。僕はあの人嫌いじゃないけど。髪の毛赤かったし。
 でも、あの人がなんだか、おひいさまに吹き込んでたのは事実だ。そして、おひいさまが、全力ではなかったにしても――あの地から追い返された」
 ふむん、とムラデンが言う。
「ムラデン、これは、ここだけの話ね?」
 と、ひそひそ声で、ストイシャが言った。
「……先代様、そのことでだいぶ怒ってる。今もそう。お姉さま、立場が危ないかもしれないの」
「ストイシャ、僕たちにとって」
 ムラデンが、ふむ、とうなづいた。
「先代様とおひいさま、どっちが大切かな?
 これは真面目な話だぜ? ちなみにお兄ちゃんとして僕が言っておくと、おひいさまの方がずっと大切だ」
「お姉ちゃんとしては」
 対抗するようにストイシャが言う。
「お姉さまの方がずっとずっと大切」
「意見の一致だ」
 ムラデンが言う。
「ということは――僕たちがやるべきことは、いざというときに、おひいさまの役に立ちそうなやつを見つけることだ」
「人間が役に立つとでも?」
 ストイシャが眉を顰める。
「そ、それはないんじゃないか、な……」
「ぶっちゃけ僕もそう思う」
 ムラデンが言った。
「でも、おひいさまが、気にしてるのは確かなんだ……となると、僕たちも何らかの形で動いた方がいいかもしれない。
 人間に対して、何らかのアプローチをするべきだ。そして、今ならそれが容易だ」
「……人間はヘスペリデスにいて、たしか、テロニュクスさまが仕事を依頼している……」
「そうでなくても、奴らはヘスペリデスで動くだろうからね。
 ……となると、善は急げだよ、ストイシャ」
「う、うん。すっごくいやだけど、お姉さまのためだものね……!」
 ストイシャがうなづくのへ、ムラデンもうなづき返した。

 ……そんな二人の様子を、ザビーネ=ザビアボロスは静かに見つめていた。ただ、彼らの目論見が、自分の『迷い』を解消する何かの手助けになればいいと、そんな風には考えていた。
 迷い。
 それは、今まで彼女が無価値と断じてきた『生命』に『価値はあったのか否か』という問いだった。

●きょうだいの依頼
「というわけで、皆に依頼があるんだけど」
 そう、あなたたちイレギュラーズたちの前でいうのは、赤毛の少年である。むろん、この『ヘスペリデス』後に、真っ当な人間がいるわけがない。つまり、相手は魔種・怪物・竜種のいずれかであることは間違いなく、今回に限って言えば、竜種ということで間違いない。
 将星種『レグルス』とよばれる、竜の中でも実力を持った個体であり、このレグルスは人の姿をとれるという力をも持つ。
 そのレグルスのきょうだいと思わしき、赤髪の少年と青髪の少女は、それぞれをムラデンとストイシャ、と名乗った。そして、ヘスペリデスで拠点を築きつつあったイレギュラーズたちのもとに、突如として襲来し、話しだしたのである。
「もしかしたら先の戦いで遭遇したのもいるかも。いやぁ、ごめんね。僕はあんまり、その、竜じゃない生き物の顔を見分けるの苦手でね」
 悪気なく笑うムラデン。この傲慢さは、なんとも竜である。
「そ、そそ、そんなににらみつけなくてもいいじゃない……わ、私だって、ほんとは人間とかと話したくないし……」
 ストイシャは露骨に嫌そうな表情を向けた。ちらちらとこちらを見ているのは、こわいメガネの人間がいやしないかとびくびくしているわけだがさておき。
「勿論、僕たち竜種が、人間に『お願い』するわけがない。わかるよね? 君たちにお願いするくらいなら、自分たちで速いし。
 つまり、これは、僕たちが君たちを試しているわけだ、ってことくらい、理解してもらえると思うんだけど」
 生意気な様子で、ムラデンが言う。ストイシャが続いた。
「ヘスペリデスのはずれに、亜竜が住み着いたの。クレイラクザス、っていう……体は大きいけど、頭の中は虫みたいなやつら。
 で、でも、その中の一匹の、鱗の一枚が、『女神の欠片』になっているのよね。
 さ、ささ、探してるんでしょ? 女神の欠片。テロニュクスさまにお願いされて。
 ととと、と、とれるものなら、とってみてきたらいいと思うの」
 ストイシャの言葉に、合点が言った。どうやら、これは『情報提供』らしい。女神の欠片は、『花護竜』テロニュクスと『魔種・白堊』によって依頼されたものだ。ベルゼーに関するものらしいが、ひとまずの収集が、ローレットの目標となっている。
「でも、なぜ我々に?」
 仲間の一人が、ムラデンたちに尋ねた。
「そりゃぁ」
 ムラデンは笑った。
「人間観察って奴? どうやって動くかなぁ、と思って」
 今のところ、敵意はないようだ。どうも、『こちらがしっかりと働けるか』を確認しようとしているらしい。
 ……この程度の依頼で失敗し、竜に情けないところを見せるわけにもいくまい。
 あなたたちは、女神の欠片を探すことを承諾すると、さっそく戦いに向かうのであった――。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 二人の竜が、皆さんの観察したいようですが……。

●成功条件
 クレイラクザスを倒し、女神の欠片を入手する。

●特殊失敗条件
 ムラデンとストイシャをがっかりさせる。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はC-です。
 信用していい情報とそうでない情報を切り分けて下さい。
 不測の事態を警戒して下さい。

●状況
 ヘスペリデスで探索を続けていた皆さん。突如そこに、ムラデンとストイシャと名乗る、レグルスの少年少女が現れました。
 なんでも彼らは『女神の欠片』を持つ亜竜、クレイラクザスの情報を持ってきたとのこと。そしてそのまま、「女神の欠片を確保してほしい」と依頼を行ってきました。
 竜が人間に依頼をすることなどはあり得ません。どうも二人は、こちらの『品定め』をしているようです。つまり、この程度の仕事をこなせないなら……何らかの裁定を下すつもりなのでしょう。
 それがどうなるかはさておき、女神の欠片の収取はこちらも行う必要がありますし、竜に舐められっぱなしというのも面白くありません。
 というわけで、依頼を受諾し、女神の欠片を回収するため、クレイラクザスの討伐へと向かうことになりました。
 作戦決行タイミングは昼。周囲は広大な草原となっています。
 特にペナルティは発生しませんので、戦闘などに注力してください。

●エネミーデータ
 クレイラクザス ×8
  恐竜で例えるなら、ステゴサウルスのような、背びれを持った亜竜です。
  見た目よりずっと素早く、丸まって回転することで、『移』動しながらブレードで切り付けてきます。常識が通用しない!
  得意武器は、前述したとおりの背中のブレード、『出血』系列のBSなども付与してくる他、『毒』系列のBSも持ち合わせています。
  数が多いため、四方八方から突撃されると目も当てられないことになりかねません。
  体力も高めですが、回転ブレードは前を見てないこともあり、命中率がやや心許ないようです。
  また、特殊抵抗も低めなので、からめ手にはめっぽう弱いところも弱点です。

●同行者
 ムラデン&ストイシャ
  レグルスの竜種の二人です。同行していますが、当然ながら味方ではありません。
  お話くらいはしてくれると思いますが、まだまだ気を許さない方がいいと思います。
  現在の皆さんへの好感度は、決して高くはないです。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。

  • <黄昏の園>ムラデンとストイシャと完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年05月28日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)
黒鎖の傭兵
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
ソア(p3p007025)
愛しき雷陣
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
ラムダ・アイリス(p3p008609)
血風旋華
ムサシ・セルブライト(p3p010126)
宇宙の保安官
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女

リプレイ

●竜を伴い
 道を行く一行の足取りは、緊張の色をわずかにはらんでいる。
 一方で、その後ろを行く二人の少年と少女は、足取りは随分と軽いようだ。
 赤毛の少年は、まさに軽く。青毛の少女は、ちょっと嫌そうに。
 二人は竜種、レグルスの竜で、名をムラデンとストイシャという。二人はザビーネ=ザビアボロスに仕える竜であり、つい先日、イレギュラーズと戦闘し、その圧倒的な力を見せつけた二人でもある。
 その二人が、どういうわけか、イレギュラーズたちに仕事の情報をもたらした。
「……興味を持たれている、とみてもいいでしょうね」
 と、小声で『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)がそういう。竜の聴力はわからないが、無意味だとしても、警戒はしないよりもした方がいい。
「あの二人、あるいは背後にいるザビアボロスにか?」
 『黒鎖の傭兵』マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)が小声で返す。僅かに表情をしかめ、
「だが、俺達は敗北を喫しているはずだ」
「もちろんそうです。ですが、それは私たち……個、としての結果。ローレット全体でいえば、むしろあの森を突破し、竜の思惑を凌駕した、といえる。
 つまり、群、としては、無視できない存在になってきたわけです」
 もちろん、個としても無視させるつもりは、寛治には一切ないが。さておき、
「となれば、何らかのアプローチがある可能性はあります。女神の欠片も、そういったアプローチの一つですからね。
 これは想像ですが、おそらく、ザビーネさんのお立場が危うくなっているのかと」
「根拠は?」
 『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)が尋ねるのへ、寛治は頷いた。
「我々はドラゴンスレイヤーではありませんが、練達、深緑と、竜を追いやってはいます。
 彼らのプライドから考えれば、それはあってはならないことのはず。
 そして、伝え聞くところによれば、ザビアボロスとは一族の名であり、いまだ健在なる『先代』の影響力が大きい」
「……なるほど、いまザビーネの方は、先代からせっつかれている状況か」
 ふむん、と汰磨羈がいう。
「となれば、粛清、という可能性も考えられるか?」
「おお、意外と頭が回るんだね、たぬきくん」
 ぱちぱちとムラデンが手を叩いた。いつの間にか、イレギュラーズたちに随分と接近している。ち、と汰磨羈が舌打ち。
「汰磨羈、だ」
「で、たぬきくんの隣にいるのが、眼鏡のこわい奴だ。ストイシャを結構追い詰めたっていう噂の」
「追い詰められてないもん」
 ぶぅ、とストイシャがほほを膨らませた。
「いや、御主ワザといっているな!?」
 汰磨羈が、がーっ、と声を上げる。けらけらとムラデンが笑った。寛治も笑う。
「覚えていただけるとは光栄ですね」
「妹が負けたからね、どんなものかと」
「負けてないもん。あと私がお姉ちゃんだし」
 ぶぅ、とストイシャがほほを膨らませる。なるほど、と寛治は嘆息した。随分と生意気なようだが、しかし竜としての実力あらばそういうものだろう。だが、ただ生意気なだけではなく、こちらを見定めるだけの理性を持ち合わせている。それは、おびえてばかりいるように見えるストイシャも同様であった。そもそも、相手を怒らせて素の対応を見やることなどは交渉術の基本の一つだ。寛治も使うことがあるし、ストイシャのそれも、こちらの油断をさそうという点では理にかなっている。まぁ、どちらも意識してやっているわけではないだろうが、なるほど、いいコンビなのかもしれない。
「駄蜥……いや、ムラデン、だったか?」
 『咎人狩り』ラムダ・アイリス(p3p008609)が言うのへ、ムラデンは笑った。
「駄蜥蜴でいいよ、駄人間さん?」
「……ムラデン。先日は後れを取ったが、人は日々成長するものだからね? それを見せてあげる」
「……楽しみにさせてもらおうかな~? ね、シェームの後継君もね!」
 そういって、ムラデンが『宇宙の保安官』ムサシ・セルブライト(p3p010126)へと視線を送る。ムサシは静かにうなづいて見せる。
「……ぜひ、楽しみにしていてほしいでありますね」
 わずかに、その手に力を籠める。あの、圧倒的な力を思い出す……今はまだ、リベンジはできない。今は、まだ、だが。
「……け、ケンカとかしないでいいからね。めんどくさいから」
 ストイシャが声を上げる。
「そ、そそ、それより、覚えてる?
 クレイラクザスの討伐が、お仕事」
 ストイシャが言うのへ、『騎士の矜持』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)がうなづいた。
「その中の一匹が、女神の欠片の鱗を持っているのだったな」
「そ、そう。人間が相手にするにしては、結構厄介、かも」
 ふひ、とストイシャが笑うのへ、ベネディクトはしかし穏やかに笑ってみせた。
「これからここで活動するのならば、その程度の障害は排除して見せようとも」
「うんうん、ボクたちなら、問題なく終わらせられるお仕事だからね!」
 アピールするように言う『無尽虎爪』ソア(p3p007025)へ、ストイシャが目を丸くして答えた。
「わ、ほ、ほんとに、ボクってボクって鳴くんだ……」
「……ザビーネはボクの事なんて教えたの! ボクは、ソア!」
 べーっ、と舌を出して見せるソア。くすくすと『輝奪のヘリオドール』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)が笑う。
「私は初対面ですね。
 ええ、よろしくお願いします。私はマリエッタ……しがない村娘で、死血の魔女と呼ばれた女です」
 そういって頭を下げるマリエッタに、ムラデンは笑って応えた。
「魔女さんか。色々大変そうだねぇ。
 さて、お話はこのくらいで。もうすぐクレイラクザスの生息地だ」
 その言葉に身構えてみれば、確かに目の前には開けた土地が見えた。あたりはタイヤか何かが転がったかのように均されている。
「クレイラクザスは、回転しながら攻撃するという特性を持つようだが」
 マカライトが言う。
「どうやらそのようだな。この地面は」
「重量による圧殺か……だが、おそらく前をみていないな。木に何度もぶつかっているようだ」
 汰磨羈も状況から、瞬時に敵のイメージを思い描く。なるほどね、とムラデンとストイシャは思った。
「じゃ、じゃあ、私たち、ここで見てるから。
 あ、あ、あとは適当に、やって」
「お任せを。退屈はさせません」
 寛治がほほ笑むと、ストイシャがムラデンの後ろに隠れた。くす、と寛治が笑う。
「じゃあ、駄蜥蜴にこちらの力を見せてあげようか」
 ラムダが言うのへ、ソアが笑う。
「今度こそ、ソアって名前、覚えさせるんだから!」
「ええ、舐められっぱなしは性に合いません!」
 ムサシが、力強くうなづく。そして、それにまるで応じたかのように、奥の方からごろごろと何かが転がってくるような音が聞こえた。それは、巨大なタイヤか岩のようにも見えたが、イレギュラーズたちの前で停止すると、弾けるようにその姿を現した。まるでステゴザウルスのような外見をしているが、しかしのんびり屋の草食竜などでは決してない。獰猛な亜竜、クレイラクザスだ!
「始めましょう……!」
 マリエッタの言葉に、仲間たちはうなづいた。そしてそのまま、武器を手に、一気に戦場へと駆けだした――。

●ホイール・アタック
「数は八……情報通りだよ」
 ラムダが叫ぶ。俯瞰してみてみれば、敵の数は八。こちらと同数であるが、もちろん一対一などをやってやる理由はない。
 こちらの姿を認めたクレイラクザスのうち一体が、ぐあお、と吠える。威嚇か。そのままぎゅ、と体を丸め、さながらタイヤの様に回転! 突撃!
 イレギュラーズたちは一斉に飛びずさった。そのあとを間髪入れず、タイヤと化したクレイラクザスの一体が回転していく。そのまま、大木をなぎ倒し、止まった。
「思った通り、回転中は方向転換も状況確認もできんらしいな!」
 汰磨羈が声を上げるのへ、寛治がうなづく。
「では、オーソドックスなプランで行きましょう。
 敵を引き付けます。ソアさん、お手伝いを」
「任せて! さぁ、こい!」
 寛治、そしてソアが構える。無防備に見せかける、あるいは名乗りを上げて見せる。敵をコントロールするための手段に、クレイラクザスたちがからめとられる!
 ソアに向かって、一匹のクレイラクザスが、回転突撃の構えを見せた。ソアが身構える――突撃してきたクレイラクザス、その突進を、直撃の瞬間を狙って跳躍! 空中で身をひねれば、ブレードの先端がソアの体を軽く切り裂いた本の僅かな出血――だが、こんなものはケガのうちにはいらない。ソアはクレイラクザスの後方に飛びずさると、そのままそれを追うように駆けだす。拳を握り、回転するクレイラクザス、その肉体に叩きつける! クラッシュ! 衝撃に、回転形態を解かれたクレイラクザスが、そのまま激しく横転! 痛みに体をよじらせるのへ、
「とった!」
 ラムダが追撃をお見舞いする! ゼロ距離から放たれる、魔力斬撃。剣禅一如「彼岸花」その名のごとく、斬られたものが散らすのは赤の花弁。ぎゅあ、と悲鳴を上げたクレイラクザスが、そのまま絶命する。ソアが叫んだ。
「女神の欠片は!?」
「こいつじゃない!」
 ラムダが叫ぶ。が、仮にこいつの体に付着していたとしても、すべての敵を倒さねば、おちおち採取もしていられまい。
「全滅させることを考えるんだ!」
 ベネディクトが叫ぶ。黒狼の槍が、クレイラクザスの横腹を貫いた。彼の亜竜は、その性質上強固な鎧のようなうろこを持っているが、しかし肉が浮き出しになっているところもある。例えば、腹などだ。そこを的確に狙い、強烈な凸の一撃を加えるベネディクト。クレイラクザスが悲鳴を上げて点灯する。
「むき出しだ、ここを!」
「任せてほしいであります!」
 ムサシが叫んだ。その手にしたレーザーブレードに、獄炎の赤が燃える。焔と光の斬撃が、柔らかい腹を掻っ捌きながら一気に焼き切った。ぎゅあ、と悲鳴を上げたクレイラクザスが、絶命!
「次を!」
「了解!」
 ベネディクトの叫びに、ムサシがうなづく。一方で、寛治の引き付けたクレイラクザスを、汰磨羈の放った強烈な太極の光が貫く! それは、一匹にとどまらず、近くにいた個体も容赦なく巻き込み、広がっていった。
「まとめて薙ぎ払うぞ! 御主は引き続き敵を引き付けよ!」
「ええ、お言葉通りに」
 寛治がほほ笑む。涼しい顔で立つ紳士は、まさに戦場を支配するコマンダーのようにも見える。
「さて、タネの割れた手品ですが、こちらのお客様は初見ですからね。十分効果は期待できる。
 観客のお二方は、どう見ますかね?」
 イレギュラーズの目的は、敵のせん滅と女神の欠片の回収であったが、しかし同程度に重要なミッションとして、『レグルスの二人を失望させない』というものがあった。というのも、二人がこちらの戦力、あるいはそれ以外の何かを見極めようとしていることは明白であり、ここで無様な戦いを見せては、そもそも、彼らの真の目的に応えられない可能性があるのだ。
 汰磨羈がちらりとムラデンとストイシャを見てみればなるほど、確かに油断なくこちらを見つめている。一挙手一投足を、見定めているような様子だ。そして、まだその目をしているのならば、こちらはまだ見限られていないという証左でもある。
「……まだ予定通りだぞ」
「ならば、このまま押しとおろうか」
 マカライトがそう声を上げる。猟犬ティンダロスの背に乗り、妖刀を構えるその姿はまさにライダーか。その切っ先と速度が次々とクレイラクザスを斬り、翻弄する。
「万が一にも、無様をさらすわけにはいかないからな……一気に決めるぞ」
「ええ、そうですね」
 マリエッタがうっすらと笑いながら、血の大鎌を振るう。斬撃が、クレイラクザスの首を斬り落とした。
「長丁場も、退屈させてしまうでしょうから。
 ……どうしましょう? すこし、楽しくなってきてしまいました」
 クレイラクザスの血を浴びながら笑う魔女、といったところだろうか。だが、今この状況においては心強いアタッカーであることに間違いはない。
「行きましょう! 今度こそ見せてみせる……人の可能性を!」
 炎をまとい、ムサシが叫ぶ。その想いは、仲間たちも共有するところか。いずれにしても、竜に舐められっぱなしなどは面白くはない。ここで、確実に作戦を成功させ、少しで一矢報いたいという気持ちは、確かにあった――。

●戦いのはて
「……で、ストイシャはどう思う?」
 とぼけたように尋ねるムラデンに、ストイシャは、む、とうなった。
「……思った以上に動けると思う。普通の人間じゃ、クレイラクザスは倒せないから」
 むろん、竜である二人からしたら、歯牙にもかけぬような亜竜である。が、それでも、クレイラクザスはヘスペリデス付近に住むだけあって、狂暴にして強力だ。それに、充分以上に対抗できているのは、二人にとっては予想外といえる。
「……群れの力か。あの、たぬきっていうと怒る個体が言ってたね。あと、さっきメガネのも言ってたよ。ヒトの力は社会性。
 まぁ、確かに個体として最強の竜とは違う考え方かもしれない」
「……それが、何かの役に立つの? お姉さまの」
 ストイシャの言葉に、ムラデンは、ううん、とうなった。
「わからない。けど、まぁ、面白いのではあるよね。ローレット、か」
 ムラデンは笑ってみせた。
「可能性を紡ぐ、とか、できる?」
「かもね。ま、結論は、もうちょっとしてからだ……まだ遊びたいからね」
 笑うムラデンに、ストイシャはいやそうな顔をした。

 さて、二人の竜がそんな話をする一方で、戦いもフィナーレを迎えようとしていている。あたりには複数体のクレイラクザスの死体が転がっていて、そのうちの一つ、小さな鱗が、虹色の輝きを放っているのが見える。
「けど、とるのは後!」
 ソアが叫び、残るクレイラクザスのうち一体に蹴りかかった。体勢を崩したクレイラクザスが、その体を支えきれずぶっ倒れるのを、マカライトの妖刀が切り裂く。
「残りは、そちらだ、騎士殿!」
 マカライトが叫ぶのへ、ベネディクトがうなづく。す、と騎士剣を真っすぐに構えた。ぐおう、と声を上げて、クレイラクザスが回転形態に移行、突撃! ベネディクトはしかし臆することなく、ゆっくりと息を吸い込んだ。
「お前達の自慢の背びれが上か、俺の力が上か……勝負と行こう!」
 一点を見極める。衝突の瞬間! 振り下ろす!クレイラクザスが真っ二つに裂けた。同時に、ベネディクトの腕からも、出血が起こる。クロスカウンターの要領。肉を切らせて骨を断つ。
 ふぅ、と息を吐いて、ベネディクトが騎士剣を鞘に納めた。これで、すべての敵が排除されたのだ。
「わぁ、すごいすごい。予想以上かも」
 ぱちぱちとムラデンが手を叩く。ストイシャも、わずかに驚いたような顔をしていた。
「それで、俺達はお眼鏡にかなったのか?」
 ベネディクトがそういうのへ、
「何のことかな? でも、よくやったんじゃない?」
 ムラデンが肩をすくめてみせる。
「も、もうわかってると思うけど、そこでキラキラしてる鱗が、女神の欠片だから」
 ストイシャが、死体のうち一体を指さす。
「持って行って」
「ありがとうございます」
 マリエッタがほほ笑んで、それに触れた。それは、不思議なほど簡単に、ポロリと落ちた。マリエッタの手の中で、キラキラと輝いている。
「ありがとう、これを探してたの。ふっふー……特別にボクのおやつを分けたげる」
 と、ソアがお饅頭を二人に手渡した。ストイシャが目を輝かせる。
「本で見たことある……お饅頭」
「食べられる奴なの……?」
 ムラデンが不思議そうに小首をかしげた
「ムラデンさん。自分は――」
 ムサシが言う。
「自分は。必ず」
「そう言う暑苦しいのいいんだけどさ」
 ムラデンがべぇ、と舌を出した。
「対等になれるとは思うなよ。でも、死ぬ気で来るなら、気が向いたら遊んであげるよ」
「駄蜥蜴め。人の可能性少しは見いだせたかい?」
 ラムダが、そういうのへ。
「駄人間~? そういうなら僕を倒せるくらいしてみなよ~」
 ムラデンが楽しげに指さす。無理だろうけど、と言っているわけだ。ラムダは、ふん、と鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
「まぁ、今日はこのくらいでいいでしょう」
 寛治が言う。次は、もっとこちらの力を見せてやる。そういう思いがあった。
「そうだな。仮にお気に召さなくても、次で見返せばいいだけの話だ」
 汰磨羈が笑う。それは、確かに、人間の強さであるはずだ。
「それと良かったら教えて欲しいの、あなたたちはベルゼーさんをどう思ってるの?
 あの権能が戻ったらまた誰か竜が食べられて鎮める、それでいいの?」
「そうだね。僕とストイシャは」
 ムラデンが言った。
「おひいさまが食われないならどうでもいいと思ってる。ほかの連中がどう思ってるかは知らないな。
 あ、これは特別サービスだから。お饅頭とやらのお礼」
 そういって、ムラデンは笑う。
「じゃ、帰っていいよ~。気を付けてね。
 まさか帰り道で死んだりしないよね?」
「……死んだら指さして笑うから」
 ストイシャがそういいながら、二人、空へと飛び去って行った。
 イレギュラーズたちは報酬を得、そして二人のレグルスに、興味を抱かれた様子であった。

成否

成功

MVP

ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 ちょっと好感度が上がったかも……です!

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