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シナリオ詳細

<黄昏の園>異物

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 コルミロという男に、これといって大目標とか正当なお題目のようなものはそもそも存在しなかった。
 魔種となる前も、その後も、彼が正直だったのは己の食欲に対してのみだったから。
 然るに彼は次第に「より楽に」食べられるように己を変質させ、食欲を満たせれば無機物、或いは魔力などの概念すらも食い散らす顎を手に入れた。
 飢えることなど言語道断。そのためなら「肉体労働」も惜しまぬ勤勉さと魔種特有の強靭さを身に着けた。
 そんな彼が、珍味悪食の嗅覚に従いキャラバンの馬車に潜り込んだのがかなり前、覇竜領域との交易が始まった初期段階あたりか。
 その後、魔種の己ですら容易に殺しうる存在がそこかしこにいる事実に驚き、そして狂気じみた喜びを覚えた。ローレット・イレギュラーズと遭遇したのは想定外だったが、思わぬ収穫が得られたので良しとした。
 そしてコルミロは、彼らがピュニシオンの森に向かったことを知る。凶悪な環境下で急激に力を得つつあった彼は、イレギュラーズの一団を無効に回して生き延びる自分に自信を覚えていた。

 ――果たしてそんな薄っすらとした自信はそもそも無意味であったのだと思い知ったのは程なくしてからだが、魔種という存在に変じていたことでさらなる想定外が生まれたのは、果たして彼にとって幸か不幸か……。


 イレギュラーズは、ピュニシオンの森を越え、ラドンの罪域を抜け、遂に竜種の故郷『ヘスペリデス』へと辿り着いた。
 『冠位暴食』ベルゼーが隠れ潜んでいるこの地は、彼が竜種と人の架け橋となるべく作り上げた場所でもある。人の営みに似せた遺跡のまがい物、そして豊かな自然。
 ローレットとしてこの地を探索する目的があるとすれば、ベルゼー探索への足がかりとすることの他、『女神の欠片』と呼ばれるものを探すことも挙げられるだろう……ベルゼーの苦しみを和らげる為、今後の戦いに役立つとして探し出し、持っておくように。『花護竜』テロニュクスと『魔種・白堊』がそう告げたのだ。
 ベルゼーに対し方針が定まらぬローレットにとってそれは縋るべき藁であったのは確かで、必要としていた行動指針の一つでもあった。
 とはいえ、闇雲に探していては竜種や亜竜をいたずらに刺激するだけだ。なにか指針が必要なのは言うまでもなかった。
「俺達がペイトの近くで遭遇した魔種……コルミロといったな? あいつは獣種のような見た目だった。覇竜領域では十二分に目立つはずだ。騒ぎの種になる前になんとかしないといけない」
「……目的……なんなんだろう」
「何が目的でもいいわよ! 私の魔力が食われてるのよ?!」
 イズマ・トーティス(p3p009471)、レイン・レイン(p3p010586)、オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)の三名は、ピュニシオンの森への探索が始まった折に暴食の魔種・コルミロと遭遇している。
 獣種の面影を残す彼は、覇竜領域においてはあからさまな異物だ。それに、ベルゼーの意図でなく入り込んだのであれば、竜種達や亜竜が彼を軽々に生かしておくはずがない。
 魔種とはいえ、それらを無効に回して長生きできるとはとても思えない。早晩命を落としているかもしれないが、それを目視できなければいつまでも脅威はつきまとう。
 一同にとっての、ある種の危機……しかしその探索行は、花畑を荒らす亜竜の頭部が覗いたことで唐突に終わりを迎えた。
『……おや?』
 正確には。
 亜竜の頭部、そしてコルミロの上半身を両端に持つ歪な生物の出現によって、だろうか。
「……な……に、あれ……」
「お前……コルミロか? なんだ、その姿は」
『覚えていないけど、会ったことがあるのかな? ああでも、僕をそんな目で見ないでくれよ。つい先日食われたばかりで、こいつの頭の片割れが切り取られた時に乗っ取ったばっかりなんだからさ』
 レインが絶句し、イズマが困惑を示す。そう、亜竜の頭、そしてコルミロの上半身。ふたつの頭を持つ亜竜……とも呼べない異常存在がそこにはあった。
 言い分を鵜呑みにするなら、やはり捕食されていたのかということ、そして更に上位種に頭を片方奪われた際、主導権を半分奪ったということか。理解不能にすぎる。
 だが、一つだけわかることがある。
 こんな存在が、この地にのさばっていていいわけがない。
 視界の端で揺れる樹から飛来する羽の生えた蛇……これも亜竜か。そんなものの妨害を受けながらではあれど、今ここで決着をつけなければ、後々きっと、イレギュラーズは後悔する。

GMコメント

 EXプレイングが欲しいという声とアフターアクション中心にシナリオを運用したいという私の想い的なものが悪魔合体してこうなりました。
 みんなはノープランはよくないことをこれで学んだな? ヨシ!

●成功条件
・アンフィスバエナ(コルミロ)の撃退or撃破
・『ヤクルスの樹』の破壊、及び『ヤクルス』殲滅

●アンフィスバエナ(コルミロ)
 本来は胴の両端に蛇の頭をもつ伝承上の怪物ですが、コルミロを捕食した際に残った因子が片方の頭を侵食し、上半身だけ露出したいびつな形となったようです。
 非常に正気が感じられない外見ですが、本来の性質は「どちらも」保有しています。
 頭が2つあるため確定2回行動+EXAやや高め、HPが減少した場合、亜竜とコルミロとに分裂する可能性があります。また、【凍結系列】を持つスキルに強い耐性があります。
・毒牙(物近単:【石化】【毒系列】)
・魔力喰らい(神遠扇:【Mアタック(大)】【AP回復(中)】【万能】)
・薙ぎ払い(物超列:【万能】【乱れ系列】【呪殺】)
 ……などが主な攻撃手段ですが、コルミロ含め情報が少ないです。【必殺】がないのは確かなようですが……。

●ヤクルス(初期20、樹2)
 『ヤクルスの樹』とよばれる特殊植物から生えては射出(物中ラ:【防無】)され、その後自発的に周囲へ攻撃を仕掛けます。
 特殊な特性を持つ攻撃手段は持ちませんが、代わりに各個撃破や集中攻撃、敵の特性の把握などに優れます(これは『樹』が判別するため、樹を切り落とすと途端に連携がガバくなります)。
 個体のHPは世辞にも多くはありませんが補充数が多く、集中攻撃による回避減算は無視できるものではないと思われます。
 なお、樹から生み出される個体数は「毎ターン3~5/1本」です。樹自体のHPと防技はそれなり高め。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <黄昏の園>異物Lv:40以上完了
  • GM名ふみの
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年05月24日 23時25分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)
鏡花の矛
サイズ(p3p000319)
妖精■■として
志屍 志(p3p000416)
密偵頭兼誓願伝達業
天之空・ミーナ(p3p005003)
貴女達の為に
ルクト・ナード(p3p007354)
蒼空の眼
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
ライオリット・ベンダバール(p3p010380)
青の疾風譚
レイン・レイン(p3p010586)
玉響

リプレイ


「私は貴様とは面識はない。が。酷く飢えているのか。あるいは、力を求めているのか……」
「暴食なのに自分が食われる側ってのも理解不能っス」
『君達は初めて見るけど、うん、とても食いでがあるようで嬉しいよ。そこのお嬢さんは、そうだね。魔力「だけ」は美味しかったから』
「いや、どうしてそうなるのよ! っていうか私の魔力返しなさいよ!」
 『蒼空の眼』ルクト・ナード(p3p007354)と『青の疾風譚』ライオリット・ベンダバール(p3p010380)は、長大な胴に蛇頭、そして逆側に魔種の上半身を獲得したアンフィスバエナの……というか魔種・コルミロの姿に尋常ならざる異常を感じ取っていた。見るからにそうだが、それ以上に暴食の魔種らしからぬ有様に、だ。相応に実力をつけた両者をして「食いでがある」の一言で片付けてしまう様子も、十分な実力を見ているはずの『木漏れ日の優しさ』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)を前にして余裕な姿も、すべては本来の魔種としての存在感から一段進んだ脅威を覚える。それでもオデットは、あの日奪われた魔力の恨みを忘れていなかった。いきなり逃げられ、亜竜攻略のための魔力が削られれば文句のひとつだって出るというものだ。
「オデットさんの敵なら個人的に斬らねばならぬのでね。どう見ても、生かしておいていいはずがない」
「厄介なのはあいつだけじゃない。周りの樹もだ。……蟲とかの巣みてーな特性だけど、魔種に注目しすぎたら負けそうだな」
 『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)とオデットはお互いに慮っているだけあってか、互いの敵は己の敵という意識が根深いように見えた。切り刻まねばという根源的思考、オデットを害する敵という感情的理解、遠くラサにすら現れそうな異常者への嫌悪感。どれをとっても、サイズがコルミロと友好関係を築く未来はないだろう。他方、『やがてくる死』天之空・ミーナ(p3p005003)はコルミロよりもむしろヤクルスの樹に向けられていた。因縁と脅威度であちらを見る者が多いのは間違いないが、さりとて周囲から機関銃で狙われているような殺意の波濤は彼女をして正常な判断を失いそうになる。
「コルミロは……あれは……暴食の魔種だから……体を乗っ取れたって事……かな……」
「ええい覇竜領域の者共、喰らった獲物を雑に残すな!! 経緯は理解したが、こんな奇跡は嬉しくないぞ!? そこの樹もだ! バロメッツの類縁か?」
「一つだけ確かなのは、殺しても切り分けないと記憶の混在が厄介なのと、魔種だけに死骸を放置するのも危険極まりないというところですか……」
 冷静に状況を確認する『玉響』レイン・レイン(p3p010586)とは異なり、『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は激しい動揺を見せていた。覇竜領域の深淵へと足を踏み入れてからずっと「ろくでもない」敵を見てきた彼だが、暴食の魔種だからといって亜竜を内側から食い破る芸当、四方八方から飛来する小型亜竜……理解の埒外であることは語るまでもない。魔種という存在のしぶとさを改めて痛感した一同だが、倒さない限り後々より面倒になる。仮に殺せたとして、『遺言代行業』志屍 瑠璃(p3p000416)のギフトで情報を得ようにもコルミロとアンフィスバエナ、2体分の情報を整理せねばならぬ厄介さがある。捕らぬ狸の皮算用、ではあるが……。
『呑気なものだね。今から僕に食べられるっていうのに』
 コルミロの声がおどろおどろしく響いた。もう一方の頭が鎌首をもたげ、長い胴は一同を逃すまいとのたくる。
 2つのヤクルスの樹が攻撃に転じなかったのは不思議だったが、どうやら粛々とヤクルスを生み出し、漸く一斉射への準備を整えたところだった、らしい。
「オデットさん、危なくなったら庇うよ。……必要あるかは別として」
「嬉しいけど気持ちだけ貰っておくわ。危ない思いをしてほしくないもの」
 サイズはオデットに力強く宣言したが、直後、より守りに適した仲間たちの存在を思い出し言葉が尻すぼみになる。オデットはそんなサイズの煮えきらぬ態度に苦笑しつつも、満更でもなさそうだ。
「駄弁ってるところ悪いが、『降って』くるぜ」
 ミーナの警句が届くが速いか、2本の樹から10体ずつ、都合20の亜竜の槍が降り注ぐ。初撃の狙いは、偶然だろうが気持ちサイズに狙いが集まった格好となる。決して気を抜いたわけではなかろうが、浅からぬ傷を負う格好となる。これで倒すつもりだというなら笑ってしまうが、挨拶代わりとしては腹立たしい威力。
「そいつらは俺が引き受ける!」
「回復は……任せて……」
 イズマは状況を打開すべくヤクルスを引き付け、自らに狙いを固めようとする。あわよくば、樹から生まれる個体もコントロールしたいところ。レインは彼に連動して動き、戦場全体をカバーし治癒すべく立ち回る。治癒術士ひとり在るだけで状況は大幅に有利だが、裏を返せば決定力が落ちることに繋がる。個々の実力でレインの分をカバー出来るか、そしてコルミロをどこまで抑えられるかが、状況打開の鍵となる。


「足元がごちゃごちゃしてやがるが、知ったことじゃねえ!」
「樹を一本ずつ落とせばなんの問題もないっス!」
 ミーナとライオリットは樹へと一気にとりつき、以て戦局の支配を狙う。樹さえ倒れれば、ヤクルスが延々と増え続ける事態は避けられる。アンフィスバエナだけなら、戦いようもある……その判断は実に正しい。
『――って、思ったよね?』
 だが、コルミロは長く伸びたアンフィスバエナの胴を樹の一本に巻きつけると、亜竜と魔種、双方の口が大きく開く。勢いに乗って樹を潰すべく振り下ろされたライオリットの連撃、そしてミーナの一撃はともにコルミロの胴に吸い込まれ、報復とばかりに大きく振るわれた顎が2人の、そして背後に控えるイレギュラーズの魔力を根こそぎ奪おうと蠢いた。
「なによ、まだ食べ足りないっていうの?!」
「俺の魔力なんて食べても美味くはないだろうに……」
 ヤクルスの樹から十分に距離を取ったオデットは辛うじて魔力を奪われずに済んだが、サイズはそうもいかなかった。避けようとはした。だが、体が追いつかなかったのだ。奪われた魔力こそ少ないが、今の一撃を受けたという事実がその身に薄っすらと実感をもたらすだろう。状況を甘くみてはいないか、という猜疑の懸念。
「頭はふたつ、一度に狙いを集められるとは思いませんが……」
「だからって、邪魔させるわけにはいかない。来い、コルミロ! 私と踊ってもらおうか!」
 瑠璃とルクトはコルミロの足止めを役目としていたが、初動の動きに鼻白む。だが両者とも、無視されたままであることを由とはしない。互いに自らへと狙いを向けさせ、樹から引き剥がそうと試みた。頭部それぞれに自我があるのか、我先にと動こうとする連携の悪さが目立つものの、逆にそのせいで樹から中々離れない。ミーナとライオリット、そしてサイズはそちらの樹にかかずらうことを悪手と判断、もう一方の樹へと視線を移した。
「イズマ、そこの雑魚をしっかり引っ張っておきなさいよ! 何も出来なくしてあげるわ!」
「ここから樹は狙えそうにないし、オデットさんに万が一があれば恨まれそうだ……! 出来るだけ足止めはするから、頼む!」
 オデットは威勢よく叫ぶと、ヤクルス達を混沌の泥に叩き落とす。イズマに耐えず攻撃を叩き込んでいた個体群はしかし、途端に動きを鈍らせ、狙いを外し始めた。もとよりこの戦場の敵戦力は、彼を『殺し切る』手札の持ち主が存在しない。イズマの狙いすました光翼は次々とヤクルスを貫き、既存の個体の3分の2程度を殲滅するに至る。……が、樹の撃破に遅れた一手が痛い。続けざまに放出されたヤクルスが四方に散り、ライオリットやサイズに突き刺さる。オデットの足元に一体が転がり込んだのを見てサイズの動きに一瞬の隙が生まれるが、彼女がそうやわでは無いことも知っている。樹に向き直ったサイズの一撃は辛くも樹を斬りつけ、続く2人の攻勢への端緒となった。
「因縁のある方にコルミロを任せたくはありますが、そう言っていられる余裕……も、ありませんか」
『ははっ、君達がどう思っているのかは知らないけど、僕はそういうじめじめした感情は大嫌いだなあ。みんな一緒に僕のお腹に収まれば、少しは「いんねん」を感じられるかもよ?』
「こいつを樹から引き剥がさないと……なのに、これではな。全力で分断するしか……!」
 瑠璃とルクトの攻勢は、間違いなくコルミロとアンフィスバエナへと傷と不調を蓄積させていた。なまじ肉体を共有しているだけに不調は着実に双方を蝕む。魔種相応の抵抗力も、くり返し打ち込まれれば無敵でもなく。倒せる、などと思う傲慢はないが、がっちりと絡みついた胴は分断したいところ……だが、両者は魔種に拘泥するあまり、生まれ続けるヤクルスに視線が追いつかない。イズマの挑発やオデットの放つ混沌から逃れ、背後に迫る小型亜竜……その影を、しかし治癒に回っていたレインが縛り上げた。
「一度……一人に狙いを纏めて……距離を取って。この蛇は……倒しておく……から」
「落ち着いて、一つずつ状況を整理しよう。コルミロをもう少し、頼めるか?」
 イズマはヤクルスを引き付けつつ、叫ぶように瑠璃達に告げる。彼女たちの戦い方に誤りがあったか? といえば否だ。惜しむらくは、コルミロの初動こそがこの場にいた誰もが想定していなかったことにある。
 2人を狙い、あわよくば他の面々も蹴散らそうと荒れ狂うコルミロの暴風のような攻勢。降り注ぐヤクルス。レインの治療がその均衡をなんとか引き寄せていた。そして、状況は――動く。


「流石に実の側までは操れなかったけど、射出方向は操れるみたいだな? わかったところで、もう用済みだがな……っ!」
「あっちの樹からアンフィスバエナが離れたっスよ! このまま叩くっス!」
 ミーナの放った攻勢は、ヤクルスの樹の行動を歪め、射出の指向性を少しだけ、歪めた。せいぜい樹の足元に押し止める程度だが、あたり構わず撒き散らされるよりは随分とマシだ。
 そのままイズマの方へと群がっていく個体群を横目に振るわれたライオリットの一撃を以て樹は轟音を立てながら倒れていく……内側から鮮血のような樹液(あるいは体液)を撒き散らしながら。
 しかし、その間の代償は安くはなかった。少しの判断ミスの積み重ねが、サイズを行動不能に至らしめていたのだ。レインの治療も、遍くすべてを癒せる訳では無い。収支が崩れれば、必然の流れといえよう。
「くそ……っ!」
 イズマは呻く。彼は倒れない。彼は倒れられない。何度も何度も己が実を引き付け、攻撃を引き受け続けてなお倒れない。それは、ヤクルスの樹にとってみれば『倒すべき敵』から『避けるべき敵』へと判断をシフトするに足る能力だった。それを歪めるのが彼の挑発でありミーナ等による射出方向の錯誤であるが、辛うじてイズマから距離を取った個体がいれば、必然彼には近寄ろうとしない。
 正攻法で、必勝法。それを選択した彼に落ち度があろうか? 否だ。生半な相手や十分に連携が取れた状況、十分な情報。そして策を弄さない相手であればそれでよかった。
 相手が考えて動く。その一点。
「動きが鈍くなってきたようだな? まだまだ行くぞ……!」
『……君達は随分、避けるのがうまいね』
 十分に不調を重ね、ヤクルスの樹から引き剥がした。コルミロの手を鈍らせるに十分な布石を打った。勝利の影が見え、それを踏むべくルクトは足を伸ばしたはずだった。が、影は逆に、彼女の肩に食いつく。避けた、と思った。ミスはなかったはずだ。必中を期した攻撃だったか? 違う。それにしては威力が大きすぎる。だとすれば、コルミロの執念が乾坤一擲の機を捉えたのだ。
『その顔、その動揺。そして、疲れが見えてきた君達の顔……最高だね』
 饒舌になったコルミロは、一瞬前の不調の兆しがきれいに消えている。
 瑠璃が追いすがるように自らへと振り向かせようとしたが、遅い。長く伸びていた双頭を自ら引き寄せ絡み合ったアンフィスバエナとコルミロの両者は、まるで合唱でもするかのように咆哮した。
 瑠璃とルクトは思わず耳を塞ぐ。樹と樹の間を駆けるライオリットをも、それは捉えた。だが、距離をとっていたミーナやレイン、オデットまでは届かない。近距離における音響のぶつかり合い。共振による破壊……それで倒れなかったのだから、3名の優秀さ、そして予め治療を施したレインの慧眼たるや凄まじいといえよう。それでも、運命が儚く散る音は避けられなかったけれど……。
「なんだ、今のは……!?」
「どうだっていいわ。私は今ちょっと機嫌が悪いの」
 動揺するイズマをよそに、オデットは前進する。サイズを痛めつけられた。あの音響爆弾がその近くで響けば、命の危機もあり得る。よしんば死を避けても、死への階段は数段飛ばしで登るだろう。そればかりは、許せない。それだけは、避けたい。
 ここからコルミロを引き剥がさねば。
「今……治す……コルミロも……逃さない……」
 治癒、そして攻撃。光翼を生み出したレインはコルミロの周囲めがけそれを叩き込み、続けざまに治療を施す。吐いた息に明らかな焦りが見えたが、さりとて彼は諦めなかった。
「ライオリット!」
「わかってるっス! 役割は間違えないっスよ!」
 ミーナは今まで、数限りない魔種や強大な敵と相対した。今その経験則が、勝利を勝ち取ることではなく、敗北を喫しないことを自らに課した。ライオリットは、蓄積した経験が初志貫徹を己に強いた。
 樹を、伐り倒す。まずはそこから、全てを成す。
『楽しいなあ……そういう感情を見るのも、食べるのも美味しいだなんてね!』
 コルミロの哄笑が響いた。


 イズマは倒れる事ができない。倒れるに足る力を、今のコルミロが持ち合わせていないからだ。
「コルミロ……一つだけ教えろ。アンフィスバエナを半分喰ったのはどんな奴だったんだ?」
『さあ? 僕はその時こいつの中だったし、『僕』としては存在してなかったからね。ただの内容物にはわからないよ。ただ、この辺りを飛び回る竜種にでも会ったんじゃないかな?』
「それがアンタみたいな大飯喰らいだったってワケ? 馬鹿にしてるわ」
 イズマの問いにけらけらと笑うコルミロの姿に、オデットは怒りをつのらせた。
 勝つという決意、勝てるという確信。だがそれらが脆く折れ崩れてなお、一同はコルミロへの敵意を崩さなかった。
「まだ……負けてない……けど……」
『うん? ……うん。君達をここで食べるのは勿体ないね。行きなよ。「逃してあげるから」』
 レインが自らの弱気への反駁を口にする。その声を拾い上げたコルミロは、この日一番の笑みをその顔に載せた。屈辱極まりないそれはしかし、コルミロがヘスペリデスで命をふたたび落とす可能性、イレギュラーズがコルミロを喰らった何かに遭遇する可能性、それ以外のあまたの可能性への端緒たりうる。
 今は、逃げるしか許されない。
 死ぬまで戦う時ではない。彼らの如き精鋭は、とりわけそうだ。

成否

失敗

MVP

なし

状態異常

サイズ(p3p000319)[重傷]
妖精■■として
志屍 志(p3p000416)[重傷]
密偵頭兼誓願伝達業
ルクト・ナード(p3p007354)[重傷]
蒼空の眼
ライオリット・ベンダバール(p3p010380)[重傷]
青の疾風譚
レイン・レイン(p3p010586)[重傷]
玉響

あとがき

 敵への共感と「うるせぇ〇ね!」のバランスは常に難しいところがあります。
 共感性ゼロのコルミロみたいな相手の場合、〇ね全振りでも大丈夫ではありますが。
 それはそれとして、今回は残念な結果となりましたが、まだヘスペリデスでの行動は終わっていません。
 それではまた、多くの可能性の先で。

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