シナリオ詳細
<黄昏の園>トカゲの中の明星
オープニング
●竜種の里『ヘスペリデス』
ピュニシオンの森の先──その場所は竜種と人の架け橋となるべく作り上げられたらしい。
『ヘスペリデス』と呼ばれる、緑豊かな竜種の里。黄昏の時が永遠に続くかのように広がる薄明の空の下には、人の営みを真似して作った不格好な遺跡が点在していた。デザストル特有の名も知らぬ花々が咲き乱れ、風光明媚な光景が広がる。
幾重もの戦いを経て、イレギュラーズはヘスペリデスにたどり着いた。そして、『冠位暴食』と呼ばれた男の正体にもたどり着く。
里おじさま――亜竜集落で一番に巨大である『フリアノン』の相談役として出入りしていたベルゼー・グラトニオスは、冠位魔種であった。その真実は、亜竜集落に大きな衝撃をもたらした。
里おじさまとして慕われ、『亜竜姫』珱・琉珂(p3n000246)からも親代わりとして慕われていたベルゼー。情け深いベルゼーは冠位暴食でありながら、良き隣人として亜竜種や竜種たちとの関係を築いてきた。それは我が子、家族に向けられる慈愛そのものであり、ベルゼーの欠陥でもあった。そして、もう1つの欠陥は、『冠位暴食』としての『権能をコントロール仕切れない』こと。
自滅しかけた練達への六竜を伴っての攻略作戦、大樹ファルカウでの防衛作戦――これらの犠牲を払ってでも、ベルゼーは覇竜領域を滅ぼす事を拒絶した。だが、滅びる時はいずれ訪れる。ベルゼーが暴走すれば、すべてを喰らい尽くすことになる。集落のフリアノン、ベルゼーが作り出した竜種たちの憩いの地『ヘスペリデス』さえも──。
ヘスペリデスに退避しているベルゼーは、竜種たちと共にいる。
魔種であり、亜竜種であった白堊、『花護竜』テロニュクスは友人であるベルゼーを支え、その苦悩を和らげるため、琉珈にある提案を持ち掛けた。
ヘスペリデスには、『女神の欠片』と呼ばれるとある竜の落とし物が無数に散らばっている。女神の欠片を集めることが、唯一ベルゼーの苦しみを和らげる方法だと白堊は語った。また、テロニュクスは女神の欠片が、イレギュラーズにとっても有益なものとなることもほのめかした。
「──ベルゼー・グラトニオスという人は、あなたたちを傷付けたくはないのです。
だからこそ、御守りとして持って居てください。無数に散らばったそれを集めれば、何時か良き未来に辿り着きましょう」
フリアノンの里長として、琉珈はイレギュラーズに女神の欠片の捜索を依頼する。
「ヘスペリデスを探索し、『女神の欠片』というものを集めてみましょう。それが滅びのアークなら、集めてどうにか廃棄すれば良い。
テロニュクス達の言う通り私達を護る武器になるのなら……それはオジサマと対峙するときに、きっと役に立つもの。遣ってみる価値はあるわ」
●明星の歓待
「人の子、何を嗅ぎ回っている?」
ヘスペリデスにたどり着き、花園のような開けた大地に踏み出そうとした時だった。
頭上を遮っていた木々を踏み倒し、その巨大な影はイレギュラーズの前に降り立った。
2階建ての家屋と同等の高さからイレギュラーズを見下ろす影──首筋のまだら模様が目立つ巨大な竜種は、イレギュラーズに向けて言った。
「人の子、嗅ぎ回る。探しているのは、これか?」
明星種と判断できる竜種は、鋭利な爪の間に摘んでいるものをイレギュラーズに見せつける。それは大人の頭ほどの大きさで、真珠のように丸く光沢を放っていた。
どのような目的でイレギュラーズの前に現れたのか──未だはっきりとしない竜種の真意を探るように、射るような視線が集中する。
竜種は地の底から響くような低い声で言った。
「女神の欠片、探す。テロニュクス、欠片探しを手伝わせたい」
真珠のようなものを示す竜種は、それが『女神の欠片』であることをほのめかす。
「我、手伝う。テロニュクス、見返りを寄越すべきだ」
イレギュラーズの1人1人を眺める竜種は仕切りに舌なめずりを始めると、
「お前たち、テロニュクスの土産──」
鼻息荒い竜種は長い首を傾け、後ずさるイレギュラーズに顔を近づけようとする。鳴っているのは喉の音か、腹の音かは判別できないが、イレギュラーズをエサとして見ていることは確かである。
鼻を鳴らす竜種は、一頻り獲物の匂いを嗅ぎ回ったが、その場で牙を剥くことはなかった。
「人の子、食べることはない。ベルゼーと約束した」
竜種の一言に誰もが安堵した矢先、竜種はイレギュラーズの目の前で女神の欠片を弾き飛ばした。欠片は林の向こうの池を越え、更にその先の遺跡付近を越えた辺りに落ちたように見えた。視力が優れたものであれば、落ちた場所をより正確に捉えることができただろう。
「食べることはない。だが、おもちゃにするなとは言われなかった」
竜種にとってはアリ同然のイレギュラーズを見下ろし、一方的にゲームを仕掛けてきた。
「我、退屈。人の子、全力で抗え。楽しませろ」
──およそ800メートル先に飛ばされた女神の欠片を竜種より先に見つければ、イレギュラーズに欠片を譲る。あるいは、竜種が欠片を見つけた時点で、1人以上立ち続けている者がいた場合でも欠片を譲る。それが竜種が課したルールであった。
絶対に殺すというほどの意向はないが、死なない程度に手加減してやるほどの義理もない。そんな気配を傲岸不遜な竜種から感じ取ることができた。
人間など歯牙にもかけない竜種からしてみれば、道端のアリを潰すような遊びである。しかし、アリだと思っていた存在が、トカゲ並みかそれ以上の抵抗を見せたなら、変わるものもあるだろう──。
- <黄昏の園>トカゲの中の明星Lv:35以上完了
- GM名夏雨
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2023年06月01日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
竜種の巨体に備わった両翼がはばたき、暴風が巻き起こる。イレギュラーズは暴風にも耐え、ひとまず竜種の目の前から退避する。
「そんなに退屈なら遊んであげる! 捕まえられるものなら捕まえてみてよ!」
『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)は竜種が飛び立つ最後まで残り、威勢よく挑発した。
『灰雪に舞う翼』アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)は、竜種が遠くへと弾き飛ばした女神の欠片の方角を正確に捉えていた。
「みんな、きっと欠片はあの遺跡の近くにあるはずだよ!」
アクセルが指し示した遺跡は、遠目には岩を積み重ねた塊に見えた。視界の先にある池、小高い丘を越えてまっすぐに進めば、そこへとたどり着くはず──。
同様に女神の欠片の位置を把握した『青の疾風譚』ライオリット・ベンダバール(p3p010380)は、アクセルの一言を肯定した。
「きっとあそこにあるっス! もたもたしていられな──」
そう言いかけたライオリットが振り返った瞬間、上空から前触れもなく隕石群が降り注ぐ。それは竜種の能力によって生み出されたエネルギー弾であり、降り注ぐ隕石と化してイレギュラーズに襲い来る。
乱れ飛ぶ隕石を掻い潜り、竜種とのゲームに挑むイレギュラーズは、それぞれの役目を果たすために散らばっていく。
あらゆる方角に散らばったイレギュラーズの姿を認めつつも、竜種はある者の姿を探した。竜種は焔の挑発に応じたのか、燃えるように赤い髪をなびかせる焔の姿を地上に見出そうとする。
アクセルは飛行種としての機動力を生かし、芝地をまっすぐに突っ切る形で先行する。焔を始めとした『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)、『ノットプリズン』炎 練倒(p3p010353)、『夜守の魔女』セレナ・夜月(p3p010688)の3人も、芝地を駆け抜けようとアクセルの後に続く。セレナは空飛ぶ箒に乗り、迅速に移動を開始した。駆け出した焔たちの頭上を遮るものはなく、竜種はその姿をよく見下ろすことができた。
上空に現れた竜種の巨大な影を察知し、警戒する周囲の亜竜たちは一斉に頭をもたげる。芝地の進路上にある池、その周辺に集っていた亜竜たちも竜種の気配に反応を示した。
上空の竜種はイレギュラーズの頭上を旋回し、1人1人の動きを把握しようとする動きが窺えた。その竜種の気を引きつけようと、練倒は自らの魔力を瞬時に収束させる。破壊力を高めた強力な一撃は砲撃と化し、練倒の攻撃は竜種へ直撃した。
炸裂した魔力が硝煙のように立ち上り、竜種の顔全体を覆う。しかし、それは一瞬でかき消され、竜種は練倒を目指して滑空を始めた。
「ガーハッハッハ、危険な竜種の遊び相手をするだけで目的の女神の欠片を手に入れられるとは、ラッキーであるな」
練倒は皮肉を込めつつも一層気を引き締め、頭上からの攻撃に注意を払う。
練倒や焔と共に直進を開始したヨゾラは竜種の進路を認め、攻撃に移ろうと構える。ヨゾラの背に刻まれた魔術紋は、人知れず輝きを帯びた。ヨゾラは練倒や焔、セレナとは距離を取り、芝地を斜めに横断するように進み始める。
芝地を抜けようとする者らは、囮役となって竜種の注意を引いた。一方で、『永炎勇狼』ウェール=ナイトボート(p3p000561)と『正義の味方』皿倉 咲良(p3p009816)は竜種に見つからないよう、林の中を進んでいく。亜竜などの魔物に遭遇することも想定し、2人は気配を察知されないよう慎重に行動した。遠くに見える遺跡を目印にしながら、女神の欠片を確保するために前進していく。
『青の疾風譚』ライオリット・ベンダバール(p3p010380)は、焔たちの姿を追って飛翔した竜種を見送った。両翼を広げる亜竜種のライオリットは、機動力なら竜種にも引けを取らないと自負していた。
ライオリットは竜種の動き、芝地の進路上に見える亜竜の様子を窺う。囮役としてあえて危険を冒す者らのためにも、ライオリットは最短最速で遺跡付近にたどり着く機会を狙っていた。
ヨゾラが芝地を横断した先には、3体の亜竜の姿があった。ワイバーンの亜種──首筋に短いタテガミのような毛を生やした亜竜は、接近するヨゾラの姿に気づき、一斉に威嚇行動を見せた。竜種の注意を他の者からそらすためにも、ヨゾラは果敢に攻撃を開始する。
亜竜たちの足元は、一瞬にして星空の海に塗り替わった。亜竜たちの体は、星屑を散りばめた底なし沼にずぶずぶと沈み込んでいく。あふれ出す星屑は泥のようにまとわりつき、亜竜の体を侵食し始める。
――君等に恨みはないけど、今は大事なゲーム中なんだ……。
「――ごめんね!」
ヨゾラの能力に翻弄される亜竜たちを前にして、ヨゾラは言った。
亜竜たちの動きが鈍っている間、ヨゾラは竜種の動きを注視する。
ヨゾラが上空の竜種の姿に視線を向けた直後、竜種の双眸は妖しい輝きを帯びた。次の瞬間、地面を突き砕くようにして巨大な氷柱が出現した。池のそばまで突き進んできた焔や練倒は、氷柱を目の前にして動きを止めた。周囲にいた複数の亜竜たちは、一斉にその場から飛び去っていく。
一瞬動きを止めた焔と練倒だったが、危険を察知したように走り出した。2人の予想は的中する。前触れとなって出現した氷柱を中心にして、その周りに次々と新たな氷柱が突き出てくる。生え続ける鋭い氷柱は、2人の後を追うように迫った。
箒に乗ったセレナはすでに地上から退避し、竜種が操る氷柱の動きを見極めようとする。二手に分かれる練倒と焔の動きを見通し、セレナは焔に対して進路を変えるよう促した。
「焔、そっちじゃないわ!」
焔はセレナの言う通りに真横へ飛び退き、自らを串刺しにしようと急速に伸び切った氷柱を見上げた。気づけば林のように生えそろった氷柱に囲まれていたが、焔は迷うことなく氷柱に向けて槍の切っ先を掲げた。その切っ先からレーザーのような一閃が放たれたかと思えば、氷柱の林は一挙に砕け散る。焔は前進するペースを崩さず、易々と氷柱が破壊された跡を飛び越えていく。
完全に竜種の狙いから逸れた練倒は、連なった氷柱の林を顧みて心中でつぶやく。
――問答無用で殺しに来ないだけ、理性的と見るかは悩ましい所ではあるな。
しばらく焔を見守っていたセレナだったが、セレナの方へと突っ込んでくる亜竜の群れに気づく。竜種の攻撃に驚き、地上から飛び上がった群れはセレナを突き飛ばす勢いで急接近する。しかし、セレナは危な気ない箒さばきで対処し、亜竜の群れの間をすり抜けた。
イレギュラーズの頭上を悠々と旋回する竜種の姿は、セレナの視界にも入り込む。
悠然と滑空する竜種の姿は、獲物を品定めしている様子にも見えた。それだけ強大な力を誇示する竜種に対し、セレナの表情にはどこか悔しさがにじみ出す。セレナは心中でつぶやいた。
――退屈を紛らわせる為におもちゃになれとか……事実、それだけの力の差があるのも理解するけどね。
腹立たしい思いを糧にして、セレナは竜種とのゲームに全力を傾ける意志を覗かせる。
「一泡吹かせてやろうじゃないのよ。女神の欠片だって、どうしても必要なんだから」
リスの使い魔を使役する焔は五感を共有し、秘かに林の中を進む咲良やウェールの状況を把握することにも努めた。一方で、咲良も小鳥の使い魔を飛ばし、上空から遺跡付近の様子を探らせる。
咲良とウェールは、できる限り魔物との接触、戦闘を避けようと立ち回る。木々の向こうにちらつく魔物の影を見据える咲良は、対象との距離を測りながら手近な小石を手にする。
咲良は魔物の注意をそらし、自らの気配を感づかれないように向かい側の茂みに向けて小石を放り投げた。魔物が茂みの方に気を取られている隙に、咲良は慎重かつ迅速に遺跡のある方角へと進んでいく。
背中に飛行機構を備えた装備を駆使するウェールは、低空飛行を続けて林の中を進んでいた。ウェールも能力を駆使することで、咲良と同様に魔物との遭遇を回避しながら歩みを進める。
木々に隔たれていようとも、ウェールの目はその先まで見透かすことができた。ウェールは更に特殊な力を発揮し、自在に障壁をすり抜けることで順調に遺跡の方へと近づいていく。
上空からイレギュラーズを見渡す竜種は、次に先行するアクセルに目をつけた。いつでも竜種の攻撃に対処できるように、アクセルは低空での飛行を維持していた。
竜種はアクセルの頭上から巨大なエネルギー弾を降らせ、無数の隕石が激突するように地面は抉られた。竜種の攻撃に驚き、芝地から逃げ出そうとする亜竜たちはアクセルと宙を並走していく。だが、間もなくして亜竜は隕石に撃ち落とされ、続々と地面へ突っ込んだ。
地面を突き砕く隕石から生じる風圧に、ライオリットは目を細める。
──まともに突っ込んでも、避け切れるかどうか……無駄に消耗する訳にはいかないっス。
竜種の攻撃の餌食になるのを極力避けようと、ライオリットは行動すべき時を待った。
常に芝地の上空を旋回し続けていた竜種だったが、不意に進路を傾けたように見えた。竜種は明らかに、ウェールや咲良がいる林方面に接近しようとしている。2人の姿が芝地に見当たらないことに気づかれた──練倒はそう推察し、本格的に竜種への攻撃を開始した。
焔も竜種の動きに気づき、練倒と示し合わせたように攻撃に加わる。
練倒は竜種の足首に向けて、呪力によって編まれた漆黒の鎖を放つ。巻きついた鎖から呪力を送り込むことで、練倒はわずかでも時間を稼ごうとした。その直後、竜種は地上へと急降下する態勢を取り、恐ろしい速さで練倒の下へと迫った。
勢いよく着地した竜種により、地面には幾重にもヒビが刻まれ、激しく土煙が巻き上がる。焔や練倒が中心となって果敢にも竜種を引きつけたことで、ライオリットは遂にその瞬間を見出した。
土煙が舞い上がる中、ライオリットは猛スピードで竜種の真横をすり抜けていく。その姿はたちまち遠くを飛翔する影となり、一瞬目を見張る竜種には一抹の焦りのようなものが感じられた。
ライオリットは先行していたアクセルをも追い越し、遺跡のそばまで一気に距離を縮める。竜種が追いつくまでの時間を稼ぐためにも、焔は攻撃を止めることはなかった。
「どうしたの? 私はまだ捕まってないよ?」
炎の力を操る焔は灼熱の一閃を放ち、繰り返し竜種を挑発した。
願いを込めた歌を力に変え、ヨゾラは焔たちの傷を癒すためにサポートに回る。
竜種を少しでも長く留まらせるために体を張る焔に続き、練倒も懸命に反撃に加わる。それを支えるヨゾラの澄み切った歌声は、癒しの力を存分に発揮する。周囲に響き渡る歌声と共に、ヨゾラの背中の魔術紋は一層激しく輝いた。
竜種は、遠ざかったライオリットの姿を目で追いかける。目の前のヨゾラたちには構わずに、竜種は地響きを生じさせながら遺跡の方へと向かい出した。その進路上を飛んでいたアクセルが竜種の方へ振り返ろうとした時、すぐ脇の茂みから飛び出す影があった。
咲良はアクセルと竜種の間に踏み入るように飛び出し、あるものを地面に向けて投げつけた。咲良が霞玉を破裂させたことによって、竜種の視界はもうもうと立ち上る煙幕によって遮られる。
アクセルの姿を見失った竜種に対し、練倒は更に追撃を行う。練倒は、極限まで練り上げた魔力を撃ち出した。繰り返される攻撃に対し、竜種の体はびくともしていない。
「人の子よ、抗え。そんなものか?」
竜種の一言と共に、攻撃は激しさを増していく。アクセルは芝地に降り注ぐ隕石の勢いに目を見張り、竜種の足止めを担う者らの身を案じた。しかし、遠目から見ても各々の一撃には、込められた気迫を強く感じた。体を張って竜種と対抗する働きに報いるためにも、アクセルは遺跡に向かうことを優先した。
ライオリットは竜種をも圧倒する機動力を発揮し、一足早く遺跡の目の前にたどり着く。
「この辺にあるはずっス! 絶対に見つけてやるっス!!」
己の感覚を信じ、ライオリットは周辺にあるはずの女神の欠片を必死に探す。
欠片を探し始めたライオリットの後に続き、間もなくしてウェールも遺跡のそばの茂みから躍り出た。林の中のルートを進んできたウェールは、同時に自らに迫る影に気づく。その亜竜は縄張りに踏み込んだ1人であるウェールに対し牙をむく。即座に構えようとしたウェールだったが、その場に追いついたアクセルは亜竜へと攻撃を放つ。アクセルから放たれた青い衝撃波は、ウェールの目の前に迫った亜竜を吹き飛ばしてみせた。
遺跡付近は亜竜の縄張りらしく、あちこちから威嚇するような唸り声が聞こえてくる。すでに遺跡のそばまでやって来たウェール、アクセル、ライオリットらは亜竜の存在を警戒しつつも、欠片探しに集中する。竜種が足止めされている内に見つけ出せれば上々だが、すでに差し迫った状態だろう。
箒に乗ったセレナも竜種を引き留めるために力の限りを尽くそうと、一層激しく攻勢をかける。虹色に輝く流星のような輝きが竜種の視界を染め上げ、無数の花火の破裂音が竜種の聴覚や視覚を支配する。竜種はセレナの攻撃や陽動に対し動きを止めたが、その硬い鱗の上を弾けるばかりの攻撃に怯んだのは一瞬のことだった。
竜種は前足で地上に生えた巨大な氷柱の先端をつかみ、セレナに向けて槍のように投げ放つ。一瞬の内に竜種から飛び出した反撃は、状況も解らぬままにセレナを地面へと叩きつけた。
焔や練倒、ヨゾラの3人も、懸命に竜種に立ち向かい、立ち上がるのがやっとの状況まで食らいついてきた。女神の欠片──この地で起きるかもしれない悲劇に対して、何かしらの対応策となる可能性があるもの。判然としないその正体を探るためにも、竜種とのゲームで手を抜くことは考えられなかった。
咲良は上空の使い魔の目を通して、竜種の動きを確認した。
「みんな、もうこっちに近づいてくるよ!!」
咲良は竜種がすでに接近している事態を告げ、欠片の発見を急ぐよう促す。
――食べられないだけマシだと思うけど、「人間も大事にしてね!」ていうベルゼーの意図を察してはくれなかったのかなぁ。
そんな思いが表情に現れる咲良だったが、一刻もはやく欠片を見つけようと動き続けた。
──絶対に、女神の欠片を確保する!
その決意を燃やすウェールは、不本意にも大切な存在を傷つけてしまうことの辛さを身にしみて理解していた。魔種は害をなす敵であることはローレットとしては理解しているが、ウェールはベルゼーに同情を禁じえなかった。
ウェールの目の前には、岩のひとつひとつを積み木のように積み重ねた岩屋のような遺跡があった。透視能力を発揮するウェールの視線の先には、岩の向こうに確かに鈍い光を放つものがあった。
ウェールが遺跡の中を調べようとした瞬間、何かの影が頭上を覆う。それは真上を旋回する竜種の影だった。ウェールらの姿を捉えた竜種は、再度エネルギー弾を隕石のように降らせる。ウェールは咄嗟に遺跡のそばから離れ、隕石の被弾を免れた。
降り注ぐ隕石群は遺跡を崩壊させ、屋根や柱の部分の岩は突き砕かれた。遺跡は隕石が落ちた衝撃によってボロボロに崩れ去ったが、ウェールは岩の向こうに確かに欠片の存在を見出す。
地上へと降りた竜種がすぐそこまで迫っていたが、ウェールはそれすらも顧みず、崩れた岩の向こうに腕を突っ込んだ。ウェールは遮蔽物をすり抜ける能力を駆使して女神の欠片に手を伸ばしたが、分厚い岩に阻まれる。這いつくばるようにして必死に手を伸ばすウェールの背後に、竜種は前足を伸ばす。灰銀の尻尾をつかみあげられたウェールだったが、同時に崩れた遺跡の中から人の頭ほどの大きさの真珠を引きずり出した。それはまさしく女神の欠片だった。
光沢を帯びたつるつるとした表面の欠片は、竜種によって全身を引きずられるウェールの指先から転がり出した。共に欠片の捜索に臨んでいたアクセル、ライオリット、咲良の3人は、その欠片の行方を追いかける。転がる欠片の方へと飛び出そうとした咲良は、わずかな差で尻尾を振り回す竜種の動きを察知した。尻尾を避けて飛び退いた咲良は、欠片が更にあらぬ方向へ弾かれるのを認めた。
アクセルやライオリットも、必死に欠片が転がる先を追いかける。目の前で暴れ回る竜種に危機感を抱いたが、欠片を手にする機会を逃す訳にはいかない。アクセルは、危険を顧みずに飛び出した。
竜種の足元、岩の割れ目にすっぽりはまった欠片に手をかけ、「ぐぬぬぬうううーーーー!」とアクセルは踏ん張る。アクセルは全力を注ぎ、欠片を引き抜くことに成功した。
「危ない!」
咲良が鋭く叫ぶ声を耳にし、アクセルは迫る危機に気づいた。竜種によって踏みつけられそうになったアクセルは、次の瞬間には地面を転がるように身をそらしていた。竜種からの直撃を避けたアクセルは、地上を揺るがすほどの衝撃にも耐えようと身構える。竜種の目には欠片の存在が見えていないのか、アクセルの体は竜種の足先によって跳ね上げられた。
アクセルは、欠片を死守するために最後まで奮闘した。その両手からすっぽ抜けた欠片が転がる先には、ライオリットの姿があった。ライオリットはアクセルから託されるように、小高い丘を転がっていく女神の欠片を追いかける。
目の前のアクセルらに痛手を負わせた竜種は、衝動のままに遺跡を破壊し尽くして満足したのか、岩場にもたれかかるウェールを静かに見下ろす。
「人の子よ、生きているか?」
圧倒的な力の差を見せつけ、どこか冷淡な物言いをする竜種の様子を、咲良は気配を殺して見据えていた。転がる欠片を追い求め、翼を広げて宙を疾駆するライオリットの姿が最後の希望であったが、咲良は半ば間に合わないことを覚悟する。しかし――。
「オレたちの勝ちっスね!!」
響き渡るライオリットの声に対し、竜種は一瞬動きを止めた。視界の端にライオリットの影がちらつき、竜種はライオリットの方へ向き直る。ライオリットは、その両手の中に巨大な真珠のような女神の欠片を抱えていた。
ライオリットを見据える竜種は、どこかすねたような鼻にかかった声で、
「ふん……ここまでか。退屈、適度につぶせたぞ」
不遜な態度ながら、渋々負けを認めた。
全力で飛び回ったライオリットは、ようやく息をつくことができた。欠片をしっかりと抱えつつも、その場にへたり込むライオリット。セレナ、ヨゾラ、焔、練倒の4人は、深手を負いながらも芝地を進んでいた。遠目から見えるライオリットと竜種の姿を目にし、4人はその様子から多くを察した。
消耗し切った様子のセレナは、深いため息をついてつぶやく。
「時間は……どうにか稼げたようね」
──わたし達は竜からしたら塵芥のようかも知れないけれど、それでも……捨てたものじゃないって、思わせられたなら、ね。
「名前を聞かせてほしいっス。せっかくの縁を、この場だけで終わらせるのは勿体ないっス」
ライオリットは、その場から去ろうとする竜種に尋ねた。
背を向けた竜種がライオリットを一瞥した直後、「お腹空いてるんだよね?」と言って、咲良は道中手に入れていた野生の果実を竜種に差し出す。竜種からしてみれば、その果実は爪先に乗る程度の大きさのものだった。敵意がないことを伝えようとする咲良は、竜種の反応を窺う。
竜種は黙ったまま、咲良が差し出した果実を見つめる。そして、前足の爪の先に器用に果実を突き刺した。無言のままの竜種の心の内を読むことはできなかったが、わずかでも心が通った兆しはあった。
「我は、アラマド。呼ばれる、名前」
そう言い残して、アラマドは咲良たちの目の前から飛び立つ態勢に入った。焔はその場に追いつこうと、あちこち痛む体を引きずってきたが、空へと飛び上がった竜種を見上げて声を張り上げる。
「また遊ぼうよ! いつでも付き合ってあげるから!」
力を持て余している竜種に対し、焔は更に言い添えた。
「あっ、でもその時はこんな命がけのはだめだからね!」
成否
成功
MVP
なし
状態異常
あとがき
ご参加ありがとうございました。
GMコメント
●これまでの覇竜領域『デザストル』について
https://rev1.reversion.jp/page/kaerazunomori
●シナリオ導入
『ラドンの罪域』を越え、『ヘスペリデス』に踏み入ったあなたたちイレギュラーズは、林の影から周囲の様子を窺っていた。そこへ突如現れた竜種から、女神の欠片を賭けたゲームに付き合わされることになる。
断る前提などない。ひとまず、目の前の竜種の脅威から逃げなくては──。
●成功条件
女神の欠片を竜種より先に見つけ出す。あるいは、竜種が女神の欠片を見つけた時点で、1人以上が戦闘不能状態に陥っていないこと。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
●ヘスペリデスでの探索について
遠くに見える歪な遺跡、花畑が広がる大地、池のほとりに集う複数の亜竜――。
欠片が飛ばされた方角にまっすぐに向かう場合、イレギュラーズの姿を遮るものは何もない。開けた芝地を進むことになる。外周を進むように遠回りするのであれば、林との境目、群生する茂みなどを利用して竜種の目を掻い潜ることもできる。また、竜種との鬼ごっこによって、追い立てられた亜竜が障害となる恐れもある。
●竜種は説得に応じるか?
この竜種は、女神の欠片がどのような意図で利用されるかについては興味がないようです。ベルゼーと欠片の関係について、知ったうえで自らの気晴らしを優先させています。そのため、説得の効果は薄いでしょう。
●竜種について
明星種(アリオス)は比較的若い竜ですが、非常に強力な相手です。戦いを挑むのは自殺行為レベルです。
竜種は、容赦なくイレギュラーズの妨害に臨みます。基本的に飛行状態を維持します。
光る視線の先に鋭く巨大な氷柱のようなものを出現させ、対象を貫こうとする(神遠域【氷漬】)以外にも、隕石のように飛び交う巨大なエネルギー弾を放つ(神遠列【業炎】【崩落】)。その巨体によって相手を踏みつける攻撃(物近単【移】)は更に強力です。
個性豊かなイレギュラーズの皆さんの参加をお待ちしております。
行動方針
方針、攻略スタイルを決めてください。
【1】まっすぐ突っ切る
木々などの遮蔽物のない開けた芝地を進みます。途中に池があり、周囲には亜竜などの魔物の存在も確認できる。
【2】遠回りする
芝地を迂回し、林や茂みの影に潜みながら進む。竜種の存在を警戒し、逃げてきたた魔物と鉢合わせしてもおかしくはない。
亜竜などの対処について
亜竜などの魔物に遭遇した際の対処方針を決めてください。
【1】排除する
積極的に攻撃を行い、排除する。
【2】回避する
女神の欠片の捜索を優先し、回避を優先する。
【3】その他
プレイング内容に準拠した行動。
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