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シナリオ詳細

里長のすぺしゃるお料理教室~すぺしゃるばーすでぃ

完了

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「どうして――――――!」
 その日、秦・鈴花 (p3p010358)の叫び声が木霊した。

 フリアノンの里長である珱・琉珂 (p3n000246)は4月15日生まれだ。
 覇竜領域では『帰らずの森』と呼ばれるピュニシオンの森での探索に加え、ラドンの罪域での踏破調査が行なわれていた。
 隣国に当たるラサでも『吸血鬼』と呼ばれる者達の暗躍により国を揺らがす事態になっているらしい。
 詰まりは非常に忙しかったのだ。それはそれは鈴花に言わせれば「しんどっ!」である。
「けど、お祝いしないのもさみしいよね」
「まあ、そうよね」
 その小振りさ故に廃棄されることに決まっていた小さな宝石を更に砕いて作ったクッキーを囓っていたユウェル・ベルク (p3p010361)はテーブルにだらりと撓垂れ掛かりながらそう言った。
「どうしよっかー」
「お祝いするんでしょう? 色々手配はしてきたわ」
 ひょこりと顔を出した朱華 (p3p010458)は二人が顔をつきあわせて話していた談話室の椅子に腰掛けた。
 フリアノンの憩いの場所にもなっている広間、通称を談話室は珍しくがらんとしていた。皆、忙しない日々を送っているからだろうか。のんびりと茶を飲んでいる時間もないとでも言いたげだ。だが、その方がやりやすい。
「一応、ママ……じゃなかった、母様に聞いたら煉家の客間を貸してくれるって。キッチンも良ければ、って。
 食糧は鈴花のお家に頼んでも大丈夫よね? 秦家から食材は分けて貰いなさいって言われたから」
「大丈夫よ。サプライズパーティーだもの、ばれないように用意しなくちゃね」
「あと、お外から持ち込めるよね。さとちょーが居ないときに持ってこなきゃ!」
 クレープ、アイスクリームと外の世界の食べ物に思いを馳せるユウェルはそういえば肝心の里長の居場所を今日は確認していなかった事を思い出す。
「そういえば、さとちょーは?」
「そう言えば見てないわね」
 何処に行ったんだろうと亜竜種娘達が顔を見合わせていた刹那――

「呼び出て飛び出てー! じゃじゃーん、私!」
「「「………」」」

 何処から聞いていたのかは分からないが自信満々にエプロンを着用した琉珂が立っていた。
 籠に謎に叫び声を上げている木の実や蠢く草木を『ぶち込んで』、『今にも逃げ出しそうな大根』の葉を掴んでいる。
「さっき、お外の畑で貰ったの。この子! あのね、この葉っぱの部分を掴むと命の危険を感じて逃げだそうとするのよ」
「そう」
「それでね、この木の実はノリノリンゴっていって、思わず踊り出したくなるの」
「そ、そうなんだ」
「で、この動いているのはね、ピュニシオンの森で見付けたのだけれど、まだ食べたことがなくって」
「そうじゃなくって、琉珂。どうしてエプロン付けてるの?」
 鈴花、ユウェル、朱華は厭な予感――いや、予感では済まないかもしれない――を感じていた。
 毎日が忙しなく彼女の誕生日を忘れていたのは確かだ。
 サプライズで誕生会の話し合いをして居たが、肝心の料理を話し合っている最中に『サプライズ相手』の所在を確認していなかったのもまた確かだ。
「え? えへへ。私のお誕生日会をしてくれるんでしょう?」
 ――ばれていた。
「ええ。そう。だから主役は座っていてね」
 鈴花はエプロンの紐を解こうとしたが琉珂が手脚をバタバタと動かし拒絶する。
「お料理でしょ? 私も! 私も一緒に作る!」
「さとちょーは主役だよ? どしんと座って待っててよ」
「どうして? 私も一緒に作ると何倍も楽しいわよ! ね!?」
「そうね。琉珂のお料理はとっても楽しいけど、やっぱり主役は遅れてくる者よ。サプライズの予定だったんだし、ね?」
「もうバレたんだからサプライズじゃないわ! ね、いいでしょ? ね?」
「だ――」
 ダメ、と言う前に琉珂はがっかりとしながら大根を抱き締めた。大根が動きを止めて項垂れているようにも見える。
「お誕生日様の私のお願いなのに……? 皆と一緒にお料理して、楽しいなあってしたかったのに……」
 押し切られた鈴花が「仕方ないわね」と震える声音で絞りだそうとした刹那――
「どうした? やけに騒がしいな」
「ああ、琉珂。お疲れ様。皆も……どうかしたのか?」
 顔が反則ユニットが突如として現れた。鈴花の呼吸が止った。
 覇竜領域での依頼を熟した後だったのだろう。ルカ・ガンビーノ (p3p007268)とベネディクト=レベンディス=マナガルム (p3p008160)はやや草臥れた様子でもある。
「師匠! ベネディクトさん!
 あのね、あのね、私のお誕生日会をするらしいの。それで、今から一緒にご飯を作るのよ」
 にんまりと微笑んでいた二人の背後から「お料理するの?」とひょこりと顔を出したのはスティア・エイル・ヴァークライト (p3p001034)。
「しかもお誕生日会なの? すごくすぺしゃるな日だね」
「そうなの、すっごくすぺしゃるなの!」
 ――その時、ベネディクトははっとした様子でルカを一瞥した。ルカは琉珂の料理が突然走り出すことをよく知っている。

「一緒にお料理作ろうね! えいえいおー!」
「わーい、スティアも一緒よ! えいえいおー!」
 すぺしゃるすぎる量を作るスティアと、覇竜領域特有の材料を勝手にぶち込んでくる琉珂。
 そんな二人と共に無事に調理を終えて『お誕生日会』を開けるか――!
 皆の胃腸と、鈴花の心臓は無事なのか――!

GMコメント

 夏あかねです。だぶるすぺしゃるだ!
 地涌に遊んでいってくださいませ。琉珂は誰よりも自由です。

●目標!
 私のお誕生日会なんでしょ? 沢山美味しいものを作りましょうね!
 場所は、煉家……朱華のおうちを貸して貰えるし、飾り付けも紅花がしてくれたのね。嬉しいわ!
 今日は何を食べようかしら? ね、ね、この大根も入れていい?

 戦闘は基本はありませんが、琉珂の調理スキルは壊滅的です。
 モンスターと呼べるような生き物が現れる可能性もあります。特に今回は沢山外から採取してきた帰りです。
 琉珂のお料理が動いている理由は『覇竜領域特有の植生』の食材をこっそりとぶち込んでいるからです。
 本人は所謂「よかれと思ってアレンジした」タイプです。また「火加減も勢いよね!」とか「ざばっといれればおいしい!」みたいなタイプですので矯正は難しいかも知れません。

●調理道具など
 色々と魔法道具を調達してきています。練達ほど便利なものはありませんが、ある程度は調理に困らなさそうです。
 食材も持ち込み可能。秦家の食料庫から調達することも出来ます。
 琉珂が持っているのは動いている大根やら笑っている草やら、美味しそうだけれど食べると何かが起りそうな木の実などなどです。

●お祝い会場
 朱華さんのご実家である煉家の客間です。飾り付けも出来ます。
 琉珂は飾り付けを担当してくれと言われても最低でも1品作らない限りはその場から離れなさそうです……。

●珱・琉珂(p3n000246)
 ご存じ、覇竜領域デザストルで一番大きな亜竜集落フリアノン。巨竜フリアノンの骨と洞穴で作られた巨大集落の里長です。
 両親を竜種の襲来で亡くし、父代りと慕った『オジサマ』は暴食の冠位魔種ベルゼーでした。
 里の行く末を定めるべく里長会議に縛り付けられていた様子ですが一先ずは現状維持を採択され、一安心した頃。
 お料理スキルはありません。包丁握れば血が流れます。手先が不器用、勢いガール。
『落ち着いて』と言われればなんとかお料理できそうです。天賦の才能『勢い任せ』!
 お誕生日会だと聞いて本気で喜んでいます。うれしいな~!

  • 里長のすぺしゃるお料理教室~すぺしゃるばーすでぃ完了
  • GM名夏あかね
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2023年05月11日 22時05分
  • 参加人数6/6人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(6人)

スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
秦・鈴花(p3p010358)
未来を背負う者
月瑠(p3p010361)
未来を背負う者
煉・朱華(p3p010458)
未来を背負う者

リプレイ


 幼い頃、両親とささやかな誕生日会をした。少し変わった色の花を手にしていた参加者は「大きくなる琉珂が楽しみだ」と笑ってくれた。
 ――なんて、当たり前の様な日常の切れ端を、思い出したのは偶然のことだった。
 そんな思い出にばかり、注力して居なくったって、『亜竜姫』珱・琉珂 (p3n000246)の『今』は最高に、最強で、最大級に『ハッピー』なのだ。

「――初っ端からサプライズパーティーが頓挫する事になるとは思わなかったわよね、本当に」
 困ったような笑顔を浮かべ肩を竦めた『煉獄の剣』朱華(p3p010458)に「えへへ」と琉珂は笑い返す。
 サプライズパーティーを計画していた亜竜種ガール達は三人で顔を寄せ合い『作戦会議』を講じていたのである。
「……いやもう百歩譲ってリュカに企みがバレたのはいいのよ。
 いいのよっていうかアタシ達がリュカのことをすっかり忘れてて、リュカがアタシ達が仕事じゃないのに揃って居ないとなれば気付くのも納得で――ほら、リュカってばアタシ達の事大好きだし」
「えへー」
 えへーじゃないわよ、と肘で突いた『秦の倉庫守』秦・鈴花(p3p010358)の顔面からは血の気が引いている。隣にちょこんと座っていた『宝食姫』ユウェル・ベルク(p3p010361)は「あー、りんりんは『また』だー」と思ったことだろう。
 にんまりと微笑み誕生日を祝って貰えることを喜んでいる琉珂の隣には、そう。
「そういや知らなかったな、琉珂の誕生日。
 何の用意もしてねえが、そうと知ったなら知らん顔をする気はねえ、遅れた分だけ更に楽しませてやろうじゃねえか」
「ほんと? 師匠!」
「そうか、琉珂の誕生日だったのか。おめでとう、今年一年も良い事がありますように」
「有り難う! ベネディクトさん!」
『運命砕き』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)と『騎士の矜持』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)、そして――
「琉珂ちゃん、ハッピーバースデー! 頑張ってお料理を作ろうね。えいえいおー!」
 すぺしゃるすぎる『聖女頌歌』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)の姿があった。
 ルカとベネディクト、そしてスティアは覇竜領域での仕事を終えてきたばかりだ。少しの休息に立ち寄ったフリアノンで琉珂の誕生会の話を『偶然』聞いただけに過ぎない。そう、偶然ではあるのだが、鈴花に言わせれば歩いて居たら凄い勢いで竜種が飛び込んできたような衝撃がある。
「でも! そこに! 顔が反則コンビが揃い踏みなんて思ってないわよ何アタシの誕生日!? 命日!?」
 ぎゃあ、と叫んだ鈴花は限界が近かった。彼女だって命が惜しい。致死量のイケメンを目の当たりにして、どうやって生き延びて――
「さとちょーのお誕生日! ちょっとの間だけ同い年だね、毎年半年だけあるお姉さん期間のおわり……。
 お誕生日くらい何事もなくお祝いしてあげようと思ってたのにバレちゃったね」
 ユウェルは鈴花の危機を華麗にスルーしていた。「お祝いだけでも嬉しいのよ」と笑う琉珂の腕の中では大根がばたばたと逃げだそうとしている。
「動いてる大根だね? んー? 動く料理なんて現れないはずだしね。うんうん、そんな物はなーい!
 ……なんだか食材から叫び声が聞こえる気がするけど疲れてるだけだよね? 最近忙しいからしょうがないね」
 調理すれば大丈夫だと言わんばかりに大根を受け取ったスティアが視線を逸らした。明らかに握った大根がバタバタと動いている。鳥を絞め殺す前の感覚に似ている、大根だ。大根と言う存在への認知が歪み始める。
「待って!」
『致死量のイケメン』という即死ギミックに苦しむ鈴花をさて置いて朱華が叫んだ。
「そのせいで琉珂とスティアの魔のコラボレーションが開催されようとしているし……駄目、駄目、絶対駄目!
 もしもすぺしゃるな料理達が走り出して家が無茶苦茶になったりしたら母様達に何て言われるか……か、考えただけでも恐ろしいわ……っ!?」
 ――脳裏に浮かんだのは煉・真朱と煉・紅花だった。母が静かに怒る顔を想像してから朱華は頭を抱えて首を振る。
「そんな事にならない為にも頑張るのよ、私! えいえいおー!」
「「えいえいおー!!」」
 悍ましいコラボレーションが始まる前に、無事に食い止められるのか――顔が反則な男達の足元でポメ太郎が「くぅん」と悲しげな声を上げて居た。


 料理、と言えば『何故か覇竜領域の食材を使いたいと意気込む余りクリーチャーを作り出す里長』と『何故か山盛りの料理を作成してしまうすぺしゃる聖女』が揃い踏みである。
 噛み締めるように「料理、か」と呟いたベネディクトの背後でこてんと首を傾げた茶太郎は「ご飯食べたいなあ」とでものほほんと考えて居るかのようである。
「……ああ、そうか。茶太郎はそういえば知らなかったか。いや、知らない方が良いのか?
 まあ、今日は楽しい誕生日パーティだからな、皆で楽しもう、うん。ポメ太郎。大丈夫だ、屹度、な」
 動き出す蕎麦! 逃げ出す料理! 『踊り食い』とはこの事! ――という場面を目にしてきたポメ太郎の不安は大きすぎるほどではある。
「スティア、やっぱり目を逸らしてるけど大根も動くし木の実は叫ぶのよ。
 現実を! 見なさい! そしてすぺしゃるこらぼれーしょんはやめなさいスティアァ!」
 勢い良く頭を掴んだ鈴花に「え!?」とスティアは振り返った。「キノセイダヨ、イソガシイモンネ、ツカレテイルネ」と片言で返したスティアは琉珂が採取してきた奇妙な木の実から視線を逸らした。
「大丈夫だよ、まだ、手遅れでは無い筈……っ!」
 ユウェルは力強く頷いた。料理は得意な人間に任せ、ユウェルが担うのは『さとちょー対策班」である。
「さとちょー対策班、動きます! お料理は動かせません!
 喜んでほしいのはほんとだけどそれはそれとしてお料理動かすのはだめー! いっつも大変なんだから!」
「でもね、これ、案外美味しいの『ギアアアアアアアアアアアア』」
 そんな風に叫ぶ木の実を食べたくはないユウェルなのではある。琉珂の手をぎゅっと握り締めて首を振るユウェルに朱華は「本当にそうよ、駄目よ」と説得するように琉珂の肩を叩く。
「琉珂、皆で料理が出来て楽しいのは分かるけど持ち込んだ食材を勝手にぶち込むのはナシよ。琉珂だって誕生日に動く……のは、まぁ……良いとして」
「……さっき、スティアが『ががーん』って言って返してくれた大根、だめ?」
「マズい料理を食べて悲しい気持ちになりたくはないでしょ? 何が起るか分からないでしょ?
 それで満足出来ないならまた今度料理に付き合ってあげるから今回は勘弁して頂戴ね。それでいいでしょ? ね?」
 スティアが世にも奇妙な物を見たと言いたげに返してくれた大根を掴んでいた琉珂は「そっかあ」と悲しげに俯いて――
「あっ、こら! 動き回ってる大根から手を離しちゃ――! ああ、もう、私が捕まえるから琉珂、やっちゃいなさいよ!」
 逃げ出す大根に気付いて鈴花が鋭く叫んだ。
「リュカはゆえ達と逃げ出した大根をどうにかしてきなさい。ちゃんと捕まえるまでパーティーなしだからね!」
 大根の短い足がくねくねと動いている。一生懸命な逃走である。酷い現場を見ている気がするがベネディクトは見なかったことにして『動いていない』食材を眺めた。
「俺は簡単なサラダくらいは作るか。とりあえず問題無く食べれる物をだな」
『とりあえず』で出て来た言葉が其れで良いのかと自問する彼を指差してから鈴花は「捕まえたら顔が反則A、じゃなかったベネディクトと一緒にサラダ作りなさいサラダ。包丁は使わないこと! 鋏にしなさい鋏にってそっちのじゃなくて!」と叱っている。
 料理の時は小さな鋏を使うと約束していた琉珂は何を間違えたか逃げ出そうとする大根に料理ばさみを突き刺して――「キイイイ」と叫び声が上がった。
「うわ……」
 思わず引き攣った声を漏した朱華だが、此処で諦めては居られない。
「逃げちゃう、逃げちゃう! やっちゃえさとちょー! なんかわんちゃん達も来たー! いけー!
 慌てて逃げ出そうとする大根とぶつかった茶太郎が首を傾げる。「わんちゃんないすー!」とユウェルは大根へと飛び掛かり朱華にパスをした。
「琉珂!」
「大根さん、ごめんね! 後で晩ご飯に使って欲しいってお願いしておくから! 成仏してね!」
 何てことを言うのだ、この里長は。衝撃を受けた顔をして居た朱華は切り刻まれて見るも無惨な輪切りになった大根を眺めて居た。


「さて、料理の時間だよ! いっぱい食べる人が多そうだし、頑張って作らないとね
 ローストビーフにビーフシチュー、スペシャルステーキも作った方が良いよね? んー、鈴花さんやベネディクトさんはもちろんスペシャルサイズだよね?」
「待って」
 慌てた様子で鈴花がスティアに手を伸ばすが彼女は「頑張るね」と悪気のない絵顔で鈴花を見ている。
「ねぇもうアタシ疲れたからポメ太郎抱えて茶太郎布団で寝ていい? ダメ? そう……」
 ぐったりとしていた鈴花はその時、衝撃の事実に気付いた。サラダを作ろうとしていたベネディクトが食材を漁っている。
「お、きゅうりとさつま芋もあったぞ。良かったな、ポメ太郎、茶太郎。今日はスイートサラダにしてみるか」
 尾を揺らす愛犬と戯れる『顔が反則A』の隣で、『顔が反則B』が「材料はそこか」と覗き込んでいる。
「ッ、顔が反則コンビもしかしなくてもエプロンしてない? ハァ? 無理ですけど? 顔がいい男がエプロンして腕捲りして二の腕の血管が見えて――」
 致死量のイケメンを更に喰らった。肉体が崩れたって文句は言えない。鈴花が思わずたじろいでいた頃だ。
「今日はルカはカレーは作らないのか? ルカのカレーはなかなか美味いからな」
「任せろよベネディクト。とびっきりのやつを作ってやる」
 一番得意なのはこれだからなと笑ったルカは問題無さそうな材料を集めて覇竜カレーを作ると決めた。何か材料を取ってこようかと嬉しそうに駆け寄っていく琉珂に「叫んだり走ったりする材料は使わねぇ」と額を抑えたルカ。
「スパイスはラサから持ってきたんだ。本場かどうかはわからねえが、味は保証するぜ」
 カレーを作るイケメン達と何食わぬ顔で戯れる友人。わなわなと鈴花が震え始める。
「ハァ!? カレー!? 店出しなさいルカ、毎日通うわ」
「店なら幻想の根城がBARだぜ鈴花。お前さんは酒飲める歳だし、来るならサービスしてやるよ」
 ルカが軽やかに笑えば鈴花がひきつった声を上げた。いいなあと羨ましそうに呟く『未成年亜竜種ガール』には成人祝いでご馳走だなとルカは軽やかに笑ってみせる。
「やったー、って、りんりん……」
「鈴花、凄い顔してるわよ……?」
 ユウェルと朱華の呼び掛けに鈴花は「い、いけない……」と思わず呟いたののであった。

「あ、手が空いたならお手伝いして欲しいなー基本的にアレンジをしなければちゃんとした料理になるはずだから!
 うんうん、慣れるまでアレンジはダメー!!! 食材もだよ。こっちもお手伝いお願いね!」
『さとちょー対策班』ことユウェルと朱華は琉珂と共にスティアのお手伝い係に呼ばれていた。細かく指示をしているスティアは輪切りになってもまだびくびくしている大根をまじまじと見詰めている。
「これって、動かなくなったら食べられるのかな? うーん……まだまだ分からないね。あとで朱華さんのお母さんに聞こうかな」
「じゃあ、後で聞いてみるわね」
 そそくさと調理を手伝う朱華にスティアは頷いた。鈴花が気を取り直して始めたケーキ作りをユウェルと琉珂は「けーき!」と喜び勇んで手伝い始めたようである。
「お手伝いする時は落ち着いてだよ! リラックス! リラックス!優しくゆっくりとね!」
「うんうん。ケーキのデコレーションだから、緊張するけど落ち着いて頑張ろうね! 宝石を乗っけたい欲にはちゃんと耐えるよ……じゅるり。
 あっ、だめ、それ、叫んでた木の実だってば! さとちょー! 乗っけるのはりんりんたちが用意したやつだけー!」
 指差すユウェルにばれてしまったと言いたげに琉珂がユウェルを見る。
「駄目」
 朱華が首を振れば琉珂は「後で食べましょうよ、ね、いいでしょ?」と許してくれそうなベネディクトとルカの許へとにじりよっていった。
「茶太郎が困った顔をして居るだろう? 琉珂。二匹の重要任務は動いたり叫ぶ食材を捕まえることなんだ。困らせないでやってくれ」
「はっ、それもそうね……」
 しょんぼりとした顔の『わんこ』を見詰めてからはっとした琉珂は一先ずは準備されたデコレーションに勤しむのであった。

「あ、人数が多いから多めにとは思ったが、こりゃちょっと多すぎたか?
 ……いや、まて、あの量誰が食うんだ? 琉珂、お前もしかしてめっちゃ食う方だったりするのか?」
「私はそんなことないけど、スティアの料理は何時も爆発よ!」
 悪気なく微笑む琉珂にルカは「爆発、か」とローストビーフ、ビーフシチュー、スペシャルステーキに串焼きと大量の料理をビュッフェでも開くのかという勢いで作るスティアを眺めて居た。
「あ、ねえねえ、ルカさんのカレーのスパイスの配合って教えて貰って良いのかな?
 ベネディクトさんが美味しいって言ってるから作り方が気になって! 良かったら本場の作り方を教えてほしいなー!」
「あ、ああ、構わねぇが……その料理は……」
「えへへ、皆でご飯だから一杯必要だよね!」
 此処にも悪気のなく笑う少女がいるのだった。ルカは「ああ、そうか」と呟くが今からスティアの料理をどう処理すべきなのかを考え倦ねている様子である。


「誕生日おめでとうな琉珂。プレゼントは今回は急だったからな、また今度用意するからちっと待ってくれよな」
「えへへ、ありがとう。でも気にしないでね?」
 にっこりと微笑む琉珂の頭を撫でたルカは妹と言えばこんな存在なのだろうか、などと考えて居た。
「誕生日をおめでとう、琉珂」
 ベネディクトからのお祝いの品は彼が領主を代行している幻想王国の地で獲られる名産苺のジャムである。琉珂は「何に付けようかしら、明日の朝ご飯!?」と嬉しそうにスキップをして居る。
「おめでとう、琉珂ちゃん! じゃじゃーん、プレゼントは紅茶の詰め合わせセット!
 私が気に入ってる物を選んだからスティアセレクションだよ! あとでケーキを食べるときに淹れよっか?」
 コツもあるから教えてあげると微笑んだスティアに琉珂は「紅茶とケーキって、なんだか、あれ、お姫さまみたいね!」と嬉しそうに拍手している。
 砂糖やミルクで食後に飲むのもお勧めだと笑うスティアに琉珂は待ちきれないとそわそわと体を揺れ動かしている。
「リュカ、お誕生日おめでと」
 鈴花からの贈り物は真っ赤な花のブローチだった。胸に付ければ何時だって、そこにいると教えてくれる。
「さとちょー誕生日おめでとー! わたしの用意したプレゼントはモルガナイトのブレスレット!
 おうちのお手伝いをして調達してきたのだ。皆さとちょーのお誕生日をお祝いしに来たんだよ。よかったね、さとちょー!」
 るんるんとした様子のユウェルは嬉しそうにブレスレットを差し出した。飾られていく琉珂に朱華は「良い誕生日ね!」と微笑む。
 用意したのは花の髪飾りであった。琉珂だってお洒落をする年頃だ、それに――「私達が何時だって一緒って意味よ」と髪へと飾る。
「えへへ、みんな有り難う!」
 にんまり笑顔の琉珂は本日の主役ですと言いたげな顔をしてケーキの前へと着席した。
 ケーキは鈴花が作りユウェルと琉珂でデコレーションをしていた。角形クッキーにはチョコレートや木の実で可愛らしく顔が描いてある。
 デコレーションクッキーにはフォークやナイフのカトラリーも添えられた。琉珂の誕生日に何処かに行っている『オジサマ』なんて知らないのだ。
「美味しそう!」
「ゆえのはあとで宝石を載せてあげるからね」
 ケーキの蝋燭を吹き消して満足げな琉珂にベネディクトは拍手を送った。朱華もうんうんと頷いている。
「サラダとルカさんのカレーと自信作のローストビーフを食べようかな。所でカレーって甘口?」
「さあ、スパイスカレーだからちょっと辛いかも知れないな」
 ルカは一口食べてみてくれち匙にカレーを掬い上げてからスティアに差し出した。ぱくりと一口食べてみてから「痺れる、けど、美味しい!」とスティアは頷く。卵を入れての緩和策もルカは認めてくれている。早速自己流アレンジで食べやすいように手を加えて美味しく頂くのだ。
 その世数を見詰めていた鈴花は羨ましいと言い掛けてから首を振った。さあ、料理を食べよう、と視線を向け――
「スティア、ねぇ……すぺしゃるした? ムリよムリ! アタシはサラダとカレー担当するからあと朱華よろしく!」
「って、鈴花!? 何一人だけ安パイに逃げようとしてるのよっ!
 スティアがスペシャルときは皆一緒にでしょっ! アンタだけ逃げようなんて許さないんだからねっ!」
 慌てる朱華にユウェルと鈴花が逃げだそうとするが――朱華は「ああ、もう、ねーね……違うっ、姉様ー!」と叫んだ。
「琉珂の誕生日だし皆との交流の場って事で呼べたりしないかしら。だ、ダメ? 駄目でもたすけてー!」
 スティアの料理はどれも美味しい。これで量が普通であったならば言う事は無かった。そう、美味しい物でも量が多すぎれば苦しいのだ。
「女性に任せる訳にもいかねえし、俺らで片付けるぞベネディクト。ぶっ倒れたら回復は頼むぜスティア……」
「ああ。最後までちゃんと食べきって、食料破棄は回避するぞ……俺が倒れたら運んで連れて帰ってくれると助かるぞ、茶太郎」
 覚悟を決めた『顔が反則な男達』にスティアが「ががーん!」と叫ぶ。だが――今回は問題は無い。
「何してるの?」
 ひょっこりと顔を出したのはスティアを相性が良すぎて困ってしまう亜竜種の少女、斉・美彩である。
「みさ!」
 亜竜種ガール達が驚いたように指差せば、にんまりと微笑んだ美彩は「料理!? わーい! 食べて良いの!?」と一目散に飛び込んだ。
 顔面が反則名男達の胃袋を壊すことはなく、料理を平らげていく彼女は宛らフードファイター。大食らいの明朗快活亜竜種ガールなのである。
 楽しげな一行を見詰めていた紅花が朱華を促した。琉珂は嬉しそうに皆を見詰めているだけなのだ。
「ふふっ、少しはサプライズになったかしら?」
「……里が開いて、皆と集まって、こうやってお祝いしてくれると思ってなくって、とっても嬉しい。
 みんな、ありがとう。それから、これからも宜しくね?」
 満面の笑みの琉珂に朱華は「勿論!」と額を指で弾いたのだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様でした。
お祝い有り難うございました。やったー!

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