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シナリオ詳細

<天使の梯子>黒衣に降る影

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 天義に降りた神託が国内に新たなる騒動を起こしている。

 ――仔羊よ、偽の預言者よ。我らは真なる遂行者である。
 ――主が定めし歴史を歪めた悪魔達に天罰を。我らは歴史を修復し、主の意志を遂行する者だ。

 これを受け、天義内には箝口令が敷かれ、騎士団がこの神託の解明に動く。
 時を同じくして動いた影の一団にとって、それは邪魔な行為と映ったのだろうか。
「人使いが荒いですね。アドラステイアの方がまだ自由に動けましたが」
 夜の天義、聖都フォン・ルーベルグで、無数の影を引き連れていた女性が嘆息する。
 彼女の名はナーワル。かつて、独立都市アドラステイアでティーチャーと呼ばれていた女性だ。
 闇夜に紛れる彼女は黒い鎧に身を包むが、豊満な胸部もあってかなり窮屈そうだ。
「…………」
 そのナーワルの横には、白銀の鎧を纏った子供が1人。
 ジョエルと呼ばれる少年は言葉を発せず、ただナーワルの後に続く。
 また、2人に多数の影の集団が続いていたが、それらはあまりに奇妙な姿をしていた。
 まず、背に翼を生やす全身真っ黒な影の天使と呼ばれる存在。
 全長3mほどと大柄な人型が大きな槍を携え、半数は地面を歩き、半数は翼を羽ばたかせて少し浮遊して続く。
 ただ、影の天使はまだ人の形をしているだけマシかもしれない。
 終焉獣と総称されるこれらは獣とすら呼ぶのも躊躇われる見た目をしていたのだ。
 ナーワルらが引き連れる終焉獣は2種で、いずれも左右一対となっていた。
 片方は人の足を思わせる姿をしていた。
 ズシン、ズシンと地面を振動させるそれらは蹂躙の足と呼ばれ、いかなる相手だろうが踏み潰してしまう力を持つ。
 もう片方は巨大な耳。醜聞の耳は全ての音、独り言、話を聞き逃さない。
 いずれも現実を侵食する恐ろしいモンスターだ。
 影の集団は足早に街を駆け抜けていたのだが、途中の交差点で一斉に立ち止まる。
「ジョエル様は子供達の相手を。……できるでしょう?」
「……了解」
 ジョエルは小さく頷き、半数の影を引き連れて右の道へと向かう。
 それを見届けることなく、ナーワルもまた残りの手勢を従えて左の道を進み始めたのだった。


 夜が更け、聖都が闇に染まる。
「依頼だよ。ちと急いでおくれ」
 『海賊淑女』オリヴィア・ミラン(p3n000011)は開口一番、駆けつけたイレギュラーズへと告げる。
 天義に降りた神託によって、国内が大きく揺らいでいる。
 国が箝口令を敷いていたものの、シェアキムや騎士団を糾弾する集団が出現していたのだ。
 『殉教者の森』に姿を見せた『ベアトリーチェ・ラ・レーテ』の暗黒の海と汚泥の兵達。致命者と呼ばれた人々……。
「致命者の中には、白銀の鎧を纏った子供がいたはずじゃ」
 ニャンタル・ポルタ(p3p010190)の声に頷くオリヴィアは、少年がジョエルという名前らしいと話す。
「ああ、ティーチャー・ナーワル……今は遂行者と呼ばれているが、その致命者の子供と手分けして騎士団を襲撃するらしい」
 正確には、騎士団と騎士団の手伝いをする子供達だが、一旦置いておく。
「碧熾の魔導書……やりたい放題していますのね」
 リドニア・アルフェーネ(p3p010574)は遂行者となったナーワルの行為に呆れてしまう。
 ともあれ、ナーワルらを止めねばならないが、彼女はジョエルと手分けして2か所を襲撃することがわかっている。
 遂行者ナーワル自身はルーシーという小隊長が統率する小隊の宿舎を襲撃する。
 ルーシー小隊はすでに致命者などと交戦経験があるようで、各地でその殲滅に尽力しているそうだ。
 致命者のジョエルは、騎士団手伝いのニコラ小隊を襲撃するらしい。
 ニコラ小隊はかつてアドラステイアにいた子供達だ。
 現在、独立都市アドラステイアの解体もあり、一部の子供達が都市で培った戦闘経験を発揮し、国内の人々の救出、保護に動いてくれている。
 ニコラ達は救出対象の捜索に限界を感じていたらしく、情報を得るべく騎士団を手伝うことにしたらしい。
「……これが騎士団の宿舎と、手伝いの詰め所の場所さ」
 地図でオリヴィアが示した2つの点。
 イレギュラーズは手早くどちらへと向かうかを決め、現地へと急行する。


 夜も更けており、天義聖騎士団の宿舎には疲れた顔をした騎士達が床に就こうとしていた。
 1人が宿直を行い、それ以外はすでに床に就いていた。
(何でしょう。この胸騒ぎは……)
 ルーシーは疲れも感じていたが、それ以上に何か不穏な気配を感じていた。
 それは、これまでの経験によるところが大きいのだろう。
 素早く部下を叩き起こしたルーシーは素早く装備を整える。
 ――『純粋なる黒衣』を纏え。此処に聖戦の意を示さん。
 黒衣とは、神が為に行なう断罪の時に被る穢れ(返り血)より、敬虔なる者の身を守るための、何もにも染まらぬ色。
 それを着用した騎士達はルーシーを中心に隊を組み、宿舎の前へと飛び出す。
「さすがは騎士様。勘が鋭いことで」
 不敵に微笑む遂行者ナーワルを前に、ルーシーは険しい顔をする。

 一方、騎士手伝いの子供達の詰め所にも、影の一隊が現れていた。
「神罰……神託を成就する……」
 そう告げる致命者ジョエルに、こちらも騎士の意に従う形で黒衣を纏っていたニコラ小隊が戦慄する。
 かつて、アドラステイアにて疑雲の渓へと落としてしまった子供を思わせる姿をした子供に、半数以上の子供達が表情をこわばらせていたのだ。
「嘘、だろ……」
「いや、でも、ジョエルは……」
 生きているはずがない。だって、彼を魔女裁判にかけたのは半年以上前。
 疑雲の渓に落ちて生きているはずがないのだ。
「いや、あれは致命者……ジョエル本人がない」
 影の天使や終焉獣を従えている地点で、人間であろうはずもない。
 ただ、過去の幻影と対してしまうのは……あまりにも厳しい。
「……排除」
 短く一言告げたジョエル。
 飛び出す影の一隊を前に、子供達もやむなく身構えて迎撃を始めるのだった。

GMコメント

 イレギュラーズの皆様こんにちは。GMのなちゅいです。
 こちらはリドニア・アルフェーネ(p3p010574)さんの関係者依頼、合わせて、ニャンタル・ポルタ(p3p010190)さんのアフターアクションも兼ねております。
 騎士団とその手伝いをする子供達が襲撃されており、それが遂行者の差し金であることがわかります。
 騎士団らを襲撃するナーワル一隊、そして彼女の指示によって暗躍する致命者一隊の撃退を願います。

●状況
 騎士団の宿舎と合わせ、国内で人々の救援活動をしているニコラ小隊の詰所がナーワルの手勢によって同時に襲撃を受けます。
 イレギュラーズも様々な依頼で駆けつけられる人数が制限される為、隊を2つに分けて対処しなければなりません。
 戦力が分散される為、ルーシー以下騎士、またはニコラ達と協力して撃退する必要があります。

●敵:ナーワル小隊
 ナーワル、ジョエルはそれぞれ半数の終焉獣、影の天使を従え、騎士団小隊、ニコラ小隊を襲撃します。

〇遂行者:ティーチャー・ナーワル
 以前は黒鉄の鎧で身を包んでいた女性遂行者。
 修道服を纏った旅人女性。リドニア・アルフェーネ(p3p010574)さんの関係者です。
 アドラステイアにて、下層の子供達にファルマコンの教えを説く一方で、潜水部隊を率いてスパイ活動を行わせていました。
 今回は下記の終焉獣、影の天使を率いて、炎を使いこなし、砲弾やモリ、散弾といった殺傷力の高い武器に転じて使う他、閃光、溶岩、雷火、闇炎と炎をベースとした多数の術も行使してきます。

〇致命者の少年:ジョエル
 アドラステイアの聖銃士を思わせる姿をした少年。長剣使いです。
 能力は不透明な部分が大きいですが、その暗躍を聞くところだとかなり手練れの剣士のようです。

○終焉獣(ラグナヴァイス)×8体
 R.O.Oではワールドイーターと呼ばれたモンスターです。

・蹂躙の足×4体
 全長2.5mほど。足首から下のみの姿をしています。右足と左足が2体ずついますが、実力として個体差はありません。
 跳躍して踏みつぶす他、周囲の物体を蹴って叩き込むなど行います。左右一対で強力な攻撃を行うようです。
 空中を蹴って空間を裂き、周囲を浸食しようとすることもあるようです。

・醜聞の耳×4体
 全長3mほど。右耳と左耳が2体ずつですが、こちらも実力として個体差はありません。
 自重を活かした押し潰し、甲高い耳鳴りを中心に攻撃します。蹂躙の足と同様、こちらも左右揃うことで強力な攻撃を行うようです。
 聞き耳を立てて音を聞くようにして周囲を吸い込むように浸食することもあります。

○影の天使×10体
 身長3m程もある人型に、大きな翼が生えた姿をした影でできた存在です。飛翔しながら、祈りを捧げる姿が特徴的です。
 大きな槍を所持し、急降下しての突き、接近してからの連続突きや、全身から闇の波動を発することもあります。

●NPC
〇天義聖騎士団小隊×10人
 女性小隊長ルーシー以下、20代の若い騎士達。
 現状の指令もあって、黒衣を纏っています。
 メイス、錫杖。斧槍、弓とそれぞれ得意武器を使うほか、全員が回復支援、神秘系魔法を使えます。
 小隊員はもっといますが、ナーワルらの襲撃時、宿舎にいたのはルーシー含め10人のみです。
 ただ、小隊長がいることで、支援は可能なのは不幸中の幸いといったところでしょうか。
 ルーシーは「<獣のしるし>正義を語る黒き影」などに登場。読む必要はありません。

〇ニコラ小隊×10人
 こちらはアドラステイアで大人達の教えを受けた10代の子供達です。
 アドラステイアでの生活と決別し、そこで得た戦闘経験を元に、困っている人々の為にと影の集団と戦っています。
 騎士団の手伝いをしている為、同じく黒衣を纏って長剣、長槍など比較的軽い武器を扱います
 聖騎士団の宿舎から少し距離のある場所に詰所を借りており、そこを致命者一隊に襲撃されてしまいます。
 致命者がかつて魔女裁判で陥れた少年と同じ姿をしており、衝撃を受けています。
 ニコラは「<フィクトゥスの聖餐>血濡れ聖女」などに登場。こちらも読む必要はありません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

 それでは、よろしくお願いいたします。

  • <天使の梯子>黒衣に降る影完了
  • GM名なちゅい
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年05月14日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女
ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)
アネモネの花束
天之空・ミーナ(p3p005003)
貴女達の為に
サクラ・アースクレイドル(p3p007248)
平穏を祈る者
レイリー=シュタイン(p3p007270)
騎兵隊一番槍
ラムダ・アイリス(p3p008609)
血風旋華
ニャンタル・ポルタ(p3p010190)
ナチュラルボーン食いしん坊!
リドニア・アルフェーネ(p3p010574)
歩く災厄の罪を背負って

リプレイ


 同時刻、致命者ナーワルの手勢に襲撃される聖騎士団小隊と手伝いの子供達。
「二手に分かれよう」
「遂行者と致命者の一派を同時に撃退せねばなりませんね」
 『鳥籠の画家』ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)の提案に、『白銀の戦乙女』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)が同意する。
 事態は急を要する。
 シフォリィが別隊にメッセンジャーとなる鳩のファミリアーを託し、メンバーは二手に分かれて現場に急行する。


 致命者の一隊が向かった騎士団手伝いの子供達の詰め所。
「ニコラ隊救援に向かうぞい!」
「あの少女達が窮地にならば、どこへでも駆けつけるわ!」
 人助けセンサーを働かせる『ナチュラルボーン食いしん坊!』ニャンタル・ポルタ(p3p010190)と『ヴァイスドラッヘ』レイリー=シュタイン(p3p007270)が意欲的に叫ぶ。
 この子供達はアドラステイアでの一件で、イレギュラーズと少なからず因縁がある。
「ふぅ~ん? 二コラ達が騎士団の手伝いをねぇ……」
 『咎人狩り』ラムダ・アイリス(p3p008609)も知った顔が襲撃を受けていると知り、見過ごせなかったのだ。
 間もなく、詰め所に4人が到着して。
「私の名はレイリー=シュタイン! ニコラ達の救援に只今参上!」
「…………」
 名乗るレイリーに、影の一団と白銀の鎧を纏う致命者の少年ジョエルが注目する。
 対する黒衣のニコラ小隊の動揺に、『誰が為に』天之空・ミーナ(p3p005003)は気づいて。
「……こちらの心を乱す為に配置したのか。はたまたただの偶然か」
 前者なら胸糞悪いもんだとミーナは肩を竦める。
「お主等! 大丈夫か?!」
「大丈夫かしら? 間に合った?」
 敵との間に立ちはだかったニャンタルとレイリー。
 子供達は口をパクパクさせていたが、ニコラが気を強く持って告げる。
「私達が断罪した子と同じ顔を……」
「でも、今は敵よ」
 死んだと思った人が現れるってのはショックよねとレイリーは共感を示す。
 それでも、貴女達……ニコラ達は今を生きている。
「今を生きるために、これからの為に一緒に戦いましょう」
 それを大事にしてほしいというレイリーの言葉にニコラは気合を入れていたが、隊員達はまだ踏ん切りがつかない様子。
「お主等が過去と決別し、今を生きる為に動いとると聞いたぞい!」
 そこで、ニャンタルもまた子供達を元気づける。
 敵はその間にも、イレギュラーズにも対処すべく布陣を整え直す。
「致命者ジョエルを見て、かなり動揺しているって感じかな?」
 今にも仕掛けてこようとする影の一隊の動きを察し、ラムダは飛翔する。
「……構えろ! あちらは容赦なく殺す気だぞ!」
 ミーナの一喝で、子供達も我に返る。
「殺されはするな! 真実を知りたいなら戦って、生き抜け!」
「お主等自身が真に前に進む為に、目の前の過去の影に最後のお別れをするとしよう!」
 自身のカリスマで子供達を統率せんとするミーナ。そして、過去を断ち切らんとニャンタルも呼びかけると、子供達も踏ん切りがついたようだ。
「……排除」
 短いジョエルの指示に影の一隊が動き出すと、さすがにイレギュラーズも対処せざるをえない。
「……それじゃあ、ボクは空の天使を相手取るとしよう」
「絶対に私が貴女達を護って支えてあげるんだから!」
 ラムダが影の天使の迎撃に動き、地上ではレイリーが白亜城塞を起動する。
「我等も加勢する! 今一度気合いを入れろ!!」
「「はい!」」
 ニャンタルに元気よく返事した子供達は襲い来る影に対し始めるのである。


 聖騎士団宿舎側。
「さすがは騎士様。勘が鋭いことで」
 黒い鎧を脱いで露出の高い姿をさらす遂行者ナーワルがくすりと微笑む。
 対し、こちらも黒衣を纏う小隊長ルーシーは明らかに力量が上の相手だと肌で感じ、臆してしまっていた。
 しかし、そこにこれ以上ないローレットからの援軍が。
「馬力の出る奴集めて来たから、支援と回復宜しくな!」
 絶望にも等しい表情をしていた騎士達だったが、ベルナルドの声に希望の光が差したかのように笑みが零れる。
「いつもあなた達は……」
 ルーシーはもう何度助けられたかと胸に十字を切って祈りを捧げる。
 騎士達の士気が高まったことで、イレギュラーズは遂行者へと意識を向ける。
「どうして襲撃なんてするのですか……? 暴力よりも先に行える事があるはずなのに、こんな事をする必要は……」
「アドラステイアの一件が終わったと思ったのに、まだ動くんですか……しかも今度は致命者と関連して……」
「神託の成就。結構ではないですか」
 『平穏を祈る者』サクラ・アースクレイドル(p3p007248)の問い、シフォリィの呼びかけに、ナーワルは事もなげに言葉を返す。
「……碧熾の魔導書、あの子供はアドラステイアで死んだ子の再利用ですか?」
 そんなナーワルと因縁ある『『蒼熾の魔導書』後継者』リドニア・アルフェーネ(p3p010574)がやや苛立ちながらも問う。
「貴方、ホント何考えてますの。自分の完成の為ならば全てを踏み台にすると?」
「力の追及は至極当然のことでしょう」
「貴方はやはり、力にせず封印しておくべきだった!」
 あくまで自身優先の考えを返すナーワルに、リドニアも思いの丈をぶちまけずにはいられない。
(……会話で通じる相手ではないのですよね)
 サクラもそのことを再認識していた。
「さあ、神託の成就の為に騎士を排除するのです」
 頷く影の天使。そして、淡々と任務遂行に動く2種の終焉獣。
 とりわけ後者は世界を侵食する危険な存在だ。
「仕方ありません。世界を蝕むというのなら、容赦はしませんから!」
「これ以上、アドラスティアの亡霊に天義を荒らされるのは御免だ。この戦いで決着をつける……!」
 決意を口にするシフォリィに続き、罠を張り終えたベルナルドが浮遊し、身構えたところへ、影の部隊が迫りくるのである。


 致命者ジョエルの小隊と対するメンバー達。
 子供達が布陣を整える間に、可変式魔導装甲「応龍」で低空を飛ぶラムダが影の天使を迎撃する。
 素早い敵は槍を振りかざしてくるが、ラムダはそれらへと術式を展開する。
「無尽にして無辺……遍く世界を包め灼滅の極光」
 ラムダの詠唱によって構築された光球は次の瞬間殲滅の極光となって敵陣を包み込む。
 影の天使は苦しみながらも強い光に耐え、ラムダへとなおも槍を突き出す。
「そちらに行ったよ」
 ラムダの呼びかけを受け、地上へと降りてきた影の天使をミーナが相手取る。
 ミーナはニコラ小隊を統率しつつ、居寤清水を使ってから影の天使に斬り込む。
 激しい剣戟が漆黒の体を刻む。
「私達もイレギュラーズに続け!」
 ニコラ達も各々が得意とする武器で影の手勢に挑む。
 空から来る影の天使は子供達もまた幾度か相手しており、ある程度は対しやすい相手だったようだ。
 だが、終焉獣は話が別。
 幅広く種類があって対処も個別に求められるのもそうだが、迂闊に手を出せば存在そのものを食われる恐れがある。
 その攻撃にはニコラ達も慎重になっていたようだ。
(私がみんなを護り、癒す)
 ただ、前に出ていたレイリーが防御を優先するよう告げてみせて。
「まずは私を倒しなさい、そうしない限り誰も倒させないわよ!」
 戦場広域の把握に努めるレイリーは囮となって多数の敵を引き付け出す。
 とりわけ、レイリーは終焉獣2種4体を相手取る。
 地上に降りた影の天使も含め、次々に繰り出されてくる攻撃を堪えながらも、レイリーは号令を絶やさない。
「そう戦場の全てが私の舞台で私の城塞よ!」
 レイリーの心意気に守られ、子供達も気合を入れて敵と対していたようだ。
「排除……」
 さて、少年見た目に対して、発する声が恐ろしく無機質なものに感じられる致命者ジョエル。
 そいつへとニャンタルが迫り、片刃剣で三連撃を刻み込む。
「お主の相手はこの我じゃ!」
 少年が振るわれる刃を受け止めるニャンタル。
 まだジョエルも小手調べといった印象だが、ニャンタルはそのままジョエルを部下から引き離す。
(相手は手練れという話……)
 姿こそ少年だが、致命者は明らかにそれ以上の剣技で攻め立ててくる。
 それを察したニャンタルも気合を入れて迎撃し、攻撃の手を緩めず応戦する。

 ナーワル側。こちらはアタッカー多め。速攻撃破が戦略のチームだ。
(数の多さが厄介ですが……)
 改めて敵を見回すシフォリィ。
 特性が厄介な蹂躙の足と醜聞の耳。数の多い影の天使も面倒だ。
 何より、ナーワルも面倒な相手だが、そちらは最後に。
「相手の動きを少しでも封じていけば、戦況は少なくとも有利に傾いていくはずです」
 浮遊するシフォリィは影の天使を中心に、堕天の輝きを瞬かせて敵陣を灼く。
「影の天使の相手を頼みますわ」
「了解です。ご武運を」
 頷くリドニアは覇道領域を展開し、天使や終焉獣を纏めて威圧しようとする。
 続き、浮遊するベルナルドが騎士団とナーワルの間に煙を発生させた。
「小癪な真似を」
 そう言いながらも、ナーワルはこの戦いすらも楽しんでいる様子。
 暗がりの中、多少なりとも敵陣の距離が空いたのを視認したベルナルドは英霊の闘志を纏う。
 そうして、ベルナルドは騎士団に迫っていた影の天使を相手取って衝術で個別に弾き飛ばす。
 ベルナルドが入り込む間に、蠢く影が振るう槍をルーシー小隊が押さえつける。
(せめて、皆さんに怪我がないように……!)
 少し後方、サクラは騎士達の戦法を尊重して。
「微力ながら精一杯支えます、だからワタシは気にせず前を向いて欲しいのです!」
 場合によっては、指示も考えていたサクラだが、国内に現れる影と日々対する聖騎士達は並みの敵ならある程度対処にも慣れており、布陣を固めて手近な敵から攻撃を集中させていた。
「どうか、誰一人欠ける事なく戦いを終えますように……」
 皆の傷が浅いうちは、サクラも亡霊の慟哭を敵のみに聞かせる。
 呪いの歌に抗い、自重を活かして踏み潰そうとする足、そして、同じく自重で押し潰してくる耳。
 くすりと笑うナーワルが炎を発して配下を援護していた。
(経験上、復讐の類を持っているはず……)
 因縁の相手ではあるが、リドニアは冷静に終焉獣を相手取るべく空間に溶け込み、狙った1体へと凶手を叩き込む。
 同じタイミング、ベルナルドが襲い来る影の天使に言い放つ。
「さあ、踊り狂え天使ども!」
 広域に展開される終焉の帳に、影の天使達は身悶えする。
「ふふ……」
 本気で交戦するメンバー達を眺めるナーワルは、舌なめずりして負の感情をぞんぶんに味わっていた。


 ジョエル側。
 子ども達が苦戦しながらも、イレギュラーズの手を借りて善戦していた。
 レイリーが暖かい光と風で子供達を癒す傍ら、前線で相手の怒りを買う。
 他メンバーも着実に敵を減らしにかかる。
 堕天の輝きを浴びせるミーナが1体を倒し、ミーナも頭上から大喝を発して別の1体を地面へと叩き落とす。
 ニコラ隊も順調に連係プレイで1体を仕留めている。
 その間、少し離れた場所で交戦するニャンタルがジョエルの力に目を見張っていて。
「お主……元々こんなに強かったかのか? 其れ共、遂行者となってから得た力か?」
「…………」
 相手は何も語らず淡々と刃を突き出すのみ。
 ニャンタルは相手の戦法、挙動の全てに注意し、限界まで情報を得ようとしていた。
 しばし膠着していた戦況だが、ニコラが1体を刃で貫けば、子供達も残りの天使をねじ伏せてしまう。
 影の天使が全て倒れれば、メンバーの矛先は終焉獣に向かう。
 ここまででも範囲攻撃で終焉獣にも攻撃をしており、一気に切り崩して倒しにかかる。
 敵の数が減ったことで、蹂躙の足や醜聞の耳も同種で連携を見せ始める。
 2体で地面を振動させる両足、そして、聞き耳を立てて周囲の音全て吸収する両耳。
 メンバー達が集中してターゲットとしたのはそのうちの片足。
 高く跳躍した足が踏み潰さんとするが、そこをミーナが闘気の棘で貫き、霧散させた。
 相方が倒され、もう片足が空間を切り裂いて浸食しようとしてくれば、子ども達も臆してしまう。
「…………!」
 こちらの声は両耳が吸い込んでしまい、何も聞こえない。
 レイリーが終焉獣の猛攻を受け止めてはいるが、子供達にも少なからず余波が及ぶ。
 それ故に、ニャンタルはボディランゲージ、ハンドサインで意思疎通する。
 皆の体力、特にニコラ小隊が終焉獣に押されていたのを見て、レイリーがこの場に慈愛の息吹を吹き込む。
 聞きたいこともあったが、声の届かぬ状況ではジョエルの手を止めるのが最優先。
 一時も気を緩めず、ニャンタルは殺人剣による一閃で斬りかかり続ける。
 両耳がその身を大きくばたつかせ耳鳴りを発した直後、堪えたミーナとラムダが片足へと仕掛ける。
 乱撃を浴びせたミーナ。さらにラムダが炎片を舞わせて片足を切り裂き、その存在を消し去った。
「死人の姿形声で惑わすのはいただけないね……疾く終わらせてあげるよ?」
 苦戦はしていたが、ニコラ達も両耳を傷つけている。戦闘経験は十分生かされており、何よりイレギュラーズの支援によるところも大きい。
「……撤退」
 ジョエルも子ども達のみを倒すつもりだったのだろう。ここは引くべきと判断し、残る醜聞の耳2体を引き連れて闇の中へと去っていく。
「追わなくていい!」
 生き残るのが最優先というミーナの呼びかけもあり、この場のメンバーは深追いすることなくこの場の事後処理に当たり始めることにした。

 ナーワル戦。
 さすがは天義の聖騎士。イレギュラーズ程ではないが、影の天使と渡り合える力を持つ。
 ただ、率いる致命者が迂闊に手を出せぬ力量を持つ事もあり、メンバーは終焉獣の討伐に注力する。
 敵陣を捉え、シフォリィが背に生み出した光翼を羽ばたかせて天使1体を消し飛ばし、ベルナルドが再度下ろした帳によってまた1体が地に墜ちた。
 ルーシー隊も負けていない。イレギュラーズに負けず戦地を潜り抜けてきた騎士達は斧槍やメイスで1体を打ち倒し、光の術で別の1体を消し去る。
 騎士達を支えるサクラだが、騎士は自分達でも互いに多少の回復はできる。
 その為、サクラは鬼哭啾々を響かせ、残る1体の天使の活動を止めてしまう。
 地面に散らばるマキビシはベルナルドが先ほど撒いたもの。
 次に狙うべき終焉獣蹂躙の足がそれを避けて移動すれば、リドニアが逃さずその片割れを空中へと跳ね上げる。
 態勢を乱す相手に繰り出されるルーシー隊の攻撃。
 そこでリドニアが瞬時に高めた闘技を発し、片足を空高くぶっ飛ばす。
 もう1体にはベルナルドがマキビシを踏むよう誘導しつつ、零距離で神秘の力を込めた絵筆を叩きつけて動きを完全に止めた。
 残る醜聞の耳2体もシフォリィが光刃で切り裂く。
「相手がイレギュラーズなら止むをえませんね」
 ナーワルも、終焉獣すら倒される状況ならばと、自ら前に出て炎を飛ばす。
 相手はその炎を変異させてくる。ある時は閃光、ある時は雷火。高位の術を自在に操れるのはさすが魔導書といったところか。
 身構えるサクラは号令を上げて即座に味方の立て直しを図ると、シフォリィが夜葬儀鳳花を舞わせる。
 両耳から焦げた臭いが漂うが、シフォリィはなおもナーワルへと魔を封滅する破邪の結界を張り巡らせる。
「炎はただ燃やすだけじゃなくこういうこともできるんですよ」
「ふふ……」
 不敵に笑うナーワルの傍らで、ベルナルドとリドニアが騎士と協力して醜聞の耳の始末を加速させる。
 消耗も激しい戦いとあり、騎士の支援を受ける範囲に留まるベルナルドがここでも神秘の力を込めた絵筆を振るい、片耳を完全なる漆黒に包み込んだ。
 残る片耳は自重で騎士を押し潰そうとするが、守りを固めた騎士達はそれを受け止め、後方の騎士が神聖術を撃ち込んでいく。
 すかさずリドニアがここでも赤い闘気を叩き込んで片耳を仕留めてしまえば、彼女はナーワルへと向き直って。
「手下どもは全員蹴散らしましたわよ」
 ここは因縁あるリドニアにとベルナルドが呪鎖を伸ばし、シフォリィがなおも花吹雪が如き極小の炎乱を舞わす。
 抵抗するナーワルが周囲に溶岩を発してくるが、リドニアは蒼穹の魔導書を起動させて。
「魔導書には魔導書。荒れ狂え救いの光。貴方と闇と私の光、どちらが上でしょうかね!?」
 闇夜に光る蒼。
 ナーワルもこれには眉を顰め、大きく身を退く。
「大人しく退くとしましょうか」
 この場は遂行者としての活動よりも、自らのことを優先させたナーワルは虚空へと消えていく。
「ホント、最悪の一言ですわね」
 まだ問いかけたいこともあったが、何か騎士達に仕込んでいてもおかしくないと考えたリドニアは事後処理へと動く。
 また、ナーワルが天義で何かやらかすようなら、絶対に止めると心に誓って。


 合流する2チーム。
 ルーシーとニコラも面識があるらしく、それぞれの襲撃状況について情報交換していた。
「今はお休みください」
 サクラは仲間と合わせ、双方の部隊の傷も気掛けて治療に当たる。
 命あっての物種。生きていれば必ず成すべきことが成せるとサクラは言う。
「お主等、よく頑張ったのう!」
 ニャンタルはニコラ小隊へと話しかける。
 戦いが終わったことで、致命者ジョエルについて思い悩むことがあったのだ。
「お主等がした事は確かに良くない事ではあったやも知れぬな……」
 外の世界で善悪を判断する目を養った子供達はニャンタルの指摘も受け入れてくれる。
「ならば、その目で見た事、感じた事を大事にしなくてはな!」
 その為に活動しているのであるなら、「OK花丸じゃ!」とニャンタルは絶賛する。
 また、ナーワル対処に当たっていたリドニアがニコラのことを気にかけて。
「二コラ様、元気になさっていたようで何よりですわ」
「ご無沙汰してます」
 挨拶するリドニアにぺこりと頭を下げるニコラにリドニアはマザーの時を思い返しつつ、強化が必要かもしれないと提案する。
「戦うための力が――魔導書が欲しいならば、後でアルフェーネ家に来なさい」
 ニコラ達に適性があるなら、魔導書は力を貸してくれるだろうとリドニアは話す。
「ありがとうございます」
 少女は年相応の笑顔で、応えてみせたのだった。

成否

成功

MVP

ニャンタル・ポルタ(p3p010190)
ナチュラルボーン食いしん坊!

状態異常

なし

あとがき

 リプレイ、公開です。
 双方厳しい状況でしたが、子供たちをやさしく諭した貴女へ。
 今回はご参加ありがとうございました。

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