シナリオ詳細
<天使の梯子>熾燎の聖女と『巡礼者の魔剣』
オープニング
●『巡礼者の魔剣』
陽の光がステンドグラスを差す。大理石か何かで出来た床を反射させて白く照り返していた。
静謐に支配された空間は呼吸の音さえも躊躇うほどの神聖さを感じさせる。
祭壇に向かって敷かれた絨毯は手入れが行き届いていた。
前室から祭壇へ向かう廊下には椅子が1つも存在しておらず、用意されているようでもない。
教会と言う割には人が祈りのために訪れる場所ではないと言わんばかりだ。
その只中を黒衣に身を包んだ偉丈夫は装飾の少ない黒剣を片手に真っすぐ進んでいく。
「セヴェリンさん、ここはいったい? 教会だとは思うけど……なんだか不思議な雰囲気だね」
先を行く聖騎士へと問いかければ、聖騎士は立ち止まり、そっと天井を仰ぐ。
十字の交わる中央塔の真下、開けた天井もまた落ち着いたものだ。
「ここはペレグリーノ聖教会――我らペレグリーノ家の所有する教会であり、一族の共同墓地でもある。
ここに併設された墓地には、一族の全員が眠っている……殆ど全員、だが」
そこまで言うと、聖騎士は再びやや俯いて。
「……あの大戦では、遺体すら見つからずに死んでいった者もいた。悲しいことだが、ね」
沈痛な声で堪えるように顔に手を当て、ふるふると頭を振れば、再び歩き出す。
そして祭壇に黒剣だけ置いて迂回すると、その奥――アプスへと至る。
そのまましゃがみこみ、何かを弄っているように見えて――やがてガタリと音を立てた。
そのまま、内陣そのものがゴトゴトと音を立てながら横にスライドする。
こちらを「そこで待っているように」と制してから中に入っていったセヴェリンは暫くしてから長方形の木箱を抱えて戻ってきた。
彼は祭壇の上にそれを持ち出すと、こちらを手招きする。
蓋を開けられて姿を見せたのは、一本の剣だった。成人からすればやや長めの片手剣ぐらいはあろうか。
黒色の鞘は装飾品の類はなく、鍔の部分は金色、それ以外のグリップから柄頭までは鞘と同じぐらい黒い。
それは祭壇に立てかけられた黒剣に瓜二つだ。
「これは?」
剣だとは分かる。
だが、わざわざ一族の共同墓地でもあるという小さな教会の中に安置されるようなものには見えない。
それも、教会内部で最も神聖な場所と言われる場所から持ち出されたにしては酷く『実用的』な印象がある。
「これは我が一族に伝わる家宝にして『魔剣』だ」
「魔剣――ペレグリーノに伝わる家宝、ですか」
すらりと鞘から払われたその剣は抜き身も同じく暗い色をしていた。
純黒に近い鞘とは異なり、青みがかったようにも見える黒は夜空を思わせる。
「魔剣と呼びはするが、所詮は『魔力を帯びた剣』という程度の話だ。
恥ずかしい話だが、ただそれだけの話……この剣よりも素晴らしい逸話を持つ剣や強力な魔力を持つ剣は探せば幾らでもある」
たしかに、抜き身の剣は僅かに魔力を帯びているように見えた。
静かにその剣身を見つめたセヴェリンはそれを鞘に戻すと、木箱には戻さず、変わって持ち込んだ剣を木箱に入れる。
「ローレットの同盟者の諸君。『遂行者』オルタンシアはこの剣を狙っているのだという。
私にはこの剣がそれほどの力を持つとは到底思えてはおらぬ。
だが――『冠位傲慢』の配下と思しき敵が狙っているのであれば、奪われるわけにはいかぬ」
セヴェリンは歯噛みするような仕草を見せる。
なるほど、どうやら持ち込んだ剣は魔剣のレプリカであったらしい。
「ところで、この剣には逸話のようなものがあるんですか?」
「この剣の逸話、か。
一族はペレグリーノと名乗っているが、この氏族名は『巡礼者』という意味がある。
この剣は一族の祖、フラヴィア・ペレグリーノが佩いた剣だ。
金色の髪に黒衣を纏い、天義各地を廻り、巡礼の旅をした聖女――と言われている。
……ちょうど、聖女も巡礼の旅を終わらせて聖都に戻り聖騎士になる時には闇色だったと伝わっている。
それにあやかり、私の一族では闇色の髪と瞳の女の子に敢えてフラヴィアと名付けるのだ」
穏やかに笑って、セヴェリンは言う。
「……私の死後、我が一族は彼女だけになる。
この教会は無くなってもいいが、この魔剣はあの子に残しておくべきだろう……何となくそう思うのだ」
それだけ言うと、セヴェリンは本物の魔剣を腰に差し、木箱を戻しに内陣の向こう側へと消えた。
●
不意に扉が開く音がした。
イレギュラーズが振り返れば、ちょうど複数の影が姿を見せたところだった。
「あはっ♪ こんにちは、元気だったかしら♪」
そう楽しそうに笑いかけてきたのは白衣の美女。
それは『遂行者』たちが纏う神の神聖を意味するという白衣。
「ふふ、何人かは会ったことのある顔もあるみたい。
初めましての子はこんにちは、『遂行者』オルタンシアというわ」
柔らかく笑う白衣の美女――オルタンシア、その背に何かがある。
石製を思わせる、所々焼けて煤けたような痕跡の残るそれは、十字架だった。
「それで……『巡礼の魔剣』はどこかしら?」
「恐らく、彼らの後ろ――あの祭壇の奥でしょう」
小首をかしげたオルタンシアに答えたのはその隣に立つ女性だった。
「ふふっ、扉が開いてるみたいだし、そうかもしれないわ。
ねぇ、ベル。少し遊んでいきましょう?
ふふふ、今日は玩具も持ってきたし、何もせずに帰るのも、ね?」
「承知いたしました」
オルタンシアに応じてベルと呼ばれた女性がすらりと剣を抜いた。
「――さぁ、始めましょ? その魔剣もせっかくだから貰って帰りたいから、ね?」
穏やかに笑う遂行者はパチンと指を鳴らす。
初めに姿を見せたのは赤黒い炎で出来た3mほどの人型。
それが黒炎を生み、零れ落ちた炎はやがて影の天使の姿を取った。
- <天使の梯子>熾燎の聖女と『巡礼者の魔剣』完了
- GM名春野紅葉
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2023年05月15日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●
(ペレグリーノ家の共同墓地ということはここにフラヴィアさんのお父様やお母様が眠っているのでしょうか。それとも……)
物思いに耽っていた『雪玉運搬役』セシル・アーネット(p3p010940)は扉を開けて姿を見せた遂行者達に視線を向けた。
「オルタンシアさん、ベルナッタさんまたお会い出来ましたね」
雪輝剣セシリウスを抜き放つや刀身へと氷の刃を構築するセシルが改めて声をかければ。
「そうね、元気だったかしら?」
セシルの姿を認めたオルタンシアは柔らかな微笑みさえ浮かべ、その手に炎を抱く。
「オルタンシアさんの火は少し哀しそうです」
「あはっ♪ 本当に?」
軽やかに笑い、次いでゾッとするほどに冷たい声がした。
かと思えば、慈悲に満ちた笑みを浮かべたオルタンシアが炎に吐息を吹きかける。
何をするつもりかを把握するより早く、セシルは先制の剣を振るう。
それにやや遅れ、『剣閃飛鳥』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)は動き出す。
「縁も縁もあんましないけれど義によって助太刀いたす! ってとこ?
……なーんて言うものの一人ぼっちの人は増やしたくないだけ あたしなりの騎士道? って奴サ!」
柔らかく笑ってみせたミルヴィは美しく舞い踊る。
ステンドグラス越しの光に照らされた褐色の肢体は輝いているかのようにさえ魅せる。
その仕草に影の天使の幾つかが警戒を露わにすれば、ミルヴィは視線を流す。
妖しい輝きを秘めた六方昌の眼差しが知性の類など無さそうな黒炎の塊を射抜けば、瞬く間に絡め取る。
「成る程、お主達が件の聖女御一行でござるな」
濡羽色に染めた左右一対の絡繰手甲から手裏剣を密かに出現させながら、『夜砕き』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)は静かに告げる。
「あはっ♪ 直接会うのは初めましてね、忍のお嬢さん」
オルタンシアはベルナデッタの情報を見聞きしているのだろう、まるで知己のように笑う。
「折角来て貰って申し訳ござらぬが此処から先は立入禁止。招かれざる客人にはお帰り頂こう」
そのまま、咲耶は手甲を一閃、忌呪手裏剣は一直線に黒炎の巨人めがけて飛翔する。
「武器強盗か……いいなーそれほど箔がつくとか……巡礼の魔剣、羨ましい限りだ……」
そうぼやきのような物を漏らしたのは『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)である。
自身の本体は文字通りの『鎌』であり、悲恋の呪いを纏いし妖精鎌である。
「……いやまあ、実際に強盗されたくはないわな。
俺も本来は妖精の為以外でこの体を本気で振るう気は無いが……同じ武器としての誼だ」
言いつつサイズは妖精の血を活性化させ、その身に氷の棺を纏い、鎌の先端に魔砲をセットした。
「へぇ? 貴方面白いわ。その口ぶりからすると、本体はそっちかしら?」
そんなサイズの声を聞いたのか、興味深そうにオルタンシアが声をかけてくる。
「ふふ、貴方のこと、興味がある人もいそうね? でも、私が欲しいのはあくまであの魔剣だからなの」
そう首をかしげながら言って、いっそ悪戯っぽく微笑んだ。
放つ砲撃はオルタンシアとは重ならない。
影の天使たちを巻き込みながら走り抜け、巨人の身体へと炸裂する。
「来ましたか、オルタンシア。今度こそいろいろと聞かせてもらいましょうか。
私達も貴方達の目的がいくらか掴めてきたところですからね」
鮮血を使い慣れた鎌の形へと作り替えながら『輝奪のヘリオドール』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)が言えば、オルタンシアの視線がこちらを観察したように見えた。
「あはっ♪ 遊んでくれるのなら答えてあげましょう。なんだって等価で交換しなくてはね?」
楽しそうに笑ったオルタンシアにマリエッタは笑みを返す。
「それなら、相応の情報を戴きますよ?」
澄み渡る思考、速攻を撃つべく鎌を振るう。
斬撃は血の矢となって黒炎の巨人の身体に炸裂、無数の刃となってその肉体を痛めつける。
「あはっ♪ それくらいでなくちゃ、ね」
「オルタンシアおねーさん、お久しぶり。とっても逢いたかったです。
あの時はきちんと自己紹介してませんでしたね。フルール プリュニエです。よろしくお願いしますね」
オルタンシアめがけて『夢語る李花』フルール プリュニエ(p3p002501)は声をかけると同時に一条の炎を撃ち抜いた。
「ふふ、それなら私も改めて自己紹介しましょうか」
珍しく真剣な印象を受ける表情をして、十字架に黒炎を纏う。
「私はオルタンシア――正しき歴史へ導く遂行者、熾燎の聖女。全ての人に等しく救済があることを祈る者よ」
その真意を隠すように遂行者は微笑みを浮かべた。
「ベル、行きなさい。私はこの子と遊んでるから。あの聖域ぐらい、1人で大丈夫よね?」
「承りました」
オルタンシアの指示を受けるや、一気にベルナデッタが動き出す。
「『巡礼の魔剣』はフラヴィアさんとペレグリーノの家を繋ぐ、彼女と亡き両親を繋ぐ絆の象徴だ。
その絆を失う事を、彼女に再び天涯孤独と自身を苛むような事を、僕は許さない……!」
ワールドリンカーを起動する『ウィザード』マルク・シリング(p3p001309)の視線に気づいたらしきオルタンシアがマルクを見た。
「あはっ♪ それなら今日だけじゃなく、また私と会うことがあるでしょうね♪」
確信めいた言動で笑った遂行者の声を聞きながら、マルクはケイオスタイドを撃ち込んでいく。
夥しい数のキューブ状の魔弾は影の天使たちを撃ち抜き、その身体を侵蝕していく。
「盗人風情が堂々と、正面から、我々を突き破る腹か?
残念だが、我々の腸は易々と『喰えない』のだよ。
そのお得意な虚仮脅しで我々を退ける事が可能だと?」
「なるほど、確かに仰るだけありそうですが……そうですね」
真っ赤な口に笑みを刻んだ『嗤う大壁』ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)に答えたのはベルと呼ばれた女。
「そもそも、退ける必要があるのでしょうか?」
そう言って構えるベルナデッタはいかにも聖騎士という雰囲気があった。
痩身巨躯を見上げる姿は確かにロジャーズを意識しているようだ。
●
「魔剣、聞いた話では最初の『聖女』以外はまともに使えず、ただのアーティファクトでしかない代物だそうで」
「そうらしいわね♪」
楽しそうに笑う遂行者にフルールは一歩踏み込むようにして問うことにした。
「オルタンシアおねーさんの玩具は何だか古めかしいですね。昔、信仰していたものの成れの果てでしょうか?」
フルールは真なる焔をその身に湛え、オルタンシアへと撃ち込んでいく。
「あはっ♪ そうかしら? そうね、そう見えるかもしれないわね?」
いっそ愛おしむように笑う遂行者はフルールが撃つ猛攻を何らかの手段で勢いを殺してみせる。
「――Nyahahahaha!!! ――『その程度』か! その程度で聖域に至れると?」
ロジャーズは声高らかに笑い、ベルナデッタが振るう剣を全て受け止めていた。
数多の斬撃が齎す傷はその巨躯の前には殆どが無意味と化していく。
それでも完全に無傷で済むには行かなかったが、気にする必要を持たぬ程度には落とし込めている。
「なるほど……たしかに、私では到底かなわぬ相手のようですね――ならば……相手にするのも無駄というもの」
静かに告げたベルナデッタが一気に後退してロジャーズを無視して聖域めがけて駆け抜ける。
ミルヴィめがけ、数多の黒炎の槍が降り注ぐ。
影の天使たちの注意はミルヴィへと集中していた。
深呼吸をしてから、ミルヴィは瞳を開けた。
緩やかに開かれた魔眼と整えられた呼吸が手繰る気の流れに合わせ、踊り子は黄昏に嵐を巻き起こす。
剣撃と嵐の幻影は美しく、いっそ悲しささえ帯びて吹き荒れる。
嵐が過ぎ去る頃、凪の如き隙が生み出された。
「ちょうど固まったこのタイミング! 二人ともヨロシク!」
「任せて」
マルクはそこを逃さずワールドリンカーを撃ち込んでいく。
降り注ぐ魔弾が影の天使たちを瞬く間に滅ぼしていくのを見据えながら、視線は決してオルタンシア達からも逃さない。
「済まない、遅れてしまった。魔剣は確かに安置した」
パルチザンを構えたセヴェリンが唸るように声をあげる。
マルクは姿を見せたセヴェリンへとすぐさまハイテレパスを試みる。
(フルールさんの守りが届く位置で影の天使の討伐を手伝ってください)
(うむ……同盟者よ、そちらは頼む)
歴戦だけありセヴェリンはすぐさま応じ、一気に影の天使へと肉薄していった。
●
戦いは続き、影の天使は倒れていた。
「なぁんだ。持ってるそれ、本物の魔剣よね。う~ん……」
オルタンシアが悩ましそうに声をあげる。
「――もったいないけれど、ふふ」
微笑するオルタンシアが黒炎揺蕩う手を振るう。
「奪えないのなら、壊してしまいましょうか――」
黒き爆炎が戦場を走る。
「――Nyahahahaha!!! 我々を置いて奴を食えるとでも?」
響くはロジャーズの哄笑。
動き出そうとしたロジャーズ、しかし。
「あはっ♪ 元気がいいわね。ベル! そいつは貴女が止めなさい」
そんな指示に応じて抑え込むように致命者が立ち塞がる。
ロジャーズはそれを内心に成功を確信しながら、焦っているように『見せる』
「下手な嘘ですね……」
「嘘が下手糞?
――嘘を吐く必要が有ると?」
「えぇ。あるでしょうとも」
「Nyahahahaha!!!」
哄笑の後ろ、既に仲間の動きは決まっている。
「――させませんっ!」
それはセシルだった。
魔剣を壊す、それは即ちそれを腰に差すセヴェリンとて無事では済まないことは明らかだ。
「もう、フラヴィアさんに悲しい思いをして欲しくない!!」
その手に握る剣に力を籠めて、セシルは震えそうになる声を押し殺して叫ぶ。
「絶対に守ってみせます!」
迫る黒炎へ氷の刃を帯びた愛剣を振り抜いた。
振り抜いた斬撃が爆炎を斬り裂き、暴発した炎がセシルに激痛を齎した。
「――思い通りにさせたりしない!」
ミルヴィは傷だらけの巨人へと攻めかかる。
剣気で作りだした刃は飛鳥の如く跳び舞い、踊るように戦場を翔ける。
巨人へと刻む剣嵐舞踏、そのままオルタンシアへと駆け抜ける。
「あはっ♪ 素敵な踊りね、戦場でなければ観賞してみたかったわね」
鮮やかに滑る斬撃がオルタンシアへと微かに隙を生む。
「以前ベルナデッタが申していたでござるな。フラヴィア殿を『姉と重ね見た少女』と。
そしてあの魔剣に固執するお主は巡礼の聖女の縁のある人物とみえる。
『妹殿』よ、そろそろ正体を明かして頂いても宜しいか?」
手数を以って迫る咲耶にオルタンシアが訝しげな視線を向ける。
「なぁに、ベル。ばらしちゃったの?」
そのままちらりとベルナデッタに視線を向けてオルタンシアが小さく溜め息を吐いた。
「バレてるなら教えてしまうけれど、たしかにあの闇色の少女――フラヴィアの行末を視たいのも、私の目的の1つね」
「オルタンシア、貴方は聖女……と名乗りましたね。これの本来の持ち主は貴方……なんて言いませんよね」
「あはっ♪ そんな骨董品使わなくても戦えるし、流石にそこまで長生きもしてないわ?外見よりは生きてるけれどね?」
巨人へと無数の血の刃を撃ち込むマリエッタの問いかけに、オルタンシアがなんてこともなさそうに笑った。
●
いよいよ影の天使と黒炎の巨人を打ち倒したイレギュラーズは遂行者の目前まで迫る。
「強盗していいのは強盗される覚悟があるやつだけだ!」
斬撃の刹那、一気に肉薄したサイズは、オルタンシアの十字架へと鎖を巻きつけるように伸ばす。
「あはっ♪ 構わないけど、死なないように、ね?」
そんな笑顔と言葉があり、チェーンが十字架に触れた刹那、サイズの全身に激痛が駆け抜けた。
それはただの反撃とはまるで意味の違う、サイズの根幹へと直接突き刺さるような痛み。
(……まさか、あれ自体が聖属性、なのか?)
「貴女の変えたい未来にあの剣が関係しているのですか?」
斬撃を振り払うセシルの問いにオルタンシアは微笑を浮かべた。
放った氷の刃はその殆どが黒炎を纏う十字架にその勢いを殺されていた。
「あると言えばあるけれど、特にないわ?
あの剣があろうとなかろうと、私の見たい世界は作れるもの」
「セヴェリンさんが『骨董品に過ぎぬ』と言う魔剣がどうして狙われるのか……」
マルクは剣状の魔力を形成しながらそこへ飛び込んでいく。
「遂行者は聖遺物を核に『神の国』を展開する。
もしかして、『逸話』のあるモノを集め、新たな『歴史修正』に利用しようとしているのか?」
振り抜いた斬撃、刹那、十字架が燃え上がり強力な障壁となって防がれる。
「あはっ♪ 残念、あれが欲しいのは個人的な興味からよ」
「ならば、使い手を異言都市の力で再度呼び起こす……というところでしょうか」
続けて飛び込んだマリエッタが血の鎌を振り抜けば、オルタンシアが微笑みを浮かべた。
「バレちゃったわね。
『巡礼の聖女』フラヴィアを呼び出せる環境があれば、彼女――の力を持った者が呼び起こせるはず。
私はね、すごく個人的に『聖女と呼ばれるような人達』に興味があるの」
「それが貴女個人の目的という事ですか?」
「うーん、少なくとも目的に1つ、かしらね。
他にも何個かあるけれど――まぁ、聞かれてないからこれはまだ内緒♪
この国以外でも、会えるかもしれないし、ね?」
続けて問えば、オルタンシアは首をかしげてそう語る。
そこへフルールは声をかけた。
「さてさて、少しは楽しめましたか?」
「そうねぇ、暇潰しにはなったかしら?」
「ねぇ、オルタンシアおねーさん、何か心に痼があるのではないですか?」
「どういうことかしら?」
蒼炎を撃ち込むフルールの問いに、オルタンシアが少しばかり口元の笑みを深くしたように見えた。
「自分の行動に後ろめたいことがないのなら、あなたの焔も清炎となるでしょう?」
「あはっ♪ そういうこと」
「乙女の秘密って、暴いてみたくならない? 私はなります」
「それはそうね♪ 大概ろくなことはないけれど!」
「だとしても、私は知りたいのです」
「そうねぇ……この炎はね、今も私『を』焼いているの。そういえば、貴女はさっき言ってたわね。
昔、信仰していたものの成れの果てだって。ふふふ、全くもって正反対ね。
この十字架もそう、これは私が磔にされていた十字架よ」
オルタンシアは十字架を慈しむように笑って言った。
「そうそう。それから、これだけは訂正させてね? 貴女の言ってるのは、私じゃなくて私の妹よ?
私の妹について聞きたいのなら――あの子に聞く方が早いんじゃないかしら?」
押し切るように反撃を受けた咲耶はバックステップで躱しながら重ねて問う。
「それはどういう意味でござる?」
「アドラステイアの傭兵――その部隊長クラスなら、会ってないとおかしい人がいるでしょう?」
「……お互い生きていたならばまた会おう。ただし次は逃さぬぞ」
「あはっ♪ それは楽しみね、ふふ、縁があれば遊びましょうね♪」
咲耶の啖呵に愉しそうに聖女が笑って腕を払う。
直後、ベルナデッタとロジャーズの間を爆炎が炸裂、衝撃がロジャーズとベルナデッタの間を無理矢理に引き剥がす。
「ベル、帰るわよ。それじゃあ、楽しかったわ、英雄さん――また遊びましょう?」
笑みを浮かべるまま、オルタンシアはパチンと指を鳴らせば、爆炎と共にその姿は消えていた。
●
イレギュラーズは少しばかり警戒しながら、黒剣に関する調査を始めていた。
「セヴェリンさん的にはこの魔剣がなぜ狙われたのか理解できないんだっけ?」
サイズはセヴェリンの方へと近づいて問いかけた。
「なら俺が魔剣の本質を見てあげる。なに、壊れてるのなら治せるよー?
ずっと宝物として安置されてたら武器も鈍るからな……色々とね……」
「壊れてはないはずだ」
セヴェリンはサイズの前で魔剣を抜き放つ。
「じゃあ少し見せてくれ」
ふわふわと近づいて、自分の技術の粋を掛けて魔剣を鑑定していく。
(もし聖属性だったら呪物として俺がダメージ喰らうかもしれないしな……)
「こういうののよくある仕掛けって鞘とか柄や鍔にあるけどなんだろ……? 確かに魔力は感じる……」
その様子を見ながら、近づいたミルヴィが未知に対する解析を望む。
「……どうだろうか?」
暫く2人が鑑定をしていると、セヴェリンが問えば。
「あぁ……特に問題はないみたいだ。セヴェリンさんの言う通り、手入れ自体も十分されてるみたいだな」
「うーん、そうなると、やっぱり特定の場所か持ち手で力を発揮する? とか?」
サイズが言い、ミルヴィは首を傾げて言う。
「……やはり、そうか。時間を割いて貰ったのに済まないな。
これまでの歴代がどうしようもなかったのだ……そう簡単に何かがあるとは思えん」
剣を光に当てるようにしてあげた後、少しだけ溜息を吐いた聖騎士がそのまま剣を鞘に戻す。
「とはいえ、何は無くても魔剣としては価値がある。
これがあの子の力になればいいんだが」
どことなく寂しそうな、悲しそうな声で聖騎士はそう最後に笑って。
「……さて、奴らが戻ってこないとも限らぬ、早く立ち去るとしよう」
そう笑う聖騎士が一歩前に出るのに続け、イレギュラーズは教会を後にした。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れさまでした、イレギュラーズ。
GMコメント
そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
遂行者に狙われる聖騎士一族の家宝を守り抜きましょう。
●オーダー
【1】『遂行者』オルタンシアの撃退
【2】『致命者』ベルナデッタの撃退
【3】ワールドイーター及び影の天使の撃破
【4】『巡礼の魔剣』の無事
●フィールドデータ
天義国内に存在する小さな教会。
ペレグリーノ家の所有する物件であり、一族の共同墓地の管理地でもあります。
質素で厳か。落ち着いた雰囲気があります。
フィールドとしては少し縦に長く、横の射程は取りにくい部分があるでしょう。
●エネミー初期位置
↑出入口
オルタンシア ベルナデッタ
ワールドイーター
影の天使
↓イレギュラーズ方面
●エネミーデータ
・『遂行者』オルタンシア
『遂行者』と呼ばれる者達の1人。非常に強力な存在です。
理由は定かではありませんが、ペレグリーノ家の家宝を奪いに来ました。
爆炎を操る魔術師です。様々な射程を持つハイバランス型。
全力ではありませんが、ある程度は本気で攻撃してくるでしょう。
取りあえず魔剣を奪うつもりで来ましたが、無理をすることなく撤退します。
・『致命者』ベルナデッタ
長髪の女性聖騎士の姿をした致命者です。
後述するフラヴィアの母親の姿を取ります。
オルタンシアが撤退する場合には同じく撤退します。
手数を重視するサポートアタッカータイプ。
【スプラッシュ】や【連】属性の攻撃を持ち、
【出血】系列、【痺れ】系列、【呪縛】、【恍惚】などのBSを駆使します。
・『ワールドイーター』黒炎の巨人×1
赤黒い炎で出来た巨人です。
強烈な咆哮は【乱れ】系列、【足止め】系列の効果があります。
また、その巨体から繰り出される攻撃は全て近範、近扇、近貫となります。
あらゆる攻撃から【火炎】系列のBSを付与される危険性があります。
また、絶えず燃えているため呼吸がしにくくなっており【窒息】系列の危険性もあるでしょう。
・影の天使×15
いわゆる影の天使たち。
陽炎のように揺らめく影とも黒炎の天使ともいえる姿をしています。
手には黒炎で出来た槍を装備しています。
槍を投擲することによる遠距離以上の攻撃の他、通常の槍のように近接戦闘も行ないます。
武器が炎で出来ていることもあり、【火炎】系列のBSが齎される可能性はあります。
●友軍データ
・『黒銀の烈鎗』セヴェリン・ペレグリーノ
天義の聖騎士。パルチザンを獲物とします。
後述のフラヴィアから見て大叔父(父親の叔父)にあたる人物。
白髪交じりの闇色の髪と暗めの金色の瞳をした武人。
冠位強欲との戦いでは聖都の中枢を守る任務に就いており無事でした。
その代償とばかりに自分以外の全ての一族が戦死するという凄惨な過去を持ちます。
理性的で執務に忠実、武人としての力量と経験も豊富な騎士らしい騎士。
タンクよりのバランス型。戦力として十分に信頼できます。
戦闘への合流は2ターン後。
それまでは内陣の向こう、聖域に魔剣のレプリカを安置しにいるため不在です。
●参照情報
・『夜闇の聖騎士』フラヴィア・ペレグリーノ
夜のような闇色の瞳と髪をした女の子です。
元は『オンネリネンの子供達』の部隊長を務めていた少女。
紆余曲折を経て遠縁の親戚に預けられ、聖騎士見習いとなりました。
当シナリオでは登場しません。
・『巡礼の魔剣』
ペレグリーノ家に伝わる家宝の魔剣です。
ここでいう魔剣はマジックアイテム程度の意味合いです。
一族の祖であり、巡礼の旅をした聖女『フラヴィア・ペレグリーノ』が佩いた剣です。
家祖のフラヴィアは『金色の髪に黒衣を纏って天義各地を廻り、巡礼の旅をした聖女』なんだとか。
また、巡礼の旅を終えた彼女が闇色の髪であったことから、
ペレグリーノ家では闇色の髪と瞳の娘が産まれた時フラヴィアを与える伝統があります。
少なくとも現代まで、この剣を『そこら辺にある魔剣』以上の業物として振るった人物はいないことになっています。
現時点での唯一の例外は元の持ち主である聖女フラヴィアと思われますが、
残念なことに、彼女の手にあったこの剣がどれほどの業物であったのか、記録に残っていません。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
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