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シナリオ詳細

<天使の梯子>心尽くしに食い尽くす

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●信仰がため
 天義は今、混乱の最中にある。
 『主が定めし歴史を歪めた悪魔達に天罰を。我らは歴史を修復し、主の意志を遂行する者だ』――そう告げた神託に従うかのように始まった聖遺物の汚染、『リンバス・シティ』の権限、ワールドイーターこと終焉獣(ラグナヴァイス)と遂行者の跋扈。それらはすべて、『正しい歴史』とやらに軌道修正するための存在だという。
 何が正しい歴史なものか。滅びのアークを呼び込む者達の好きにさせてなるものか、と息巻くタカ派の聖職者や騎士達はしかし、次々と襲撃を受けている。ローレットとしては『神の国』と呼ばれる異界の調査と奪取もさることながら、正しい心を持つ天義の人々を魔の手から守ることもまた、重要な任務である。
「お呼び立てして申し訳ありません。私共がローレットの皆様のお手を煩わせるなど、有ってはならない話なのですが」
「勘違いをなさらないでください、ヘルベ司教。私達は滅びのアークから皆様を、ひいては世界を守ることが至上命題です。あなたのご存命が平和への一歩であればこそ、我々は喜んでこの地に参ったのです」
 天義都市・エレク。
 ここは司教であるヘルベ氏をはじめとして、厳格な信仰心と正しい生き様、そして融和を尊びつつも致命的な背信を赦さぬ苛烈さを併せ持った人々が多く住まう都市である。パパス・デ・エンサルーダ(p3n000172)は司教の依頼を受け、イレギュラーズと共に護衛として来たのである。相手が相手であるゆえ、騎士服としての黒衣と本来の慇懃な口調で接しているのである。……だが、意味もなく私兵や護衛を侍らせる人ではないことは挨拶の時点で分かった。と、すれば。
「司教、見たところ目立った被害は無いようですが……依頼を頂いたということは、既になにか?」
「……ええ。つい先日、一人の聖職者が行方を眩ませました。直前まで生活していたであろう痕跡を残して、しかし彼と飼い犬は見当たらず、『まるで直前まで着られていたような服』や『皿の縁にだけソースの跡が残った食器』などが残されており……そこには、私やこの都市を何れ襲うという予告状が残されていました」
 状況からすれば、人、あるいは有機物のみの存在を奪うものが現れたと考えられる。ワールドイーターならまだ、助けられる見込みはある。
「私の命が惜しくはない、とは申しません。死ねば、来るべき戦いへの備えが後退する。私も、できればこの街も、残さねばならない。足を止めるわけにはいかぬのです」
「結構、結構、大変結構。固い決意、強固な意志、そして美しいそのまなざし。どれをとっても、噂に聞くエレクを統べる信仰の徒。あなたの姿は美しい!」
 ヘルベの言葉が続くのを待たず、仰々しい言葉と大袈裟な拍手が鳴り響く。何事かと一同が向けた視線の先には、一人の白衣の男の姿があった。心から楽しそうに笑みを貼りつけたそれは、明らかにこの場にあって異常である。周囲を舞う、鉄球も含めて。


 白い肌、銀の髪。長くのばされたそれを一つにまとめ、鴉がごとき黒翼を背負ったスカイウェザーと思しき男の身に着けた服は、天義のあちこちで見られた――。
「遂行者……!」
「如何にも。私のことはヘンデルとお呼びください。もしかしたら一度見えた方もいるかもしれませんが、私は物覚えが悪い方でして。ご了承ください」
 ヘンデルと名乗った遂行者の男は、かつてパパスと、イレギュラーズ達の前に現れている。『サイレンシス』なるワールドイーターを連れて現れた彼の目は、しかし表情とは裏腹に感情のないガラス玉のようだ。どこから侵入したというのか。教会に詰めていた騎士と神聖兵とが、イレギュラーズをよそに彼を取り囲む。
「未来を歪め標榜する悪しき徒(ともがら)、遂行者。貴方のような存在を生かしておく訳にはいきません」
「それはそれは! 大変恐ろしい話です! 恐ろしすぎて――その顔すらも見ていられない。ねえ?」
 ヘルベの言葉にヘンデルが応じるより早く、兵士の肩に水滴が落ちていた。
 今日は晴れていたはずなのに。まして雨漏りなど。そう、一瞬気を取られた次の瞬間。

 どぷん。

「……えっ」
 水滴が染み込むような自然さで、兵士の姿が消えうせた。服だけを残して、溶けるように。次々と降り注ぐ水滴は都合8滴。兵士達は最初からそこにいなかったかのように溶け消えると、足元に蟠った水滴がひとつの塊に変じた。
「ワールドイーター『オルガニス』。生きている者、その活力を喰らう者です。とはいえ、完全に活力を奪うには時間が要りますがね。先日の、なんといいましたか、助祭の。彼はもう助けても生ける屍が関の山でしょう」
 それと、とヘンデルが口にするより早く、教会の天井が崩れ……しかし、瓦礫も埃すらも地面に落ちることなく、スライム状の塊が音もなく着地した。
「こちらは『インノールグ』。人工物を好むワールドイーターですが、ひとたび解き放つとあたりかまわず家でもなんでも食べて大きくなるので、余り使いでのない個体です。代わりに人を取り込んでも、身に着けた物しか食べられないので……暗殺には不向きなのですねえ。『殺す』手段なら沢山あるので、ご賞味ください」
 敗北の味を、死の恐怖を。ゆっくり味わいながら死んでいけ。
 ヘンデルはそう告げると、見せつけるように翼を打って空へと向かう。追うには、2体のワールドイーターが邪魔に過ぎる。追い落とすにも、鉄球が邪魔だ。
 ここはもはや、オルガニスを打倒し兵を取り戻し、ヘルベを守るほかはない。

GMコメント

 服を脱がすスライムとガチ殺意スライムとが一緒に出てきませんかというリクエストを頂きました。
 私がやるとこうなります。残念だったな、ドのつくシリアスだよ。

●成功条件
 ワールドイーター2体の討伐

●失敗条件
 ヘルベの死亡

●オルガニス
 有機物(厳密には生物や食べ物などに秘められた活力)を好んで食べるワールドイーター。倒せばOPで食べられた人々は救われるが、多分冒頭の助祭は廃人になって帰って来るかもしれない。
 【棘】、【摩耗(中)】を持ち、毎ターン、自分が与えたダメージに応じてHPが回復します。
 HPが高く、物理攻撃に若干の耐性があります。
 主に粘液(神秘属性)の放散や長距離放出、広域散布などでダメージを与えてきます。
 主なBSは【乱れ系列】【麻痺系列】など。
 インノールグとの連携で【必殺】が付与された攻撃が可能です。

●インノールグ
 無機物(人工物)を好んで食べるワールドイーター。倒すとすでに食べた建材などは戻ってきますが、破壊されたものは直りません。取り込んだ無機物で肉体を固めているため防技が高く、スライムの柔軟性に建材の硬さと遠心力を用いて、肉体をフレイルのように操って殴りかかって来ます。
 神秘攻撃に若干の耐性があり、物理攻撃メイン。先述の攻撃や瓦礫を飛ばす、硬質化した体での押し潰しなどがあります。
 【ブレイク】などを駆使し、また、オルガニスとの連携で【必殺】が付与された攻撃が可能です。

 余談ですが各1体のため、相応の手ごわさを備えていますのでご注意ください。

●遂行者ヘンデル
 同名の拙作シナリオに登場しましたが、今回は憎まれ口とかほざいて逃げていきます。速攻を狙って遠距離攻撃を撃つなどしても、鉄球が防ぐので今回は落とすこともできません。

●ヘルベ司教
 ちょっとした治癒はお手の物の護衛対象。なにもしなければ真っ先に狙われる。

●パパス
 メイスによる打撃、スリングによる遠距離射撃、そして魔法による治癒や補助が出来ます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <天使の梯子>心尽くしに食い尽くす完了
  • GM名ふみの
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年05月14日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

物部・ねねこ(p3p007217)
ネクロフィリア
恋屍・愛無(p3p007296)
愛を知らぬ者
ロロン・ラプス(p3p007992)
見守る
マッチョ ☆ プリン(p3p008503)
目的第一
結月 沙耶(p3p009126)
少女融解
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女
トール=アシェンプテル(p3p010816)
ココロズ・プリンス

リプレイ


「音を喰わせたのは記憶にも残らぬ些事ってか? ……腹立つな」
「……? はて、音……そういえば、ありましたか……」
「イズマ君、これは話すだけ無駄だろう。自分でやっていることに心底興味がなさそうだ。あの手の相手は徹底的に思惑をブチ壊してやらないといけない」
 『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)とヘンデルの邂逅は、当然ながらこれが最初ではない。『サイレンシス』なるワールドイーターに対しては、音を重視する彼は思うところがあった。あの時のことを考えることすらしない姿勢に腸煮えくり返る思いがあるが、『縒り糸』恋屍・愛無(p3p007296)の制止も尤もだ。今まさに立ち去り、逃げ切れるであろう(妨害手段も乏しい)相手に息巻いても仕方ない。ワールドイーター2体を向こうに回して護衛対象を守り切るのは簡単ではないのだから。
「生ける屍……おお? もしかしてスライムに溶かされた死体とか見れちゃったりします? 最高ですね♪」
「死んじゃいない! 今取り込まれた連中も肉体は無事だ! 一瞬のうちに溶けて死ぬような絶望を許してはいけないし、あってはならない!」
「その通りです。ヘルベ司教の前で、その同胞(はらから)の命を粗末に扱うような言行は決して聞き心地のいい言葉ではありません。できれば、避けて貰えますか」
 『ネクロフィリア』物部・ねねこ(p3p007217)は死体愛好者として、今まさにオルガニスに取り込まれた人々、そして助祭の哀れな末路を期待して声が上ずっていた。その気持はわからない、とは言うまい。されど、仮にも護衛対象はそれらを従え、尊ぶ司教。『奪うは人心までも』結月 沙耶(p3p009126)や『ポテサラハーモニア』パパス・デ・エンサルーダ (p3n000172)の言う通り、露骨にその末路を喜ぶ言行は決して褒められた話ではない。ないが、ねねこの性質上そのような言葉が口をついて出たのも無理からぬ話ではあろうか。
「全く、生き物や建物を好き放題食べるスライムなど……けしからん!」
「本当に。私の前で喰らう……いいえ、奪うという行為をするのはずいぶんですね」
「いっぱい食べるならプリンにするべきだろう! 美味いし強くなれるしで良い事いっぱいの筈だぞ?」
(え、怒るところそっち……?)
 『アイアムプリン』マッチョ ☆ プリン(p3p008503)と『輝奪のヘリオドール』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)は眼前で人々が、そして建物が『捕食』されたことに多少なり怒りを禁じ得なかった。人々から喜々として奪うさまは、決して甘受できるものではない。貪欲ながら害するためだけに作られたような力。それを認めたくないのは当たり前だ……が、プリンはいつもどおりベクトルがズレていた。どこまでもブレないのは流石というか。奪う側の己が奪われる人々への哀悼と怒りを覚えたマリエッタが動揺を示すのも仕方ないものだ。
「ようやく悪役らしい真っ当な遂行者に出会えて安心しました。初遭遇した遂行者が謎に性癖を拗らせたヘンテコおじさんだったのもあり、私の中の遂行者の印象がだいぶ悲惨な事になっていたのですが……貴方のような人の命を軽んじる悪党ならば心置きなく剣を抜けるというものです! その醜悪なワールドイーターを討ち、貴方の目論見を砕きます! ヘンデル!」
「トール君はどこまで偏った遂行者を見てきたんだろうね。君の仲間が悪いんじゃないかい、ヘンデル」
「……言いがかりも甚だしい」
 『女装バレは死活問題』トール=アシェンプテル(p3p010816)はめぐり合わせなのか個人の性質の問題なのか、何故か問題のある遂行者との遭遇機会に恵まれていたようだ。漸くまともな(非常に性格に問題があるが)遂行者と縁が結ばれたことに喜び、使命感を胸に得物を構える喜びを得たことは確かに気分がよいだろう。……喜んでいいのかといえば断じてよくないが。だから愛無に水を向けられたヘンデルが苦虫噛み潰したような顔で否定するのもさもありなんというか……。
「こんな『偏食家』を押し付けてくるんだから本人もさぞや変わり者なんだろうねえ……普段のボクとあんまり変わらない? そうかな?」
「…………なるほど、どちらのスライムも『ご賞味』できるのか!」
「ちょっとプリン君?」
 他方、『頂点捕食者』ロロン・ラプス(p3p007992)は現れた2体のワールドイーターの偏食家ぶりに辟易した様子だったが、貪食である様子は決して遠からずという感じはする。プリンが親しいものを両者に見出しても否定はできまい。本人、否定したい気持ちでいっぱいだと思うが。
「Urrrrrrrrrrr」
「皆さん。助祭の青年の生死は問いません。兵達も最悪の場合、生死不問とします。が、我々と神とに冒涜を働いた彼の悪徳は塵一つ残さず、排除を……お願いできますね?」
 ヘルベは飛び去るヘンデルを一瞥すると、すぐさまワールドイーター達に向き直る。魔力消費を抑える付与術式を数名に施し、ついで保護結界を展開したその姿は高位聖職者としての経験と誇りに裏打ちされた実力に思えた。それでも「自分で戦う」とまで言わないのは、実力と世界を変える力が足りない自身を弁えてのことだろう。
「言われるまでもない! 俺達の前から尻尾巻いて逃げた奴が放った程度の相手に負けるわけにはいかない!」
「生死不問などとは言わせません。奪い返して見せましょう。死血の魔女が……遂行者達の創る偽りの世界から」
「私的には意識は無いけど体は生きてるのはこう……違う感じなんですよねぇ。体が死んで意識はあるは好きなのですが……まぁ仕事しますね。仕事! 好みじゃないならいっそ助けた方が夢見がいいですから!」
 イズマ、マリエット、そしてねねこがそれに応じたのも道理。殺意を押し殺して救済を託したヘルベの目に何も思わぬ、などあり得ぬのだ。


「オレのマッチョな体が目に入らヌカ!」
「私達が相手です! 来なさい!」
 プリンとトールはインノールグの間合いに踏み込むと、二人がかりで足止めにかかる。トールに狙いを定めたそれが建材を遠心力で叩きつけるものの、トールは一顧だにせず一歩前に出て避けた。スライム如きが驚きを知るとは思えないが、動きに生まれた淀みは事実。プリンがそこを目掛けて放った毒は確かにその身を蝕み、瞬く間に毒々しい色合いで染めていく。
「ヘルベ君は治療ができるギリギリまで下がって状況判断。パパス君はヘルベ君を庇いつつ治療。自衛を最優先に頼みたいね」
「愛無殿と申しましたか。心遣い、痛み入る」
「全力で治療を回します。くれぐれも、無理攻めせぬよう。愛無さんは状況判断に自身の命も勘定に入れて動いて下さい。……大丈夫ですよね?」
「僕も命は大事だよ」
 愛無はヘルベとパパスに指示を飛ばすと、仲間たちの動きに合わせ、じわりと動きを定める。パパスの言葉は若干の冗談、そして若干の心配が籠もっていることを愛無は理解している。信用されていないものだと心中で嘆息。
「どうしたどうした、私を食べてみたまえ? きっとおいしいぞ?」
「攻めても地獄、動けずとも地獄。活路がない恐怖というものを教えてやる。俺達相手にお前達じゃ役者不足だということもな」
 沙耶の挑発に軽々に乗ったオルガニスだが、その身が攻めに回ろうとした直前、不吉な音色を伴って声が響いた。イズマの術式による拘束が動きを止めたのだ。続けざまに叩き込まれたマリエッタの血の武具は、内部の人々を巧妙に避けつつ的確に突き刺さる。体液が僅かに漏れ出るその身に、ダメ押しのように愛無の一撃が入った。なんとか自己再生を試みようとした痕跡こそあれ、崩れた部分が再生する予兆は微塵もない。
「こちらから攻撃させて貰うよ。キミの体は少しはボクを傷つけるのだろうけど……その分、キミを傷つけて収支をコントロールさせてもらおう」
 ロロンの用いる技能は何れも消耗が激しく、肉体の活性によって僅かにマイナスが上回っている状況だ。それが常、のハズ。だが魔力消耗は常に比べ明らかに少なく、守りに入ろうと攻めに出ようと枯渇を心配することはない。……ヘルベの付与術式か。好き勝手に立ち回ってもガス欠に至らぬという直感は、その立ち回りをよりアグレッシブなものへと変えた。
 ワールドイーター達は決して弱くはない。むしろ、このメンバーでも状況が間違えば苦戦もあり得る敵ではあった。計算上は、そうだ。だが、その懸念を現実にするにはインノールグとトールの相性が悪すぎる。プリンの挑発が的確すぎる。イレギュラーズのインノールグ:オルガニス:治療=2:5:1(2)という思い切った戦力配分もまた、状況の進行を加速させた。イレギュラーズの側に、天秤がみるみる傾いていく。
「攻撃で消耗した分は私も治療しますからね! 今日は硬い人が多くて素晴らしいですね。回復しがいもあります♪」
「……本当に。我が町に駐屯させている兵士とはものが違いすぎるというものです」
「お戯れを。司教猊下のお手下の兵とイレギュラーズを同列にしては、我々が恥というものでしょう」
 ねねこは正直、彼らが倒れる、傷つくという可能性が考えられなかった。相応に負傷は重ねているが、治療が十分間に合う範疇にあるのだ。激しい戦いにあって、こうも安定しているのは珍しい。
 ゆえにヘルベ司教の驚きも理解できようが、パパスがそれをやんわりと押し留めた。運命の寵愛を受けた者が、一般兵士と同じ数打ちであってはならない。誇りとして自負として信頼として、その言葉には待ったをかけたくもなろう。
「Gzarrrrrrr」
「トール! 固くなるぞ! スライムのくせに生意気だ、あいつ!」
 プリンはインノールグが強烈な攻撃に移るのを察して声を上げる。トールの超回避ですらも避け得ぬ可能性、そして威力。だが、当の本人は待っていたとばかりだ。
「その行動を待っていました。無機物を交えた硬質化なら対物技の本領発揮です! 鉄帝動乱の中で共に歩み、昇華させた破壊の輝刃――その身で受けていただきます!」
 冗談のような依頼もあった。小馬鹿にされたような遂行者やワールドイーターもいたかもしれない。だが、目の前の敵は倒すべき、遊びのない正真正銘の強敵。トールの手にした剣を振るって遜色のない強敵だ。
 振り上げた刃を真っ向から叩き込み、硬質化した部位に突き立てられ……全壊には至らずとも、大きな傷を叩き込む。
「時間稼ぎと言ったな。あれは嘘だ。勝ってしまっても、オレ達は一向に構わんのだ!」
 プリンはトールの一撃に喜々として続く。彼ら二人で倒し切ることは難しくあり、しかし多大な消耗を強いることに貢献した。状況は、ヘンデルが目論んだものより数段上をいっていた……と、断言できた。


「例え廃人だろうと体が生きているのなら、魂もまだそこに『いる』かもしれん!」
「精神が飛んでいるのなら、魂も見つけられるかもですね……それでも駄目なら私には無理ですが! せめて治療はしましょう!」
 オルガニスの撃破によって内部から吐き出された兵士たちは、何れも激しい疲弊を訴えたが意識は残っており、ねねこやパパスらの治療で持ち直すだろう。問題はプリンが手を触れた助祭だ。うわ言、というか刺激への反射程度の声を吐き出すその姿は、さながら生ける屍。命が残っているため、ねねこの興味の範疇外だが放置しておくわけにもいかない。肉体は癒やしたが、果たして魂をも引き戻せるかは未知数だ。それを『信じられる』かどうかが、同じ能力を持とうと両者の差異でもある。
「お前達、何を寝ぼけているのだ! ここは信じる者の国なのだろう? お前達は信を捧げる者なのだろう? なら、まだ死にきってもいないうちから心を折られてるんじゃあないぞ!」
 治療と、霊魂への語りかけ。そしてプリンの持つ信念とカリスマが声となって響き渡る。その姿が如何様な化学反応を起こしたのかは定かではない。……が、助祭の青年の指先が僅かに動いた。そして、うつろながらも声が漏れる。目の光が、ゆっくりと戻っていく……明確な意思を告げるには時間がかかろうが、奇跡と言っていい事態が訪れたのだ。
「も、戻ってきたのか?! 安心しろ、私達はローレットの者だ!」
「沙耶さん、揺すっちゃ駄目だ! 気持ちはわかるけど落ち着いて……!」
 驚きのあまり肩をつかんだ沙耶を、イズマが慌てて引き剥がす。回復の兆候はみせたが、予断を許さない。どこをどう傷つけているかもわからないのだから。それがわからなくなるほど、彼女が助祭の生死を憂慮していた証明でもあるか。
「倒しました……これが、『天義の本当の敵』、『遂行者に対する勝利体験』……!」
(なんだか凄い感動を覚えていますがどうしましょうか)
(碌でもない連中がいるのは聞いていたので気持ちは分かります、ちょっと放っておきませんか)
 輝剣を手に『倒した』という実感に打ち震えるトールの姿に、マリエッタは少し心配そうに眺めていた。何事かフォローを入れようかと考えた彼女だが、パパスはそれを止める。トールにとっていろいろ紆余曲折あったのだから、勝利の実感を手にできたことは大きな成長に繋がる……繋がるのだろうか?
「ねぇプリンくん、さっきこの偏食家たちとボクを一緒にしなかった? ねえ?」
 なおロロンは先程のプリンの目配せを見逃さなかったらしい。まだまだ解決後の喧騒はおさまりそうにない。

成否

成功

MVP

マッチョ ☆ プリン(p3p008503)
目的第一

状態異常

なし

あとがき

 大変お待たせしました。
 念入りに無理だよって書き添えておいたら、普通に貫通してきた。戦闘に拠らないプレイング怖。

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