PandoraPartyProject

シナリオ詳細

キドーのお仕事。或いは、派遣会社ルンペルシュティルツのシノギ…。

完了

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●キドー
 海洋。
 とある孤島でのことだ。
「そういえばお頭、面白い話を聞いたんでさぁ」
「馬鹿野郎、社長と呼べ社長と!」
 海岸から海を眺める2人の男。
 1人は緑の肌をしたゴブリン。そしてもう1人は、いかにも荒くれ者らしい風体をした男性だ。
「それで、サスカッチ。面白い話ってなぁどういうのだよ?」
 声を潜めてキドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)は問うた。
 荒くれ者の男性……“藻屑の”サスカッチの話に興味があったからだ。
 それというのも、この“藻屑の”サスカッチ、派遣会社ルンペルシュティルツの従業員の中でも「金の臭いに敏感」だということで名の知れた男なのである。
 現在、孤島の主であるボス・ルッチの元へ派遣されているサスカッチは「航海アドバイザー兼航空戦闘員」として仕事をしている。
 なかなか使えるということで、ボス・ルッチやルッチの部下たちからの信用も厚く、それなりに情報を手に入れていた。今は手に入れた情報をキドーのもとへ流しているわけである。
「へぇ、お頭……社長。まず、ボス・ルッチはまぁ、やはり元はギャングでしょう。今は潜伏中で仮のシノギに檸檬を売っているってわけでさぁ」
「んなこたぁ分かってるよ。ルッチにせよ、その部下にせよ、どう見たってカタギの面じゃねぇからな。面白い話ってのはそれだけか?」
 呆れたようにキドーは言った。
 サングラスの奥の瞳が細められ、思わずサスカッチは1歩、後ろへと下がる。サスカッチとて荒くれ者としての自負がある。そこらのチンピラやマフィア、ギャングに絡まれたとて適当にあしらい、時には返り討ちにするだけの自信があった。
 だが、目の前の小さなゴブリンを相手にしては、サスカッチの自信など何の役にも立たないことを自覚している。
 違うのだ。
 悪党としての格も、潜って来た修羅場の数も、何もかも。
「いや、社長、今のはただの雑談だ! 本題はこっから! いいですかい? この近くを通る輸送船に“タイガー&サーベル号”ってのがある! 表向きは魚やら香辛料やらを運ぶ輸送船だが、裏では人身売買なんかにも手を出してるってんだ!」
「……あぁ、なるほどな。情報源はどこだ?」
「ルッチさ。“タイガー&サーベル号”の船長は、遠い昔にルッチが潰した敵対組織の幹部らしい。その幹部ってのがまぁ酷い野郎でよ、人間と酒の区別も付かねぇ、どっちも商品にしか見えてねぇって類のクズさ」
 人身売買で甘い汁を啜っていたような者が、果たして今は改心したのか。
 否である。
 きっと今も裏で人を売ってるはずだ、とボス・ルッチはそう言っていた。その話を聞いたサスカッチは、キドーへ情報を流したのだ。
「表向きはただの輸送船だが、乗員たちは悪党さ。海賊船の紛い物だ」
「そんで、襲えばいい金になるってか? まぁ、悪くはねぇんだが……」
 顎に手を触れ、キドーは悩んだ。
 どうにもサスカッチが得た情報は「キドー向き」の案件すぎる。ともすれば、ボス・ルッチはわざとサスカッチにその話を聞かせたのでは無いか。
 そんな気さえしていた。
「いや、いいさ。踊らされてやるか」
 アフターサービスって奴さ。
 そう言ってキドーは、金貨を数枚、サスカッチへと投げてよこした。

GMコメント

●ミッション
輸送船“タイガー&サーベル号”を沈める

●エネミー
・“タイガー&サーベル号”船員×20名ほど
カタギには見えない輸送船船員たち。
銃火器や刃物を所有しているだろうことが予想される。
※“タイガー&サーベル号”には数人の“売り物”が乗っている可能性がある。

●フィールドその他
海洋。とある海の上。
空は快晴。波は穏やか。
サスカッチの用意した、5人乗りの小さな船がある。
マリン迷彩が施されており、隠密性能は上々。
速度は早く“タイガー&サーベル号”になら容易に接近、離脱できるだろう。
ただし、脆い。


動機
 当シナリオにおけるキャラクターの動機や意気込みを、以下のうち近いものからお選び下さい。

【1】派遣会社ルンペルシュティルツの仕事で来た
派遣会社ルンペルシュティルツの一員として依頼に来ました。臨時の派遣社員です。

【2】“タイガー&サーベル号”に乗っています
最初からタイガー&サーベル号に乗っています。もちろん、人身売買の商品としてです。

【3】漂流していた
何らかの理由により漂流していました。タイガー&サーベル号か派遣会社ルンペルシュティルツに拾われます。


今日のお仕事
依頼における主な立ち回りです。

【1】戦闘
“タイガー&サーベル号”の船員たちと戦闘を行い、制圧を目指します。競合他社が減って、ボス・ルッチも大喜びです。

【2】救助
“タイガー&サーベル号”に囚われている商品(人間)たちの救助を目指します。場合によっては、救助対象者を連れてひと足先に撤退します。

【3】強奪
戦闘とか人助けとか、あまり興味がありません。食糧や金目のものを強奪します。人はそれを火事場泥棒と呼びます。

  • キドーのお仕事。或いは、派遣会社ルンペルシュティルツのシノギ…。完了
  • GM名病み月
  • 種別 通常(悪)
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年04月24日 22時15分
  • 参加人数6/6人
  • 相談0日
  • 参加費100RC

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(6人)

キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
グドルフ・ボイデル(p3p000694)
極楽院 ことほぎ(p3p002087)
悪しき魔女
ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)
復讐者
幻夢桜・獅門(p3p009000)
竜驤劍鬼
佐藤 美咲(p3p009818)
無職

リプレイ

●突撃! となりの輸送船!
 ある暖かな日のことだ。
 “タイガー&サーベル号”の食堂室に、突然、破砕の音が響いた。
 船が揺れるほどの轟音。
 食堂室の入り口扉を突き抜けて、斧が覗いているではないか。
 これには船員たちも驚いた。今も昔も荒事こそを得意としている海賊まがいの船員たちが、思わず目を見張るほどの衝撃的光景がそこにあった。
 斧が引かれる。
 扉の横に出来た真新しい割れ目から、血走った男の目が覗く。
「営業の心得、その1ぃぃ! 勇気を持って、飛び込もう!」
『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)。営業である。
「営業の心得、その2ぃ! 挨拶はぁ! 大きな声で、ハキハキとぉ!」
 2度目の衝撃。
 斧の一撃で罅の入っていた扉を蹴りでぶち抜き、食堂室にグドルフが踏み込む。
「営業だ、おらぁ! 派遣会社ルンペルシュティルツですどうもぉ!」
 片手に提げた斧からは、血の雫が滴っている。
 食堂室に至るまでに、ひと仕事終えているのだろう。仕事熱心な営業だが、そのやり口は海賊とか山賊とか、つまりは“賊”のそれである。
「てめぇ、なに人の船を蹴り壊してんだ?」
 一時は呆気に取られていたが、そこは流石にならず者。“タイガー&サーベル号”の船員たちは、手に武器を取り、グドルフを囲むように散開する。
「あぁ? 顔と頭だけじゃなく、耳まで悪いのか? 営業だっつったろうがよ。そんでよ、営業ったらおめぇ、足で稼ぐもんだろうが」
 営業の心得、その3。営業は足で稼ぐもの……グドルフはその体現者である。まさに営業の鏡と言える。
 あまりにも横暴だ。営業というより強盗の所業だ。
 だが、あまりにも舐めている。船員たちの数は10、一方、相手はグドルフ1人。囲めば簡単に始末できよう。
 アイコンタクトで迅速に意思の疎通を図り、武器を手にした船員たちがじりじりとグドルフに近づいていく。
 と、その時だ。
「営業は脚を稼ぐもの……なるほど、実に私向きのお仕事でごぜーますねー」
 大太刀を担いだ長身痩躯が、地を這うような姿勢で部屋へと入って来たのだ。白い肌に、淀んだ瞳、にやけた口元。身に纏うボロ布は海水に濡れて、身体にぴたりと張り付いている。  
『夜闇を奔る白』ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)である。海を流れているところを、『社長!』キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)に拾われ、恩返しのために今回の仕事に加わった。
「とりあえず脚が欲しいです。脚は貰ってもいいですかねー?」
「おう、売り物の人間以外は好きにしていいぜ」
 余裕綽綽といった様子で、グドルフとピリムは言葉を交わしている。
 ならず者の10人程度、路傍の石ころか、足元を這う蟻のようにしか思っていないのだ。
「売り物にされそうだった連中からは感謝され、カネも貰える。オマケに船にある金目のものをたんまり頂いて更にボーナスドン!」
 グドルフは斧を肩に担いだ。
 いかにも悪辣な笑みを浮かべて、ピリムは刀を腰の位置に構える。
「最高のシゴトじゃねえか!」
 生き残った船員たちは、後に以下のように語った。
 “タイガー&サーベル号”は、あの日、悪魔に逢ったのだ……と。

「サスカッチくんさぁ? グドルフの野郎に、営業の心得教えた?」
 同時刻。
 “タイガー&サーベル号”と並走している小さな船の甲板で、キドーはそう呟いた。
「へぇ……臨時とはいえ派遣社員なんで、軽く新人研修をしやしたが?」
「あぁ、そう。意味なかったと思うけど」
 悲鳴と怒号と破壊の音が聞こえていた。船室の方だ。
 甲板から下がる縄梯子に手をかけ、キドーはため息を零す。万が一、“タイガー&サーベル号”の売り物(人間)を傷つけていたらどうしよう。
「そんでお頭、私らはどうするんッスか?」
 そう問うたのは『合理的じゃない』佐藤 美咲(p3p009818)だ。船の舵をサスカッチに預け、甲板からキドーを見上げている。
 キドーは縄梯子を登りながら、言葉を返した。
「任せっきりも不安だしな。乗り込むとしようや。あと、お頭じゃなくて社長な?」
「ういッス」
 キドーに続いて、美咲も縄梯子に手をかけた。
 だが、次の瞬間、美咲の手元を1発の銃弾が穿つ。飛び散る木っ端を浴びながら、美咲は視線を頭上へ向けた。
「やべぇ、外した!」
「構うこたぁねぇ、次々撃ち込め!」
 甲板からこちらを覗き込む、船員たちと目が合った。
 数は3人。それぞれ両手にマスケット銃を持っている。
「うぉっ、気づかれた!」
「撤退っス!」
 縄梯子から手を離し、キドーと美咲は乗って来た船の甲板へ着地。その後を追うように、数度の銃声が響き渡った。
 甲板を転がる2人を追って、次々と甲板を鉛弾が穿つ。
「社長! 銃弾が船底まで突き抜けたみたいでさぁ!」
 操舵輪の陰に隠れたサスカッチが、船の損傷を報告する。その声からは焦りの色が滲んでいた。なにしろ船に穴が開いたのだ。浸水が進めば、いずれ船は海へと沈む。
「サスカッチくんさぁ? 速度と小回りはいいけど、船の強度はなんとかならなかった? 杞憂かな? 帰りの足が無くなる未来が見えるんだわ」
「俺もでさぁ!」
 社長の質問には、即返答する。サスカッチは社員の鏡だ。
 なぜこんな脆い船を選んだのか。
 安かったからだ。サスカッチは金にがめつい。かかる費用を極力抑えたのである。
「船の大きさと、銃弾のサイズから考えると……まぁ、3時間ぐらいは持つんじゃないっスかね?」
 甲板に空いた穴を見やって、美咲は言った。
 もっとも、3時間というのは現時点での見立てである。今も次々と鉛弾は撃ち込まれ続けているため、実際はもっと短い時間で沈むことが予想された。
「3時間じゃ港まで辿り付けねぇって。そもそも5人乗りの船だし、売り物(人間)を奪還することを考えたらスペースが足りねぇ」
「……奪うっスか? “タイガー&サーベル号”」
「おぉ。そのためにも、さっさとグドルフたちに追いつかねぇとな」
 放っておいたら、奴らは船を全壊させる。その前にストップをかけねばならない。
 そうと決まれば、話は簡単。
 キドーと美咲は武器を構えて、甲板へと駆け出した。

 甲板中央。
 対峙するのは2人の男。硝煙の臭いを多分に含んだ潮風に吹かれ、『竜驤劍鬼』幻夢桜・獅門(p3p009000)は大太刀を構えた。
「お前が船長だろ? 腕は立つのか?」
 相対するはターバンを巻いた褐色肌の中年男性。両手に構えたサーベルを顔の前で交差させて、獣のような笑みを浮かべている。
「タイガー・“サーベル”・シンだ。冥途の土産に名前だけでも覚えて逝きな」
 長い舌でサーベルを舐めて、シンと名乗った男は姿勢を低くした。2本のサーベルを牙に見立てた独特の構えだ。自然と獅門の太刀を握る手に力が籠る。
 2人の間には、目には見えない“緊張感”という名の糸が張り詰めていた。
 何かの拍子にプツンと切れて、後は血の雨が降りしきる……そんな類の糸である。
 1歩、2歩と2人は前へ歩を進める。
 お互いに、相手の出方を窺っているのだ。
 間合いが詰まる。
 あと1歩、前へ進めば互いの武器の射程に入る。そこで2人は歩を止めた。
 斬りかかるきっかけを待っているのだろう。
 そして……。
『仕事の時間だ、おらぁ!』
『営業妨害は許されないっスよ!』
 穏やかな海に、キドーと美咲の雄叫びが響く。
 そして、2人は……獅門とシンは同時に得物を振り抜いた。

 船内某所。
 据えた臭いのする物置に、3人の人影がある。
 1人は子ども。暗い顔をした少年だ。
 もう1人は伸び放題の金の髪をした女性である。暗い目には怒りの色を滲ませて、じぃと床を見つめている。
そして最後の1人も女性。埃と血に汚れた着物を身に纏う『悪しき魔女』極楽院 ことほぎ(p3p002087)である。
 3人の耳には、当然、船内で起きている騒乱の音が届いていた。だが、音を気にしている風なのはことほぎ1人だ。
「今月のオレはついてねぇな。脱獄して早々、また捕まっちまった」
 先日まで、ことほぎは鉄帝国の地下監獄に囚われていた。なお、ピリムも一緒だ。
 脱獄したことほぎとピリムは海洋へと逃走し、解散。
 ピリムは海で遭難し、ことほぎは金目のものを求めて乗り込んだ“タイガー&サーベル号”で捕まったというわけである。
「まぁ、この機に乗じて逃げるとして……アンタ、どっかで見た面だな?」
 倉庫の壁に背を預け、ことほぎは視線を目の前にいる金髪の女へと向けた。
 その顔に見覚えがあったからだ。
「どっかであったか?」
「……あったわ。ずいぶん前に監獄で……覚えていない?」
「あん?」
「……ジェイルロック」
「あ? あぁ……あぁ! そうだ! なんだ、生きてたのか? 元気だったか?」
 既知との再会にことほぎは笑った。
 もっとも、既知とは言え敵同士である。かつてことほぎとジェイルロックは、とある囚人の身柄を巡って争った。ことほぎは襲撃犯として、ジェイルロックは看守としてだ。
 てっきり死んだと思っていたが、どうやら生きていたらしい。
「看守が捕まっちまったのか? 世も末だなー」
「クビになったんだ! お前らのせいで! お前、後で殺してやるかなら!」
 復讐に燃えるジェイルロックとことほぎは、こうして再開したのである。

●派遣の品格
 間の悪い奴というのはどこにでも1人はいるものだ。
 例えば、彼女……ピリムがそうだ。
「あーらよー」
 間延びした声。
 次いで、肉の断たれる音。
 男の野太い絶叫が響くが、それもすぐに聞こえなくなった。倉庫の見張り役を務めていた船員は、ピリムの襲撃に逢いあっさりと息の根を絶たれたのである。
 それからピリムは、悠々と倉庫の扉を開く。
「脚の気配がしますねー。若い脚のー……って、あれー? ことほぎたそじゃねーですかー」
「お? ピリムか。助かった! 外の騒ぎはアンタかよ! ついでに手錠も斬っ」
「貴様も見た顔だな!」
 ことほぎの言葉を遮って、ジェイルロックが怒声を上げた。ピリムは「はて?」と首を傾げて、ジェイルロックの脚を視る。
「お知り合いでしたっけー? でも、脚が付いてるってことはー……」
 太刀を下段に構えたピリムは、上半身を前へ倒した。前傾姿勢の極致のような独特の構え。視線はジェイルロックの脚に注がれている。
「脚、採り損ねてますねー。脚をくださいー」
 ピリムの後ろには、血塗れの袋が転がっている。中身はたぶん脚だろう。
「いや、脚より先に手錠をはず」
 外してくれ、とことほぎの言葉は再び遮られることになる。
 銃声だ。
 銃声が響き、ピリムは脇腹から血を噴き上げて床に転がる。
「……痛いー。痛くて泣いちゃいそうですねー」
 鉛弾に撃たれたのだから、それは当然痛かろう。
 眠たそうな目で廊下の先を見やったピリムは、倒れた姿勢のままに手足を動かし、這うようにして駆け出した。自分を撃った船員を斬ってやらねば気が済まぬのだ。
 廊下の奥から、ピリムの笑い声が聞こえる。
「行っちまった……仕方ねぇ、このまま逃げるっきゃねぇか」
 幸いなことに見張りはピリムが片付けている。今なら比較的、安全に逃走できそうだ。
 ことほぎをはじめ、3人の商品たちは数日ぶりに倉庫の外の空気を吸った。

 誰もいなくなった倉庫に、美咲は1人で立っている。
 正確には、美咲と、見張りらしき男性の遺体が1つだけ。コントローラーを操作しながら、美咲は船の周囲を探る。
 ドローンを飛ばせているのである。
「仕事は迅速。ただ、荒っぽいでスね」
 今回に限ってそうなのか、それとも普段からそうなのか。
 派遣会社ルンペルシュティルツ。
 鉄帝国での先の争乱において名を知らしめた、キドー率いる派遣会社の潜入調査……つまりは、企業スパイの役割を彼女は与えられていた。
 キドーと共に船に乗り込み、現在は単独で行動中だ。先行隊の活躍もあり、美咲はただ戦闘の痕跡を辿っていくだけで良かったが……。
「警戒してるのか業務委託でもする気なのか……」
 美咲の所属する組織、練達00機関の思惑は知れない。知る必要も無いと美咲は考えている。組織の一員だとしても、知り過ぎは良くない。好奇心で死に至るのは何も猫ばかりではないということを、美咲はよく理解している。
 ただ、しかし……。
「あれ? ことほぎさん?」
 ドローンのカメラが捉えた映像を見て、美咲は目を丸くした。
 たった今、船から脱出していく小さな脱出ボートに見知った顔が乗っていた。乗っているのは全部で3人。船に囚われていた売り物たちだ。
「無事に逃げられたんスね……うえ!?」
 食い入るようにモニターを見る美咲の前で、ことほぎは魔術を行使した。
 瞬間、“タイガー&サーベル号”が激しく揺れる。
 ことほぎは、行きがけの駄賃とばかりに船の底に大きな穴を開けたのだ。

 獅門とシンの決闘は、もう間もなく終わるだろう。
 シンの胸部には深い裂傷。
 一方、獅門は全身に無数の傷を負っている。
 一進一退……否、戦闘技能を考えれば獅門の方が多少有利か。
「なかなか手強いな。予想外に骨のある相手と敢えた」
 頬から流れる血と汗を拭い、獅門は大太刀を構えた。肩の上に大太刀を担ぐような独特の構え。獅門の膂力をもってしても、一度、振り下ろせば軌道の修正は叶わないだろう一撃必殺の構えである。
「そっちこそ、海賊の類じゃなさそうだが……お前ら、何しに襲って来たんだ?」
「知らん。好きに暴れていいというので臨時で雇われただけだ」
 獅門がそう言い捨てると、シンは乾いた笑いを零した。
「わはははは!」
「ふっ……はははははは!」
 シンの笑いが伝染したか、獅門も呵々と哄笑する。
 果たして、10秒ほども2人は笑い合っていただろうか。
 やがて、どちらともなく笑い終えると、真剣な目をして睨み合う。
 これ以上、言葉はいらない。
 風が吹いて、船が揺れる。
 船の揺れが収まった。
 刹那、2人は走り出す。
 防御を捨てた乾坤一擲。すれ違いざまに、互いの得物が一閃される。
 獅門は大太刀を振り下ろし。
 シンは2本のサーベルを横に薙ぐ。
 沈黙の後、倒れたのはシンだった。
 血を吐き、絶命したシンが重たい音を立てて甲板に転がった。

●情熱海域
「社長! 乗って来た船が沈んじまいやした!」
 “タイガー&サーベル号”の制圧が終わって、数分ほどが経ったころ、慌てた様子でサスカッチが甲板へ顔を覗かせた。
 もたらされたのは良くない報だ。
 だが、キドーはいかにも悪党らしい笑みを浮かべて親指を立てる。
「分かり切ったことを今更言うな。そんなこったろうと思って“タイガー&サーベル号”は沈めずに残しておいたんだ」
「おぉ。危うくぶち壊す寸前だったけどなぁ」
 肩を組んで、キドーとグドルフは笑う。
 賊には賊のやり方があるわけで、例えば「必要なものは、必要な時に、持っている奴から奪い取る」などがそれに当たる。
 今回の場合だと、必要なものとはつまり“タイガー&サーベル号”である。
「あー……それなんスけどね。この船、持たないっスよ?」
 だが、水を差す者がいた。
 美咲である。
「えー……なんでよ?」
 キドーは問うた。
「さっき、ことほぎさんが船底に穴を開けて行ったから。売り物だった人たちも、一緒に連れて逃げたっスね」
「え、マジか? え?」
「おい、どうすんだ? 他に小舟とかねぇのか?」
「小舟はさっき、グドルフが粉々にしたじゃねぇか。ねぇよ、そんなもん」
「そうだった。じゃあ、浮き輪は?」
「ピリムが全部、破いちまったな」
 顔を見合わせ、キドーとグドルフは言葉を交わす。
 2人の頬を、一筋の冷や汗が伝った。
 冷や汗は、時間を追うごとにその量を増していく。
「陸までどんぐらいだ?」
 グドルフは顔色を青くした。
 船酔いではない。船から盗んで飲み干した酒が回ったわけでも無い。
「船で4時間ぐらいか。泳げるか?」
「……酒飲んじまったぞ?」
 酩酊状態には程遠いが、アルコールを摂取した状態での遊泳は危険極まる。そのことはグドルフも理解していた。
 もっとも、他に術は無いのだが。
「仕方ねぇ。甲板壊して、浮袋にしよう」
 キドーの判断は早い。
 早速、グドルフは斧を振り回しいい感じの木版をいくつも作った。
「そんで、どうすんだ?」
「捕まったまま流れるんだよ。救助されるのを待つっきゃねぇ」
 悪態を零し、キドーはサスカッチの尻を蹴り飛ばす。悲鳴を上げて海に落ちていくサスカッチを見送って、木版に手を伸ばすのだった。

 一方、その頃。海のどこか。
「岸に着いたら覚悟しろ」
 ことほぎを睨むジェイルロックは、歯を食いしばって耐えていた。
 今すぐにでもことほぎを刺してしまいたい。
 だが、船から逃がしてくれた恩もある。
 一緒に逃げた少年を、無事に陸地へ送り届けなければという想いもある。
 それゆえ、ジェイルロックは怒りを抑えているのである。
 だが、しかし……。
「あぁ、そりゃ面倒くさいな。よし、じゃあ……こうすっか」
 ドカン、と。
 ことほぎはジェイルロックの肩を蹴って、海へと落とした。3人は未だに手錠を付けたままである。溺れないよう藻掻くジェイルロックを嗜虐的な目で見て、ことほぎは言った。
「生きてりゃ、またどっかで逢おうぜ」
 海の真ん中にジェイルロックを置き去りにして、ことほぎを乗せた船は並に運ばれていく。


成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした。
無事に輸送船“タイガー&サーベル号”は沈められました。
海にはびこる悪党が、これで1つ減りました。
おめでとうございます。

でも、表向きには一般の輸送船ですので、皆さんには悪名が付きます。

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