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シナリオ詳細

<月眩ターリク>魔法陣同化晶竜を破壊せよ!

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

 月の王国。
 常夜にして吸血鬼の国。
 そこで、舞踏のような戦いが繰り広げられていた。

「相変わらず元気一杯だな! やんちゃ坊主!」
「おっさんもな!」
 星屑を降らしながら、ファニー(p3p010255)は吸血鬼バレルの動きを誘導する。
 その先にいたのは、クウハ(p3p010695)。
「俺様とも遊ぼうゼ、おっさん!」
 夢想を現実へと転じ発生させた悪霊の群れがバレルを包み込もうとするが、炎の渦が巻き起こり全てを焼き払う。
「どうした! こんなもんか!」
「ここからだよ!」
 超加速で間合いを詰めた皿倉 咲良(p3p009816)が、重戦車の如き猛攻を叩き込み、バレルを防戦へと追い込む。そこに――
「アタシも相手して貰うよ!」
 迅く、鋭く。
 砂塵を飛ぶ猛禽のような勢いで、ミルヴィ=カーソン(p3p005047)が刃を振う。
 その全ては紙一重の攻防を繰り返し、お互い傷を受けるギリギリの綱渡りをしていた。

 それは舞踏のような巧みな戦い。
 真剣に交えながら、お互いを傷つけあわないように試し合う戦いだった。
 その均衡が崩れる。
 バレルは大きく後方に跳躍し、他からは気付かれないよう、ミルヴィが戦いの最中服に差し込んだ手紙の中身を確認すると――
「いい年こいたオッサンが泣き顔さらすのは、みっともないよなぁ」
 ミルヴィに視線を向けバレルは言った。
「アンタの良い男は、違うんだろうなぁ」
「そうだね」
 ミルヴィは応えるように返す。
「困ってる人を見て見ぬふりをするアタシより、全霊で助けようとするアタシを好きになってくれるような人だもの」
「はっ、じゃあ、誰か困ってるヤツがいたら、『協力』してくれるってことかね?」
「もちろん。そのつもりで、みんなここに来てるんだから」
「そうかい……」
 バレルは感謝するように小さく笑みを浮かべたあと――
「多勢に無勢で勝てやしねぇな。来いよ、もっと相応しい場所でやり合おうぜ」
 そう言うと霧と化し一端離れるが、見失わない距離で再び実体化する。
「ふむ。追った方が良さそうだね」
 提案するように言ったのは、紳士然とした姿の男、モリアーティ。
 色々とあって、イレギュラーズと協力関係にある悪党だ。
「案内したい場所があるんだろう」
「罠じゃねぇよな?」
「それはそれで楽しそうじゃないか」
 モリアーティの連れである、手配師とジャックも走り出し、他の皆も後を追う。
 その道中、残りの同行者である、幻想の商人であるリリスとヴァンがミルヴィに声を掛けた。
「さっき渡してたのって」
「手紙ですか?」
「うん。協力し合おうって書いておいたの」
 それは外部に出来るだけ気付かれず、連絡を取るため細工だ。
 バレルは、カーラという吸血鬼を可能なら元に戻したいと思い活動している。
 けれど吸血鬼であるバレルは、純血種や姫の害になるようなことを直接出来ず、無理にしようとすれば敵対せずにはいられない。
 それ以前に、他の吸血鬼にバレれば殺されかねないので、どうしても回りくどいやり方を取らざるを得ない。
 つい先ほども、情報のやり取りをするために戦闘をしていたのだ。

 込み入った状況の中、バレルを追い駆けた先にいたのは――

「むっ、お前達、前にも見たことあるヤツがいるな」
 バレルが助けたい吸血鬼、カーラだった。
「貴様ら、こんな所に来るとは、さてはこの先にある魔法陣を破壊するつもりだな!」
「魔法陣?」
 気になった咲良が聞き返すと、カーラは応える。
「月の王宮を守る『城門』を維持するための魔法陣のひとつだ!」
「そんなものが、この先にあるの?」
「ふっ、とぼけるな。知らずにここまで来るわけなかろう!」
「あ、悪ぃ、カーラ」
 バレルが笑いながら言った。
「逃げてる間に連れてきちまった」
「何してるんだお前ー!」
「はっはっは、怒るな怒るな。ここで止めれば良いだけだろ?」
「むっ、その通りだ。ここでけちょんけちょんにしてくれる!」
 やる気を見せるカーラに、皆が戦闘体勢を取った時だった。
「私も手を貸してあげましょうか?」
 べっちょりとまとわりつくような、怖気を感じる色気のある声と共に1人の女が現れた。
 一見すると幻想種に見えるが、滴らせる悍ましい威圧感は真っ当な物ではない。
「魔種もいるんだ、ここ」
 物珍しそうに、ジャックが言った。
「吸血鬼だけかと思ったけど、なんでいるのかな?」
「別に、私だけじゃないわよ」
 さらっと魔種の女は応える。
「博士の実験に興味を持って、手助けするために来てるの」
「博士というのは、吸血鬼に協力してるという錬金術師のことかね?」
 モリアーティが問うと、
「そうよ、って、知ってるんじゃない」
 艶然と笑みを浮かべ、魔種の女は応えた。
「『死者蘇生』に『不老不死』、それどころか『反転からの回帰』まで求める欲張りさんの末路が、どうなるか見たいじゃない」
「反転からの回帰?」
 胡散臭そうに聞き返すクウハに、魔種の女は返す。
「そうよぉ。実現したら凄いじゃない。そうなれば私達みたいな魔種も元通り。ひょっとしたら、吸血鬼も元に戻るんじゃないからしらぁ。ねぇ、バレル」
 まとわりつこうとするかのように、魔種の女はバレルに擦り寄ろうする。
 だがバレルは離れながら言った。
「勝手なこと言わんでくれよ、アルビラの姐さん。吸血鬼が元に戻るって、そりゃ大ごとじゃねぇか。そもそも誰が望むんだよ、そんなこと」
 笑みを浮かべながら、一切油断なく返すバレルに、アルビラと呼ばれた魔種の女は、にちゃりと糸を引くような笑みを浮かべ言った。
「そうよねぇ。元に戻りたがってる吸血鬼なんて、いるわけないものねぇ。安心したわぁ。じゃあ、こいつら殺しても良いわよねぇ」
 そう言うと、離れた場所から地響きのような音がする。
 視線を向ければ、そこには巨大な晶竜が三体、ゆっくりと近づいてくる。
「魔法陣を守れるように、調教した晶竜を連れて来てあげたわ。好いでしょう? バレル」
「そいつはまた……やってくれるな」
 笑みを浮かべながら、警戒するような視線をアルビラに向けるバレル。
 それに、見下ろすような視線を返しながらアルビラは言った。
「それじゃ、殺しなさい。出来るわよねぇ? 吸血鬼なんだ――」
「てーい!」
「ぶふぅっ!」
 いきなりカーラに顔を殴られ、間抜けな声を上げるアルビラ。
「なっ、なにすんのよこの馬鹿!」
「うっさい! 殺すってなんだ殺すって! いいか、聞け!」
 びしっとファニーを指さしながら、カーラは言った。
「どくろちゃんみたいに烙印を押された者もいるんだぞ!」
「……どくろちゃんって、オレのことか?」
 苦笑するような笑みを浮かべるファニー。
「うむ、そうだぞ」
 カーラはファニーに応えたあと、アルビラにびしっと指を突き付け言った。
「烙印を押されたということは吸血鬼になるということで仲間になるということだぞ! それに他の者も烙印を押せばみんな吸血鬼だ! 殺しちゃったら吸血鬼になれないだろ!」
「くっ……この、アホガキが」
「なんだとー! アホっていう奴の方がアホなんだからなー!」
「それぐらいにしとけ、カーラ」
 ぽんぽんと頭を撫でるように手を置きながら、バレルが言った。
「アルビラの姐さん。助力はありがたく受けるよ。それはそれとして、ここは俺達の持ち場だ。他所に行ってくれねぇか」
「……そうね」
 苛立たしげにアルビラは舌打ちしたあと、にぃっと笑みを浮かべ言った。
「分かったわ、ここは貴方達に任せてあげる。でも――」
 アルビラは近付いてくる晶竜の一体に視線を向ける。
 向けられた晶竜は突如方向を変えると、ある場所に留まった。
 途端、真紅の輝きに包まれ一回りさらに大きくなる。
「おい、何した!?」
「魔法陣と晶竜を同化させたのよぉ」
 亀裂のような薄い笑みを浮かべアルビラは言った。
「これで、あの晶竜を完全破壊しない限り、魔法陣は壊れないわ。良かったわねぇ。嬉しいでしょ?」
「……ああ、ありがてぇな」
 怒りを笑みで噛み殺しながらバレルは応える。
 その表情を満足げに見たあと、アルビラは去った。
 あとには、イレギュラーズとバレル達。そして、近付いてくる晶竜。
「……どうする? これから戦り合うかい?」
「いや、戦力を増強して仕切り直した方が良さそうだ。また来るとするよ。それで、良いかな?」
 モリアーティの言葉にイレギュラーズは頷くと、いったん戻ることを決定した。
「じゃあ、またな」
「いつでもかかって来い!」
 バレルとカーラに見送られながら、戦力の再編をするため帰還するイレギュラーズ達であった。

GMコメント

おはようございます。もしくはこんばんは。春夏秋冬と申します。
今回は、アフターアクションを元にしたシナリオになっています。

以下が詳細になります。

●成功条件
 魔法陣と同化した晶竜を完全破壊する。

●状況
 以下の流れで進みます。

1 古宮カーマルーマ内部の転移陣から月の王国へと転移する。
  複数存在する転移陣のひとつから、月の王国へと転移します。
  道中は、今までの戦闘で余計な敵は排除されているため
  誰とも戦うことなく目的地に辿り着けます。

2 月の王国に転移後、しばらく砂漠を進み、待ち構えていた敵と戦闘する。
  転移陣から先に進むと、吸血鬼であるカーラとバレルが
  晶竜と共に待ち構えています。戦って下さい。
  
3 戦闘に勝利する。
  魔法陣と同化した晶竜を完全破壊するとバレルとカーラは撤退します。
  残っている晶竜2体は最後まで戦うので倒して下さい。

●敵

 晶竜(並)×2
 紅血晶が埋め込まれた巨大なキマイラです。
 自我はなく、人語は有さず、明らかに『誰かが実験を行なった廃棄品』です。
 並の魔種に匹敵する強さがあります。
 遠距離も近距離も、物理も神秘も、バランスよく攻撃してきます。
 単体だけでなく範囲攻撃もしますが、範囲攻撃の方が攻撃力は落ちます。

 魔法陣同化晶竜×1
 魔法陣と同化することで強化された晶竜です。
 並の晶竜よりも防御力に優れ、主に範囲攻撃をしてきます。
 機動力は低く、回避性能は高くありません。
 仲間である筈の晶竜や吸血鬼ごとPC達を攻撃してくる場合もあります。

 吸血鬼

 バレル・バレット。
 昼行灯っぽいオッサン吸血鬼。
 カーラを吸血鬼から元に戻そうと密かに画策している。
 吸血鬼であるため、表立ってPC達に協力することは出来ず
 戦闘も行います。ただし、場合によっては協力プレイも出来るかもしれません。
 PCを狙って攻撃しようとしたら避けられ、『偶然』晶竜に攻撃が当たる、等。
 魔法陣同化晶竜が破壊されると、カーラと共に撤退します。

 カーラ・アストレイ。
 男装の麗人の姿をした吸血鬼。基本、アホの子です。
 強力なバッファー&ヒーラー。現状攻撃能力は、ほぼありません。
 カーラ単体は戦闘力は大したことはありませんが、本格的にサポートをさせると
 晶竜の攻撃力も防御力も何もかも全て跳ね上がった上に回復される
 という洒落にならない状況になりかねません。
 カーラはバレットが自分を吸血鬼から元に戻そうとしていることは知りません。
 知った場合は、バレットを裏切者扱いする可能性があります。

●味方NPC

 リリス&ヴァン
 依頼人です。強力なバッファー&ヒーラー。
 バランスよく強化と回復をさせる、あるいは、どちらかに特化して貰う。
 そういった部分に指示を出していれば、それに従って動いてくれます。

 モリアーティ&手配師&ジャック
 とある理由で協力関係になっている悪党3人組。
 現状、裏切るとかは絶対にありません。
 主に攻撃によるサポートをします。
 3人の内ジャックについては魔種ですが、その事が露見しないよう『約束』を
 しているため、イレギュラーズと同じぐらいに能力を抑えています。
 3人の強さに関しては、3人で掛かれば晶竜(並)を破壊できるぐらい強いです。
 何かしら指示を出せば、その通りに動きます。

●特殊判定『烙印』
 当シナリオでは肉体に影響を及ぼす状態異常『烙印』が付与される場合があります。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

 あくまでも付与される場合があるだけで、確実にされる訳ではありません。
 場合によっては、誰も付与されない場合もあります。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

 説明は以上になります。
 それでは、少しでも楽しんでいただけるよう、判定にリプレイに頑張ります。

  • <月眩ターリク>魔法陣同化晶竜を破壊せよ!完了
  • GM名春夏秋冬
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年05月02日 22時06分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)
鏡花の矛
ミルヴィ=カーソン(p3p005047)
剣閃飛鳥
アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)
航空指揮
ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)
微笑みに悪を忍ばせ
皿倉 咲良(p3p009816)
正義の味方
ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)
開幕を告げる星
ファニー(p3p010255)
クウハ(p3p010695)
あいいろのおもい

リプレイ

 色々と込み入った状況で、イレギュラーズは晶竜と吸血鬼達と対峙する。

「掛かって来るがいい!」
 吸血鬼のカーラが迎え入れるように声を上げ、そんな物は関係ないとばかりに晶竜二体が突進してくる。
 後方で遅れて続く魔法陣同化晶竜と、それらの動きを確認して吸血鬼のバレルが前に出た。
 問答無用の戦闘開始。
 最初に動いたのは、『正義の味方』皿倉 咲良(p3p009816)だった。
『バレおじ聞いて!』
 ステルスとハイテレパスを併用し呼び掛ける。
『上位吸血鬼の目を誤魔化す為にクウハくんが本気で殺しにくるつもりだから、狼の遠吠えを聞いたら避けて』
 咲良の呼び掛けに応えるように、一瞬だけ、凍狼の子犬であるオディールを連れた『木漏れ日の優しさ』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)にバレルは視線を向けたあと、咲良を掠める様に炎弾を放つ。
 咲良が避け、バレルが追撃に動くような素振りを見せた時には、『悪戯幽霊』クウハ(p3p010695)が距離を詰めていた。
「よぅ、バレル! 俺もほっときゃ吸血鬼になる身だ。その前に実力を試させろよ」
 自身の精神力を弾丸に変えて放ちながら、クウハはハイテレパスで呼び掛ける。
『俺達は偽装目的で晶竜じゃなくオマエを集中攻撃する。バレないよう途中で纏めて吹っ飛ばすから、狼の遠吠えを聞いたら避ける準備をしとけ』
「いいぜ! やってみろ!」
「オマエがやってんのと同じ事をしてやるよ!」
 偽装戦闘がバレないよう紙一重の攻撃を重ねるクウハとバレル。
 そちらに向け同化晶竜が動き出そうとしたが、抑えるように『Stargazer』ファニー(p3p010255)が焼けた星を降らせた。
 耳をつんざくような激突音。
 晶竜の表面に罅が入る。
 しかし晶竜は傷など無視し、バレルごと周囲を薙ぎ払おうと魔力を収束。
「どこ見てやがる!」
 阻止するため連続して焼けた星を降らせるファニー。
 狙いを変えた晶竜と戦いながら、ファニーは訝しさを感じ取る。
(バレルが巻き込まれるのもお構いなしか……アルビラとかいう魔種はなにか知っているようだった。ひょっとしてこいつらの関係は、誰かに仕組まれていたことだったりするんじゃ……?)
 悪寒めいた直感を抱くも、今は確認する術は無い。攻撃を繰り返していると――
「怪我したなら治すぞ!」
 カーラが余計なことをしようとする。だが――
「させないよ!」
 飛ぶような勢いで距離を詰めた『剣閃飛鳥』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)が抑えに入った。
 カーラの戦闘力はしょぼいので1人でも抑えられるが、問題は強化や回復をさせないこと。
 実現するため、注意を引くようにミルヴィはカーラに呼び掛けた。
「吸血鬼になるのに興味があるよ」
「む、本当か?」
 律儀に聞くカーラ。
 ミルヴィは畳み掛けるように続ける。
「烙印はバレルに刻んで貰いたいけど、その前に聞きたいことがあるんだ」
「なに?」
 情報を引き出すように話し掛けながら戦闘を続け、晶竜から遠ざけるように誘導する。
 カーラは、吸血鬼になりたいと言っただけで好印象を抱いたのか、問い掛けに応えていく。
「バレルは、いい加減だがいい奴だぞ。それに吸血鬼になれば仲良くなれるから心配するな」
 安心させるように応えるカーラと相対しながら、ミルヴィは思う。
(どうすればいいんだろうね)
 一歩間違えれば殺し合うしかない状況で、なお抗うように思う。
(彼らを助けたい。でも、それだけでいいほど甘くはない)
 事実、晶竜は殺す気で向って来る。
 ならば戦い打ち勝つのみだ。
(何を思って魔法陣と晶竜を同化させたか知らんが……どの道戦わねえといけねえ晶竜と魔法陣を同時に破壊できるなら好都合だ)
 二重に強化した『航空猟兵』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)は、俊足を生かし同化晶竜と距離を詰める。
(まとめてぶっ潰して、アルビラって奴には後悔させてやるぜ)
 距離を詰めると同化晶竜は無数の結晶弾を放って来るが、アルヴァは全て回避。距離を詰めると――
「デカブツ狩りは狩猟犬の専売特許でね、アオーン!」
 魂より放たれし孤高の咆哮を放つ。
 ビリビリと体を震わせながら同化晶竜はアルヴァに顔を向け口を開く。
(ヤバい!)
 全力で回避。
 僅かに遅れ閃光が放たれ、命中した砂漠にはクレーターが出来る。
「流石にまともに喰らったらやべえかもな」
 凶悪な威力を前にして、それでも恐れずアルヴァは連続攻撃を重ねた。
 同化晶竜に攻撃が集中していく。
 援護する様に残りの晶竜が向かおうとしたが、『微笑みに悪を忍ばせ』ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)が笑みを浮かべ立ちはだかる。
「支援は、お願いしますよ」
 リリス達に指示を出しながら、距離を詰めた晶竜に戦いの鼓動を響かる。
 途端、晶竜の一体が向きを変え近付く。
(残りの一体は……任せておきましょう)
 モリアーティ達が抑えているのを確認し、引き付けた一体に専念する。
 触れ合うほどに距離を詰め、攻撃に合せカウンター。
 衝撃を受け罅が入った晶竜は雄叫びをあげ襲い掛かってきた。
 それをあえてギリギリまで避けず引き付ける。
「どうしました? のろまですねぇ」
 煽るように引き付けながら、同化晶竜の視界に入るように立ち回る。すると――
(狙い通りですねぇ)
 ウィルド目掛け閃光が放たれ、予測していたウィルドは回避。
 放たれた閃光は、ウィルドを襲っていた晶竜に命中。
 身体の一部を削り取る様に消し飛ばした。
「クククッ、御しやすい化け物どもの相手は楽しいですねぇ……こうまで思った通りに動いてくれるとは」
 目論み通り。
 しかし敵もやられるばかりじゃない。自滅上等の勢いで襲い掛かってくる。
 同化晶竜も、晶竜を巻き込みながら無差別攻撃。避け切れず傷を受けるが――
「回復するわ」
「強化も重ねます」
 リリスとヴァンがフォローを入れ、今まで以上の勢いでウィルドは晶竜に攻撃を重ねていった。
 攻勢を強めるイレギュラーズ。
 それを加速させるように、オデットは同化晶竜を叩いていった。
(込み入った話はどうでもいいわ)
 時折、タイミングを見計らうようにクウハに視線を向けながら攻撃の手は休めない。
(必要なのは、このデカブツを倒すことでしょ、任せておきなさいって)
「行くわよ、オディール」
 応じる鳴き声と共に同化晶竜に立ち向かう。
 間合いを詰め、無数の結晶弾が飛び交うキルゾーンに踏み込む。
 僅かなミスで串刺しになる危険地帯。
 だがオディールの助けも借り前へ前へと進む。
 死角から襲い掛かって来た結晶弾を、オディールの鳴き声で察知し回避。
 回避しながら距離を縮め周囲の光を集め、極小の太陽を作り上げる。
 気付いた同化晶竜が逃げようとするが、遅い。
「太陽に灼かれなさい!」
 凄まじい熱と輝きが同化晶竜を灼き砕く。
 頭部の一部が蒸発しゴッソリと抉れる。しかし――
「ガアアアッ!」
 絶叫を上げ同化晶竜は全包囲攻撃。
 あまりの勢いに一端距離を取り、オデットは攻撃を再開。
「お行儀が悪いわよ! デカブツ!」
 晶竜の四方を囲うように四象を顕現。
 押し潰すような重圧を掛け動きを鈍らせた。
 確実に敵を追い詰めていく。
 それを支援するように、『開幕を告げる星』ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)も動く。
「とりあえずやるべき事はハッキリしているのです!」
 晶竜を盾にするような動きで、同化晶竜も射線上に入る位置取りをしながらルシアは飛び回る。
「あの同化した大きい晶竜を完全に破壊して、それから……」
(あっ、この先は言っちゃダメでして)
 一瞬口が滑りそうになったが問題なし。
「とにかく! 壊すことでしたら得意なのですよ!」
 最適の位置に達すると魔砲を放つ。
 晶竜を削り、さらに射線上にいた同化晶竜にも命中。
 傷付けられた晶竜達は怒りの雄叫びを上げ閃光を放つが、その時には既にルシアは退避。
 仲間が敵を抑えるように立ち回ってくれているお蔭で、ルシアは余裕を持って動き回れる。
 それを活かすため、ルシアは万が一を潰すように立ち回っていた。
(カーラさんは……ミルヴィさんが相手してくれているので大丈夫です!)
 全体の戦局を調整するように、ルシアは戦場を飛び回る。
(晶竜は……今の所は、可怪しな動きは無いのです。気を付けないと、あっちは今回は運よくルシアたちに有利になるように、とはしてくれないのです)
 何かあればすぐさま動けるように立ち回りながら攻撃を重ね、危険な物は無いか確認を怠らない。
(今回の作戦の大本は「大規模な烙印加速装置」ですよ。ここまで明確に妨害を邪魔する準備をしたから発動しませんでしたー、はきっと無いのです)
 不安の種は潰しておくに越したことはない。
(動く確証があるって事は、もしかすると一人二人の進行を少し進める程度の小規模なもの、があるのではないかって……思ってしまうのでして。万が一これが本当なら烙印持ちの人が危ないのですよ……!)
 周囲を警戒確認しながら立ち回っていった。

 万が一の芽すら潰しながら確実に敵を追い詰めていく。
 敵も苛烈に反撃するが、止めを刺すように皆は攻勢を強めていった。

「やれ、巻き込まれて死んでくれるなよ!」
 アルヴァは同化晶竜に攻撃を叩き込み注意を引きつけると誘導。
 怒り狂った同化晶竜は閃光を放ち続けるが、アルヴァの速さに追い付けない。
(よし、このまま)
 アルヴァの狙いは敵の同士討ち。
 2体の晶竜の内、1体はモリアーティ達がすでに破壊。
 残りの1体が、同化晶竜の射線上に入ると――
(ここだ!)
 攻撃を促すため、高速移動しながら連続射撃。
 幾つもの銃痕を受けた同化晶竜は雄叫びを上げながら閃光一閃。
 アルヴァを捕えることは出来ず、同士討ちで晶竜を破壊した。
(これでいい。あとは――)
 吸血鬼に視線を向ければ、仲間が殺さぬよう立ち回っている。
「どいつもこいつも」
(お人好しばかりで全く涙が出るね)
 笑みを浮かべ、アルヴァは同化晶竜の撃破に集中。
 アルヴァの援護もあり、晶竜に対応していたウィルドは余裕が出来る。
(どうやら相手の吸血鬼共も色々とあるようですが、そちらは因縁のある方たちにおまかせしますよ)
 途切れず攻撃を重ねながら、己の利を見出すように思考する。
(ふうむ……反転からの回帰、その話を聞くと博士とやらにも興味がわきますが)
 無意味と結論付ける。
(ま、どのみち私は反転なんて手段を使う予定もないので、興味以上の物は無いのですけれど)
 今のところ利用価値は薄い。
 ならば今は、目の前の敵に集中した方が良いだろう。
 引き付けるように攻撃を重ねる。
 それは仲間の攻撃が通り易いようにするためのもの。
 応えるように、ルシアが渾身の一撃を放つ。
「一網打尽なのですよ!」
 晶竜と同化晶竜が直線上になる位置へと辿り着いたルシアは全力解放。
 魔神の力を降ろし、前方に多重魔法陣を展開。
「いっけー!」
 魔砲少女の極みを体現するかのような、強力な殲光を放つ。
 晶竜は回避不能。
 頭部に命中し粉砕。全身に罅が入り砕け散る。
 殲光は射線上の同化晶竜にも命中、一部を削る勢いで破壊した。
 同化晶竜に大きくダメージを与え、撃破した晶竜と戦っていたルシアとウィルドも、同化晶竜撃破の援護に来てくれる。
 余裕が出来た所で、同化晶竜を相手取っていたファニーがバレル達の元に向かう。
(これからが正念場ね)
 一連の動きを、同化晶竜に攻撃を重ねながら確認していたオデットは、バレルに視線を向け思う。
(自分のエゴで愛する人に似た存在を助けたいって感じかしら)
 必死なのは見ていて伝わってくる。だが――
(でもダメだわ)
 歯痒さにも似た気持ちが湧いてくる。
(達される前に自分が死んだって、達した後で本人に嫌われるとて、関係ないって突っ走って欲しいところね)
 それは同類だからこその思い。
(だって私が、そうだったから)
 だからこそ、懸命に動く仲間の援護には全力を尽くしたい。
「オディール!」
 クウハの動きで予兆を察したオデットが指示を出し、オディールは遠吠えを響かせる。
 ほぼ同時に全てが動く。
 バレルに向かって無数の攻撃が叩き込まれる。
 だがオディールの遠吠えで合図を受けていたバレルはギリギリで回避。
 そこに追撃を掛けるように、距離を詰めたクウハ達がハイテレパスで呼び掛けた。
『バレル。カーラが吸血鬼になったのはいつからだ? どういう経緯で成った? そもそもあいつは最初から女王を信仰してたのか?』
『……なぜ訊く?』
『必要だからだ』
 紙一重の攻防を続けながら呼び掛ける。
『オマエは本当に「カーラを」助けたいのか?』
『なんだと』
『その割にゃアイツに向き合ってる様には見えねーな』
『っ!』
 応えられないバレルに、ファニーも呼び掛けに加わる。
『バレル、オレたちはおそらく同類だ。だから分かる』
『同類?』
『おまえの目的はエゴにすぎない』
『エゴだとっ』
『自暴自棄になっているだけなら、オレはおまえを止めなきゃならねぇ』
『誰が……自暴自棄に――』
 バレルの感情が激しく動き、抑えきれない衝動が溢れるように勢いが増す。
 今までとは比べ物にならない威圧感。
 それを受けながら咲良が必死に呼びかける。
『バレおじ、あの子を戻すのがあなたのエゴだったとして、そしてどんな選択をしたとして、本気ならアタシなりに手を尽くすよ』
『……』
『言ったでしょ、協力するって』
『それは……』
 僅かに威圧感が薄れる。
 必死に自分を抑えようとするバレルに咲良は呼び掛けを続ける。
『もしもの時はアタシにしれっと烙印を刻んで構わない。形だけでも仕事してる感じにできると思う』
『……』
 罪悪感を飲み込むようなバレルに咲良は提案した。
『事情をローレットに話して、2人を捕虜の名目で保護出来ないかお願いする』
 危険を顧みず咲良は伝えた。
『バレおじには時間が必要ならそれでも良いから、検討だけでもしてほしい。これは綺麗事の自己満かもしれない。でも、アタシはみんな救いたいんだ』
『……』
 応えは無い。
 そこまでなら境界線の内側。
 しかしクウハとファニーが危険を承知で踏み越える。
『このままだとエゴを押しつけて不幸にする結果になりかねんぞ』
『人間に戻ったカーラに恨まれる覚悟はあるか?』
 クウハとファニーはバレルの魂に爪を立てる。
『最愛の女に呪われる覚悟はあるか?』
『オマエがエゴで死なせた女が代償行為に、執着する事を望んでるとも思えん』
 それは逆鱗に触れる事だった。
 押し潰すような威圧感がバレルから吹き荒れる。
 だがファニーとクウハは退かない。
『おまえの最愛は、いまのおまえを見てどう思うだろうな?』
『最愛の女との最後の会話を思い出してみろよ』
『後追いをしなかったのは、最愛になにかを望まれたからじゃないのか?』
「覚えてねぇよ」
 激情を抑えるようにバレルは荒ぶる。
 抑えてなお苛烈。
 晶竜など霞む様な威圧感。
 それでも踏み込もうとするファニーとクウハを見て――
「何をするつもりだ!」
 カーラが止めようとするが、ミルヴィが制止する。
「ダメだよ、これ以上は」
「邪魔だっ!」
 バレルの元に向かおうとするカーラを、ミルヴィは全力で止める。
 それはファニーとクウハの覚悟を尊重しているからだ。
(私は2人を止められない。かといって彼らが危機に晒されるのはよしにはできない。だからアタシも微力でも力を貸す)
 カーラを押し留めながら、祈るように思う。
(バレルの咎とクウハ、ファニーの命を救えますように)
 望む未来を願わずにはおられない。
(彼らの行く道に笑顔がありますように)
 その祈りに応えるように、クウハとファニーは奇跡の領域に踏み込む。
(思い出せず、答えも口に出せないなら、無理にでも引き出してやる)
(お前が悪意に飲まれてるなら、俺の悪意で上回る)
『おまえが本当に果たすべきことはなんだ、バレル・バレット!』
『最愛の女との会話を、最後の願いを思い出せ!』
 意志と共に拳に奇跡を乗せバレルに叩きつけようとし、バレルは逃げ出した。
 カーラを守ろうとするかのように傍に駆け寄り、霧と化し消えて行った。
 あとに残るは、同化晶竜。
 死に際に巻き添えにしようと足掻く同化晶竜の攻撃を皆は捌き、一斉攻撃で破壊した。
 あとに敵は残らない。吸血鬼2人は消えていた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)[重傷]
航空指揮
ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)[重傷]
微笑みに悪を忍ばせ

あとがき

お疲れ様でした。
皆さまの活躍で、月の王宮へと至る城門への障害が、ひとつ破壊されました。
各地で同様に破壊されているので、決戦へと至ることが出来るでしょう。

吸血鬼2人は逃走しました。
バレルは、反射的にカーラを守るように逃走したようです

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