シナリオ詳細
<月眩ターリク>生贄たちを助け出せ!
オープニング
夜天に浮かぶ満月が、煌々と砂塵を照らしていた。
(気のせいか、前よりも輝きが強くなっている気がします)
心を掻き乱すような月明かりを浴びながら、水月・鏡禍(p3p008354)がひとり、月の王国深くを進む。
(王宮……これ以上は、近付けないというのは本当みたいですね)
鏡禍は王宮に近付こうと前に進もうとするが、見えない透明の膜に押されているかのような抵抗を受け、それ以上前には進めない。
(王宮に行けば、吸血鬼を元に戻す手掛かりがあるかもと思ったけれど、このままだと無理ですね)
どうしたものかと考えながら、諦めるつもりは無い。
それは友達として、ある吸血鬼を助けるためだ。
(前に見た時は、結構辛そうだった。このままだと取り返しがつかなくなるかもしれない……早くどうにかしてあげたいけど……)
焦る気持ちが逸るあまり、1人で月の王国深くまで進み探索していた。
(他の場所に、何か王宮に辿り着く手掛かりがあるかも)
諦めることなく、鏡禍は探索を続ける。
幸い、周囲には危険な晶獣の姿は見えない。
それは、鏡禍が使用した転移陣周辺の晶獣は、すでに戦闘で倒されていたからだ。
鏡禍が助けようとしている吸血鬼が、イレギュラーズとの戦いで使い潰しているお蔭で、戦うことなく安全に奥地まで進めていた。
しかしそれは、鏡禍に油断を生む。
あまりにも簡単に進めるせいで、危機感がどうしても薄くなる。だからこそ――
「……あれは」
捕らわれた一団を見つけ、逃げ出すことよりも探ることを優先してしまう。
(幻想種の人達みたいですね)
明らかに衰弱しているように見える一団は、全てが幻想種だ。
(ラサに浚われた幻想種の人達でしょうか……ローレットの話だと、何らかの儀式の生贄に使おうとしているのではないか、ということでしたけど)
捕らわれの一団の近くには、恐らく吸血鬼だろう、2人の人物が監視するように立っていた。
(こっちに気付いてますね)
まだ距離があるので、鏡禍に襲い掛かってくるような気配はない。
けれど明らかな敵意を滲ませている。
退くべきか? それとも危険を承知で接触するか? 選択に迫られている時だった。
「あなた、美味しそうねぇ」
べっちゃりとまとわりつくような、怖気を感じる色気のある声が背後から掛けられた。
「っ!」
本能的な危機感に突き動かされ、鏡禍は振り向きざまに、周囲一帯を切り刻むような斬撃を放つ。しかし――
「くふっ、情熱的ねぇ」
刻まれながら声の主、二十代後半の見える女は、一気に距離を詰め鏡禍を掴もうと手を伸ばす。
それを飛ぶような勢いで回避する鏡禍。
「かわいいわねぇ。なぶりたくなるわ」
女は、刻まれた傷を超速回復させながら鏡禍に追い縋る。
(この人――魔種だ!)
一見すると幻想種に見るが、この悍ましい威圧感は真っ当な物ではない。
(捕まったら、ただじゃ済まない)
執拗に触れようとする女から逃れるため、鏡禍は回避を重ねていたが――
「……っ」
「囲まれちゃったわねぇ」
吸血鬼2人と魔種の女1人に、鏡禍は囲まれた。
「アルビラ、どうするつもりだ?」
吸血鬼の1人が、魔種の女――アルビラに声を掛ける。
「おそらく儀式の邪魔をするよう派遣されたイレギュラーズだ。放置は出来ん」
(儀式……)
鏡禍は、捕らわれている幻想種に視線を向けたあと、吸血鬼達に問い掛けた。
「その人達は、生贄にするつもりですか?」
「然り」
「あら、口が軽いわね、ジル」
「仔細ない」
「あなたも同じ? ドレ」
「ああ。生きて返さなければ良いだけだ」
被虐に彩られた殺意を滲ませる吸血鬼と魔種。
それを浴びながら、鏡禍は少しでも情報を得ようと口を開く。
「なんで、魔種がここにいるんです?」
「なんでって、そんなの、博士の実験に興味があるからよ」
にぃっと笑みを浮かべ、アルビラが応える。
「『死者蘇生』に『不老不死』、それどころか『反転からの回帰』まで求める欲張りさんの末路が、どうなるか見たいじゃない」
「反転からの回帰?」
「ええ、そうよ。そこに繋げるための儀式のひとつ。夜の祭祀の生贄が、あそこにいる幻想種達。ここに保管されてるのは、ほんの一部だけど。ジルとドレの2人は、在庫品の管理を任されてるようなものよ」
「つまらん仕事だがな」
「已むを得ん」
不本意そうに言うジルと、淡々と応えるドレ。
2人に続けるように、アルビラが口を開く。
「それにしてもあなた、随分とここまで簡単に来れたわねぇ。ここまでの道のりは、バレルとカーラが守っていた筈だけど」
「……」
知っている吸血鬼の名前が出て、表情に出そうになったが鏡禍は飲み込む。
(バレルさんが、カーラさんを吸血鬼から元に戻すために動いていることが知られると拙い)
話を逸らすべきか鏡禍が迷っていると、嘲るような声でジルが言った。
「あのような新参者に期待するだけ無駄だ。吸血すら怯えるような不出来な奴らだ。そのくせ、やたらと烙印を押して吸血鬼を増やそうとしているが」
「ひょっとして、良くないことを考えてるんじゃない?」
誘導するかのようなアルビラの言葉に、鼻で笑うようにジルは返した。
「馬鹿馬鹿しい。あんな不出来な奴らに、そんな大それたことが出来るわけが無かろう」
「それでも、何かしようとしてたら?」
「殺す」
ドレが言った。
「難しいことでは無い。裏切者は殺す。それだけだ」
「ははっ、確かに。その時は、カーラには楽しませて貰おう」
「なら、その時は私も混ぜて。バレルは先に両手両足切り落として、動けないようにしてカーラがなぶられる所を見せてあげたいわ」
「それを見ながら貴様も楽しむつもりだろう」
「当然でしょ。あぁ、そうなったら、気持ちいいでしょうねぇ」
にちゃりと、糸を引くような下卑た笑みを浮かべるアルビラ。
2人の吸血鬼も、その時を想像しているのか、ジルはゲラゲラと笑い、ドレは静かに笑みを浮かべる。
明らかな下衆に囲まれながら、この場からどう退避するべきか鏡禍が必死に考えていると――
「とりあえず、今日はこの子で楽しみましょう」
アルビラが殺意を滲ませ、吸血鬼2人も応じるように殺意を垂れ流す。
「先に味見させてねぇ。そのあと、吸い殺すなり好きにして」
「残り物を寄こす気か」
「いいじゃない。その代り後で、埋め合わせはするから」
「はっ、好きにしろ」
じわりと、鏡禍は包囲が縮められていく。
「それじゃ、楽しませてねぇ」
アルビラが、鏡禍に手を伸ばし――爆発した。
「ぎぁっ!」
爆発でグチャグチャになった手を急速再生させながら、アルビラは憎々しげな声を上げる。
「貴様ら!」
視線の先には、幻想の商人2人と、2人と協力関係な悪党が3人。
「強化したから逃げて!」
「こっちに来て下さい!」
幻想の商人、リリスとヴァンが、鏡禍に二重の強化を掛けながら呼び掛ける。
「逃がすか!」
「させん」
退避しようとする鏡禍に襲い掛かるジルとドレ。しかし――
「それはダメだね」
瞬時に距離を詰めた青年――ジャックが腕を振るい斬撃を飛ばし鏡禍を援護。
切り裂かれ血の結晶を咲かせる吸血鬼2人は一瞬動きが止まり、その隙を逃さず鏡禍はリリス達の近くに退避した。
「おのれ!」
ジルが追い駆けようとするが、
「生贄を殺すよ」
紳士然とした男、モリアーティが静かな声で言った。
「殺されては、君達も困るだろう?」
モリアーティは、捕らわれた幻想種達を示しながら言った。
見れば、全員に握り拳ほどの蜘蛛が取りつき噛み付いていた。
「これから私達は逃げるが、追い駆けてきたら毒を流して生贄を全員殺す。儀式は近いだろうから、今から新たな生贄を集めるのは不可能だ。どうするね?」
「貴様……ふざけるなよ、ハッタリだろうがっ!」
「本気だよ。もっとも、生かして助けられるなら、助けたいのも本音だ」
交渉をするようにモリアーティは言った。
「一番に達成すべきは、儀式の阻止だ。そのためなら、生贄を殺すこともやむを得ない。だがそれは最後の手段だ。可能なら君達を打ち倒し、捕らわれた幻想種達も助けたい」
「……何が言いたい」
「取引だよ。今は見逃したまえ。その代り、あとで決着をつけに必ず訪れる。これで君達は、生贄を殺されずに再戦の機会を得ることができる。私達は、一先ず退避し戦力を整えた上で、君達と再び戦う。問題は無いだろう?」
「……っ」
生贄である幻想種達に視線向けたあと、苦々しげな表情で押し黙るジルとドレ。
儀式を成功させるため、生贄の確保を役目とする2人としては、万が一の可能性であろうと無視できないのだろう。
「ふむ、合意してくれたようだね。では、この場は去るとするよ」
そう言うとモリアーティは、鏡禍達と一緒に退避しようとしたが――
「逃がすわけないでしょうが!」
アルビラが追い縋ろうとする。そこに――
「あ、気をつけてな」
へらへらと笑いながら三十代の男――手配師が言った。
「危ないぜ~」
アルビラの足元を指で示すと、砂柱が上がる勢いで大爆発。
「ぎやああっ!」
手配師が仕掛けていた、魔法で作り出した地雷に掛かり、吹っ飛ばされるアルビラ。
「あっばよ~」
手を振りながら、手配師は鏡禍達と一緒に逃げ出した。
道中、お互いの事情を話し状況を把握する。
「バレルさんと、知り合いなんですね」
「助けるために動いてるわ。その一環で色々と探ってたんだけど、さっきのヤツも止めないとダメね」
リリスが状況を説明する。
「浚われた幻想種は、夜の祭祀とかいう儀式の生贄にされるみたい。成功したら、烙印の進行が大幅に進むみたいね」
「それは、烙印を押された人達が……」
「吸血鬼になかねないわね。そうなると烙印の解除や、吸血鬼を元に戻す方法を探る余裕がなくなるわ。そうならないためにも、儀式に関わることは全て潰さないと」
「ローレットに関連する依頼が複数出ている筈です。私達も依頼を出しますから、もし可能なら力を貸して下さい」
ヴァンの頼みを聞いて、
「分かりました」
応える鏡禍だった。
- <月眩ターリク>生贄たちを助け出せ!完了
- GM名春夏秋冬
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2023年05月02日 22時06分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
(くくっ、いいですねぇ……)
生贄を後方に隠すようにして立つ吸血鬼2人を見て、『微笑みに悪を忍ばせ』ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)は悪辣な微笑を浮かべる。
(この手の小悪党はイジメ甲斐があって、思わずやる気が湧いてきたじゃないですか)
事前にモリアーティがブラフをかましていたこともあり、場合によってはイレギュラーズ達が生贄を殺すと思っているようだ。
(個人的に生贄の安否に興味はありませんが、せっかくなのでパーフェクトを狙ってみますか)
生贄に、悪徳者の微笑みを向ける。
(生贄諸氏については、助けに来たのがこんな悪徳貴族だった自らの不運を呪ってくださいね?)
気のせいでもなんでもなく、不安を浮かべる生贄達。
それを見て吸血鬼は舌打ちする。
「クソが、なんで生贄なんぞの生き死にを気に掛けねばならんのか」
「已むを得ん。多少はともかく全滅はさせられん。抑えろ」
「別に気にしなくも良いでしょ」
あっけらかんと魔種の女、アルビラが言った。
「どーせ、在庫品なんだから。また浚って来れば?」
けらけらと笑うアルビラに怒りを浮かべる吸血鬼達。
だが怒っているのは吸血鬼だけじゃない。
(『在庫品』?)
相手に気取られないようポーカーフェイスで抑えながら、『点睛穿貫』囲 飛呂(p3p010030)は怒りを抱く。
(烙印の悪化止めたいのも、バレルさんたちへの言葉にムカついたのも事実だが、今は、その扱いの方が頭きた)
敵の悪意を砕くべく、戦端が開かれる時を待っていると――
「中々面白い実験と聞いて来てみれば……」
あまりにも無造作に。
それでいて反応できないほど自然に、『性別:美少年』セレマ オード クロウリー(p3p007790)が一歩前に出る。
「吸血鬼と危険な女の組み合わせにはいい思い出がないな。それともお前らもテオフィールの友達か?」
「はっ、知らないわよ」
一瞬でアルビラが間合いを侵す。
速い。
だが、それすらセレマは凌駕する。
「キミは、ボクに触れるに値しないな」
凄まじい反応速度でアルビラの動きを見切り、輝ける光陣で捕え灼く。
「ガアッ! 貴様っ!」
アルビラは憎々しげに叫ぶ。
「触れれば崩れそうな脆弱な筈なのに……何を仕込んでるペテン師が!」
「ペテン師呼ばわりしている余裕はないよ」
ふわりと、羽のように軽やかに距離を取ると同時に、仲間が追撃に入る。
(この位置なら、射線が通る)
セレマの動きに合わせ位置取りしていた飛呂は、吸血鬼ごとアルビラを撃つ。
「ぎぃっ、このっ!」
銃弾を受けアルビラは、生贄と射線が重なるように動く。
「生贄を盾にして動きなさい!」
吸血鬼達に指示を出しながら突進して来るが、飛呂は冷静に精密射撃。
(射角を調整すれば問題ない)
生贄は全員座らされている。
あくまでも額や心臓、急所を狙っているように見せかけながら連続射撃。それを見た吸血鬼が――
「アルビラ! 生贄を死なせる気か!」
「ハッタリよ! こいつらに殺す気は――」
「馬鹿だね、アンタ」
「ぎゃあ!」
額を撃ち抜きながら感情を抑えた声で飛呂は言った。
「魔種は倒すもんだ。それに生贄より吸血鬼を殺す方が大事だ」
敵意を滲ませるように続ける。
「洗脳して仲間にしてくる烙印の方がよっぽど危険だ。好きな人いるのに、無理やり変えられかねないじゃん。絶対ゴメンだよ俺は」
「貴様っ」
舌打ちするように吸血鬼は吐き捨て、飛呂を殺そうと跳び掛かる。しかし――
「遅いです」
進路上に巨大な鏡を、『守護者』水月・鏡禍(p3p008354)が召喚。
「なっ」
危険を感じ吸血鬼は避けようとしたが間に合わない。
鏡の中に映し出された鏡像が傷つくのに同調し、現実の肉体も傷を受ける。
「おのれっ」
「弱いですね。よかった、バレルさんとカーラさんが守ってなくて。あの二人には苦労させられてますから」
「っ! ふざけるな、あのような新参者と――」
「何を言ってるんです?」
静かな笑みを浮かべ鏡禍は言った。
「どうせここにいる時点で、その性格の悪さから見ても下っ端でしょう」
「……っ!」
怒りのあまり牙を剥き出しにする吸血鬼に、鏡禍は朗らかに言った。
「むしろ新参者って馬鹿にしてるあの二人のが早く姫様とやらの御目通りが叶いそうですよね。こんな誰も来ないようなところで管理を任されてる未熟者と違って」
「殺す!」
怒りで我を忘れ襲い掛かって来る吸血鬼。
(これでいい)
狙い通り敵の分散を実行した鏡禍は、そのまま引き付け後退しながら、距離を詰められればカウンターで返していった。
「何やってんのよ馬鹿が!」
アルビラが声を荒げる。
「支援なさい!」
「言われるまでもない」
もう1人の吸血鬼が冷静に動く。
突出した仲間を援護しようと近付こうとするが――
「行けると思ってるのか?」
「ぬっ!」
死角から放たれた剣撃を、吸血鬼は辛うじて結晶を纏った腕で弾く。
「貴様は」
「怪盗リンネ」
凜と構えながら、『奪うは人心までも』結月 沙耶(p3p009126)は名乗りを上げた。
「実験とやらには興味があるが、生憎それで犠牲が出るのは胸糞悪いのでな。悪いが幻想種は救出させてもらうぞ?」
呆れたような口調で沙耶は続ける。
「まったく、幻想種を何だと思っている……」
ちらりと生贄達に視線を向け、明確な敵意を瞳に宿す。
「深緑とかとの関係にヒビとか入ったらどうしてくれるんだ。さっさと片づけさせて貰う」
「随分と恐れ知らずだな」
吸血鬼は、強化した沙耶の攻撃を捌きながら言った。
「恐れ知らずは女王の良き兵となろう。烙印を刻むも手か?」
「烙印だと? そんなもの怖がっていたら君たちの相手などできまい」
吸血鬼相手に一歩も退かず、沙耶は攻撃を重ねる。
「この怪盗リンネに烙印、刻めるものなら刻んでみるんだな」
「ほぅ?」
「なんなら誰かが新しく烙印で困るくらいなら、私が……いや、刻まれないのが一番だけどな」
「嫌か? なら刻んでやろう」
沙耶の攻撃を弾き、吸血鬼が烙印を刻もうと一歩前に出た瞬間――
「があっ!」
爆発。
モリアーティ達がイレギュラーズの援護に動く。
それを見たアルビラが舌打ちしながら動こうとしたが――
「どこを見てるの?」
するりと死角に入った、『レジーナ・カームバンクル』善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)が、無数の斬撃を飛ばし斬り裂いた。
「余計なことをする暇なんて、与えるわけないでしょ?」
「次から次に……!」
斬り裂かれた傷を急速再生させながら襲い掛かってくるアルビラ。
女王は接敵されないよう距離を取りながら、立て続けに攻撃を叩き込む。
魔力で生み出した漆黒の顎で肩を食い千切り、動きが止まった所で再び斬撃を飛ばす。
致命傷としか思えないほどの傷と幾つもの呪詛を刻むが、アルビラは瞬く間に傷を癒し、刻まれた呪詛すら解呪する。
「生半可なダメージは意味を成さないみたいね。全力で行かせてもらうのだわ」
宣言通り、掛け値なしの全力攻撃を叩きつけていく。
だが、どれだけ傷付けても襲い掛かってくるアルビラに、げんなりするように女王は言った。
「まったく、儀式を完成させなければ良いとはいえ、これではキリがない。これは幻想種の方を削った方が幾分かマシかしら?」
(なんてね)
ブラフを仕掛けながら、女王は戦いの手を止めない。
(手段は選ばないとは言え、それはね?)
内心を悟られないよう、女王は戦い続ける。それを見たアルビラは、
「やってみなさいな」
にちゃりと笑みを浮かべながら誘うように言うと、
「なんなら手伝ってあげましょうか?」
生贄達に向け魔法陣を展開。
「殺すとしましょう」
何か悍ましい物を召喚し生贄を食い散らかそうとした。
それを見て、『悪戯幽霊』クウハ(p3p010695)は嘲笑を浮かべ思う。
(へぇ、俺に負けず劣らず性格の悪い奴らもいるんだな。なら、遠慮はいらないな)
容赦なく、クウハは殺す気で攻撃。
「ぎゃあああっ!」
突如アルビラは漆黒のキューブに囚われ、無数の苦痛に苛まれた。
「よぅ、性格の悪いクソ女!」
楽しげな笑みを浮かべ、アルビラを攻撃したクウハは呼び掛ける。
「性悪同士仲良くしようぜ? 俺とも一曲踊ってくれよ」
「貴様っ!」
怒りを浮かべ、アルビラはクウハに襲い掛かる。
「生贄を殺す邪魔をするな!」
「はぁ? 好きにしろよ性悪女」
嘲笑うようにクウハは返す。
「まさかと思うが、人質にするつもりか? いいぜ、やってみろよ!」
生贄など知らんとばかりに、アルビラへの攻撃に集中する。
「俺は烙印を刻まれてる身だ。ソイツらが死ぬのは寧ろ好都合。纏めてブチ殺しちまっても構わないんだぜ?」
それを耳にした鏡禍は苦笑する。
(優しすぎるんですよ、クウハさん)
それはクウハのことを知っているからこその思い。だが知らない吸血鬼は、
「余計なことをするな! アルビラ! 我らの邪魔をするなら貴様から先に殺すぞ!」
焦ったように声を上げた。しかし、
「知らないわよ」
嘲るように吐き捨て、生贄を殺そうとアルビラが向かおうとした。だが――
「随分と余裕ね」
戦局を見ながら動いていた、『高貴な責務』ルチア・アフラニア(p3p006865)がキツイ一撃を叩き込む。
天から邪悪を打ち払うような光の柱が落ち、アルビラを撃ち据える。
「ガアアッ! このっ!」
怒りで冷静な判断が出来ないのか、アルビラは考え無しに突進してくる。
それを予測していたルチアは、誘導するように後退。
(捕えられている幻想種から引き離さないと)
生贄から遠ざけるように動きながら、吸血鬼の動きも把握する。
(あっちは、鏡禍達が抑えてくれてる。連携できないようにしないと)
序盤で仲間の回復や強化に動いていたルチアだが、アルビラの引き付けに成功したので、そちらに集中する。
(連携されるのもやっかいだけど、この魔種は放置したら幻想種を殺しかねない。出来るだけ遠ざけないと)
吸血鬼達には気取られないよう注意しながら、戦いを進めていく。
(救出したいところだけれど、気にしすぎても人質に取られかねない……厄介な所ね)
冷静に状況を見極めながら十二分にアルビラを引き付けた所で、仲間が攻撃に加わってくれた。
「くくっ、隙だらけですねぇ」
死角に踏み込んだウィルドが、不意討ちをするように背中を深々と斬り裂く。
「ぎあっ、貴様っ!」
「どうしました? 死にそうですねぇ」
笑みを浮かべウィルドは言った。
「ほぉら、あっという間に多勢に無勢ですねえ」
モリアーティ達が囲むのを示しながら、ウィルドは続ける。
「まったく、実力もないのに無駄に相手を煽ればこうもなると想像ができないものか……いや、そういう馬鹿な方、私は好きですけどね?」
「……お前っ!」
「怖ければ逃げても構いませんよ?」
戦局はイレギュラーズ優勢。
追い詰められた敵は形振り構わなくなる。
「生贄を吸い殺して回復しろ!」
吸血鬼が仲間に叫ぶ。面白そうな笑みを浮かべ、イレギュラーズの足を止めるアルビラ。
それを見て、セレマが動く。
(方や悪辣だが真面目。安い挑発では動じ難く、軽い脅迫では腹を読まれ安い)
吸血鬼の在り様を読み取り。
(方や享楽的で物見遊山の愉快犯。誰より先に人質に手を出すなど、読み難い馬鹿をしうる)
残りを査定。そこから導かれるは――
(……ペテンのかけ方は決まったな?)
光熱波を生贄に向け放つセレマ。
眩い閃光と撒き散らされる砂塵。
晴れたあとに残ったのは死に絶えた生贄達。
「殺されるぐらいなら、先に殺すよ」
嘘である。
事前にハイテレパスで人質に台本を持ちかけ、『死んだ人質の姿』の幻影・ドリームシアターを掛けているのだ。
稼げる時間はわずか一分。
されど十分だった。
「クソがあ!」
生贄を殺されたと勘違いした吸血鬼はアルビラに駆け寄り腹を貫く。
「汚らしい魔種の血でもないよりはマシだ!」
首筋に噛み付き飲み干そうとし――
「馬鹿ねぇ」
逆に命を吸い尽くされた。
接触した相手から命を吸い取る能力を発動させたアルビラは、命を吸い尽くした吸血鬼に命令する。
「出来るだけ巻き込んで自爆なさい」
咆哮を上げ、狂ったように襲い掛かって来る吸血鬼。
その先にいたのは、鏡禍。
狂獣の勢いで襲い掛かる吸血鬼をギリギリで捌いていく。
追い詰められる鏡禍。
だが恐れはない。なぜなら――
「鏡禍」
傍に来てくれたルチアを信じているからだ。
(彼女がいたら何も怖くありません。だって――)
一歩前に出る。
(僕は彼女の盾ですから)
「ルチアさん」
「分かってる。一緒に戦いましょう」
背中を守り、そして癒してくれるルチアの助けを借り、吸血鬼に次々攻撃を叩き込む。
押される吸血鬼。
それでも文字通り死に物狂いで襲い掛かって来るが――
「鏡禍! ルチア!」
2人のことを気に掛けていたクウハが援軍に来る。
「鏡禍! とっとと仕留めるぞ!」
「はい!」
連携した連続攻撃。
吸血鬼は反撃するも、ルチアが傷を癒し危なげなく追いつめる。
あと少し、そこまで追い詰めた所で、吸血鬼の身体が膨れ上がっていく。
「キザマらモ、ミヂずれダあぁぁッ!」
悪足掻きするように突っ込んできたが――
「吹っ飛べ!」
危険を察知し間合いに踏み込んでいた沙耶が、音越えの衝撃波を叩きつける。
避ける事など出来ず、まともに食らった吸血鬼は大きく吹っ飛ばされ――
「グぞガあァッ!!」
呪いを撒き散らすように絶叫しながら大爆発した。
これで残りはアルビラと吸血鬼が1人。
しかし不利を悟ったか、アルビラは既に逃げている。残った吸血鬼は――
「殺す」
殺意を漲らせ襲い掛かって来た。
狙いは、距離の近かったウィルド。
「決死の覚悟ですか? いいですよ、私は逃げも隠れもしません」
ウィルドは一切動かない。
「舐めるな!」
怒りも露わに周囲に魔法陣を展開し距離を詰める吸血鬼。
あと一歩で攻撃範囲に踏み込む寸前、銃声が響く。
「っ!」
精密射撃で、飛呂が吸血鬼の足を撃ち抜いたのだ。
吸血鬼の体勢が崩れる。そこに――
「隙ありなのだわ」
一瞬で間合いを詰めた女王が、閃光のような斬撃一閃。
思わず膝をついた吸血鬼に――
「くくっ、動く必要もなかったですねぇ」
引き付け役だったウィルドが、渾身の一撃を叩き込んだ。
この時点で半死半生。
それでも悪足掻きをするように烙印を刻もうとした吸血鬼を、イレギュラーズは集中攻撃。
余計な悪足掻きを一切させず討伐した。
吸血鬼2人を討伐し、魔種を敗走させる。
脅威を取り除いたイレギュラーズは、生贄達を解放した。
「さて、生贄の救出は他の方に任せますよ。なぜか私が近づくと怖がられてしまいますからね。その代わり、儀式の内容について周辺を調査してみましょうか」
ウィルドは周囲の警戒に当たる。
同様に周囲の警戒に当たった飛呂は、複数の探査スキルで危険がないことを確認し皆に伝えた。
「敵影は今のところ見つからない。今の内に捕まっていた人達を帰してあげよう」
応じるように皆は動く。
「安心してください。安全な場所まで、僕達で送ります」
「怪我をしてる人がいたら教えて。出来る限り癒すから」
鏡禍やルチアが穏やかに声を掛け、退路へと誘導。
「俺は右手の警戒をしながら進む」
「なら私は、左手の方を警戒するよ」
クウハや沙耶が警戒しながら先行して進み、あとを幻想種達がついて行く。そして転移陣に辿り着き――
「あとは、ここから戻れるのだわ。慌てず帰りましょう」
女王に促され幻想種達は次々転移した。最後の1人を転移させ、
「生贄に死者は無し」
仕事を完璧にこなしたことを確認し、殿を務めていたセレマも転移し、依頼は完遂されるのだった。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様でした。
皆さまのお蔭で、吸血鬼が2人討伐されました。
魔種も痛手を受け逃走しています。
決戦も近いので、皆さま体を休めて下さい。
それでは最後に重ねまして、御参加ありがとうございました!
GMコメント
おはようございます。もしくはこんばんは。春夏秋冬と申します。
今回は、アフターアクションを元にしたシナリオになっています。
以下が詳細になります。
●成功条件
生贄にされようとしている幻想種を救出する。
多少、幻想種が死亡していても失敗にはなりません。
●状況
以下の流れで進みます。
1 幻想種が捕らわれている場所に向かう。
現地に辿り着くと、敵が待ち構えていますので戦闘になります。
2 戦闘。
吸血鬼に2人と魔種1人との戦闘になります。
3 救出。
敵を倒し、幻想種達を助け出して下さい。
助け出せれば連れ帰り依頼は終了となります。
●敵
吸血鬼×2
魔種に近い戦闘力を持っています。
攻撃方法などは不明。
吸血鬼達は連携する可能性があります。
死の間際に烙印を刻もうとするなど、悪足掻きをする可能性が高いです。
吸血鬼の中でも悪辣な性格をしている模様。
魔種×1
攻撃方法などは不明ですが、直接触れることに拘っていたようで
接触による強力な攻撃方法を持っている可能性があります。
防御力は高くないようですが、回復力が強力な模様。
吸血鬼たちと連携はしません。
というより、場合によっては吸血鬼たちを犠牲にして逃走するでしょう。
●味方NPC
リリス&ヴァン
依頼人です。強力なバッファー&ヒーラー。
バランスよく強化と回復をさせる、あるいは、どちらかに特化して貰う。
そういった部分に指示を出していれば、それに従って動いてくれます。
モリアーティ&手配師&ジャック
とある理由で協力関係になっている悪党3人組。
現状、裏切るとかは絶対にありません。
主に攻撃によるサポートをします。
3人の内ジャックについては魔種ですが、その事が露見しないよう『約束』を
しているため、イレギュラーズと同じぐらいに能力を抑えています。
何かしら指示を出せば、その通りに動きます。
●生贄NPC
敵NPCの後方に、拘束用の魔法陣のに囚われています。20人ほどいます。
OPだとモリアーティに殺されそうになってますが、アレはブラフです。
実際は、精神安定をさせ体力を回復する活性剤を打たれています。
そのため、戦闘時に混乱することはないですし、逃げることが出来る程度に
体力は回復しています。
ブラフが効いているため、敵NPC達は生贄たちが人質しては役に立たないかも?
と思っていますが、PC達が下手に気に掛ける素振りを見せると
それに付け込んで人質にしたりする可能性が高まります。
●特殊判定『烙印』
当シナリオでは肉体に影響を及ぼす状態異常『烙印』が付与される場合があります。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
あくまでも付与される場合があるだけで、確実にされる訳ではありません。
場合によっては、誰も付与されない場合もあります。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
説明は以上になります。
それでは、少しでも楽しんでいただけるよう、判定にリプレイに頑張ります。
Tweet